◆1「空母街ナレク」
ルビコン3の一角には、「航空母艦」がある。
グリッド086……RaDの縄張り……の近くの洋上に停泊しているが、空母としての本来の機能は停止しているらしい。
約半世紀前にな。
だがその代わり、その空母は複数のACを格納できるようになっていた。
通称「空母街」。
文字通りの空母の中に、AC乗りのための住居や出店がいくつも並んでいる施設だ。
基本的にはその空母の所有者ということになっているある爺さんと、ある程度入れ替わりは激しいようだが、何人かの独立傭兵が拠点としていたそうだ。
そんなAC乗りのための店が軒を連ねて、気が付けばそれなりの街になったそうだ。
例えば、歯ブラシや石鹸といった日用品を売ってくれる雑貨屋。
例えば、あれこれ工夫した軽食やコーヒーを出してくれるカフェ。
例えば、コーラルをうまく用いた南国風スパ。
例えば、空母の設備を利用した独自のパーツショップ……特に、エルカノやVCPLとのツテがあるそうだ。
VCPLといえばアーキバスグループ……特に「シュナイダー」……との距離が近いとみなされる企業だが、どうやら独自にルビコニアンとの縁を築いているようだな。
俺もここに世話になった時期もある。
あそこのコーヒーとスパのコーラル湯は、なかなかいいもんだった。
そんな空母街だが、もう一つの通り名があった。
ナレク。
その空母を所有していた、爺さんの名でもある。
◆2「タンク使いのナレク」
ナレク。
彼はルビコンの生まれだ。
所謂灰かぶりの一人で、空母との付き合いも長いそうだ。
詳しい詮索はしていないが、多分ルビコンが繁栄していた頃の名残なんだろうな。
そして、ナレクともどもアイビスの火から生き延びた。
以降ナレクは空母を拠点に活動していたそうだが、ある時両脚を失った。
「独立傭兵にやられたという、よくある話だよ」とナレク自身は笑っていたよ。
だから、俺が会った時のナレクはエルカノ製の軽タンク機体を使っていた。
EL-TL-11 PORTALEZA
エルカノ製の軽量タンクパーツ。
タンクとして恐ろしいほどの機動力を誇るパーツで、当然それ相応の装甲と中量パーツレベルの積載量がウリだ。
両脚を失ってなお戦場に焦がれた兵士たちのためのパーツだ。
ナレクはそいつを使って戦場で暴れ回っていた。
両手にメリニット製のバズーカを搭載していて、相手に肉薄してすれ違いざまに爆破していったのさ。
それが通じない相手にはVCPL製のプラズマミサイルを叩きこんでいた。
空母街内部のパーツショップの件もあってか、ナレク爺さんはVCPLと縁があったようだな。
ただし、ナレクが使っていた軽タンク機体は空中機動に難がある。
先のプラズマミサイルはそこをある程度補うためのものだったそうだが、それでもナレク爺さんは満足していないようだった。
爺さんは、戦場ではなく青くて暗い空に焦がれていたんだ。
◆3「行方不明事件」
ある時を境に、ナレクの爺さんは姿を消した。
行方不明ってわけだ。
生死は不明。
生きていることは確認されていなかったが、死亡も確認されていない。
戦場に赴いて姿を消したようだから、だいたいはお察しさ。
普通ならば、の話だが。
空母街の方は、意外と静かだった。
いつかはこうなることがわかっていたようで、当面の空母街の仕切り役は、件のパーツショップの店長が引き継いだ。
予めそういう取り決めがあったようだ。
店長自身は、ナレクが帰ってくることを予感していたようだったがな。
その予感は正しかった。
しばらくした後、ナレクの爺さんは戦場に帰ってきた。
軽タンク機体ではなく、二脚機体に搭乗してな。
◆4「ルビコニアンのリング」
ナレクの爺さんは、戦場でどこかの勢力と接触したらしい。
どこの勢力かは特定できなかったが、その勢力のところである措置を受けたらしい。
その結果、ナレクの爺さんは両脚を取り戻した。
措置の見返りは、とあるAC乗りの排除。
ルビコン解放戦線のサム・ドルマヤンの抹殺だ。
だがナレクにとってドルマヤンは、実はかなり古い仲だ。
喧嘩別れこそしたようだが、それでも積極的に殺しに行くほど険悪ではない。
……そうだ。
ナレクの爺さんの正体は、ルビコニアンのリング。
あのティグランやドルマヤンと同じ、歴戦の戦士であったのさ。
だがしかし、ナレクには「空」への執着があった。
どれだけACに乗り、戦士としての強さを自他に言い聞かせていたとしても。
両脚を失い、地に這いずり続ける現実は変わらない。
ナレクは、誘惑に耐えられない"大馬鹿野郎"だったのさ。
◆5「バルシャミン」
AC「バルシャミン」。
リング・ナレクが用いる、エルカノ製二脚機。
BAWS製よりも優れた機動力が特徴のACだ。
そしてエルカノ製のもう一つの特徴に、近接武器適正と射撃武器適正の両立がある。
ナレクの機体は、その特徴を活かしたアセンブリが施されていた。
ナレクはその機体に、ニードルガンとレーザースライサーを搭載していた。
そして肩には、V.Ⅰも使ったというVCPL製レーザードローンを積んでいた。
