スイーツ食い倒れの旅をした二人! ダイエットの道は険しいぞ!
☽023☾
目が覚めた。
ゆるくクーラーをかけっぱなしにした室温は肌寒く、湯たんぽ宇宙人のぬくもりが愛おしい。
ちらりと枕元のスマホを見るとタイマーまであと15分だった。
朝イチの便のため目覚ましの時間は早く、カーテンの隙間から覗ける外はまだ太陽が顔を出してなかった。
薄暗い室内でぐりぐりと顎をかぐやのうなじにあてて髪の感触を味わうと、夢見が悪くなったのか胸のあたりからうめき声が聞こえる。
愉快な気持ちになりながら、軽く寝冷めしたのか冷えた体が腕の中の湯たんぽの熱でおなかから温められる感触に身を任せ―――。
☽024☾
「いーろーはー! 起きて!」
「ぐおっ」
朝から襲来した宇宙人のダイブで目が覚めた。
軽く混乱しながら自己診断をすると、どうやら二度寝をキメたらしい。
ここ10年、いや学生時代を含めたら一人暮らしを始めてからは1度もなかったことに、少し気恥ずかしさを覚える。
下手人の宇宙人を見やると、すでにメイクも髪もキメキメでなんだかツヤツヤしている。
スマホを見れば、45分の寝坊。
元がゆっくり準備するために余裕を持たせてたこともあり、全然余裕だ。
我が家のお姫様のおかげでノーメイクでダッシュなんて事態にならなかったことを感謝しつつ体をひねると、ぽきぽきといい音が鳴った。
「ふう、おはよ」
「おはよ! 彩葉!」
☽025☾
チェックアウトをした後は、かぐやが余計なものに捕まる前にさっさと空港までたどり着き、サンドイッチ片手に保安検査も抜けた(保安検査場内で空港限定の爆弾おにぎりはねだられた)。
缶コーヒー(かぐやはお茶)を片手に軽食をすませ、待合のベンチで座りながらゲートの開錠を待っていると、気が付くとかぐやが消えていた。
あたりを見回すとマッサージチェアの稼働音がする。
寄ってみると案の定かぐやが揉まれていた。
「ヴェー……あばばばばば」
だらけた様子に、おかしくなってすこし意地悪を言ってみる。
「ねぇ、かぐや」
「な~に~いろは~」
「ワレワレハウチュウジンダって言ってみて」
「ワ~レ~ワ~レ~ハ~ウ~チュ~げっほげっほ!」
むせた。
ノリよくマッサージチェアの振動に合わせて声色を変えたは良いが変なところに唾が入ったらしい。
まあ、ほとんど仰向けだったしね。
振った本人なだけあって、申し訳なさも混じった気持ちで眺めていたが、チェアにほぐされながらむせてエビのようにバッタンバッタン跳ねるかぐやをみてつい笑ってしまった。
遠くに流れる優先入場の案内を聞く。
いよいよ離陸だ。
☽026☾
鈍行に二人並んで座る。
釧路空港に降り立ち、そのままバスを介して目的地まで電車に乗った。
アンテナが安定しないスマホから目を離して、隣のかぐやを見ると、青と緑に流れる窓の景色に目を輝かせてる。
「あ! ねえ彩葉! 鹿だ! 鹿おる!」
「えっどこ?」
「あー……過ぎちゃった、おっまた鹿だ」
野生生物のはずだが、すっかり電車に慣れ切った鹿はなんだか迷惑そうな眼差しで電車を目で追ってる。
函館も札幌も(ついでに一瞬寄った釧路も)都市といった感じだったが、一面続く原っぱと合間の原生林、そして鹿たちを見ると、イメージ通りのTHE北海道といった感じがする。
レトロなワンマン電車といった感じの車内は乗客は私たちだけで、ちょっとぐらい騒いでも迷惑にならなさそうで安心していると、隣の黄色い声が気が付くと聞こえなくなっていた。
かぐやのほうを見てみると、はしゃぎつかれたのか船を漕いでいた。
子供か。
いやまあ富士山で手に入れた2機目のもと光る竹の擬態機能で体を取り戻すときに、また赤ん坊からやり直したため、生後1か月も無いから子供ではある、のかもしれない(の割にお酒は飲むが)。
今日は朝も早かったし、ここ2日はずっとテンションが高かったから疲れがたまってるのかも、などと思いながら重そうなかぐやの頭を、自分の膝へ誘導する。
トントンとリズムよく体を軽く押してやるとすぐに寝入った。
邪魔そうな金糸を払ってやると、むずがゆって顔を顰める。
宇宙人の早回しの育児期間は1回目と同様にとても短く子育てといった気はしなかった(というか今回おむつや作り置きの離乳食を用意したのはそもそもかぐやだ)が、かぐやのたまに見せるガキっぽい姿には、なんだか自分の中に母性を感じる気がする。
私たち兄妹はパートナーはともかく、子供については完全に投げ捨てたため、顔を合わせるたびにお母さんは毎度複雑そうな顔をする。
ま、お兄ちゃんと違って私は2度も赤ちゃんを育てたのだが。
ふふんと鼻を鳴らしていると、かぐやが寝返りを打つ。
よだれを垂らさんばかりに安心した姿に微笑んでると、本当に垂らされかけた。
あぶな!
