☽000☾
休日の朝、一人分の熱ですっかり冷えてしまった布団をぱぱっと片付けて、枕元に転がっていたスマホを握って部屋を出るとうっすらと魚の匂いがした。
階段を下ると、朝日にきらりと輝く出刃包丁の反射光が目に刺さる。
「何してんの?」
「あ、おはよー、真鯛捌いてるー、よっと」
いや、朝っぱらから何で魚捌いてるかって聞きたかったんだけど。
「えぇ……」
「わぁ、きれいに3枚できた! 見て見て、かぐやプロじゃない? 動画撮っとけばよかったかなー」
「まさか朝ごはんに一尾……?」
弾むような声に思わず頬を引きつらせて聞いてしまう。
晩に出て来るならまだしも、見る限りまな板から赤い尾がはみ出た特大の鯛だ。
そんなもの朝っぱらからお造りで出されても困る。
「んー、これからサク取って寝かすから、早くて晩御飯かなー、彩葉食べたい? つまみ食いするなら端っこちょっと刺身で切っちゃうよ? 寝かしてないからうま味はそこまでだけど産地直送だから鮮度抜群でブリブリだよ~」
手を止めて、工程を思い返すように中空に視線を移して話すかぐや。
よく見れば、まな板の横にはバットとキッチンペーパーにラップなどが並んでいる。
魚って鮮度が良ければいいってもんじゃないんだっけ、なんか前にかぐやから
うーん、数切れなら食べれるかな。
「ふーん、じゃあ貰っちゃおっかな」
「わかった! あっ、ちょっと待っててね! ふふん今宵も妖刀が血に飢えて……」
「朝ですけど」
そう言って出刃から大き目の刺身包丁に持ち替えたかぐや。
その妄言はともかくとして、日本刀にも似た刺身包丁は本当に玉鋼を使ってる奴だったはずだ。
刃こぼれした時に半泣きのかぐやを引っ張って、近くのIKEAに行ったら砥石が良いとか贅沢なこと言い出して幸町の方まで行くハメになった時の道すがらに言っていた。
「てりゃー!」
「じゃあ私シャワー浴びてくるから」
「あーい」
奇声を上げる板前に寝汗を流すことを伝えると、何とも気の抜けた返事が返ってきて少し寂しかった。
いや、別についてきてほしいとかそういう訳じゃないが。
☽001☾
「ごちそうさまでした」
「お粗末様ー」
「で、どうして鯛なんか?」
そう言いながら空になった皿を見る。
配信用なら色々やってるのは見てるし、余った食材の後始末に巻き込まれることは多々あるが、今日はさっき言ってたみたいに動画用じゃなさそうだし、謎だ。
「いや~、こないだ彩葉のお祖父ちゃんたちの家行ったじゃん?」
「かぐやがおせち持ってくって聞かなくて2倍食べる羽目になった奴?」
兄と連れ立って正月に帰省(とはいっても実家はお父さんに手を合わせたぐらいで泊まったのはお祖父ちゃん家だけど)した際、かぐやがせっかくだからおせち作りたいと言って聞かなかったのだ。
おかげでバカでかい重箱抱えて新幹線に乗ることとなったし、当然ながら向こうで用意してたおせちと被って大変だった。
ま、一番大変だったのは若くて男だから食えと全員から押し付けられた兄だけど。
『いや俺も、もういい歳……』という泣き言はかぐや含めて全員無視した。
「いや~めちゃ褒められてうれしかった~、じゃなくて! そこでお母さんからお茶漬け出してもらったじゃん! 鯛の奴!」
「アレか……」
「そんでね、なんかめっちゃおいしかったから、作ってみたくなったんだ!」
浮かぶは、着いて早々にお昼食べたん? との言葉を掛けてきた母の姿。
そして、警戒して反応できずにいた私そっちのけで、食べていない! と言ったかぐやの目の前に置かれた鯛茶漬け。
最初は場所が場所なだけあって、お茶漬けといえばなんてよぎったけど、あれは声かけるだけでホントに出すわけでもないし、モノも冷や飯にお茶じゃなくて、炊き立てのご飯にしっかりとした出汁がかかって鯛の切り身まで乗ってる高級仕様で、イマイチ意図が読めなかった。
かぐやはおかわりまでしていたし。
