22:00
~Side マリア・デ・アンジェリス~
「ちっ...今日も長くなった...」
ひとの告解を聞き、答える。
小さな悩みから大きな決断まで。
そんなことを初めてから、寝るのが遅くなり始めた。
「アリーナで一汗かいて、風呂にするか」
この基地のテルマエは中々のものだ。特にキャンサーを殺しまくってからの風呂は最高の一言。
仮想のキャンサーに物足りなさはあるが、今夜はアリーナで我慢してやるとしよう。
「ふんふふん、ふ~ん♪...お?」
「...ちっ」
...アリーナへの道の前、横からガキが来た。
どうやらこいつもセラフ部隊で、アリーナが目的のようだ。
仕方ない、譲るか。
「...行け」
「ちょちょちょ待ちなよお姉さん!? あなたもアリーナに来たんじゃないの?」
「......」
...その鋭さがあるなら、大人しく譲られてればいいものを。
「ねねね! 一緒にやらない?」
「...断る」
「そんなー。連携とかそういうのはいいから、一緒にキャンサーと戦うだけ!」
「......」
「どう?」
こいつ、オレが連携に興味ないことを知ってのことか...?
それとも単に鋭いだけか...?
「...オレは本当に連携しないぞ。勝手に殺す。一緒にやってやってもいいが、邪魔はするな」
「あいよっ⭐️」
まあいい。
それだけ鋭いなら、勝手に合わせてみせろ。日本のガキ。
23:00
「今日は楽しかった、キラ。
良ければ今後もタイミングが合えば一緒に頼む。無理強いはしない」
「イェイ⭐️こちらこそ! マリアさんめっちゃ強いからキャンサーをボコボコにできるの気持ちいいぜ⭐️」
キラとの訓練は、最高に楽しかった。
『ふんっ!』
『ほいここ!』
『せいっ!』
『ほいここ!』
『...やるな』
『いい感じ?』
『ああ。その調子で頼む』
『らじゃ!』
オレの攻撃を邪魔せず、キャンサーの攻撃に合わせての射撃で妨害に徹してくれた。お陰でオレが一方的に攻撃できた。
戦闘しながら聞いたが、意外にもキラのセラフはひときわ弱く、ダメージが期待できないらしい。
キャンサー一体倒すのに三十分かかったとか...本当か?
『だが技は上手いな。誰かに教わったのか?』
『31Fの部隊長の柳さん! 強いひとだよ~!』
それで考えたのが今日やった妨害射撃であり、31Fの部隊長の真似なんだとか。
あのイギリス人にも見習わせたい技だ。
『名前は?』
『ん! 31Kの日景綺羅だよ! あなたは?』
『キラか。覚えておこう。
オレはマリア・デ・アンジェリス。31Xとしてローマから来た』
『マリアさん! よろしくねー⭐️』
31Kという一人で孤独な部隊であり、更にセラフが弱いというハンディキャップを抱えながら、それでも工夫してキャンサーに立ち向かう姿勢に、オレは尊敬の念を覚えた。
自らの短所を受け入れ、それを補うべく技術を研鑽し、こうして修練に励む。素晴らしい行いだ。
「マリアさんは神父さんなんだよね?」
「ああ。教会出身だ。子羊どもに懺悔をさせていた」
「ほぇ~。もしかして結構偉い方だったりする?」
「そういうわけではない。殺すことしか取り柄が無い存在だ」
「いやん物騒⭐️ でも頼もしい!」
あまりひととの行動は好まないタチだが、こいつとの会話は悪くない。
「キラ。良ければ一緒に風呂に入らないか?」
「ん、ありがたいけど辞めとく⭐️」
「そうか。無理強いはしない。また頼む」
「イェイ⭐️」
こういうときも、変な言い訳を言うでもなく、シンプルに断ってくれるのがオレ好みだ。
「...残念だな」
風呂に誘い、断られて残念に思うなど、何年ぶりだろうか。
いいやつと出会えた。主の導きに感謝を。
翌日 21:30
~Side マリア・デ・アンジェリス~
「早速、今日も付き合ってくれて感謝する」
「おうよ⭐️あたしも楽しかったから嬉しいな⭐️」
今日の夜もキラを誘ってアリーナで訓練だ。
何なら実際に戦場でやりたいものだが、部隊の違いもあり流石に難しい。
近日中にデカい作戦が予定されている。その作戦中に基地周辺が攻撃されてはいけないからと、基地や作戦地域の周辺掃討任務を31Xは請け負い、連日出撃していた。
「で、こいつは同じ31Xのイギリス人だ」
「イギリス人!? 私にもアイリーン・レドメインっていう語り継がれるべき名前があるんですよ!?」
「殺すぞ」
「なんでぇ!?」
今日はこいつも連れてきた。うるさい。
キラの動きを覚えさせたい。うるさいが。
「キラ、やるぞ。昨日と同じで頼む」
「ん、あいあいさー⭐️」
"さあ子羊ども 懺悔の時間だ"
"流れ星に願いを!"
