~Side 茅森月歌~
「豊後! ハラミは赤みだから醤油ダレって言ったでしょ! なに味噌ダレつけてるの!」
「ハラミはホルモンだわ...」
「山脇様はあまり頭がよくないのでゲスよ!」
「手下がそれ言っていいのか...」
「山脇様は天才マッドサイエンティストなんでゲスよ!?」
「このやりとり何回繰り返すんだ...」
「その錯覚の名を教えてやろう...エコノミークラス症候群だよ」
「デジャブ現象だろ...」
うーん、今日もお昼ごはんが美味しい!
ワッキーとユッキーとぶんちゃんの話も、見慣れてきたなー。毎日が当たり前のように続くのって、いいよなー。
「やっほ⭐️今日は決着の金曜日だよね! みんな頑張って!」
「キラりん。ありがとう」
「綺羅さん! 応援ありがとうございます!」
「タマちゃん! がんばってね⭐️応援してるよぉ~⭐️いぇーい⭐️」
「いぇ~い!」
おタマさんとキラりんでハイタッチしてる。
えっ、二人ってそんな仲良かったんだ。いいなぁ~。
「ねね。あたしもあたしも。いぇーい!」
「茅森はダメ」
「がーん! 月歌ちゃーーーん、ショック!!」
「勝ちました。なんで負けたか、明日までに考えておいてください。ほないただきます。ずぞぞぞぞ!」
「ラーメンすする音汚な過ぎるやろ...はむっ...」
キラりんに避けられた...もう今日のダンジョンがんばれない...
「すまんユッキー。31Aの命運は任せた...」
「なんでだよ。ほら、あたしが応援してやるから、元気出せって」
「元気出た! 超元気出た!
月歌ちゃーーんチャージ!!」
「単純過ぎるだろ...」
「ふん! 私達は焼き肉を美味しくいただくわ! あんたたちはサンドイッチでも食ってパパっと済ますことね!」
「このサンドイッチ美味しい♪」
「ええ! 野菜もたくさんで美容にもいいわね!」
「既に食べてた!?」
うん。どうなるかわからないけど、平和に終わるといいなぁ~って。
『新宿ドーム哨戒網より入電。
第二次防衛ライン内にキャンサー集団の侵入を確認。
映像にてレベル2の個体を視認。確認回します。
31A、31Cは直ちに出撃準備。準備終了後、格納庫に集合してください』
「...!?」
「なによ!?」
警報音。
それとさっきの放送でななみんの言ってた内容。
ただ事じゃない。
「こういうときは了解って言っておけ」
「りょ、了解!」
「了解よ!」
「片付けは任せて、格納庫に急ごう。みんな、準備はいいか?」
「ああ」
「ええ!」
「大丈夫」
「行けます!」
「やったろやないか!」
「豊後、佐月、神崎、天音、桜庭。行くよ!」
「はいでゲス!」
「はい♪」
「行くでござる!」
「ふん、仕方ないな」
「導きのままに」
全員で、そのまま格納庫に向かった。幸い、カフェテリアからは出てすぐだ。とりあえず急いだ。
あれ?
キラりんが、気がついたらいなくなっていた。
× × × ×
~Side 茅森月歌~
「揃ったようね。準備に不手際はないわね?」
「完璧よ!」
「大丈夫だと思う」
飯も途中で、正直頭はまとまっていない。
でも、飯の後はそのままダンジョンに行こうとしてたところだし、抜けはないと思っている。
デンチョだけは、全員持ってるのを確認した。
「七瀬」
「はい。映像解析の結果が出ました。
レベル2キャンサーは、DeathSlugが一体。
新宿ドームに向かって進行中」
そのデススラッグってのが、やべー奴ってことか。
「あなたたちには、基地周辺の防衛を命じます。
前線には、先輩部隊に行ってもらうわ」
「待って! 31Aはともかく、31Cは前線でもやれるわ!」
「あたしらも前線に行く。あたしらだって十分経験を積んできたからな」
正直、基地周辺の防衛って聞いて、一瞬ホッとしちゃったけど。
ワッキーのやる気を見たら、負けてられなくなった。
元から、戦場に出る覚悟はしてんだ。大丈夫。行ける!
