アレ、解説・実況はともかくプレイヤーが見れるのインチキすぎない?
☽000☾
「KASSENで彩葉倒したい!」
「なに急に?」
寝入る前に軽くスマホでKASSEN(もう10周年を超えた御長寿タイトルだ)の
「かぐやKASSENやるとき、いっつも彩葉がカバーしてくれるじゃん」
「まあ……そうね」
「彩葉つよいじゃん!」
「まあ……そうかも?」
30を超えていまだにプロチームに所属しているちょっと人外に片足を突っ込んでる兄には負けるが、10年もやっていればそれなりに自信はある。
―――最近エイムが落ちてきてる気がするのは仕事が忙しいせいであって加齢ではない……!
「そこでかぐやちゃん考えました」
「はい」
「なかま集めて彩葉を倒す!」
「私、ラスボスかよ……」
かぐやの発言に呆れてると、おもむろに何か思いついたように、こちらに指をさす。
「あっ、そうだ、彩葉負けたらなんでもいう事聞いてね?」
「はぁ? まあいいよ、私負けないし」
「いったな~」
にやりと笑うかぐやに何やら嫌な予感がした。
☽001☾
KASSENのSENGOKUモードは3対3のチーム戦、
「んでなぁ―――」
「あーそれ、俺、かぐやちゃんに頼まれたわ」
「はぁ!? 何でそれ私に言わないん?」
「いやー、おもろそ思て」
「おもろそて……まあええわ、そんでなんて言われたん?」
「彩葉倒すからコーチングして! あと乃依と雷貸して! やって」
「プロ引き連れて、プロがコーチングってチートやん」
「そんだけ彩葉が強いって思われてることやろ? ええなぁ、乃依なんか最近冷たくてなあ」
「はいはい御馳走御馳走」
意外なかぐやの根回しに驚く。
というかメンツが本気すぎる、あの自信の源はこれか。
はじめは身内のつながりで黒鬼から兄を焼肉あたりでレンタルしてかぐやに貸し、私はボディの借りで乃依を借りるつもりだったのだ。
次点で最悪、芦花(なんか忙しそう)と真実(なんか忙しそうその2)にも声かけるかとも思っていたが、さすがに駒沢兄弟にぶつけるには力不足感が否めない。
他レーンは戦線維持だけしてもらって、私がかぐやを速攻で落としてカバーという作戦もさすがにプロ相手に素人にやらせるのは勝算が低い。
「んで、彩葉メンツ足りるん?」
考え込んで黙ってしまった私に気付いた兄が助け舟を出してくる。
「いやぁ、友達に声かけよかと思たけど、乃依君たち相手じゃ無理やわ、どないしよ思て、ヤチヨにサポート入ってもらうにしてもあと一人足らん」
「ほんなら、俺にアテあるけど聞くか?」
「アテ?」
「乙事照琴っておるやろ? ほら昔、俺たちと戦った時に実況してくれたやん」
「あーおったね、ヤチヨ関係の仕事で一緒したことあるわ」
「アイツ元プロで、今でもまあまあやるねん、紹介したろか?」
「ほんま? 助かるわー」
「貸しイチやで?」
「はいはい、あ、そうや、かぐやの対価は?」
「んー……、ヒ・ミ・ツ」
「キッショ、死んだらええわ」
「ひでー」
☽002☾
その後すぐに連絡した乙事照琴さんは『現プロ相手にどこまでいけるか試せるなんてwww面白すんぎwww』との即答で快諾してもらい、残りの枠はかぐやに頼み込んで非同期のヤチヨを当日まで分身してもらった(コーチングの情報を得ないためだ、かぐやはそのあたりズルしないと信頼してる)。
これで、3人そろった。
かぐやの方も、いつも居間でべたべた引っ付いていたのがウソのように暇さえあれば配信部屋でなにやら通話しながら練習をしている。
思ったよりもあるガチ感に、今更練習するまでもない私たちも連携確認に熱が入る。
ランク差的にパワーが上下するヤチヨも今回は性能固定で1プレイヤーとして戦う。
スマコンからツクヨミを起動して約束してた鯖にすでに集まっていた二人に合流する。
「どうも遅れました~、すみません」
「ヤッチョはいまきたとこ~」
「乙でーす」
ここしばらくほぼ毎日プレイをしているため、ほぼ初対面だった乙事照さんとはだいぶ打ち解けてきた気がする。
「ヤチヨさん、ボクが来る前から居ませんでした?」
「今来たところだよー?」
「アッハイ」
すこし離れたところでなにやら話す二人の会話は聞こえないがヤチヨとも長い付き合いだからか仲が良いようだ。
「それで作戦なんですけど、乙事照さんはメインは射手でしたっけ?」
「あぁ、まぁそうですね、たしなみで一応全部使えますけど、射手で銭飛ばすのが一番手慣れてるっすね」
