祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」   作:葛城

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※ 暴力表現アリ、注意要


第3話: 運動すれば女だって臭い

 

 

 

 

 ──『夜中に行われる不法投棄に対する見回り』

 

 

 これはまあ、このマンションに限った話ではない。だが、どんな物件にも起こりえる、よくある問題だろう。

 

 とりあえず、捕まえろとも、警察を呼べとも言われていない。下手に大事にしてしまうと、色々と大変なことになるらしい。

 

 あくまでも、見回りを行っているぞと認識させるだけ。

 

 可能ならば写真を撮るようにとのお達しだが……そこで、彼女は気付いた。

 

 

(あれ……そういえば、カメラの類を持っていないじゃん)

 

 

 そう、写真を撮るにしても、カメラの類が絶対に必要で……そして、彼女はスマホを持っていなかった。

 

 つまり、インスタントカメラでも良いから、そういうのが無ければさすがの彼女でも撮影が出来ない──のだけど。

 

 

『ポポポ……あったわ、カメラが』

「でかした!」

 

 

 意外なことに、ポポポ女がめざとく引き出しに入っていたカメラを見つけた。

 

 いわゆる、ビンテージカメラというやつだろうか。

 

 そのカメラはずいぶんと年季が入っているというか、古ぼけていた。所々錆びついていて、なんとなく鉄の臭いがした。

 

 ただ、ちゃんと使えるようだ。

 

 試しに一枚パシャリとすれば、ちゃんとフラッシュが焚かれるし、手ごたえからしてフィルムも入っているのが……が、しかし、一つだけ。

 

 

 肝心の──不法投棄が行われないということ。

 

 

 結局のところ、カメラの出番は不法投棄が行われた現場の撮影である。言い換えたら、それ以外の場面では一切使用しない。

 

 彼女としては、それはそれで構わないのだけど……せっかくカメラがあるわけだし、一枚ぐらい撮影しておかないと、サボっていると思われそうで嫌なのだ。

 

 だから、ゴミは無いか、ゴミは無いか、そんな思いで見回りを増やすのだけど……そんな、マンション全体がゴミ捨て場なわけあるまいし、毎日捨てられるわけではない。

 

 不法投棄するのは、するだけのメリットがあるから行われるわけで、労力の方が勝るならば、捨てられるわけがない。

 

 

「う~ん……見つかるのは、よく分からない変なやつだけか……」

 [んんん~~!! ]

 

 

 そのかわり、変なやつがポツポツ出現するようになった。

 

 以前、『祠』のTSビームを食らってロリ爆乳になったようなやつとは根本から違う……本当に、言葉では上手く言い表せられない存在。

 

 

 たとえば、現在。

 

 

 彼女の片手が、髪を掴んで拘束している男だが……そいつは裸で、両の瞼が糸で縫い付けられ、閉じられたままになっていた。

 

 正直、想定していた以上の変態が現れたぞって感じだが……唯一の救いは、その男が人間の類ではないということ。

 

 だって、指の数が3本だし。あと、股間がツルツル。毛が生えていないとかじゃなくて、人形みたいに何も無いツルツル。

 

 

 それ以外にも、だ。

 

 

 なんとなく、気配というか、存在が……違うような気がする。彼女の中にある『古き神』も、否定しない。

 

 ポポポ女曰く、『世界の裏側に居る、よくわからないやつら』らしい。

 

 いったいなんじゃいそれはって話だが、それに関してはポポポ女も詳しくは知らないらしく、極稀に見かける程度の存在なんだとか。

 

 言い換えたら、よほど変な場所に行かない限りは、まず見かけることはない存在らしい。

 

 

 じゃあ、なんでそんなやつが……とりあえずは、だ。

 

 

 悪霊や怪異のみならず、悪人をも一撃で仕留めるハンマーを脳天に叩きつけ……よく分からないそいつを昇天させた。

 

