日本で一番、月に近い場所   作:五宝合体竹取ロボ

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ノベライズ見るとかぐやの素(脳内)の一人称って私なのに、話すときは彩葉に付けてもらった「かぐや」が一人称なのいいですよね。


【蛇足】(表)大KASSEN対決! いろP倒すよ!(かぐや@かぐや&いろPチャンネル)

☽000☾

 

 

 ソファーに寝ころびながら、仰向けで空に手を遊ばせて影を瞳に落とす。

 

 「暇だぁ……」

 

 思わずつぶやいた言葉に誰も返事はなかった。

 耳が痛くなるような静寂の中にはごうごうとなる冷蔵庫の稼働音と私の吐息しか存在せず、まる独りぼっちの惑星に取り残されたようだ。

 

 つまり何が言いたいかって?

 

 時刻は14時! 彩葉が帰ってくるまでめーーーーーーちゃ暇っ!

 

 富士山への旅でなんやかんやあってパーフェクトかぐやちゃん大復活! めでたしめでたしハッピーエンドってなったの良いけど、彩葉は日中は仕事だし、ツクヨミはもう一人の私(ヤチヨ)がいるしで特にやることはなかった。

 

 掃除でもすればいいじゃんって? 

 ……いやぁ~……ニガテなんだよねぇ……。

 散らかっちゃうとロボット掃除機をどんなに改良してもダメだし……。

 

 まあその代わり? 料理は天っ才! ですから? 三ツ星シェフかぐやちゃんなので!

 今日も彩葉にお弁当持たせてあげたしね。 

 

 あ! そうそう、私はかぐや!

 

 今はツクヨミ管理人兼ライバー兼主婦をやってるの!

 

 ……主婦で良いのかな……? まだ居候とか思われてたらどうしよー……。

 

 今度彩葉に聞いてみっか……?

 

 

☽001☾

 

 

 目をつぶり、海に潜るようにツクヨミにダイブする。

 復活ライブが終わって、最近はもっぱら個室のミニシアターに居ることが多いのでログインポイントも、そこのままだった。

 

 (かぐや)の人気なのか(ヤチヨ)の人気なのか、それとも彩葉の人気か、ライブが終わった後はそれなりに周囲も騒がしくなるので、こそこそっとするのが前の私(ヤチヨ)と彩葉がコラボライブを定期的にやるようになってからのルーティーンになっていた。

 

 まぁ、帝ぐらい図太かったら逆にウキウキで外を出歩いてそうだけど。

 

 彩葉がなぁ、恥ずかしがっちゃって……、まぁそれもかわいいんだけどね?

 

 もうライバー歴10年なんだから……っていう、親心もありつつ、私のお姫様のわがままを叶えちゃってこんな感じに落ち着いた。

 

 最近、彩葉と遊ぶとなんか私のことをエスコートしようしようと気を張ってて、なんかそれが逆につらくて、楽しめないような? という感じがする。

 

 手を引かれるだけの役立たずじゃなくて、ちゃんと対等に肩を並べられるんだぞって証明できたら。

 そうしたら、きっともっと楽しくできるし、してあげられる。

 

 「あ、そうだ帝だ」

 

 暇なのか、たまにふらっと我が家にやってくる彩葉のお兄ちゃんは、相変わらず数々のゲーム大会で上位入賞しており、ヤチヨともガチンコ勝負をしたりしなかったり。

 

 そして相変わらず、彩葉に若干避けられてる……気がする。

 

 お茶ぐらい出してやって相手すると、彩葉の近況の探りを入れてくるのが若干キモ……うざ……心配性なんだな! って思っていたところだ。

 

 きっと帝も彩葉に構いたくてしかたないんだろうし、組んでみて彩葉とゲームしたらどうだろうか。

 

 「んー……、割とありなのでは?」

 

 思い立った時が吉日! 命短し恋せよ乙女……はちょっと違うか、まあいいや。

 そんなことを思いながらDM用の巻物をアクティベートして、キーボードを表示させる。

 

 何気に巻物がデジタル文字なのは気に入ってる、手書きだとなー。

 

