Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
スノーフィールド北部。
都市部の高層ビル群に負けぬ高さの断崖が幾つも並ぶ溪谷にて。英雄王ギルガメッシュは、小型空中戦艦“ヴィマーナ”に乗り、愚かにも奇襲を仕掛けてきた礼儀を弁えぬ蛮人と対峙する。
しかし、その顔には怒りではなく、“好奇”の感情が浮かび上がっていた。
初めこそ相対するなり背後のティーネを狙ったその蛮行に激怒したものの“王の財宝”による宝具の射出を容易く払い除け、更には数千もの“宝具”、それも全方位からの波状攻撃すらも無傷で捌き切った挙げ句、あろうことか英雄王相手に“弱い”と吐き捨てた。
「物置の最奥にある剣を抜くといい。それで対等だ」
そして、切り札である“乖離剣”を使えと、尚も挑発を続ける。
(こ、この英霊は一体……)
明らかに他の英霊とは一線を画す存在を前に、ティーネは戦慄する。
──その姿も、異様な風貌だった。
2mを越す身長に対してやや痩せこけた体格。上裸でその肌は赤く、胸部には花弁のような刺青がある。
何より特徴的なのは、“毛皮”のような布で顔を覆い隠し、それを鎖で縛っていること。その姿は、まるでこれ以上何かを視たくないと言わんばかりであった。
そして、手に持つのは包帯が巻かれた、身の丈程はありそうな大弓。その得物とここから20㎞離れたクリスタル・ヒルの最上階に居たギルガメッシュへ狙撃を仕掛ける正確無比な腕前からして間違いなくアーチャーのサーヴァントであろう。
しかし、だからこそティーネは困惑していた。此度の聖杯戦争のアーチャーは眼前に立つ英雄王であるはずなのに。
「エアは我の
そう言いつつ、その口角は吊り上がっている。
代わりに抜いたのは選定の剣──その原点たる“
「証明してみせよ。貴様がエアを拝謁するに値する強者であると」
「愚かな……」
次の瞬間、空間が震える。
「──抜けば死なずに済んだものを」
「……!?」
ティーネが目を見開く。
弓兵がその身に“帯”を纏った途端に感じる異常な程の神気。それはもはや神霊そのものに近かった。
間違いなく、宝具──。
「我の知る神とは異質の気配だな。だが根本は同じか……」
それも戦いを司る“軍神”の類いのもの。どうやら眼前の蛮人は神に連なる存在らしく、また生半可な存在ではないことを理解し、ギルガメッシュは原罪を向け──。
「…………?」
そこで手が止まる。
弓兵の背後に立つ、白い影。弓兵もまたその接近に気付き、即座に振り向くも──。
「ッ!?」
突如として顔面を襲う“痛み”。
殴られたのだと認識すると共に弓兵は吹っ飛び、断崖へと叩き付けられる。
ほんの刹那、弓兵の視界に映ったのは大口を開けたどこか
「えっ……!?」
何度目の驚愕だろうか。“王の財宝”が通じなかったあの英霊が、吹っ飛ばされるという光景に、ティーネが声をあげる。
一方、ギルガメッシュは無礼にも王の裁定に乱入してきた狼藉者へと視線を向け──。
「────」
瞠目する。
その“男”を目の当たりにした瞬間、体の底から震え上がるような感覚に陥った。
脳裏に過るのは、生前の記憶。かつて、親友と共に討伐した、恐るべき森の番人。あの“怪物”と相対した時の──。
「……まさか“アレス”の力を使うとはな」
赤い刺青。
亡霊のような真っ白な肌。
両腕には獅子を象った黄金の“カエストス”。異様な風貌に加え、筋肉隆々の屈強な肉体をしたスキンヘッドの大男──。
(ッ……!! まさかこの我が──)
ギルガメッシュが真っ先に抱いたのは、信じられぬことに“恐怖”だった。
あの古代ウルクの王が、あの人類最古の英雄王が、否、正確には彼の身に流れる忌々しき“神の血”が恐れ、慄き、叫んでいる。
