~Side 茅森月歌~
「キラりん! ひさめっち! 菅やん!」
「菅やんはやめてくださいまし!」
嵐のようなひと時だった。
尖塔が立った今でも、手が震えている。
三人が来てくれなかったら、危なかったと思う。
「蒼井は、みんなは大丈夫か!?」
「はっ...心配ねぇよ。見な」
見れば、いちごの腕の中で目を瞑っている蒼井と、その蒼井に抱きついているキラりんの姿。
二人から安らかな寝息が聞こえてくる。よかった...!
「そうだ、菅やんとひさめっちがいるってことは!」
「だから菅やんはやめろっつってんだろ!!」
「菅原さん、抑えましょう? ね?」
「30Gは!? ユイナ先輩たちは大丈夫なのか!?」
こっちのデカイのは倒したが、そうなると橋頭堡のユイナ先輩たちが心配だ。
「...こちら30G菅原千恵。白河さん、ご無事ですか?」
頼む、無事であってくれ...!
『こちら30G白河ユイナ。問題なく全員無事だ』
「全員無事了解! 何よりですわ...」
「はぁ~、よかった~...」
肩から力が抜け、膝が崩れ落ちた。
手放したセラフが、仕事を終えたように消えていく。
『こちらからも尖塔が見える。やったのだな』
「こちらも全員無事ですわ」
『全員無事...そうか、良かった...』
「そちらこそ。わたしたちが居なくても問題なく防衛とは、流石白河さんですわね」
『フフフ...いや、私の力ではなくてな。
月歌に代わってくれるか?』
あたし?
「こちら31A茅森。お疲れ様でありますユイナ先輩!」
『ああ。30G白河ユイナだ。無事で何よりだ。
こちらは心配するな。何せ我々を助けてくれている部隊がいるからな』
「ユイナ先輩たちを?」
ずるい!
あたしもユイナ先輩を助けたい!
『情けない話だが、そこの三人を送った後も戦闘続きで、橋頭保への戻りが遅れてな。
大事ないかと戻ってみれば、とある部隊が援軍に来て、大活躍していると聞いた。
そこの部隊長が、お前に向けてこう言ってたぞ。
いい加減、Aのあんた達だけにいい格好させてるわけにはいかないの!
とな。ふふっ、仲がいいんだな』
「その口調、もしかして...!」
『南東方面を全滅させて、ヘリで応援に来てくれたんだ―――
× × × ×
「佐月、神崎。あんたたちは無事?」
「異常なしです♪ アーデルちゃん、大活躍だったぞ♪」
「ふへへ~♪ 拙者目立ってたでごじゃるか~♪」
「でも少しは忍べ♪」
「桜庭、天音、あんたらは?」
「損害率は48%。私の占いの的中率以下ですか...余裕ですね」
「結構危ないじゃないか...全く、わし達は何故あのデカブツと縁があるんだ」
「本当にね...ま、あの何とかスラッグとかいうのは、もう私たち31Cの敵じゃないわね!」
「討伐完了! 山脇様、バンザイ! でゲス!」
橋頭堡設立。進捗90%。
施設被害率、0%。
劣勢に非ず、極めて優勢也。
× × × ×
「ワッキー達...! 来てくれたのか...!」
「やるじゃねぇか...」
「助かった...!」
「よかったわね...」
「ええとこ取りか...ハッ、今回はくれてやるわ...!」
「無事...! 全員無事...! よ゛か゛っ゛た゛て゛す゛!」
本当、死ぬかと思った。
あたしも、あたし以外の誰かも、もしかしたら全員、死んでもおかしくなかった。
特に蒼井が。最後まで体を張ってくれた蒼井が死んでしまっていたらと思うと...無理だ。
蒼井の言う通り、強くならなくちゃいけない。改めてそう思った。
パタパタパタパタ...!
「あ...ヘリの音...!」
「ふんっ。お前らがノロノロしてる内に、帰投用のヘリは手配してやった。感謝しろよ」
「お前が早く帰りたいだけにゃ...」
「ヴァゥ...」
「えーっと。ま、まあいいじゃないですか。樋口さん、ありがとうございます」
間も無くヘリが降りてきて。
31Aも31Bも、全員で乗り込んで。
ユイナ先輩から、橋頭堡設立完了と全員無事の連絡を受けて。
「作戦完了だな、月歌」
「...ああ、結婚しよう、ユッキー」
「...そうだな」
安心したあたしは、そこで夢の世界に旅立った。
× × × ×
目を開く。
蒼井があたしらを守ってくれていた。
精一杯、全力で。
最後まで、何もできないあたしらを守って。
セラフが砕けて崩れ落ちて倒れて鼻血が吹き出して濁りきった目と目が合って―――
× × × ×
12:00
「蒼井ッ!?!?」
「はっ、はいぃ!!」
飛び起きた。
夢か...