「いきなり連れてこられて何なんですか!? この子はキラさん!? ってマリアさんが名前で呼んでるううううう!?!?」
「まずはこいつから殺すか」
「あいあいさー⭐️」
「あたし!? キラさんもノリノリで銃を向けないでくださいーー!? お二人はいつからそんなに仲良くなったんですかーー!?」
叫ぶイギリス人を尻目に、まずはキャンサーを一体屠る。
昨日と同じように、キラには妨害に徹して貰う。
叩いて、撃って、叩いて、撃って、叩く。
まずは一体。
「イギリス人」
「はいっ!?」
「覚えろ」
「えっ?」
「聞こえなかったか。覚えろ」
「えっ? 今のキラさんの技をですか?」
「それ以外に何がある。早くしろ」
今日はそのためにわざわざコイツを連れてきた。
31Kのキラを毎度任務に連れていくことはできないからな。代わりにコイツにやってもらう。
「無茶言わないでください!? 息ピッタリだったじゃないですか!? いったいここで何度練習してきたんですか!?」
「ん~、昨日の一時間だけ?」
「一時間!? One hour!? What`s!?」
「口より先に手を動かせ。次からやるぞ」
「ちょちょちょ!? マリアさん!? せめて落ち着く時間を下さいよ!?」
「キャンサーは待ってはくれないだろ。もたもたしてると殺すぞ」
「理不尽な世界!? ああもうわかりましたよー!」
"真実は一つだけ!"
そうこうしている内に、キャンサーが来る。
「オレが叩いた後の、ヤツの攻撃を潰せ。わかったか」
「はっ、はいぃ!」
まあ、キラは最初の一発からほとんど合っていたからな。コイツでもやればできるだろう。
「行くぞ。せいっ!」
「えっ?」
......
「ちっ...!」
ガキィン!
「ん~⭐️見事なスルー⭐️」
「...イギリス人、何をしていた?」
「えっ? あっ、今撃たないといけなかったんですか!?」
「お前が何もしないから、オレのデフレクタがダメージを受けたが?」
「す、すみませんすみません! 次は何とかやってみますから!」
「わーお、スパルタ⭐️」
...せめて撃つことはしろと。その銃は何のために持ってるのかと。
「行くぞ。おらっ!」
「えっと...ここ!...?」
スカッ...
「ちいっ...!」
ガキィン!
「ん~見事な大外し⭐️」
「...イギリス人」
「すみませんすみません! タイミングに集中し過ぎて狙いが外れました!」
「殺すぞ」
「次はちゃんと当てますから!」
「がんばれ~アイリーンちゃん⭐️」
下手くそが。
「行くぞ...らぁ!「はいっ!」」
ドドドンッ
「早すぎだっ! ちいっ!」
ガキィン!
「ん~⭐️見事なタイミング丸被り⭐️」
「殺すぞ人」
「殺される人!? すみませんすみません! 気が逸りすぎました! 今度はちゃんとマリアさんをよく見て合わせますから!」
はあ...なぜキラに出来てコイツはできない...?
「ん~...マリアさん、もう一回あたしとやるの見せよう⭐️」
「...仕方ない。イギリス、しっかり見てろ」
「ひとじゃ無くなっちゃった!? しっかり見てますー!!」
...ひとを間違えたか。いや、同じ銃でなきゃ難しいし、シャルロッタはいつも黙って後ろをついてくる変なヤツだ。コイツ以上に扱いが難しい。
「行くぞキラ。そらっ!」
「ほいここ!」
ザシュッ!
バババンッ!
「おらっ!」
「ほいここ!」
ザシュッ!
バババンッ!
「終わりだッ!」
ザシュッ!
パリィン...!
