「これが日景綺羅の、流れ星の子の人生でした」
最後に、一枚の写真を見せる。
写真帳の最後のページに、裏向きにしまっていた写真を取り出して。
「これが、本当の最後の写真。
キャンサーにカメラを向けてたから、そいつが降ってきた瞬間に指が反射で動いて、偶然撮れた写真。
もしかしたら、日本で初めてキャンサーを撮った写真かもしれないね」
写真には、デカデカと写った腕がたくさん生えたキャンサーと、右下にはこちらに右手を伸ばす女性―――綺羅ちゃんのお母さんの姿。
「皆のおかげでもう大丈夫だけど、このときの冷たくなっていくお母さんの手がショックで、あたしはひとの手に触れなくなって、キャンサーからは逃げることしかできなくなったんだ」
ひとに触れず、キャンサーとも戦えず、ただ足が速いだけの子。あたしがそうなってしまった理由。
何のことは無かった。あたしはただ、あれからずっと逃げ続けていただけだった。
更には、あの事件なんかもあったりしてね。
「これで、日景綺羅の人生はおしまい。
辛いこともあったけど、今は皆がいてくれて楽しいから、ここに来れて良かったって思ってるよ☆
だから...そんな顔しないで☆」
写真を戻して、写真帳をパタンと閉じた。
顔を上げればまあ、想像通りの光景。
巫呼ちゃんもヴリちゃんも沈痛な面持ちになっちゃってる。
ぶんちゃんは...良かった。寝ちゃってるね。あの子はまだ知らない方がいいから。
はーちゃんも、ここまでは想像してなかったのか、目を伏せている。
何なら、一度話している緋雨ちゃんまで黙っちゃってるし。ごめんて☆
「日景」
そんな中、やっぱり奏多ちゃんは話しかけてきてくれた。
凄すぎ☆
「うん」
「ボクたちの手は、暖かいだろう?」
「うん。とっても」
奏多ちゃんと緋雨ちゃんは、あれからずっとあたしの手を握ってくれていた。
冷えそうになる心を、暖め続けてくれた。
「その、話してくれてありがとう。
今はまだ、気持ちに整理がついてないけど、日景のことを知れて、嬉しく思っている」
「うんっ、ありがとっ」
奏多ちゃんはしっかりと本心で言ってくれるから好き。
「日景...」
「ん、巫呼ちゃん?」
おお、巫呼ちゃんだ。
「すーっ、はーっ...ごほんっ。
わしも、お前の話が聞けて嬉しく思うぞ。
それに、そんなに辛い記憶でも、忘れず、写真帳として大切に残していて、立派だとも思う」
「...えへへっ、ありがとっ」
ぎこちなく、けれども話してくれた巫呼ちゃんの気持ち。
ちゃんと伝わったよ。
「壮絶な過去ってやつだな~」
「あはは...」
はーちゃんも、最後まで起きて聞いてくれてありがとね。
もし今日眠れなくなったら、ごめんね。
「お前は、願いを叶えるお星さまであろうとしたのか」
「ん、そうだね☆」
「
「ん?」
...まただ。
またあの、正すような目のはーちゃんだ。
「そうだよ☆ あたしは一条煌めく流れ星☆ 日景綺羅ちゃんだからね☆ 皆の願いを叶えなきゃ☆」
それであたしを見てくる。
まるであたしが悪いことをしているかのように。
「っ!? そういうことか...!」
「わかったか丸山〜。んじゃ、後よろしくな〜」
それだけ言って、はーちゃんは寝始めた。
「...今日集まったのは、四ツ葉が皆で遊ぼうと言ってきたからだったんだ」
「...あのはーちゃんが?」
「ああ。珍しいこともあるものだと思っていたが...理由がわかった」
あの、五十鈴ちゃんたちと話した後。
すぐに奏多ちゃんたちに話に行ったってことだね。
そうして、はーちゃんのパスを受け取った奏多ちゃんが、涙をこさえた目であたしを見つめてきた。
「日景、お前はまだ、流れ星の子を続けているんだな?」
「...アハハッ☆」
バレた。
バレてしまった。
「皆の輪に入るため、好かれるため、認めてもらえるために。
望まれるまま、求められるままに皆の願いを一方的に叶え続けているんだ。
疲れようとも、倒れようとも、危険に晒されようとも、変わらず煌めく流れ星として」
「...そうだね。その通りだよ」
何も訂正する箇所なんてない。
それこそが、日景綺羅の行動原理。
「...そういうことですか」
「...いい子が過ぎるぞ」
そんなこと言われても。
そんなこと言われたって。
「...日景綺羅には、これしか無かったんだ。
ひとから願われない流れ星に、価値なんてないから...