 ランマーはうるさいし、まず相手を地面に寝ころばせてから使用する必要があるし、叩きつけて壊れたら大損なので、けっこう使いどころを選ぶ武器である。

 

 それに対して、彼女がけっこう使う頻度が高い両口ハンマーは、1万円も出せばお釣りが来る。

 

 いざとなればコンクリートも壊せるし、ドアも壊せるし、『力』を込めたら金庫も壊せる優れモノだ。

 

 幸いにも、こいつを捕まえたのは監視カメラなどが無い場所かつ、人目もそんなにない場所……勢いあまってその下の床を砕いても、バレないのであった。

 

 

 ……なお、頭が潰されたそいつは、そのまま霧のように蒸発して、跡形もなくなった。

 

 

 そして、彼女がハンマーを取り出した時、必ずポポポ女と『祠』は反応し、互いに身を寄せ合うようにビクビクし始める。

 

 ともに、彼女のハンマーでボコボコにされてしまった経験があるゆえに……その時ばかりは、共に余計なことはせず、静かにしているのであった。

 

 

 

 

 

 ……さて、少しばかり時間が経過して。

 

 

『時々は動かさないとダメらしいので、エレベーターもちゃんと動かしてほしい』

 

 

 電話にて新たな指示が来たので、彼女は見回りの際に階段だけでなく、エレベーターを使うことにもなった。

 

 言われてみれば、車だってまったく動かさないとバッテリーが駄目になったりタイヤが変形したりと良くないので、たまには動かさないとダメってのは理解できる。

 

 彼女としてはたかがマンション内の移動なので使っても使わなくてもどちらでも良いのだが、そうしろと指示を受けた以上は、そうするだけだ。

 

 別に逆らう理由などないわけだし……と、思って乗り込んですぐに、さっそくだが異変が起きた。

 

 

 なんと……地下に下りたのだ。

 

 

 液晶インジケーターに『1』の文字が表示され、ピンポンと音が鳴ってすぐに扉が開かれ──るはずだったのが、そのまま『0』と表示されたのである。

 

 そこまでなら、ただのモニターの不良。しかし、体感的にエレベーターが停まる気配がなく……これには彼女だって困惑した。

 

 だって、事前に聞いていた話だと、このマンションには地下なんて無い。

 

 駐車場だって地上にあるし、荷物搬入用の空間はもちろん、とにかく、このマンションにはそういった空間は作られていないはずなのだ。

 

 実際、同じく手渡されていたマンションの大まかな見取り図にも、地下の表記は一切無かったし、事前にそのような話もなかった。

 

 それなのに、エレベーターは下がり続け……そして、体感にして1分ほど下がり続けた辺りで、ピンポンと音が鳴り……緩やかに、扉が開かれた。

 

 

 ──その先には、なんか『変なの』が居た。

 

 

 いや、正確には、変なのが居たというよりは、変な空間に変なののがいっぱいあった、と言う方が正しいのかもしれない。

 

 見た瞬間、そう考えるぐらい、とにかく変なのばかりであった。

 

 

 ……いったい何が変なのかって? 

 

 

 それを説明出来たら、苦労はない。

 

 あえて言葉を当てはめるなら、『高熱に魘されている時に見るよく分からない悪夢』というやつだろうか。

 

 たとえば、まず目に留まったのは……夕焼けが眩しい空の色。

 

 地下に下りたはずなのに、広大な夕焼け空が広がっている。

 

 照明装置などでは絶対に出せない本当の奥行、差し込んでくる夕陽の暖かさも含め、それが本物の空であることが伝わってくる。

 

 次に、なんか意味不明な建造物。

 

 たとえば、看板。

 

 少なくとも、彼女が知る限り日本語でも中国語でもない文字が記されたそれは、どういうわけか右に左にグニャグニャと柱が曲がった状態で設置されていた。

 

 たとえば、舗装された地面。

 

