Day22 7:00
~Side 茅森月歌~
「やあ31Aのみんな! キラちゃんだぜ⭐️」
「おっすキラりん」
「やあ」
「おはよう、キラちゃん」
「おはようございます」
「おはようさん」
「キラさん! おはようございます!」
今日も朝ご飯がおいしい!
そして元気なキラりん! この声を聞くと元気が貰えるなー。
そうだ、キラりんといえば!
「適正試験、合格したんだってな! おめでとう!」
「おっ、ありがとうだぜ⭐️ ようやくだよぉ~」
そう。この前かれりんからキラりんの試験合格を聞いたんだった。
「ごめんね。みんなに教えちゃった」
「全然隠してないから⭐️
見てこれ! 手帳の戦闘履歴!」
「どれどれ...えぇ!? キラりんこれ毎日3回行動くらいしてない!?」
「ラスボス級の複数行動だ!?」
「イエス! なんか楽しくなっちゃってさ⭐️」
快活に笑うキラりんに疲れは見えない。
あたしも大概かもだけど、キラりんはあたし以上に体力あるかも。
「えっ? まだ合格してなかったの?」
「新宿のときに聞いてたろ諜報員。あとナチュラルに煽るな」
「はっ。ようやくスタートラインか。遅いでー?」
「厳しいなサイキッカー...」
「キラさん! であれば今度会うときは戦場でですね! 首を洗って待っています!」
「それは日景とバトルする奴のセリフだぞ元艦長。お前が首を洗っていてどうする?」
うんうん。めでたいね。
おめでとうキラりん。
「アハハッ♪ いつも通り面白いね~⭐️」
「でも、本当に戦場で会えたら、頼りにさせてもらうよ」
「んっ、任せとけ⭐️ その時は助けてやるからさ⭐️」
うん。本当に頼りにしてる。それこそ新宿の時は助けられたわけだし。
キラりんに負けないように、あたしも頑張ろう。
ピンポンパンポン♪
【31K日景綺羅隊員は、朝食後に司令部まで出頭してください。繰り返します。31K日景綺羅隊員は、朝食後に司令部まで出頭してください】
「ん、ななみんだ。いい予感!」
「いい予感⭐️」
「呼ばれちまったんだからそうでもないだろ...」
「アハハ⭐️でも任務だったら嬉しいな⭐️
行ってくるぜ⭐️」
早速のお呼びだしだ。任務で嬉しいなんて凄いね。
やる気に満ち溢れたキラりんが、司令部に向けて歩いていった。
× × × ×
~Side 手塚咲~
「失礼します~! 31K⭐️一条煌めく―――」
「朝早くに悪いわね」
「悪いと思うなら全部言わせて⭐️」
日景さんは、以前よりも明るくなった。
以前も明るく振る舞っていたけれど、丸山さんたちとの任務後に適正試験を合格したあの日からは、心から明るい気分でいるようだった。最近は話す人も増え、
31Kの日景さんとして働いてもらう上で、孤独で難のある日景さんのメンタルケアは非常に難題であったのだけれど、快方に向かっていて本当によかった。
本当に、
「日景さん、あなたはオペレーション・プレアデスをご存知かしら」
「オペラ・プレイステーションです? 華村さんが好きそうだね?」
「知らないならいいわ」
...まあ、増えた人間関係の中にどこぞの
「31Aと31B、それと30G主軸の多部隊での合同任務なのだけれど」
「あ~! それなら茅森から少しは聞いてるよ⭐️ 輸送だとか橋頭堡設立だとか!」
「聞いてるんかい」
名前を知らなかっただけなのね...
