☽000☾
2つのスーツケースを支えに震える手で何とか鍵を開ける。
数日ぶりに戻って来た我が家はうっすらと出汁のいい匂いがした。
そのままなんとかドアの隙間に体をねじ込んで鍵を閉め直したところで体力が尽きて膝から崩れる。
靴を履いたまま玄関の床に寝ころび、冷たいフローリングの感触を頬で味わった。
明日からは問答無用でもぎ取った有休2日含めて4連休。
超久しぶりにお昼まで寝て、かぐやのご飯食べて、えっと、えっと、それから……。
「彩葉ー! おかえ……うぉい! 倒れてる!?」
出迎えてくれようとしたかぐやが、お玉を持って玄関まで来たが、私の惨状を見て慌てだす。
「彩葉……大丈夫……?」
頭上から降ってくる心配そうな声に答えてあげたいが、指数的に重量を増す瞼には抗いがたかった。
差し伸べられた暖かい手に手のひらを重ねて何とか絞り出す。
「へいき……でも……寝かせて……」
ぱたり。
「彩葉ーー!」
☽001☾
気が付くと居間の天井と寝息を立てるかぐやが視界を埋めていた。
後頭部から感じる暖かくやわらかな感触を考えると、ソファーまで運んでくれたかぐやが、膝枕をしている最中に自分も寝こけたといったところか。
夕方には帰っていたはずだが、もうすでに太陽の姿は無く、かぐやが電気をつける前に寝落ちしたせいか部屋の中は薄闇に染まる。
黄昏とは夕日が沈み薄暗くなった闇の中で「誰そ彼」と顔を判別できなくて聞いたことが語源と聞いたことがある。
しかし、窓から差し込む都会の明かりを金の髪のカーテンが乱反射して照らす、私のかぐやの輝く顔はそんな闇の中でもはっきりと見分けることができた。
そんなことを考えていたら、私が起きたことに気付いたか、かぐやが身じろぎ一つして、目を覚す。
「あ……彩葉……おはよー……」
「おはよ、かぐや」
「大丈夫……?」
「へいき」
「よかったー……」
半分寝ぼけているのかふにゃふにゃとしゃべるかぐやに返答する。
仮眠のおかげか、かぐやの膝枕のおかげか、帰るときには薄靄が掛かってたような思考がすっきりしている。
そんな中、私に付き合わせてこんな時間に起きたせいか、ぐぅと自己主張する腹の虫が真横から聞こえた。
ちらりと横目で顔を伺うと、目をぱちくりとさせてから徐々に顔が朱に染まりだした。
「………」
「……ぷっ」
「あー!」
思わず失笑してしまった私にかぐやが吠える。
バタバタと暴れようとするかぐやの細い腰を愛おしくなって抱きしめてとどめていると、そのうち縺れてソファーから転げ落ち、二人してしたたかに尻を打った。
「いつー……ふふ、あはははは!」
「ててて、ふふっ」
二人してお尻をさすりながら笑い合う。
「ねえ、かぐや」
「んー?」
「ご飯にしよっか、わたしもおなかすいた」
「よっし! じゃあ食べよ! 今日は肉じゃがだよー、隠し味は赤味噌!」
「えーどうなの、ソレ」
「ふっふっふー、自信作なんだー! 今温めるね」
「じゃあ私はお味噌汁でも作るかな、味噌まだあったっけ」
「最強のやつ? ばっちし! あーお出汁は冷蔵庫にあるやつ使っちゃってー、ちょっと余っちゃってさー」
「はいはい、あと最強じゃなくて西京ね」
ぱぱっと役割分担をして、連れ立って台所に入る。
最近はほとんどかぐやにお任せだったから、ワカメの位置すらおぼつかない。
「あ、そうそう、はい、彩葉」
「ん? あ! ありがと」
私が仕事着のままなのを気にしてかエプロンを手渡されたのでそのまま広げて身に着ける。
だいぶ久々に着たからか、ずいぶんエプロンがくたびれて見えた。
そろそろ新しいの買ってやるか。
冷蔵庫に並ぶ出汁パックの浮いた黄金色のコンテナの中から、パックが抜けてて嵩の減ったものを取り出して、小鍋に注いで火にかける。
後ろではかぐやが鼻歌を歌いながら、小皿に常備菜たちを並べていた。
「はい、彩葉、あーん」
「むぐ、うまっ」
「でしょー」
