思ったより長くなったので上下分割で。
☽000☾
金曜の夜、ピコピコと横持ちのスマホをいじってるかぐやを膝枕しながらテレビを流し見していた。
片手でかぐやの髪を漉きながら、手に持つタブレットには週明けまでに目を通さなきゃいけない資料が列をなして待っている。
三月も半ばを過ぎて、いわゆる繁忙期という奴だ。
にしても毎度のことながら指触りが良い。
絹の髪と言えば美女の代名詞だが、さすがは天下のかぐや姫といったところか。
残業残業でささくれ立った心が癒やされる。
指先で小物を弄りながら、作業すると集中できて良いなんて聞くけど、確かにこれは効果がありそうだ。
いや、どっちかっていうとアニマルセラピーに近いのかもしれない。
「ねえ、彩葉」
「んー?」
「温泉行かない?」
「ん?」
何だ唐突だな。
目線を下に移せば、ちょいちょいと指でTVを指している。
見れば、ちょうど温泉特集が流れていた。
全然気にしてなかったけど旅番組流してたのか。随分渋いな。
温泉かー。行きたいのは山々なんだけど……。
「うーん、行けてゴールデンウィークかなー……」
「えー!」
がばりと起き上がったかぐやが不満を表すが無理なもんは無理。
一応、管理職になった手前、人事表は年明けに出したとしても、年度末の請求の決裁に、来年度予算の承認のための事務方から要求された儀式的なペーパーの承認、補助金の役所の検査、自分を含めた所員の科研費のモロモロ、居なくなる学生と式の出席、新年度に受け入れる学生の事務手続きetc……。
数年前は学生側だったはずなのに、気がついたらハンコが権力を持ってしまい目が回る忙しさだ。
そしておそらく(残念ながらほぼ確実に)これはあと1ヶ月ちょい続く。
このタイミングで休もうものなら、おそらく休み明けに私の椅子は屋外にあることだろう。
「大人は大変なんですわよー!」
「きゃー」
能天気そうな不満顔にだんだん腹が立ってきて、傍にタブレットを置いて、膝から胸元まで上がて来たかぐやの髪をわしゃわしゃと掻き回す。
悲鳴が上がるが気にするものか。
この! 今日も残業通り越して持って帰ってるってのに! お気楽宇宙人め!
……意外と良いな、アニマルセラピー。安らぐ。
「で? なんでまた」
くすぐったそうに膝に戻って身を捩ってたかぐやのボサボサの髪を手櫛で戻しながら(ひっかかりもクセを残す事もなくすんなり戻る。実にすごい)聞くと恨めしそうに上目遣いで見てくる。
なんだよ。
「彩葉最近忙しそうだし、あんま遊んでくんないし……」
「うっ」
そう言われるとちょっと後ろめたい。
かと言って、今もかぐやが寝る前にと、割と無理を押して帰ってる状況だし、外泊など夢のまた夢だ。
とはいえ、かぐやに理屈を言って聞かせたって、2割も耳に入れば良い方。
どうせ癇癪起こして丸め込まれるんだからこのままにはしておけない。
何か……代案は……。
お?
「これは?」
「ん? なになに?」
「ほら、あっおわった」
「えー!」
「ちょーっと、お待ちあれー」
かぐやが見る間も無く通り過ぎていったCMの中身を思い起こしながら傍のタブレットに打ち込むと、すんなりと目的物が出てくる。
「ほら」
「にゅ? スパ銭?」
目を細めたかぐやがタブレットを読み上げながら首を傾げる。
「新しくできたんだって、温泉に行くのは無理だけど、これなら気分味わえるかなって」
「ここなら、いっしょいける?」
「どう?」
「行こ! 今っ!」
私の言葉に目の前のお気楽宇宙人はソファーから飛び起きたと思えばぴょんぴょんと跳ねて全身から喜びをまき散らす。
時間帯を考えれば実に騒音公害だ。防音の効いたタワマンに引っ越していて良かった。
あの頃のアパートだと壁ドンを食らっていたことだろう。
「おいおいおい、もう夜なんですけど。明日ね」
普段から朝まで夜更かし配信しているかぐやはこれからエンジン全開かもしれないけど、パンピーな私はお眠の時間。
というか、そもそも今から行ってやってるのか?
