Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
──かつて、闘争があった。
舞台は極東の島国、日本。その闘争において“聖杯”と呼ばれる奇跡は
聖杯よりも先に顕現するのは七つの魂。
この星の上で生まれ息吹いた数多もの歴史、伝承、呪い、虚構──古今東西ありとあらゆる媒体の中より選ばれた英雄の魂を七種の
それぞれの英霊の召還者となったマスターと呼ばれる魔術師達が、ただ一人に許される聖杯取得の権利を巡って殺し合う。
その闘争こそが、“聖杯戦争”と呼ばれるものだ。
──アメリカ大陸西部“スノーフィールド”。
狭間とでも言うべきその地方都市にて、かの闘争を再び行わんとする者達が居た。
それは偽りの儀式を呼び水に行う、黒幕にすらも予測不能なイレギュラーだらけな戦争である。
故に──。
『!』
それは、“異界の存在”に目を付けられた。
観測していた魔道元師すらも予想外かつ干渉不可能な出来事。当然だ、それは単なる並行世界などという次元の話ではなく、正真正銘の全く異なる世界という意味での“異界”だったのだから。
ガイアもアラヤも存在しない。根本も、法則も、在り方すらも何もかもが異なる、本来であれば混じり合うことなど決して有り得ぬ場所。
──そこが、何をトチ狂ったのか“座”と繋がった、繋がってしまったのだ。
「……小僧、オレを口寄せしたのはお前か?」
そして現在。
この世ならざるその“男”は、人々で賑わう真っ昼間の公園の中で悠然と佇んでいた。
見据える先には、装飾過多なナイフを手にベンチに座り込んでいる、一人の青年。
「は、はいッ!?」
青年──時計塔の魔術師、フラット・エスカルドスは思わずベンチから立ち上がって驚愕する。
自らの手の甲に宿った聖杯戦争のマスターの証であり、サーヴァントに対する絶対命令権である“令呪”の魔力の流れなどを“解析”していた折、その存在は圧倒的な存在感を放っているにも拘わらず気が付けば眼前に顕現していた。
どうやら祭壇どころか、召喚の呪文も無く霊脈と繋がりを持ち、サーヴァント召喚の儀を成功させてしまったようだ。他のマスターが知れば卒倒しそうな出来事である。
「これは……穢土転生、ではないな? ──ほう。聖杯戦争、面白い話だ。願いを叶えるなどという甘言にはもはやそそられんが、英霊とやらと戦えるというのには興味がある」
一方、先程のフラットの言葉を肯定とみなしたのか男──サーヴァントはすぐに関心は自らの肉体へと移り、そして聖杯から与えられた知識により全容を知る。
願望機、英霊……眉唾な話だが、自分のような存在を浄土から喚び寄せることが可能なのだからそれなりに信憑性はあるのだろう。
(ジャック・ザ・リッパー……じゃ、ないですよね……?)
