一条煌めく希望の星   作:木工用

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星の子と重なる手のひら

 

 

 

 

~Side 丸山奏多~

 

 

 

「よし...大人しくなったな...」

「対象、沈黙。

 恐らくあと数発でお陀仏でしょう」

 

 戦いは、一方的だった。

 そもそもが杭に止められて動けないキャンサーだ。精々が腕を伸ばしてひっぱたいてくる程度。

 それに対して遠距離から銃弾を浴びせられては、何もできまい。

 

「...やっぱり痛そうでゲス...」

「...仕方ない。仕方ないんだ」

 

 ...研究され、いたぶられ、最期も蜂の巣にされて死ぬコイツには、同情を禁じ得ないが。

 

「...すまない。ボクにはこうすることしかできない」

 

 一歩前に出て、銃を構え、狙いをつける。コイツへのトドメはボクがやると決めていた。

 ...ああ、この弾丸で、こいつの苦しみは終わるだろう。心の中で合掌を行い、終わらせる―――

 

 

 

 

 

「離れて下さい! 呼気が来ます!!」

 

 

 

―――はずだったのだ。

 

 

 

 

ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!

 

 

 

 

 

「「「「「「うわああああ!?」」」」」」

 

 

 

 キャンサーが、叫びと共に電気を撒き散らしてきた!

 体が、痺れる。動けない...! セラフも握れない...!

 みんなも、今ので全員倒れてしまったか...!?

 

「みんなぁ!?」

 

 唯一、後方で退いて警戒していた日景だけは、無事だったようだ...

 しかし、ボクらは何もできない。振り向けさえしない。

 絶対絶命のピンチだ...!

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

~Side 日景綺羅~

 

 

 

 

「ひかげ...!」

「ぐっ...!」

「しび...ゲスぅ...!」

「うぐっ...」

「っ!?」

 

 みんな、みんな倒れちゃった...!

 何もできない、あたしの目の前で...!

 

「待ってて、あたしが倒すから!」

 

 ...あたしが、やらなきゃ...!

 みんなのために...!

 

「セラフ、召喚!」

 

 これがあたしのセラフィムコード!

 

 

 

 

「『流れ星に願いを』!!」

 

 

 

 

 ワームホールが開く。

 現れたのは、小銃のセラフ。

 星形の意匠が可愛いだけの、今まで一度もキャンサーを撃てたことのない、無垢で綺麗な()()()()

 

「なんだよ...いいセラフィムコードじゃないか...!」

「後は撃つだけ...! あやつが一発でも撃てれば...!」

 

 そのセラフを手に、みんなの前に立って、キャンサーを狙う。

 

「いくよ...!」

 

 撃て...! 撃てよ...!

 今日こそ撃てよ...ッ!日景綺羅...ッ!

 

 

 

【おねがい にげて】

 

 

 

 ズキンッ

 

 

 

「がはっ...!?

 はぁ...はぁ...はあっ...!」

 

 手が冷たくなって、震える。

 心臓とお腹に、何かが突き刺さる幻覚が走る。

 目の焦点が、どこにも合わなくなる。

 それでも...!

 

「撃てよあたし...! お願いだから、撃ってよ...!」

 

 撃たなきゃ。

 撃たなきゃ撃たなきゃ撃たなきゃ撃たなきゃ!

 

「...撃ってよぉ!」

 

 ...撃てないっ。

 なんで撃てないんだっ...!

 恥ずかしいなぁ...後ろの丸山ちゃんたちに笑われちゃうかもなぁ...!

 

「一発...! いっぱつぅ...!」

 

 それでも、あのキャンサーはもう死に体だったはず...!

 一発でいいんだ。

 一発...いっぱつ...!