「あなたにもその作戦に参加して、30Gの補助をしてもらいます」
「うぇ!? いいの! やったー!」
「試験の合格、またその後の訓練の様子を七瀬から聞いて、問題なしと判断したわ。
30Gには輸送部隊の補助及び護衛から、本題の橋頭堡設立のサポートまでお願いしているのだけれど、30Gに同行して、記録や外敵への警戒、設立後の写真撮影などをあなたに頼みたいの。特に写真は今後の参考にもなる大事な資料よ。
丸山さんたちとの任務でのあなたの働きを評価しての抜擢よ」
「お~! そいつは嬉しいね⭐️」
他部隊との急な行動には、報連相は勿論、役割の把握と徹底、そして軋轢を起こさないコミュニケーション能力などが必要になる。スポーツで他チームと合同練習を行うときなどと同じだ。
日景さんは丸山さんたちとの任務で、その能力があることを証明してくれたわ。
「詳細は30G部隊長の白河さんから聞いてもらえるかしら。彼女ら30Gには点呼の際に連絡済みだから。
行動指示についても同様ね。当日を含め、30Gの指示には必ず従うように。私が指示するよりも適切に動かしてくれるだろうから」
橋頭堡設立は専門性があるから経験が必要な分、31Aと31Bが先行する以上戦闘面での危険性はそこまででもない。
何より白河さんたち30Gなら、日景さんのことをあらゆる面で安心して任せられる。
「お願いできるかしら、日景さん」
「がってんでい⭐️ 31K日景綺羅! 任務を遂行いたします!
折角キャンサーとガチれるようになったんだから、今までの分を取り返したいし、それに30Gとの出撃は初めてじゃないからね⭐️」
「だからあれは事故みたいなものだと...」
...まあ、組むのが初めてではないことを勘定に入れたことは否定しないわ。
「...まあいいわ。頑張ってね」
「あいあいさ~⭐️」
日景さんが元気よく出ていった。本当に、心の底から嬉しいのでしょうね。役立たずだった自分が再び戦えるようになった喜びは私もわかるわ。
...ふぅ。
「司令官、よろしかったのですか。
「いいのよ。私もその方がいいと判断したのは事実だし。それにこんなこと説明できないわよ」
先ほどの話、一つだけ言っていないことがあった。
それは、日景さんを30Gと組ませた理由。
『失礼します。30Gの白河ユイナです。
司令官。一つお願いがございます』
『白河さん。何かしら』
今朝の出来事であった。
『その...現31Kの日景を、30Gのプロフェッサーとして今回の作戦に協力いただいてもよろしいでしょうか』
『日景さんを? ええ、可能だけれど...』
朝方、白河さんが自ら司令部を訪ねて、そう提案してきたのだ。
『白河さん。それは、またあなたの天啓というやつかしら?』
白河さんの天啓。
かつての私の、天使の采配と呼ばれた物とは違う、本物の神の真言。
それを白河さんは聞くことがあるという。であれば尊重しないわけにはいかない。
『いえ...その...』
『違うの?』
しかし、どうにも白河さんは煮え切らないといった様子である。
『...いつもの天啓は、神々しい光が射すようなものなのです。
しかし今回のは、暗い夜の中に一筋だけ何かが光っただけのような、儚く弱々しいものだったのです。
私にも初めてのことなので、信じるに値するかは、正直自信がありません...』
『...そう』
なるほど。彼女には彼女なりの心配があるようだ。しかし与えられた以上は捨てきれず、こうして相談しに来てくれたのだろう。
しかし、夜に一筋だけ光るもの、ね。
"一条煌めく流れ星⭐️ 日景綺羅ちゃんです!"
...まさかね。
『どうでしょう。それでもよろしいでしょうか』
少し悩み、結論付ける。
『いいわ。30Gと日景さんとのプロフェッサーによる合同任務を許可します。どのみち、橋頭堡設立には人手が多いほうがいいし、貴女たちは彼女との行動も初めてではないでしょう。プラスに働くはずよ』
『ありがとうございます』
『ただ、あなたから日景さんへの希望とすると、事情の説明が面倒になるでしょうから、日景さんには私から、私の指示で合同任務に就くように説明するから。
30Gの皆にもそう伝えてくれるかしら』
『承知いたしました。ご配慮いただきありがとうございます』
『大丈夫よ。日景さんをお願いね』
こうして、日景さんの作戦参加を許可したのだ。
「まあ、日景さんのこと自体はそこまで心配していないわ。勝手な行動をさせないようにすれば、戦闘能力以外は優秀だもの。
それより問題は、白河さんに天啓のようなものが必要になる事態が、オペレーション・プレアデス当日に起こるかもしれないということよ」
「そうですね...」
白河さんの天啓は、危機に瀕した際に訪れることが多いと聞く。
例えば敵に囲まれたときや、逃げ道を失った時など。
「31Aと31Bの合同訓練は本番より厳しい状況を想定させてなお上首尾で、全工程の通しを残すのみ。橋頭保設立組の訓練にも問題は無し。各ドームの周辺掃討は31Xの活躍によりほぼ完了...これ以上どうしろっていうのよ...」
「...無事を祈りましょう」
願わくば、今回の作戦も無事に終わって欲しい。全員無事に帰ってきて欲しい。
そのために、今日も最善を尽くそう。
× × × ×
~Side 白河ユイナ~
「撃ちます! 桐生さん!」
「射! 命中しました、白河さん!」
「止めだ!」
パリィーン...
