Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争   作:大嶽丸

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セイバー召喚から少し戻ってキャスターサイドの話がメインになります。


開戦

 

 

「さて……他の五体のサーヴァントは顕現したようだな」

 

 中央区にある警察署にて。

 

 制服の上からモッズコートを羽織った、目元に傷のある男が、立派なデスクに座っている。

 

 ──オーランド・リーヴ。

 

 このスノーフィールド市の警察署長であり、“偽りの聖杯戦争”の主催者、つまりは今回の騒動の黒幕の一人である。

 

 そして、参戦したマスターの一人でもあった。

 

「はい。現在、マスター共々正体が確認されているのは“英雄王”を従えたティーネ・チェルクただ一人です」

 

 如何にも敏腕秘書、といった雰囲気を醸し出している部下の女からの報告をオーランドは静かに聞く。

 

「我々が共闘を持ち掛ける予定だった繰丘夫妻とは連絡は取れなくなっており、他の魔術師達に関しては何人も街に入っていることは確認できるのですが……いかんせん誰に令呪が宿ったかまでは察知できませんので」

 

「そうか。街全体の監視システムも使えぬものだな」

 

 合衆国政府と繋がり、かつ警察組織であるが故の大きなアドバンテージ。これによりオーランド達は監視カメラに映るスノーフィールド市全体の様子や人の往来を常に監視し、掌握していた。

 

「ただ一人、堂々と日中の公園でサーヴァント召喚を行い、令呪を眺めている魔術師が居たのですが……」

 

 それを確認した際は、度肝を抜いたものだ。

 

「サーヴァントの容姿は赤い鎧に黒髪長髪、得物は巨大な団扇のようなもの……顔付きはアジア系でしたが、真名もクラスも依然として不明なまま。その特徴から真名を探り当てようとしていますが、何分東洋の英霊が召喚されること自体が予想外でしたので時間が掛かるかと」

 

 かつて冬木にして開催された五回の聖杯戦争では、東洋の英霊は除外されていた。

 

 しかし、今回のは所詮は贋作の聖杯戦争。こういったルールから外れた出来事が発生するのは不思議ではなく、然して驚くようなことではなかった。

 

「マスターの方も、サーヴァントとしばらく会話していましたが、その間につけた監視はあっさりと撒かれました。間抜けかと思ったら、どうやら相当にできる魔術師のようです」

 

「その東洋のサーヴァント以外の、英霊の性質なども分からぬままか?」

 

「はい。特に最初に顕現した英霊に関しては街中に監視の目を光らせていますが、影も形も掴めません。顕現したことは確かなようですが……顕現の時刻は、彼の“宣伝活動”とほぼ同時刻なので──」

 

「ふむ……ならばそれこそが繰丘の喚び出した英霊という可能性が一番大きいな」

 

 オーランドはそう推測を立てる。偽りの聖杯戦争の方に参加を表明していた者達の中で未だに状況不明なのは繰丘夫妻くらいだった。

 

 そうだったとして、連絡が取れぬことから察するに何かしらの想定外(イレギュラー)があったのだろう。

 

 自分と同じように──。

 

「どのみち英雄王が最大の障害となろう。それさえ排除できればいい……と、考えていたのだがな」

 

「──危惧しているのか、警察署長」

 

 オーランドは嘆息すると同時に、虚空から人影が現れる。

 

「私のような存在が現れることを」

 

 それは壮年の男だった。

 

 中背中肉。コートを身に纏い、杖を付いた紳士的な風貌の東洋人。一見するとどこにでも居そうで、しかしその面持ちはどこか超然としている。

 

「……()()()()()か。工房での作業はどうした?」

 

「とうに一段落付いている。そう急かすな……専門外の仕事を押し付けといて、人使いが荒い奴だ」

 

 ──魔術師(キャスター)

 

 そのクラス名で呼ばれたこの男こそが、オーランドが召喚し、契約を結んだ英霊である。

 

「それについては申し訳無いと思っている。だが、英雄王の“蔵”に対抗するには必要なのだ……()()()()()()()()()が」

 

