クドかったらゴメンなさい。
☽000☾
私のほんの少しの寝不足の対価として手に入れた、寸胴半分を占めるタンシチューは、その味がいくら絶品とはいえ、うら若き乙女2人では消化しきれるものではなかった。
「うわ、すっごい、これめちゃうまじゃん、店出せるよ~店、てか通いたーい」
「彩葉が寝落ちするたびに、かぐやのご飯食べたい……って言ってた気持ちわかるわ~」
ということで、増援を呼んだ。
男3人の胃袋を使うことも検討したが、かぐやの料理食べさせるのもなんかイヤだし……、ということでいつもの真実と芦花だ。
前々から私の話を聞いて、かぐやの料理が気になってたらしいグルメさんの真実は即答でOKして、芦花は何とか都合がついたといった格好だった。
女四人、久々の女子会だ。
というか、何か聞き捨てのならない発言があったんだが。
「えっ、私、寝言でそんなこと言ってたの!?」
「ねー」
「ねー」
そう言いながら二人通じ合うのを見て、顔から火が出るかと思った。
人前で寝落ちしたのなんか数えるほどしかないのに、そんな共通認識ができるぐらい言ってるって……、マジか……。
「そなの? 彩葉?」
「いや、知らん知らん」
不思議そうな顔をしたかぐやに聞かれるが、なんとかすまし顔を維持しながら手を振って誤魔化す。
というか、聞いてくるなよ、ホントなら恥ずかしいし……。
いくら
研究に行き詰った時とか、あの温かな手料理が恋しくなるのは仕方のないことだろうと言い訳をしてみる。
店で食べたって、自炊したとしても、舌にベールでも掛かったように味気なかったのだ。
「パンもこれ自分で作ったの?」
「お? わかっちゃった? やっぱ真実の舌はごまかせないな~」
なんだか照れくさそうに頭を掻くかぐや、その姿を見て思わず半目になる。
何、私が作りましたみたいな顔してるんだ。
悟りでも開きそうな無の表情で脚立の上に立って寸胴を回してる横で、発掘したホームベーカリーの説明書を読みながら分量計り入れたのは私だろ! まったく……。
「捏ねたの機械だし、成型したのも焼いたのも私でしょ……」
呆れながら言うと、真実が小さく拍手で賞賛してくれた。
「おー、彩葉パンだ~、これもおいしー」
「おかわり貰ってもいい?」
「いっぱいあるから食べて食べて」
確かに焼きたての自家製パンだからおいしいのは事実だけど、そんなおかわりするほどの出来か? まあでも、自分が作ったものだし喜んでもらえたならうれしい。
あと、彩葉パンってなによ……、変な名前つけないでよ。
話の流れに釣られて、キッチンに目を向けるとパンの山と四角い機械が見える。
説明書の分量どおりにやったら大量にできてしまい、今はキッチンカウンターで粗熱を取っているパンたちと、それを捏ねたホームベーカリー。
私はどっちかって言うとご飯派というか和食が好きだし、かぐやもそれに合わせてか和食寄りのメニューが多い。
つまり何が言いたいかというと、あのホームベーカリー、次、使うのいつになるやら……。
「また変なの増やして……、パン以外に何に使うのよ……」
「お餅捏ねれるって!」
「正月まで置き物かい」
私の小言に元気よく返答するかぐや。
最近はあんまり出番のない製麺機など、数か月後に使えばいい方のガラクタは日に日に増えてく、配信で使ったモノもそうでないモノも。
そう、なんか今日の朝からガサゴソしてたかぐやが、押入れから引っ張り出して来たアレのように……。
「にしても、しばらく見ない間にずいぶんモノ増えたね、アレ配信で使ってた奴?」
「おー、見てくれてたんだー、そだよー、チョコだけじゃなくてチーズもいけるんだよね、超お買い得だったのー」
配信ではチョコだけ流していたが、買うときに連れ回された家電量販店でせっかくだからどっちもが良い! と店頭で言い出したかぐやに流されるままに買ったマルチファウンテンマシン。
チーズとチョコぐらいしか流すもの無いのにマルチと名が付いてるところがなかなかに強気だ。