「次! 4時方向2体! それと8時方向の遠距離型が近いよ!」
「月城! 蔵! 8時方向を頼む! 4時方向は菅原が先行して遅滞戦闘を! 後から行く!」
「承知!」
「わかったよ!」
「了解ですわ!」
「ユイナさん! 千恵ちゃんについて行っていい?」
「いいだろう。やってみてくれ!」
「はいよっ⭐️」
「うおおおおお! おロリ様キターーーー!!」
訓練は非常に順調だった。
オペレーション・プレアデス。30Gの任務は松本拠点への橋頭堡設立任務。その陣頭指揮と護衛。
今日は通しでの訓練。今はその終わり頃だ。
『白河、こちらは終わったぞ』
「流石だ。こちらも菅原に合流して...」
「もう終わりましたわ」
「終わった!? 日景さんと二人でキャンサーを!?」
「行けそうだったからやっちゃったぜ⭐️」
「ですわ⭐️」
「...菅原のほうも終わったなら、これで一段階目終了だな」
「タイムは...大幅更新です!」
「やったね!」
そして今日から日景が合流した。
最初こそ連携に苦労したが、日景がキャンサーへのヘイト管理と反撃潰しに集中出来るようになってからは劇的に改善し、このようにタイムも更新を続けている。
「さすが日景だ。教えることはないな」
「聞けば小笠原ちゃんたちとの話で吹っ切れたらしいじゃないかい。でも何があったかは秘密なんだろう?
どうだい、あたい達にくらい話してはくれないのかい?」
「秘密だよね~! 緋雨ちゃん⭐️」
「秘密です。友達ですから」
「残念だねぇ~」
昔と違って日景は明るくなった。コミュニケーションにも、少なくとも表面上問題は無いように見える。日景の内心ではまだ恐怖があるのかもしれないが、30Gは全員、日景の事情を理解している上で問題なく接することが出来る。
私自身がコミュニケーション能力に自信がないのも込みで、本当に有難い仲間を得たものだ。
「皆、お疲れ様。一度昼休憩にしよう」
「はいっ!」
「白河ちゃん。折角日景ちゃんが来てくれたんだ。今日はあたいにご馳走させてくれないかい?」
「ありがたい。是非頼もう。だが今からで時間は大丈夫か?」
「ふっふっふ。実はもうホールには連絡済みで、材料と下拵えは済ましてくれてるはずだからねぇ。そんなには待たせないよ」
「ふむ。では我も豚汁を作れるのか?」
「抜かりはないよ月城ちゃん。よろしくね」
蔵は流石だな。
蔵と月城の手料理ほど、新人の歓迎に相応しいものはない。日景も確実に満足してくれることだろう。
「やったー⭐️」
「わーい! わーい!」
「緋雨ちゃんはしゃぎ過ぎ⭐️」
「え!? 綺羅さんも嬉しそうだったじゃないですか!?」
「小笠原さんは二回言ってますからね。反復法を用いている分、上です」
「ふふふ、小笠原ちゃんはお肉多めにしてあげるからね。良く食べて育つんだよ?」
「子供扱いしないでくださいーー!!...でもお肉は多めでお願いします」
「あたしも⭐️」
「了解だよっ!」
こうした互いの心遣いもあって、日景は既に30Gに馴染みきっている。喜ばしいことだ。頬が緩むのを感じる。
「...日景さんがここまで明るくなって、良かったですわね、白河さん」
隣の者を見れば、同じように頬を緩ませ、慈しみの目で彼女を見ていた。
「何を言う。一番の功労者であり、一番嬉しいのはお前だろう、
今でこそ眩しく輝くような彼女は、しかしかつては深き暗黒の底にいた。
そこから救い出し、支え守り続け、今の日の下まで導いたのは、間違いなく菅原だと私は断言できる。
「...そうであったなら、何よりですわ」
