Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
ああ。呆気無い。
私の逃亡劇はこんなところで終わるのか。そう、アヤカ・サジョウという名の少女は独白する。
スノーフィールドに足を踏み入れた彼女は魔術師の男に捕らえられ、始末されようとしていた。曰く、“円卓の騎士王”とやらを召喚し、そいつに切り捨てするように命令するのだと。仮にその騎士王が拒もうとも、首に付けられた呪具により首を絞め折られてしまう。
(これは運命の悪戯か? ──それとも“あの子”の呪いなのか?)
脳裏に過るのは、血に塗れた頭巾。
(……だとしたら、これで気が済んでくれるのかな? “あの子”は)
淡々と詠唱を呟く魔術師の男。その行為も、この状況すらも正確に理解出来ていないアヤカであるが、それでも己の死が目前に迫っていることは分かった。
──死にたくない。
そう思い、けれども同時に生きる目的も無いのに何故なのかと自問自答する。
「抑止の輪より来たれ。天秤の……?」
その時だった。
魔術師の男は口を止める。空間が凍り付くような底知れぬ寒気を感じたが故に。
「…………?」
咄嗟に目を瞑っていたアヤカだったが、しばらく何も起こらないことに首を傾げ、恐る恐る目を開けてみれば魔術師の男は既にこちらを見ておらず、顔は観客席の方へと向いていた。
その顔には、驚愕と恐怖が。
「何、あれ……?」
かつん、かつん……と、足音が響く。
それは一体いつから居たのだろうか。目線を追って向いた先には、一人の男がゆっくりと緩やかな階段を降りて近付いている。
(……赤い。それに恐い。“あの子”よりも)
すらりとした長身、鍔の広い赤色の帽子、これまた紅いロングコートと、赤を主体としたファッションに対照的な死体のような白い肌をした黒髪の男。
サングラスを着用しており、そのレンズ越しから見える瞳までもが血のように紅く、妖しく煌めいていた。
この場には似つかわしくない奇怪な風貌に、異様な気配。一目視た瞬間からその圧倒的なまでの死と暴の空気に呑まれ、本能的にアヤカは恐怖してしまう。
それは魔術師の男も同じだったのだろう。つい先程までの余裕は完全に消え失せ、動揺を隠せていない。
「なっ、貴様は──」
身構え、どうにか口を開く魔術師の男だったが、言い終わるよりも先に突風が轟音と共に吹いて横側を通り過ぎた。
「は?」
令呪の宿った、男の腕を抉りながら。
「が、があああああああああああああああああああああああああっ!?」
大部分を抉られ、衝撃により千切れて飛んでいく腕。これに魔術師の男は目を剥き、身を襲う激痛に悶える。
対する突然現れた“殺し屋”──バーサーカーは、その場で始める愉快なダンスを冷たく見下ろす。
「英霊を召喚するまで待ってやるつもりだったが……よりにもよって円卓の騎士王、とは。聞き捨てならんな」
向けられる白銀の拳銃。おおよそ人間が片手で扱えるとは思えぬ大口径のそれによって腕を撃ち抜かれたことを魔術師の男は察し、けれども不快そうに顔を歪めるその存在の感情は微塵も理解出来ていなかった。
「こう見えて英国に仕えている身でな。数ある英雄達の中で
円卓の騎士王。
かの名を聞いた時、バーサーカーは自らの祖国……厳密には違うが、従属している国家を代表とする英霊と殺し合えるという事実に胸が躍った。
しかし──。
「だからこそ、貴様のような狗風情が呼び出し、あまつさえ無抵抗の女を殺すように命じるなどと道楽に興じるのは到底看過することはできん」
「待っ──」
理不尽に、微塵の躊躇も容赦も無く眉間に銃弾が叩き込まれる。あまりにも呆気無くセイバーの英霊を召喚するはずだった男は物言わぬ肉塊と化す。
死の直前。このような仕事を受けるべきではなかったと後悔しながら。
(人が……こんなにあっさりと……)