 字だけはやっぱうまくなれなくて、ちょっとかぐやちゃん的にアレだなーって思ってたところに、まさかの冷蔵庫に貼ってたレシピだのを彩葉が額に飾って保管してたのだ。

 いやーマヨケチャㇱプって……、あとパンケーキのレシピにホットケーキミックス書き忘れたし……。

 我ながら恥ずかしい。

 

 さすがにちょっと捨てて欲しかったが、宝物みたいに抱えて、はにかむ彩葉にはまだ何も言えてない。

 うーん、書き直したら捨ててくれるかな? ま、いっか。

 

 そんなことを考えながら、帝あてにDMを書いていく。

 

 『先週ぶり帝。

 蟹早く食べないと悪くなるよ?

 彩葉ぶっ倒したいから力貸して!

 報酬は要相談。

 かぐや』

 

「よし! 送信っと」

 

 送ってしまえばあとは待つだけ、スマコンをARモードに切り替えてログイン状態を維持したまま、お茶でも入れるかとケトルのスイッチを入れる。

 この前の旅行で空港で買った珈琲は……とごそごそ台所の引き出しを弄ってると、もう通知が来た。

 

 管理者権限でちょっと弄って、AR上に返信データを出して眺めつつ珈琲のドリップバッグにお湯を落としていく。

 

 「どれどれ……」

 

 『Black onyX 帝アキラさんからのメッセージ

 この前はお土産ありがとうかぐやちゃん!

 メンバーで分けて食べたよ!

 ここからは提案だけど、面白そうだから俺たちもひと噛みさせてほしい、

 いつもの茶屋で落ち合いたいから時間の指定をしてほしい。

 大イベントにして俺らでツクヨミ盛り上げようぜ!』

 

 淹れたばかりの珈琲の湯気を吸いこみながらにやりと笑う。

 

 「ふふふ、釣れた!」

 

 

☽002☾

 

 

 おなじみの茶屋風の屋外ミーティングルームには帝のほかに雷と乃依も居た。

 

 「よっ! 帝!」

 「どーも、かぐやちゃん、彩葉ぶっ倒したいって何事? 喧嘩でもした?」

 

 面白がってるような喜色の声の中に、ほんの少しの心配の色。

 お兄ちゃんなんだなー。

 

 「ん? ぜんぜん! 彩葉がお姫様みたいに守ろう守ろうとするからさー、ここはビシっ! っとかぐやちゃんもやるんだぞ! って思い知らせてやるの!」

 「へぇ、いいじゃん、よし! 俺らも乗った!」

 

 心配が払拭された帝が胡坐を叩いて、声を張り上げて同意してくれた。

 てか、俺"ら"?

 

 「えー、俺もやんのー?」

 「リーダーは絶対」

 「はーいはい」

 

 なんかまきこんじゃった駒沢兄弟だったけど、なんだかんだノリがいいことは知ってるし、(ほぼ)二つ返事で賛同してくれた。

 でもなー、黒鬼フルかぁ。

 

 「帝に鍛えてもらってタイマンで! って思ってたけど、人数がいるなら……そうだっ!」

 

 ピコンと電流が走った。

 

 「彩葉倒すからコーチングして! あと乃依と雷貸して!」

 「へえ、SATSUNA(一対一)じゃなくてSENGOKU(三対三)か……いいじゃん! プレイヤーとしてかぐやちゃんが戦って、俺が作戦立案をすれば、二人で彩葉と戦える余地がある」

 

 片目をつぶって楽しそうにしてた帝だったけど、何か不安が浮かんだのか腕を組みながら唸りだした。

 

 「うーん……、でもそれだと、彩葉側のメンバーが足りなくなる可能性があるな……、メンバーの実力差でちまうと、見てて冷めるしなぁ……」

 

 あっそうか、彩葉って最近もすぐ帰ってきてて、地味に交友関係狭いからゲーム誘っても真実か芦花だけじゃん、一人はヤチヨを出すにしても一人足りない。

 