思い出すのは第31期生の入隊前。
ちょうど、入隊式の1月前ほどであっただろうか―――
× × × ×
入隊式 1月前 7:00
~Side 白河ユイナ~
「...ふぅ」
「白河さん、どうかいたしましたか?」
カフェテリア、その一角。
私と30Gは、集まって朝食を摂っていた。
「どこか落ち着かない。って感じの顔をしてるね?」
「白河よ。お前がそのような様子でいるのは珍しいな」
「小笠原さん、今度は何をやらかしたんですの? 白状なさい?」
「私は何もしてません~~!!!」
以前までは各々の都合を尊重し、個々で食べることも少なくなかったが、最近は全員で食べるようにしている。
30Aに対しての過ちを繰り返さないためにも...
「すまない。部隊長が落ち着かなくては、部隊の士気に関わるな」
「いえ、私は単に白河さんが心配で...」
「いや、理由としては下らないことだ。気にしないでくれ」
いけないいけない、顔に出るようではよくないな。
部隊長として、より一層しっかりしなくては...
「白河ちゃん? それはよくないよ。折角こうしてみんな集めて朝食をとるようにしたんだ。話せることは話しておきなよ?」
「蔵...」
「なっ...蔵さん? 白河さんは我々を思って、不安にさせまいとしてるんですよ? それなのに...」
「いや、桐生よ。蔵の言う通りだ」
...そうだな。
あれ以来、これからはコミュニケーションを大事にしていこうと決めたのだ。頼られるだけではなく、信じて頼ることも覚えなくては。
「で? どうしたのです? 小笠原さんでしたらいつでもとっちめて差し上げますわ」
「だから私じゃありません~~!!!」
「次に脱走したとき用のコスプレ衣装が10着ほどたまっておりますの。早く白状してくれませんこと?」
「なんで~~!?!?」
「はははっ。いや、本当に何でもないことなのだ。
近々、第31期セラフ部隊が配属になるだろう?」
「ええ。基地内は専らその噂で持ちきりですから」
恐らく、30Aにあのようなことがあって、人手不足となったのであろう。上層部からその話が通達された。
先輩がいたことはあったが、後輩ができるのは初めてのことだ。
「後輩ができる。彼女らは我らの背中を見て育つだろう。
そんな彼女らから見て、私は立派な先輩になれるのかと、不安になってしまってな...」
6人の先頭に立つ部隊長としては、人並み以上の戦果を挙げられているという自覚がある。
しかし、先輩という立場となって後輩を導くのは勝手が違う。教育、世間話、コミュニケーション...下手をすれば戦場に立つよりも難しいのではないだろうか。
「大丈夫です! 白河さんよりも優れた先輩など、この基地に、いえ全世界におりません!」
「桐生よ...そう言うお前は、人を励ますときも仮面を被ったままなのか」
「失礼しました...」
【30G総員、司令官室に出頭してください。繰り返します。30G総員、司令官室に出頭してください】
「ん、お呼びだしだね」
ちょうど朝飯と食べ終えたところだ。
行くとしよう。
「小笠原さん、とうとう司令官からのお呼び出しですわ。いい加減白状したほうが身のためですわよ?」
「だから何もしてません~~!!!」
「小笠原の無実を証明するためにも、行くぞ」
「白河さんまで乗らないでください~~!!」
× × × ×
~Side 白河ユイナ~
「30G総員、出頭いたしました」
「急に呼びつけて悪いわね」
全員で司令官室に行った。
待っていたのは手塚司令官と、七瀬士官と、そして...
