Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
原作鯖と似た行動をすることへの辻褄合わせとして思い付いたのは内緒。
かつて、“狂信者”が求めていたものは、証だった。
まだ若かった頃の彼女は信仰の証として一つの名を得るべく修練を積んだ。
異端者や神敵より速やかに、そして確実に命を消し去る為の奇跡。彼女が所属したのはその奇跡を追求する一派だった。
存在自体が狂信的といっていい暗殺教団。だが、彼女はその内部においてですら“狂信者”と蔑まされる存在であり、誰もが彼女の所行に眼を見開いた。
まさか、まだ年若い女の身である信徒の一人が、
彼女が誰よりも血の滲む修練を潜り抜けたことは明らかだったが、教団の者達は彼女に長の名を継がせることを認めず、それを“奇跡の模倣”に過ぎないと断じた。
しかし、それは理由の半分。通常ならば一つ修得することに一生を費やすはずの業の数々を、ものの数年ですべて修得してみせた彼女の才に、多くの者が畏怖の感情を抱いたのだ。
そんな事実を前に、彼女はただ、己が未熟を恥じた。教団の者達の言葉を真摯に受け止め、過去の長達の業を侮辱してしまったのだと、嘆く。
結局、彼女は何の証も得ることも出来ず、ただの狂信者として歴史の闇に消えていく。
そのはずだったが──。
それで降りてきたかね? 神は
──彼女は視た。
無数の魂が蠢き、怨嗟の叫びが支配する地獄の中で、一人の男の記憶を。狂信の果てに、“化物”へと成り下がった憐れな男の、すべてを。
男は、異教徒だった。
男は、ある国の王だった。
男は、苛烈で、恐ろしい“狂信者”だった。
そうなった切っ掛けは、まだ少年だった頃。捕虜として囚われ、そこで敵に凌辱されたこと。それは実に見るに耐えぬ光景で、しかし彼女は目を背けることが出来なかった。
信じられなかった。
幼い男を犯していたのは、彼女と同じ神を、同じ教義を信仰する者達、つまりは同教の人間だったのだから。
戦え
皆、戦え
神の為に戦え
神は助けを乞う者を助けたりはしない。慈悲を乞う者を救ったりはしない。
それは“祈り”ではなく、神に陳情しているだけだ
死ねばよい
戦いとは“祈り”そのものだ。呆れ返る程の“祈り”の果てに神は降りてくる
男は戦った。
王として、兵を率い、領地に踏み入る侵略者を、異教徒を、神の敵を、殺し、殺し、殺し、殺し尽くした。
それこそが、神への祈りだと信じながら。
苛烈で、壮絶な戦いぶりに彼女は圧倒されてしまう。異教徒ではあったが、その狂信は認めざるを得ない。
戦いこそが、神への祈り。
その考えには、共感すらしてしまう。
皆で
裂けて砕けて割れて散る。祈りと祈りと祈りの果てに、惨めな私達の元に、憐れな私達の元に、馬の群れのように──
神は降りてくる!! 天上から!!