「やたー! やばっ今日寝らんないかも」
私の窘めを辛うじて半分ぐらいは聞いてそうなかぐやは、遠足前の小学生のようにキラキラとした瞳でばたばたとはしゃぐ。
「もー、夜ふかししたら連れてかないから」
「えー! あっ! 今日は彩葉の部屋で寝ても良い? 快眠安眠で寝坊防止~。かぐやちゃんあったま良い~☆」
私は健康枕か何かか。
というか。
「はぁ、いっつも勝手に来るでしょ」
「えへへ……」
私の呆れ顔を湯たんぽは笑ってごまかした。
☽001☾
「来たぞー! 温泉!」
電車を乗り継ぎ、たどり着いた真新しいスーパー銭湯のエントランスでかぐやが雄たけびを上げた。
「こんな町中で温泉なんかあるのか?」
そのまま、どたどたと靴を脱ぎにかかるかぐやを横目に独り言ちる。
温泉の定義は確か一定水温以上の地下水をくみ上げること。そのあと加温しようが加水しようが好き勝手にできる。
とはいえ、本当に温泉を使っているなら『天然温泉』の冠名が付くだろうし、おそらくここは水道水を沸かしている……ハズ。
まあ、温泉だろうが、入浴剤だろうが、ソムリエでもない私たちに区別なんかつかないし、大きなお風呂があればそれでいいんだけどね。
そんなこと言ってたら芦花に怒られそうだけど。
「先にロッカーの鍵貰ってくるから、そのへんに居てね」
「あーい、おっ! なにこれ!」
「大丈夫か……?」
受付に行く前に声をかけると気のいい返事とともに、それを3秒で反故にして売店に突っ込んでいった。
迷子なったって最悪スマホで呼び出せばいいから、よしとするか。
「大人2つで」
「はい、レンタルなどありますか?」
受付で店員さんが指で示したのはレンタル品。
タオル類と館内の休憩所でダラダラする用の作務衣とか。
これらがあるから着替えとシャンプーの類ぐらいしか荷物が要らないのは助かる。
最悪、シャンプーの類もいらないらしいんだけど、さすがに私もかぐやも乙女ゆえ持参した。
「えーっと湯着と……岩盤浴?」
へー、お風呂に入れればいいかと思っていたけど、こじゃれた物もあるらしい。
最近、仕事の所為か肩こりがひどいし、入ってみたいな。
新しいもの好きのかぐやもどうせ興味を引かれて突撃するだろうし、ちょうどいい。
「岩盤浴に入る際は、専用のタオルが必要となりますが?」
「じゃそれと、あっ、バスタオルで」
やば、忘れるところだった。
あぶない、あぶない。
「承りました、お支払いは退館時となります」
「わかりました」
「こちら鍵となります、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
そう言ってリストバンド型の鍵を受け取ると遠目でも目立ちそうなキラキラの金髪を探す。
「さて……、あそこか」
ぴょこぴょこと跳ねる金糸の波を追うと、幸いにもまだ売店の中で興味深そうに陳列棚を眺めていた。
「どう? 絶好調?」
「あ! 彩葉! 見てみて!」
声をかけると発光でもしそうな笑顔で何やら指を示した。
見れば、ワゴンに押し込まれたニンジン? のぬいぐるみ。
……何でニンジン?
「ん? なにこれ」
「マスコットだって! かわいくない?」
その声に改めて手に取って見ると、出来の悪いニンジンの後ろにはマッキーで書いてそうな謎の温泉マーク。
これほんとに商品なんだよな? 実に不安になるクオリティだ。
というか、こんなもの売ってて欲しがる奴なんか居るのか?