「いや京都でぶぶ漬け出されるって……、いやわざわざ鯛乗せてるなら別か……? ま、どっちでもいいか」
「ん?」
「いやなんでもない」
私の小声に首を傾げたかぐやに、緩く手を振って誤魔化す。
「やっぱ出汁? 鯛出汁っぽかったし……、でも胡麻ダレもなんか違ったんだよなー、彩葉なんか聞いてない?」
「うーん……、いや、わっかんないなー、そういや実家の味ってレシピ何も知らないかも」
腕を組みながら言うかぐやに、少し考えてみるがそういえば何も知らない。
お父さんが生きてた頃はちっちゃかったし、料理を覚えるような大きくなったころにはお母さんとは仲が悪かった。
「えー! もったいなくない?」
「しいて言うならかぐやのご飯が実家の味かな?」
舌が覚えてるのはやっぱりかぐやの暖かなご飯ばかりだ。
そういう意味で言えば、実家の味とも言えなくもない気がする。
一人離れての大学生活でずっと食べたかったのは事実だし。
「じゃあ許す!」
「何をだよ……、ん?」
おどけて腰に手を当ててドヤ顔しているかぐやを半目で見てると卓上に置いててたスマホから通知の音がした。
スリープを解いて見てみるとヤチヨからのメッセージ。
「どしたの?」
「いやヤチヨから、ツクヨミに来てって」
特に約束はしてないし、コラボライブの打ち合わせもずっと先、いったい何の用だろう。
「えー!」
「じゃあ、かぐやも来る?」
「行こ行こ!」
「はいはい」
☽002☾
「あ! 彩葉とかぐや! ヤオヨロー!」
「おっすヤチヨ!」
「おはよ、どうしたの?」
食器を片付けてから部屋から取って来たスマコンでログインをすると、視界に映るのはヤチヨ城の天守閣の中で元気いっぱいに挨拶をしてくるヤチヨ。
「ふっふっふー、はい、どーん!」
ヤチヨが直前に見たドヤ顔を彷彿させる笑顔で身をひるがえすと、さっきまでは体で見えなかった大きな黒塗りの箱が2つ背後に並んでいた。
その大きさは大体人ひとりがすっぽり収まるぐらいで、さっきまでヤチヨの小柄な体で隠れてたとは思えないサイズだ。
「なにこれ玉手箱?」
「でっけー」
「実は、最近見つけたFUSHIが直結したときに残った彩葉の記憶の断片と……」
「あとで見せて!」
「おい……、絶対消してよそれ」
食いついたかぐやの肩を押しとどめる。
知らない間にヤバいデータを抜かれてたらしい。
いや、ほんとシャレにならないから絶対あとで消させないと。
「もと光る竹の中の
「エミュ? なんの? ……いやわかった、……説明しなくていい……」
「?」
人間大の玉手箱、記憶データ、そしてツクヨミ、ここまで揃えば名探偵でなくともわかる。
かぐやはピンと着てないみたいだけど。
「つまりこの中にいるのは、10年前のかぐやと彩葉!」
「はえー……、えっ、ちっちゃいころの彩葉!? 早く見せて!」
「ちっちゃいって高校生でしょうが」
変わったのは見た目ぐらいだろうに。
「では御両人、心の準備はできたかな~?」
「おっけー! ふんす!」
「私はできてないんだけど……」
ウインクしながら促してくるヤチヨにかぐやの鼻息は荒いが、私は気乗りしない。
というか拒否権無いのかな。10年前のいつを切り取ったのがわからないけど、どこにせよアルバムを勝手に覗かれるような妙な気恥しさがある。
実際、かぐやには最近覗かれたし……。
「ぽちっとな☆」
☽003☾
『ん? アレ何でツクヨミなのに、別に私が? ん? あ、あ、や、やち……!』
『どしたの彩葉? おーヤチヨだ、……あっ、かぐやと彩葉もいる! ツクヨミって2回目からはこういうものなの?』
『なわけないでしょ! 異常事態! なにこれ!? どういうこと!??』
わざとらしいスモークとともに消える箱から登場したのは、現実の世界の私とかぐや。
セーラーの制服姿と、なぜか無駄に気に入ってたオーバーサーズの黒いTシャツ。
コロコロと変わる表情で混乱を叫ぶ姿に身もだえしたくなる。
恥ずかしい……、無駄に誇張してるわけじゃないよね?