まあ、例に漏れず配信外では押入れの住人なのだが。
「お、そうだった、あのさ、チーズ買ってあるんだけど! やる!?」
思い出したように目を輝かせながら提案してくるかぐや。
朝っぱらから何を漁っているんだ? と思ったがこれが目的だったか。
まあ、一回使ったきりじゃ、こいつも成仏できないだろうしね。
「おっ、いいねー、せっかく彩葉パンあるしねー」
元立川一の食いしん坊ガールの賛同を得て予定が確定した。
てか定着してるのか、その変な商品名……。
真実はともかくとして、かぐやも結構食べるし、健啖家が二人もいれば、ま、大丈夫だろう。
「私はお腹いっぱい、晩御飯かなー、ねえ彩葉、泊っていいんでしょ?」
元からか美容のためか、食の細い芦花はお腹を両手軽く撫でて言う。
別に芦花ならいつ泊まったって構わないのに変なところ律儀だ。
「もともとその予定だったでしょ? そういえば真実は大丈夫だった?」
「んー? 旦那が見てくれるからあんしーん、ま、一日ぐらい大丈夫っしょー、仕舞ってたベビーカメラ引っ張り出して来たし? なんかあったら呼べって言ってあるし?」
厳しいかと思いつつダメ元で誘ったらあっさりOKが出て、正直、驚いた真実に聞くと、見せつけるようにスマホを差し出してきた。
画面を注視すると、ソファーで寛ぎながら子どもたちをあやす旦那さん(あまり話したことはないが結婚式で顔は知ってる)の姿。
ベビーカメラとは言っても実質監視カメラだな……。
「監視してんじゃん……」
「信頼はしてるけど信用はしてない的な?」
「そーそー」
茶化すような芦花の言葉に軽く答える真実。
ウチのかぐやは(掃除以外は)割と信用してるから、あんまりない感覚だ。
やっぱり結婚すると、変わるものなんだろうか。
「まー、子供が出来たらわかりますよ~」
「子供かー」
真実の実感のこもった言葉にほのぼのと間延びした声で言う芦花。
子無し確定兄妹の片割れの私が言うことじゃないが、芦花はパートナーとかいないんだろうか。
身内贔屓かもしれないが、女の私から見てもキレイだし、一緒にいて楽しいし、バリバリ働いてるしで優良物件ってやつだと思うのだが。
逆に高嶺の花過ぎて気が引けるってヤツ? 告白をされることはあっても異性と付き合ったことのない私には難しい話だ。
にしても、子供かー。
「………」
おしめも変えてやった私の赤ちゃんに目を向けると、興味無さそうに足をぶらつかせて遊んでいた。
興味ないって言ったって……、もうちょっとこう……。
「んお? おかわりあるよ?」
すると、私の視線に気づいたか小首を傾げて聞いて来た。
コイツは……、ま、いいか……、宇宙人だし……。
「はぁ……、半分だけ頂戴」
「りょー」
思わず出たため息は、綿あめのように軽い返事で吹き飛んでいった。
☽001☾
「ねえねえ!」
「どしたの?」
「トランプやろ!」
真実と手分けして後片付け(と言っても軽くゆすいで食洗機に突っ込むだけだが、システムキッチン様々だ)をしていると、どたどたを階段を駆け下りてきたかぐやが、どこぞの副将軍様の印籠のようにトランプのケースを掲げてきた。
「お、いいね~、彩葉は?」
「やりますかー、ルールは?」
「超ウルトラスーパー大富豪!」
エプロンで手を拭いながら近づく。
夜までまだしばらく時間あるし、ちょうどいいだろう。
せっかく四人集まったのにツクヨミに行くのはもったいないしね。
その初耳の形容詞山盛りゲームがなにかは知らないが……。
「なんじゃそりゃ……」
「特殊カード全盛り!」
私の当然の疑問にやまびこが元気よく帰ってきた。
大富豪といえばカードに特殊効果をつけるローカルルールが多いのが特徴なんだっけ。
「おー、大貧民かーおもしろそー、でも私、8切りぐらいしか知らないな、芦花は?」
「7渡しとか?」
「私もそんぐらいかなー、イレブンバックは元からだっけ?」
真実の言葉を補足した芦花に乗っかる。
11を出したときの効果ってナチュラルに受け入れてたけどローカルだったっけ?