「...わかりました。確かにあなたたちは我々の想定を上回る速度で成長している。それを信じましょう。
指示を訂正。31Aと31C両部隊に、DeathSlug討伐作戦への参加を命じます」
「よっしゃ!」
「やってやるわ!」
その後は、作戦の説明だった。
さっきのデススラッグってのはあくまで先輩部隊にお願いして、私たちはドーム周辺とかの、今までダンジョンで戦ってきたようなキャンサー小集団の掃討任務。
なるほど、それならできそうだ。
「司令官、至急の連絡です」
「何があった?」
「はい。先ほど、ヘリが一機、予定外に離陸しました。向かった先は新宿。新宿ドーム周辺。現地です」
「なんだって!?」
「ひぅ!?」
「ひゃい!?」
手塚司令官が今日一番怖い声を上げた。おっかねぇ。
「誰!? 何人!? 今はどうしてるの!?」
「ドローンを追跡させています。ヘリの運転士からの証言によると、彼女は一人で降下し、トランスポートで現地に降り立ちました。
ドローンの映像を映します」
小さな画面に映し出された映像を、皆でこぞって見た。
「キャハキャハ⭐️ ほらほら~、アタシはこっちだよ~?」
ドドドドドドドドドドドド!!!!
「キャハキャハ⭐️ はやくはやく~! おっそ~い!!」
ドドドドドドドドドドドド!!!!
折れたビル。倒れた街路樹。ヒビ割れた道路。
終焉を迎えた新宿区。その中を、砂埃を巻き上げ大地を揺らしながら疾走する集団が一つ。
総数10体を超えるキャンサーが、跳んで走って進む様は、身の毛もよだつほど気持ち悪く。
その先頭を、ニコニコヘラヘラ満面の笑みで駆け抜ける、疾風軽快にして小柄な少女が一人。
「キャハキャハ⭐️キャハハハハ⭐️ ざぁこざぁ~こ♡よわよわキャンサー、ハイ! チーズ♪」
「キャハハ⭐️鬼さんこちら、手の鳴る方へってね⭐️」
キラりんが、命懸けの逃走劇を、まるでおにごっこのように楽しんでいた。
「...茅森さん、山脇さん」
「うん」
「ええ」
手塚司令官が頭を抱えている。
キラりんがやってくれてるのは、多分陽動なのか。
ドームから、キャンサーを引き剥がしてくれている。
たった一人で。
「作戦は伝えた通りに頼むけれど...急いで。
そしてもしも彼女を、日景さんを助けられそうなら、お願いするわ。総員出撃!!」
「ああ、わかった!」
「了解よ!」
何であそこにいるのかとか、そういうのは全くわからないけど。
とにかく急ごう。キラりんが頑張ってくれている!
× × × ×
~Side 手塚咲~
「全く...何を考えているの、あの子は...」
情報も何も知らず、指示もなく。
ただ一人最前線に降下するだなんて。自殺行為以外の何物でもないというのに。一体なぜ...
「...手塚司令官」
「なに」
「彼女の
「...ええ。31Aと31Cに余計な不安を与えて、これ以上作戦外の行動をとらせるわけにはいかないから」
そう。彼女のことは伝えられなかった。
まだ彼女が、十分に実戦経験がある百戦錬磨のベテランであるならば、それこそ、現セラフ部隊最強の月城さんのような者なら、まだあの行動もわかる。
違うのだ。
彼女にいたっては、まるでその
「伝えられないわよ...31Kに配属されて以来、彼女が
「通信、繋ぎます」
「ええ」
茅森さんたちを送って、すぐに司令室に戻ってきた。
「31K部隊長、日景綺羅。
手塚よ、応答しなさい」
「はーい⭐️こちら31K部隊長、一条煌めく流れ星⭐️日景綺羅だよ! キャハハ⭐️」
「何をしてるの。勝手な行動は許さないわよ」
追跡中、DeathSlugから離れたタイミングを狙って、通信を試みた。
幸いにも繋がり、声を聞くことができた。
それだけでも、少し安心した。
「新宿ドームが危ないんでしょ?