 コンクリートやアスファルト……どちらでも良いのだが、その設置の仕方が明らかにおかしい。

 

 どういうわけか、その二つを混ぜて使っている。遠目には、マーブル模様の地面だ。

 

 普通、アスファルトはアスファルト、コンクリートはコンクリートでまとめてやるのが安上がりだし、強度も構造も、使用方法も違う。

 

 それなのに、何故か混ぜて、マーブル模様……他には、なんかやたらとデカいセミだ。

 

 そう、セミ。

 

 最初は見間違いかと思ったが、見間違いではない。やたらとデカいセミが、何匹か看板に張り付いている。

 

 どれぐらいデカいのかって、おそらく1m近くある。街中に出現したら、悲鳴が上がって人々が逃げ惑うような異常なサイズだ。

 

 その他にも、なんか変な生き物が近づいてきていた。

 

 たとえば、一本足の変な爺。

 

 片足が無いのではなく、野太い足が一本だけある変な生き物。ぴょんぴょんと、片足で跳んで近付いてくる。

 

 たとえば、スーツっぽい服を着た細長い変なやつ。

 

 明らかに、人間の身長ではない。まるでつまようじのように細い手足をぬるりぬるりと動かしながら、近寄ってくる。

 

 たとえば……なんか、いっぱい。

 

 頭が三角形で、胴体はひし形の、まるで定規で線を引いたかのような姿をした女。

 

 巨大な頭から何本も腕が伸びた、気色悪い毛玉みたいな化け物。

 

 四つの目が付いた、明らかに異形の頭部を持つ男に、互いの身体を鎖で繋いでいる五人組。顔は、のっぺらぼう。

 

 そんなやつらが、ゾロゾロと。

 

 しかも、その奥には、遠目にも分かるぐらい巨大な……顔が渦巻き状に歪んでいる巨人が、ぬるりと姿を見せ──。

 

 

『ポポポ……おやつタイムよ』

 

 

 ──たのだけど、それ以上に変な奴が、この場には居た。

 

 

 そう、糞ドアホ頭筋肉ポポポ女である。

 

 この女、何を思ったのか、いきなりポージングを始めたのだ。

 

 ポポポ女にとって、ポージングとは威嚇であり、誇りであり……食事の作法でもある。

 

 ムキムキっと、筋肉が隆起する。

 

 ただでさえ遠目にもヤバい量の筋肉を搭載しているのが分かるポポポ女が、全身に力を込めてポージングを行えば、どうなるか? 

 

 

「ぐぅえあ!! せ、せめぇ……!!!」

『あ、ごめんなさい』

 

 

 そこまで広いわけではないエレベーターに乗り合わせていた彼女が、ムキムキっと隆起した筋肉に押されて、それはもう悲惨な状態になった。

 

 もう一度、冷静に想像してみてほしい。

 

 一般的なエレベーターに、身長2m40cm強、体重もそれに比例して重い筋肉ムキムキマッチョウーメンが、大して広くもないエレベーター内でポージングを取る。

 

 そんなの、潰されて当たり前である。

 

 せめて筋肉ポポポ女が直立姿勢を取れるぐらい高かったならばともかく、身を屈めて無理やり入った分だけスペースを使っていたから、余計に狭い。

 

 

「て、てめぇ、トレーニング後はシャワーぐらい浴びろ……」

『ポポポ……トレーニング後の入浴は、あまり推奨されない。血圧や心拍数が上がっているから、十分に休息を取って落ち着いてから入る方が良いのよ』

「おまえ、『怪異』だから血圧も心拍数も関係ねえだろ(真顔)」

 

 

 そのうえ、シャワーも浴びずにいたのだから、立ちのぼってくる汗臭さも相まって不快感MAXであった。

 

 世の男からしたら興奮を誘う臭いなのかもしれないが、今は同性である彼女にとっては、普通に汗臭い以外の感想はなかった。

 

 

 ……で、話を戻そう。

 