自身の天敵。
即ち、“神殺し”の英霊。それもそこらの神などではなく、強大な力を有する、それこそ主神クラスの存在を──。
(否、違う。奴はそのような“生易しい”存在などではない)
千里眼を使うまでも無く、ギルガメッシュはその者が何者であるかを理解する。
ただの“神殺し”に非ず。
神々の悉くを殺戮し、“一つの神話を終わらせた”理外の怪物であるということを──。
「すまない。黄金の王よ」
「……何?」
いつぶりかの戦慄を味わい、一挙一投足を見逃すまいと警戒する中、神殺しの男の口から漏れたのは何と謝罪であり、ギルガメッシュは訝しむ。
神の血が流れる身として、次の瞬間には殺意を向けられる覚悟をしていたというのに。
「お前達の戦いに手を出すつもりはなかったが……狂戦士という器の影響か、この身はかつての“狂気”に苛まれている。幼子を真っ先に狙うような外道に堕ちた同輩の有り様と、因縁ある“神”の気配を前に我慢ならなかった」
──
そう自らのクラスを明かし、然れどもその鋭い眼光に狂気は微塵も感じられず、確かな理性が宿っていた。
「……フッ」
対して、ギルガメッシュは笑みを溢す。
「興が削がれる、と言いたいところだが……貴様が代わりを務めるというのならば許しを与えてやってもいいぞ? 尋常ならざる“狂気”に呑まれ、その“狂気”を超克せし者よ」
いつものように傲岸に振る舞い、しかし警戒は未だに解かない。
然りとて、眼前に居るのはただ恐れるべき怪物などではなく、その“在り方”にどうしようもなく興味を引かれる。
「……寛大だな。しかし、その期待に応えられるかは分からん」
そう言うと共に男の両手に装着されていたカエストスが消え、代わりにその手に“双剣”が握られる。
柄には鎖が繋がれており、それは男の腕に何重にも巻き付いていた。
「ッ……!?」
「ほう……神器。だが、随分と憎悪と怨嗟を蓄え、仕上がっている。正しく貴様の半生を象徴するような代物だな」
興味深げなギルガメッシュ。対してティーネはその焔が如き刀身を前に思わず視線を逸らす。アレを直視してはならぬと本能が告げた。
一体どれ程の血を、魂を吸ったのか。
武器そのものに今まで斬り捨て、殺してきた者達の怨念が宿り、おぞましい“魔剣”と成り果ててしまっている。
神、幻獣、魔物、人間、そして英雄──。
ありとあらゆる敵を屠り、破壊と混沌をもたらしてきたであろうその双剣、そして“鎖”はギルガメッシュの言う通り狂戦士たる男の象徴に等しい。
「──何者だ、貴様は」
その時であった。
瓦礫の中から弓兵が飛び出すと共に複数の矢を手に弦を引き、機関銃が如き凄まじい速度で二人目掛けて連射する。
「「!」」
無数の矢が降り注ぐ。
ギルガメッシュはこれを一瞥するだけで“王の財宝”にて迎撃し、一つ残らず撃墜する。
「ふん!」
一方、男が両腕を振れば巻き付いていた鎖が解き放たれ、まるで蛇が乗り移ったかのように伸縮自在にうねり、矢を打ち払う。
そして、それだけでは留まらず鎖は弧を描いて突き進み、赤熱する刃が弓兵を切り裂かんと迫る。
「ぬっ──」
弓兵はこれを身に纏う毛皮で受けようとし、しかし寸前でそれが“神造兵器”──神の手によって製作された武具であることを見抜き、体を大きく捻らせて回避した。
──が、それは囮。
「…………!!」
避けられ、彼方へと飛んで行くはずの鎖が瞬時に軌道を変え、弓兵の右足首を縛る。
「るあああああああああああ!!」
雄叫びと共に、鎖同士が擦り合う金属音が響く。
弓兵がどうこうする前に男は思い切り腕を振りかぶると、さながら鎖に繋がれた鉄球のように引っ張られ、大地へと叩き付けられる。
砕破した大地の破片を撒き散らしながら鎖を手繰らせ、そのまま今度は横へと振り回し、弓兵は通り道の岩柱を幾つもぶち抜きながら空を舞う。
