Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
「お日さまがポカポカして気持ちいいね! かみさま!」
病室のベッドで眠っているはずの少女……繰丘椿は、野原の上で暖かな日差しを浴びながら野兎と戯れていた。
どこまでも広がる青空。
頬を撫でる穏やかな風。
遠くには見慣れた街並みが広がり、まるで本物のスノーフィールドそのものだった。
ここは夢の中。
彼女が召喚した“偽ライダー”の宝具により構築された固有結界でもあり、スノーフィールド全域を隈無く再現したそこは、もはや一つの世界と呼んでも差し支えない。
『………………』
「? かみさま、どうかしたの?」
『いや、何でもない。少し外の様子を視ていただけさ』
すぐ近くの木の下で、“かみさま”と呼ばれた黒い服にオールバックの青年。偽ライダーは不思議そうに顔を覗かせる椿に対してそう言って笑う。
しかし内心、先刻の渓谷での三つ巴の戦い。その顛末を見届け、思考を巡らせる。
それだけではなく、砂漠がガラス化した決戦も、オペラハウスでの戦闘も、警察署での乱戦も、最初に召喚された段階からこのスノーフィールド聖杯戦争で行われた戦闘の数々を今に至るまで彼は全て視ていた。
当然だ。既に彼の領域は、このスノーフィールド全域を覆い尽くしているのだから──。
(あの世界を断った女剣士……現状、奴が一番の脅威だな。どうにかして排除しておきたいが……)
正体不明。
けれど、偽ライダーにはその“力”について酷く大雑把であるものの心当たりがあった。
あれは地球外……即ち、“宇宙”に由来するものだろう。あの女自身が地球外生命体なのかは分からないが、であればあの出鱈目な強さにも納得が行く。
曰く、この星には“抑止力”というものが存在している。
カウンターガーディアン。集合無意識によって作られた、世界の安全装置。
人類の持つ破滅回避の祈り、“アラヤ”。
星が思う生命延長の祈り、“ガイア”。
その在り方や優先順位に差異はありながらも、いずれも現在の世界を延長させることが目的であり、世界を滅ぼす要因が発生した瞬間に出現、その要因を抹消する。
かくいう偽ライダーもまた、それに連なる存在であった。
黙示録における終末の四騎士が一つ。
尤も、現在の人格を獲得して以降、彼にとって神とは己自身であり、その在り方は著しく“変質”してしまっているが……。
そんな地球や人類にとって実に便利なシステムであるが、例外として星の外に存在する“領域外の生命”は、抑止力の響を全く受けず、干渉されない。
故に──。
(サーヴァントの枠組みを超えた能力を行使できる、というわけか)
無論、確証などない。
あくまで現状から導き出した、偽ライダーなりの推測に過ぎない。それでも、あの女の存在を説明する仮説としては十分だった。
(むしろ利用すべきか? “究極のゲーム”の製作には、アラヤもガイアも目障りだ。対抗手段は多いに越したことはない……それに、脅威なのは他のサーヴァント全員がそうだ。排除に躍起になって共倒れしたり、漁夫の利を狙われたりする可能性もある)
最初に確認した英雄王とその友たる神造兵器から始まり、今回の聖杯戦争に召喚された英霊達は、偽ライダーから見ても脅威的と言わざるを得ない怪物揃いである。
ここまで姿を見せず、データ収集と支配領域の拡大に集中していたのは、そういった理由もあった。
(もう少しデータを集めておきたいが……そろそろ私の動きにも感付かれる頃合いだろう。既にガシャットは完成しているし、残りは“実戦”から得るとしようかァ……)
笑みを濃くし、懐中から何かを取り出す。
それはメタリックな黒と紫で塗装された、掌に収まる程度のサイズのカートリッジ型の機械。
大きなつり目が特徴的なキャラクターが描かれており、玩具めいた外見とは裏腹に、その内部には渓谷にて女剣士が放った世界を切り裂いた一撃にも引けを取らぬ膨大な魔力が収束している。
側面のスイッチを押して起動すれば、その力は即座に解き放たれるだろう。
「ねぇ、かみさま! あっちでまたゲームしない?」
不意に椿の声が響く。
「マイティで協力プレイしたい!」
『ん?』
現実へ意識を戻す。