「ヤチヨもオールラウンダーで、私はメインは戦士」
相手の構成は突撃バカのかぐやが戦士のハンマー職で、乃依が射手の弓職、雷が術師でなんだろう、僧兵?で来る……と思う。
定石では、戦士は開けたトップ*1、術師が入り組んでるミドル*2、射手が遮蔽の多いボトム*3だ。
ちょうどかぐやのチームはそれぞれがいるため、おそらくはそういう風に兄が指導していると思うが……。
「おそらく、帝はかぐやに合わせて奇をてらう必要なしと判断すると思うので、ヤチヨと私で2戦士でボトムを攻めてCC*4での援護が強い乃依を速攻で沈めて大将落としまで突撃するんで、その間のトップの射手でかぐやの足止めをお願いします」
「りょー」
「雷さんは?」
「トライデント*5自体、帝か乃依のどっちかが櫓の占拠を2体1でもできると判断した作戦なので、今回は採用しない恐れもあるんですが、おそらくかぐやが私に突撃することを見越して乃依が占拠できると判断して、ミッド攻めすると思うんですよね」
「ふむふむ」
「だから遊兵になってトップかボトムに援護されるか、下手に戻られて拠点防衛される方が面倒なので、逆にミッドの奥まで来てもらおうかと」
「なるほどね、じゃあ仮に気付かれてどっちかでローム*6されてガンク*7食らったら、ボトムだったら2対2でいいとして、トップはどうする?」
「その場合は櫓は無視してなるべくCC撒いて遅延しながら拠点まで撤退してください、そこで時間稼げるなら完全フリーで大将落としまでいけるので」
私の説明に納得した風の乙事照さんは何度かうなずいたのちに、指で空を指して聞いた。
その先には空を舞うレプトケファルス*8。
「仮にかぐやちゃんが思いもよらない奇策で来たら?」
「高度な柔軟性をもって、臨機応変に!」
「了解ンゴwww」
☽003☾
『本日の注目のイベント! 仲良しチャンネルかぐや&いろPがまさかの内戦! 王者ブラックオニキスを加えたかぐやチームが宣戦布告! 迎え撃つは普段は私の隣の乙事照琴とツクヨミ管理人のヤチヨを加えたいろPチーム! 正規の大KASSENがまさに今、ここツクヨミ特設スタジアムで始まろうとしています!』
実況の忠犬オタ公の声が響く中、いつものKASSENのフィールドに6人で集まった。
黒鬼は言わずもがな、ヤチヨも今日は肉入りの告知であるため、私たちのチャンネルもコメントの流れが速すぎてもはや追えない。
『彩葉! 勝負だ!』
「ふふん、所詮かぐやは私に援護されなきゃ何もできないトロール*9だって証明したげる」
『ぐぬぬ~』
敵陣地からの中継ウィンドウが開き、何かと思えばかぐやの宣戦布告だ。
ヤチヨとしての戦闘経験もプラスされてるかぐやは決してそんなことは無いのだが、配信だし
今回は私たちがヒール*10だしね。
最速で勝つが。
「じゃあ初戦は作戦どおりで行きますか~」
「援護はヤチヨに任せてね!」
「いやーいいっすねえー」
視界端で削れていくカウントダウンを見ながら、和やかに最終確認をする。
序盤の櫓獲りは中立ミニオン*11の狩数=ウルトゲージの確保*12の早い者勝ち勝負になりやすい。
つまり、コンマ数秒でも早くたどり着き相手より1体でも早くミニオンを食べてウルトを吐けるかのダメージレース。*13
法螺貝の音に耳を澄ませて、戦意を高める。
気持ちはまるでクラウチングスタートを構える陸上選手だ。
残り3秒でヤチヨと目くばせをし、高鳴る心拍数で秒数を計る……『ぶ』今!『おおおおお』
『さあ、試合開始です! ―――』
中速のサカバン神輿*14ではなく、デカい魚類(マグロ?)に横乗りしたヤチヨを伴って私のオオタカが空を舞う。
天守閣の幕営地から高速で離れると実況の声も徐々に聞こえなくなる。
対空の矢がまばらに見えるようになっても、乃依君の姿は見えない。
ミニオン狩りで疲弊した私たちを中速で近づいてステルスで仕留めるつもりか、そもそもアテが外れたか。
まあどのみちやることは変わらない、そのためのヤチヨとのペア攻めだ。
お役御免となったオオタカから飛び降りながら、クナイを撒いて撤退の布石を置きつつ、ミニオンをつぶしていく。
主に私がファーム*15するからヤチヨは適度に食べつつ*16護衛だ。
その辺の匙加減は野良だと厳しいが、私とヤチヨなら問題なし。
ウルトまであと7割ぐらいとなったところで、竹林の奥から反射が光る。
どっちだ?