 

 

「ダメです日景さん! あのキャンサーは既に回復していますッ!!」

「...え...?」

 

 緋雨ちゃんが叫ぶ声が、彼方から聞こえた。

 焦点が合わない目で何とか見てみれば、確かに、さっきまであった傷が、無くなっていて。

 もう、間に合っていなくって。

 一発じゃ、到底倒せなさそうで。

 

 

 

 ドクンッ

 

 

 ドクンッ

 

 ドクンッ

 ドクンッ

 ドクンッ

 

 

「っ...それでも、それでもあたしが! あたしがやらなきゃ...!」

「ダメだ...日景...!」

「ダメです、日景さん...!」

 

 でも、一発ではダメだからって、動けるのはあたしだけで。

 

「っ!? お~い...またさっきのが、来るぞ~...!」

 

 どうやら、またさっきのが来るみたいで。

 でももう、セラフを持ったまま、動けなくって。

 

「呼気です...! 日景さん...!」

「あたしが...あたしが...!」

「くそっ...くそぉ!」

 

 思い出すのは、大きな大きな背中。

 せめてあたしも、この体で後ろのみんなのことを守るくらいなら、できるかな。

 ()()も、こんな気持ちだったのかな―――

 

 

 

 

 

「ああああああああ!!!」

「がっ!?」

 

 

 

 

 

―――後ろから、誰かに抱きつかれて。

 

 

()()()()! お前だけでも! 逃げろ!

 

 

 

 

 ザザッ

 

 

『おねがい...にげて...!』

 

 

 ザザッ

 

 

 

「がああっ!?」

 

 

 走る恐怖と、強烈なフラッシュバックに。

 反射で、手をギュッと握った。

 

 

 

 

 

 バババンッ!

 

 ドドドッ!

 

 

 

 

「...! セラフが...!」

「当たったでゲス...!?」

 

 あたしのセラフが、弾を撃って。

 何とか狙い続けていたキャンサーに、運よく当たったみたいで。

 

「はぁ...はぁ...!」

「まるやま、ちゃん...」

 

 あたしは、意識が無くなった。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 ~Side 丸山奏多~

 

 

 

 

「呼気が、中断されたようだぞ...!」

 

 何ができるかわからないまま、せめて日景だけはとがむしゃらに守った結果。

 日景の咄嗟の一撃が、あのキャンサーを止めた。

 

「丸山さん...! 日景さんを、安全なところに...!」

「ああ...くそっ、わかってはいるが...まだ体が思い通りには...!」

 

 しかし、まだ体が全然言うことを聞かない...!

 今ので気を失った日景を支えることすらできず、動けない...!

 

「っ、また呼気です...!」

 

 かろうじて数歩下がったところで、再びあの放電の気配が...!

 くそっ、ボクがすぐトドメを刺せなかったせいで...! みんなが...!

 

「やっぱりダメでゲスか...?」

「諦めるな豊後...! しかし...!」

「丸山さん...! あなただけでも、逃げて...!」

「うああああああ!!」

 

 くそ...! 来る―――!

 

 

 

 ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!

 

 

 バリィン!

 

 

 

 

 

「流石でございます、お嬢様。そして日景様。

 お陰で間に合いました」

 

 

「や、柳...!?」

 

 

 

 ―――幻覚が見えたと思った。

 でもそこには、ボクが最も信じる背中が確かにあった。

 

「はい。柳美音でございます。遅くなってしまい申し訳ございません」

「いや、お前、なんでここに...?」

 

 立ち上がった細くて大きな背中。ボクが誰よりも頼りにしてきた背中。

 その羨ましいスレンダーな肉体は、しかしどう考えてもあの入り口やダクトを通ってこれる体じゃない。

 

「無論、執事ですから」

「いや執事凄いな!?」

 

 答えになっていないが...まあそれが答えなのだろう。

 それが、柳だから。

 

「少々お待ちください。あやつを早急に排除いたしますので...!」

 

 そう言った声は、確かに柳の声で。

 しかし、それ以外にも聞こえていたはずだ。

 柳のデフレクタが割れる音が...!

 

「柳...! いくらお前でも、あいつに対して一人では...!

 無茶だよせ! 柳!」

 

 止めても、柳は敵に向かっていく。

 そして戦闘が始まる。ボクの手の届かないところで。

 

 

 ...まただ。

 

 

 またボクは守られてばかりだ...!

 このままボクたちがうずくまっていても、柳はあのキャンサーをひとりで倒せるのかもしれない...

 また、ボロボロになって。死にそうな状態で平気で帰ってくるだろう。

 それでいいのか...また、見ているままでいいと思うのか...?

 

 

 丸山奏多...!

