◆1「賞金首」
今回はルビコンのべリウス地方で現れた、賞金首の話だ。
「壁越えの傭兵」が、封鎖機構の武装ヘリを落とす前の話題だな。
その頃の戦況は、名のあるAC乗りがしのぎを削っては割とあっさり脱落していく、結構な魔境だった。
ヴェスパーのダリが有力な傭兵を狩りつくしつつ"暗殺"されたことを境にその時代は終わり、結果活動的な独立傭兵は……ごく一部を除いて……ランク圏外しか残らなかったものの。
それでもあの時代のうちの何人かはフロイト相手でも十分食らいつける……そんな魔窟の時代があったのさ。
まさしく傭兵達の華ともいえるその時代にて、奇妙なACが台頭した時期がある。
そのACは、未登録の所属不明ACだ。
オールマインドにデータはなく、それぞれの傭兵コミュニティに聞き込みしても情報は出てこない。
かといって、企業や解放戦線の秘蔵っ子ってわけでもない。
ドーザーの友人にも聞いてみたが、そっちも外れ。
惑星封鎖機構内部のツテも空振りだった。
わかっていることは、そのACは数々の機体を撃破していく実力の持ち主であること。
そして、撃破していったACからパーツを強奪する癖の持ち主でもあったことだ。
とりわけ武器マニアであったようで、だから戦場で見かけるたびにその武装構成は変わっていったそうだ。
他方で、フレームについては一般には流通していないパーツで統一されていた。
内装も同じように考えられていて、当時はどの勢力もこのACに注目していた。
どの勢力の制御下にもない危険因子として、あるいは当時としては未知の機体パーツの情報源として。
結果、そのACには賞金が懸けられたってわけだ。
◆2「WPC」
WPC。
これは件の賞金首ACの通称だ。
未登録の所属不明である故に名前データがなく、通称として広まった。
意味合いとしては「お尋ね者"C"」といった具合。
ブースタの火が、コーラルのように赤いことが由来だったそうだ。
ブースタの火の色は、搭載するジェネレータによって変わる。
大豊やBAWS製の内燃型ならオレンジ色、アーキバス製の環流型なら青色になるのが特徴的だ。
しかし件のACの火は赤色……内燃型のオレンジとは明確に異なる色合いだった。
これも当時としては話題だったな。
だが情報が揃った今なら、断定できる。
WPCが使っていたジェネレータは、コーラル内燃型。
技研製の、生体物質としてのコーラルの特性を利用したものだ。
ジェネレータパーツとしては、通常時のEN回復能力が著しく悪い代わり、復元時の性能が高いというもの。
簡単に言えば、ENを最後まで使い切ることを前提とした性能だ。
普通のジェネレータはENを切らさないように管理することを求められるため、かなり癖のある仕様と言っていいだろう。
WPCがそんな扱いにくい物品を使っていた理由は、いくつか考えられる。
普通のジェネレータでは動きを最適化できない。
単に他のジェネレータを入手できなかった。
あるいは……そのジェネレータじゃないとACを動かせられない、などだな。
◆3「賞金首AC」
IA-C02 EPHEMERA。
WPCが使っていたACの機体名だ。
その名の通り、技研製のフレームパーツ「EPHEMERA」を用いているのが特徴だ。
企業共がこのACを追う理由の一つでもある。
なんせ当時としては未知のパーツということになるんだ。
これが敵対勢力によるものだと仮定して、機体を鹵獲・解析することで情報アドバンテージが得られるのは意外と大きいものだ。
まぁ実際は、それ以上に価値のある情報の塊だったわけだがな。
「EPHEMERA」は、かつて技研が開発した無人AC用フレームパーツだ。
失われたパーツを掘り出したものということになるため、技研やルビコンの歴史を紐解く大きなヒントになる。
そして何より、当時企業が喉から手が出るほど欲していたコーラルの使用を前提としたパーツだ。
その価値は推して知るべし。
このパーツの入手経路はどこだったのか。
これを探るという意味でも、WPCに懸けられた賞金の意味は大きく重かった。
だが実際に敵対した身としては、あの近接戦闘能力が驚異的だったな。
「EPHEMERA」は比較的軽いパーツであり、さらに専用の内装パーツと組み合わせれば近接戦闘能力を高めるポテンシャルが秘められている。
そのことを知ってか知らずか、WPCは各ACから近接戦闘に向く武器パーツばかりを奪っていた。
その結果、WPCのACは近距離戦を強く意識したアセンに仕上がっていたんだ。
◆4「ACの中身」
俺が実際にWPCと遭遇したのは、レッキングボールの依頼で解放戦線を攻撃する仕事の時だな。
レッキングボールの棟梁は歴戦の戦士であり、戦場へ出る際に嫌な予感を覚えたという。