最後にやったのが遠い昔過ぎてもう記憶も曖昧だ。
「あーどっちだろ」
芦花も知らないようだった。全盛りならどっちでもいいか。
「あとスペ3とー、5飛び、9リバース、10捨て、縛りと階段!」
聞き慣れたものや逆にそうでもないルールたちが飛び出してくる。
あー、ジョーカー単体出だしたときのスペードの3。そういえばそんなルールもあったな。ていうかあれローカルだったんだ。
あとは縛りは同じスートのカードを出したら以降は同スートしか出せないルール、これも私たちがやるときは確かデフォだった。
階段は同スートで連続する数字3つ以上で3ペア扱いだっけ、名前だけは知ってる。
「5と9はUNOみたいなモノだろうけど、10捨てって? カード捨てるの?」
「そー、捨て場に直で捨てちゃってゲームから除外するんだって」
「だって?」
大富豪博士の突然の伝聞系が気になって聞き返す。
「いやさー、配信でいろいろ教えてもらったらやりたくなっちゃってさー」
照れくさそうに頭を掻くかぐや。そういうことね。
「あー、わかるかもー」
真実も最近は抑え気味だがライバー経験も長いので心当たりがあったんだろう。
ゲームと言うより、リスナーのおすすめの店に行くみたいな話だろうけど。
指折り数えると、呼ばれてない数字が気にかかり聞いてみた。
「あれ? 4と6は?」
「4止めと6戻しなんだけど、なんか微妙だなーって」
嫌なことでも思い出したかのように渋い顔をするかぐやの姿に、3人揃って不思議そうに顔を見合わせる。
「どんな効果?」
「8流し前に4のペア出せば自分が流したことになるのと、イレブンバック中に6が出せれば効果が無効になるやつ」
代表して私が聞くと、すんなりと答えてくれた。
なんか見たことあるな、その効果。
「あー、打消しかー」
そうそう、配信で別の対戦カードゲームをやるときに、かぐやが何やら
「いよいよカードゲームじみて来たな……」
「彩葉そういうのやるの?」
嫌な記憶が頭をよぎり、かぐやの渋い顔が感染った私に芦花が聞いてくる。
私はやらないけど……。
「ぜんぜん、かぐやが前にちょっと配信でやってたの横から見てたんだけどさ……」
「台パンしてそのまま配信落ちた奴?」
「あー、ショートで切り抜き流れてた奴だー、私も見たー」
「コイントスで先行取られたらそのままロック? で何もできないとかあのゲームバランス悪いんだけど! みんな誘発持ってないのが悪いとか言うし! 意味わかんねー!」
あのときは大変だった。
主にクソゲークソゲー言いながらサーバーをクラッキングしようとするかぐやを止めるのに。
負けず嫌いのかぐやが荒れるのは予想の内だったけど、暴れ方が想定外過ぎる。
仮にもツクヨミの管理人だったんだよね……?
片割れのヤチヨと最近よく関わるからか、かぐやの悪童っぷりの落差に時々驚く。
あのおしとやかさは何処に置いてきたのか。
まあ、私の眼の前だからこそ素を出してくれてるんだと考えると、ちょっぴり誇らしいのは内緒だ。
「こらこらこら」
「案件来なくなっちゃうよー?」
「ぶー……」
諌められながらも頬をふくらませる金の悪童は未だ納得がいってないようだった。
☽002☾
「よっしゃ! カード配るよー……、む? ぬふふ」
「不気味だな……、お、まあまあ」
「んー……?」
「うーん……」
不気味に笑うかぐやと、少し考え込む風な芦花。
真実はだいぶつらそうな表情だ。コレは大富豪だからいいけど、ポーカーだったら大変そうだ。
私の手札は2のペアもあり、ヘマしなかったら余裕を持って勝ちそう。運がいい。
「じゃ、ハートの3だーれだ!」
「私~~」
「じゃ時計回りだからかぐやの番! 6!」
「10捨てで、6捨てるね」
芦花から出てきたカードに重ねていく、かぐやと私。
ダイヤの10を出して、6を混ざらないように少しズラして場に出しつつ処理が合ってるか、不安になりかぐやの顔を伺うが、どうやら正解らしい。
「ぐぐぐ、パース!」
「えっ、早くない?」
「ふっふっふー、余力は取っておくものなのですよ」
悔しげにパスを宣言する真実に思わず聞いてしまう。
10で出せないって相当苦手札が悪いか、ペアばっかりなのか、いずれにしてもだいぶ苦しそうだ。
私の言葉に余裕そうな態度を取り繕うけど、今更遅くない?