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 ~Side 日景綺羅~

 

 

 

 

 

『―――、―――』

 

 

 

【おねがい にげて】

 

 

 意識が遠ざかろうとする。

 自我が眠ろうとする。

 自分の中の、()()()()()()()()()()()()()()()()が、全力で体を後ろ向きにさせようとしてくる。

 

 

【おねがい にげて】

【おねがい にげて】

【おねがい にげて】

 

 

『―――、っ―――でも』

 

 

 

 無理矢理に意識を繋ぐ。

 意地でも自我を保つ。

 閉じていた目を開け、セラフを手に前を向いた。

 

 

 

「それでも、ボクは!!」

 

 

 

 小さくて、とっても大きな奏多ちゃんの背中があった。

 

 奏多ちゃんが涙ながらに、そして強く、凛々しく、勇ましく立ち上がっていた。

 その灯火の眩しさから、目が離せなくなった。

 

 

「ボクは大切な人の背中を見るだけじゃなくて、隣に立ちたいんだ!」

 

 

 ザザッ【おねがい にげて】ザザッ

 

 

 心が、共鳴する。

 

 

「いつか守ってもらった分まで、のしをつけて返したいんだ!」

 

 

 ザザッ【おねがい にげて】ザザッ

 

 

 頭が、渦巻く。

 

 

「ボクにとっては、今がその時だ。

 だから、ボクは行きたい! 戦いたい!

 それがボクの! 丸山奏多の願いだ!!」

 

 

 ザザッ【おね■い ■げて】ザザッ

 

 

 願いが、打ち消し合う。

 

 

「...後輩にそこまで、立たないわけがありますか...!」

 

 その言葉に、緋雨ちゃんが立ち上がる。

 

「ギブアップには、まだ早い時間でした...」

 

 続いて、ヴリティカちゃんが。

 

「最後まで立ってないと、ご褒美もらえなさそうだしな~...」

 

 大島の四ツ葉ちゃん。

 

「この程度のことで、諦めるわしではないわ...」

「山脇様の使い魔として、力を見せる時でゲス...!」

 

 天音ちゃん。豊後ちゃん。

 全員、立ち上がる。

 

 

 

「...あたしも...!」

 

 

 

 意識は鮮明だ。

 自我は強烈だ。

 願いは―――

 

 

 

 ザザッ【おねがい にげて】―――

 

 

―――【あたしも 戦いたい】

 

 

 

「これがあたしの願いだからッ!!」

 

 

 

 

 もう、大丈夫。

 ありがとうございました、日景綺羅のお母さん。

 あたしはもう、逃げなくないから。

 一緒になって戦いたいから。

 

 

 立ち上がるよ。

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 ~Side 柳美音~

 

 

 

「くっ...」

 

 お嬢様の執事として、この手の障害は数えきれないほど乗り越えてきた。この身を剣として、盾として、あるいは弾丸として。

 しかし、此度の相手はどうやら回復をする個体のようで。撃てども撃てども傷は治るばかり。対してこちらは肉体の損傷が増えてきて、急いで治したばかりの間接も軋みをあげている。

 せめてお嬢様はお守りせねばと、先ほどの強烈な電撃攻撃だけは予備動作に銃弾を合わせる形で封じているが、これもいつまで持つか...

 

 

「柳。下がれ、交代だ」

 

 

 気づけば、お嬢様が。

 そして臨時部隊の皆様が、立ち上がっていた。

 

「ですが、お嬢様...」

 

 しかし、やはり傷痕は目立つ。

 執事として、この場は私が...!

 

「いいから見ていろ!

 ボクの研ぎ澄まされたセンスを。ボクたちの力を!

 そして証明してやる。お前の主人はすごいんだってことを!」

「お嬢、様...」

「すぅーっ...!」

 

 

 

『センスの違いを見せてやる』!!

 

 

 

「いくぞみんな!」

 

 

『数こそ万物の根源』!!

『世界征服開始でゲス』!!

『忘却は死、追憶に生きよ』!!

『頑張らない』!!

『寄らば斬る』!!

『流れ星に願いを』!!

 

 

 お嬢様に続いて、皆様も。日景君まで。

 お嬢様の横に並んで、私の前に。

 

 

 なんと、大きくて眩しい背中だろうか。

 

 

 

 

 ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!

 

 

 

「お嬢様っ!?」

 

 来た、電撃攻撃...!