その兼ね合いで、急遽作戦に参加したわけだ。
爺さんのカンは当たっていた。
案の定、その作戦で賞金首ACが出てきたのさ。
その時の賞金首ACは、BAWS製バーストハンドガンとベイラム製拡散バズーカ、アーキバス製レーザータレットを装備していた。
いずれもそれぞれの陣営のACから強奪したものと思わしい。
だがその左腕には、見たこともない兵器が積まれていた。
赤い光波を飛ばす奴だ。
後から調べてみれば、そいつもまた技研製の実験兵器だったそうだ。
前述通り賞金首ACは、近距離戦を強く意識したACだ。
その評判に間違いはなく、かなり面倒な相手だったよ。
だがまぁ、戦闘の詳細は省く。
一定以上作戦に支障をきたしたものの、俺とティグランの爺さんが揃っていれば事故は起きなかった。
面倒なのはここからだ。
撃破した賞金首ACには、"中身"がなかった。
脱出レバーで逃げた形跡もなし。
まるで最初から、無人ACだったかのようだ。
俺はその事実と、その時のティグランの爺さんの反応から、嫌な予感を覚えた。
爺さんが作戦の前に覚えたものとは、まるで異なる性質の予感だ。
爺さんとの相談の結果、撃破したACはRaDに売り飛ばすことにしたよ。
それ以降、WPCが出てくることはなかった。
◆5「WPCの中身」
それで賞金首としてのWPCの話は終わりなんだが、ここ最近また不穏な情報を手に入れた。
Cパルス変異波形。
人格を有したコーラルというべき、エイリアンだ。
もともとコーラルには生体物質としての特性があり、時には鳥や魚に匹敵する程度の知能があると考えられてきた。
だが時には、人間に等しい自我を持つ個体もいたのだという。
これら変異波形は、実体を持たない。
まるで幽霊だ。
だがその代わり、コーラルを摂取した人間に対して「声」と言う形で干渉できるらしい。
一部の旧世代型やドーザーが時折聞くという幻聴の一部は、あるいはこれを指しているのかもしれないな。
そして最も驚くべきは、コーラル技術を用いたACなら動かせるという特徴だ。
これらの特徴から、俺はWPCがCパルス変異波形であると推測している。
少なくとも、中身がなかったことと頑なにコーラル内燃型に拘っていた点には説明がつく。
技研製パーツの入手経路についてもな。
さて。
そんなWPCの、ACを襲い武装を奪っていた動機なんだが。
厳密な理由は未だに断定できない。
俺には交信するための資格がないようだしな。
だが、そうだな……そいつは、フロイトやかつてのイレギュラー達にも似た闘争本能があったのだろう。
もしくは、ACのことが好きだったのかもしれない。
限られたパーツを用いて、ACの性能を最適化していく。
これはAC乗り特有の楽しみだ。
件の幽霊は、それを楽しんでいた。
きっと、ただそれだけの話だったのかもしれないな。
WPC
ルビコンで活動する賞金首。
数々のACを撃破しているこの賞金首は、一方で撃破したACからパーツを強奪することでも知られる。
中には一般には流通していないパーツもどこかから強奪したとみられており、各勢力から賞金を懸けられている。
WPCとは「wanted person "C"」の略称。
コーラルのように赤いブースタの火が由来となる。
AC「IA-C02 EPHEMERA」
WPCが駆る二脚AC。
武装はバーストハンドガン・赤月光・拡散バズーカ・レーザータレットの組み合わせ。
フレームは技研製EPHEMERA一式。
内装は「IA-CO1B GILLS」「IA-CO1F OCELLUS」「IA-CO1G AORTA」の技研製セット。
近距離戦闘を主軸とし、バーストハンドガンなどで相手の姿勢を崩しては拡散バズーカ接射で仕留める戦法を好む。
武装の殆どは過去に撃破したACから強奪したもので、一方フレームや内装は地下から持ち出したものをそのまま用いている。
メタ解説
今回のコンセプトは「技研製AC」。有人型は別件で消化済みだったため、無人ACエフェメラそのものがコンセプトに。
エフェメラは原作のCパルス変異波形による使用実績があるパーツのため、今回もそんな感じに調理。
ただ、そのまま技研製の武器を持たすと原作機体と被るので、既存のパーツを組み合わせてみた。
とりわけエフェメラは、内装も含めると近距離戦を強く意識した印象を受ける性能のため、バーストハンドガンや拡散バズーカのような近距離で強いパーツを強奪させたのがこの機体。
一方でWPCことオリCパルス変異波形の目的は、少なくとも明確なところは不明。
ただ自分でも使えるACを使って、戦場を渡り歩いていた……それ以上は断定不可。
でも筆者的には、ルカのような推測が一番ロマンがあって好みである。