 「んー、最悪は彩葉チームに俺が出るって手はあるが、そうしたら逆に弱い者いじめだしなあ」

 「はー? 帝なんか一人二人居ても余裕なんですけどー? むしろ俺が向こうに着こうか?」

 「俺はリーダーに従う、誰が相手でも問題ない」

 

 思わぬところで飛び火した二人から集中砲火を浴びた帝は、目をつぶって考え込む。

 

 「ねー帝ー、知り合い居ないのー?」 

 「あ! そうだ、なあ、かぐやちゃん、一人は確保できるか?」

 「一人? ヤチヨ出せば行けるけど……」

 

 にやりと不敵に帝が笑った。

 

 「アテはある」

 

 

☽003☾

 

 

 「ただいまー、喉乾いたー」

 

 おっ、彩葉帰って来た。

 

 「おかえりー! ごはんにする? お風呂にする? そ・れ・と・も?」

 「水ね、水」

 

 居間のソファーから小ボケをかますと、すげなく返される。

 

 玄関から台所に直行した彩葉は、旅行から帰ってきてからは材料のフレッシュミントが切れるまで、しばらく冷蔵庫の中に麦茶の代わりに占拠してるフレーバーウォーターをコップに酌む。

 

 「おいしいけど、やっぱ麦茶でいいわー」

 「まぁねー」

 

 手間のわりにあんまり評判はよろしくない。

 麦茶だったら食中も飲めるしね、安いし。

 あのおいしさは旅行補正だったのかなー。

 

 「ふう、あっ、かぐやお風呂湧いてる?」

 「湧いてるよー」

 「じゃあ、先に汗流しちゃうね」

 「かぐやはその間ご飯作っちゃうねー」

 「任せたー」

 

 脱衣所に消える彩葉を見送って、手早く髪をまとめて台所に入る。

 長い髪は自慢だけど、料理の臭い吸っちゃうから、食べ終わった後に追い炊きしてお風呂に入っちゃった方が都合がいい。

 

 最近はお土産の消化で海鮮ばっか食べてたし、彩葉も飽きてるだろうと、もうそろ最後の夏野菜でシンプルにラタトゥイユ*1とご飯と味噌汁の和洋折衷何でもありのご家庭盛り一膳。

 

 グアンチャーレが隠し味!

 トマト色に染まった鍋の中に浮かぶ短冊の豚を見ながら、隠れてるか? と一瞬思ったけど隠し味だからセーフ!

 

 そう! ごはん(もう炊いてる)味噌汁(温め直すだけ)煮もの(あとは盛るときに刻んだフレッシュバジルと和えてオリーブオイル回すだけ)という省力時短メニュー!

 

 あのあと詳細を帝と詰めて、練習時間も決めたから、今日は彩葉に宣戦布告して、帝に連絡するように仕向ければミッションコンプリート!

 

 なのでなるべく時間を確保したくて、のメニュー選択。

 ラタトゥイユなら余せば水気切って炒め直せばお弁当に入れられるしね、だからニンニク抜きにしたし。

 

 お皿を用意しながら、彩葉を待つ。

 ついでに鼻歌も出ちゃう。

 

 おっ、ドライヤーの音がする。

 そろそろかな、サラダとかネギとか菜もの刻んじゃお。

 

 

☽003☾

 

 

 寝る支度はおっけー! 炊飯器にお米もいれた! お弁当のおかずの仕込みもした!

 居間の電気を消して、スマホの明かりで階段をのぼる。

 

 さあ宣戦布告だ!

 

 いまだに私特製の段ボールの表札を飾ってる彩葉の部屋に突撃した。

 彩葉は敷布団の上で膝を立てながらスマホで何やらゲームをしてた、明日早いのに寝ないの?