☽027☾
すっかり熟睡したかぐやを起こし、厚岸駅に降り立った私たちは駅員さんに切符を見せ改札を抜けて、目的地へと行くために陸橋を登った。
陸橋から見渡せる海を背に小高い丘を見ると、展望台付きのピンクの建物が見えた。
一泊する予定の根室に行く前にお昼ごはんの牡蠣を食べるために訪れた道の駅だ。
「ねえかぐや、そういえば何で道の駅なんだっけ」
「釜めし付きのがめちゃ豪華だったの!」
これー! とかぐやが見せてくる画面に表示されたメニューでは、牡蠣飯の釜めしに生と焼きの牡蠣、そしてカキフライまで並んでいた。
「すご、牡蠣フルコースじゃん」
「ねー、なんかカキ養殖で有名なんだって」
「へー、うわ3種もブランドあるんだ」
「ここ良いよーって言われて、調べたらいっぱい出てきて絶対彩葉とここ行こ! って」
丘へと続く長い階段を上り、道の駅に入る。
入ってすぐの売店のホットスナックにつられかけるかぐやを引きずっていると、なにやらウィスキーの抽選会の申し込みをやっていた。
「ん? どしたの彩葉」
「いやウイスキーも有名なんだなって」
「へーそれは知らんかったなー、むむ? 抽選後の購入は現地のみかー、彩葉! 応募してまた来る?」
「やめとく」
「にひひー」
さすがに冗談だったのか、笑いながら私の手を引き2階へと続く螺旋階段を上る。
光庭から陽光の差し込むホールを抜け3店舗続く店の内、レストランの受付簿に名前を書こうとするとかぐやの気配が消えた。
またか、と思い後ろを振り返ると、かぐやが今度道半ばの海鮮居酒屋に捕まった。
「ねえ! 彩葉! 彩葉! 自分で牡蠣買って自分で網で焼けるんだって! すごくねー?」
「はいはいすごいすごい、ほら行くよー」
「あー! まって、おいてかないで!」
かぐやが指をさす店は、海産物の現物をその場で購入して、網で焼けるなかなか面白そうな店だったが、さすがに昼から炭火臭くなるのは勘弁したい。
まぁ、夜だったら折れてあげてもいいけど。
タイミングが良かったのか、待ってる間にどんどん観光客が押し寄せる中、私たちはあまり待たずに店に案内された。
小目標の一つ、牡蠣だ。
☽028☾
かぐやは宣言通りかきめし御膳を、私はかぐやのメニューに載る御膳の写真に写った釜めしと12個の牡蠣に日和り、焼き牡蠣とウイスキーを頼んだ。
かぐやの牡蠣の釜めしは皿を貰って半分分けするつもりだ(さすがに土壇場でかぐやもビビったらしい)。
レストランから一望できる水平線を見ていると、注文した品が届いた。
30分かかると注意は受けたが、海を見つつかぐやの話に耳を傾けてハイボールを傾けていたらあっという間だった。
「わぁ……すご……」
さすがのかぐやも配膳された量に絶句している。
さすがに女二人旅でこれ一人1人前は厳しかっただろうな、などと思いながら、自分の焼き牡蠣の殻を外し檸檬を絞る。
にしても有名なだけあって殻も身もデカい。
「はい! 彩葉!」
「ありがと」
かぐやが牡蠣飯を盛って渡してくる、口に含むと米粒一つ一つからむわっと牡蠣のにおいが漂う。
「これ、すご、牡蠣じゃん」
「ぷっ、牡蠣だよ! 牡蠣じゃんって何よ、ふふ、彩葉、変なこと……うわめっちゃ牡蠣じゃん」
私の感想に半笑いだったかぐやも、口に含むと衝撃で目を見開いた。
そこからは無心で茶碗をかきこみだすかぐや、それを見ながら焼き牡蠣を頬張る。
「う~ま~! ね、彩葉! 次は広島行こ!」
「また牡蠣? まあいいけど、今度は芦花と真実も誘おっか」
「いいね~~」
ハンドサインを交わすと、視界に映る爪がわずかにネイルが欠けていた、牡蠣の殻にひっかけたみたいだ。
かぐやも私も基本的に料理をするから、自前の硬化用UVライトまで持ってる芦花と違って、外出る時ぐらいにポリッシュを塗るぐらいだが、さすがにちょっとショックだ。