「で、ホントは?」
「めちゃ弱い~~、彩葉交換してー」
「するわけないでしょ」
「だよねー」
へにょりと崩れた顔のまま左から縋りつかれるが一蹴する。
「そんな真実に、ダイヤのイレブンバック」
「芦花たすかるぅ」
そんな真実の窮地にウィンクしながら芦花が助け舟を出した。
さすがイイオンナは違う。
「じゃあダイヤの4で縛り!」
「あぁ~~」
「無慈悲な……、私はパス」
しかし、助け舟は空気の読めない宇宙人の無慈悲な攻撃により大破。
勝負事には手を抜かないのは美点だが、もうちょっとこう手心というか……。
「いまだ反撃の時! 3!」
「おー」
「流して、ダイヤとスペードの6のペア!」
しかしそんな展開も読んでいたのか真実の目がキラリと輝く。
当然こんな序盤にジョーカーが出るわけもなく、真実が手番を握る。
「じゃあ私は10のペアで5とQ捨てるね」
「えっQ? 富豪だ! 分けて!」
「もう遅いのです、すでに流れてしまったのです」
「えぇ~」
豪勢な芦花の捨て札をねだるが7でもないし、当然行き場は捨て場。
というか、Q以下しかないってバレちゃてますけど。いいの?
なら、警戒しなきゃなのは、芦花とかぐや。正面の芦花はともかく、5や7で直接的に攻撃が届くかぐやは要注意だ。
でも、芦花も芦花で、手札が強そうだし、どうだろうか。もしそうならかぐやの手札はそこまで強くないハズだけど。
「ぐぐ~~、パス!」
「じゃあクイーンのペアで縛り」
スペードとハートで縛る。
よくわからないかぐやは置いといて、野放しだとまずいのは余裕そうな芦花。
簡単にQを捨ててるあたり私と同等、つまり2かAのペアを持ってると見るべき。
手番を握らせるとそのまま上がられる恐れがある。
スペードの2は私が握ってるし、今Aのペアを出させたならソッチのほうが得だ。
どうだ……?
「ムリ~~」
「私も~~」
「パス!」
「じゃ流して、5のペアって2人だっけ?」
邪魔だった5を早々に捨てる。
コレで最小は8のペア、Aさえ単体で出せれば、革命でも起こされない限りまず勝ちだ。
「そだよ~、ということでかぐやちゃんの番! 7のペア!」
「私がもらうのか、うげ、4とQか、使ったばっかじゃん」
「ぬふふ~」
そんな余裕が顔から出てたか、かぐやから妨害が飛んでくる。
というかQ? 真実並に手札がキツいと見てたけど、読み間違った?
私が把握してないAは3枚、2は2枚。
これらを全部かぐやが握っていた場合は大分厳しくなるが……。
でもそれだと、芦花が余裕そうなのが説明がつかない。
「ま、いいか、じゃあ8のペアで流しちゃってQ」
「あぁ~」
自信満々な顔を早々に8で流してしまって邪魔なQを消費する。
「パス!」
「クローバーのKで縛り、彩葉出せるー?」
挑戦的に笑う芦花に、ちらりと手札を見て、表情筋を引き締める。
まだだ、まだ笑うな。
「おっ芦花ナイス!」
「じゃあ私はクローバーのA」
真実の声援を受けてまんざらでもなさそうな芦花にAを突き出す。
これで手持ちは2のペアとクローバーのJと、かぐやから押し付けられた4。
この場が握れれば私の勝ちだ。
「あちゃー返されたかー」
「何で持ってんの! これはもう無理! ジョーカー! 彩葉以外が持ってて! お願い!」
私の
マナー違反にも見えるけど、これでもう一枚のジョーカー込みで芦花かかぐやが革命をすれば一気に最強の手札だ(多分)。
一番最初の上がりが出ても3位が決まるまで続くロングゲームの大富豪ならでは。
「スペ3! そして8からのKでジョーカー入り革命!」
「げっ」
思わず声が出た。 思わせぶりな不気味な笑いの正体はコレか。
一気に厳しくなってしまった。
「かぐやちゃんナイス! コレで一気に下剋上!」
ワンチャンかけてのジョーカーのロングパス。
こういうのってヘイルメアリーって言うんだっけ?