「英雄王ギルガメッシュ、か……冬木での資料を確認した。確かにあれは脅威だが、それをまさかこのような形で打破しようとするとは。面白い」

 

 オーランドは、本来であれば“本物越え”の逸話を持つフランスの小説家、アレクサンドル・デュマを召喚する予定だった。その為に触媒も用意し、入念に準備して召喚の儀を行った。

 

 しかし、召喚されたのはどう見てもフランス人には見えないこのキャスターであり、また真名も全く聞いたこともない無銘……否、この世に()()()()()人物。

 

 幸運にもキャスターは高ランクの道具作成スキルを有し、これまた都合良く()()()()()()()()を製作した実績があったためオーランドが目指す“宝具作成”に関しては何ら問題は無かった。

 

 しかし、新たな問題が生じる。

 

「既に“人数分”は作ってあるだろう。だが、性能の引き上げには手こずる……あのような“制約”があっては、な」

 

「ッ……どの口が言う。むしろあの程度の縛りだけで済んだことに感謝してもらいたいくらいだ」

 

 キャスターの言葉にオーランドは目を鋭くさせ、不快そうに言い放つ。彼の手の甲に刻まれた令呪は、既に一画失われていた。

 

「フッ……警戒されたものだな」

 

「当然だ。召喚されて早々に洗脳魔術を掛けようとしてくる輩など信用できるものか」

 

 オーランドがそう指摘すればキャスターは表情一つ変えずに肩を竦める。

 

 危うかった。あの時、オーランドの対精神干渉防護の性能が僅かでも下回っていたら、キャスターがオーランド達を、そして令呪の強制力を侮っていなければ……想像するだけで背筋がゾッする話だ。

 

 そういった経緯もあってオーランドも、傍らの部下の女もキャスターを信用していなかった。

 

「なに、もう洗脳するつもりはないとも、我がマスター。お前のその手腕と権力はなかなか便利であり、傀儡にしては無意味だということも知った。それに……今度は()()()()()というもの面白い」

 

「……信じられんな、微塵も」

 

「信じなくて結構だ。元より私達は契約したマスターとサーヴァント。それ以上でもそれ以下でもないのだから」

 

「ああ。端からそのつもりだ。お互い魔術師であるし、そこに信頼関係など必要あるまい……」

 

 ファースト・インプレッションは致命的に失敗した。故に、これから共闘するならば実益と利害でのみ結び付いた、そうした関係を構築していくしかなかった。

 

(化物め……今は大人しくしているが、はっきり言って危険過ぎる。早々に更なる対処法を講じておかなければな)

 

 だが、それでもオーランドは安心出来ない。残り二画の令呪だけで制御下に置ける程、残念ながらキャスターは生半可な存在ではなかった。

 

 人ならざる肉体。幻想種に匹敵する膨大な魔力量。神殿どころか“異次元”すらも創造する陣地作成スキル。そして上述したように宝具を再現し、かつ原典から昇華させるだけの道具作成スキル……そして、そんなこと全てが些末なものと化す程の純粋な戦闘能力が高さ。

 

 実は神代の魔術師なのではと疑いたくなる。マスターであるが故に、オーランドが把握出来たそれだけでもまだ片鱗に過ぎず、手札を隠しているのは明らか。

 

 そんな規格外の化物を身内に抱えているのは色々と心臓に悪い。裏切る可能性が高いとなれば尚更だ。

 

 ──どう排除したものか。

 

 元より()()()()()()()()()()()()()()()()()オーランドは思考を巡らせる。

 

「それで、何の用でここに来た?」

 

「ああ。見せてもらいたくてな、私が丹精込めて製作した“魔道具”を扱う精鋭達とやらを」

 

 キャスターが視線を向けた先。

 

 そこには、剣や弓、盾といった武器を握った制服警官達がずらりと並んでいるという異様な光景が広がっていた。

 