「ねえかぐや、やすり持ってる?」
「ん? DIYの奴?」
「逆に持ってるのがすごいよ……」
「うそうそ、彩葉どうしたの?」
「いや、牡蠣でネイル欠けちゃって」
「あちゃー、スーツケースの中入ってるけど出す?」
「いや、ホテルでいいよ、後で貸して?」
「おっけー!」
ちょっとしたハプニングは有りつつも、おいしい牡蠣を黙々と食べすすめ、大満足で道の駅を後にした。
かぐやが焼き牡蠣の殻を外す時、妙に慎重だったのは見なかったことにしてやろう。
のんびりとお土産の買い物も済ませて、列車に乗り込むとあとは分刻みのスケジュールだ。
90分揺られた電車に別れを告げて、根室駅前のバスターミナルから納沙布岬行きのバスに駆け込む。
日本最東端の岬だ。
☽029☾
原野を抜けたその先にある岬は思ったよりもにぎわっており、お土産屋にレストラン(とそれらの廃墟)があり、三連休ということもあり、そこそこ観光客もにぎわっていた。
札幌では張り付いていた残暑を強い浜風が吹き飛ばし、肌寒いほどだった。
海に沿って灯台まで歩くと、何やら思想が強そうな有志の石碑が並び、物々しい雰囲気を醸し出している。
はじめは髪を風に遊ばせてはしゃいでいたかぐやだったが、石碑を見るにつれて何やらかみしめるような顔になり、灯台へと続く道を歩いている頃には、瞬きすればふっといなくなっちゃいそうだった。
左手でキャリーを引きながら右手で強くかぐやの手を握る。
いなくならないように。
強く握り返された右手の体温が風で奪われそうな熱をとどめてくれたような気がした。
「晴れてると、島が見えるらしいけど、曇っちゃったね」
「うん」
独り言のようにつぶやくかぐやに同意する。
天気か沈みゆく太陽のせいか、歯舞諸島の島影はその名のとおりに水平線の向こうに影法師を見せるだけだ。
「かぐやはさ、北海道きたの初めてだったんだ」
「うん」
「だから、あそこから出てけ~ってされた人のことも知らないし、何があったかもわかんない」
「……」
「ここじゃない場所で真っ赤な炎にくるまれて、熱さも感じずにただ見送ってた……って彩葉は知ってるか!」
赤の記憶。
人類史をカレンダーにしたらほとんどを埋め尽くす真っ赤なインキ。
FUSHIを通して見たかぐやの8000年は生々しく私の脳裏に焼き付いて、10年たった今でも一片たりとも褪せてなどいない。
「一面のがれきの山からにょきにょきビルが建ってさ、何もかも終わったんだなって思ってたけど、まだ続いてるモノもあるんだね」
風に舞う金糸を夕焼けに溶かしながらどこか遠くを見つめるかぐやはなんだか消えてしまいそうで、つなぎ留めたくてつい聞いてしまう。
「かぐやはさ、北海道来たの後悔してる?」
「ぜんぜん! イカも牡蠣もおいしいし! 蟹も食べなきゃだし! なにより忘れちゃいけないものも思い出せたしね、彩葉は?」
くるりと回りながら貼りつけたように表情を入れ替えたかぐやに罪悪感を覚えながら、どこか誤魔化すように返答する。
「私? んー、次はもうちょっとのんびりしたいなー、結局札幌ほとんど見れなかったし、もう日が暮れるけど、明日も朝一で飛行機乗らなきゃだし」
「確かに、この旅程は無理があった、かも?」
「おい、自称パーフェクトツアーコンダクター」
「バスで一周はあきらめたから行けるとおもったんだよな~」
なんという無茶な旅程だ。
私の微妙な顔を見てかぐやは片目をつぶって言った。
「じゃあさ、次は彩葉のプランで旅行してみたい」
「お昼ごはんの時に言ってた広島?」
「うん! かぐやね、揚げもみじ食べたいな~」
「揚げ紅葉? 葉っぱ揚げるの?」