 

 この場所をわきまえない筋肉ポポポ女はポージングを取った。

 

 その結果、どうなるかと言えば……答えは、捕食である。

 

 鍛えに鍛え抜かれたポポポ女のマッスルボディは、その筋肉に見合う量を求める……つまり、ひどく腹を空かせている。

 

 強い筋肉を維持するために重要な要素は、適切なトレーニングと、たっぷりな睡眠と……適切な栄養。

 

 糞筋肉頭おかしい女の肉体は、単純な経口摂取以外にも様々な方法で外部より栄養を取り込むことを可能としており……その一つが、ポージングである。

 

 筋肉は、寂しがり屋である。そして、怠惰を嫌う。

 

 そんな筋肉たちが、まるで恋人のように毎日自分たちを苛め抜き、そこに栄養を注いで、たっぷりと休息を取らせてくれる肉体が現れたら、どうなるか? 

 

 

 答えは……筋肉たちは反旗をひるがえし、黄金なる肉体へと集い始める、である。

 

 

 そう、それはまさに筋肉スカウトであり、筋肉コミュニケーション。

 

 筋肉は、友達であり、恋人であり、家族であり……かけがえのない存在である。

 

 そんな存在を慈しみ、愛する者が現れたら……貧弱ヒョロガリな身体から離れるのは必然であり、ましてや、ぽっちゃりボディに見切りをつけるのも、当然であった。

 

 

 [────っ!? (な、なんだ、身体から力が……!!)]

 [────っ!? (俺の身体、脂肪、太っていく、だと!?)]

 [────っ!? (息がきれる、汗が吹き出る、な、なんだぁ!?)]

 

 

 異形の存在達が異変に気付いて足を止める──だが、もう遅い。

 

 筋肉を……かけがえのないモノが離れていった後に残るモノは、怠惰に肥えた身体と、動悸息切れ高血圧に高血糖……すなわち、成人病! 

 

 健康かつ若い世代には想像しにくいが、成人病に該当する40代以降ともなれば、筋力のみならず体力の衰えは相当なモノだ。

 

 単純に、スタミナなんてモノが無くなるだけではない。

 

 人に限らず生物の身体というのは良くも悪くもその時に合わせて順応する。

 

 たった50mを全力疾走しただけで、足の痛みが発生する。場合によっては肉離れを起こしてしまう。

 

 階段を使っただけで少し息切れするのなんて序の口で、進行すれば電車での移動だけでも疲れてその日は動けなくなってしまう。

 

 そんな状態に、変なやつらは成ってしまった。

 

 そして、やつらは非常に困惑した。それはおそらく、生まれて初めて体感する……筋肉痛が二日目以降にやってくる肉体がもたらす恐怖であった。

 

 頭中筋肉満載女に恐れおののいたのか、エレベーターの扉が閉まろうとする……連動しているのだろうか? 

 

 

『ポポポ……まあ、いいでしょう』

 

 

 言葉通り、とりあえず満足する程度には筋肉スカウトを行えたポポポ女は、目の前で閉まってゆく扉を見つめる。

 

 その向こうでは、中年太りとしか言い表しようがない体系になった変なやつらが……とはいえ、だ。

 

 

「せめえ……あんた、透過してスペース作りなって……」

『ポポポ……エレベーターの外ってけっこう汚いから嫌』

「汚いのか……なら、我慢するから筋肉を縮めろ」

『ポポポ……ふん!!』

「細マッチョになれるのなら初めからやれよ」

 

 

 たっぷり栄養を吸収して膨張した筋肉を瞬時に圧縮し、まるでダイヤモンドのようなボディになったバカ筋肉頭手遅れ女と。

 

 ようやく余裕が生まれたスペースのおかげで、やっと息がつけたと身体の力を抜く彼女と。

 

 あと、なんかTSビーム撃っても無駄だなとふて寝をしている『祠』だけであった。

 

 

 

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