 些か滑稽な印象を受けるが、多少センスのある魔術師が見れば卒倒しかねない。何故なら彼らが握るそれらの武器からは空気そのものを侵食するとでも言わんばかりに魔力と英気が練り合わされた力が滲み出ている。

 

 “宝具”──それぞれの英雄が持つ象徴にして神業に等しきワイルドカード。その模造品であり、然れどその力は伝説を上回る。

 

 原典を越える。それは魔術世界において通常如何に困難なことであるかは言うまでもないが、そんな常識に対してキャスターは失笑し、こう唾を吐く。

 

 くだらない。骨董品(アーキタイプ)ごときが、最新のものに敵うはずがないだろうと──。

 

「──二十八人の怪物(クラン・カラティン)

 

 オーランドの部下にして弟子達。“偽りの聖杯戦争”に勝利する為に彼が十年以上もの時間を掛けて各地の警察から引き抜いた精鋭揃い。

 

「かつて、ケルトの伝承の中でクー・フーリンと相見えた戦士の名。今日から君達のコードネームのようなものになると思ってくれたまえ」

 

 彼らは──。

 

「安い言葉ではあるが、警察署長である私が保証しよう。魔術師である私が確約しよう。──君達は正義だ」

 

 人間の手で英霊達を討ち倒すという聖杯戦争の根本を揺るがす道を選んだのだ。

 

「正義、か……」

 

 キャスターは鼻で笑う。

 

 彼からすれば何が正義で何が悪かなど実にくだらなく、至極どうでもいいこと。己が願いの成就以外は何もかも眼中に無し。

 

 だからこそ、酔狂なことを成し遂げんとするオーランドのことも看過し、専門外の仕事だとしても協力してやることにした。元より必要以上に動くことを好まないのもあるが、結果どう転ぼうともキャスターの計画には何ら支障は無いが故に。

 

 パチパチ

 

 パチパチ

 

「……何しに来た」

 

「あれれれ。なんだか反応が冷たいぞ? 用が無きゃ来ちゃいけない?」

 

「少なくとも部外者が入っていい場所ではないな」

 

 二十八人の怪物の御披露目から数分後。

 

 彼らが解散した後、背後から聴こえてくる拍手の音にオーランドは顔をしかめる。

 

「へぇ、私を部外者呼ばわりかぁ。えらくなったなぁ新米君」

 

 振り返れば、傘を片手に持った、白と黒を基調としたゴシックロリータ風の服を着た少女が笑みを浮かべてこちらを見据えていた。

 

「ほう……人間ではないな。何者だ?」

 

「お、貴方が偽物のキャスターさん? 人間じゃないって、君に言われたくはないなぁ。いや、取り込んでいる感じかな、これは?」

 

「………………」

 

「あっ! まずは名乗らないとね。私はフランチェスカ・プレラーティ。貴方のマスターの署長さんと同じこの偽りの聖杯戦争っていう壮大な詐欺を仕掛けた黒幕の一人だよ」

 

 まるで演劇のように大袈裟な身振り手振りをしながら少女は自己紹介する。その外見年齢は10代半ばを過ぎた程度で可愛らしいが、遥か昔から生きている老骨の魔女であることを知っているオーランドはただただ眉間に皺を寄せるのみ。

 

 キャスターもまた、彼女が真っ当な人間ではないということを見抜く。

 

「プレラーティ……聞いた名だ。私の知るところでは男だったはずだが」

 

「今は女の子の体だよ! 可愛いでしょ?」

 

「……その歪な魔力の流れを治してからアピールするといい」

 

「あら、見抜かれちゃった? やるね、流石はキャスターのサーヴァント」

 

 醜悪なものだ。サーヴァントだけではなく、マスターもまた警戒すべきだとキャスターは目の前の得体の知れぬ存在を前に考えを改める。

 

 一方、フランチェスカも警察署長が召喚したイレギュラーたる魔術師の英霊に対して内心少なからず警戒心と対照的に溢れ返るような好奇心を示す。

 

 実際に会ってみて気付く。彼の在り方もまたこの世界において異質極まりない。

 