「わかんない! だからいっしょ行こ?」
一昨日も昨日も今日も、いっぱい調べてくれたんだもんね。
一肌脱いでやりますか。
「じゃあ二人も誘って女4人旅やりますか」
「おー!」
「でも行けて冬かなー」
「えー! 来月行こ?」
「む・り☆」
調子乗るな宇宙人め。
☽030☾
「かんぱーい!」
「乾杯」
あのあとバスで再び根室市内に入った私たちはホテル(さすがに温泉ではない)に荷物を置き、晩御飯を食べに居酒屋へ繰り出した(なんと19時以降は居酒屋ぐらいしか店が無かった)。
軽く口を湿らせたかぐやはさっそく、キッチンバサミを手に目の前の怪物の解体を手をかける。
真っ赤な甲羅とトゲまみれの花咲蟹だ。
普段から魚だの海老だの捌いてるかぐやの手つきは揺るぎないが、それでもトゲで持ち辛いのかその表情は真剣そのものだ。
「そういやさー、花咲蟹ってヤドカリらしいよー」
「あー、蟹ってヤドカリと普通の蟹の2種類いるんだっけ」
脚の殻を外し終わり、鋏をハサミの先で慎重に割りながらかぐやが言う豆知識に感心しながら手を伸ばす。
「収斂進化かー」
「あー! つまみ食い禁止!」
かぐやが剝き終わった足を一本つまみ食いしながら考える。
進化の過程で別れた別系統の種が最終的に同じような姿になることを収斂進化という。
中でも蟹の姿は人気らしくカーシニゼーションなんて名前までついてる。
蟹の姿は甲殻類の中で最も進化した形……なのかもしれない。
『Remember』と『Reply』のメロディーが似たことは収斂と言えなくも……ないか、あれはかぐやが『Reply』に寄せてくれたんだし。
月のギャルいお姫様が、深海の乙姫様という別系統でもお姫様になったのはもしかしたら収斂進化と言えるのかもしれない。
ヒーメゼーション……。
益体もないことをぼんやり考えてると、解体が全て終わったらしく、甲羅の中の蟹味噌にほんと少し日本酒を垂らしたのち、手を拭きながらかぐやが言う。
「かぐやこの前テレビでみたんだけど、ヤドカリの内臓食べるとレモンでも甘くなるらしい!」
「ミラクルフルーツ的な?」
「そうそれ!」
びしっ! っと私に付け合わせのカットレモンを向けるかぐや。
「ぱく! そしてレモンを……! すっぱ!」
「あはははは!」
出来上がったばかりの蟹味噌ペーストを匙ですくって食べた後、すかさずレモンにかじりついたかぐやの顔がしわくちゃになった。
テレビが嘘をついたのか、花咲蟹は進化の過程でヤドカリ時代にあったその成分を失くしてしまったのか、どうやら効果はなかったようだ。
私は悶えてるかぐやを尻目に、蟹味噌を匙ですくって口に含んだ。
「んー、甘い」
脚を食べた時にも思ったが、この蟹すごく甘味が強い。蟹味噌は特に顕著に感じる。
かぐやも余計なことしなければそのまま甘かったのに。
今回の旅の大目標なだけあって普段食べている蟹(偶にだが)よりも一味違う。
次に、サンマのお造りに箸を伸ばす。
丸々と太った秋刀魚は溶けるようで、産地だからか一切の生臭みを感じない。
そこで異変に気付く。
「あれ?」
「どしたの彩葉?」
「この秋刀魚のお刺身、小骨がない」
「えー! マジ!? やろうと思ったら身が崩れてボロボロになっちゃうのに!」
このあいだ出てきた目黒の秋刀魚ばりのつみれ汁の正体が分かった。
かぐやの料理の腕は信頼してるので、きっとこれも鮮度がなせる業なのだろう。
「あー、明日には東京かー」
蟹味噌の甘味を地酒で流しながらしみじみ言ってしまう。
「彩葉は何かやり残したことある? あ、ヤバ、真実に頼まれたお土産の蟹買ってない」
「明日バス乗る前に買ってクール便で送ればいいでしょ、にしてもやり残したことかー」
そう振られると、悩んでしまう。