「……私はいいかな」
「えー! かわいーのにー」
いるらしい。しかも目の前に。
「あはは……」
ガラクタがこれ以上増えないように乾いた笑いで誤魔化すと、口ぶりの割にはかぐやも大していらなかったのか、すっと立ち上がった。
どうやら売店を冷かすのはお開きのよう。
あっ、そうだ。
「そういえば岩盤浴あるって、入るでしょ?」
「まじ!? 入る入る!」
予想どおりのテンションに少し胸を撫でおろした。
かぐや検定3級を名乗ってもいいかもしれない。
そんなものはないが。
「と思った、タオル借りたから後で入ろ」
「よっしゃ! じゃれっつごー!」
「さきお風呂ね」
「そだった! 急げ急げ」
「もー」
☽002☾
「うおー、でっけー」
「ね、ほら髪洗ったら結んであげるから、早く洗っちゃお」
「はーい」
カゴを片手にはしゃぐかぐやを引き連れて洗い場へと歩みを進める。
ぱぱっとメイクを落として髪を洗っていると、暗闇の中で隣からなにやらカチャカチャと音を立てながら唸るかぐやの声が聞こえた。
どうしたんだろ。
「んー? あっ、やば、彩葉シャンプー貸して」
あー、そういう。
「忘れたの? はい」
狭めた目でぼやけた視界の中で、なんとなくボトルを掴んで隣に渡した。
当然ながらかぐやがいつも使うのとは違うけど、まあ、今日ぐらいは良いだろう。
「ん、えへへー、ありがと」
「まったく」
それから、隣から流れる鼻歌に合わせて体を洗い終えると、仕上げに髪を一束結びあげる。
昔に比べたらすっかり短くなった髪だけど、肩ぐらいまではあるしお湯に浸からぬようにエチケットだ。
手の中にあるもう一つのゴムを指で遊ばせながら、隣と伺えばかぐやもちょうど終わった様子。
「洗い終わった?」
「うん! ぴかぴか!」
「それはよござんした、ほら向こう向いて、ゴムで縛るから」
「任せた!」
濡れて重くなった髪は、いつもの絹の手触りと違ってどこかずっしりと指にまとわりつく。
それをくるりと巻いてお団子にしてやれば完成だ。
にしてもずいぶん伸びたな。
普段はかぐやの活発さの所為か、風に遊ぶ髪はそんなに重い感覚は与えないが、こうしてひとまとめにすると随分と長いのを実感する。
のわりに前髪はきちんと切りそろえてるから野放図に伸ばしているわけでもないんだろうから不思議だ。
そのうちツクヨミの姿より長くなるんじゃないか?
手に残るかぐやの濡れ髪の感触を追いながらそんなことをぼんやりと考えていたら、かぐやに手を引かれて湯舟の縁まで連れていかれていた。
ちょっとした瞬間移動を感じながら、そのまま片足からお湯の水面に静かに入るとじんわりとした熱さが全身を血流とともに回る感触がする。
「ふえー、極楽ぅ〜」
「ふう」
当然のごとく隣で歓声をあげたかぐやが肩に寄りかかるのをそのままに、足先を伸ばして息を吐いた。
ウチのお風呂もまあまあ足を伸ばせるけど、やはり大浴場は別格だ。
二人示し合わせたように大きく伸びをしてしまう。
「んー? 彩葉大きくなった?」
すると、何やら横目で変な笑みを浮かべたかぐやが妄言を言ってきた。
大きく? 身長……ではないなその目線は。
「なるかい、もう成長期なんてとっくに終わったっての」
「そお?」
不思議そうな顔をしているかぐや。
しかし私としても特に自覚症状が無いのだから、きょとんとされても困る。
というかさ、それを言うなら。
「そういうかぐやさんは?」
「生後半年だからバリバリ成長期! 身長も伸びる! あと3mぐらい!」
並べばちょっとかぐやのほうが指二つぐらいデカいはずだから、今が大体160ちょい。
さらに3mとなればもう家に納まらない。
可愛そうな巨人の宇宙人……。
「デカすぎでしょ、そこまで伸びたら追い出すから」
「ひどぉい!」
野に捨てようとするとさすがに抗議の声が上がった。
ま、ペットは拾った人が一生を見ろだなんて言うしね。
しょうがないから一生面倒を見てやるとするか。
☽003☾
「彩葉、アレって?」
薄い湯気のなかぼんやりとしていると、何かに気付いたかぐやが指を指す。
示した先には、よくある木の扉が。
「ん? あっ、サウナ?」
「おー、サウナ! 始めて見たかも」
当たり前すぎて何のことかと数瞬遅れて理解した質問に教えてやると、まるで初見のように目を輝かせた。
「旅行のときにあったでしょ……」
「えへへ、そだっけ」