「ぐぅ……!!」
そんな中でも弓兵は意識を保ち、足首に巻き付く鎖を掴みんでその全身に力を込め、抵抗を試みるが、それでも振りほどくことは出来ずに僅かに勢いが弱まるだけ。
しかし、それで充分。即座に弓兵は矢を引き絞り、振り回されながらも正確に狙って男へ向けて放つ。
「大した腕前だ」
自らの眉間へと寸分狂わず飛来する矢に対してそう褒め称えつつも男はもう片方の鎖で打ち払う。が、ほんの少し狙撃へ意識を向けたせいか、鎖の動きが止まる。
視線を向ければ、大地へと足を着けた弓兵が掴んだ鎖を引っ張っていた。
「やってくれたな、神に連なる者よ。こうも力任せに蹂躙されたのは初めてだ」
腕の筋肉に血管を浮き上がらせながら、弓兵は怒気を孕んだ声でそう吐き捨てる。
眼前の男に見覚えはなく、しかしその忌々しい気配から神性を有する、つまり神の血が流れる者であるということは理解出来た。
しかもこの気配は自分と同じ──。
「まだ終わっていない」
「ッ────!?」
鎖の引く力が強まる。そうはさせまいと弓兵は踏ん張るも、大地を粉砕しながらゆっくりと、しかし直実に男の方へと引き寄せられていく。
「ぐっ……何という膂力……!」
その桁外れなパワーに弓兵は驚愕する。いくら“反転”の影響で筋力が以前より低下しようとも、否、たとえ以前のままでも同じ結果になっていただろう。
「どうした? “こちら”のお前は随分と貧弱らしい。──“ヘラクレス”よ」
すると男が意外そうに、口にした。
神々の栄光。ギリシャの大英雄たる、その名を確かに聴いたティーネは目を見開くも、次の瞬間にはその身を震わせる。
「黙れ。その名を口にするな」
弓兵が激昂したが故に。
その溢れんばかりの殺気にティーネは怯え、ギルガメッシュは笑みを浮かべ、男は眉をひそめた。
何故あそこまで怒るのかと。
「──
その状況を打破せんと、弓兵は腕に巻く“戦帯”の力を解き放つことにした。
それは弓兵が、生前殺めたアマゾネスの女王から奪い取った、“軍神アレス”の分体である軍章旗を帯の形に直したもの。その力は、使用者の神性とステータスを大きく引き上げる。
神の力は、己の身に宿すものではない。ねじ伏せ、踏みにじり、人の
(屈辱だが、仕方あるまい)
元より勝つ為ならば何でもする。
本物の戦いの神ではないかと疑ってしまう程の神気を肉体に纏わせ、弓兵は腕に込め──。
「──アレス」
より大きな怒りが、空間を支配する。
「!?」
「アレス、アレス、アレス……!!」
神気を纏って尚、引き寄せられる結果は変わらない。それどころかそのスピードは先刻よりも増している。
「馬鹿な──」
「別人であることも理解している、私の“復讐”はとうに終わったものであることも理解している。──だが!」
軍神が、戦争を司る神の力が、あろうことか力負けしているという事実を前に、弓兵は目を疑う。神々を憎み、嫌悪する彼でもそれが如何に出鱈目なことは理解していた。
弓兵は知らない。今、己が振るっている力の大元たる軍神──それと同じ名を持つ“戦神”が眼前の男へ何をしたのか、
「貴様がその力を以てして悪逆を行うのだと言うのならば、私は今一度貴様を殺そう!」
そして、その復讐の為に神へと挑み、遂にはその身一つで戦いの神を討ち滅ぼし、その偉業から新たな
それは彼の偉業の、始まりに過ぎない。
「しまっ──」
弓兵の両足が宙に浮く。
そうなればどうすることも出来ず、そのまま勢いよく引き寄せられ、男の目前にまで迫る。
そして、いつの間にか鎖の代わりに腕に装着されていた獅子のカエストスが振り下ろされ、先程と同様に弓兵の顔面へと無慈悲に叩き込まれ、大地へと打ち付けた。
「す、凄い……」