 

 

 

「やるぞ! ヴリティカ!」

「任されました!」

 

 

「全員! しっかりと手を繋げ!!」

 

 

 

 対してお嬢様たちは、天音様の号令の下、ヴリティカ様を先頭に縦列になった。

 

 

 ビリッビリッ!

 

 

「ふんっ! 電気に対して直列になれば、抵抗はそれだけ倍になるのだ! 魔術を使うまでもないわ!」

「これならば、ワタシの盾で防げます!」

「そして、私の剣で電流を地面に逃がせば完成です!...ちょっと右手だけ痺れますけどね!」

 

 小笠原様の右手だけ痛そうですが、先程の惨事と比べればダメージは皆無に等しい。

 

「お~、あんま痺れてね~ぞ~!」

「痛くないでゲス!」

「流石だね天音ちゃん! ヴリティカちゃん!」

 

 そしてその影にいた私にも、ダメージは無い。

 これでは、あの呼気も脅威ではない。

 

「お前ら!? いつの間にこんな作戦を!?」

「ふんっ、倒れてる間に考えておったのだ。次はどうするかをな!」

「算出に必要な時間は、充分すぎるほどありました」

「一度くらいミスしても、次で取り返せばいいんだよ~。あたい達は発展途上なんだからな~」

「全くもってその通りです! 発展途上ですから!」

「緋雨ちゃんは先輩なんだから、もうちょっと完成しててほしいけどね⭐️」

「んあーーーー!? こんなときにまで言わないでくださいーーーー!!」

 

 眼前のキャンサーは、呼気が終わり、力を失っている。

 ―――好機。

 

 

 

「アハハッ⭐️―――だからあたしもさぁ!」

 

 

 

 そこに一人、飛び出した者がいた。

 日景様だ。

 

「日景っ!?」

「おい! 急に飛び出すな!」

「...いいえ、あれは...!」

 

 速い。右に左に動き回り、伸びてきた手を躱して。

 振り上げたその手にはセラフが。

 

 

 

「あたしも!戦うんだ!!」

 

 

 

 バババンッ!

 

 ドドドンッ!

 

 

 

 

「...撃っ......た?」

 

 見間違いではない。

 日景君が、自分でセラフを撃った。

 先程のような偶然ではない。自分で、引き金を引き、確かにキャンサーに当てた。

 

「うおおおおお!! 日景が撃ったぞおおお!!」

「綺羅さん...っ!」

 

 その体にはもう、震えはない!

 

「日景に続け! 丸山部隊、戦闘開始だ!」

 天音と豊後が前に出ろ!」

「わかった!」「行くでゲス!」

 

「小笠原と日景! 二人と適宜スイッチだ!」

「やりますよ綺羅さん!」「うんっ、緋雨ちゃん!」

 

「ヴリティカは防御に集中! 四ツ葉は自由にやれ!」

「ハーン!」「あたいにだけ雑じゃね~か~?」

 

 そして前を見れば、お嬢様たちが見事な連携でキャンサーを追い詰めていた。

 銃と盾だけというピーキーな部隊ながら、上手く前と後ろで別れ、それぞれの役割をこなし、キャンサーの外殻が瞬く間に破壊されていく。

 自由にと言われた四ツ葉様も、部隊全体のバランスを見て、攻撃・防御・サポートの三つを恐ろしい正確さで切り替えている。四女として上も下も見てきた彼女にはそれが向いていると、お嬢様は見抜かれたのか。

 この三日間で、よくぞここまで...!

 

 

 

ウ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!

 

 

 

「させるかあああ! くらえええええ!!」

 

 キャンサーの外殻が割れ、再び呼気がというところに、チャージしていたお嬢様の強烈な一撃が入り。

 対象が、再び沈黙した。

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 ~Side 丸山奏多~

 

 

 

 

「やっ、た...」

「何とか、倒せました」

 

 体が痺れ、デフレクタも殆ど残っていない。

 それでも、再びこのキャンサーを黙らせることができた。

 

「いいや、まだだ」

 

 しかし、消滅していない。

 またあの電撃、呼気をされる危険がある。

 トドメが必要だ。

 そしてそれをやるべきなのは、部隊長であるボクを置いて他ならない。

 前に進み、セラフを持ち上げる。

 

