日本で一番、月に近い場所   作:五宝合体竹取ロボ

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前半曇らせ注意。

前話の更新遅れのお詫び連日更新。


【蛇足】酒寄彩葉は月の夢を見るか?

☽000☾

 

 

 暗闇の中で虚空に見える輪郭をなぞる。

 手からは力が抜け、ビジネスバッグがごとりと床に落ちた。

 ヤチヨが去った後、かぐやの残り火での配信者生活で何とか維持していたこの家も、新米弁護士の給与ではもはや ”あのお金” に手を付けなくてはならないところまで来てしまった。

 

 かぐやの卒業ライブを境に急激に露出を減らしてやがてそっと消えたヤチヨの影響か、それとも単にブームが過ぎたせいなのか、急速にしぼんでいくツヨクミはもはや収益という面では頼りになる存在ではない。

 

 あの夏から6年。

 失ってしまったものは指折り数えられても、手に入れたものは手のひらで掬えるほどもない。

 

 東大法学部在学中に予備試験と司法試験と取ってみても、結局、お母さんにとっての金メダルとはなりえなかった、だから院に行かずにそのまま司法修習に出た。

 兄はKASSENのサービス終了とともにFPS系でプロチームに入ったようだが、そちらが忙しいのか今はほぼ連絡を取っていない。

 ツクヨミという場が消えてしまったせいか、真実と芦花も昔に比べたら疎遠になった、真実に至っては新婚だしね。

 

 頼れるところもない(金銭を他人に頼る気もないが)私が、自分だけの力でこの家を維持するための一番簡単な方法は、あと1,2年今の事務所でノウハウを学んで即独立し収入を安定させることを目標に、開設資金とその間の家の維持にかぐやのお金に手を付ける事。

 もしくはおとなしく相応の家に引っ越すか。

 

 2つの夏の残光のどちらを切り捨てるか。

 

「もう、潮時なのかな……」

 

 答えてくれる声は、当然ながら無い。

 

 

☽001☾

 

 

 ついにかぐやのお金に手を付けることを決断した夜から4年。

 珍しい在学中の司法試験合格からの学科卒での開業弁護士ということで、メディアでパンダのような扱いを受けながらも、そのおかげか案件も増えて事務所も安定してきた。

 ライバーの経歴で名が売れてたというのもあったのだろうか、主にかぐやのせいで本名バレしてたし。

 

 かぐや。

 私のかぐや。

 もう去ってしまった私の片翼。

 

 この10年間ずっとそのままにしていたかぐやの部屋で、すっかり定位置になった跳び箱の上に腰掛けて、わずかに残った残渣を追う。

 

 今も耳をすませばあの弾む太陽のような声が聞こえる気がして耳を澄ませてしまう。

 

『彩葉! 今日何食べたい?』

「かぐやが作ってくれるものなら、なんでも」

 

 そう言うと幻影は困ったような顔をして腕を組む。

 まるで献立に悩む主婦みたいで笑っちゃったんだっけ。

 

『えー、そうゆうのが一番困るんだよなー、あ! じゃあパスタでも作っちゃう? 麺から!』

「何時間かかるのよ」

『んー1時間ぐらい? ま、ほとんど休ませてるだけだから一緒に歌ってたらすぐ過ぎちゃうって!』

 

 かぐやは即興曲の天才だった。

 私がメロディを作れば、日々を歌詞にして歌い上げる。

 私と違って、きっとその視界で見る世界はきらきらだったんだろう。

 

「私も歌うの?」

『もち! ねー、おねがーい、彩葉の歌きかせて~~?』

 

 せがまれることもあったけど、かぐやのプロ並みに近づいていく歌唱力と違って、私の歌声なんかせいぜい女子高生のカラオケだったから嫌だった。

 でも、聞いてくれたら毎回目を輝かせて褒めてくるから、そんなに嫌じゃなかった。

 

 虚像と会話していると窓から差し込む月の光が右手のブレスレットをきらりと照らした。

 溢れる涙を気合で抑えてのろのろと階段を下り、ベランダを目指す。

 

 キッチンにたどり着くと、パスタだのラーメンだのを作るときに、なぜか毎回、私にやらせてた製麺機が目に入った。

 今や埃をかぶっているガラクタは、使おうと思えば丸洗いしてから油を注さねば動かないだろう。

 