地響きで溪谷全体が揺れる。
ヴィマーナに乗っているためティーネには揺れは伝わって来ないが、それでも圧倒されてしまう。
「クク。見たか、ティーネ? あれが身一つで神を殺した怪物、神となった人間。よもやあのような者が存在しているとはな」
「は、はい……ってまさか、“神殺し”の英霊なのですか、あのサーヴァントは……!?」
ギルガメッシュは何気無しにそう告げたが、ティーネからすれば到底見過ごせるような言葉ではなかった。
神殺し。そのような恐るべき偉業を成した英雄など本当に限られているが、しかしティーネの知る神話や伝承の知識の中には、そもそも神殺しに限らず全ての範囲で探っても男と一致するような特徴を持つ者は思い当たらない。
白い肌に赤い刺青。あんなにも特徴的な存在であそこまでの力を有するのならば伝説になっていなければおかしいというのに──。
「しかし、難儀なものだな彼奴も……とうに超克したことであろうに、そう在らんとする器に縛り付けられるとは。否、むしろあの程度で済む程に抗えていることを褒めるべきか」
「? どういうことですか?」
「アレも奴の一側面に過ぎぬということだ。狂戦士としての器に縛られ、かつての復讐鬼の如く振る舞うよう定義付けられている……この我も状況によっては“賢王”の側面として召喚されることがあるようにな」
恐らくは復讐を誓い、神々を殺戮し尽くした頃を全盛期と認定されてしまったのだろう。大抵のサーヴァントの場合はその在り方を受け入れ、そう振る舞うものだが、あの男に関しては尋常ならざる精神力により理性を保ち、その定めに真っ向から抗っている。
ギルガメッシュは残念がる。復讐を終え、罪悪と後悔を乗り越え、かつての狂気を超克したその有り様こそが何よりも気高く、強かったろうに──。
尤も、そうなれば聖杯風情では果たして召喚出来るのか甚だ疑問であるが……。
「え? つまり、あのサーヴァントはバーサーカーなので──」
その時、魔力がうねる。
ティーネが視線を向ければ、男が再びカエストスを振り上げていた。
(!? まだ攻撃を──)
相手はとっくに倒されているはず。そう思い、しかしその考えはすぐに否定される。
二撃目は、寸前で弓兵が飛び退いたことで避けられてしまう。
「ほう……まだ立つか。あの輩もなかなかに見所のある道化ではないか。神々に殺意を抱く程に憎み、それで尚、あの英気を保つとはな」
ギルガメッシュが弓兵を見据える。
何と皮肉な、そして運命的なことだと言えようか。よりにもよって、この二人が巡り会うとは。
「ク、クク……そうか、そういうことか。貴様は──“そう”なのだな?」
高速でバックステップを繰り返し、男から距離を取った弓兵は笑みを溢してそう言い放つ。
口元の血を拭う。その身のこなしは変わらず、一見すると平然としているように見えたが、桁外れな怪力とそれを増大させるカエストスによる一撃は骨を軋ませ、深刻なまでのダメージを蓄積させている。
──けれど、そこには、“歓喜”があった。
「異界より招かれし、偉大なる“先駆者”よ! こうして相対したこと、光栄至極に思うぞ!」
弓兵が叫ぶ。
彼にとって眼前に佇む忌むべき戦神は、憧れて止まない、“目指す先”だった。
【Class】バーサーカー(真)
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力EX 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具EX
【クラススキル】
狂化:E-
狂化スキルを放棄しているが、彼の強い理性が故であり、かつての狂気は今も尚、呪いのようにこびり付いている。
型月世界基準だとやべーやつ過ぎる人