一方、突然の事態にアヤカは理解が追い付かず、辛うじて先程まで自分を殺そうとしていた男が逆に殺されてしまったことを理解する。
同時に術者が死んだことで拘束していた手錠も首の呪具もボロボロと崩壊していき、自由の身となった。
「さて……お嬢ちゃん」
が、思考するよりも先にその低く底冷えする声が眼前から響く。
気が付けば男を撃ち殺した彼は、アヤカのすぐ目と鼻の先に立っていた。
「ヒッ──」
「実のところ私の目的はそこに転がる
「……え?」
「街中で見掛けた時からずっと、後を追っていた。随分と上手く溶け込んでいたが、ククク……聖杯戦争というのはどうやら
訳が分からないアヤカに対して、バーサーカーは愉しげに笑う。
そして、銃口をこちらへと向けた。
「!?」
「お嬢ちゃん……お前は人間か? それとも“化物”か?」
唐突に投げ掛けられたその質問に、今度こそ思考が停止する。
(ばけ、もの? 私が……? 何を言ってるの、化物は私じゃなくて“あの子”じゃ──)
ちらり、と視線を向けた先には、居るはずのない“赤頭巾”。逃げる為に街を去り、海を越え、どうにかここまで来たというのに当然のように現れるソレ。
──違う。
私は人間だと。人間のはずだと答えようとし、しかし恐怖からか呼吸が上手く出来ない。
「わ……わた、私は……」
次の瞬間、へたりと落ちた手の甲の刻印が床に描かれた魔方陣へと触れる。
そして、術者を失い、不安定だった膨大な魔力の奔流が瞬く間に安定して辺りが光に包まれた。
「えっ──」
「! ほう……これは──」
一方その頃。
舞台場で巻き起こっているこれまでの出来事を自室にて覗いていたフランチェスカはベッドの上に座りながらケラケラと笑い転げていた。
「アハハッ! なになに、スッゴいのが現れたね! アサシン? それともバーサーカー? 銃使ってるからエクストラクラスのガンナーってパターンもあるかな? どっちにしろ吸血鬼のサーヴァントだなんて前代未聞だよ!」
思わぬアクシデント。パタパタと両足を揺らし、まるで映画を鑑賞する子供のように目を輝かせて水晶玉に映る一部始終を食い入るように眺める。
「どうするのかな、どうするのかなぁ
想いを馳せるのは“聖剣”に選ばれた少女たる騎士王。かつて冬木で行われた聖杯戦争にて二度も現界した彼女が如何なる反応を見せるのかという一点のみがフランチェスカは気になった。
「……あれれ?」
が、次の瞬間。フランチェスカから笑みが消える。
クリリと瞳孔をかっ開き、瞬きもさずに水晶玉を覗き込んだ。
「あのセイバー……誰?」
そこに映っているのは思い浮かべていたブリテンの騎士王どころか騎士ですらない。
──彼女よりも幼く見える、少女だった。
「……ん?」
新たなイレギュラー。
顕現した少女は、状況を把握するなり首を傾げた。転がる死体、笑う蝙蝠もどき、そして──。
「歓迎の言葉一つも無いとは……折角、来てやったというのに不遜だな」
くるり、と。その腰まで届く
(これが英……霊? こんな小さな女の子が……?)
こちらを覗き込む整った美しい顔立ち。その瞳は幼き容姿相応に純粋無垢で、しかしながら老境を迎えたかのように達観しているようにも見える。
今はアヤカがへたり込んでいるため見下ろされている形になっているが、立ち上がれば自分の方が背丈は上であり、華奢な体付きからしてもとてもではないが、一騎当千の英雄に名を連ねる者だとは到底思えなかった。
本当に彼女が先刻撃ち殺されたあの魔術師の男が言っていた、“円卓の騎士王”とやら……なのか? アヤカは困惑の色を隠せない。
「問おう、そこの地を這う下民よ」
「え……?」
すると声をかけられる。
他者を徹底的に見下す傲岸不遜な物言い。しかし、言葉とは裏腹に快活な笑みを浮かべており、不思議と不快感は無かった。
「お前が、私のマスターか?」
──運命を左右する問いかけ。
何となくそう感じたアヤカだったが、予想外の出来事の連続に混乱して思考が追い付かず、言葉を詰まらせてしまう。