そういや、いつだかの旅行の時も結局見ただけで入っていない。
折角だし、ココの全部を楽しまなきゃ損か。
「んー、入る?」
「良いの!?」
「別に許可なんかいらないっての、ほら行こ」
「サッウナ♪ サッウナ♪」
「絶好調だな……」
早速、即興曲歌いながら楽し気に急かすかぐやの手を引いてお湯の水面から体を引き上げた。
興味津々に扉へと向かうかぐやを追いながら、ペタペタと足の裏にタイルの感触を感じつつ様子を伺うと、どうやらここはサウナマットを敷いて入るタイプのようだ。
扉の前のソレを2枚ほど引き抜いて、流し湯用の手桶で軽く流してから、私も木戸を開けた。
「うおー! あっちぃ、鼻の穴が燃える!」
「燃えない燃えない、はいこれ」
扉の中は偶然にも私たちの他の姿は無く、1秒と黙ってられないかぐやのことを考えれば実に好都合。
その熱気に歓声を上げるかぐやに、手に持つビート板も似たマットを渡すと首を傾げた。
「ん? なにこれ」
「ここのサウナマット、さっき洗っといた」
「はえー、で、どうすんの?」
「尻に敷く」
「へー!」
当たり前のマナーですら楽しそうに聞くかぐやに思わず頬がほころんでしまう。
……いかんいかん、裸の同居人を見てニヤニヤとかちょっとした不審者じゃないか。
びしっと顔面の筋肉に力を入れながら、なんてことはないようにかぐやの隣に座った。
「んで、ここからは?」
「ん? ああ、サウナね、いや別に、じっとして、いい感じに汗出てきたら外に出て、掛け湯かシャワーで汗流して、おしまい」
大体五分ぐらいだろうか。
もうちょっと若かったら我慢大会とかやったかもしれないけど、もうそんな歳でもないしね。
「……つまんなくない?」
「お風呂に娯楽を求めるなよ……」
片眉を上げたかぐやが微妙そうな顔をする。
さっきのテンションと言い、なにかサウナに幻想でも抱いていたのだろうか。
ただのお風呂の一形態に随分と高いハードルだ。
「あっ、じゃあ整いっての目指せば?」
一昔前にサウナが妙に人権を獲得した一種のムーブメント。
大学時代はそのおかげで増えた小規模な女性向けのサウナとシャワーのついた店の会員になって、徹夜でラボにこもっても身綺麗さを維持したものだ。
徹夜明けのサウナの実に染み入る感じが妙に癖になって……。じゃなくて。
「あっ、なんか聞いたことある〜〜、ね! どうやんの? 教えて!」
「はいはい、いい感じに温まったら、水風呂に入って体を冷やす、そんでまた入る、何回か繰り返せば自律神経がバグって魂が抜けるほど気持ちがいい……らしい」
「らしい?」
私の講義のふわふわとした語尾に首を傾げるかぐや。
「私やったこと無いし、てか、やる気もないし」
大学時代はなんだかんだちょくちょくサウナを利用していたが実は一度も経験がない。
「えー! 彩葉もやろ?」
私の事情を知らないかぐやが当然のごとく誘ってくるが、NOを突き付けるために言葉を練る。
まあ、事情と言っても大した話でもないのだが。
「水風呂苦手なんだよね……、辞めとく」
水風呂、特にサウナの後のは苦手だ。
なんか急に体温を奪われるあの感じ。
あの満月の夜、腕の中にあったはずの体温が急に消えて背骨まで冷えた、その嫌な感触をどうしても思い出してしまうから。
今はこうして二人でいるのだから無駄な杞憂なのだけれど、苦手意識はなかなか消えるものではない。
海とかプールなら平気なんだけどね。
「むぐぐ……、1人でやるの寂しーけど、でもやってみたいし……」
「悩むところそこかい。別にこの後いくらでも居れるんだからやったら? 私は外で塩水のぬる湯あるみたいだし、そこで待ってるから」
「よし! じゃ、やってみっか!」
一人で拳を突き上げるかぐやを見ながら、腕を摩るとタマのような汗が噴き出ていた。
どうやら無駄話をしているうちにすっかり温まっていたらしい。
ちょうどいいし、私は上がるか。
「無理そうならさっさと引き上げなさいよー」
扉に手をかけながらまだ平気そうなかぐやに声をかけると。
「ふっふっふー、そこはかぐやちゃんを信用して……ね」
などと自信満々に妄言を吐く。
「はぁ……、そこが一番信用ならないんだけど」
「えー!」
☽004☾
ちょうど水風呂のちょっと先にある塩水風呂。
その中で数分とのんびりと天井を見上げていたら、満足したか水風呂からのそりと上がってきたかぐやが私の隣に座った。
ん? 妙に静かだな……?