『あっ! 動かない! えーまじかー』

「私ひとりじゃ、つかわないしね」

 

 今の惨状を見たらこう言うのだろうか。

 

『えー! 絶対麺から作ったほうがおいしいって!』

「乾麺も茹でなくなったなぁ」

 

 学生の頃はバイトもして勉強もしてるのに自炊もできていたが、働き出してからは徐々にその回数も減った。

 1食100円で抑えてたなんて、信じられない。

 

『あっ、じゃあかぐや、彩葉の節約パスタ食べたい! 1食100円のやつ!』

「そんなこともやってたっけ」

 

 パンケーキで懲りたのか、主に自分で作っていたが、たまに節約飯のレシピをせがまれたこともあった。

 ま、えーそれ、おいしいの? みたいな最終評価だったけど。

 

 手早くグラスに氷とウィスキーを入れて、居間に転がる折り畳み式のキャンプチェアも持ってベランダに出る。

 高さのせいか強めに打ちつけてくる夏の風は涼しく心地が良かった。

 

『んー! やっぱここの眺め好き』

「東京の夜景は残業の光なんだって」

『えー、夢なくね? つまんなーい』

 

 つい、いじわるを言ってしまう。

 そのたびにコロコロ変わる表情が見たくて。

 

「一皮むけばそんなものなのですよ」

『でも、キラキラだから好き』

「そっか」

 

 風になびく金の線を目で追おうとするが、幻と消えた。

 

 適当にチェアを組み立てて、座りながら月をみつつ指でステアしたウィスキーで唇を湿らせた。

 強い酒精が舌と鼻を焼く感触を感じながら、小さく歌いだす。

 耳に残るハミングに乗せながら。

 

 かつては、かぐやに向けたReplyの2番を歌っていたが、いつからかただのカラオケになってしまった。

 

 酒を片手に一曲だけ口ずさんで、そして戻ってひと眠りするルーチンワーク。

 

 うーん、そうだ、今日はThe Moon Will Singにしよう。

 

 「Tell me once again」

 

 もう一度だけ、私に声をかけて。

 

 もう30年以上前のこの曲を見つけた時はつい笑ってしまった。

 私の思いは、30年前から敷かれたレールの上の些事だったんじゃないかとまで思う。

 

「My feet knew the path」

 

 私の歩みは道を知っていた。

 かぐやなんて名前を付けた時に、こうなることはわかっていたのに。

 

「I never gave a single thought to where it might lead」

 

 その道がどこに続くなんて考えたこともなかった。

 

「All those empty rooms」

 

 すべてが空っぽの部屋たち。

 女々しく残渣をかき集めたガラクタ箱。

 

「Ten years worth of dust and neglect」

 

 10年分の埃に埋もれて。

 

「The moon will sing a song for me」

 

 月は私に歌ってくれる。

 毎晩、届くはずもない歌を歌う私のように。

 

「I loved you like the sun」

 

 太陽みたいなあなたを愛していた。

 破天荒で、まっすぐで、太陽みたいに明るくて、キラキラの私のかぐや。

 

「With no light of my own」

 

 今や照らす光は無く。

 

「I shine only with the light you gave me」

 

 私はあなたがくれた光の中でだけ輝けた。

 

 

☽002☾

 

 

『―――彩葉、起きて、風邪ひいちゃうよ?』

「ん……」

 

 まどろむ意識が浮上する。

 歌い終わって残ったお酒を飲みながら月を見ていたら気が付いたら寝落ちしてたらしい。

 これで風邪でも引こうものなら、最近はあまり電話がかかってこないお母さんから鬼電が着かねない。

 

 立ち上がって片付けをしているときらりと空が光った。

 流れ星だ。

 

『お! 流れ星だ! 彩葉なにお願いした?』

「お願いかー」

 

 流れ星に委ねたお願い、10年前はお金が欲しいと言った。

 言ってしまった。

 どんな形であれきちんとお願い ”だけは” 叶えてくれた星屑。

 

『かぐやはね! パンケーキいっぱい食べたいって』

「食べに行けばいいでしょ」

『あ! そっか! しまった~~』

 

 結局、全然二人でパンケーキ食べに行けなかった。

 私は夏期講習とバイトで忙しかったし、ずっと続くと思ってた日々の中でわざわざ行く気にもならなかった。

 かぐやは芦花と真実を誘ってどこかに行っていたみたいだが。

 