偽ライダーは手にしていたガシャットを懐へしまうと、少女へ振り返って、いつものように笑う。
『フッ……良いだろう。神の才能を……いや、“天才ゲーマーM”としての実力を見せてあげよう』
少しだけ間を置き。
『──と、言っても借り物の才能だがね』
「やったぁ!」
椿が嬉しそうに手を伸ばす。
小さな手が、偽ライダーの手を掴んだ。そのまま、ぐいぐいと引っ張っていく
「そうだ、お父さんとお母さんにも見せてあげよ!」
『…………』
その言葉に。
檀黎斗の足が、一瞬だけ止まった。
視線の先にある屋敷の中には、二人の男女が居る。笑顔だった偽ライダーの表情から、僅かに温度が消えた。
「かみさま?」
『……君は両親のことが好きかい?』
「うん! とっても大好き!」
『──そうか』
笑顔を浮かべる椿に対して、偽ライダーは屋敷の中に居る彼女の両親……繰丘夫妻へと視線を向け、露骨に顔をしかめる。
(顔を見るだけで反吐が出る。屑共が)
魔術師。
それも、この世界において典型的とすら言える類の魔術師。娘に愛情は注いでいるが、それは“魔術師としての愛情”だった。
苦痛を伴う鍛錬、人体への施術、魔術回路を変質させるために行われた、南米由来の細菌の移植。
そして、その結果として娘が昏睡状態に陥ろうとも、彼らが気にしたのは娘の生死ではなく、生殖機能のみ。
人間として見れば、親として見れば、どうしようもない外道だった。
挙げ句の果てには、椿に令呪が宿ったと知るや否やそのマスター権を奪う為に、自らの娘の腕を切断しようとする始末。
──それが、偽ライダーの逆鱗に触れた。
己が父親と同じ、下手するとそれ以下の、どうしようもない屑を前に、即座に偽ライダーは二人を“感染”させ、
そのままこの世から消し去ろうとも考えたが、そのおぞましく醜く歪んだ愛情を椿は苦痛の中でも純粋に受け取っており、それ故に両親を心から大切に思い、愛していた。
マスターである椿が傷付くことをすべきではないという
(神の寛大な御心に感謝するといい。尤も、椿が成長するまでの間の命だがなァ……)
かつて、余命残り僅かな娘を仮想現実の中で生き永らえさせようとした男が居たことを思い出す。もしも彼がこの事実を知れば、きっと繰丘夫妻を八つ裂きにしていたことだろう。
それと比べれば、偽ライダーの仕打ちなど実に慈悲深い。殺すどころか“不滅”の存在へと昇華させてやり、娘へ漸く真っ当な愛情を注げる“NPC”へと作り替えてやったのだから。
肉体も自我も失い、この世から消え去ろうとも、その“データ”は残り続ける。
「にしても、静かだね……」
そんなことを考えていると、椿がぽつりと呟いた。
視線の先には、広大な街並み。
風が吹く。木々が揺れる。鳥が鳴く。様々な動物が草むらを走る。
それなのに、人間の声だけがない。
車の音も、雑踏も、誰かの笑い声も、街を行き交う人々の気配も、何一つとして存在しない。
当然だった。
この世界に“人間”はほとんど存在しない。
椿、そして繰丘夫妻。──否、純粋な意味での人間は、椿ただ一人。
「みんな、この街が嫌いだからどこかに行っちゃったのかなあ……」
『寂しいかい? 椿』
偽ライダーが彼女の頭へ手を置く。
「…………」
椿は答えない。ただ、偽ライダーの手を握るその指先には、ほんの少しだけ力が込められている。
──怖いのだ。
かつての孤独へ戻ることが。誰も居ない世界に、再び一人で取り残されることが。
だからこそ。
「ありがとう。大丈夫だよ」
少女は笑う。
「だって今はこんなに動物さん達が居るんだもん……」
その笑顔は明るく、けれどその奥には確かな不安があった。
「だから……お父さんも、お母さんも、もう誰も街から出ていかないよね」
『……勿論だとも。この街はもうすぐ私が生み出した“究極のゲーム”の舞台となるのだからね。とても賑やかになるはずだよ』
「ほんとうっ!? すっごく楽しみだよ、かみさま!」
椿の顔がぱっと明るくなる。
『ああ、私もとても楽しみだァ……』
故に、少女は信仰するのだ。
自らを孤独から救ってくれただけでなく、こんなにも多くを与えてくれる慈悲深き神を。そして神もまたその信仰に応え、恵みと祝福を施す。
新たな神話は、まだ始まったばかりだ。
To be continue……