視線に気づいたかぐやが差し出してきた、常備菜の一つを確認もせずに口に含む。
咀嚼すると、どうやらお浸しかそれに類するもののようで、しんなりとした繊維の感触とやさしい出汁の風味が口に広がった。
「普段の鰹節の代わりに出汁パックの余り使ってみたんだー、意外とイケてびっくり」
「へー、あっかぐや、ネギある?」
「あ! やば! ないかも」
言い切らないうちにごそごそと冷蔵庫を漁ると、何やら青い束を取り出してきた。
「あさつきならあった!」
「逆に何であるのよ……」
ネギより珍しいものが出てきて、思わず呆れが語尾に乗る。
もはや冷蔵庫も私の管理から遠く離れてしまった。
在庫管理とか大丈夫なんだろうな、部屋がアレなのに……。
「明日お鍋にしようと思ってさー、使う?」
「量絞れば……ま、変わんないか」
「えー、ほんとー?」
「じゃあネギなし味噌汁にする?」
「うーん……、それはそれでなんか違うような……」
「でしょ?」
アサツキを数本抜き出して手早く刻んで、軽く水で戻したワカメともに椀に入れておく。
ふつふつとしてきた出汁の火を止めると隣の口に置いてある肉じゃがの鍋も温まって来たのか良い匂いがしてきた。
手早く味噌をお玉で掬い、出汁に解きいれて軽く弱火で付け直す。
「かぐやー、お味噌汁もうお椀に入れるだけまでできたよー」
「もう肉じゃが以外並べちゃったから入れちゃっていいよー、あーあと、肉じゃがもお皿置いといたから、彩葉盛ってー」
「りょーかい」
食卓で配膳しているかぐやに声をかけるとGOサインが出たので、そのまま盛り付けてしまう。
手早くお椀に注いで、軽くかき混ぜて完成、直接渡すとバランス崩して被っちゃうかもしれないから、作業台においてやると手慣れた様子でかぐやが持って行った。
あとは肉じゃがをかぐやの用意してくれた皿に盛って、食卓まで運んで終わり。
もうすでに席についていたかぐやの左隣に座ると、机の上には豪華な和定食が完成していた。
ごはん、お味噌汁、肉じゃがだけだと質素な感じもするが、そこに青菜のお浸し、イワシの南蛮漬けに茄子の煮びたしと甘酢漬けまで付けば、疲れた体にも染み渡る純和食だ。
「ここまで作ってくれてたなら、お味噌汁作ったの余計だった?」
「ん? ぜんぜん! かぐや、彩葉のお味噌汁すきだし」
そう言いながら、いの一番に味噌汁に手を付けたかぐやは、こくりと喉を動かした後に興味深そうに椀の中を箸で撫でた。
「お味噌汁って面白いよねー、おんなじレシピでやったって、かぐやが作るのと彩葉が作るのじゃ全然味変わるんだもん」
「そう? 味噌が違うだけじゃなくて?」
「うーん、火の入れ方なのかなー、いや、真心?」
「なにそれ」
真顔で変なこと言い出すから笑ってしまった。
「真心ならこっちに詰まってるじゃない」
そう言いながら南蛮漬けを頬張る、んーすっぱ甘辛くておいしい。
普段はあんまり酢の物を入れないかぐやの献立に2品も酢の物入ってる理由なんか一つしかない。
疲れた体には酢の物ってね。
「お、どう?」
「おいしいよ」
「よかったー、初めて作るからどうかなーって」
「上出来、上出来」
そのまま箸は止まることなく、疲れた体でもぺろりと平らげることができた。
☽002☾
食器を片付けたあとは、そのままお風呂でさっぱりして、ソファーでぐんにゃりしながらくつろいでいた。
お背中流しますぜ、などと言いながらついて来ようとするかぐやとの攻防戦のせいで無駄に疲れたが、まぁ、それはさておき。
「彩葉ー、お茶できたよー」
「おー、ありがと」
かぐやがローテーブルに置いたティーカップの中身は、香りから察するにハーブティーだろうか。
「カモミール、……でもちょっと違う?」
「おっ、すごい彩葉! ラベンダー入れてみたんだー」
「へー」
我が家では割と出てくるカモミールにほんの少し違う香りを感じて聞いてみたら、答えが返ってきた。
効能は沈静と安眠だっけ?