私とは逆に一気に手札の強さが入れ替わった真実の声は弾むようだ。
「返しは~? いない! 成立!」
しかしかぐやの残り枚数は4枚。
これは……。
「そして、10で9捨てて終わり!」
「しかしまだまだ!」
だけど。
「はい4」
気炎をあげる真実を横目で見ながら、4を出す。
3はスタートのハートの3が芦花から、真実が1枚、かぐやがスペ3。
ラス1を誰が握ってても、かぐや以外の二人の手札の枚数じゃこの場では出せないはずだけど……。
「あー、儚い夢でした……、パス……」
「私もパスかなー」
意気消沈する真実に続いて芦花も降りた。よしよし。
「よっしゃかぐやの番! クローバーの3で流して9で上がり!」
流れるような電光石火でかぐやが勝者となった。ついでに最後っ屁で周り順が反時計回りに反転。
うーん、最後に握ってたのはかぐやだったか。
2/3を外してちょっと不利になってしまった。
とはいえ。
「ここからは2位決定戦なのですよ……!」
「いやきっつー」
かぐやの手札が割れた今、確実に2を握ってるのは芦花。
手札が割れるから今はかぐやに聞けないけど、革命下で通常状態に戻せると思うイレブンバックで2を出して、手番を握るのが今の私の唯一の勝ち筋。
4で番を握るつもりだったけど、まさかかぐやが持ってるとは。
しかし、Jを私が1枚握ってる以上、迂闊に出せば芦花にアシストしてしまう。
厳しい……。
「じゃあ私の番ね、7で真実にコレ上げる〜」
「うわ、Aだ! さっきまであんなに欲しかったのに!」
「欲しそうにしておりましたのでー」
「今じゃないー! ぐぐぐ、5!」
くすくす笑う芦花からカードを受け取って嘆く真実。
しかし出すカードは通常状態ならK相当の5。
だいぶ手札が強そうだ。
「飛ばされたかー」
「うーん、パスかなー」
「お、ついに風が吹いてきた! じゃあAのペア!」
「パス」
「私も」
連続のパスに芦花の顔を伺うが、手札をちらりと見るだけで余裕そうな表情。
ポーカーフェイスで隠したブラフなのか、それとも……。
「よしよし、二人ともペアは無し……、なら……えい! Jのペア!」
来た!
「あっ、ねえ、かぐや革命時のイレブンバックってどうなるの?」
「ん? マイナスかけるマイナスで通常状態だよー」
「へー、ありがと」
「あ、あれ?」
突然息を吹き返して、冷静にジャッジに確認する私の姿を見て、真実が焦る。
しかし、もう遅い!
「じゃあ私は2のペア」
「あー! しまったー!」
「じゃあ流して、Jで上がり」
迂闊さを嘆く真実を横目で見ながら、カードを出し切って上がる。
ジョーカーが全てで切ってる以上、私を止めるすべはない。
「無理! パス!」
「じゃあQで」
「ろ、芦花さん……?」
冷静にカードを出す怪しげに光る芦花の目に、嫌な予感を感じたのか真実が震える声で言う。
「なにかな?」
「後生ですから……」
「えー? J!」
「ぐわー! パス!」
命乞いは聞き遂げられず、見切られた手札では出せないであろうカードの連撃が続く。
「流して、8でもう一回流して、5」
「あー、二人で5使うと相手が強制パスで流しだよー」
「おー、じゃあ流して、Kで」
かぐやの補足で、場のカードを流してのKで連撃は止まった。
でもここでK? 真実に手番渡しちゃったら詰みなのでは?