「かぐやとまた会えますように」

 

 私の願いはただ一つ、他のすべてを差し出したっていい。

 それが叶わなくたって、願うだけならタダだ。

 お母さんは神頼みなんて阿呆のすることだなんて言うけど。

 

 自嘲的な笑み浮かべて、室内に戻る。

 どうせ敵わない願いで体を冷やすより、明日の内容証明の文面を考えながらさっさと寝たほうが建設的だ。

 キャリアの大先輩のお母さんの言う事はやっぱり正しい。

 

 そんなことを考えながらソファーに折りたたんだ椅子を放り投げた私は、ブレスレットの怪しげな発光に気付かなかった。

 

 

☽003☾

 

 

 突然だけど、落雷を半径10mで受けたことはあるだろうか?

 私はない。

 

 でも多分、どんな音? という質問になら、今なら答えられるかもしれない。

 

 洗面台でメイクを落として、いざお風呂に入ろうと服を脱ぐために手をかけたタイミングで、居間の方から轟音が鳴った。

 それこそ落雷や爆弾でも爆発したみたいな。

 

 「な、なに!?」

 

 慌てて駆け込んだ居間はめちゃくちゃになっていた。

 ベランダに面した窓ガラスはすべて粉々だし、ソファーはひっくり返ってるし、まるで外から爆撃でもされたんじゃないかってぐらい。

 

 でも、そんなことよりも、目につく異常が一つあった。

 

 TV横に安置されていた、トーテムポール。

 さっきまで木の色一色だったはずのソレが、七色に光り輝いていた。

 

 「ゲーミングトーテムポール……?」

 

 ゲーミングトーテンポール、ゲーミング電柱よりもひどい響きだ。

 意味不明さが2割増し。

 

 妄想のかぐやとの会話遊びのせいでついに本物の幻覚まで見るようになったのか?

 確かに、だんだん本当に病んでくってネットで見たけど……。

 

 そんな考えも、トーテムポール以外の異常事態を見ると否定できるような気がしてくる。

 これを全部記憶が吹き飛んでる間に狂った私がやったとは考えたくないが……。

 

 もしも本当に光っているのならなんて浮かぶ期待に高鳴る鼓動を、ついに私が一線を越えたという冷静な分析で蓋をして、トーテムポールの前を塞いでいたデカい信楽焼(窓ガラスはぐちゃぐちゃなのにこいつは無傷だった、なぜ?)を床に散らばるガラスを踏まないようにどかす。

 

 トーテムポールは、私が目の前に立つとスモークを吐き出した。

 まるでいつかの再現のように。

 

 「うおっ」

 

 続いて、にゅっと光る木製置物に竹の取っ手が生えてきた。

 マジか、ここまで一緒なら、本当に期待していいんだよね?

 

 おそるおそる取手を引っ張って開けるとそこには―――。

 

 

☽004☾

 

 

 バクバク言う心臓の音で目が覚める。

 今日も潜り込んできた宇宙人を起こさないように布団から抜け出して、机にたまたま置きっぱなしになっていたペットの常温の水を飲み干す。

 

 「にしても、変な夢だったな……」

 

 大概夢なんて、起きれば3分も経たずに忘れてしまうモノだが、今も色濃く思い出せる。

 二つ並んだ残光を選んで切り捨てるときの身を切るような痛みも、夜のベランダで一人歌う虚しさも。

 

 きっとあの時、FUSHIを見つけられなかったときの私の姿。

 あるはずもない金メダルを探して大学まで行って、結局何も得なかったありえた未来。

 

 脳に強く焼き付いたあの孤独感の残響に、今の自分の状況が夢か何かで、本当は一人ぼっちで幻影に話しかけてるんじゃないかと急に不安が押し寄せてきて、布団に戻りかぐやの体温を確かめる。

 

 「かぐやは本当にここにいるよね……?」

 「………」

 「いなくなったりしないよね?」

 

 そう後頭部に向かって語り掛けるとモゾモゾと体を回転させてこちらを見た。

 ぱっちりと開いた瞳と目が合う。

 どこからかはわからないけど、起こしてしまっていたらしい、悪いことしたかな。

 

 「ふふ、甘えんぼモードだ~、いいよ、かぐやちゃんの胸に飛び込んでみ」

 「ん……」

 「お、素直、めずらし~~」

 