北の渓谷にて。
否、そこは、もはや“渓谷”と呼べる場所ではなかった。
谷を形成していた大地は平坦に均され、岩壁は崩れ。そこかしこに巨大な亀裂が走っている。
半神たちによる激戦。そして、その決着を望むかのように放たれた、あの一太刀。世界そのものを切り裂いた斬撃の余波によって、この一帯は完全に地形を変えられていた。
そして、青空を横断するように刻まれた、異様な裂け目。まるで世界という一枚の絵へ、誰かがナイフを突き立て、そのまま横へ引き裂いたかのような光景だった。
半神たちは既に立ち去っている。世界を切り裂いた正体不明のサーヴァントも、とうに姿を消していた。
残されたのは、風の音だけ。
「あーあ……こりゃまた、凄いね」
そんな静寂を破ったのは、酷く場違いなほど気の抜けた声だった。
荒野を歩く、一人の少年。彼は足元に転がっていた石を軽く蹴り飛ばしながら、頭上を見上げる。
「暫くは残りそうだけど、流石にそのうち修復されるよね?」
独り言。
返事をする者は居ない。それでも少年は気にした様子もなく、空の裂け目を眺め続ける。
「そこら辺は“世界の修正力”とやら次第だけど……というか、あの裂け目に飛び込んだらどうなるんだろうか?」
裂け目の向こう側。そこに何があるのか。
世界の裏側か、異界か、それとも、“何もない”のか。
考えるだけで興味は尽きない。
「……流石に試す気は無いけど」
そこで初めて、少年は苦笑した。
「気になるねぇ」
その声音に恐怖はなく、畏怖もない。
ただ純粋な好奇心だけがあった。まるで珍しい実験結果を前にした研究者のように。
やがて少年は肩を竦める。
「ま、出遅れちゃったから……その分補填しないとね」
そう言い、パチンと指を鳴らす。
「捧げよ──
世界が、歪んだ。
確かに先程まで、何もない荒野だったはずだ。だが、次の瞬間には崩壊していた岩壁が、何事もなかったかのように元の姿を取り戻す。
抉れていた大地は埋まり、砕け散った岩石は、本来あるべき場所へと戻っていく。
そして、空に刻まれていた“傷”すらもゆっくりと閉じていった。
やがて──。
そこには、戦闘など最初から存在しなかったかのような光景が広がっていた。
澄みきった青空、元通りの渓谷。
だが、それは“修復”ではない。
世界を直した訳ではなく、ただ世界にそう
幻術──しかし少年が操るそれは目に映る景色を騙したのでも、人間の認識を弄ったのでもない。
世界のテクスチャそのものを、“ここには最初から何も起きていなかった”と、誤認させている。
環境すら飛び越え、現実そのものを欺く。まるで世界を騙すためだけに存在する、巨大な嘘だった。
「よし。これで良いだろう? マスター」
何度か視線を動かし、隠蔽に綻びがないことを確認すると、彼は踵を返して背後に控えさせていた
(うん! ありがとね、後はファルデウスくんがやってくれるから!)
頭に響く念話。その少女の声はフランチェスカ・プレラーティのものだった。
それを聞いて、少年は小さく息を吐いた。
「そうかい。なら、後は任せようかな」
(にしても、残念だったねー)
フランチェスカは愉しげに喋りかける。
(折角横槍を入れに行ったのに、着いた時にはだーれも居ないだなんてさー)
「私としては助かったよ。あんな化物連中を前に、姿を現さずに済んだんだからね」
幻により隠された破壊跡。
そこから感じ取れる、未だ消えきらない異常な魔力の残滓、残穢。あれを生み出した連中と正面から相対するなど、冗談ではない。
「もう少し早く到着して、アレに巻き込まれていたら……」
少年は自分の細い腕を見る。
「私みたいな貧相なサーヴァントでは、命が危ないからね」
(えー、臆病だねぇ。我がキャスターちゃんは)
「慎重と言ってほしいかな」
肩を竦める。
キャスター。そう呼ばれた少年こそ、真なる聖杯戦争においてフランチェスカが召喚したサーヴァント。
即ち、真キャスターであった。
「……しかし」
少年は、自分の身体を見下ろす。
細い腕。
白い肌。
そして、どこか少女めいた、中性的な身体。
「
その言葉に、念話の向こうから即座に返事が返ってくる。
(ダメダメ!)
「……本当に駄目?」
(ダメだって! 可愛くないじゃん!)