「──無視とは寂しいじゃないか。お嬢ちゃん方」
そんな中、黙って様子を見ていたバーサーカーが痺れを切らしたのかそう言って割り込んでくる。
「ん? ──ああ、失敬。気が付かなかった、下等な虫けら風情の存在などいちいち気に留めるほどマメな人間ではないものでな」
対して少女は今思い出したと言わんばかりの反応を見せ、心底見下しながらそう吐き捨てる。実のところ現界したその瞬間から彼女は異質な存在感を放つその男を警戒していたのだが、敢えて無視していた。
理由は単純。相手を徹底的に扱き下ろす為にはそうした方が合理的なのだから。
「にしても、虫けらは虫けらでも生き血を啜ることしか能の無い“蚊”じゃないか。英霊同士が戦う由緒正しき戦争だって聞いていたが……」
「フッ……そう言う貴様も真っ当な英霊には見えんがな。
そんな罵倒を受け、しかしバーサーカーは動じず、男の死体を一瞥しつつそう笑い返す。
剣を持たず、顔立ちは東洋人。少なくともかの騎士王である可能性は1ミリも無いだろう。些か拍子抜けであるが、けれども相手はサーヴァント。見てくれなどアテにはならず、甘く見てはいけない。
「成程……それは運が無かったな。折角ド田舎の王様などではなく、この私を、それも最優のクラスで引き当てたというのに、死んでしまうとは」
「ほう……随分と大きく出たな。それに隠すつもりもないようだ、セイバー」
「ああ。名すら隠す臆病者共と違って、私はそのようなみっともない真似はせんとも」
「クク。そうかい……では、私も習って教えてやるとしよう。今宵、私が聖杯とやらに割り当てられたのはバーサーカーのクラスだ」
フェアではない。そうした観点からか、或いは単なる気紛れか。クラスを隠す気皆無な少女──セイバーに対してバーサーカーも自らのクラスを告げる。
「狂戦士……それはそれは。醜悪な蝙蝠もどきには実に相応しい器だ。正気に振る舞うだけでどこまでも貴様は、どうしようもなく狂い果てている」
聖杯の知識から与えられた情報ではバーサーカーというクラスの存在は狂化スキルにより理性を失っていると聞いていたが、目の前の男は言葉を発し、意志疎通が可能。
セイバーの瞳は本質を見抜く。かの者は元来内包する狂気により狂化を打ち消し、或いは上から塗り潰して溶け込んだ。
──正しく狂気の代弁者。つくづく英霊から程遠い化物だった。
「さて……どうする?
「腐っても、腐ったどころではない死人風情の貴様も一応英霊の端くれらしい。ならば我らがやることはただ一つだろう」
「は。違いない」
互いに睨み合う。空間を支配する濃密な殺意とは対照的に満面の笑みを張り付けながら。
「────」
最初に動いたのはセイバーの方だった。
ダッと一気に駆け出し、バーサーカーと距離を詰めんとする。
その速度はかなりのもの。けれどもバーサーカーが照準を定め、引鉄を引く方がずっと速い。
ドォン!! と大砲に匹敵する銃声。後一歩で手が届くというタイミングで牽制として放たれたそれを、しかしセイバーは微塵も避ける素振りを見せずにそのまま突っ走る。
当然、一片の狂いも無く銃弾は命中する。先刻男の眉間を撃ち抜いたように。
がくんっとセイバーの頭が折れるように後ろへ90度に傾く。そんなショッキングな光景にアヤカは悲鳴をあげそうになる。
「──え?」
が、次の瞬間、バーサーカーの首が宙を舞ったことで目を見開く。
いつの間にかセイバーの手に握られていた“宝剣”が振るわれ、発生した真空の刃により切断されたのだ。
片や眉間に銃撃をくらい、片や首を切り飛ばされ、両者共によろけて仰向けに倒れ込み──。
「フフフ……」
「ククク……」
──途中で踏み止まった。
響く笑い声。セイバーの方は傷一つ無く、バーサーカーの首も断面から再構築されるかのように瞬時に血肉が頭部を象っていく。
(ど、どういうこと? 英霊って……こんなに化物染みているの……?)