そんな疑問を左手で通信タブを触りながら射線に剣を置き目を凝らす、魔弾でも矢でもただのリズムゲーだ。いち、にの、さん! 砕けた攻撃エフェクトは矢!
「乙事照さん! 予想通りボトムは乃依! 単騎かはまだわかんない!」
『こっちもかぐやちゃんのロケット雲見えてる! どうする!?』
「雷着てないならそのままステルスからCCで縛って攻めちゃっていい!」
『りょーかい!』
虎を乗り捨てた乃依が、そのまま竹藪で姿をくらませようとするのを銃弾を移動先に撒いて牽制しつつ、身振りで指示してヤチヨを突貫させる。
ギリギリまで私を牽制するそぶりを見せたが、さすがに突っ込んでくるヤチヨにタゲを切りかえたところで、周囲のミニオンをブーメランで掃討する。
ウルトのゲージが光ると同時にミニマップで位置を確認するとちょうどクナイの位置までヤチヨが誘導してくれてる。
今だ!
ワイヤーの巻取りと同時に竹を蹴ってジグザグに移動する。
こちらに気付いた乃依君がチャージに入るが、ヤチヨが回転傘で牽制、避ければ私、無視すれば大ダメージ。
詰みでも貢献するのがプロゲーマーということで、退場エフェクトの花吹雪の中からウルトが飛んでくる。
「彩葉!」
焦るヤチヨの声を聴きながら着弾までのコンマ秒でウルトの高速移動を切って竹を蹴って下に逃げる。
透けろ透けろ透けろ、スカったあ!
竹に命中した乃依のウルトの効果範囲から逃げつつヤチヨと同流する。
「いえーい!」
「つっかれたー」
ヤチヨとハンドサインを交わす。
「じゃあ乃依君戻ってくる前に蟹*17倒さないと」
「次はヤッチョに任せて!」
「いやーウルトまで切らされるとは、さすがだね乃依君」
「盤面全部読めてた彩葉がすごいんだよ」
直球に褒められるとさすがに照れる。
中速のサカバン神輿の上に剣を刺して乗り、道中のミニオンに弾丸を浴びせてウルトを回復させる。
コールド狙うなら牛鬼でさっさと切ってもいいが、一応乙事さんの状況を聞こう。
そう思った瞬間、乙事照さんからヘルプが届く。
『かぐやちゃん落とせたけど、雷君着てヤバい! ヘルプヘルプヘルプ』
「りょーかい! すぐ行く!」
ミッド突っ切っていくなら雷が狩りそこなったミニオンも多いだろうしウルトも満タンにできる、そんなことを計算しながら中速のオオタカを呼び出す。
「じゃあ、ちょっと行ってくるから、蟹お願い」
「おっけー! 牛鬼はヤッチョにおまかせあれ!」
マップを確認すると乙事照さんが天守閣近くまで引きつけてくれてるからむしろ櫓はフリーだ。
ぎりぎりまで耐えてくれてる乙事さんには悪いが、このまま櫓を占領する。
自分の現在位置とウルトの効果発動秒数から限界点を逆算して、ウルトのボタンに指をかける。
もうちょい、もうちょい、あ、乙事照さんが落ちた、いち、にの、さん!
