前回のあらすじ
なんやかんやあって、かぐやが復活したぞ!
山無し、谷無し、オチも無し。
でもガールズトークってそんなものでしょ?
☽000☾
それはちょっとした会話から始まった。
紅葉の始まりかけの夏の富士山登山が終わったある日の事、いつもどおりのかぐや製の晩御飯の後の、あと片付けでシンクの前に立つ私に、TVの前でお茶の準備をしていたかぐやが話しかけてきた。
「ねえねえ、彩葉ー」
「んー? なに?」
「ずっとまえに、かぐやちゃんがおごっちゃる! って回らないお寿司の二人で言ったことあったじゃん、彩葉が緊張しすぎて味わかんなかったって帰り道に半泣きだったやつ」
「おい」
ヤチヨカップの最中、ライバーとして成功しつつあったとある日、あぶく銭に浮かれたかぐやに連れられて、真実おすすめの高級寿司に行ったのだ。
かぐやの無駄に手の込んだ(あとお金も)料理で多少、人間らしい食事に慣れてきていたとはいえ、いきなりの高級な味に体が拒絶反応を起こし、味はわからなかったし、次の日は普通に体調を崩した(根性でバイトは出た)という嫌な思い出がよみがえる。
「それで? それがどうしたって?」
変なことを思い出させられたせいか険を帯びた声を出しながら、食洗器に入れるために軽く洗っていたかぐやの調理の残骸をすすいでいた手を止める。
目線をかぐやに向けたのが分かったのか、こちらに目を合わせたまま無言で指をTVに向ける。
TVでは40年以上も前のローカルバラエティの再放送で、今や大御所俳優となった男の若かりし日の姿が夜行バスの乗り心地についてひたすらに文句を言っていた。
「北海道行かない?」
「は?」
☽001☾
「うおおおおおおおお、はっるばる、きたっぞっ! はっこだてー!」
函館空港に降り立った瞬間にテンションの振り切れたかぐやは預け荷物のコンベアーの向こうに突撃せんばかりだった。
私が場酔いで気後れして寿司を食べられなかったことを、どうやら気に病んでたらしいかぐやは、『なら産地で食べればよくない?』なる神々(リスナー)の意見に感化されて、海鮮といえば北海道! という直結思考回路で今回の旅行を思いついたらしい。
幸い、連休の間近だったため、1日の有給休暇を取れば仕事にも影響はなく、3泊4日の旅となった。
「にしても、700キロか……」
かぐやが買ってきた北海道地図に赤々とマーキングされている経路は南端と東端、行きと帰りの羽田間を考慮しなくとも、陸路だけで片道700キロの旅だ。
今回の目的地決定の一因であったであろう、例のローカル番組だったならレンタカーで連れまわされていたことだろうが、幸いにも私の予定は4日間しか確保できなかったために基本は飛行機での移動になる。
―――もし仮にこの9月の連休がつながっていたならば、南端東端に北端までついて北海道一周陸路の旅だった……。
「ねえ、かぐや」
「なに、彩葉っ!」
「うっ……、あのさ、端々にいくよりも、ちゃんと観光地行った方が良かったんじゃないの? 動物園とか」
物理的に発光してるんじゃないかと思うほどのかぐやの目の輝きに気圧されながら、疑問を口にする。
「パーフェクトツアーコンダクターかぐやちゃんもそこは考えたんだけどね」
そこでいったん言葉を切り、先ほどまでのキラキラが嘘のようにしおしおになってこう言った。
「みんなに聞いたらラベンダーはもう枯れてるし、メロンも時期終ったって言われて……」
あー……、確かに有名な動物園は、北海道の真ん中あたり、内陸だ。
「たから今回のメインはだらららら、蟹!」
いつか見たような巻き舌とともに、頬を挟むようにダブルピース。
「はいはい、かわいいかわいい、でも蟹って冬じゃないの?」
「ふっふっふー、見て! 彩葉!」
そういいながら印籠のように突き出されたメンダコのキーホルダーのついたスマホには、なにやらトゲトゲした蟹が映っていた。
「なにこれ、花……咲蟹? ……うわ、1尾1万もするじゃん」
「なんか現地だと夏なら五分の一ぐらいで食べれるんだってさ! 教えてもらったの!」