「これが悟り……」
「うわ、パキパキに目キマってる……、ちょっと、大丈夫?」
「宇宙の真理が見える……」
「おーい、戻ってこーい」
だいぶダメそうなかぐやの頬を軽く叩けば正気に戻ったか、パチパチと数回瞬きして目に光が灯った。
ここまで人を変えるか……、サウナおそるべし。
ヒトってか宇宙人だけど。
「はっ、アレ彩葉? 宇宙の中心は?」
「なんじゃそら、ほら、そろそろ出よ」
「はーい、あっ、サウナで整ったらオロポ飲んでサウナ飯食べるんだよね、なんか整ったらお腹減ってきた」
「妙に詳しいな……」
サウナへの妙な食いつきはこれか。
どうやら配信かなんかで情報を仕入れていたらしい。
ちらりと浴場内の時計を見ればだいぶいい時間。
私はと言えばおなかの減りはそこまでだけど、流石に喉が渇いたしちょうどいいか。
「うーん、もうお昼だし、食べちゃおっか」
「やた!」
☽005☾
「うぇ〜、どれもうまそ〜〜」
「私は何にしよ」
湯着に着替えてレストランブースに座るとメニューはここで稼がんとばかりに無駄に豪華だった。
ボリュームと、あとついでに値段も。
意外と種類が多くて目移りしてしまいそうだ。
「決めた?」
「彩葉は?」
「私? 軽めに生搾りサワーと、この辺かな」
そう言って指を指したのはおつまみメニューの、揚げたこ焼きと枝豆に唐揚げ。
本当はもうちょっと飲みたいけど、この後、岩盤浴だっていうのに、あんまり酔っ払うとお酒回って凄いことにになるから適量に(1敗)。
「おっさんじゃん……」
「あ?」
ぶっ飛ばすぞ。
「ぬははっ!」
私の殺意に目の前の悪童は笑って誤魔化した。
「で? かぐやは?」
「えっとねー、これ! 激辛ラーメン! あとオロポとー、パフェ!」
元気よく上げたのはサウナ飯の定番メニュー。
普段のかぐやにしては控えめだけど、それでも結構な量だ。
「あんま食べすぎると、岩盤浴キツいよー?」
「お酒飲む彩葉に言われたく無いんだがー?」
「私は良いの」
「かぐやも平気!」
まあ先は長いんだし、別に食べてすぐ入らなくてもいいか、なんて思いながら注文のために呼び出しベルを鳴らした。
☽006☾
「ぷはー!」
「おー良い飲みっぷり」
絞り機にグリグリとグレープフルーツを押し付けながら、ジョッキを開けるかぐやの細い喉の動きを見る。
ごきゅごきゅとビールのCMみたいな効果音を鳴らすその豪快な飲みっぷりには素直に感心してしまう。
「うーん?」
しかし、飲み切ったかぐやの表情の輝きは3等星と言った感じ。
「微妙だった?」
「薄めたオロナミンCの味がする」
「でしょうね」
むしろそれ以外の味がしたら恐ろしい。
「ありがたがるもの……なのか?」
「私も過大評価だと思う」
首を捻るかぐやは、事前情報とのギャップで微妙な顔していて、つい笑ってしまう。
20%ぐらい話を盛るオタク特有の悪い癖にまんまと引っかかったらしい。
「まいっか! 水ならなんでもうまい!」
「あれだけ汗かいたらねー」
切り替えたか、それとも深く考えるのを辞めたか。そう言いながら残ったジョッキを豪快に飲み干すかぐやに倣って、私もサワーを口に含む。
んー、すっぱくてすっきりする。
汗をかいた時はビールも良いけど、一口目はサワーのほうが好みだ。
「んぐんぐんぐ、もう一杯!」
「結局おかわりするんかい」
前にヤチヨに見せられた大昔の青汁のCMのようにジョッキを差し出すかぐやに思わず突っ込みを入れてしまう。
「だってー、喉乾いたしぃ?」
「ラーメン食べる前におなか一杯になるよー?」
「平気! かぐやちゃんにまかせんさい!」
「まったく……」
後編はそのうち!