エフェクトともに加速で歪む視界と、蹴り落されたオオタカの感触を感じながら櫓を守る牛鬼に突っ込んだ。
☽003☾
『いろPが縦横無尽にボトムとトップを攻め落とした! 両櫓占拠でコールド! すさまじい!』
「いえーい!」
「フゥー! ナイスGG*18!」
「いやーここまでうまくいくとは」
練習通りのスノーボール*19で浮かれる自陣営。
敵陣はどうかとウインドウを開いてみれば、地団駄を踏むかぐやと、同じく頬を膨らませた乃依。あとクールな雷。
わがままかわいい担当が二人で、雷の姿は先ほどの試合だけで説明できない疲労感を感じる。
『ぐぬぬぬぬぬ、彩葉ぁ! かぐやから逃げた!』
「戦士はトップレーンだけ維持するのだけが仕事じゃありませんことよー♪」
『ぐぅ……」
ぐうの音が出た。
そのままぱちゅんとウィンドウが向こうから切断された。
まあ悔しがってる姿は見せるが、あれでいてクレバーなところもあるかぐやにとって、1秒でも作戦会議の時間を確保したいという表れだろう。
「それで次はどうしよっか彩葉?」
「んー、1マッチリードしてるし、ある程度ナメプでもいいんだけど……」
1マッチ目の作戦自体はこのまま相手が対応してボトムに層を厚くしても十分耐えうるものなので、変更する必要はないが、塩試合というのも配信者的にはNGだ。
負け筋を残しつつ最大限ハマれば勝てる作戦……。
「よし決めた、乙事照さんボトムで、ヤチヨトップ、そして私がミッドで行く」
「プロ相手にトライデント? ナメプすぎません?」
「いや、トップかボトムでかぐやの発見報告が着た瞬間に私がガンクする」
「あーなるほど、エンターテイナーっすねえ」
櫓を捨ててでも、かぐやとの直接対決。
勝っても負けてもみんな見たいだろう。
指揮官としては1ゲーム目で勝った、次はプレイヤーとして勝つ。
「なにがなんでも櫓獲りに来るから、多分トップはかぐやと雷君になるけど、ヤチヨ、頼ってもいい?」
「うっけたま、かしこま、つかまっつりー☆」
冗談めかして傘をくるくる回すヤチヨに、笑みを返して、気持ちを切り替える。
2タテ、完勝するぞ。
☽004☾
ミッドの岩場を中速ライドで滑るように移動しながら、銃撃でミニオンを倒しながらファームする。
いつでもロームできるように横道との距離はつかず離れずで通信窓を維持しつつ、2人からのかぐやの発見報告を待つ。
幸い、予想どおり向こうはトライデントを辞めたらしく、ミッドには人影はない。
ミニマップを見るとそろそろ二人とも櫓付近に着き、開戦間近といった具合だ。
『ボトム乃依君っす!』
『イタタタタタ、彩葉! こっちに二人ともきた!』
二人の報告はほぼ同時だった。
オオタカの首を撫でてトップに向かいつつ、それぞれに指示する。
「トップは今向かってる! 何とか耐えて! ボトムは応戦して取られればジャンプできるからぎりぎりまで粘って!」
『おっけー!』
『りょーかいっす!』
貯まり切ったウルトを横目に、ライドを狙うミニオンの矢を払いつつヤチヨの元に急ぐ。
自分で開発した疑似感触の風をうっとおしく思いながら目を細めてトップを見据える。
まだか、まだか、今の発光はかぐやの鰻じゃないから雷か、っ! ヤチヨのウルトのエフェクト! まずいか!
3人にミニオンが狩りつくされた読みで中速から高速にライドを切りかえ、そのままエフェクトの残滓の中よろめく人影に向かって強襲する。
退場エフェクトの花びら越しに辺りを散らした視界で見ると、かぐやだけで、ヤチヨの姿が見当たらない。
ウルトがクリーンヒットなら今切った雷が健在なわけがないから、何とか避けれたが、そのためにガンクへの警戒が緩んでたといったところだろうか。
そのまま花びらの影を利用してウルトを切る!
初手でワイヤーを巻いたクナイを落とし、ウルトの速度バフでの超速の踏み込みでかぐやの死角から回り込み切りつける。
接近に気付いたかぐやが、目を見開きながら武器を回そうとするがもう間に合わない。
ここで決める!
交差のあと、残心で振り下ろした勢いを円回転にして、ターンして再度踏み込む。
視界にはばらけたハンマーの竹に守られるようなかぐやがわずかなダメージエフェクトのみでこちらを睨む。
武器で庇われて浅かったか!