一方、フラッドには一つの疑問があった。
尊敬する師から送られた自分の手にしているナイフの出自が事実ならばその正体は想像通りのはずだ。
だが、現れた男の姿は、かつて霧の都を恐怖に陥れた連続殺人鬼とは特徴が合致しないとかそういうレベルではない程に、かけ離れていた。
腰にまで届く長い髪。黒装束の上に着込んだ武者のような甲冑。背負っているのは瓢箪のような形状をした巨大な団扇のようなもの。
──そして、何よりも特徴的なのは勾玉状の三つ巴模様が浮かんだ“赤い瞳”だった。
「えっと、あなたは──」
「だが、お前のような小僧に……いや、たとえ誰であろうと他人の指図で動くというのは気に食わんな」
「へ?」
「悪いが、オレはオレで勝手にやらせてもらう」
そう言い、男はフラットへ背を向ける。
「え、ええっ!? ちょっ、待ってくださいよ!」
慌てて追いかけて止めようとする。まさかいきなりそんなことを言われるとは思わなかった。
「何だ? 令呪とやらで縛るつもりならばやめておけ。そんなものは俺には効かない」
構わず男はこの場から去ろうと足を進める。もしも令呪を行使しようものならば即座に抵抗し、不相応な存在を従わせんとする愚かな小僧を逆に従順な傀儡にするつもりだった。
たとえ動きを止められようとも、男はただ
「そんなことしませんよ! 僕は
「……何?」
が、その言葉で男は足を止めた。
スノーフィールド東部。湖沼地帯のとある別荘の地下にて、ジェスター・カルトゥーレという魔術師は今正に召喚の儀を終了したところだった。
後は、サーヴァントの放つ問いを肯定し、契約を締結させるのみ。
だが──。
(私はアサシンの英霊を召喚したはずだが、聞いた話では白い髑髏の面を着けていると……いや、そもそもこいつは、
通常は英霊達の器となるクラスを完全に選ぶことは出来ないが、例外としてアサシンとバーサーカーのクラスはある特殊な性質から詠唱や下準備などによって任意に召還することが可能だった。
そして、ジェスターはそのルールに従い、アサシンのクラスを召喚した。
「ごきげんよう。魔術師諸君」
暗殺者の位に冠するサーヴァントは自然と一種類の英霊のみが召喚されるという約束事が存在し、皆一様に黒いローブに身を包み、髑髏面で顔面を覆い隠している。
だが、召喚陣の上に現れた
「──さようなら」
漆黒の拳銃をジェスターへと向け、容赦無く引鉄を引いた。
「は?」
おおよそ拳銃のものとは思えぬ轟音が鳴り響く。
機構通り正しく放たれた銃弾は、ジェスターが張り巡らせていた幾重にも及ぶ魔術的防護を容易く貫通し、彼の胸元へと撃ち込まれた。
──そして、心の臓を破壊する。
「き、貴様!」
「ジェスター様に何を──」
ばたりと倒れる師の姿を前に周りに居た魔術師達は驚愕し、けれども動くことは出来なかった。
既に銃口が自分達へと向けられており、師を一撃で屠った銃撃に対処する術など持ち得るはずがないのだから。
「起きろよ、ご同輩」
瞬く間に全ての魔術師を鏖殺してみせた
が、銃弾が当たる前に死体が掻き消える。
「──クハッ、クァハッ! クハハ!」
無邪気な笑い声が木霊する。
しかし、事実は変わらない。この部屋には屍しか存在しない。
「ハハハハハ! いや驚いた! 聖杯もまたとんだ異端──どころではないモノを喚び寄せたものだ!」
ジェスターはそこに立っていた。胸に風穴を空け、口から血を流しながらそれはとても愉快だと言わんばかりに笑いながら。
「魔術師としての概念核をこうもあっさり屠り潰すとは! 何だその銃はっ!? 正しく怪物殺し、何ともまあ酔狂なモノを使う!」
胸をはだけさせ、露出したそこにはリボルバーの弾装のような紋章があり、その一つには先程の銃撃によるものと思われる大穴が空いていた。
そして、それを回して壮年の男の姿が、整った顔立ちの若い青年のものへと変貌する。
「しかし、解せない。何故我らと同じ“死徒”が英霊として召喚される?」
生きる屍──吸血種。魔術世界においてそう定義付けられる種族の中でも大部分を占めるのが“死徒”であり──ジェスター・カルトゥーレはそこに分類される。
即ち、人理の敵。
人類史を否定するモノ。人間世界のルールを汚すために存在してきたモノ──。
故に、それを知るジェスターには理解し難い。目の前の存在が自分と同じ血を啜る化物であることは一目で判った。