 

 「KASSENで彩葉倒したい!」

 「なに急に?」

 

 私の言葉に、いぶかしむ彩葉。

 

 「かぐやKASSENやるとき、いっつも彩葉がカバーしてくれるじゃん」

 「まあ……そうね」

 「彩葉つよいじゃん!」

 「まあ……そうかも?」

 

 そう彩葉はつよい、私のカバーをしながら自分の役割を果たせるぐらい。

 それでいて、何でもないような顔で配信だって維持してくれてる。

 

 でも、私にもゲームくらい任せてほしい。

 

 「そこでかぐやちゃん考えました」

 「はい」

 「なかま集めて彩葉を倒す!」

 

 彩葉に頼んまなくても、わたしだけで仲間集められたんだよ? 

 

 「私、ラスボスかよ……」

 

 あ、ちょっと落ち込んでる。

 しゃーないな! 焚きつけてやるか! 

 

 「あっ、そうだ、彩葉負けたらなんでもいう事聞いてね?」

 「はぁ? まあいいよ、私負けないし」

 「いったな~」

 

 私は私を証明する。

 にやりと不敵な笑みを浮かべると、彩葉が呆れたように笑った。

 

 

☽004☾

 

 

 それからは、特訓の日々だった。

 戦略自体は帝に丸投げしてるから、盤面ではなく目の前の対人としての立ち回りが主だ。

 

 ヤチヨは最強なんじゃないかって?

 

 んー、言葉にすると難しいんだけど、厳密には(かぐや)(ヤチヨ)じゃない。

 いや、(ヤチヨ)(かぐや)なんだけど、今ツクヨミ上で動いてるヤチヨは同期してちょくちょく情報を共有してるとしても厳密には個だ。

 

 もと光る竹に残ってたもう一人分のナノマシンで体を取り戻して、直接リンクが外れたからか、個としては分かれたけど、同期で感覚同調はできるし、月に残した引継ぎ用の複製とも違う、なんというかもう一人の自分だ。

 

 だから、ヤチヨの経験値がイコールで私のモノかって言われると微妙なところ。

 そもそもコントローラーで操作するのと、もと光る竹経由で直接操作するのじゃ全然違うしね!

 

 「ほっ! どりゃあ!」

 「思い切りは良いけど一直線! ちょっと足引くだけで避けれるよ! フェイントいれなきゃ!」

 

 最近の彩葉のビルドとほとんど同じ(銃の連射速度とワイヤーぐらい?)な帝を相手にスパーリオングが練習の主だ。

 にしても、あったんないなー。

 ハンマー職、割と気に入ってたんだけど、代えるべきか?

 

 「ふむ、集中力も切れてきてそうだし休憩にするか」

 「うぇーい……」

 

 思考の乱れが読まれたのか、休憩の申し出があったのでハンマーを地面に置いて足でホールドしながら、現実の額に浮かんだ汗をぬぐう。

 ついでに水分補給もしちゃお。

 

 「ずぞぞ、ふう、で、どう?」

 「んー? まあこのままいけば十分勝負になるとおもうぞ」

 

 勝てるとは言わないあたりに誠実さを感じる。

 勝てんかー……。

 

 「ま! いい勝負できるようにしたら、あとは作戦で勝つのが指揮官の仕事さ」

 

 にやりとこちらを見やった後に、帝は乃依と雷にそれぞれ指示を出す。

 

 「彩葉は典型的なトップレーナ―*2、俺が紹介した乙事照はプロ時代はボトムレーナー*3だし、事前情報で雷と乃依の参戦を知ってる彩葉は個人の強みを生かすはずだ」

 

 そこで一拍おいて、乃依に顔を向けた。

 

 「乃依、ボトム任せていいか?」

 「まー、いつも通りやれってことでしょ? りょーかい」

 

 気の抜けた感じで返事をする乃依。

 

 「乙事照相手なら乃依は負けねえだろうから、雷は基本ミッドで、もしも乃依が落ちた時はかぐやちゃんに加勢してくれ、ボトムを捨ててでも確実にトップを取る」

 「了解した」

 

 みんな自分の仕事をきちんとわかってるんだなー。

 よし! 今の私の仕事は1ミリでも強くなって彩葉をきっちり倒すこと!

 

 やるぞー!

