ダンジョンに生まれた私は、英雄の魂を育てて喰らう   作:ヨーヨーヨー

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2話 魂の輝き

 洞窟の奥、微かな風が岩の裂け目を通り抜ける。

 湿った土と魔石の匂い、微かに漂う血の匂いが混ざり合い、空気を重くする。

 

 ゼノスたちは狩猟の準備を整え、互いに目配せを交わす。

 私――シエラは、少女の姿のまま、影のように後ろをついていった。

 無害であること、馴染むこと。それが目的だった。

 

 だが、私は心の奥で違う感情を密かに育んでいた。

 ――生きる者の必死さを、恐怖を、抵抗を、味わいたい。

 

 岩壁の隙間から見えたのは、崩れた岩の影に潜む魔物たち。

 ゴブリン、スライム、角を持つ小型オーガ――

 彼らはまだ気づいていない。ゼノスたちは近づくが、戦闘はまだ始まらない。

 

 私は一歩前に出る。

 腕や背中から無数の触手を伸ばす。

 その先端には、獰猛な狼の歯、鋭いサメの牙が無数に並ぶ。

 高速で、精密に動き、魔物たちを捕らえ、内側から本能的に理解する。

 

 捕食――というよりも、私はその感情を味わう。

 恐怖、抵抗、必死に生きる姿――

 それらが胸を震わせ、喉の奥から笑いが漏れる。

 

「……クフフ」

 

 ゼノスたちは私の行動に気づかない。

 だが、その空気の違和感、微かな緊張は感じ取る。

 リドの瞳に、一瞬の恐怖と迷いが走る。

 それでも、見捨てることはできない――守ろうという意志が、彼らの心を支配する。

 

 ◇

 

 朝の光が洞窟の隙間から差し込み、地面に長い影を落としていた。

 ゼノスの集落はまだ静かで、鳥の鳴き声や遠くの水の音だけが響く。

 木漏れ日が苔むした石や倒木に反射し、小さな光の粒を作る。

 

 私は、少女の姿で集落を抜ける。

 胸の奥に、理由もなくざわめく衝動があった。

 

 「……なんとなく、外の空気を吸いたい」

 

 深呼吸をすると、湿った岩の匂いが鼻腔をくすぐり、鼓動が少し早くなる。

 誰にも気づかれず、静かに――影のように歩く。

 

 ◇

 

 小道を曲がったその先。

 突如、少年の姿が現れた。

 白い髪、血に濡れた腕、握りしめた剣。

 その目は恐怖と不安に揺れながらも、決して折れない意思を宿している。

 

 少年の口から、かすかに声が漏れた。

 

「くっ……まだ…だっ!」

 

 剣を振るい、倒れた敵を払いのける。

 

 私は、無意識に息を呑む。

 魔力でも筋力でもない、胸の奥から発せられる魂の輝き。

 必死に立ち向かうその姿は、私の本能を震わせる。

 

(……生きるって、こういうこと……)

 

 胸の奥に微かに熱が広がる。

 戦闘の快楽とは違う――もっと純粋で、魂そのものを揺さぶる感覚。

 

 少年の前に、ゴブリンや小型オーガ、腕の長い蜘蛛型モンスターが群れをなす。

 息を荒くし、足を踏みしめ、剣を振るう。

 斬撃がオーガの腕を切り裂き、蜘蛛型モンスターが体を震わせて倒れる。

 倒れてもなお立ち上がる姿勢、血に濡れた指先、震える体。

 

 私は影に隠れ、背中や腕から無数の触手を伸ばす。

 狼のような獰猛な歯と、サメのように鋭い牙を並べた口がいくつもついた触手。

 敵の動きや少年の体の微細な動きを瞬時に理解し、反応する。

 だが、あえて手は出さない。

 ――この魂の輝き、必死さ、恐怖、痛み、諦めない意思。

 すべてを観察し、味わうためだ。

 

 少年の心の内が、薄く透けて見える。

 

 「……まだいける、僕は……負けない……!」

 

 その声に、震え、怒り、恐怖、希望が混ざり合う。

 腕の傷に手を当て、血で濡れた剣を握り直す。

 その瞳には、恐怖を抑えきれぬ子供の弱さと、戦う覚悟が同居している。

 その脆さと強さの混ざり合い――それが、私に快楽を与えるのだ。

 

 「よし……次はあいつだ……ッ!」

 

 声に出すことで、さらに集中力が増す。

 倒れる敵を見て一度深く息を吐き、また次の攻撃に体を傾ける。

 

 ◇

 

 戦いが終わり、少年は深く息をつく。

 倒れた敵を見渡し、血で染まった腕を押さえる。

 まだ名前も知らぬ存在。

 それでも私は理解した。

 

(――この魂は特別だ)

 

(――もっと味わいたい)

 

 胸の奥で熱が広がる。

 触手は静かに体に戻り、少女の姿のまま影に徹する。

 息を整えながら、私は静かに宣言する。

 

――私は、影になる。

――彼の背後で、誰にも気づかれずに。

――魂が最も輝く瞬間を、私だけが味わうための影に。

 

 闇が照らすかのような小道。

 世界の全てが、今、この瞬間、私のために動き出しているように感じた。

 微かな笑みが、喉の奥からこぼれる。

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