帰ってきて、風呂上がりに即寝落ちして...もう昼か。
そこから、疲労から寝たままらしい蒼井の看病に来て、手を握ってたらあたしも眠くなってきて...
そうか、起きたのか、蒼井。
「蒼井?」
「はい。蒼井えりかですっ」
「蒼井...」
「はい、茅森さん」
「蒼井ぃ...!」
抱きついた。
ちゃんと暖かい。
「わっ」
「生きてて良かった...生きてて良かった...!」
不安から、あんな夢を見たのかもしれない。
「...大丈夫ですよ茅森さん。蒼井はもうどこにも行ったりしませんから」
「...本当?」
「本当ですっ」
「...蒼井ぃ...! うわぁぁん...!」
泣いた。
しばらく、蒼井の胸で泣きまくった。
「セラフが破損した?」
「はい。一時的なものではあるらしいですけど、樋口さん曰く、当分の間は前線には出られないとのことで...」
「そっか...」
無理もないだろう。
あんなデカくて怖いヤツのとんでもない攻撃を何度も受け続けて、蒼井のセラフでも無傷とはいかなかったようだ。
「31Bの皆さまには、ご迷惑をおかけすることになりますが...」
「まあ、生きて帰れて良かったじゃん。
いい機会なんだから、久々のおサボりってことで、蒼井もゆっくり休みなよ。あたしらが無事でいられるのは蒼井のおかげなんだから」
「...ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちだよ。
それに最近、31Xがやたらとキャンサーを掃討してくれてるらしくてさ。余裕があるらしいよ。そのおかげで昨日も31Cが応援に来れたみたいでさ」
「それはそれは、彼女たちにも感謝ですね」
今回の作戦、蒼井を筆頭として、全員が期待以上に頑張った。
そして、最高の結果を得られたんだ。
「私以外の皆さんは無事ですか?」
「ん、昨日のメンバーは全員無事。最後に起きたのが蒼井で、今日の朝起きたのが―――「えりかちゃん起きた!?!?」―――おっ」
「キラちゃん!?」
いきなり扉が開けられて、ちっこいのがデッカイ声で入ってきた。
「えりかちゃあああああん!!!」
ボフッ
「わっ、飛び込んできたら危ないよ、キラちゃんっ」
「だって、だってぇ...!」
「よしよし。あたしはここだよ、キラちゃん」
「うっ...うっ...! うわぁぁぁぁぁん!!!」
わっ、キラりんは顔が小さいから、蒼井の腕の中にすっぽり埋まってる。
...うーん、あたしお邪魔だな。
「...じゃ、あたしは帰るよ。無事で良かった」
「あっ、はい。すみません、茅森さんもお疲れ様です。ありがとうございました」
よし!
蒼井も起きたし、腹も減ったから何か食べよっと!
うん。いつも通りだ! 最高!
× × × ×
~Side 蒼井えりか~
「うえぇぇん...! うわぁぁん...!」
「よしよし。よしよし」
戦いが終わって、帰ってきました。
正直、死を覚悟していたので、また帰ってこれたことを奇跡のように感じています。
きっと、あそこであたしが帰らぬ存在になっていた世界もあるのでしょう。
「キラちゃん。来てくれてありがとう」
「...ぐすっ...えへへっ...」
でも、私は生きています。
逃げ場所を探していたあの時のように、流れ星のこの子が、蒼井の願いを叶えてくれたから。
「えりかちゃん...私、ずっと話したいことがあったんだ...!」
「うん。あたしもあるよ」
「二人であの地獄を生きて帰って...! それから今日まで、いろいろあったんだ...!」
「うん。あたしにもいろいろあったよ」
「でも話しかけづらくて...今日になっちゃって...ごめんね...! 逃げてばかりの私でごめんね...!」
「お互い様だよ...あたしもまた逃げちゃって、話しかけられなかったから」
「えへへっ...なーんだ、一緒だったんだね...!」
「そうですね...!」
キラちゃんが、ポケットからお菓子を取り出しました。
あの日見たものと同じ。色とりどりにお星さまを象った、金平糖。
「...一緒に、食べよ?」
「...はいっ...!」
流れ星に願いを。
この星に安寧を。
今はただ、甘い喜びを友達と。
そしてどうかこんな日々が、永遠に続きますように。