とりあえず近かったの引き剥がしておいたから、安心してね~!」
「...貴女、自分を犠牲にして、囮にでもなるつもり?」
安心だなんて、できるわけがない。ふざけないでほしい。
そんな作戦―――そんな愚策、私にさせるな。
「犠牲になんてなるつもりないよ? こんなキャンサー程度、あたしの足なら余裕で逃げられるし! ほら、外での実戦だって、初めてじゃないし!」
「
「いいじゃんいいじゃん⭐️ちゃんと陽動完遂して、しっかり生きて帰るからさ! その時は、あたしをいっぱい褒めてよね⭐️キャハハ⭐️」
...頭を抱えた。ため息も出た。
言いたいことは山ほどある。
でもそれを言うべきは今ではないと、理性で采配する。
「...ええ、帰ってきたら言いたいことが山ほどあるわ。だから無理せず、絶対に生きて帰ってきなさい」
「はいは~い⭐️」
...通信、終了。
「司令官。日景さんは、大丈夫そうでしたか?」
「...10体を超えるキャンサーに追われてしばらくだというのに、息すら乱れていなかったわ。彼女は本気で可能だと思っているのでしょうね」
実際、日景さんの走りは相当速い。体力も相当の物。
アリーナでの訓練でも、逃げと回避行動だけは、30G並みの上手さを感じていた。
今だって映像を見ていても、地形上どうしてもというときにしかトランスポートせず、それ以外は走力のみで陽動と牽引を可能としている。
高所からの不意討ちにも余裕を以て対応し、回り込まれることへの警戒と対策も欠かしていない。
「茅森さんと山脇さんたちは?」
「ちょうど今、交戦を開始しました。31Aと31Cで別れて、小集団を一つずつ撃破していく動きのようです」
「彼女たちの位置情報と経路予測を日景さんに伝えるわ。あの牽引集団が彼女らにかち合うと危険よ」
「承知しました」
久しく忘れていた忙しさに見舞われている。
大事は信じて、小事に最善を尽くす。
「30Gの到着は?」
「...想定より遅れています」
「...DeathSlugが怖いわね」
「...はい」
頼みはしない。
無理もしなくていい。
...無事に帰ってきなさい。
× × × ×
~Side 茅森月歌~
「あれが、DeathSlug...!」
「バケもんじゃない...! 勝てっこないわ! 後退して迂回するよ!」
「はいでゲス!」
地図を見ながら、小規模集団を潰して、潰して。
粗方終わったところで、デススラッグを発見。
「31A! あんたらもノロノロしてると、死ぬよ!」
ワッキーたちは後退した。
「月歌、あたしらも後退しよう...!」
ユッキーは後退を勧めてくれている。
でも...
「...先輩って、いつ来るのさ。この距離じゃ、ドームまですぐだよ」
「...あたしらだけで、行けるか?」
あたしは、行こうと思った。
覚悟を決めた、その時。
「待ってください!」
「おタマさん、どうした!?」
「あいつの行き先に...誰かいます!!」
「なんやて!?」
言われた通り、デススラッグの目線の先を凝視した。
かなり遠いが、唯一見えるものがあった―――星のアクセサリーだ。
「キラりん!?」
『日景さん!? DeathSlugに接近するなんて、何してるの!? 死ぬ気!?』
「違うって⭐️なーに、同期がなんかがんばろうとしてるの見たらさ、あたしにも何かできることはないかなーって、思ってもいいじゃん⭐️」
『あなた、何を...!』
「おーっと手が滑った。通信オフっとな⭐️...さーて、足元にいた取り巻きどもは私に任されろ。
やるなら今やれ! 31A! タマちゃん! 茅森ィ!!」
「見たか皆! キラりんがキャンサーを引き付けてくれてる! 今の内にデススラッグを討つぞ!」
「ああ!」
「ええ!」
「待っておったわぁ!!」
「綺羅さん、大丈夫でしょうか...!」
「構うな、タマ。うちらの仕事は、あいつの頑張りに応えて奴を討つことや」
「...はい!」
負けていられない!