 

 

☽005☾

 

 

 『本日の注目のイベント! 仲良しチャンネルかぐや&いろPがまさかの内戦! 王者ブラックオニキスを加えたかぐやチームが宣戦布告! 迎え撃つは普段は私の隣の乙事照琴とツクヨミ管理人のヤチヨを加えたいろPチーム! 正規の大KASSENがまさに今、ここツクヨミ特設スタジアムで始まろうとしています!』

 

 実況の忠犬オタ公の声が響く中、いつものKASSENのフィールドに6人で集まった。

 こちらの陣地には当然ながら、彩葉たちの姿はない。

 

 さて、宣戦布告かー、なんて言おっかな。

 そんなことを思いながらよどみなく動く指は、敵陣へ向けた通話のウインドウを開いた。

 

 すーはー。

 よし!

 

 「彩葉! 勝負だ!」

 『ふふん、所詮かぐやは私に援護されなきゃ何もできないトロールだって証明したげる』

 

 えーそこまで言わなくていいじゃん! 気にしてるのに!

 

 「ぐぬぬ~」

 

 ウィンドウを閉じて、思わず衝動が口をでる。

 

 「くっそ! 見てろ彩葉! ぎゃふんと言わせてやる!」

 

 『ヒュー、その意気だかぐやちゃん』

 

 内部通信で帝の声がする。

 コーチボイスはさすがに試合中は聞けないが、法螺貝(試合開始)前の天守閣の幕営地なら好きに話せる。

 

 「んで、作戦はそのまま?」

 『おう、トライデントで行く、ブラックオニキス in かぐや姫のパワーで圧殺するぞ』

 

 自信満々な帝の声に、なんだかちょっと強くなった気がする。

 そろそろ試合開始だ。

 

 法螺貝の音に耳を澄ませて、戦意を高める。

 

 『ぶおおおおお』

 

 よっし! じゃあ行くぞ!

 ロケット炎を噴射するハンマーに飛び乗りトップレーンの櫓を目指す。

 

 「ん? 彩葉の鳥が見えないな」

 

 櫓近くまで降りてきても、彩葉どころか他の2人の姿もない、帝の読みが外れたか?

 くっそー、彩葉と戦えると思ったのに……。

 

 しょうがない……、ミニオンを狩ってそのままウルトで櫓落としちゃおう……。

 あ、通信しなきゃ。

 

 『みんな、トップ空だったからこのまま攻めちゃうね』

 『了解した、俺は天守閣に向かう』

 『じゃあボトムに大集合かもってわけか、お、見つけた』

 

 じゃあウルトもたまったし、櫓に『チャリン』……ちゃりん?

 

 突然動けなくなる体と、視界の端に表示されるスタンの状態異常のアイコン。

 状態異常!

 でもどこから? 何とか体をひねって後ろを見ようとするけど連続で鳴る金属音とヒットの衝撃、そして無限に延長し続けるスタン秒数で全く状況が把握できない。

 

 なに! なに!? どういうこと!?

 

 「ヴェーー! くっ……彩葉がステルス? いや違う! 乙事照さんか!」

 

 くそー帝め、ボトム行ったんじゃなかったのか!

 

 「じゃあ悪いっすけど、任されちゃったんでここで落ちてもらいます」

 

 死角から聞こえる冷徹な声を境に視界が花吹雪に染まった。

 

 『ごめーん、俺も落ちた、ウルト撃ったけど多分あれ避けられたなー』

 『作戦どおりトップのフォローに入る、残り20秒で現着』

 『じゃあコールド狙いじゃなかった時のために俺は天守閣防衛に行くから、かぐやちゃんはトップのフォローお願い』

 『あっ、うん! わかった!』

 

 デスタイマーが終わって桃の果汁をまき散らしながら幕営地に降り立つ。

 すぐさま、高速ライドのためにハンマーに乗って飛び立った。

 まずい! 急がなきゃ!

 

 トップの櫓が見えてくると、もうすでに時は遅く、地上を走る流星のようなエフェクトで光り輝く彩葉がそのまままっすぐ櫓に突っ込んで行く姿が見えた。

 

 そのまま牛鬼を膾切りにして私の手の届かないところに駆けていってしまう。

 

 遠目で見える彩葉の真剣なまなざしに、ちょっとドキっとした。

 

 勝てないなー、もうっ。

 

 だから楽しい!