 

 

「ごめん、奏多ちゃん。

 あたしにも、手伝わせて...?」

 

 

 

 セラフを持つ手に、自らより小さな手が重なった。

 

「日景...手、触れても大丈夫なのか...?」

「えへへっ...やっぱりバレてたんだ、あたしのこと...でも大丈夫。もう大丈夫」

 

 日景の手はボクのセラフを持ち、狙いをキャンサーに向けていた。

 その手はもう、震えていない。

 

「...一緒に、背負ってくれるのか」

「えへへっ」

 

 暖かな勇気を伴った日景の手は、止めを刺す罪科と心の冷えを、温もりで包んでくれた。

 落ち着いた心で、キャンサーに向き直る。

 

「...キャンサー。お前に感情があるのかはわからない。

 もしあったとしたら、さぞボクたちが憎いだろう」

 

 許さなくていい。許す必要なんてない。

 

「...だけど、ボクたちからは言わせてもらうぞ」

 

 セラフを構え、照準を合わせ。

 

 

 

 

 

「「...ごめんなさい」」

 

 

 

 

 

 撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 パリィン...

 

 

 

 

 

「...倒したな」

「...うんっ」

 

 繋がれていたキャンサーが、断末魔と、ガラスの割れるような音と共に、散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 16:30

 

 

 ~Side 日景綺羅~

 

 

 

「うっ...ぐすっ...」

「...丸山、いつまで泣いておる」

「何度も話をしたでしょうに...」

「泣き虫でゲス」

「だってぇ、終わって一息ついたらなぁ、また思い出しちゃってぇ...!」

「お嬢様、ティッシュをどうぞ」

「ありがとう、柳...ずびーーっ!」

 

 任務が終わって、今はヘリで帰還している。

 あの時のことは、ここにいるみんなだけの秘密ってことになった。

 あたしはカメラを持ってこなくて良かったと思った。

 写真にも残らない、あたしたちだけの心の中だけの思い出というのも、良いものだなって思ったから。

 

「...そろそろ基地に着きますね」

「あ! ぼん...山脇様がいるでゲス!」

「キャロルさんもいますね」

「いちねぇだ~。えへへ~」

 

 ヘリから一緒に外を見たら、基地が見えてきた。

 日はまだ落ちていない、明るさの残った時間帯。

 夕飯には、少しだけ早い。

 

 

 小さな願いが、心に芽生える。

 言ってしまおう。

 流れ星が無くても、優しいお友達がお願い事を聞いてくれるから。

 

 

「ねえみんな。

 一つだけ、お願いしても、いいかな...?」

「お、いいぞ日景。なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘーイ! ウェルカムバック! 小さなヒーローたち!」

「キャロルさん、お出迎えありがとうございます。小さなは余計です」

 

「四ツ葉、怪我はない?」

「大丈夫だぞ~いち姉~。後でご褒美くれ~」

 

「小笠原、後輩たちをしっかり守れたか?」

「はい!...まあ、丸山さんのおかげで...」

 

「山脇様! ただいま戻りましたでゲス!」

「よくやったね豊後! 疲れただろう、しっかりご飯を食べて、体を休めな!

 ...天音、お前もありがとうね」

「...ああ」

 

「あ、でも山脇様。夕飯前にちょっとだけやることがあるでゲス! 待ってて欲しいでゲス!」

「それはいいけど、何の用だい?」

 

 

「残業ですね」

「残業だぞ~」

「残業です」

「残業だな」

「残業でゲス!」

 

 

「「「「残業???」」」」

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 ~Side 七瀬七実~

 

 

 

「こんばんは。日景さん」

「イェイ⭐️一条煌めく流れ星⭐️

 31K部隊の日景綺羅ちゃんだぜ⭐️」

 

 丸山さんの臨時部隊が、全員無事に任務から戻ったと報告。

 そして何故か、日景さんからのお願いでアリーナにいます。何故でしょうか。

 

「試験、今日もお願いするよ!」

「...構いませんが、本日は任務終わりで、疲れてはいませんか?」

「イエス⭐️めっちゃくちゃ疲れてる! もうご飯も食べずにベッドにダイブしたい! 風呂にも入らずに歯磨きもサボっちゃお! そんな気分で試験よろしくだぜ!」

 

 新宿の出撃でも、そしてそれ以前の出撃でもあまり傷は負ってこなかった日景さんが、なかなかのボロ絵になっています。

 そして...