 掛布団の下で抱きしめた華奢な体は、しっかりとした温かさを帯びていて、あの孤独が夢であったと教えてくれた。

 

 「怖い夢でも見ちゃった?」

 「うん」

 「そっか……、じゃあかぐやが子守歌、歌ってあげる」

 

 まるで母が子にするように、安心させるようにとんとんと体を叩かれる。

 鼓動のビートだ。

 

 「お願い……」

 「まじ弱ってんね~、こんな彩葉初めて見たかも、そんな怖い夢だったの? かぐやに聞かしてみ?」

 

 かぐやの胸に伏せた頭の上から降る優し気な声に、たどたどしく答える。

 

 「あのね」

 「うん」

 「かぐやが居なくなっちゃったあと、ヤチヨと出会えなかった夢」

 「あー、FUSHIが案内しなきゃ、……そっか」

 

 納得したようにうなずくのが振動で分かった。

 

 「それで、私は弁護士になってて」

 「第一志望だったもんね」

 

 懐かしむように相槌を打つかぐやのペースに乗せられながら、夢の続きを思い出す。

 そしてそれから……。

 

 「それで窓ガラスが割れたと思ったらゲーミングトーテムポールが」

 「ん??????」

 

 あの虹に光る木造柱状物の中に入ってたのは、結局何だったのだろうか。

 ちょうど扉を開ける寸前で目が覚めてしまったのでわからず仕舞いだ。

 

 「それでね……」

 「ちょちょ、ちょっと待って、ゲーミングトーテムポールって何?」

 

 もぞもぞと私の目線まで降りてきたかぐやが疑問符をその大きな瞳にいっぱいに浮かべて聞いてくる。

 聞かれても、七色に光るトーテムポールなんだから他に言いようがない。

 というか、ゲーミング電柱から出てきたかぐやがそれを言う?

 

 「テレビ台の横のやつが七色に光ってて……」

 「どゆこと~~?」

 

 

☽005☾

 

 

 すっかり目が覚めてしまったらしいかぐやに連れられて、キッチンのカウンターで暖かいハーブティーを御馳走になったら、すっかり落ち着いてなんだか眠くなってきた。

 やっぱり人間、パニックになった時は暖かいものをお腹に入れるのが一番だ。

 

 「お茶ありがと、じゃ、明日も早いし、私、もう寝るね」

 「ちょいちょいちょい、じゃ! じゃなくて!」

 

 お礼を言ってカウンターの固定の椅子から立とうとすると、正面でティーポットを弄っていたかぐやに慌てて呼び止められる。

 

 なんなんだろう、起こしてしまった私も悪いが、明日(というかもう今日と呼んでいい時間だ)は平日だし、少しでも寝ておきたいんだが……。

 

 「ふぁ……、なに? いいからもう一緒に寝よ?」

 「それは大歓迎だけど、……いや違くて、何がどうなってゲーミングトーテムポールになったの?」

 

 あくびを噛み殺しながらの私の言葉に乗せられそうになって体を泳がせるが、すぐに首を振って疑問を口にする。

 その動きに追随して宙を舞う髪の流れを目で追いながら、きれいだな、などとぼんやり思う。

 私もかぐやも芦花直伝のヘアケアをしているから同じ環境のはずなのに、なぜこうまで差が出るのか。

 

 ていうか、せっかく落ち着いたのに思い出させるのかコイツは。

 

 「えー……、気持ちのいい夢じゃないし、もう忘れちゃいたいんだけど……」

 「このままじゃ気になってかぐや寝らんないじゃん! ちょっとだけ! 15分だけ! 晩御飯に彩葉の好きなものなんでも作ってあげるから! ね?」

 

 寝不足の代償か。

 かぐやが作るご飯は大体おいしいし(実験作もなんだかんだ食べれる出来)正直何でもいいんだが。

 

 うーん、ちょっと困らせたくなったな。

 ほいほい聞いてやるのもなんか癪だし、というか、別に今じゃなくて、18時間後ぐらいに聞いてくれれば普通に答えるのに。

 

 あ、そうだ、アレがあった。

 

 「じゃあ150時間煮込んだ牛タンシチュー……」

 「え゛あれめんど……」

 

 ふはは、結局、演奏の対価に作る羽目になって、自分から提案した手前、引くに引けなくなって5日目には飽きて死んだ顔しながら寸胴かき回してたのを覚えてるんだぞ。

 

 さすがのかぐやもこれであきらめるだろう、かぐや姫ならぬ彩葉姫の難題ってね。

 効果の絶大さは、私の言葉にひきつった顔が物語ってる。

 

 「じゃあ私、寝るから」

 

 過去の経験から工数を計算してしまったのか、絶句してしまったかぐやを置いて今度こそ席を立とうとする。

 

 「わかった……、わかったって! かぐやちゃんシチュー作るの大好き!」

 

 そんな私を慌てて引きとめるかぐや。

 ほんとか? いつものキラキラ笑顔がずいぶん引きつってるぞ?