まあ、旬は8月の終わりだからちょっと時期外れてるんだけどね~などと言いながらスマホを下すかぐや。配信で教えてもらったであろう今回の目玉を書いたメモを表示させながら、続けて話す。
「あとはねー、イカ、サンマにカキとウニっ!」
「食いしんぼ怪獣かぐや」
「がおーっ」
どちらともなく噴き出して笑った。
☽002☾
空港から出るとすぐタクシーを捕まえて、すぐ目の前の温泉街まで行ってもらう。
今日の宿に荷物だけ置いて、初日の観光だ。
チェックインして入った、客室の窓から見る風景は、住宅地のど真ん中ににょきにょきと高層ホテルが立ち並ぶようで不思議な感覚だ。空港から3キロほどしか離れていないというのもある。
軽く荷解きをしていると、かぐやの身じろぎの音がしない。
ふと振り向くと、窓際のソファーに座ったかぐやは、何やら難しい顔をしてスマホを握りしめている。
気になり隣に腰掛け、肩に寄りかかり、画面を見ると、ウェルカムドリンクのフレーバーウォーターの考察をしていた。
よほど気に行ったのか帰ったら再現する気らしい。確かに飛行機で乾いた喉にはスッキリする味だった。
「あの瓶まで再現するつもり?」
「んー……最近、彩葉帰ってきたら、すぐ喉乾いたー! って麦茶飲んでるから、たまには他のあったらいいなって」
「すっかり主婦じゃん」
「えっへっへー、じゃあ彩葉が旦那様だね」
寄りかかった私の肩にコテンとかぐやの頭が落ちる。
内心ドギマギしていると、満足したのかかぐやがすっと立ち、元気いっぱいに宣言した。
「いーろーはっ! 行こ!」
「はいはい」
私はつられるように立ち上がった。
「でもニンニクは入れんでよろしい」
「てへっ☆」
☽003☾
かぐやと虫よけスプレーをかけあってから(宇宙人の血を蚊は吸うのか……?)、宿を出た私たちは、川に沿って路面電車の駅へを歩く。
朝一番の便で到着したため、昼まで少し時間が空いたので五稜郭を見ようと私が提案した。
桜が満開の五稜郭は人気の散策コースらしいが、あいにくと今は初秋、それでも数多く見どころがあるらしい。
せせらぎを奏でる川はススキが鬱蒼としており、温泉地の代名詞となった川なのに温度は高くないようだ。
どこか湿った港風に髪を遊ばせたかぐやからは、あの夏から愛用の三種の天然精油のシャンプーの香りと香水の混ざった香りがした。芦花の教えか香りが喧嘩しないように考えられたそれは、どこか柑橘のようなさわやかな風だった。
「ね! 彩葉! 海鮮丼とハンバーガーどっち食べたい!?」
イカは釣って食べる!などと鼻息を荒くしながら、振り向きざまにこちらに問いかけるかぐやの言葉に少し考える。
そういえば、たまの外食の時にビックマックを食べた時は、美味すぎダンス踊ってたっけ。
「函館ってハンバーガーも有名なんだっけ」
「うんっ! チャイチキだよー、ちゃいちゃい!」
カンフーのような荒ぶる鶏のポーズをキメるかぐやを尻目に、ビックマックであれだけ喜んだのだから、そんな有名なハンバーガーを食べたらどうなるのかと考えた。
「イカに続いて同じ味ってもなんだし、ハンバーガーにしよっか」
「いえーい!」
飛び跳ねるかぐやを見ると、どうやら正解だったようだ。
住宅地の路地のような川辺を抜けて大通りに出ると、路面電車の駅が見えた。
ちょうど、私たちと同時に到着したようだ。
いろんな種類の路面電車が走っていると噂の函館の路面電車は、乗るにもギャンブルだ。
今回は、特にレトロな赤が特徴的な初期の再現電車らしい。
まるで映画のセットから飛び出してきたような電車に駆け足で乗り込んだ私たちは、開けられた窓から吹く、ぬるい風を浴びながら座席に座った。
ギシギシと鳴る床板に目を輝かせるかぐやはなんだか楽しそうだ。
のどかな商店街を抜け、競馬場を通り過ぎると途端に、マンションやホテルの立ち並ぶ都会の雑多な臭い漂う風景に切り替わった。
函館の中心街、五稜郭公園前だ。
☽004☾
五稜郭タワーの脇を進み、お堀にかかる橋を渡って、藤棚を抜けると、奉行所が見えた。