今回の旅は食い倒れの旅だったので観光地らしい観光地はあまり見て回れなかったが、ほとんどかぐやにお任せだったから、ロクに調べてないため言われてここに行きたい!となるところも特に思い浮かばない(ラベンダーと動物園は初めに除外されたし)。
ふと、10年前、月人との決戦の前の作戦会議で真実が言っていた言葉がよぎった。
「そういえば、今回、全然温泉は入れなかったね」
「あっ! まじじゃん! 温泉行けてない!」
初日こそ温泉宿だったが、今日も含めて以降はずっと普通のホテルだ。
「じゃあ次はいっぱい入らないとね☆」
「あーでも入りすぎもよくないって芦花が言ってたような……?」
「ヴェー、む~ず~か~し~い~」
ぶー垂れるかぐやを見て、一つ思い出す。
「あっ、ウニ食べてない」
「うっそ! えーっと、うわほんとだ! 今頼も、彩葉! あーすみませーん! この塩水ウニ? ってやつくださーい!」
慌てて小目標クリアのために店員さんを呼ぶかぐや。
なんとも閉まらない旅だった。
しばらくしてやってきたウニはクリームのように甘味だけでおいしかった。
☽031☾
「って楽しい食い倒れ旅を2人で抜け駆けしたんだ~?」
「えーー! 私も行きたかったー!」
あれから1週間後のお土産譲渡兼査問会。
かぐやは何やら兄のところに蟹*1もっていくとのことで外出しているなか、芦花と真実が自宅に襲来してきた。
―――かぐやめ、これを読んで逃げたな……。
家に着くなり土産話をせがんできたが、もとよりSNSでかぐやから散々自慢話を聞いていたらしい二人は小動物をいたぶる猫のような眼をしていた。
「いやかぐやが急に言い出して、私だって休み取るの大変だったんだからね?」
「でもそんなワガママをきっちり叶えてくれる彩葉さん」
「いいなー、私も旦那にそんな風に愛されたーい」
「あ、愛って……」
お茶受けのお土産のお菓子をつまみながら、ハーブティで口を湿らせる。
「で、広島だっけ?」
「もごごごむぐ」
「真実はもう人妻でしょ……落ち着きなよ……」
芦花がバターサンドでこちらを示すと何やら謎の言語を真実が話す、多分同意だろうか?
「で、どう?」
「んー、ウチの会社、冬休み取れ取れうるさいしちょうどいいかも」
「温泉いこー! 約束したもんね?」
二人の内定も取れた。
広島もおいしいものいっぱいあるし、今からはしゃぐかぐやの姿が目に浮かぶようだ。
「あっ、そうだ彩葉」
「ん? 何?」
「めちゃ牡蠣食べたって言ってたけど大丈夫だった?」
「あーそれ気になる、実際彩葉どうだったの?」
「全然当たらんかったよ、むしろ2日目の虫刺されが今も消えなくてさー」
首筋の腫れは一時期は結構ひどかったが今はわずかに赤みを残すのみだ。
温室前の虫よけスプレーを怠った計画性のなさがここまで響くとは……。
「あれ? それ虫刺されだったの?」
真実がきょとんとした顔で聞いてきて、私も疑問符を浮かべていると芦花が急に言い出した。
「てっきり温泉宿で二人一つのベッドで虫に刺されたのかと」
わざとらしいリップ音とともにウィンクして変なことを言う芦花に、私は耳が赤くなる感触を覚えた。
「いやいやいや、かぐやと私はそんなんじゃないから」
溜息とともに、まあそういう事にしておいてやるかみたいなぬるい顔で見合わせた二人は、そのまま薄ら笑いをこちらに向けてくる。
ホントそんなんじゃないから!
唐突に厳島旅行かぐやの一枚絵が公式から供給されてびっくりしました。
かぐやは旅行好き……解釈一致……!
この短編も描きたいことは大体書いたので後2話ぐらいの蛇足で終わり。
本編にノベライズを乗せてさらに独自解釈をトッピングしたパンケーキな拙作を、ここまで読んでくれたあなたに感謝を。
感想ください!