祠を壊されてしまったTS娘「また、あの祠を壊したんか!?」   作:葛城

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第4話: これが……除霊師の姿か……?

 

 

 色々あってエレベーターより出てきた彼女は、無言のままに振り返ると。

 

 

「──ふんぬ!!」

 

 

 力いっぱい、札を叩きつけた。でも、扉を壊したら後で弁償されそうだから、すぐ隣の壁に。

 

 とはいえ、それでも彼女の憤怒を込めた一撃だ。

 

 このマンションに到着してすぐに貼った札よりも何倍も強力な、スーパーお札。

 

 もしもポポポ女がそれを直視していたら──いや、既に直視して、ビクッと身体を震わせたほどに強力なそれを、彼女は使用した。

 

 途端、前回の時とは比べ物にならない程の霊的パワーが放たれる。

 

 それは霊的な衝撃となってマンション全体を揺らし、ぎゃーとか、わーとか、どこからともなく悲鳴が響いたような気がした。

 

 先に言っておくが、このマンションには彼女以外には誰も居ない。現時点では、生きている人間は彼女だけ。

 

 オーナーとかが急遽やってきたり人を呼んだりしていなければの話で、そうでない場合は例外なく不審者である。

 

 ならば、今の声は不審者だ。そして、不審者が余波を受けてどうなろうが知った事ではない。

 

 ここが山中の中にある寂れたペンションとかなら分かるけど、こんなどデカい建物の中に入り込んで、『私有地とは知りませんでした』はいくらなんでも通じない。

 

 理解できないのであれば致し方ない、甘んじて余波を受けて朝までぶっ倒れているがいい、である。

 

 

 ……分からないのに配慮をしないのかって? 

 

 

 安心するがよい、死なないだけ十分配慮しているのだ。

 

 その証拠に、余波を受けたポポポ女はビクビクとその場に倒れてケイレンしていたし、くそ性癖な祠は『私はただの祠……』といった感じで気配を消していたから……で、だ。

 

 

「……今ので分かった、やっぱりこのマンション、変な気配がする。ちょっと元を絶たないとダメっぽいわね」

 

 

 ここに来て、いいかげんイラっと来ていた彼女は、大本を経つことを決めた。

 

 第三者からしたら、おまえようやくかよって話なのだけど、そこは少し待って欲しい。

 

 冷静に考えて……これは、業務外の契約外の話なのである。つまり、タダ働きなのだ。

 

 

 タダ働き……ああ、なんて恐ろしい言葉だろうか。

 

 

 もしも『タダ働き』という名の怪異と遭遇したら、一切の手加減なく確実な絶命に動くほどに敵意を抱くだろう。

 

 それほどの邪悪な言葉であり概念……それが『タダ働き』なのである。

 

 そんな邪悪な概念に力を貸すほど、彼女は気が狂っていない。善人である彼女は、ちゃんと契約範囲内の仕事しかしないのだ。『ぽ、ポポポ……あの、こうして悶えている私を見てナニカ言うことはないの?』

 

 とはいえ、余波を受けてのたうち回っていた頭筋肉デカい女にとっては関係ない。

 

 なにせ、彼女がやった事はいきなり目の前で手りゅう弾を爆発させたようなモノだ。

 

 さすがに即死こそしないけど、堪らず倒れ伏したぐらいのダメージは受けていた。

 

 

「普段から筋肉震わせているんだから、ちょっとぐらい多めに震えただけでしょ? 痛いなら湿布張るけど?」

『……いえ、それはけっこう』

 

 

 でも、今の彼女には右から左であった。そして、湿布という彼女の言葉に騙されてはいけない。

 

 手元に湿布があったら本当に貼ってくれるけど、湿布が無かったら代わりに張るのはお札だ。

 

 人間に対しては有効的な効果をもたらすのだけど、怪異であるポポポ女に張られてしまったら最後、この程度では済んでいない。

 

 これの何が恐ろしいって、この女……一切の悪気なく善意でやっているのだ。

 

 善意でやって、善意で惨事を引き起こした後で、『あ、そういえば怪異だったわ、めんご』で済ませる最低最悪の女なのである。

 

 

 そう、忘れてはいけない。

 

 

 頭筋肉身体筋肉女と祠ばかり注目されているが、名無子と他人に名乗っているこの女も、引けを取らないぐらいヤバいやつなのである。

 

 それを身に染みて理解しているポポポ女は、けして油断しない。

 