「おー混乱してる、セーラーの彩葉かわいー、ね、今度着てみない? まだあるよね?」
「あるけど絶対に嫌、もう私30近いのに着たらヤバいでしょ……」
ちょっとした事件だろそれは。見た目が。
「そなことないって~」
「ヤッチョも見たいな~」
「いや、絶対に着ないから!」
べたべたと縋り付いてくるかぐやを引きはがし、背後からからかうようにもたれかかろうとするヤチヨを避けて、宣言する。
ちなみになんとなく捨てれずに取ってある制服たちの今の住所は、自室のクローゼットの底の衣装ケースの中。
かぐやの出入りも多いからバレかねないので、飽きて忘れるまで別の場所に移しておくか……。
『えっ、あれホントに私? めっっちゃヤチヨと親し気……、もしかして夢!? 過労が見せた幻覚?』
『VRじゃないの? セーラーかぁ、かぐやも着てみたいなー、彩葉無いのぉ?』
そう言って手慣れた様子でおねだりをするかぐやの姿。
『替えのと中学の時のがあるけど……、貸さないよ?』
そしてそれを眼光鋭く却下する私。
この感じだと、ヤチヨカップの前どころか、ライバーになって早々の時期だろうか。
まだまだかぐやに絆される前だ。
『えー何で!』
『嫌なものは嫌!』
「おー、つんつんしててかわいー、かぐやがなでなでしてやろうか~? それともヤチヨが良い?」
地団駄を踏むかぐやと言い争いをしている私に、何やらニヤニヤしながら今のかぐやが寄って行って腰を折って顔を見上げる。
『撫でって、ツクヨミなのに?』
「むふふー、えい!」
『えっ! 感触がある!? 触覚の実装はまだじゃ……』
不思議そうな顔をした私に辛抱たまらなさそうに抱き着くかぐや。
不審者の襲撃か、当時じゃあり得るはずのないその感触にか、驚いて目を見開く私の姿は、申し訳ないが結構面白かった。
ま、私なんだけど。
「じゃあ、かぐやはヤチヨと握手!」
『おー、そのメンダコ触っていい?』
「いいよー☆」
続いて向かったヤチヨと緩く触れ合うかぐやと、それを鬼のような眼で見ている私。
あれは、『敬語とか使いな?』とか思ってる顔かな。
自分では冷静な顔していると思ってたけど、意外と表情に出るタイプだったんだなと今更ながらに思う。
今は平気だよね……?
『ふかふかしてる! これ欲しい! ねえ彩葉!』
『買わない、ツクヨミ公式ショップのメンダコのぬいぐるみめっちゃ高いんだから……、ムリムリ、買えません』
『えー!』
目を輝かせてヤチヨのメンダコをむにむにとするかぐやが、さっそくねだるがそっけない。
複製という自覚が無いのか、本当に10年前を切り出したようだ。
でも……。
「うーん……、私ってこんなんだっけ?」
「「そだよー」」
『うおっ、息ぴったり』
☽004☾
「ねえ彩葉? ぎゅっとしてみて欲しいな」
『あ、え、アノッ、えっと』
「えー! 彩葉はこのままかぐやの方が良いよね?」
『いや、あの、できればヤチヨの方が……』
「む……、ぎゅー!」
「あっ! ずるーい!」
すっかりかぐやとヤチヨの玩具になっている昔の私を眺めながら、あぶれた組で板間に座って話し出した。
『おーふかふかだ』
「触るな小娘!」
「FUSHIの声久々に聴いたかも、あれ……? 何か忘れてるような……」
最近はヤチヨの肩の上でなんだかあんまり話すことも無くなってきたもふもふウミウシの久々の刺々しい声に逆に安心感を覚える。
アレでもこの前、ヤチヨからの足止めの依頼をボイコットしてたなコイツ。意外と自由にやってるんだろうか。
『むぎゅ! 白玉!』
「あっ、ヤメテ……」
「ぷっ、なにそれ」
ついにかぐやの手の中で組んだ人差し指と親指の間からにゅっと出てくる体は白玉というよりは、お風呂の中で手ぬぐいで風船か海月を作るときのソレ。
悲鳴から察するに相当無理な体勢のようだ、哀れな。