「そんで、どんな大冒険してきたの? かぐやに聞かしてみ」
「大冒険って……、別に学会で所員の発表の時間貰ったからそのパワポの添削に付き合ってただけ、そのまま泊りがけで学会行って、で、職場戻ったら今度はそのまま掲載誌のインタビュー組まれてたの、さすがに疲れたわー」
「はえー、彩葉もついにインタビュー受ける有名人になったんだ!」
「そんなんじゃないって」
論文掲載誌のインタビューなんか、大学の学長やらが輪番でやってるようなものだ、一応所長だからか私の番が回って来ただけ、大した話ではない。
「ね! なんて雑誌なの? 買わなきゃ!」
「教えないー」
「えー! なんて名前なの!? 何月号?」
「ぜーったい、教えない!」
「そこをなんとかー!」
「この!」
「きゃー!」
ソファーで横になってる私に、往生際の悪いかぐやが縋り付いてきたが、そのまま抱きしめてぐるりと巻き取って腕の中に収納する。
最近ご無沙汰の抱き枕だ。
「ねえ、彩葉?」
「んー?」
腕の中の抱き枕が何やら聞いてきた、胸の中でもぞもぞしゃべるから、くすぐったい。
「大人って楽しい?」
「んー……」
なんだか哲学的な問いだ。
楽しいかー……。
「そうだなぁ……」
「どう?」
今の職場だって、ある意味では必要に駆られて突き詰めた先で、指名があったから座ってるに過ぎない。
楽しいとか、つらいとか、そういうモノの先の必要だからやっていること。
人生を賭けてでも到達したい事のための積み重ね。
でもゴールを迎えた今となっては、半分惰性、もう半分は食い扶持のためにやっているに過ぎない。
でも、まあ。
「今は結構楽しいよ」
「そっかー」
なんだか安心したような声が胸から聞こえた。
☽003☾
そのままダラダラとしていると、時計を見たかぐやが急に慌てて腕の中から抜け出した。
あっヤバ、今日、配信するんだった、なんて言いながらあわただしく配信部屋に入っていくのを緩く手を振って見送った。
そして、私も立ち上がって腕をひとまわししてから、玄関に置きっぱなしのスーツケースを見る。
かぐやは気付かなかったようだが、一泊二日で学会に行くだけなら別にスーツケースは2個もいらない。
妙に重い方のスーツケースを床に引きずらないように持ち上げながら、慎重に部屋に運んで開封した。
中に入っていたのは膝を抱えた貫頭衣姿の銀髪の少女。
うなじの端末ソケットからパソコンに繋いで、スマコンに表示させたARディプレイで確認しつつ、OFFからアイドルに切り替えると、ピクリと瞼が動いた。
「んー、たぶん行けると思うんだけど、一回中に入ってもらうか」
目当てがオフかどうか確認するため、パソコンの方のディスプレイでチャンネルを見ると、ちょうど何の配信もやってないみたいだった。
「ヤチヨ、今ヒマ? 送信っと……」
「呼んだ?」
「うお!」
送信ボタンを押したかどうか怪しいタイミングで、急に現れた送り先の姿に驚き思わず仰けぞってしまう。
「あーびっくりしたー……」
「えへへー」
心臓がまだバクバクいってる。
「で、どうしたんだい?」
「あっそうそう、ヤチヨ、ボディにちょっと入ってみてくれない?」
なんだか楽しそうに私に問いかけてくるヤチヨに、目的を話すと途端に、キラキラの笑顔は渋そうな顔に変わってしまった。
そんな嫌そうな顔しなくても……。
「えー、前入った時は、なんかめちゃ体重かったよね?」
「その辺も含めてさ、一回お試し! おねがい!」
「もー、仕方ないなー」