「お願いしたいのが、この子のことなの」
「............」
頭に大きな星のアクセサリーを着けた子がいた。
どこか元気が無さそうではあるが。
「...初めて見る顔ですが、どちら様でしょうか」
「この子は、
今日からこの子に、31Kセラフ部隊員になってもらおうと思っているの」
「31K...第31期の」
「噂の後輩の一人か」
どうやら、この子も後輩の一人らしい。
黄色の髪、服装は全体的に動きやすそうで、背格好は小笠原と同じくらいだ。
ふむ、後輩にしては足腰がしっかりして見えるが、陸上でもやっていたのだろうか。
「...一人かい? セラフ部隊はだいたい六人で一部隊だろう。他の五人は?」
「いえ、彼女の31Kは一人部隊として、他の部隊の補助をしてもらおうと思っているの」
「一人部隊...?」
それはまた、特殊な立ち位置だな。
「彼女には他の第31期セラフ部隊よりも先行して配属しようと思ってね、あなたたちにはそのサポートをお願いしたいの」
「なるほど」
「ふむふむ...」
であれば、どうするか。
考えている内に、背格好が同じような奴が日景さんに歩み寄った。小笠原だ。何をするのだろうか?
「31Kの日景綺羅さんですか」
「.........」
「ふんっ。今日からは私たちが先輩として、いろいろと教えてあげます。感謝して精々頑張ることですねっ」
めっちゃ先輩風を吹かした!?
そんなキャラで行くのか!?
お前がか!?
「......」
「まあ、よろしく―――」
小笠原が握手をと手を差し出し―――
「触るなッッ!!!」
―――瞬時に後退された。
「...ほえ?」
「っ...!」
ダッダッダッダッ!
バタンッ!
そしてすごい勢いで、指令室から出て行ってしまった。
「...出て行ってしまいましたね」
「...小笠原」
「...小笠原よ」
「...小笠原ちゃん、白状しな。何をやった?」
「ええええええ!? ごめんなさい何かやっちゃったかもしれませんんんん!?」
「小笠原...今回ばかりは庇えんぞ...」
「ぶええええええ!? ごめんなさいいいいい!!」
いや、先輩風の吹かせ過ぎなのはあったが、あそこまで拒絶されるものでは無かったと思うが...
...そういえば、私の部隊にはこれくらいの背格好の子に過剰な反応をする奴がいたはずだが、意外と静かだな。
「菅原、どうし―――」
―――ポタンッ
「っ...!?」
大粒の涙を蓄え、歯を食い縛り、拳を握りしめていた。
「おいッ! お前らッ!!」
ガシッ!!
「っ...!」
「菅原!?」
「菅原さん!?」
そのまま、手塚司令官に掴みかかった。
「誰だ!? 誰があの子をいじめた!? 誰があの子にあんな顔をさせたんだ!? ふざけんじゃないわよ!! 言え!! 言わなきゃコロす!!」
「菅原っ! 落ち着け!!」
「いいわ白河さん...! 話すから...!」
暴れる菅原を抑えながら、手塚司令官が語る。
「あなたたちの配属前、第29期セラフ部隊がほぼ全滅した事件を覚えているかしら」
「勿論。我々自身への戒めとしても」
「彼女は、日景綺羅さんは
「っ!?」
忘れもしない教えだった。
昨日まで生きていて、朝も元気に出撃したセラフ部隊が、一夜にして灰と化し、29A部隊長の蒼井さんなどのごく少人数しか、基地に帰って来れなかったと。
日本の安全圏がここまで縮小した原因の一端であり、我々第30期が配属された理由の一つであるとも聞かされた。
あまりにも、あまりにも凄惨な事件。
その生き残りの一人が、彼女。
「元々、心に傷のある子ではあったの。
そこに更にその事件が重なったの。
事件の時、彼女は頭にケガをして、けれども運よく一命はとりとめた。
けれども目が覚めた彼女に知らされたのは、昨日まで生きていた仲間ほぼ全員の死だった。
彼女はショックで心を閉ざし、ひとと接することが完全にできなくなった。最近になるまで隔離して生活を送ってもらっていたの。
ようやく改善が見られて、自立行動が認められたから、配属を考えたのだけれど...あの様子ではまだ難しかったかしら...」