日景綺羅には、そうすることしかできなかったんだっ...!」
そこにしか、日景綺羅は価値を発揮できない。
新宿では、茅森やタマちゃんがあのデカイのを倒したいと思ってそうだっから、邪魔なザコを引き連れて。
皆との研究所での任務も、求められたから、やっと役に立てるからって応えて。
適正試験も、合格して欲しいと願われたから、何度も何度も頑張って。
それに普段から、愛想を振りまいて、笑って、合わせて。皆がそう願っているだろうって姿を振る舞ってきた。
流れ星に願いを。
あたしは、流れ星の子だから。
「流れ星と言ったか。
ボクも、柳と流れ星を見たことがある。天文学の勉強でな」
「...そうなんだ」
きっと、丸山奏多という
それでも同じく流れ星を見てくれていることが、少し嬉しかった。
「だからわかる。お前は
「えっ...?」
間違っている?
「そんなこと...あたしはずっと、流れ星が好きで...」
「間違いも間違い。大間違いだ。
一つ聞くぞ。お前が初めて流れ星を見たときのことだ。
最初からお前は、願いを叶えてくれるから流れ星が好きになったのか?」
その言葉に思い出すのは、野山の香りと、あの夜空。
日景綺羅は―――とても純粋な目で、星を見ていた。
「違う。綺麗だったから。
理由なんて、それだけだった...!」
「...そうだろう」
こんなことも、忘れていた。
「願いを叶えるから好かれる。確かにそういうこともあるだろう。利害関係で成立する仲というのがあることを、ボクは否定しない。
けれども、それをボクたちにもやる。いや、やらなきゃいけないと思っているんだとしたら、それは大間違いだ」
奏多ちゃんの言葉が、胸の奥にどんどん染み込んでいく。
涙が止まらない。
「...今すぐにとは言わない。強制するつもりもない。それでも、少なくとも」
「...うん」
「せめてボクたちには、流れ星の子でいるな。
ボクたちが、お前のことをちゃんと好きだってことを、信じてくれ。
いい子ってだけじゃない、流れ星の子じゃないお前とも、ボクたちは友達になりたい」
「うんっ、ごめんなさい...」
「謝ることではないが...まあ受け取っておこう」
奏多ちゃんがハンカチで涙を拭ってくれた。ああもう、ホントにカッコいいなあもうっ。
どうしよっか。これから。
どうすればいいんだろう? アハハッ...
「綺羅さん」
「...うん、緋雨ちゃん」
後ろから、緋雨ちゃんが優しく抱きしめてくれる。
「あなたはもう、大丈夫です」
「...そうかなぁ~?」
「友達が、みんながいてくれますから」
「...そうだねっ、うん!」
千恵ちゃんとずーっと見守ってきてくれた緋雨ちゃんの体が、とっても暖かい。
「...嬉しいけど緋雨ちゃん。千恵ちゃんほどじゃないね?」
「う、うるさいですね!! 大人しく慰められてくださいよ!!
あと緋雨ちゃんじゃなくて!! 小笠原先輩ですーー!!」
「むがーっ! お前うるさいでゲス!」
「おい! 豊後が起きてしまっただろ!」
「あ~、やりやがったな緋雨~」
「睡眠妨害です。ぶっちめましょう」
「えーーーー!? これ私が悪いんですかーーー!?」
「アハハッ☆ それっ!」
「うわっ!」
ツッコミが面白い巫呼ちゃんも、
「まぶしいでゲス!」
純粋で幼気なぶんちゃんも、
「あぶね~、寝顔が撮られるところだったぜ~」
影ながら支えてくれているはーちゃんも、
「毎度、いきなりは良くないと思います。むんっ」
独特で意外と感情的なヴリちゃんも、
「ふんっ、ボクはいつでも撮られる準備ができているぞ」
「あ、ごめん奏多ちゃん半目で面白いことになっちゃった☆」
「なんだってー!?」
カッコ良くてカワイイ部隊長の奏多ちゃんも、
「これもこれで、いい思い出ですね」
「小笠原、お前自分は良く撮れてるからって...!」
「天才ですから。ふっふーん」
大好きな緋雨ちゃんも、
「...えへへっ、皆っ」
暖かい皆のことが。
あたしは。
「だ~~~~~~~い好き!!」
そのときカメラを持ってた緋雨ちゃんに撮られたあたしの笑顔は。
夜空の星なんか比べ物にならないくらい、輝いていたようだ。
拝啓。お星さまになった日景綺羅のお父さん、お母さん。
そしてあたしを守ってくれた、もう一人のお母さんと、お子さんへ。
あたしが、貴方たちにお話してもいいのかはわかりませんが。
少なくともあたしは今、たくさんの仲間と、お友達と一緒にいれて、とっても幸せです。
こんな素敵な皆の事を守りたい、そして一緒に戦いたい。
それが、これからのあたしの願いです。
だからあたしはもう、大丈夫。
どうか、天国からあたしのことも見守っていただけると、嬉しいです。
あたしより。敬具。