私のお願いに、仕方なさそうに笑ったヤチヨの姿が、デジタルノイズにブレて、それから足元の少女が目を覚ました。
「んー! あれ? 動けるね?」
「あー、やっぱり?」
ぐっと腕を伸ばしたヤチヨは、思ったどおりに動く体の想像との差異に首を傾げる。
その姿を見ながら目を移したARディスプレイで表示してるパラメーターも、KG型を作る前に、試運転でYC型を動かした時よりも桁違いの適合を示していた。
「実はそれ、前の時からあんまセッティング弄ってないんだよね、味覚センサー以外」
「えー、ほんとう? 全然違うよー?」
肩を回したり、指をぐっぱぐっぱしてして、体の具合を確かめるヤチヨはなんだか納得がいってなさそうだ。
「なんか最近同期しなくなったって話聞いて、もしかしてって思ったんだけど……おっ出た、やっぱり」
「やっぱり?」
「パーソナルデータのスペクトルが前測った時と全然違う」
「へー、んー……、じゃあ、”ヤチヨ” になりつつあるって事……なのかな?」
「んー、たぶん? ちょっと動かないでね、このまま調整しちゃうから」
「はーい」
そのまま、ボディの受信機(もと光る竹からの遠隔操作を非wi-fi下で行うために、携帯回線を増設した、5G様々だ)のテストをしたり、パラメータを弄ってると、どたどたと軽快な足音が扉から聞こえてきた。
「彩葉! あそ……、あれヤチヨ? あー、仕事してる!」
「おつー☆」
「見つかったか……」
ドアを勢いよく開け放ったかぐやに、ヤチヨの姿とARモードで起動していたスマコンの光を咎められた。
「へろへろ彩葉だったのに、もっと働いたら倒れちゃうよ?」
「もう終わるからへーき、よし! どう? 立ってみて」
「えっ? そうなの? 彩葉大丈夫?」
「ほら! 立つ!」
「もう……、よっと」
かぐやの言葉にこちらを心配そうな眼差しで見てきたヤチヨだったが、私に促されておずおずと立つと、その感触に驚いたのか目を見開いてそのまま片足立ちをしてからくるりと回った。
「おーすご、その体そんな動けたっけ?」
「さっきより軽い? 全然動けるね」
「よし、大丈夫そうだね」
モニタリングしていたARディスプレイを閉じて、スマコンを外してケースに戻す。
さて、いつまでも運搬用の粗末な貫頭衣じゃカッコつかないし、服でも取ってきてやるか。
☽004☾
服と、ついでにさっき余ったハーブティーを酌んだ最近愛用のマグカップを持って、部屋に戻った。
扉を開けると、何やら二人して高速でじゃんけんをしており、ちょうど開けたタイミングで勝者が決まったようだった。
「よっしゃ! かぐやの勝ちィ!」
「負けちゃった~~」
「何やってんの?」
項垂れた敗者と、ガッツポーズを掲げた勝者が、体制はそのままで首だけぐるりと回してこちらを見た。
こわっ。
「えっ、なに?」
「にゅふふ、彩葉の添い寝権じゃんけんしてたんだー」
「しょぼん……」
「いや、一人で寝ろよ、あとヤチヨはこれ終わったら電源切るからね、充電しないと」
私がバッサリ切ると、顔を見合わせた二人は途端に不満そうな顔をして異口同音に抗議してきた。
「えー!」
「えー!」
「いや、えーって言われましても……、まさかまた寝床が無いほどモノ増やしたんじゃないでしょうね」
「ぷっぷくぷー」
「口笛吹けてないぞー、まったく……」
さすがにこの4連休でそんな疲れることをやりたくないが、来週あたりいい加減に一掃せねばならないのかもしれない。
「彩葉……」
「うっ」