「パーフェクトだ、キラ。昨日よりもいい」
「イェイ⭐️」
「やっぱり上手すぎます! 簡単にやらないでくださいーー!!」
「だがキラは簡単にやってるぞ」
「まあ、簡単ではないよ。初めての人とやったら最初はタイミングミスっちゃうかもだし⭐️」
「それ二回目からは間違えないってことじゃないですか!?」
「てへぺりんこ♪」
「うわーん! 天才が多すぎますー! あたしも名探偵なのにー!」
ふんっ。二度も見せたんだ。流石にできなければ本当に殺すか...
「うぐっ...これ以上マリアさんにどう合わせれば...」
「ん~...ごめんマリアさん。もう一回やっていい?」
「...キラの頼みなら仕方ないな」
「えっ!? 同じ部隊のあたしより扱い良くないですか!?」
「殺す」
「すみませんすみません! 黙って有り難く見させて貰います!!」
キラに考えがあるようだし、やってやるか...
これで出来なかったら本当に殺す。
「アイリーンちゃん。さっき、どうマリアさんに合わせれば...って言ってたじゃん?」
「は、はい!」
「違うの⭐️合わせるのはマリアさんにじゃなくて、キャンサーのほう⭐️」
「ほえ?」
「マヌケな声を出すな。殺すぞ」
「すみません! ちょっと盲点でした!」
「ちっ...やっていいか、キラ」
「はいよっ! お待たせ⭐️」
キャンサーが出現する。
構える。
「マリアさんがキャンサーを攻撃した後、だいたいのキャンサーはそのタイミングで反撃してくるから、そのキャンサーの動きを見て...」
「せいっ!」
「ほいここ!」
ザシュッ!
バババンッ!
「おらっ!」
「ほいここ!」
ザシュッ!
バババンッ!
「死ね!」
ザシュッ!
パリィン...!
「...ってコト! あんだーすたん?」
「...なるほどですね...誰が味方でも、あくまでも相手はキャンサー。Who done it.ではなくHow done it.に主眼を...」
...アイリーンがようやくまともな面になった。
遅いが、まあ戦場に行く前なら許してやらないこともない。
「やるぞ、アイリーン」
「...はいっ!」
キャンサーが出現する。
「せやぁ!」
「ここです!」
ザシュッ!
バババンッ!
「おらぁ!」
「ここです!」
ザシュッ!
バババンッ!
「マリアさん!」
「ああ、殺すぞっ!」
ザシュッ!
パリィン...!
「や...やったーーー!!
やりましたよマリアさん! キラさん!」
「おめでとっ⭐️」
「ありがとうございます! これで生きて帰れます!!」
「ふんっ。遅すぎるくらいだ」
キラは一発目から成功していた。それを考えればまだまだ足りない。
しかし、今のは気分が良かったな。
「すみませんすみません! でも出来ましたから!
よーし! 明日からこれで頑張りますよ~!」
「何言ってるんだ?」
「へっ?」
だからマヌケな声を出すな。殺したくなる。
「一度成功したくらいで何を言っている。実戦では信用に足りない。
とりあえず三回ミスしたんだから
「ひ、ひええええええ!?!? ムリムリ無理です!? さっきだって偶然かもしれないんですよ!?」
「なら尚のこと訓練だろ。殺すぞ」
「ひええええええ!!」
「だがキラを巻き込むのは良くないな。
ありがとうキラ。付き合ってくれて感謝する」
「ん、お安い御用さ⭐️
じゃあねアイリーンちゃん⭐️後は頑張ってね⭐️」
「うわーーーーん!!
誰か助けてくださいーーーー!!」
この後、キャンサーを百体ほどやったところでアイリーンがダウンした。
ヤワなヤツだ。殺すまでもない。
翌日 23:00
「ふーっ...やはり訓練後の風呂は最高だ」
今日は実戦でアイリーンとの連携を試してやった。
あいつ、見事にキャロルの攻撃を邪魔してやがった。
『マリアさんだけじゃなくキャロルさんもいるのを忘れてましたぁ!!』
『二人が何かを練習してるのは知ってるけど、無理はノーセンキューよ?』
『殺すぞ』
『すみませんすみません!!』
だからさっきまでまたアリーナで連携を試していた。
五十回ほどで終わったが、四回もミスをした。やはり面倒なことはしないほうがいいのか...