「あー心臓に悪かった、10出して7捨ててと」
「脇が甘いよー? はい4!」
「えっ!」
ほっと胸をなでおろす真実に芦花が急襲する。
「それでもう一回4!」
「ぱす〜」
「じゃあ2のペアで上がり」
「最強だったのに負けた〜」
おーすごい、真実の手の中で何で返されても良かったからこそのKだったのか、やっぱ上手だ。
3位だけど。
「じゃあ大貧民も決まったし、大富豪の命令で……」
「そんなルールだったんかい」
「ごくり」
後出しのルールに、真実がつばを飲み込む。
ていうかそれじゃ、大富豪じゃなくて王様ゲームじゃん。
「アミューズ作るの手伝って! チーズフォンデュだけじゃ飽きちゃうっしょ?」
「おおー、手伝う手伝う」
そう言いながら立ち上がったかぐやに、真実が追随してキッチンに向かう。
「実はさ〜、トリフ買っちゃったんだよねー」
「えー私使ったことないよ?」
「へーきへーき、かぐやもトリフ塩しかないし」
「あー、あれ便利だよねー」
「ふりかけに混ぜておにぎりにした!」
「美味しかった?」
「それが微妙でさー」
遠くから聞こえる声に思わず頬がゆるむ。
いや、内容は笑い事じゃないのだが。
職場で弁当箱を開けたらギチギチのおにぎりと有機溶剤にも似た香り。
試薬の漏洩かと騒ぎになったのだ。
後で知ったが、トリフの香りにも個体差があり、たまたまハズレ(私にとっては)を引いたらしい。
「ふふっ、じゃあ貧民から、富豪様に献上品がありまして」
「いいよ、別に」
私と同じく、キッチンの会話にクスクスと笑う芦花が、冗談めかしながら何やら紙袋を手に抱える。
手土産だろうか? 別にいいのに。
「はいじゃーん!」
「ワイン?」
取り出したのは緑のガラスに金で封をされたなんとも高そうな風貌の瓶。
「惜しい! シャンパンだよー、彩葉は今のうちに飲み慣れたほうがいいと思って」
「?」
ワインもシャンパンも似たようなものかと思うが、芦花にとっては大きな違いらしい。
というか、飲み慣れたほうが良い? どういうことだろう。
不思議な言い回しに思わず首を傾げてしまう。
「実はですね……、このテタンジェのシャンパン、ノーベル賞で6年連続で乾杯に使われたものでございまして……」
「えっ、高かったんじゃないの?」
差し出してくる瓶に手が伸びるが、来歴を聞き思わず手が引っ込む。
そんな高価そうなもの……。
「ん〜? まあまあ?」
「いやそんなの……」
片手に瓶を持ちながら口元に指を当てて、値段を思い浮かべてるのか宙を見つつ軽く言う芦花。
いや絶対高いやつじゃん。
「かぐやちゃーん! コレ冷やしてー!」
私の気が引けた表情を見て受け取らなさそうと見切ったか、即座に後ろに向かって大きな声で呼びかける。
付き合いの長さで攻略法がバレてるらしい。
「おー! いいやつだ! わかったー! じゃあかぐやの秘蔵のやつも……」
「わ、パントリーにすごいいっぱいある!」
「彩葉が思ったよりお酒強くてさ〜、なんかだんだん楽しくなっちゃって」
案の定、物怖じという単語を心の辞書に書き忘れたかぐやがすんなり受け取って冷蔵庫に収納してしまう。
ちゃんと扱えよ……、なんかこうガラスのやつに移し替えてってのはワインだっけ?
シャンパンをちゃんと飲むってどうするんだろう……。
何もかも専門外で、全然わからない。かぐやに任せっきりで大丈夫だろうか。
「で、ノーベル賞ってなに? 私がそんなの取れるわけないって……」
「またまたー、3部門で候補じゃないかってこないだニュース流れてたよ?」
「は?」
楽しそうにキッチンを見やる芦花に、さっきの言葉で引っかかったことを聞く。
すると、予想外の返事が帰ってきて、思わず呆然としてしまう。
「えーっと、あっあった、酒寄彩葉所長、非接触型側頭葉への疑似味覚信号アクセスで医学賞、ダークマター接触合金構造で化学賞、疑似五感のVR体験の情報処理AIの開発で物理学賞、初めて受賞するのはどれか! だって」
呆れと納得をまぜこぜにした芦花がブックマークしてたらしいネット記事をぱぱっとだして、私にスマホで見せながら音読をする。
いやいやいや、ノーベル賞ってのは最初からだいたいこの人って決まってんの。
私みたいな一介のモブ科学者なんか候補の候補に上がるわけがない。
しかも、挙げられた論文(タイトルはちょっと違うが)もその道のプロと一緒に書いたものばかりだ。
「いやなにそれ、本当に私?