アヤカは絶句する。
そして、理解した。今から巻き起こるのは己が常識から逸脱した理外の闘争なのだと──。
「クク──フハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
狂気的に笑いながら元通りに顔を修復させたバーサーカーは再び発砲。常人ならば両手でしっかり構えて撃たなければ反動で腕が脱臼するであろう規格外の拳銃を、片手で物ともせず、マシンガンのように乱射していく。
帽子とサングラスは外れ、見えた素顔は美しい男の顔。そしてやはり心底愉しいと言わんばかりの満面の笑みを浮かべていた。
「楽しいか、狂人よ!」
対するセイバーもまた人体を容易く挽肉へと変えるであろう恐るべき銃撃の嵐を無防備で受け、にも拘わらず平然とした様子で笑い、突き進んで行く。
「ハハッ! カスール弾ではびくともせんか! ならばこちらはどうだっ!?」
するとバーサーカーはもう片方の腕で懐中から白銀の拳銃よりも一回りも二回りも大きな漆黒の拳銃を取り出してセイバーへと向ける。
より大きな銃声が空間に轟く。
「──大地よ!」
しかし、それは舞台場の床を突き破って現れた巨大な“岩”の塊により阻まれる。
「あの小娘が使っていた物よりもむず痒くて敵わん! 確か、“ジュウ”だったか? 人間の作った玩具も存外やるじゃないの!」
セイバーが指を鳴らすと幾重もの鋭利な岩が出現し、バーサーカーの肉体を穿つ。
「かはっ……クハハッ、やるな……!」
圧倒的な質量がバーサーカーの肉体を圧し潰しながら瞬く間に剣山のように串刺しにしていく。
しかし、バーサーカーは止まらない。首をはねられた時と同じように体を再構築させ──。
「ぐぅ────ッ!?」
燃え盛る炎のようにうねる赤熱の刃が、岩ごと胴体を切り裂く。そこで初めてバーサーカーは苦痛に顔を歪めた。
「これは……ッ!?」
「フッ……やはり“貴様ら”のような生を纂奪する死人、腐肉の詰まった頭陀袋共にはこれが効くようだ」
焼けるような痛み。その
「がっ──」
「死ね。生まれきた地獄へと還るがいい」
「ク、クク……」
「……何?」
セイバーは訝しむ。今度こそトドメを刺したと思ったが、尚もバーサーカーは笑みを崩さない。
心臓を穿ち、内部から焦がす灼熱により途方も無い激痛が襲い掛かっているであろうにも拘わらず。
「お返しだ、お嬢ちゃん」
「なっ──」
それどころか肉体が灰と化すよりも先に再生を繰り返し、心臓を貫かれながら平然とこちらへ銃口を向けてきた。
至近距離からの銃撃。それは流石にまずいと判断したのかセイバーは剣を引き抜いて距離を取った。
「驚いた、全く以て驚愕させられた! その輝かしき剣が身に纏っている力……さては“太陽”だな? クク、確かにそんなものをくらえば並の
パチパチと、バーサーカーは拍手する。既に傷口は塞がり、傷一つ無く元通りになってそこに立っていた。
これにはセイバーも目を見開く。彼の正体、吸血鬼としてもその再生能力は異常であり、況してや今行使した力は彼にとって致命的なものであるはずだというのに。
「解せんな。何故平気でいられる? 腐肉の分際で」
「無論、死んだとも。ものの見事に殺されたとも。だが、それだけだ……そして、私にとって日の光は大敵ではない。ただ、大嫌いなだけだ」
セイバーの問いに、先刻穿たれた胸元を愛おしそうに手を当てながらバーサーカーは言う。
完全に修復した肉体にはダメージを受けた痕跡は無く、また剣から発せられる日輪の力を前にしても平然としている。
その言葉通り、彼は夜の支配者たる吸血鬼でありながら日光という最大の弱点を克服しているのだと悟らざるを得なかった。
「成程……あの紅魔の小娘よりも上等らしい。はは、死人になってまで現世を彷徨うだけあって、全く以て生き汚いな貴様らは」
すると剣の刀身に帯びる力が、また変化する。今度は白銀の光であり、その輝きもバーサーカーには見覚えのあるものだった。
「ならば改めて貴様の“気質”を解析し、次こそ屠るまでだ」
「ほう……そういうことか。太陽の力を纏ったかと思えば、次は祝福儀礼ときた。その剣、どうやら相手の性質によって属性を自在に変化させるようだな?」
「その通りだ。この“緋想の剣”は万物の気質を見極め、必ず相手の弱点を突く」
炎のようにうねる実体無き刀身。宛らビームサーベルのようなその宝剣こそが、恐らくセイバーの宝具であるのだろう。
バーサーカーの推測に対しても誤魔化すこと無く肯定してみせ、その名すらもあっさりと教える。
とはいえ、知ったところで対策のしようの無い能力であった。
「ククク……」
「? 何がおかしい?」
「いや、嬉しい。この私を殺し得る存在がこうして現れてくれたことに。それでこそこの戦争に参加した甲斐があったというもの」
バーサーカーは笑う。
ただ愉しそうに、それはそれは愉しそうに。自らの死の可能性を目の当たりにしながら微塵も臆することはなく、むしろ歓喜する。
「ふむ、どうやら闘争そのものが目的な類いのようだ。けど私の方は幸先が不安だよ、貴様のような魔性が英霊扱いだなんて」