「...菅原、納得するんだ」
「...っ!...わかりました。掴みかかってしまって申し訳ございませんでした...ぐすっ...」
「菅原ちゃん、このハンカチを使いな。かわいい服が汚れちまうよ」
「...蔵さん、ありがとうございます...」
それを聞き、菅原は何とか衝動を抑えてくれた。
だが依然として涙は流したままだ。
「大丈夫よ。他ならぬあなたの前で話す以上、ある程度は覚悟していたから。
むしろあの子が出ていくまでは堪えてくれていたのでしょう。怖がらせないように」
「...当然のことですわ。ロリータのためですもの...ましてやあんな状態の子...っ」
「...菅原」
菅原はあの子の表情や仕草から気づいたのだ。彼女の心に大きな大きな傷があると。
「...司令官、白河さん。お願いがあります。
彼女のことは、私と小笠原さんに任せていただけませんか?」
「......へ? 私も?」
「むしろ、彼女を何とかしてくれるなら、私としても願ったり叶ったりなのだけれど。アテはあるのかしら」
「私も構わない」
菅原の目は、誰よりも決意と責任感に満ちていた。
...成る程、これこそまさしく、先輩の顔というやつなのだろうな。
「何とかしてみせますわ。私と小笠原さんで」
「ええ。お願いするわ」
「頼んだぞ。菅原、小笠原。何か出来ることがあればいつでも言ってくれ」
「ありがとうございますわ。
ほら、早速行きますわよ、小笠原さん」
「えええええ!? 私もおおお!? なんでえええ!?」
決意に満ち溢れた勇ましい菅原と、引っ張られて引きづられて情けない声を上げる小笠原。
すまない。よろしく頼む、二人とも。
× × × ×
「そんなお話してたんだ⭐️ あの時はごめんて⭐️」
「おロリ様は何も悪くありませんわ。
しかし我が事ながら、手塚司令官に掴みかかったのはどうかしていましたわね」
「あの時は小笠原ちゃんが「あわわわわ...!」ってなってたねぇ」
「先輩としての威厳...フッ」
「あーーーー!! 何でそんなこと覚えてるんですかーーー!? 忘れてくださいーーー!!」
今となっては笑える話になった。なって良かった。
「いいじゃないか。あのあとは大活躍だったんだろう?」
「お前にしか出来ないことであったぞ。流石だ」
「...いや、私としては微妙なんですけど」
× × × ×
~Side 菅原千恵~
「菅原さん! そろそろ説明を! 説明をしてください!」
「ん? 何のことですの?」
「私をこうして連れてきた理由ですよ! 何で私なんですか!?」
「あ゛あ゛!? イヤだって言いたいってことか!?」
「怖ぁ!? そういうワケじゃありませんけどー!」
拒否権なんざあると思ったかぁ!?
てめぇのせいでロリータが怖がって逃げちゃったんだからせめて尽力しろってんだゴラァ!!
..あら、私としたことが。オホホ~。
「大人しく協力なさい。あの子に私が先輩だと言ってたでしょう? 最後まで責任を持ってくださいまし!」
「責任あまりにも重くないですか!?」
いいから黙って着いて来いっつってんだろ!!
反省してんのか!? あぁん!?
..あら、私としたことが。ウフフ~。
「それに、理由ならありますわよ。これはあなたにしか出来ないことですの」
「そうなんですか!? それを早く言ってくださいよ!!」
それに、理由ならしっかりとございますわ。
あの目。見るもの全てが敵に見えるような、どうしようもなく冷たい目の女の子。
そんなロリータにやるべきことなんて一つですわ。
「それでそれで、何用でしょうか? 何でも言ってください。私、天才ですので!」
「まあ! 有難いですわね! それでは早速ですが...!」
小笠原さんもやる気になってくれたことですし。
いっちょ頑張ってもらいましょう。
× × × ×
「...! ふぅ...! ふぅ...!」
「えーーーーん! どうしてこんな目にーーーー!!」
"ひたすら、ただひたすらにあの子を追いかけてくださいまし"
"あ、昔のあなたみたいに基地から脱走されては困りますので、その辺は上手に頼みますわよ?"