ヤチヨに上目遣いで見つめられると弱いが、しかし明日の朝に満タンのバッテリーを2本確保しておくのはマストだ。
「そうそう、あのねヤチヨ、明日さ、一緒に遊び行かない?」
「えっ、ホント!?」
「あー! かぐやも行くー!」
「はいはい、前にツクヨミで約束したしね、実はそのためのボディだったんだよねっと、よっと」
話しながら、スーツケースの中から予備バッテリーと充電端末を取り出す。
「で、どう?」
「もちろん!」
私の問いかけに花開くような満天の笑顔が返って来た。
「よし来た、とはいってもどこ行くか決めてないんだけどねー」
「はいはい! かぐやカラオケ行きたい!」
「カラオケかー、最近行ってないなー」
「じゃあ、ヤッチョはパンケーキ食べたいな!」
パンケーキかー、真実におすすめ聞いてもいいけど……あっ、そうだ。
ちらりと机の上のマグカップに視線を移すと、カップの上でまどろむ黒猫の目がきらりと光った気がした。
「ねえ、かぐや、あの店、結局あの後行った?」
「あの店?」
「ほら猫の」
「あー……、真実と三人で行ってダメだった時から試してないなー」
「あの店?」
私とかぐやの会話にヤチヨが小首を傾げる。
そっか、知らないよね。
「うーんと、前に行ったカフェがちょっと不思議なところでね?」
「不思議?」
「そー、二人で夜行ったときは行けたのに、真実と3人だと、行くために曲がった通り自体が全然みつかんないの」
「そうなんだよねー、でも写真とかそこで買ったカップとかは残ってるし、ホントに不思議としか言いようがない、一応科学者の端くれとしてはそんな魔法みたいなお話は認めたくないんだけどさー」
「へー、迷い家みたいなものなのかな?」
「マヨイガ?」
「そう、
そこで、ヤチヨは記憶を探るように人差し指を口元に宛てて中空を見つめるように考え込んだように言葉を切った。
「あーえっと、貧乏で無欲な青年が無人の豪邸にたどり着いたんだけど怖くなって何も盗ることなく逃げ帰ったら、ある日川上からどんぶらこって立派なお椀が流れて着て、んで、それは米を計れば無限に湧き出る魔法のお椀だった! みたいな?」
「あっ、それ私も聞いたことあるかも、欲深な場合の話もあったよね?」
「そうそう、今度は欲深な娘が見つけて、怖くなって逃げかえるところまではおんなじ、けど、その後、裕福になったって話を思い出して婿を連れて行こうとしたけど忽然と豪邸は無くなってて、結局何も得ずに裕福にもなれずじまいだった、めでたしめでたし、面白いお話だよね」
欲するものは招かれず、招かれるものは欲さない。
あの夜、店主に聞いた話のままだ。
ま、ちゃっかり中で珈琲飲んでるし、なんだったら
「えー、じゃあかぐやたち二度と行けないってこと~?」
「かもねー、でもヤッチョ興味湧いたな~~、行ってみようよ! ね、彩葉!」
「じゃあ、挑戦してみますかー、ダメだったらBAMBOOでも行く?」
「えっ、あそこまだやってるの? 彩葉がバイトしてたところだよね?」
「うん、この前通りがかったらやっててびっくりした、さすがにメンバーは変わってそうだったけど」
この辺りは店の入れ替わりが速いからマジでびっくりした。
久々にタコライス食べたいしなー、そういえばあの猫の店の方のしょっぱい方のメニューは何だっただろうか、カレーがあったのは覚えているが。
タコライスがあればちょうどいいけど……。
「カフェ探して、カラオケ行って……あとなにする? カラオケ耐久12時間?」
「声枯れるでしょ……」