 なにやら、ふんす、と鼻息荒く仁王立ちする彼女に対して、筋肉バカ光ボディ女は……のっそりと身体を起こした。

 

 突然の事に多少なりビックリしたポポポ女だが、実際はビックリしてちょっと痛かっただけで、それ以上の事は無い。

 

 そう、『怪異』とはいえ女性であるから意外と誤解されやすいが、鍛えに鍛え抜かれたシックスな腹筋を備えた持つポポポ女は、とても頑丈なのである。

 

 というか、頑丈なのは腹筋だけではない。筋肉頭筋肉女は、全身が頑丈なのである。

 

 

『……? ポポポ、何をしているの?』

「犯人の臭いを辿っているのよ。こういう隠れ潜むやつって臭いから、臭いを辿ればだいたい見つかる」

『えぇ……』

「くんくん……ほら、こっちよ、付いてきなさい」

 

 

 しかし、ただ頑丈なだけではどう足掻いても彼女には手も足も出せないのだから、人間見た目じゃないのかもしれない。

 

 傍から見れば美少女としか言い表しようがない子どもが、虚空に向かってクンクンと鼻を鳴らして右に左に進む様は、どう言い繕ってもヤバいかもしれないアレである。

 

 これが笑いながらとか、集団で集まってやっていたら、『ああ、友達同士の悪ふざけか』と思うところだけど、この場に居るのは彼女だけ。

 

 正確には、一般人の目から見たら、彼女しか見えない。

 

 誰も居ない、誰も住んでいない、マンション内にて少女一人が犬のように鼻を鳴らして臭いを辿る……おお、フェチにも程があるだろう。

 

 まあ、実体を知っているポポポ女にとっては、これ以上ないぐらいに恐ろしい光景なのだけど……ん? 

 

 

 ──そんな事が出来るなら、どうして前回の時にしなかったのかって? 

 

 

 そんなの、人の目に触れたらヤバいってことを自覚していたからである。

 

 同じように人が居ないとはいえ、昼と夜とでは人の行き交いがまったく違う。

 

 そのうえ、前回は学校だ。

 

 いつ何時生徒が学校に来るのか分からないし、通行人から見られる可能性もある。それに、あの時は敷地内に気配が充満し過ぎていて、辿ろうとしても分からなかった可能性が高い。

 

 しかし、今回は違う。

 

 改めて探ってみると変な気配を感じるが、学校の時のような、あからさまな感じはしない。

 

 隠そうとしている、隠されている、しかし、完全に秘匿しているわけではない。

 

 本当に秘匿してしまうと、それは双方の影響を失くしてしまう。つまり、双方触れられない安全な状態にあるということ。

 

 ソレが良い事でも悪い事でも最低限の干渉を行えるようにしておかなければ、ソレはもはや地下深くに埋められたタイムカプセルに過ぎなくなるのだ。

 

 

「くんくん……ふ~む、さっき降りた地下との繋がりを感じ取れるけど……マンションに入ったあたりで一気に拡散して分かりにくいな」

『ポポポ……それってつまり、このマンションに隠れ潜んでいる……ってことぉ?』

「そこまでは分からないけれども、このマンションがナニカの鍵だというのは分かる」

『ポポポ……だったら、もう解決したも同然じゃないの』

 

 

 実際、彼女が負ける姿を欠片も想像出来なかったポポポ女は楽観視していた。

 

 

「……それならば、私としても話は早いのだけどね」

『ポポポ?』

 

 

 でも、そうではない。探すのだけは、探せるのだ。

 

 時間と手間は掛かるし、ちょっと周囲の目が気になるけれども、いずれは……だが、しかし。

 

 遺伝子筋肉女は、いくつかの……そう、重大な問題を見落としていた。その中でも、特に問題なのが一つ。

 

 

「忘れたの? ランマーは……振動や騒音によって近隣トラブルを引き起こす、もろ刃の剣なのよ」

 

 

 それは、彼女の得物であるランマーは、どうしても騒音を発生させてしまうということ。

 

 そう、ランマーは時に武器となり、時に防具となり、時には地面を平らにしてくれる破邪の力だが……ご近所トラブルの前では無力なのだ。

 

 ドドドって地面を踏み鳴らしたところで、騒音トラブルは消えたりはしない。

 

 それどころか、相手の怒りを買って余計に泥沼化してしまう可能性が極めて高い。

 

 前回は地下空間だったのでどれだけ音が出ようが分厚い地面が防いでくれたし、音に気付いても己の所業だとバレない確信があったから気楽に使えたが……今回は違う。

 