「そういえばかぐやって奉行所には、いったことあるの?」
「あるよー」
ざくざくと、砂利を鳴らしながら歩くかぐやは、軽く言った。
「FUSHIの体で江戸湾にいたら漁の網に引っかかっちゃって」
そこからなんだこのしゃべるウミウシはー!ってあれよあれよと奉行様のところへと、とまるで身売りされる娘のようにしおらしく目元に手の甲を当て、体をひねるかぐや。
娘じゃなくてウミウシじゃん。
「でもそこの、遠山?ってお奉行さんがおもしろい人でさっ!『親父に長崎まで連れられたんだ、江戸ァ俺ァまもる!』なんて言っててね?」
声マネか低い声で江戸っ子みたいなことを言うかぐや、そういえばヤチヨとの二夜の語らいでも出てきたな、遠山さん。遠山姓の奉行なんて学校で習った金さんぐらいしか知らないけど親戚だろうか。
「でさー、黒船が来たって鐘を集めて……」
「あっ、ここ入れるみたい、行く? かぐや」
「えっ! いいの?」
いこ! いこ! とスキップするように跳ねるかぐやを連れて屋敷の中に入っていった。
料金を支払い、受付を曲がると、和室の大広間が現れた。
ほのかに暗い室内を行灯で照らす空間は、板張りと畳の違いはあれど、あの日、マンションの一室からヤチヨに会うためにツクヨミに入ったあの光景を思い起こさせる。
隣のかぐやも同じことを考えていたのか、口を半開きにして感心しているようだった。
「あとは屏風があったら完璧ね?」
「ねっ!」
大広間を抜け、ぐるりと展示コーナーに差し掛かると、AR展示の看板が私たちを迎えた。
看板の隅には小さなヤチヨがいる。ツクヨミの関連のイベントだろうか。
「かぐや、何か知ってる?」
「なんか、ARのエンジンにツクヨミを流用するみたいな話だったような……気がする?」
腕を組み、疑問形のまま小首をかしげつつ言うかぐや。
いや、許可出したのかぐやじゃないんかーい。
「へー、おもしろそうじゃん。スマコン持ってきた?」
「あるよー」
ちょうどいいベンチも建設当時の映像を伝える年季の入った液晶の目の前にあったので、私たちはスマコンを装着して、ARモードで起動してみた。
実はこの箱館奉行所は建物の半分は復元せずに、埋めた石で間取りを示すのみという不思議な構造をしている。
しかしスマコンを起動して、雨戸の向こう側を見てみると―――。
「おおー!」
隣でかぐやが歓声を上げる。
私も少し驚いた。そこには、あるはずのないもう半分の奉行所とそこを行き交う侍たち。
そして、土方歳三。
「ねえ、かぐや」
「なにー、彩葉?」
「土方歳三って会ったことある?ほらあそこの人」
「んー、んん……? ない……かも? ねえ彩葉、なにした人なの?」
「えっほら、新選組とか箱館戦争とか」
受験のために覚えた知識をもとに、人差し指で空をなぞりながら言う。
「あー新選組かぁ、かぐや、そのころは江戸にいたからなー」
「そうなんだ」
生き字引ヤチヨさんinFUSHIにも知らないことがあったんだ。
そのあとは、奉行所を出て、五稜郭をぐるりと回りながら、かぐやにせがまれて新選組の話を教えながら二人で歩いた。
ぴょんぴょん跳ねながらリアクションをするかぐやにする歴史のプチ授業は、紙擦れの音の中で朗々と話す普段の仕事とは大違いで、私の声も弾んだ。
☽005☾
帰り際に寄った五稜郭タワーの売店で、ご当地ヤチヨなる土方歳三の写真風の衣装に身を包んだヤチヨのキーホルダーを買い、もう一度路面電車に乗り、駅前までやって来た。
そう、今回の旅の小目標であるイカだ。
「朝市の中にイカ釣りが……あ! あった!」
もう昼に差し掛かろうという時間でも営業している朝市ではなんと、陸地でイカ釣り体験ができる。しかもその場でさばいてもらって食べられるという。
ふじゅ~
決済音とともに、指揮棒のような小さな竿を借りて、生け簀の前に立つ。
「ふふん、この道8000年の釣り師かぐやちゃんの実力を……」
「あんた釣られる側だったでしょ!」
元気いっぱいに突っ込むと、二人で声を上げて笑った。
そんな中、手ごたえを感じて、即座に持ち上げた!