  

 

☽006☾

 

 

 『いろPが縦横無尽にボトムとトップを攻め落とした! 両櫓占拠でコールド! すさまじい!』

 

 自分のプレイを振り返る。

 初手が迂闊だった? 乃依が彩葉に勝ってれば? いやでも私が乙事照さんに粘れてたら彩葉と戦えた?

 

 堂々巡りする思考に思わず地団駄が出る。

 負けた! ぐやしい! くっそー!

 

 「ぐぬぬぬぬぬ、彩葉ぁ! かぐやから逃げた!」

 『戦士はトップレーンだけ維持するのだけが仕事じゃありませんことよー♪』

 

 思わず出た愚痴に返答が帰ってくる。

 気付かぬうちにどうやら今度は向こうから通信が着てたようだ。

 にしても彩葉! 調子乗ってる! ちくしょー!

 

 トップレーンの維持か……、できなかったな……。

 

 「ぐぅ……」

 

 自嘲と悔しさで大きくなった言葉が喉につっかえて出なかった。

 

 これがぐうの音も出ないってか! やかましい!

 くっそー彩葉め!

  

 衝動的にそのままウィンドウを閉じて、リアルとツクヨミ、両方の頬を叩く。

 

 よし切り替えた。

 次は絶対に勝ぁつ!

 

 「帝ぉ! 次はどうしたらいい!?」

 

 天に吠えると含み笑いをした帝の声が降ってくる。

 

 『くくく、よし! 雷! トップでかぐやちゃんのフォローをしてやれ!』

 「了解した」

 『乃依はボトムでそのまま、彩葉のことだ、塩試合になったら取れ高がどうとか無駄なこと考えてるだろうから、もうあの攻めはしない』

 「りょーかい、今度は本気でやるよ」

 『かぐやちゃんはトップにそのまま突っ込め! 雷が居れば乙事照程度に負けやしねぇ、いけるな?』

 「よっし! やったるぞー!」

 

 いくぞ!

  

 

☽007☾

 

 

 ライドで到着した櫓前にはヤチヨが待ち構えており、ミニオンはすでに一掃されていた。

 ちらりと雷を横目で見ると、ハンドサインで突っ込めとの指示。

 

 よし!

 

 握りを上下入れ替えて空中で一回転、そのまま推進力をヤチヨにぶつける!

 

 「どおおおおりゃあああああ!!」

 

 重力を味方にしたエセウルトは案の定傘で受け止められたが、ここまでは想定どおり。

 スキルを切ってロケットの加速を無理やり使って、地上に足がついてもそのまま押し切る!

 

 「ぐぐぐぅ……」

 「ほい! っと☆」

 

 くるりと体を入れ替えて受け流そうとするヤチヨ。

 読んでた! その動きは!

 

 受け流されて泳ぐ体をそのままに、ちらりと背後を見れば、音もなく着地した雷がロケット噴煙で作った煙幕を突き抜けてヤチヨの体に痛打を与える光景が見えた。

 

 「ぐうっ、これが狙いだったか~! でもまだまだ!」

 

 滑空するヤチヨはそのまま雷に突っ込むと数合打ち合ったと思えばするりと抜けてダッシュで逃げる。

 

 えっ、逃げた!?

 

 「あっ! 待てー!」

 

 とりあえず、鰻ランチャーで追撃しようとする雷を援護する。

 

 「イタタタタ~」

 

 当たってるんだか当たってないんだかよくわからない気の抜けた声でジグザグに逃げるヤチヨを追ったが岩場に隠れられてしまった。

 

 んー、どうしよっかな。

 

 「このままズバババーンとやるから、ズドドドってフォローできる?」

 「やってみよう」

 「よし! いっくぞー!」

 

 ロケットのクールタイムは明けてる、踏み込んで、突っ込む!