奴を、討つ!
「行くぞ! 戦闘開始だ!」
そこから、熾烈な戦いの果てにあたしたちがデススラッグを討つまで、数十分。
あいつ以外のキャンサーは、一匹たりとも来なかった。
× × × ×
~Side 茅森月歌~
「...やったか」
「...ああ、完全に沈黙した」
「やったのね...」
「すごい...」
「じゅ、準備運動にも、ならへんかったで...」
「めっちゃ息上がってますけどね...! ゼェ...!」
...勝った。多分。
なんかでかくて白い木? 塔? みたいなのになって動かなくなった。わかんない、初めてだからわかんないけど。多分勝った。
「はぁ...はぁ...あんたら、あいつを倒したっての?」
「ま、まじでゲスか?」
「はぁ...で、でも、あんたらがのんびりデカブツと戦ってる間に...ゴホッゴホッ...討伐数は稼がせてもらったわ...!」
「なんやじぶんら、逃げよったわりにもの凄い疲れてんな...」
「ええ...討伐数を稼いだからね...なんなのよあの大群...10体は超えてたわよ...!」
「怖かったでゲス...!」
「しかも、終わったと思って戻る途中、更に6体来たし...こっちも大変だったのよ...!」
「大変だったでゲス...!」
デンチョを確認する。
確かに、付近の小規模キャンサー集団はほぼ殲滅されていた。
「そうだワッキー! キラりんを見なかったか!?」
「日景? 私は会わなかったけど...」
「呼ばれて参上! キャハ⭐️
ということで、はい!チーズ⭐️」
「うわっ!?...まーた勝手に写真!」
「キラりん! 無事だったか!?」
「おうとも! 一条煌めく流れ星⭐️日景綺羅ちゃんは健在だぜ⭐️」
良かった...全員無事だ...!
「綺羅さああああん!!」
「おっと、タマちゃん。お疲れ様!」
「良かった...無事で良かったです...! ありがとうごじゃいます...! 喉乾いてませんか...? 飲み物ありますよ...!」
「ありがと⭐️じゃあ一口ちょうだい⭐️」
「はい...!」
凄い。
あれだけ休まず走ってたはずのキラりんなのに、見た目じゃああんまり疲れてるようには見えない。汗はかいてるし、煤だらけではあるけど。
「ねぇ、日景。あんたが連れてた大群は?」
「ん?...ん、ぷはぁ~。あっちのほうで撒いて捨ててきたよ⭐️ドームから遠いしいいかなーって」
「おい! あたしらが来たほうじゃない!」
「なら、デススラッグの取り巻きだった奴らは?」
「それなら、あっちらへんに⭐️」
「あちきらが通ったところでゲス!」
あ~...
ワッキー達の討伐数が増えたのって...
「良かったねワッキー。討伐数稼げて」
「アハハ⭐️よくぞご無事で!」
「...ひぃかぁげぇ~...!」
「許さないでゲス!」
「逃っげろ~⭐️」
「待てえええええ!!」
「待つでゲスうう!!」
また走って行っちゃった。
「ちょうどあっちはドームのほうだな。追いかけるぞ」
「だな。まだキャンサーが残ってる可能性がある」
その後、案の定いたはぐれキャンサーがドーム住民を襲うところを間一髪でぶっ飛ばして、今回の任務は無事に完了となった。