それもあの“死徒二十七祖”に匹敵するような、おぞましい程に濃密な死の気配。そんな英霊と真っ向から相反するはずの存在が、英霊の末席に加わっており、こうしてサーヴァントとして召喚されたことが。
「クク。さてな……人だった頃の功績故か、或いは単に迷い込んだだけか。チェシャ猫を追いかけていたら、また随分と愉しそうな催しに誘われた」
「はぁ……?」
「今から死ぬ、お前が知る必要は無い。知るのはお前ではなく、私なのだから」
ぞわり、と身の毛がよだつ。
ジェスターは気付く。眼前の化物の顔が満面の笑みを浮かべながらも、殺気と
「我が主はただ一人。況してや吸血鬼風情が、あろうことかマスターを名乗るなど全く以て度し難い」
──この日、ジェスター・カルトゥーレという名の吸血鬼は思い出す。
遥か昔に人間を辞め、死徒となり、悠久にも等しい長い時の中を過ごしたことでとうに忘れていた人だった頃の残滓。
底冷えする、
少女は踊る。
少女は踊る。
目覚めの時を忘れる為に。
少女と踊る。
少女と踊る。
彼女の願いをすべて叶える為に。
『トオウ、アナタガ、ワタシノマスターカ』
その声は、まるで蟲同士がギチギチとせめぎ合うような不気味な音だった。
しかし、少女は恐れなかった。
無人の街で思い出した寂しさを埋める者が現れた。変化の無い世界に変化が訪れた。
ただ、そのことが嬉しくて──。
「だあれ? わたしは、くるおかつばきです」
少女は尋ねた。
しかし、
自我も感情も無く聖杯から与えられた知識に従い、プログラムされたロボットのようにシステム的に聖杯戦争を再現するだけの、
『ワタシハ』
本来であれば──。
『ワタシハ、ワタシハ、ワタシハ』
自我の有無。それは聖杯戦争を勝ち抜くことにおいて弱点に成り得るのではと知識を与えられた
けれども、それはどうしようもない話である。元よりただの現象に過ぎない存在が召喚すらされる前に自我や感情を獲得する要素など何一つとして無く、可能性はゼロを上回ることは決して無かったのだから──。
『ワタシハ、ライダー』
しかし、ここに例外が存在する。
ほんの少し前、“座”は異界と繋がり、無限にも等しい膨大な情報が聖杯にも舞い込んだ。
──そして、存在していたのだ。
その中に、自我を、意思を持つ“病”が。ならばライダーがそれを取り込まぬ選択肢は無く、取り分け強力な存在を選んだ。
『ワタシハ、ワタシハ──私は、神だァァァァアア!! 』
空を覆い尽くす黒い霧が、少女の前へと降り立ち、一つの塊へと集約していく。
やがてそれは人の形と取り──狂気的な笑みを浮かべる男の姿となった。
「かみさま!」
堂々たるその名乗りに、本当に居るんだと少女はぱぁと顔を輝かせる。
それは、たとえ目の前の存在に神性など微塵も存在していないのだとしても、決して騙りではなく、有無を言わせぬ真実だった。
──何故ならば孤独、それに痛みと苦痛の中で生きてきた少女にとって、彼は正しく神様であり、救世主であり、唯一の“光”であったのだから。
かくして、少女はこの偽りの聖杯戦争の最初のマスターにして最大のダークホースとなった。
To be continue……
遂に役者は揃った。
この偽りの聖杯戦争に参加する“六騎”のサーヴァント全てが召喚され、世界最古の英雄王とその友たる泥人形の同窓会という名の衝突により戦いの幕が開ける。
しかし、ここまでは偽りの聖杯戦争。真なる聖杯戦争の呼び水に過ぎないのだ。
故にこそ──。
「歓迎の言葉一つも無いとは……折角、来てやったというのに不遜だな」
ここに、呼び水たる真なる、
近くで横たわる男の死体を前に首を傾げ、しかしすぐに興味が失せたのか今度は茫然としてへたり込んでいる眼鏡を掛けた少女へと視線を送った。
「問おう、そこの地を這う下民の娘よ」
イレギュラーが、偽りの聖杯戦争だけだと思ったら大間違いである。
黒幕の思惑とは違い、召喚に応じたのはかの名高きブリテンの騎士王ではなく、かといって本来であれば召喚されたであろうイングランドの獅子心王でもなかった。
「お前が、この私のマスターか?」
けれども、きっと、変わらないものもある。何故ならば聖杯戦争というのは、かくもこうあるべきなのだから。
──その日、少女は運命に出会った。
ゼルレッチ「なあにこれ~」
最後のセイバー以外は知ってる人ならすぐに分かるでしょう。分かるよね?(感想乞食)