 ハンマーに引っ張られる体を、壁を蹴って微調整、ほんのちょびっとの手首の角度でスッ飛ぶこの移動法は練習で何度か錐揉み回転しながら地面に頭から突っ込んだが、何とか本番までにはモノにした。

 

 「よっ、ほっ、とう! そしてぎゅん!」

 

 ちらりと見えた銀色に狙いをつけてくるっと一回転、速度を乗せてそのまま岩ごと砕く!

 

 インパクトの直前に、それこそ鰻を掴むようにするりと抜けた銀の髪は、そのまま後方の雷に突撃する。

 しまった! 破れかぶれの特攻だ!

 

 大技を使ったから硬直ですぐには戻れない、せめて援護しようとハンマーの蓋を開けようとするが、雷の攻撃のエフェクトが光る戦場に銀の光が満ちる。

 

 ウルトか! ここはギリギリセーフだから、ダメージ付きのエフェクトが消えた瞬間に飛び込んでいけるように準備を整える。

 

 きらきら光るエフェクトが煙幕のようでうっすらとした影法師しか見えないが、雷もギリギリ避けれたらしい。

 ヤチヨも健在の可能性があるから、慎重に雷の方に近づこうとすると、ピンクの花びらが舞った。

 落ちた? ヤチヨがウルトをおとりに雷を狩った?

 

 そこまで考えて、急にぞわっと背中が冷えた。

 ほとんど無意識に武器ごと振り返ると、まるでオーラのようにウルトのエフェクトをまとった彩葉の姿。

 その流れるような太刀筋に何とかハンマーをねじ込めたのは奇跡としか言いようがない。

 

 竹を束ねた綱が立ち切られ、ばらばらに散る竹と皿、浅くてもウルトの攻撃を受けた衝撃で花びらをこぼしながら吹き飛ぶ体。

 

 何とか石畳を削りながら踏ん張ると左手に何かが当たった。

 雷の錫杖だ。

 ハンマーは失ったけど、これがあればまだ戦える。

 

 体に染みついた反射でそのまま錫杖を振り上げると、ちょうど彩葉の攻撃にピタリ。

 あっぶねー、錫杖に気付くのがコンマ数秒遅れてたら真っ二つだった。

 

 「っぶなー……、彩葉やるねえ~」

 「それは、ッどーも!」

 

 ウルトの効果時間が終わった彩葉が少し距離を取って、牽制のレーザーを撃ってくる。

 帝先生の彩葉攻略講座を思い出しながら距離を詰めていく。

 

 ひとつ、牽制のレーザーブーメランは逃げると当たる場所に置いてるから避けないほうが安牌。

 

 ふたつ、射撃は近距離なら狙ってないからリズムを崩せば簡単に避けれる。

 

 「ほっ、ほっ、どるぁ! 彩葉! 覚悟ぉ~!」

 

 みっつ、策がハマったと思ったら思考が固まるから、フェイントをかけるべし。

 

 私の大得意の大ぶりの振り下ろしを体重をかけずにフリだけ。

 何回もこのワザを見てる彩葉は大げさに避けるハズ……ハマった!

 そして手首を回して、思いっきり踏み込んだ本命のスキルを乗せた横なぎ!

 

 くっそ! ローリングで避けられた! 

 でも体勢は崩した! 行ける!

 

 体半分くらいを左にローリングしながら抜けようとする彩葉に、すかさずウルトのキーを押し、渾身の一撃を放つ。

 大範囲大火力デカい隙の三拍子そろったハンマースタンプ。

 

 「勝ち確ゥ―――!」

 

 思わず勝鬨が出る。

 ついに彩葉に勝てる!

 

 ふふん、どんなもんよ! ちょっとはかぐやちゃんのこと見直して……あれ?

 

 石畳をたたき割ったウルトのエフェクトが消えても退場の印のピンク色は視界には映らなかった。

 

 外した? あの体勢から? いやとりあえずは状況確認だ。

 

 錫杖を引き抜きながら顔を上げると、そこにはこちらに向かって駆け出していた彩葉の姿。

 

 外してんじゃん!