『あー白玉食べたいなー、パフェに入った奴』
「食べたことあるの?」
放り投げられたFUSHIが這々の体でヤチヨへ向かって逃げ出すのを横目で見ながら、私は首を傾げる。
イマイチこのかぐやがどこの時間を再現しているのか掴めてないんだよな。
『さっきさー、ツクヨミパフェ食べたけど何も味しないの! 白玉入ってるって書いてたのに!』
ヤチヨのライブ前に食べてたアレか。お値段激安の3ふじゅ~。
まあ、食感再現データも味覚アセットも入ってない時代のホントに見た目だけの奴だったしね。
「あー……、じゃあ、これならどう?」
そう言いながら渡したのは、ストレージに入れてた新ツクヨミパフェ。
一応、公式ショップの品で、家に届ける再現品もすでにあって手間が少なさそうだったので、テストベッドとして味覚情報の追加を割と初期の方にやっていたのだ。これはその時の試作品の余り。
層ごとそれぞれをいちいち薬匙で削ってマイクロチューブに突っ込むというひたすら地道な作業をした思い出の品だ。
おかげで複層のパフェを見るといまだに若干微妙な顔になる。グラスの中なんてコーンフレークとソフトクリームだけで良いだろ。2種だぞ2種。味覚センサーの検体2個で済む。
あの頃は高すぎてセンサー本体は買えなかったから、まだデータ化は外部委託していて、検体の個数が増えるたびにドキドキしながら料金表を見たものだ。
『おー! じゃあさっそく! あむ……う~~ま~~~♡』
「アセットはオリジナルだったし、どうかと思ったけど平気そうね」
このかぐやは本体じゃないから、ユーザーメイドで流れてる複数種の組み合わせの奴だと変な反応するかと思って、オリジナルデータだけの単一味覚情報アセットということでセレクトしたのだが、特に問題なさそうで一安心。
まさか、この前ヤチヨに騙し打ちされた、あのメンダコまんなんて劇物出すわけにもいかないし。
『あ、でも、味って彩葉が天才科学者じゃなきゃ無理って言ってたような……?』
「そんな天才科学者彩葉さんなのですよ」
『おーすごい! さすが彩葉!』
パチパチと手を叩くかぐやに少し鼻が高くなる。
「ま、天才じゃないから10年かかっちゃったけどね」
『んー……、よくわかんないけど、今ここに居るかぐやと、あそこの彩葉は複製みたいなものって事でいいんだよね?』
「そ、ま、ヤチヨが勝手にやってたから私もよく知らないけど」
『じゃ、これも疑似記憶ってことかー、なんかもったいないね』
「私もそう思う」
もしも本当にタイムスリップしてあのボロアパートに行けたならどうだっただろうか。
一応タイムマシンは開発者とセットで近場にあるけど、大事故起こした奴だし使おうとは思わない。
きっと
にしては、今日のコレは矛盾する気もするけど、思いついちゃったからには好奇心が抑えきれなかったのだろう。
『ねえ彩葉、でいいんだよね?』
「ん? なに?」
『私さ、ちゃんと彩葉をハッピーエンドに連れてけたかな? ……あー、今のやっぱなし! 聞かない!』
目をきつく瞑りながらぶんぶんと顔の前で腕を振って打ち消すかぐや。
「どうせネタバラシしたって、過去には持ってけないよ?」
『んー、でもいいや、聞いちゃったらつまんなくなっちゃうかも』
「かぐやらしいね」
『でしょー』
そう言ってクスクス笑う姿に目を奪われる。
面白いことには一直線、相変わらずだ。散々振り回された苦い記憶も蘇るが。
「ねえ、かぐや」
『ん? なに?』
「私ね、かぐやのことが好き」
不意に口から思いが漏れた。
本人には照れくさくて言えないけど。
『えーマジ? ヤチヨじゃなくて?』
ヤチヨの胸の中でかぐやに腕を引っ張られながら、でろでろに溶けた顔で何やら危なげな痙攣を起こし始めた私を見ながら、不満げに言う。
大丈夫かアレ……。
てか本当に私あんなのだったの?