そんな様子にセイバーは肩を竦める。聖杯とやらが選定する英霊の基準は酷く大雑把らしい。
──まあ、それは
「は。なら、その不安を解消出来るように、私も本気で相手してやるとしよう」
「──へぇ?」
宝具でも発動するつもりか。その言葉に、セイバーは獰猛な笑みを浮かべる。
しかし、それは言葉通りの意味であった。
「──拘束制御術式。第三号、第二号、第一号、解放」
バーサーカーの雰囲気が一変。空間の温度が一気に下がったと錯覚する程に、おぞましいナニカがこの場を支配する。
「状況A、クロムウェルによる承認認識。眼前敵の完全沈黙までの間。能力使用限定解除開始──」
闇が蠢く。
ゆらりと吸血鬼の肉体が歪み、そこに宿るおぞましき闇が蠢き、開いた無数の眼が一つ残らずセイバーをジッと見据えていた。
「フフ……アハハハハハ! そうか! それが、
これをセイバーは笑い飛ばす。身震いする程に恐ろしく、おぞましき濃厚な死の気配。バーサーカーのその力を、成って果てたその有り様を理解しながら、それでも笑ってみせ、剣を構える。
「見せてやろう! 本当の吸血鬼の闘争というものを!」
「笑わせる、もはや貴様は吸血鬼ですらない外道の存在よ! ──だが、面白い! ならば私も全身全霊で打破してやるとしよう!」
魔力が、集まって行く。
セイバーの握る剣へと。天から、地から、人から、吸い上げるようにして膨大な量の魔力が集中し、轟々と渦巻いていた。
「唸れ! “緋想の剣”よ!」
刀身が、赤く、赤く発光する。かの聖剣の真名開放にも匹敵するではとされるその特大の魔力を、セイバーは躊躇無く解き放つ。
それは、彼女の奥義にしてその片鱗。
「──全人類の緋想天!!」
極光が、バーサーカーを呑み込んだ。
圧倒的な破壊が巻き起こる。
とてつもない風圧にアヤカは吹き飛ばされかけ、何とかしがみついて何が起きたのが確認し、言葉を失う。
「ふむ……少しやり過ぎたな。随分遠くへと吹っ飛ばしてしまった。これでは仕留めたか確認出来ない」
そこには先程まであった舞台場は存在せず、代わりに凄惨な破壊跡が残っており、天井は崩れて夜空が見えてしまっている。
そんなまるで災害が起きたかのような惨状を、たった一人の少女が剣を振るっただけで作り上げたなど誰が信じようか。
(ッ……体が、重い)
立つことすら儘ならない。単純に疲労、或いは精神的ショックからか、まるで気力を吸い取られたかのような倦怠感が身を襲う。
「さて……邪魔者は消えた。今一度問いかけを……ん?」
そんな彼女へとセイバーが語りかけ、しかし途中で言葉を止めた。
「なんだ、お前。
「え……?」
唐突にそう言われ、アヤカは困惑する。混ざっている、金髪だからハーフとでも思われたのだろうか。
いや、もっと根本的な──、と思考したところでズキズキと頭が痛む。
「あー、いや何でもない。それよりも魔力の繋がりからして、お前がマスターなのは明白だが、どうやらこういうのは同意しないと契約が安定しないらしい。さっさと済ませよう」
(私がマスター……?)
“もう一度言うぞ、サジョウ・アヤカ。聖杯戦争に参加しろ”
セイバーの言葉を聞いて思い出す。アヤカが覚えている数少ない記憶の一つであり、このスノーフィールドへ来ることになった原因。
──聖杯戦争。
アヤカは漸くそれが一体どういうものなのかを先刻前の化物同士の戦いを目の当たりにして理解してしまった。
(あの白い女は……私にこんなことをさせようとしていたのか)
ちらり、と男の死体を見る。戦争ならば人が死ぬのは当然だ。
けれど、アヤカはもう誰かの死を受け止めることなど出来ない。たとえそれが自分を殺そうとした相手だとしても。
「──違う」
「……あん?」
故に、そんなことを強いるのが運命だというのならば。逆らえば自らが死を迎えるというのならば。
せめて抗いながら死んでやろう。
(──どのみち自分は生きる価値など無い人間なのだから)
そんな後ろ向きな覚悟を決め、アヤカはセイバーを睨み付ける。チリチリと痛みを訴える全身の刻印に、必死で耐えながら。
対して、まさか否定されるとは思ってなかったのか、セイバーはきょとんとした表情で拒絶の意志を見せるアヤカを見つめる。
「断じて違う。私はもう……お前達の思い通りにはならない」
「…………ほう」
「私に……干渉しないでくれ」
アヤカとセイバー。二人の視線が交差する。
──斯くして、偽物を触媒に始まった“真なる聖杯戦争”は、波乱の幕開けとなるのであった。
【Class】セイバー
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運EX 宝具EX
【クラススキル】
対魔力:A
騎乗:A+
【Class】バーサーカー
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力A 耐久EX 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具EX
【クラススキル】
狂化:EX
……なんかEX宝具だらけやな