「おっ、マリアさん⭐️最近よく会うね⭐️」
「キラか。お疲れ様」
向かいからキラが歩いてきた。
「今から風呂か。夜遅くまで大変だな」
「いやいや⭐️」
今から風呂か。寝るときには日付を跨ぐだろう。
「訓練も大事だが、しっかり寝るのも大事だ。やりすぎるなよ」
「ん...そうだね、ありがと⭐️」
...ふむ。
「何か悩みがある顔をしているな」
「ドキッ!? 顔に出てた!?」
「まあな」
まあ、気づけるのはオレくらいのものではあるだろうが。
仕事柄、そういう顔はひと一倍見てきたからな。
「部隊が一人では、相談相手もいないか。寂しいな。
ここか、近いところで良ければ、話くらい聞くぞ」
「...あはは。マリアさんは優しいね」
「...どうだかな」
優しい、か。
自分のことは、殺したくなるくらいなんだがな。
「...屋上でもいいかな? 冷えちゃって悪いけど...」
「構わない。少し湯に浸かりすぎたから丁度いい」
「...ありがとっ」
「うん。今日も星空がキレイだ⭐️」
「ローマの空とは少し見え方が違うが、綺麗なのは違わないな」
「うんっ。お星さまは変わらず見ていてくれるから!」
「そうだな。いつも見ている」
屋上からは、空が良く見えた。
キラは慣れたように一つの椅子に座る。慣れた様子だ。ここが好きでよく来ているのだろう。
「...じゃあ、あたしの相談、聞いてくれますか?」
「ああ」
夜の暗さが不安を隠し、涼しい風が次を促してくれる。
そんな夜空の下、話をするのも悪くない。
「...友達が、いるんだ」
「友達か」
「うん。そんなに深い付き合いじゃないんだけどさ、長くてねっ。
だけど、互いにいろいろあってさ、しばらく疎遠になっちゃってたんだ」
「こんな世界だからな」
「だねー。それで久々に会ったらさ、向こうには向こうの友達がいてさ。そいつがまたいいヤツでさ。その友達の悩み全部、何とかしてくれそうなヤツなわけだ。
そいつと仲良さそうにしてる友達を見てさ...なんか、話しかけづらくて」
「...なるほどな」
聞いてみれば、平和だった頃の世界でもよくある話だった。
しかし、だからといって簡単な話ではない。
よくある悩みということは、それだけ多くのひとを苦しめてきた事ということだからな。
「しかも、その友達は近々デカイ仕事が待ってて、その準備で忙しそうで。このタイミングであたしが話しかけるのもな~って思っちゃうんだよね...」
「そうか。その友達とやらは仕事ができる、キラのように凄いヤツなんだろうな」
「そりゃもうね! あたしなんか比じゃないよ! 努力家で強くてカッコよくて、しかも可愛くってさ! あんなん存在が反則!」
キラはとてもいい笑顔で話している。星空にも負けじと輝いて見える。それだけその友達のことが好きなんだろうなということがわかる。
「...こんな世界じゃなければ、慌てず、互いが落ち着いたときにでも話しかければいいなどと
「うん...」
つくづくこの世界が嫌になる。オレたちにのんびりとした青春の一ページをめくる時間すら与えてくれやしない。
栞を挟んで後回しにしたら、ページが破られているか、本ごと焼き尽くされているか、あるいは読み手側が全滅しているか...そんな世界だ。
一日すら惜しい。
「話しかけられない気持ちはオレもよくわかる。だが、そんなことを言っていて、突然の不幸が訪れ、何もかも手遅れになることだってある。最悪な」
「だね...」
「いいかキラ。
主の導きに従い、期を逃すな。その時は必ず訪れる。
時が来たら、その友達も、いいヤツとやらも、その時にお前を邪魔する全てを排し、心に従え。
それによる罪なんぞ、オレが許す。文句を言う奴がいたらオレがコロ...すのは悪いが、殴り飛ばすくらいしてやる」
時として、掴みとらない者に祝福が与えられないことは確かにある。
キラとその友達は、必ず祝福に値する者だろう。
後は二人次第。
罪はオレが許せばいい。
「...ありがとうございます」
祈るように両手を握り、キラは頭を下げる。素晴らしい作法だ。
「祝福があらんことを。
さあ、今日はもう風呂入って寝ろ」
「はいっ」
会ったときよりも元気な声を聞いて、オレも31Xの部屋に向かう。
しかし...はあ...友達か。
「...明日からはキャンサーどもをいつもの三倍殺すか」
「わお、いつもの物騒なマリアさんだ⭐️」
「...ちっ、聞かれていたか。早く行け」
「にししっ⭐️」
悪くない気分ではあるんだが。
明日は相当殺し尽くさないと、気が済まなそうだなとも思った。
そのために...本当に面倒だが、アイリーンの手も借りてやるとしよう。