「よいしょー!」
「おー!彩葉すっごい!」
「ふふん、そうでしょうとも」
「あでも、すぐつかまないと逃げちゃうよ」
「あっ」
ぽちゃん。
☽006☾
そのあと、すぐにかぐやも釣り上げ。わたしも粘りに粘ってなんとか釣り上げた。
受付で手際よく捌いてもらい、近くのベンチで二人並んで、初めての活イカのお刺身の実食だ。
「うお、まだうごいとる」
「ヤメてよ……」
生姜醤油をつけると反射するイカの筋肉。かぐやは知らないだろうが、前の体の化学式人工筋肉も似たような方法で収縮をしていた。
そんな複雑な思いを箸先からイカの身につたえてると、かぐやがガバっと口の中に放り込んだ。
「う~~ま~~~♡」
かぐやの表情が光り輝くようにとろけた。
つられて、私も口に入れた。
「えっ、おいし」
東京での仕事の飲み会で提供されるようなイカはなんだか生臭くゴムのようで、正直進んで食べたいモノではなかったが、このイカは、においもなく、コリコリで、すっと後を引かない甘さだった。シメてから数秒という鮮度がここまで味を変えるものとは。
「おいひいね、彩葉!」
私の驚く顔に、満面の笑みを向けながらかぐやが言う。
「ありがとね、かぐや」
その笑顔に微笑みながら返す私。
そして、ごくりとイカを飲み込んだかぐやは、胸に手をあて胸を張りながらこう言ったの。
「どういたしまして!」
☽007☾
「あ~~~~、食べ疲れたー!」
「私は全然食べれんかったよ……」
ふたりして寄りかかりながら、ホテルの部屋のソファーにもたれかかるように座る。
あのおいしいイカの後、少し歩いた場所のご当地バーガー店では、一番人気というチキンバーガーを食べるつもりだった。
しかし、平日・数量限定のタワーバーガーがまだ残っており、それに惹かれたかぐやが何と挑戦。
2/3までは健闘したかぐやだったが、案の定撃沈し、警戒してパフェとコーヒーだけにしていた私が残りを食べた。
味はふわふわのパティと分厚いとんかつに甘辛いチキンと生野菜たち、そしてたっぷりのミートソースで何とも美味だった。撃沈するまでのかぐやがハイペースで平らげていたのもわかる味だ。
幸い、ハンバーガーの中に甘辛チキンは入っており、名物という味は味わえたが、総1800キロカロリーという怪物に蹂躙された私たちは、どことなくダメージを負ったまま、ベイエリアのショッピングモールで買い物を済ませて、ホテルに帰還した。
ホテルでの夕食は、直系2cmはあるようなホタテの貝柱の浜焼きや、盛り放題のいくらなど、さすが北海道といった感じのバイキングだったが、ケロリと復活し、いくら丼をお代わりしていたかぐやと違って、昼のダメージを引きずっていた私は、数品つまんでギブアップとなった。
「彩葉!」
「んー?」
「腹ごしらえも終わったし、山、登らない?」
登山と言われて、先日二人で行った富士登山を思い出し、顔が曇った。
お腹いっぱいだし、もうお風呂行って、寝たいんだけど……。
そんな私の内心を読んでいたのか、含み笑いをしながらかぐやはパンフレットと取り出した。
「ロープウェイでイッキに頂上まで! 夜景がめちゃ綺麗なんだって!」
自力で登るわけでもないならいいかと、かぐやからパンフレットをもらうと、気付く。
あっ、コレ、麓のロープウェイの駅、お昼ごはんの後、買い物したあたりじゃん!