「雑談は済んだか? もう用がないのなら速やかに立ち去ってもらおう」

 

「えー? ま、良いや。ほんとはさっきのゴールデンラズベリー賞並みの名演技を褒め称えようと思ったんだけどさー」

 

「演技で言ったつもりはない。真実を述べただけだ」

 

 君達は正義だ~、と微塵も似ていない物真似をしながらフランチェスカはクスクスと笑う。それが単におちょくっているだけだと理解しているオーランドは、しかし毅然とした態度で言い返す。

 

「あれ? あれれ? もしかして本気で思ってるの? ねぇねぇ、偽物のキャスターさん、どう思うあれ?」

 

「……別に何とも」

 

「あ、そういう感じ? 私はあの鉄面皮には憧れちゃう! 愛国心とはちょっと違うよね? 本当にこの国のことが好きなからこんなこと正義だなんて言わないもん!」

 

 言葉を濁しつつも、心底どうでもいいというキャスターの気持ちが伝わったフランチェスカは肩を竦め、続いて小馬鹿にするようにオーランドを称賛する。

 

「確かに私は愛国者ではないし、敬虔な神の徒でもないかもしれん。だが、信じるべきものを信じた結果の行動だという自負はある」

 

 オーランドは微塵も揺らぐことなく言葉を続ける。そこには確固たる覚悟と意志があった。

 

「もっとも我々の正義が聖杯にとってもそうだとは言わんがね。場合によっては協会と教会だけではない。聖杯戦争のシステムそのものを敵に回すことになるだろう」

 

「大丈夫大丈夫! この聖杯戦争に調停者(ルーラー)は来ないから」

 

「なに?」

 

 愉しそうにフランチェスカは語る。

 

 スノーフィールドの聖杯戦争は偽りから本物に昇華されて正道から逸脱する。切り替わった後に調停者のクラスが召喚されようとも、既に手遅れで介入すらできない。

 

「やりたい放題に聖杯戦争を凌辱できるの!」

 

 興奮した様子でフランチェスカはその場でぴょんぴょんと跳び跳ねる。

 

 涙すら浮かべ、震える程に歓喜していた。

 

「これって凄い事だよ? あの聖処女をもう一度凌辱し尽くして豚の餌にもならないような消し炭に変えられるなんて! ああッ凄い最高! やっぱり来てくれないかなぁ調停者!」

 

 あの時とは違い、今回は役目を果たせずに終わる。きっと、悔しがるに違いない。

 

「ほう……やりたい放題、か。それは良いことを聞いた」

 

 想像だけで絶頂すらしそうな雰囲気のフランチェスカに対し、キャスターは彼女の発言の一つに反応を示す。

 

 調停者のクラスについては知識として与えられており、召喚されれば面倒な手合いにあると思っていたのでその可能性が潰えたのは吉報であった。

 

「でしょ! これって凄いことだとおもわない?」

 

「……必要があるならばそうするが、賛美すべき行為だとは思えんね」

 

 一方、オーランドは無表情で言い放つ。

 

「堅いねーかちんこちんだねー。正義の味方って疲れない? 悪人を気取ると楽だよー?」

 

 やれやれとフランチェスカはくるりと背を向ける。どうやら揶揄うのに飽きたようで漸く立ち去る気になったらしい。

 

「あ、そうそう。偽物のキャスターさんの工房見に行っていい? きっと、斬新で凄くて面白いものが見れるような気がするんだよね!」

 

「余計なことせずにとっとと本部に戻れ」

 

「……だそうだ」

 

「はいはい。私は私の出番まで大人しくしてますよ……っと」

 

 パタン、と扉が閉じる。

 

「──精々黒幕を気取っていろ、老害が」

 

「………………」

 

「キャスター。奴には用心しておけ」

 

「言われるまでもない……お前の方こそ、ああいう手合いは放置せずに始末しておいた方がいいぞ? 何なら私が消してやろうか?」

 

 その提案は純粋な善意。自分ならいざ知らずあのフランチェスカ・プレラーティとかいう魔女を野放しにしておくのはオーランドにとって荷が重いように思えた。

 