 

 「……え゛、ちょちょちょ、タンマ! タンマ!」

 「待ったなし!」

 

 花吹雪が散った。 

 

 

☽008☾

 

 

 「あーーーーーっ、負け! 負げだああああああ!」

 

 あの後デスタイマー明けのリスポーン直後でもう一回ヤチヨのウルトを浴びた私は成す術もなく、そのまま大将落としに突撃したヤチヨを天(リスポ待ち)から見守って試合終了となった。

 

 あそこで舌なめずりしてウルト切って無ければ! 仮に避けられたとしても崩れたままなんだから、一発入れてからウルト切ればよかった!

 ぐやじいいいいいいいいいい、けど、あと一歩まで追い詰めれた! たのしい!

 

 崩れた体のまま床を叩いていると、試合が終わったからか、こちらの陣地に下りてきた帝の姿が見えた。

 

 「よう、彩葉、いやー完敗だわー、GG! これなら俺が出るべきだったかな?」

 『出たら勝負になんないでしょ……』

 「どこから作戦が読まれていたのか……まあそれはコーチの最期の仕事としてデブリーフィングするとして、お姫様になにをお願いするのか決めたのか?」

 

 あれ? そんな話だっけ?

 

 『お願いかー、いーーっつも! 私がかぐやのお願い聞いてるしなあ……、あ! そうだ、ねえかぐや』

 

 なんか呼ばれた。

 脱力したからだをうねうねと画角にねじ込みながら考える。

 わがまま多いかもだけど! 私だって彩葉がライブ後は出歩きたくなーいとかわがまま一杯叶えてるもん! ぷんすか!

 

 「ん? 何、彩葉?」

 『明日一日、赤ちゃんね』

 「へ?」

 

 赤ちゃん? どゆこと?

 

 『いろPまさかの赤ちゃんプレイ要求! これはいったい!? 普段からどんな特殊なプレイを―――!』 

 

 何やら回りが騒がしいが、全然頭に入ってこない。

 え? あかちゃん? いや確かに彩葉には私の赤ちゃん時代をお世話してもらったけど、えっ、どゆこと? 2回ならずもう1回やりたいって話? いや? アレ? 特殊なプレイの話? いや別にやぶさかではないけど、そういうのはまずノーマルな――――。

 

 『かぐや! わかった!?』

 「え、ええええええええええええ!?」

 

 

☽007☾

  

 

 なにやら目の据わった彩葉が敢行した赤ちゃんプレイは、さすがに勘弁してもらったおむつを除いても、あまり思い出したくはない。

 やっぱり赤ちゃんの体と、今のそこそこいい年の体じゃワケが違うのだ。

 

 口は災いのもと……しっかり味わったぜ……。

 

 まさか彩葉の願いがもうちょっと私の育児をしてみたいなんて、倒錯してたとは、ちょっとびっくりな事件だった、ママみってやつなのかな?

 

 はっ! 私もしかして、奥さんでも居候でもなく、娘って見られてるーー!?

 

 最期の最期でグダグダになった決戦は、0勝1敗で幕を下ろした。

 次こそは絶対に勝つ! なんて、潜りこんだ彩葉の布団で決意を固める。

 

 

 なお、この後、コーチの対価だ! なんて言いながら彩葉の近況を根掘り葉掘り聞こうとする帝に定期連絡を要求されることや、ツクヨミに残したヤチヨがなぜか同期拒否するようになることを、この時の私はまだ知らない。

 

*1
夏野菜の炒め煮、まぁ大体はトマト煮込みになる。茄子とズッキーニはマスト

*2
トップレーンで戦うことを主軸とするプレイヤー

*3
ボトムレーンで戦うことを主軸とするプレイヤー




 かぐや視点はノベライズでも描写が少ないので難しい……。

 彩葉視点との状況把握の差を感じていただければ幸いです。


 思った以上に皆さんに読んでいただけて、本来の最終話になる話は書いてる最中ではあるのですが(このかぐや視点は予定外)、そこから続きを書くかはいまだ未定……。

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