私の表情の変化に気づいたのか、かぐやが目をそらしながら言い訳してくる。
「いや~、ロビーのパンフレットで見て、言い出すのすっかり忘れてたことに気付いちゃって……」
続けて手を合わせながら哀れな声をだしながら。
「……ねえ、彩葉」
かぐやの超必殺技(ウルト)の発動を察知した私は、丹田に力を込めて―――。
「はぁ……いいよ」
そのまま、込めた力を吐き出して合意した。
☽008☾
本日4度目の路面電車はもう慣れっ子で、今度はずいぶんと近代的な車両だった。
風に吹かれる窓の景色は、朝に通った道と同じはずなのに黄昏に染まる町並みはどこか違う風に見えた。
ロープウェイの駅に着くころには、あたりはもう暗くなっていた。
切符を買っていると、かぐやがお土産コーナーでなにやらごそごそしている。
「なにしてんの?」
「記念コインだって!」
かぐやの手元の什器は、どうやら銅コインをプレスして記念コインにするものだったようだ。
ロープウェイの柄と、ヤチヨの柄の2種類。
ヤチヨの中の人(かぐや)を知ってしまい、たびたびツクヨミでライブする親しい仲になったとはいえ、10年前から推してた事実に変わりはなく、私もちょっとほしくなった。
「私の分もお願いしますよかぐやさん」
「いいよー」
ガコンと硬貨の落ちる音ともに動く機械仕掛けは、くるくると回る銅のコインの動きで魅せて、なかなかに面白い。
「いえーい、かぐやとおそろー!」
圧延でほのかに暖かくなった銅板をかぐやが渡してくる。
銅の凹凸でかたどられたヤチヨが微笑んでるように見えた。
☽009☾
ロープウェイに連れられて、山頂まで来ると、あたりは人の海で、さしものかぐやさんも驚いた風だ。
幸い屋上展望台までの順路の人の流れは速く、そこまで待たずに外に出れそうだった。
「はぐれないようにね」
そういいながらかぐやの手を握ると、少し驚いたように目を見開いた後に、かぐやは指を絡めてきた。
「彩葉こそ」
挑戦的に笑うかぐや。
少しの待ち時間にちょうどいいと思い、スマコンを起動してARモードにする。
かぐやも私に倣って遅れて起動した。
「ヤチヨー、居る?」
『なんだい、なんだい?』
声をかけると即座に返答が背後からかかってきて、さすがに驚いた。
振り向くと、貼りつけたような笑顔のヤチヨが居た。
『彩葉もかぐやも、ヤッチョのこと忘れちゃったのかと……』
ヨヨヨ~と涙目に変えたヤチヨが文句を言ってきた。
ちらりとかぐやを伺うと、ばつの悪そうな顔をしていた。
「いやー、今日、配信の予定日だったから……非同期で別々に行動してて……」
『ヤチヨも食べたかったのです……ハンバーガー……いくら……ホタテぇ……』
階段をのぼりながらヤチヨを慰めてると、一つアイディアを思いついた。
「ヤチヨはあの部屋からのツクヨミの夜景が好きだったよね?」
『そうだよー! あの光景はヤッチョが頑張って作った宝石箱なのです!』
「じゃあ……」
かぐやの手を引きながら、人の海を割って、ヤチヨを連れ見通しのいい欄干へとたどり着く。
「たまには味変はどう?」
広がる風景は、月の明かりすら消し去るような地上の星々。
両脇を海に挟まれ、砂時計のようにオレンジに輝くこの光景は、100万ドルの夜景として有名だそうだ(パンフレット調べ)。
あらかじめ知ってたはずのかぐやでさえ目を輝かせる光景に、ヤチヨの瞳の輝きは、言うまでもなかった。
☽010☾
その後また1時間ほどかけて宿に戻った私たちは、作務衣に着替えて、ホテルの一室で休憩していた。
「ねえ、彩葉」
「んー?」
「ここ露天風呂すごいんだって」
お風呂の中でお酒も飲めるらしいよ~などと囁くかぐや。
2機目のもと光る竹のおかげで体を取り戻したかぐやは、たまにペアリングがどうとか言いながら自作の試作おつまみとともに私と晩酌をする。