指折り数えたかぐやが、無茶苦茶なことを言っていたが、かといって、住んでるからこそ特段行きたいところと聞かれると困ってしまう。
買い物って言ったって、ツクヨミには持って帰れないしね。
「ヤチヨは? どこ行きたい?」
「んー、あっ! じゃあかぐやのご飯食べてみたいな!」
「かぐやの?」
体験しか持ち帰れないとはいえ、食べると言っても、外食ならもっとレパートリーがあったと思うが、意外な選択だ。
「んお? 何する? 寿司握っちゃう? 釣るところから」
「カラオケとカフェはどこ行ったんだよ……」
かぐやのボケに即座にツッコミを入れた。
放っておくと本当に当日に漁船をチャーターしかねない。
その様子を楽しそうに見ていたヤチヨは、何か思いついた風に言った。
「中華! 中華食べたいなー」
中華かー、そういえば最近食べてないな。
そうだ。
「あっ、じゃあ私、久々にアレ食べたい、大葉餃子」
「アレか~~」
かぐやの作る料理はジャンルによって傾向があり、スタンダートなレシピが多い洋食や和食と違って中華は創作系が多く、言い方は悪いが中身の自由度が高い餃子は結構玩具にしていた、チョコとバナナ入れたりとか。
私はというと、その中でも大葉餃子は個人的に結構お気に入り、一緒に出てきた味噌餃子は微妙だったけど。
「よっし、んじゃ、帰り道に買い出しして帰ろ? 今、冷蔵庫はお鍋の具材しかないし」
「あー、大丈夫?」
「ま、お肉は冷凍しなきゃだけど、野菜は行けるっしょ」
「ごめんね~~」
「へーきへーき、和食続きは彩葉も飽きちゃうっしょー?」
「別にそんなことないけど……、かぐやの料理好きだし」
「えへへー」
「ふふっ、いいなー」
私とかぐやのやり取りをなんだか羨ましそうにしているヤチヨを見て、ふとアイディアを思いつく。
「あ、そうだ、ヤチヨ、一緒に餃子作らない?」
「おっ、いいね~」
「いいの?」
「マニュピレーターのテスト! 意外と難しいんだから餃子包むの、ましてやそのボディ越しにならね」
「ねー、かぐや最初全然できなくてさー、ね! ヤチヨ!」
「ねー」
「一時期出てたニラ入りハンバーグの正体はそれか……」
それが今では皮から作ってるんだからすさまじい成長速度だ。
「さて、明日の予定も決まったし、ヤチヨ、ボディの電源落とすね」
「うん! じゃあ彩葉、かぐや、また明日!」
「まったねー」
手を振るかぐやを見ながら、コマンドを打ち込むとカクンと力を失ったヤチヨの体を受け止める。
あっ、そういえば服着替えさせるの忘れてた。
「せっかくパジャマ持ってきたんだし、着替えさせますかー」
「眠れる美女の服をはぎ取るとは……、彩葉えっちだね? へーい! ばっちこーい!」
「やらないって……、てか、かぐやがやって? 自分の体みたいなものでしょ?」
「んー、やってもいいけど……、彩葉にやってもらったほうが喜ぶと思うよ?」
「なにそれ」
「たぶんね!」
かぐやもヤチヨも偶によくわからないことを言う。
ま、いいか。
「じゃあかぐや、腕持って、私そのまま脱がせて着せちゃうから」
「えー! 色気が無い! なんか介護!」
「そりゃそうでしょ意識ないんだから、ほら! 早く!」
「おもってたんと違うな―」
「色ボケかぐや」
「えー! なんで!?」
明日の予定に胸を膨らませて、夜は更けていった。
次話がお出かけなのか、他の話が挟まるのかは謎です。
なぜならどちらもプロットしかないから……。
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