そして、男は処刑台へと送られた。
枷を嵌められ、みすぼらしい姿。
あれが凌辱されながらも信仰を捨てず、ただひたすらに祈りを捧げた者の末路なのかと、彼女は言葉を失う。
絶望し、まるで生ける屍のような男を、彼の敵達が処刑台へ向けて引っ張る。
狂った王を、誰も彼も残酷に殺していった、恐るべき串刺し公を、悪魔を、地獄へと送り返す為に。
男を、狂王へと、悪魔へと変えたのは、他ならぬお前達だというのに。
彼女はただ、憤り、そして悲しんだ。
皆、死んだ
敵を殺し、味方を殺し、守るべき民も、治めるべき国も、男も、女も、老人も、子供も。
自分までも──。
度し難い。全く以て度し難い化け物だよ。──“伯爵”
誰かが嗤う。けれど、彼女はそいつのように笑うことなど到底出来なかった。
多くが死んだ。
多くを殺した。
けれど、彼女には男の信仰を否定することなど……。
そして、その刻は遂に来た。
男の素っ首を落とさんと処刑人が斧を振り下ろし──。
それでも尚、諦めを踏破するのなら
誰かが嘯く。
男は、自らの信仰を否定した。
男は、自らの神を否定した。
そうして、男は、人間で居ることに耐えられなくなり、“化物”へと成り下がった。
狂気の代弁者。幾千幾万の血を吸い、命を喰らい、闘争と闘争を渡り歩く化物。おぞましく、あまりにも冒涜的な人ならざるもの。
その変わり果てた姿を前に、彼女はただ悲しみに伏せた。失望などはしない、ただの観客に過ぎぬ彼女もまた、信じられぬことに己が信仰が揺らいでしまったのだから。
何故、神は彼を救ってくださらなかったのかと──。
終わりだ、伯爵
それから数百年が過ぎ、男は運命と出会う。
一人の女を手に入れようと霧の都へと侵攻した恐るべき吸血鬼は、老いさばらえた老人とその仲間達の手により討ち倒された。
男は知った。
人間のその強さを、その夢のような在り方を目の当たりにし、悟ったのだ。
──化物を倒すのは、いつだって人間だ
男は、渇望する。
人間の手により自らが討ち滅ぼされることを。永遠にも等しき時間を生きる、自らの世界が燃え堕ちることを。
その後、捕らえられた彼は己を討ち倒したあの老人の一族に仕えることになった。
化物でありながら化物を狩る、一匹の走狗となったのだ。
それから百年。その半世紀程は眠っていたが、主となる少女の血により目覚めてからは、怒涛の連続だった。
王立国教騎士団。
婦警。
イスカリオテ。
神父。
ミレニアム。
最後の大隊。
ヴェアヴォルフ。
執事。
そして──。
お前の負けだ、■■■■■
男は、三度目の敗北を喫した。
半世紀前の亡霊。狂った少佐の奇策により毒酒を呷った彼はこの世から消滅してしまう。
目を閉ざすな!
目を開けろ! ■■■■■!
主が、命じる。
消え行く従僕を引き止めんと。
──いいや。さよならだ、
けれど、男の顔は酷く安らかなもので──。
彼女は思った。
狂信の果てに打ちのめされ、人間でいられなくなった化物の最期としては、存外悪くないものではないかと。
異教の、それも神の敵である、おぞましい魔物であるはずの存在を前にそのような感想を抱く。
だが、きっと、これで終わりではない。
確信があった。虚数に融け、自己すら認識出来ぬようになったとしても、奴はきっと、いつか帰還を果たすだろうと。
何故ならば──。
「────」
思考が、引き戻される。
気が付けば彼女は森の中に立っていた。蠢く魂の本流も、怨嗟の叫びも無い。
あの場所と比べればあまりにも静かな、月明かりが照らす、そんな場所に立っていたのだ。
「ッ、ここは……?」
「お目覚めか? 名も無き暗殺者」
そして、眼前に立つ男。
紅いコートを靡かせ、幽鬼の如く佇み、こちらを見据えている。
「! ヴラド、三世……」
彼女がその名を呼ぶ。
またの名をヴラド・ツェペシュ。かつてのワラキア公国の領主であり、小国ながらあのオスマン帝国と戦い、“串刺し公”と恐れられた人物。
その、成れの果て。しかし、そう呼ばれた男は僅かに目を細め、首を横へ振る。
「その名は、とうの昔に捨てたさ。この世界の私は、吸血鬼にはならなかったようであるしな」
自嘲気味に笑う。