「構わん。作業に戻れ」

 

「……そうか。だが、その前に」

 

「?」

 

「──そろそろ来るか」

 

 次の瞬間、大気が震える。

 

 ここで漸くオーランドは遠くで膨大な魔力が放出されていることに気付く。尚、キャスターは五体目のサーヴァントが召喚された時点でそのサーヴァントとアーチャー、英雄王ギルガメッシュに動きがあったことを察知していた。

 

「ッ!? これは……!」

 

「どうやら英雄王とやらは随分と気が早いようだ。良かったではないか、見れるぞ」

 

 ──お前達が打破せんとしている者の力を。

 

 そして、スノーフィールドの砂漠にて天変地異と見間違うような決戦が勃発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 二つの“創世の叙事詩(エヌマ・エリシュ)”がぶつかり合う。

 

 此度召喚された英雄王(アーチャー)神造兵器(ランサー)により放たれたそれは砂漠という土地そのものと、観測していた魔術師達に癒し難い傷跡を刻み付けた。

 

 そして、既に召喚されている他のサーヴァント達は、各々様々な反応を見せる。

 

『……ふん。神の威光を前に恐れをなして逃げたようだな。だが、想定以上のデータが取れたよ』

 

 黒い靄。偽りのライダーの分け身が一つは、核爆発でも起きたかのような巨大なクレーターを見据えていた。

 

 先刻の宝具同士の衝突により発生した雷鳴が如き轟音に怯えるマスターの為に馳せ参じた次第であるが……。

 

『レベルXやX-0では、あれらと闘うのは少々厳しいな。少なくとも“最高神(レベルビリオン)”の力が必要だが……それを見せる前に退いたとなれば、どちらかが私と相性が悪いようだ』

 

 にやり、と笑う。

 

 生前の死因が病死か、或いは死の呪いか。ライダーの人格を構築した災厄の騎士(ペイルライダー)はそのような英霊に対して絶対的な有利を誇る。

 

 逆に、死を克服した者や不死の逸話、冥界から帰還した逸話を持つ者には能力が弱体化してしまい、手も足も出ないという弱点があるが、それはもう既に補えるだけの力を獲得していた。

 

 ──それこそが、ライダーの腰に巻かれている“ベルト”である。

 

『一先ず“椿”が怯える()()()()の音は消えた。別に焦って追う必要も無い……じっくりと念入りに準備をしてから、知らしめてやろう。私の才能を……!』

 

 聖杯戦争。

 

 願望機を巡る英霊達の殺し合い。その未知なる儀式はライダーに多大なインスピレーションを与えてくれる。

 

 ならば作るとしよう。この人格の持ち主がかつてやったように、己が欲望のままに。

 

 かつてない、史上最高の“遊戯(ゲーム)”を──。

 

「フフッ……フハハハハハハハ! 実に素晴らしい! 想像以上じゃあないか!」

 

 一方その頃。

 

 高層ビルの屋上で月明かりに照らされながら、吸血鬼(バーサーカー)は腹を抱えて大笑いしていた。

 

「これが英霊か! これが人理の守護者か! 素晴らしい、申し分無い力だ! とても楽しい闘争が出来そうで何よりだ!」

 

 ご満悦だった。

 

 開戦の祝砲。それは彼が抱く聖杯戦争という催しに対しての期待を最大限に高める。

 

「魔術師、埋葬機関、真祖、それに水晶蜘蛛……この世界もまた実に脅威と驚異に満ちている。主の下への帰還が最優先ではあるが、ククク……ああ、心が踊って仕方が無い。あの()()を喰らったのは失敗だったかもしれんな」

 

 手袋の下から甲へと浮かび上がった“令呪”が赤く光る。憐れな死徒がもたらした記憶という名の“情報”はバーサーカーにとって劇薬に等しく、この世界の異様さをこれでもかと理解させた。

 

 だが、それは彼の目的も、生き様も、在り方も、何一つとして変えさせない。

 