武器破壊はできたんだから、かぐやは無手! 今度こそ仕留める!
そのまま高速で後ろに流れる風景に身を任せて踏み込んだ。
鳴り響くは金属音。
そのままの勢いで距離を取って、かぐやを見やると手には槍のような錫杖。
雷の置き土産か……。
そこでウルトの効果時間が切れ、仕切り直しに円を描くように間合いを計る。
「っぶなー……、彩葉やるねえ~」
「それは、ッどーも!」
牽制にレーザーブーメランを放つが避けられる。
ジャンプ台はまだ有効化してないからデスタイマー*20と高速ライドでここまで来るのに大体1分。
先に退場したヤチヨのほうがデスタイマーは早いがダラダラしてたら、2体2で混戦になって地力の低いこちらがピンチだ。
のこり1分で決める。
内部通信用に切り替えて、リスポーン待ちのヤチヨに声をかける。
「ヤチヨ、トップは気にしないで、リスポしたらそのままミッドから天守閣ダッシュして」
『彩葉、大丈夫?』
「櫓は任せて」
『任せた!』
会話が終わった瞬間にかぐやに牽制で銃撃を放つ。
「ほっ、ほっ、どるぁ! 彩葉! 覚悟ぉ~!」
まあ簡単に避けられるが、でもかぐやの突進は誘発できた。
武器が変わったって職分が変わったわけじゃないから、間合いはアレだがかぐやのスキルはハンマー職のもの。
小刻みな動きができる槍や杖と違って、基本は振り下ろし(あと回転)。
大ぶりの攻撃は突破力こそあれ、当たらなければどうということはない。
振り下ろしを半歩引いてそのまま避けて、勢いをつけて体を踏み込む―――寸前にかぐやの顔に余裕を感じた。
背骨がぴりつく感触。
右手の剣を捨ててそのまま捨て身で転がる。
線のように歪む視界の端で振り下ろしから横なぎにスイッチしたかぐやの攻撃を確認しつつローリングする。
「くっ、ナメてた……」
ボヤきが思わず口から出る、余計なこと言う前に体を動かさねば―――。
体制を立て直す前にかぐやを見ると、崩された私をみて勝負時と思ったのか踏み込みながらエフェクトをまとい始めていた。
隣で何度もみたエフェクト―――ウルトだ。
「勝ち確ゥ―――!」
あのスタンプを食らえばただでは済まないし、なおかつ今から体勢を立て直してスタンプの効果範囲まで逃げてなどできるわけがない。
1手がどうしても足りない……詰みか?
加速する思考の中で、何かないかと脳を回転させると視界の端にきらりと光る黒鉄が見えた。
クナイ!
崩れた体制のまま、左手の鍵盤を叩いてワイヤーを巻き取る。
きりもみする体をそのままになんとか命綱にしがみつく。
ぐちゃぐちゃの視界が一瞬白く染まった後、なんとか足で石畳を削って止まる。
避けられた……。
安堵してる暇などない、すぐさま残った剣を両手持ちにして駆けだす。
あと3歩、手ごたえのなさにかぐやが疑問を浮かべる。
あと2歩、錫杖を引き抜く動作とともに顔を上げて私と目があう。
あと1歩!