「過ぎたる謙遜は刺されちゃうぞー、うりうり」
「いやいや、正当な自己評価ですって」
心からの疑問をぶつけるが、謙遜かと思われて、体を寄せてきた芦花に小突かれる。
完全に狼少年扱いなのは、日頃の行いだろうか……。
☽003☾
部屋の中に朝日が差し込む。
ソファーから窓越しに外を見ればもう朝焼けだ。
部屋の中は死屍累々といった感じで、はしゃぎ疲れたのか早々にオチたかぐやは床で寝息を立ててるし、真実もしばらく前に食卓にもたれかかって動かなくなった。
ローテーブルに乱雑に置かれた皿たちは、まだ残ったアミューズが日で照らされて、伸ばした影が映りビルの影絵のようだ。
そんなことを思いながらシャンパンで口を湿らせてるとぽすんと膝に重さを感じた。
「彩葉〜……、膝貸して……」
「はいはい」
言うが早いかついに芦花も限界を迎えたのか力なく横になる。
私にはかぐやが居るけど、独りの芦花は常に気を張って大変だろう。
忙しいはずなのになんとか都合をつけて来てくれるのはその証拠だろうか。
そんな中でも決して愚痴ったり寄りかかっては来ないその強さは尊敬している。
ちょっぴりね。
「あ〜、私も彩葉のウチの子になろっかなー」
「え〜、大変だよ? かぐやスグもの増やすし、片付けないし、騒がしいし」
「でもご飯美味しいんでしょ?」
「まあねー」
「いいな〜」
膝の上で頭の位置を調整するためかもぞもぞ動いてちょっとくすぐったい。
「寂しい?」
「ちょっとだけー……、疲れちゃったかも?」
「そっか」
そのうち動きを止めて、酔いのせいか徹夜のせいか、ふにゃふにゃとした口調で、珍しく芦花が弱音をこぼす。
「ねえ、彩葉」
「ん?」
「私は、友達?」
「私の最高の友達」
「そっかー……」
10年前に廊下で3人で涙して、揃って仲良く遅刻を叱られた日から、いやそのずっと前から私の最高の友達。
かぐやは私の道しるべだったけど、芦花も真実も居なかったら私はここに居なかっただろう。
私にはもったいないぐらいだ。
「ねえ芦花」
「………」
「寝ちゃったか」
アルコールの力を借りて、シラフじゃ照れくさい日頃の思いを伝えようとすると、膝の上の美人さんは寝息を立てている風に見えた。
「頑張り屋さんの芦花に花丸付けたげる、なんてね」
いつかの意図返しじゃないけど、膝の上のサラサラの髪にしゃっしゃと指で丸を描いて、手に持つシャンパンを飲み干す。
落ちないようにソファーの肘掛けに空のグラス置いてそっと伸びをする、起こさないように。
「んー……、私も寝るかぁ」
まだまだ休日は始まったばかりだ。
オキテルヨ(小声)
【おまけ】初期手札
彩葉:♢5♡5♧6♡8♤8♢10♧J♡Q♤Q♧A♧2♤2
かぐや:♧3♤3♢4♡6♢7♧7♢8♡9♤9♧Q♢K♡K♤K、JOKER
芦花:♡3♡4♧4♤5♡7♧8♤10♡10♢J♢Q♧K♡A♡2♡2
真実:♢3♤4♧5♤6♢6♤7♢9♧9♧10♡J♤J♢A、JOKER
DiCEのグッズはなんとかアクスタ3種はゲットしました。
出先で書けるようにタブレットを買って意気揚々とカフェで何やらカチャカチャPCを弄ってる不審者になりながら書いてたので、文章がおかしいところがあったらご容赦。
そのうち直します。
意外と楽しいですねコレ。
感想をここすきください!