 五百年前のように、百年前のように、今までと同じように彼は狂気を代弁し、生と死を渡り歩きながら次の闘争を、次の次の闘争を渇望する。

 

 いつの日か、再びあの夜明けの果てへと──。

 

「ミャーオ」

 

 それをどこかで、或いはどこでもない場所で、確率の中を跳ね回る一匹のチェシャ猫は気だるそうに眺めるのだった。

 

「良かったんですか? 混ざらなくて」

 

「……あれは友と友のじゃれ合いだ。横槍を入れるのは無粋だろう」

 

 同時刻。フラット・エスカルドスと彼が召喚したサーヴァントもまた、視界を共有した使い魔を介して二騎の衝突を覗いていた。

 

「だが、なかなか見物だった。あれが英霊か……あれ程ならば血湧き肉躍る戦いが楽しめそうだ」

 

 男の口角が吊り上がる。英霊とやらがどの程度の存在なのか今一ピンと来ていなかったが、今回初めて目の当たりにした二騎のその絶大なる力は、彼から見ても最高峰。想像以上の猛者達であると認識を改めた。

 

 それこそ、己に匹敵、或いは越え得るかもしれない。二度の生涯で数える程しか感じなかったその予感に胸が高まっていく。

 

「それは良かったです! でもあんな凄いサーヴァント相手にそんなことが言えるなんて! やっぱりアサシンさんって凄いんですね!」

 

 ──アサシン。

 

 即ち暗殺者の英霊。あれから粘り強く話しかけ、遂にはクラスまで教えてもらったフラットはそう言って男──アサシンのステータスを閲覧する。

 

 筋力B

 耐久C

 敏捷A+

 魔力A

 幸運C

 宝具EX

 

 ザッと確認したステータス。豪語するだけあってパラメーターは高く纏まっており、暗殺者らしくスピードに特に優れている。耐久に関しても平均値よりも上だった。

 

 特に目玉は評定規格外(EXランク)の宝具。どんな切り札を隠し持っているのか、未だに教えてもらえていないが、実に気になる。

 

(アサシンってことは中東のハサン・サッバーハ……ではないですよね。顔立ちはアジア系……そういえば鎧も見たことが……えっと、えーっと……あ!)

 

 そこでフラットは思い出す。敬愛する師がプレイしていたゲーム。それに登場する日本の鎧武者のものに少し形状が似ているのだ。

 

 つまり日本の英霊。そして、アサシン──となると、もしかして……。

 

「アサシンさんアサシンさん!」

 

「……何だ」

 

「アサシンさんってもしかしてジャパニーズ・シノビ! ニンジャって奴じゃないですかっ!?」

 

「じゃぱにーず……? ああ、成程。忍ではあるな、お前が知るそれとは少し違うが──」

 

「──やっぱり! ニンジャ! ニンジャを召喚しちゃうなんて! 僕って凄い! 師匠達に自慢しちゃおっと!」

 

「……喧しい砂利だ、本当に」

 

 無邪気にはしゃぐ少年を前にアサシンは呆れる。英霊と友達になりたいなどとほざく妙なガキかと思えば、能天気なお人好し。かといって賢しい一面もあるようで能力もそれなり。つくづく妙なガキとしか言い様が無い。

 

 鬱陶しいが、害意は無い。ならば本当に邪魔になるその時まで適当に相手してやってもいいと、生前よりも少し丸くなったアサシンは判断した。

 

 ──そうして、夜が明けていく。

 

 今回の埒外の魔力の流れに、様子見をする予定だった魔術協会も静観する構えだった聖堂教会も揃って認識を改めた。

 

 これは決して無視すべき戯れ言ではない。言語に絶する魔術師達の戦争がスノーフィールドという土地で始まった。

 

 その真実を前に、真贋など関係無いのだと。




陣地作成:EX
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 世界から隔絶した“異次元”を作り出すことが可能なためこのランクとなる。

道具作成:A++
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 キャスターは生前から宝具クラスのアイテムを幾つも作成しており、ランクは高い。
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