「……え゛、ちょちょちょ、タンマ! タンマ!」
「待ったなし!」
花吹雪が散った。
☽005☾
その後、文字どおり飛んできた雷に追われながらなんとか櫓の占領を完了した私は、お互い達人の間合いで見合っていたが、天守閣の爆発音が聞こえて、武器を下した。
光る方向は敵陣。
どうやらヤチヨが間に合ったようだ。
「リーダーの作戦はすべて完封されてしまったようだ、さすがだ」
「いやー、かぐやのことだからなんかやらかすかと思ったけど、いやに堅実だと思ったらお兄ちゃんでしたか」
雷はむっつり頷く。
最初のトライデントはプロ2人のアドを生かした力押し、2戦目はサポートもこなせる僧兵を置いて突破力のかぐやでの堅実な櫓の確保、教科書に乗せたいレベルの堅実さだ。
この勝負、縦横無尽にロームしてた私のほうが奇策まみれだな。
「む、時間か、ではな」
そう言い残してエフェクトとともに敵陣に戻る雷を見送って、わたしも陣地に戻る。
ピンクの光に染まったテレポートを終えると体に衝撃を感じた。
青空に舞う銀の流れを見るとヤチヨが抱き着いてきたらしい。
「やったね! 彩葉!」
「ヤチヨが信じてくれたおかげだよ」
ぴょんと私から離れると、右手を構える。
そのまま流れでハンドサインを交わすと、隣から乙事照さんが口笛を鳴らす。
「ん? やります?」
「いやー、百合の間に挟まる男*21になると死ぬほどコメ欄荒れるんで……」
「あー……」
たまにかぐやの放送でモデレーターをやってる時に消す過剰なコメントが頭をよぎった。
「ま! ハイタッチぐらいならいいっすよね! いえーい! GG!」
「い、いえーい!」
ハイタッチを交わしてるとかぐやからの通信が届く。
ウインドウを開くと、なぜかいる兄と、床に寝そべり手足をバタつかせて駄々をこねるかぐやと、普通に落ち込む乃依、といつもどおりな雷。
『よう、彩葉、いやー完敗だわー、GG! これなら俺が出るべきだったかな?』
「出たら勝負になんないでしょ……」
まあ褒められても今日は本当に上振れを引いたという感じで、正直あまり実感は無い。
またいろP最強伝説に1ページが追加されると思うと逆に気が重い。
『どこから作戦が読まれていたのか……まあそれはコーチの最期の仕事としてデブリーフィングするとして、お姫様になにをお願いするのか決めたのか?』
そういや、そんな話だっけ。
「お願いかー、いーーっつも! 私がかぐやのお願い聞いてるしなあ……、あ! そうだ、ねえかぐや」
そこでいったん言葉を切ると自分に向けられたのが分かったのか、かぐやが芋虫のように這って画面まで来る……若干動きがキモいな……。
『ん? 何、彩葉?』
「明日一日、赤ちゃんね」
『へ?』
『いろPまさかの赤ちゃんプレイ要求! これはいったい!? 普段からどんな特殊なプレイを―――!』
実況の声で気付いた。
相当さっきの戦闘で脳が摩耗してたのか思わず口走ってしまった。
自分の失言に気付いても、覆水盆に返らず、吐いた唾は飲み込めない。
『へぇ……』
乃依の揶揄するような声も忘れろ。
『ヒュー』
兄の口笛は無視しろ。
「へ?」
乙事照さんまじすんません!
「へえ、彩葉は”かぐや”にはそんなことしてくれるんだ」
ヤチヨは何を……?
覚悟を決めろ、酒寄彩葉。
「かぐや! わかった!?」
『え、ええええええええええええ!?』
☽006☾
半ば義務感だけでやった赤ちゃんプレイは、成人用おむつを買うところで、蚊の鳴くような声でそれは許して……と懇願したかぐやの嘆願によりライトなものだったが、かなり大きな心の傷を残したらしく(と言っても、よくよく考えれば本当の赤ちゃんのかぐやのおしめ変えたのも私だし、ミルクのたびに夜泣きで叩き起こされたのも私のはずだが何をいまさら)しばらくはおとなしかった。
私も私で下手に顔が売れてるせいで変な風評被害がまとわりつき、しばらくはツクヨミにログインができないという被害を受け、誰も得しない結果に終わった。
最期の最期でトチって私が変なことを言ったせいでグダグダになったが、きっとかぐやは対等に遊んでほしかったんだろうな、などと思いつつ布団に潜り込む宇宙人を抱きしめる。
私のお願いはもうずっと叶ってるんだから今更お願いすることなんかないのにね。
なお、この時の私は、後日、青ざめた顔で乃依が哺乳瓶を買ったことに恐れおののく兄が我が家に襲来してくることや、久々にログインしたツクヨミでヤチヨが何やら怪しげな目で付きまとってくるようになることもまだ知らない。
ちなみに兄へのかぐやの対価は、兄に対する私の近況報告だったので放っておいた。
LoLはエアプなのでそれっぽいこと言ってるだけです。
エセ関西弁も同上。
一人称なので、プロゲーマー並の彩葉ならこう考えるだろうなと専門用語多めで(間違ってたらゴメンなさい)
(表)配信はかぐや視点のいろP討伐配信ですが、基本はノベライズに従って彩葉一人称なので予定はないです。
感想ください!
(追記)
乙事照琴の名前素で間違えてました!
ガイドブック見ながら辞書登録してたのに…
誰だよ乙事照彦……。