後で知ったことだが、あのパーツショップの店長が人脈をフルに活かして揃えたパーツだそうだ。
特にレーザードローンは、使いこなせる人間はそうはいないという評判の兵装だった。
言ってしまえば、上級者向けの機体だな。
だが措置を受けて両脚を取り戻したナレクは、その機体をうまく乗りこなしていた。
その機体で、当時たまたま別の作戦で戦場に出ていた俺に襲い掛かってきた。
来たるサム・ドルマヤン戦への慣らしだと笑いながらな。
実際恐ろしい相手だったよ。
例のレーザードローンを二つ装備して、それぞれから発射したドローンを従えてきたんだ。
ドローンと一緒に肉薄して、ニードルガンとレーザースライサーで相手の動きを止める。
動きが止まった敵機体を、レーザードローンで仕留める。
そういう戦法を好んでいたようだ。
例のフロイトでも、レーザードローンの装備は一つに留めていたらしい。
その事実を踏まえると、ドローンの扱いに限ってはフロイト以上のバケモンだったと思われる。
だが、やはり本調子ではなかったようだ。
長年タンク機体を使っていたが故のブランク。
それから、ある勢力から受けた"措置"の副作用。
考えられるのは、その辺りか。
いずれにしろ、俺は全力で空を飛び回りながら追ってくるナレクの猛攻を凌いで、返り討ちにした。
俺だって傭兵として生きてきたんだからそれなり程度にはできる……と、自慢したいが、それ以上に爺さん側が不調だったのが大きいと思われる。
結局、爺さんはドルマヤンと戦う前に終わったのさ。
だけど、爺さんは満足そうだった。
久しぶりに、自分の両脚で空に立つことができたのが嬉しかったらしい。
ルビコンでは珍しい、青くて暗い空の日のことだったよ。
コーラルの赤が交じっていたのが、玉に瑕だけどな。
AC複数格納できる空母ってなんだよ……(更新直後唐突に出てきた疑問)
た、多分空母側の規格が頭ルビコンだった……ということにしましょう!(震え声)
ナレク
アイビスの火以前からルビコンで活動していたAC乗り。
空母と共に灰かぶりとなったナレクは、ある時両脚を失う。
以降はタンク機体を用いていたが、同機体は地上戦特化型であり、故に空への憧れを抱くようになった。
そして、ナレクは両脚を取り戻すべく行動を起こした。
自身の戦闘データを量産無人機に用いるという条件で、ある組織に取引を持ち掛けたのだという。
AC // バルシャミン
ナレクが用いた、エルカノ製二脚AC。
バルシャミンとは、アルメニア神話における空と天候の神の名とされる。
ニードルガン・レーザースライサー・レーザードローン二つを装備する。
フレームは先述通りエルカノ製「FIRMEZA」で統一。
内装は「AB-J-137 KIKAKU」「FCS-G2/P05」「AG-T-005 HOKUSHI」。
拡張機能はアサルトアーマー。
V.Ⅰフロイトほどの技量があってはじめて使いこなせるというレーザードローンを、さらに二つ同時に操る兵機体。
先にレーザードローンのチャージ発射を済ませ、ドローンと共にニードルガンとレーザースライサーで仕掛ける構成。
うまくスタッガーに追い込めば、レーザードローンがトドメを刺すだろう。
余談だが、これはある組織からの"措置"を受けた後の機体。
普段使っていたのは、両脚の欠落を補うとされる軽量タンク機体を用いる。
こちらはメリニット製のマジスティックを主兵装とする一方、肩には六連プラズマミサイルと垂直プラズマミサイルを搭載する。
いずれにおいてもVCPLとの縁が強く色濃く出る機体。
メタ解説
前回のティグランが「先代インデックス」枠なら、今回のナレクは「先代リング」枠。
ティグランのドーザー系BAWS機体と差別化するべく、ナレク機はVCPL系エルカノ機体として仕上げた。
なおVCPLはプラズマ系企業であり、どことなく「アーキバスグループ」と距離の近い企業と見做されることが多い企業。
が、実は解放戦線機体にもVCPL製兵装が使用されるケースが確認できるため、場合によっては解放戦線=ルビコニアンとの何らかの縁があるのかもと独自解釈。
余談だが、VCPLはアーキバスというよりシュナイダーに近い距離の企業であることを匂わせているので、シュナイダーACともども解放戦線に品が流れただけかもしれない。
いずれにしろ解放戦線との縁もある様子なのは、どちらかというとシュナイダーに近しい距離故と筆者は推察している。
パイロット側のテーマは「軽量タンク」。
同パーツのテキストに両脚を失った兵士の存在が描写されており、両脚を失ってなお戦場に立つAC乗りのドラマを捏造するに至る。
が、今回はそこからさらに「両脚を取り戻す」ドラマを捏造したため、主軸パーツは二脚機体の方に流れた経緯がある。
なお「ナレクの戦闘データが量産無人機に使われる」という取引だが、これはドルマヤンとの交戦データを用いる予定だった。
結末は本編の通りなので、結局は実現に至っていない。
本作では「一般ルビコニアンデス傭兵の話」では描けない機体を三機描くことを目標としているが、今回もそのうちの一機である。