指示した通り、小笠原さんは上手に追い立ててくれてますわね~。
頑張るのですわ~。
「確かに私は生身最強で体力も走力もありますけどーーーー!! 辛そうな女の子を追いかけ回すなんてやりたくないんですけどーーーー!!」
「...くっ...! はぁ...! はぁ...!」
「あーーー!! 辛そうな声が聞こえるーーー!! ごめんなさいーーー!! 私もイヤなので早く捕まってくださいーーー!! でもそれがイヤだから逃げてるんですよねーーわかりますーーーー!!」
走り回って、かれこれ三十分は経つ頃でしょうか。
ようやく日景さんにも疲れが見えてきましたわね。
一目見た時から足腰がしっかりしているように見えましたけど、随分と体力があるようですわ。まさか小笠原さんに匹敵できようとは。
流石、元29期の先輩というところですわ。
「えーーーん!! 早く終わってーーー!!」
「...! それは...! ぐっ...!」
「それはこっちのセリフって言いたいですねーーー!! わかりますーーー!!」
さて。
日景さんの走るコースも読めて、疲れが出始めた様子。
...来ましたわね! チャンス!
「とうっ!」
ガシッ!!
「あ゛っ゛!?」
「捕まえましたわ!!」
「はぁ...はぁ...ようやくですか菅原さんっ」
確保っ!
そして全力でホールド!
毎日ロリータを捕まえるためにしてきたイメトレを今こそ生かすときですわ!
「があああああああああああ!!!!」
「あーーー!? 耳がーーー!!」
「っ...!!」
読み通り。
なのに一瞬意識が飛びそうになるほどの、絶叫。そして抵抗。
歯を食いしばって、耐えますわ!
「...負けてたまるものですか。絶対に離しませんわっ!」
「あああああああああ!?!?」
逃がさないように強く。
それでいて痛みを与えないよう、丁寧に。
この子を、抱きしめる。
「あなたの苦しみと比べたら、このくらい...!」
「はなせっ!! はなせっ!! はなせぇ!!!」
ビシッ!
バシッ!
「菅原さん!」
「来ないで...くださいまし! 大丈夫ですわ!」
「っ!?」
抵抗される。
もがき苦しむ日景さんに見境はない。
何とか目や喉などの急所は守り、耐え続ける。
「がああああああ!? あぐっ!!」
「っ!?...はあ...! 大丈夫ですの、日景さん!」
遂には噛みつかれる。腕の骨まではいってませんわね...ならいいですわ。
血は出てますし、とても痛みますけどね!
「...よーしよしよし。いい子ですから。カワイイ子ですから」
「ああああああああ!? あああああああ!!」
「大丈夫ですわ...! あなたはもう、大丈夫ですの...!」
「ぐあああああああ!!」
この子の苦しみは、痛みは! こんなものじゃありませんのよ!
そんなロリータを一人、冷たく寂しいところに閉ざされたまま見過ごすだなんて...
この菅原千恵が許しませんわッ!!
「よーしよしよし...お疲れ様ですわ。ゆっくりお休みくださいまし...」
「...くぅ...」
...ようやく、お眠りになっていただけましたわね。
「あわわわわ...菅原さんが傷だらけに...服もボロボロで...」
「しーーっ...これで大丈夫ですから」
「は、はいぃ...でもまた目が覚めたら暴れるんじゃ...?」
「いいえ」
「えっ...?」
それはありませんわ。
「この子はもう、
愛を与える。
寂しくて泣いている子に出来ることなんて、それしかありませんのよ。
さて、菅原千恵。わかっていますわね?