辿ってきた歴史には差異があるものの、キリスト教徒として、護国の鬼将として、生涯を全うしたこの人理に刻まれたワラキアの王へ羨望を抱くと共に敬意を表する。
「……吸血鬼、アーカード」
「そうだ。そう呼ぶといい。或いは、バーサーカーでも構わんぞ?」
ドラクル。
ヴラド・ツェペシュ。
ドラキュラ伯爵。
そして、アーカード。
数ある名の一つであり、しかし今の彼──偽バーサーカーにとって己を指し示す名は、これただ一つだけであった。
「一体どういうことだ? 私は、貴様に取り込まれたはずだ」
彼女が問う。
怨嗟に包まれた魂と魂の暴風雨。自分もまた彼が吸った幾多幾万の者達と同じように取り込まれ、一つになった。そう思っていたが……。
「ああ。私が“血を吸う”ということは命の全存在を自らのモノにするに等しい……だが、私はお前の血を吸ったことなど、まだ一度足りともない」
「…………!」
その通りだ。
彼女は本来ならばハサン・サッバーハが召喚されるはずのアサシンクラスの英霊として聖杯により喚び寄せられた際にどういう訳か、同じく喚び寄せられたアーカードと融合し、霊格の差から取り込まれる形となった。
「まさか、切り離したのか? 私を……」
そんなことが可能なのかと、彼女は瞠目する。
「クク、当然だ。今までどれだけの命を、魂を吸ってきたと思っている。己にこびり付く“異物”を引き剥がすことなど造作も無い」
この聖杯戦争で召喚されたサーヴァントの中では、アーカードこそが最も魂への造詣が深く、それ故に誰よりも早くこの“異界”の身に起きている異常に気付いていた。
「……そうか。では、ここで私を倒し、改めて血を吸うつもりか? 貴様らしくはある」
そう言い、彼女は身構える。垣間見た記憶から、目の前の男が無類の
自分と戦う為に、わざわざ切り離すだけでなく、こうして相対している、と認識した。
「そうだな、お前との闘争は非常に愉しめそうだ。ムスリムの女よ」
「………………」
「お前が私の全てを視たように、私もお前の全てを視たぞ。教団の教義にどこまでも愚直に従い、己が身を信仰に捧げ、そして死んだ。まるでいずれ融けて無くなる雪にただひたすら
その才能と、在り方はアーカードの目から見ても称賛すべきものであり、同時にその信仰も信念も歴史に残ることは無かったという事実を残念に思う。
「暗殺教団などではなく、
その本質は暗殺者というよりは“戦士”に近く、ハサン・サッバーハに選ばれなかった理由の一つでもあった。
しかし、それでも尚、彼女はハサンを志す道を選んだ。民を守る為に戦う彼らに対して、心の底から憧憬したのだ。
「アンデルセン以上の猪武者だな、お前は」
「アレクサンド・アンデルセン神父……異教徒ではあるが、信心深く、強く、尊敬に値する人物だった」
そんな者と比較されるとは光栄だと言わんばかりに彼女は言い、それに対してアーカードは呆れたように肩を竦める。
つくづく、暗殺者には向いていない。
「アーカード……貴様は、憐れな男だ。狂信の果てに神を否定した化物。しかし、神の信徒として全身全霊で、貴様のその膨大な魂の悉くを絶滅し、引導を渡さなければならない」
共感した。
同情した。
だからこそ、討ち滅ぼさなければならない。信仰や信念以前に、どうしようもなく人間に焦がれるこの男は、今すぐに終わらせてやるべきなのだから。
「たとえ……貴様の“帰りを待つ者”が居るのだとしても……」
その顔は、悲痛な面持ちであった。
「……フッ」
アーカードは笑う。
このような化物に対しても情を抱く、狂信者らしからぬ小娘。暗殺教団などに属し、ひたすらに人を殺す奇跡を極め、その為に自らの肉体を幾重にも改造しながら、異教徒はおろか神の敵たる魔物にすら慈悲を見せてしまう。
その優しさを愚かだとは笑わない。あれだけの人生を送りながらそれを失わなかったのは感服するしかなかった。
「やはり、お前のその美しき信念を、このまま薄れさせるのはとても、とてもとても
故に、手を翳す。
その白い手袋の甲に刻まれた魔法陣が、紅く輝いた。
「──令呪を以て命ずる」
「ッ!?」
「何を驚く? 我々を召喚したあの小娘を私は喰らった。ならば奴のマスター権は私のモノになるのは至極当然のことであり、つまり“私のマスターは私”であり、そしてお前のマスターもこの私だ」