 

 たく……、そこまでして聞きたいならしょうがないから答えてやるか。

 別にあの夏で食べたトロトロの絶品シチューに釣られたわけではないが。

 

 「はぁ……、で、どこから聞きたいの?」

 「最初から!」

 

 

☽006☾

 

 

 「イマジナリーかぐやちゃんに話しかけてるとか、夢の中でも彩葉、かぐやのこと好きすぎない? ベタ惚れってやつ~~? ね! 大好きって言ってよ!」

 「はいはい、大好き大好き」

 「心がこもってない! 目を見て言う!」

 

 照れくさくて面と向かってなんか言えるか。

 どうせニマニマだらしなく笑ってるであろう宇宙人の顔を見ないようにしながら、今度こそ席を立つ。

 階段へと歩き出そうとすると、かぐやが気になることを言い出した。

 

 「まったくー、恥ずかしがり屋なんだから~~、んお? マジであるじゃんその曲」

 「えっ、ほんと?」

 「うん、ほら」

 

 食卓を回り込んで私にスマホを見せてくるかぐやから、ありがたくスマホを受け取って表示されている画面を注視する。

 スワイプして歌詞を表示すると、あの夢のままの歌詞。

 

 夢の中の私は聞きなじみのある曲のように扱っていたが、生憎、私は聞いた心当たりがなかった。

 

 「え……、私聞いたことないんだけど……、こわ……」

 

 なんだか曲自体が得体のしれないもののように感じて背筋が冷える。

 すると、かぐやが腕を組んで顎を引いて何かを思い出そうと目を顰める。

 

 「うーん、誰だっけなー、神功ちゃん? いや違ったか?」

 「?」

 「いやね、昔誰かに聞いたんだけど、夢って別の世界の自分の光景を見る時があるんだって」

 「オカルトでしょ?」

 「まぁね~」

 

 別世界の私か。

 たった一個のピースを掛け違っただけで、今のこの暖かな部屋は埃にまみれた寒々しいカラの部屋だったのかと思うと、思わず身震いする。

 

 「てい」

 「えっ、なに?」

 

 ぼんやりしてると、握っていたかぐやのスマホを取り返される。

 

 「せっかくだから聞いてみようと思って! へー、しっとりとしたギターで良い曲じゃん、かぐやも久々にギター弾いてみよっかなー」

 

 スマホから流れるのはやはり聞き覚えのある旋律。

 かぐやの昔話が本当のこととは思いたくないが……。

 

 てか、ギターって。

 この前、部屋に入った時、埃被ってたの見たんだけど。

 

 「アレ、コードの半分も覚えないうちに放り投げてなかった?」

 「ふっふっふー、いつまでも前のかぐやちゃんのままと思わないことなのです」

 「で、覚えたの?」

 「明日覚える!」

 

 そんなことを話しているとちょうどサビに差し掛かった。

 あ、そうだ。

 

 「I love you like the sun」

 「はえ?」

 

 そう、かぐやの眼を見ながら、スマホから鳴る歌詞に合わせて言って、部屋へ向かうために階段をすたすたと登る。

 追いつかれないように。

 言い逃げだ。

 

 「はっ! ねー! 彩葉ー! 今のどういう事ー!」

 

 私の言葉に数秒フリーズしてたのか、階下からどたどたと私を追いかけるかぐやの足音が聞こえるが、足を止める気はない。

 

 「しらなーい」 

 

 私はそのまま逃げ帰るように部屋へと急いだ。

 明るいリビングじゃすぐわかってしまうだろう頬の赤みを見せないために。

 




GWはちょっとPC触れなさそうなので、次の更新はしばらく後になります、ゴメンナサイ!

DICEの超かぐや姫コラボでエナジーを吸収して戻ってまいります。

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