二人とも酔うほどは飲まないが、ほろ酔いになるかぐやを見ると、10年前と同じ姿のかぐやが飲んで良いのか? という疑問が頭をよぎるが、創作料理のおいしさとベストマッチするお酒に流されて、いつも、なあなあで終わってしまう。
「じゃあ入りますかー、メイク落とし持った?」
「ばっちし!」
お気に入りのシャンプーのミニボトルなどが入ったミニバッグを掲げたかぐやを見た私は、二人で浴衣姿のまま最上階の大浴場へと向かった。
☽011☾
受付で会計をして、桶に乗せられた、升に入った月見酒を受け取り、かぐやとともに暖簾をくぐり脱衣所に入る。
並んでメイクを落としていると、かぐやがはにかみながら言った。
「ねえ、彩葉」
「んー?」
「楽しいね!」
お湯を叩くように顔につけて、洗い流してから。
「うん」
そういう私にニッシッシと笑いながら、カコンと升を鳴らしながら桶をもって、かぐやは浴場へ駆けて行った。
普段は分けてるシャンプーを、今回はかぐやのものを使ったりしながら、体を洗い、噂の露天風呂へと出た。
「眺めヤバっ! すっげー!」
となりでかぐやが歓声を上げる。
ヒノキ風呂から溢れる温泉は、畳(!?)をしとどと濡らし、まるでツクヨミのログイン場所のような風景だ。
外側のもう一つの大きな露天は縁がちょうど海の水平線に合うように作られたオーシャンビューで、まるで、海の中の温泉のよう。
もう深夜に差し掛かるまっくらな空の中、月明かりが湯気の向こうに見える。
「さっ! 彩葉! こっちこっち!」
「あ、ちょっとまってよ」
我先にとヒノキ風呂に行くかぐやを追いかけた。
「ふー、最強になった気分……」
「んーーー……」
縁に月見酒入りの桶を置いたかぐやの横で湯に浸かって伸びをする。
あたりを見渡すと私たちのほかには誰も人影はなく、貸し切り状態のようだ。
ふと水音がすると、かぐやが桶の中で升に月見酒を注いでいた。
受付で聞いた話によると地酒らしい。
「はい!彩葉」
「ありがと」
素直に受け取ると、かぐやが自分の升をわたしのにぶつけて、かんぱーい!といった。
「はいはい、乾杯」
口に含むと温泉で温まった体に酒精がしみた。お腹がいっぱいだと思っていたが、アルコールの効能かまだまだいけそうな気さえしてくる。
「うふふ、彩葉、今日はおいしいが一杯だね」
お尻まで隠す長い髪を結いあげてうなじを出したかぐやが、酒精か温泉で頬を赤らめながら、色っぽく笑った。
「月見酒なんて初めて飲んだかも、しかも温泉に入りながら」
「かぐやもー」
飲み進めるとかぐやが熟練の遊女のように、慣れた手つきで注いでくれる。
潮騒の中、雲一つない夜空を、輝く月が照らして、その鏡像が道のように海に一筋の光を作っていた。
「いまも、あの月でがぐやちゃんはビシ! バシ! 社畜やってるんだね~」
ほんのり酒で潤んだ声でかぐやが言った。
「でも、今のかぐやさんはここで茹でられかぐやさんでござんしょ?」
「そうでござんす」
また二人でめちゃくちゃ笑った。
☽012☾
目覚ましの前に海鳥の声で目が覚めた。
ツインで取ったのに、結局私のベッドにもぐりこんできたかぐやの体温を感じながら、かけ布団から這い出し、伸びをする。
かぐやはいまだ夢の中のようで、何やら寝言を言ってる。
今日はまた飛行機に乗って大移動だ。
次の目的地は札幌、海鮮と海鮮の間のスイーツの旅だ。
MVで突然飛んできた寿司の話をしようと思ったのに、気が付いたら北海道に来てました。
(尺が)足らんかったぁ……(MVのかぐやの)おっぱいぷるんぷるーん。
超かぐや姫!の周回の合間に、せっかくネトフリ契約してるんだからと見てたどうでしょうがすべて悪い。
北海道地図についた南と東のマークのうち、南は制覇。
続くかは未定。