 いくらこのマンションがの敷地が広いとはいえ、遮蔽物なんて有って無いようなここでランマーなんて使ったら、間違いなく警察沙汰である。

 

 昨今は様々な事情から人々の心より余裕が消え去って久しい。

 

 事前予告なく夜間にランマーなんて起動してドドドってしていたら、一発で通報からの逮捕待った無しである。

 

 警察に対する敬意など欠片も持ち合わせていないが、公権力をバックに控えたしばきあげパンチングは受けたくないのだ。

 

 それに……チラリと、彼女の視線がエレベーターフロア全体(この場合、ピロティが正しい?)へと向けられる。

 

 

(……後で修繕費とか請求されるのは勘弁願いたい)

 

 

 それが一番怖いのだ。

 

 なので、マンション内ではランマーは使えない。同時にそれは、彼女の得物を一つ失ったも同然であった。

 

 

 ……では、このまま諦めるしかないのだろうか? 

 

 

 確かに、ランマーは強力無比な神聖なる破邪の力だが、様々なデメリットをクリアできず、泣く泣く使用を諦めた者もいただろう──だが、今は違う! 

 

 そう、彼女は、今回のようにランマーが使えない時を想定して、事前に武器を用意していた。

 

 それを……不思議なパワーにて異空間より取り出せば……その姿に、見ていたポポポ女も、祠も、思わず恐れおののいた。

 

 それは、巨大な艶やかなボディであった。

 

 ガッチリと伸びた先端は、まるで野太いマイナスドライバー。

 

 両手でかまえる持ち手部分には電源ケーブルが伸びているが、それは彼女の不思議パワーでいくらか解決してある。

 

 

 その名を、『電動ハンマードリル改』

 

 

 同じく騒音を発生させるが、ランマーよりもはるかに静かだ。

 

 パッと聞いた感じではハンマードリルの方がうるさく感じるかもしれないが、音の質が違うのでこちらの方が響かないのである。

 

 そのうえ、彼女は札を応用してある程度、騒音を抑えている。ランマー程ともなれば焼け石に水だが、ドリルぐらいならば……うむ。

 

 

「ヨシ、悪霊だか怪異だか知らんけど、倒すぞ」

『ポポポ……悪霊を、倒すのよね?』

「見て分かるでしょ」

『ポポポ……?』

 

 

 なにやら、どこからともなく取り出したファン付き作業服に素早く着替え、粉塵マスクとゴーグルを装着し、ヘルメットまで被り出す彼女を見て、ポポポ女は首を傾げた。

 

 いったいどうして……それは、カモフラージュである。

 

 前回は地下なので万が一にも露見しないと分かっていたが、今回は……可能性は低いけど、誰かに目撃される可能性はある。

 

 そういう時、巫女服に身を包んだ何者かが騒いでいたらどうなるか……ひとえに、めちゃくちゃ怪しいわけだ。

 

 なので、作業員として偽装する。

 

 遠目から見れば、作業服に防塵マスクにゴーグルにヘルメットに電動ハンマー……そう、どこに出してもおかしくはない、作業員である。

 

 これにより、彼女は周りの目を気にすることなく、電動ハンマーによる悪霊退散を行える、というわけだ。

 

 

「この格好ならば、なんだ作業をしている業者の人かと周りが納得してくれるでしょ?」

『ポポポ……そうかしら?』

 

 

 非常に納得いかない……そんな目を向けてくる頭マッスル女を他所に、彼女はスイッチを入れる。

 

 激しい……しかし、お札のミラクルパワーによって抑えられたおかげで従来より静かで、先端の動きに合わせて邪気に穴を開けていく気配すらしていた。

 

 

『ポポポ……それで、どこへ向かうつもりなの? それでここを全部壊そうと思ったら、何か月かかることやら……』

「安心なさい、既に本丸は見つけてあるから」

 

 

 シュオ~……作業着のファンが回り始めている。熱中症対策も万全な彼女は、電動ハンマーの先端を頭上へと向けた。

 

 その指示した先は上階……ではない。

 

 もっと上、もっと先にある……すなわち、屋上。

 

 このマンションを見下ろすことが出来て、実質的にこのマンションのヘッドでもある屋上……そこに、本丸があると彼女が睨んだ! 

 

 このマンションを陰から支配しているかもしれないナニカとの戦いが、始まろうとしていた。

 

 

 

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