 

 

「うおおおお! がんばれ日景ええええ!」

「やってやるでゲス!」

「ファイトです。ガンバです」

「さっさと終わらせろー!」

「早く帰らせろよな~~」

「集中ですよ! 綺羅さん!」

 

 

「...今日は多いですね」

「えへへっ」

 

 日景さんと任務に行っていた皆さんも揃ってアリーナに来ています。

 揃いも揃ってボロ絵です。

 

「確認いたしますが、戦闘は31Kのみで行っていただく条件のため、助力は認められませんが、よろしいですか?」

「うん⭐️皆には応援してもらうだけだから、大丈夫⭐️

 みんな~、手出しはいらないからね~!」

「ああ、わかっているぞー!」

 

 どうやら戦闘の意思は無いようで、他の皆さんが持っているのはセラフではなく、()()()()()()()()()()

 

「ふんっ。次のライブ用に作っておいた()()()()()が、こんなに早く出番が来るとはな」

「お前、ノリノリでゲスね」

「い、いいだろ別に...皆で盛り上がりたかったもん...」

「フレー! フレー! 日景!

 がんばれ! がんばれ! 日景!」

「ふれ~、ふれ~...疲れたぞ~」

「まだ始まってません、ヨツハさん」

「剣の重さと比べれば、可愛いものです...可愛いって言わないでくださいーーー!!」

「どうした小笠原? 疲れてるんだな? 終わったら休め?」

 

 ...まあいいか。楽しそうですし。

 

「攻撃性は無いと判断しました。同伴を許可します」

「さんきゅ⭐️」

 

 アリーナ、起動。

 適正試験インターフェイス、動作開始。

 電子再現キャンサー、レベル設定完了。適正値確認。オールグリーン。ステンバイ。

 日景さんのために毎日行っていた試験準備も、もう慣れたものですね。

 文字通り毎日、この子と一緒にやってきましたから。

 

「準備はよろしいでしょうか」

「イエス⭐️今日こそ終わらせるよ!」

 

 起動。

 

「31K部隊、適正試験スタート」

「すぅ~、はぁ~...」

「がんばれ! 日景!」

 

 今日こそ、終わってほしいと。

 今日から、始まってほしいと。

 ここにいる全員、願う心は一つ。

 

 

 

『流れ星に願いを』!!

 あたしの物語を、ここから始めるッ!!」

 

 

 

 召喚したセラフから―――銃弾が放たれた。

 

 

 

 

 

   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 ~Side 朝倉可憐~

 

 

 

「食後のおやつ買っちゃった~♪ 湖を見ながら食べようかな~♪」

 

 今日の訓練も終わって、自由時間が来た。

 サンドバックのような日々で頑張ってる自分にご褒美! フィッシュ&チップス♪ 塩とタルタルソースが最高にジャンキー♪ ふんふふ~ん♪

 

 

「はぁ...はぁ...」

「う、うでが...ちぎれるでゲス...」

「のどに効く薬...腕の疲労に効く薬...副作用は...」

「1分あたりの筋疲労をx、試験時間をYとしたとき...回復に必要なたんぱく質の量は...」

「...いちねぇ~...たすけてぇ~...ぐぅ~...」

 

 

「死屍累々だ!?」

 

 通りがかったアリーナ前のベンチに、寝そべったひとの山ができていた。

 

「全く、後輩たちは体力が足りていませんね」

「えへへっ...緋雨ちゃん、許してあげて...?」

 

 その横にいる、小笠原さんと日景さん―――キラちゃん。

 

「みんな、どうしたの...?」

「朝倉さん。お疲れ様です」

「お疲れ様です小笠原さん。キラちゃんも」

「イェイ⭐️一条煌めく―――うーん、ちょっと疲れ過ぎて煌めけない流れ星かも...? なキラちゃんです⭐️キャハハ...⭐️」

 

 ...とりあえずお疲れなようで。

 全員の口に、持ってたフィッシュ&チップスを放り込んであげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう朝倉...」

「美味しいでゲス!」

「助かった...」

「生き返りますね...」

「うめぇ~な~、コーラもくれ~」

 