衝撃的な事実。けれども、それならばマスターを失ったにも拘わらずこうして現界し続けていることにも合点が行く。
「さて、では改めて、“アサシン”よ、己が“使命”を全うし、己が“証”を世に刻め」
アーカードは言葉を続ける。
嫌な予感がした彼女は即座に止めようと彼へと接近し──。
「重ねて令呪を以て命ずる。可能な限り、この街から離れた場所へと転移しろ」
──その姿が消えかける。
「ッ──どういうつもりだっ!?」
「後は好きにするといい。■■■■■」
ヴラド三世と呼ばれたことへの意趣返しか。
最後に囁いたのは、とうの昔に捨てた、かつての彼女の名であった。
そうして、眼前まで迫った名も無き暗殺者は姿を消す。
「ククク……帰りを待つ者、か」
残されたアーカードは月を見上げる。
脳裏に過る、二人の姿。
「婦警はともかく、我が主が老いさばらえてしまう前に、捕まえるとしよう。なぁ、チェシャ猫?」
その呼び掛けは、虚空へと溶け込む。
返事は無くとも彼は確信している。奴もまた、この世界の何処かに存在していることを──。
『──怖いなぁ。でも、そう簡単には捕まらないよ? 伯爵』
或いは、何処でもない場所で。
──使命。
令呪による命令。それにより彼女──“狂信者”は思い出す。聖杯により招かれた際、己が何を望んだのかを。
証? 名誉? ──否、彼女の目的は異端の証である聖杯を無へと帰すること。
歴代の長達の幾人かが聖杯を求めたということを知り、彼女はただ悲しんだ。
彼らは自分よりも信仰に篤く、敬意を払うべき存在であり、憎むべきは彼らを惑わせた聖杯戦争という存在そのものなのだから。
しかし──。
「アーカード……アーカード……!」
激情のままに、その名を叫ぶ。
情けのつもりか。彼の眼に映る己は、敵とすら認識されていなかった。死人から黄泉返ったこの身では、相応しくないと言うのならば、こんなにも腹立たしいことはないだろう。
否、その眼差しには期待が込められていた。
それは“死”への渇望、どうしようもない嗚咽。幾年月を超え、幾千幾万の人々を喰らい、しかしもはや彼には何も無い。
城も、領地も、領民も、思い人の心も、彼自身の心も……だからこそ、いつか来る、しかしいつ来るのかも解らぬ終わりを待ち詫びる。
闘争から闘争へ、何から何まで消えて無くなり、真っ平らになるまで歩き歩き、歩き続ける幽鬼。それこそが、血みどろの闘争を求め、傲岸不遜に笑う吸血鬼の、憐れな本性だった。
「……良いだろう」
故に、狂信者は決意する。
「貴様に言われずとも、私は私の使命を全うする。──その為にも、貴様を倒す。その“夢の狭間”を終わらせてやる」
しかし、彼女には分かっていた。
圧倒的な力の差を。己ではその全てを賭したとしても、あの吸血鬼を殺し切ることは不可能であるということを。
理解した上で、何の策も無くただ無為に特攻する程、彼女は無謀でも蛮勇でも無かった。
一体どうすれば──。
「……そういえば、あのセイバー。確か、“ヒナナイ・テンシ”だったか」
オペラハウスでアーカードが戦った東洋人の少女の姿をしたサーヴァント──真セイバー。
あの緋色の剣は、万物の気質を見極め、必ず相手の弱点を突く、と彼女は語っていた。現に最初は太陽の属性へと変わり、次は祝福儀礼……神の加護を再現するなど、アーカードの弱点を的確に突いていた。
殺すには至っていなかったが、あのまま戦いが続いていれば……。
「奴ならば、或いは──」
可能性を見出だす。
それに、彼女のマスターであろう少女は、巻き込まれた一般人であった。ならば聖杯を求めぬよう説得することも可能かもしれない。
そう思い立ち、彼女は歩みを進める。
果たして、何の因果か15騎目のサーヴァントとして降臨した狂信者の行く末は──。
吸血:EX
他者の血液を吸うことにより、魔力の補給や体力回復を行うことができるスキル。
バーサーカーは血液を媒介として相手の魂すら取り込むことができるため、もはや吸血というよりも命の簒奪に等しい。
他者の魂を奪うたびに内包する命のストックが増えていく。