「人間にはさ、いろんな好きがあるのですよ」
『ふーん、例えば? どんなの?』
「恋愛、敬愛、友愛、あと家族愛というか慈愛?」
『ヤチヨには?』
「ん-、たぶん敬愛かなー、推しってそんなもんじゃない?」
『へー、よくわかんないや』
理解不能の数列でも眺めてるようなかぐやの顔に思わず笑ってしまう。
「私も」
『えー?』
片眉を上げながら私の顔を見てくる。
「そんな綺麗にパンケーキみたいに感情を切り分けられたら人生苦労しないんですわー」
もはやミーム的な扱いを受けてる ”京都のぶぶ漬け” を無駄に豪華に出して来たお母さんのように。
あんな手の込んだもの実家に居た時見たことない。お茶漬けだけど。
アレも多分、戸籍を取るときのやり取りでかぐやがライバーだからネット文化に詳しいと知ってて出してるだろうしね。真意は私にもわからないけど。
『人間って大変なんだなー、かぐやにはやっぱよくわかんないや、宇宙人っぽすぎかな?』
「私も未だによくわかんないしー」
『彩葉も?』
「うん」
『そっかー、みんな一緒だ!』
☽005☾
『でさー』
「なにそれ」
「彩葉ー!」
「ん?」
それからは他愛もない雑談をしていたら、急にヤチヨに呼ばれた。
なんだろう。
「なにー! ヤチヨー!」
「ぐぅ! これ思ったより負荷高いかも! もう落としたいんだけど、言い残したことある!?」
ちょっと離れたヤチヨに声を張り上げながら聞き返す。
目を凝らすと、こちらに声を張り上げるヤチヨの手元に乗ったFUSHIがビカビカと目を光らせてた。
スリープモードのタイマーだ、前に寝てから52時間は経ってないはずなのにもう時間制限とは。
分身が得意技のヤチヨでも完全な別人格(かぐやは厳密には当てはまらないかもしれないけど)をエミュレートするのは予想以上に高負荷だったらしい。
「へー、だって」
『えー、もう終わりかー』
水を向けると名残惜しそうに口を尖らす。
「何か言っときたい事ある?」
『んー、あ! あのね!』
「ん?」
思いついたように手を合わせるかぐや。
『彩葉は今幸せ?』
「それってハッピーエンドかってこと? 言っていいの?」
『あっ、しまった、じゃあ無し!』
「はいはい」
すっかり忘れてたらしい。
でもそれで聞くのは未来の私の話とは。可愛いところあんじゃん。
「かぐや」
『ん?』
「またね」
私は絶対消してもらうとして、このかぐやとはもっと話していたかった。
頼めばまたやってくれるだろうか。配信スケジュールとか崩れるから無理かな?
『また遊ぼーね!』
そう言って笑うお姫様は、見慣れた青いログアウトエフェクトとともに消えた。
「彩葉、どうだった?」
エフェクトが消えるのを見送っているとヤチヨが寄って来た。
FUSHIの眼の光がヤバい色になってきてるけど大丈夫なんだろうか。
「うーん……、懐かしかった……かな? そっちは?」
「可愛かった! 初々しくてさー、最近の彩葉すっかり慣れちゃって寂しかったんだよねー」
「えー、そんなことないよ」
聞き捨てならないことを言われる。
ヤチヨに慣れる? まさか。
「はい、仲良しの奴」
「ん? はい」
そう言って差し出される指先に人差し指と中指をくっつけて、ハンドサインを交わす。
急にどうしたんだろう。
「ほら~~」
「えー」
そう言いながらどこか責めるように笑うヤチヨ。
気まずくなって目をそらそうとしたら、そういえば見慣れたきらきら金髪の兎娘が見えないことに気付いた。
先にログアウトしたのか? なんか急用あったっけ。
「あれ? かぐやは?」
「ん? ……あっ! ねえ、彩葉! この前言ってたコラボライブのセットリスト作ったんだ、ちょっと見てほしいな」
尋ねるとわざとらしく急に話を変えてくるヤチヨ。
んん???
「……かぐやは?」
「あっ、FUSHI知らない? さっきどっか行っちゃってさー」
後ろ手で隠したFUSHIは、今だ光を放ち、ヤチヨの後ろ髪の隙間から赤い閃光を放っている。
ここまでくれば私にもわかる。明らかに足止めだ。しかも無理を推しての。
「これは足止め……? かぐやに何か吹き込まれた? でも何を……」
「ぷっぷくぷ~」
ついに手がなくなったのか、滝汗を掻きながら吹けもしない口笛で誤魔化そうとするヤチヨを視界から外して考える。
今日の出来事でかぐやが一番興味を持ちそうで、しかも私がいると怒られそうなこと。
なんだ……?
あっ。
「……しまった! さては私の制服探しに行ったなあいつ!」
「あー待って彩葉!」
「待たない! 落ちる! 待ってなさいかぐや!」
見たいですけどね、10年後彩葉のセーラー姿。
短編って言い張るには過去話の繋がりが強くなってきたので連載にしました。
内容としては大きなスパンの話にするとかは無く、今までどおりでやってくつもりです。
スマホとかで読むときに個人的に、複数行のセリフが続くと読みづらいので、「」の前にスペースを入れてたのですが、実際これってどうかなーと思ってきたので(文章の書き方的には間違ってますし)アンケートを置いてます。
結果次第で全話直そうかなと。
上映終了になりつつある映画館も増えてきていて祭りの終わりを感じる今日この頃ですが、とりあえずクラファンのボイスドラマぐらいまでは続けたいと思います。妄想が続く限りですけど。
お付き合いいただけたら嬉しいです。
感想をここすきください!
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