「うーん、残念だけどコーラは買ってないかな...」

 

 持ってきたフィッシュ&チップスは全部無くなっちゃったけど、五人の命を救えたみたい。

 

「そんな、あれやこれや叩かれてサンドバックのような日々を過ごしたみたいになって、どうしたの?」

「救世主を待ってたんだ...」

「正気なんて失ってましたね...」

「死体のように寝転がっていたいな...」

「そのほうが楽になんぜ~...」

「かつては剣の天才...銃ではこのザマ...ははは...」

「この喜劇をさ...踊ろうぜ...⭐️」

 

「オーバーキルだ...!」

 

 聞いてくれてありがとう...!

 

「そんなことより! 聞いてくれ朝倉!」

「う、うん! なにがあったの!?」

 

 突然丸山さんがガバッと起きて、目を輝かせて言った。

 

「聞いて驚け―――

 日景がついさっき、()()()()()()()()()んだ!」

「ホント!?」

 

 それは驚いた。あたしの目も輝いていると思う。

 

「イェイ⭐️これでようやく合法的に戦場でドンパチできるってわけよ!」

「おめでとうキラちゃん! ずっと頑張ってたもんね!」

「さんきゅ⭐️奏多ちゃんたちのおかげだぜ⭐️」

 

 ブイ! とピースサインをくれるキラちゃん。

 あたしは拍手で祝福。本当におめでとう。

 

「そうだ! これで丸山部隊も七人で戦えるぞ!!」

「カナタさん。任務は今日で終わりです」

「あ...」

「今日で解散だな」

「う...」

 

 シュン...としぼんでいく丸山ちゃんがかわいそう。

 任務のほうも無事に終わったんだ。凄い。

 

「こほん! しかし、今回の任務で築いた絆を、今回限りにするのは勿体ないです。今後もこの七人で集まりましょう。互いの成長を見て学ぶことは多いですし...あと、お友達も、欲しいですから...」

「うおおおお! 緋雨ちゃんかわいいいいい!! なんであたしはカメラを持っていないんだあああああ!?」

「んあーーーー!? かわいいは禁止ーーーー!!」

 

「...いいのか、皆? また集まってくれるのか?」

「ま~、またコーラ用意してくれるんなら行ってやってもいいぞ~」

「もちろんです。是非お願いします」

 

「豊後、お前も楽しかったか?」

「そうでゲスね! またなんかやるときは呼ぶでゲス!」

「らしい。ならばわしも行かんとな」

「素直じゃないですね天音さんは」

「うるさいわーーーー!!」

「アハハハハッ⭐️いやー、楽しいなぁ!」

 

 みんな、本当に楽しそう。

 戦場で育まれた絆かぁ...いいなあ...

 

「ご歓談中失礼いたします。

 お嬢様、カフェテリアが閉まるお時間です」

「えええええ!? もうそんな時間か柳!?

 皆! 急いで夕飯にするぞ!」

「はわわわわ!」

「うお~~。いっそげ~~~」

「ヨツハさん。言葉にするなら急いでください。その速さだとカフェテリア到着までの距離をx、歩行速度をyとし、風による空気抵抗を変数として概算を...」

「ヴリティカも戻ってこーーい!!」

「何をモタモタしてるでゲス! 走るでゲスよ!」

「豊後が一番まともではないかーー!?」

 

 やんややんやとカフェテリアへ走っていく姿も楽しそうだ。

 

「じゃあまたね朝倉ちゃん! 次こそ、前線で会ったときは一緒に戦っちゃうから! よろしくね!」

「うん! あ、でも戦うのはカレンちゃんだから...」

「そっか。カレンちゃんにもよろしくね!」

「...うん。合格、本当におめでとう」

「さんきゅ⭐️」

 

 キラちゃんも、皆と一緒にカフェテリアへ走っていく。

 キラちゃんが、歩いていく。

 離れていく。

 手の届かないところへ、遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 戦えないままのあたしを残して。

 

 

 

 

 

 ズキンッ

 

 

 

「......苦いなあ」

 

 

 自覚させられる、開いた差と現実に。

 心が軋む音がした。

 

 




 U140編、完結です。
 二章はまだ続きますので、最後までどうぞ。
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