「自画自賛」
少年は呆れたように呟いた。
「まあ、あんな化物共を相手にするのなら肉体のスペックなんて気休めにしかならないから別に良いけどさぁ」
溜め息混じりにそう言い、改めて、自らの姿を確認する。
身に纏うのはロングコート、その下には、金具で留められたベスト、更に下は半ズボン。
どことなく中世の貴族を思わせる、奇妙に整った服装。髪は毛先を揃えたボブカットであり、その色はアルビノを思わせる白。
顔立ちは端正で、しかし少年とも少女とも断言し難い見る者によって印象が変わる、中性的な美貌。
そして──。
その額には、一筋の横一文字の“縫い目”が刻まれていた。
皮膚に走る、明らかに生まれつきではない線。
まるで、誰かが一度、彼の頭部を開き、その後、無理やり縫い合わせたかのような。
不気味な傷跡だった。
(いやぁほんとビックリしたよ!)
フランチェスカの声が再び響く。
(自分を召喚しようとしたら変なのと合体しちゃってるんだから!)
「変なのとは酷い言われ様だね。私の方こそ驚いたよ、召喚されるなり“魂レベル”で他人が癒着してしまっているのに気付いた時は……」
その言葉に。
フランチェスカもまた、召喚時の光景を思い出していた。
自分自身を触媒として、自分自身を召喚する。
そんな本来なら有り得ない召喚の結果、現れたのは見知らぬ男。
だというのに、その男は、かつてのフランチェスカと瓜二つの姿へと変貌した。
(口から心臓が飛び出るかと思ったよ! 新品の体なのにさ!)
「それはそれで見てみたかったけどね」
少年は笑う。
だが、その目には、先程までとは違う色が宿っていた。
それは分析者としての目。召喚された瞬間に感じた違和感。その原因を知る為に自らの肉体を調べた。
自らの霊基、魂、肉体、あらゆる情報を一つずつ確認し、漸く突き止め、辿り着いた答え。
──別の霊基が混ざっている。それも、単なる付着ではなく、癒着している。
まるで最初から一つの存在だったかのように。
「恐らくは“異界”のサーヴァント全員の特徴だろう。本来喚び出されるはずだった英霊と融合……というよりも」
少し考え。
「その霊基を依代として召喚されている、と見るべきだね」
元より不安定な儀式であるが故に、妙なところへ繋がってしまったのかと思っていたが、実のところ何らかの介入により本来の召喚に対して割り込まれた形だった。
英霊同士が玉突き事故のように衝突した。普通ならば、どちらか一方が押し出される。或いは、霊基が崩壊して召喚そのものが失敗するはず。
しかし、今回起きたのは、そのどちらでもなく、英霊を器として、その上から別の存在が現界する。
──有り得ない。
だからこそ、フランチェスカも真キャスターもこの想定外の事態が面白くて仕方が無かった。
(これってすっごくアドバンテージだよ? あの偽物のキャスターだってきっと気付いてないだろうし!)
「そうだね」
フランチェスカの声が弾む。対して、真キャスターも同様に笑みを浮かべて頷く。
「気付いたお陰で本来召喚されるはずだった彼……英霊へと至った
その身体に宿った魔術や幻術を扱うスキルだけではなく、宝具までも使用可能。
つまり今の真キャスターは実質的にサーヴァント二人分の力を有しているに等しかった。
(というか、君はよく気付いたね?)
「術式の性質上、“魂”への造詣は深い方だと思うからね」
軽い調子。
だが、その言葉の奥には確かな自負があった。
「こういった違和感には、すぐ気付くよ」
逆説的に言えば、この異常に気付ける者は限られる。
魂そのものを観測できるほどの知識。霊基を理解し、それを掌握するだけの技術。そして、何より自分自身の異常を疑うだけの知性。
それらを持つ者だけだ。
「尤も、私こそが、その分野で一番……だとは思っていないけどね」
故に、誰かが気付く可能性はある。
自分と同じように、この絡繰へと辿り着く者が現れる。その可能性を想像し、彼は楽しそうに笑った。
──もっと、面白くなりそうだ。
そして、そんな真キャスターの予想通り。
召喚されたサーヴァントの中に、彼と同じように、その異常へ気付いた者は存在し、しかしその者は彼とは全く違う選択をした。
利用するのではなく、自らから切り離し、
そうして、新たな混沌を放り込んだ。
「貴様は、聖杯を求める魔術師か?」
時と場所は変わり、ある沼地の屋敷。
番人を召喚せし元少年兵の魔術使いは、黒いローブに身を隠す死神と対峙していた。
そこに居るのは、偽りの聖杯戦争で召喚されたサーヴァントでも、真なる聖杯戦争で召喚されたサーヴァントでもない。
聖杯戦争という舞台から、引きずり下ろされたはずの異物。
──美しき狂信者が、闇夜を駆ける。
【Class】キャスター(真)
【真名】■■
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運A 宝具A+
【クラススキル】
陣地作成:A+++
道具作成:A+
まさかの15騎目参戦。