子に愛を与えた責任。
きちんと取ってあげなければなりませんわねっ。
× × × ×
~Side 白河ユイナ~
「いやー助かりましたわ。おロリ様ほどすばしっこい方を捕まえることなんて、小笠原さんくらいしか出来ませんから」
「......」
「獣のような身のこなし。無尽蔵の体力。接近に気づく気配察知。どれをとっても、私には出来ないことばかりですからね。おほほほほ!」
「......」
ちなみに、この日景の件が終わった三日後に、菅原が突然獣の如く吠えて駆けての奇行をし始め、"菅原さん"の日記を見つけて、原因であった狼のようなキャンサーを退治したあの件が起きたのだった。
そのときに基地から出た菅原と共に日景も一緒に基地から出たのが、31K日景綺羅の初出撃であった。勿論無断であったため、司令官にはこっぴどく怒られた。
菅原お前、どの口が言っているのかと。まあ本人に記憶はないわけだが。
「で、あたしと千恵ちゃんと緋雨ちゃんが仲良くなったってワケだね⭐️」
「起きたらいきなり菅原さんに抱きつくものだから、菅原さんヘブン昇天してしまったんですよ?」
「あの時は現世に呼び戻すのに時間かかったね...」
「しかもその後に私に向けて、
「この子を私の子にしますわ!」
とか言うものだから頭を抱えたぞ...」
「何とか今のおロリ様扱いで我慢してもらうよう頑張りましたからね...日本語がめちゃくちゃで気になりますけど...」
「実子が無理なら、ロリータは神様ということで仰ぎ崇め奉ることにいたしましたの。当然ですわ!」
何が当然なのだ。何が。
だが実際、菅原に任せた日の翌日には菅原と日景がとても仲良くなっていたし、その日の内に小笠原にも心を開き、3日後には入隊式の日の日景にほぼ近い状態まで回復した。
その後も菅原は日景を気にかけ続け、隙あらばひとの温もりを与え続けた。
「まあ、お前のおかげでこうして日景が心を開き、第31期が来る頃にはこうして明るさを取り戻せたんだ。そこは感謝している」
「いえいえ、お安い御用ですわ。ふふっ」
「小笠原ちゃん、先輩の威厳っていうのはこういうものだよ? わかったかい?」
「わかりましたよーーー!! 菅原さんは本当に凄かったですーーー!! この目で見てましたからーーー!!」
「アハハッ⭐️ 頼むよ~緋雨ちゃ~ん⭐️」
「あーーー!! だから小笠原先輩ですーーー!! いくら元先輩でも緋雨ちゃんは禁止ーーー!!」
うむ。こうして笑いあい、ついには任務としても協力できる日が来て良かった。
「ほーらできたよ! あたいたち特製の鶏肉ランチ定食さ!」
「豚汁はまだ熱いはずだ。気をつけて飲んでくれ」
「やった⭐️」
「わーい!」
「よっしゃーー!!」
「日景は当然で、小笠原はもういいとして...桐生よ。ガッツポーズしてよっしゃーは日本語としてどうなのだ...? あとお面は外せ?」
「すみません...」
「ん~♪ いい匂いですわね~♪」
「モリモリ食べておくれよ!」
折角だ。私も遠慮せずいただくとしよう。
「蔵、月城、訓練で疲れているところにも関わらず作ってくれてありがとう。皆、有り難くいただこう」
「ありがとー⭐️」
「では。失礼して。
日景が我々30Gに協力してくれることへの感謝と、作戦の成功を願って。いただきます」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
オペレーション・プレアデス。
天啓が必要な何かが起こるらしい。
だが、絶対に全員生きて帰らせて見せよう。
その日は、近い。
「そういえば、あたい達でも倒しきれなかったあのドリルのキャンサーがいただろう」
「ああ、狡猾なヤツだ」
「あいつ、31Aと蒼井さんが協力して仕留めたらしいよ」
「本当ですの?」
「31A、本当に凄いですね...」
「後輩の成長が恐ろしいよ。あたい達もうかうかしてられないってねぇ~」
「...おロリ様、やけに嬉しそうですわね?」
「ん? ふふ~ん、わかる?」
「綺羅さんは31Aとも仲良くなってましたっけ?」
「あ~いや、茅森とはそんなにだね~。タマちゃんだけ話せる!」
「でしたら、なぜ...?」
「...例え最近お話しできていなくても、大好きなひとが活躍してるって知れたら、やっぱ嬉しいものなんだよね~⭐️」