Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争   作:大嶽丸

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英霊事件

 

 

 ファルデウス・ディオランドは、モニターに映る映像を前に茫然としていた。

 

 肝心要のセイバーの召喚場所であるオペラハウスにて発生したトラブル。管轄であるフランチェスカのまた悪い癖が出てしまったのかと思いながらも、すぐに隠蔽工作を行おうとしていたのだが……。

 

『聞け! 地上の民よ!』

 

 視線の先には、テレビ中継。

 

 消防車両の上に、そいつは堂々と立っていた。

 

『我が名は“比那名居(ひななゐ)天子(てんし)”! 此度はセイバーとしてこの戦争に馳せ参じた、誉れ高き天人である!』

 

「……は?」

 

 セイバー? つまり英霊? 

 

 テレビに英霊が……しかも己が真名とクラス名を暴露している。幻覚魔術でもかけられているのかとファルデウスは自分の目を疑うも、残念ながらそのような痕跡は全く見受けられない。

 

 出来れば、そうであってほしかったのだが。

 

『お前達が詩吟や歌劇を奏で、娯楽に興じるこの場所を破壊したことは慚愧の念に堪えない! 滅すべき魔性を誅する為とはいえ不覚だった、申し訳無い!』

 

 高らかに、少女は叫ぶ。一見すると戯言にしか聞こえぬそれであったが、集まった野次馬も、マスコミも、その異様なまでのオーラに呑まれて言葉が出ず、また目を離すことが出来なかった。

 

 カリスマ。

 

 幼い少女には、確かにそう言わざるを得ない魅力と威光が存在している。

 

『故に、我らを捕らえるという不遜もまた許そう! そして、この不覚は天道に至った者として、必ずや贖うと約束してやる!』

 

 しんと静まり返る。

 

 力強い宣言。何を言っているのかは微塵も理解出来ないが、有無を言わさぬ説得力がテレビ越しからも伝わった。

 

 神秘の秘匿など意に介さぬこの所業にファルデウスは脱力し、フランチェスカはイレギュラーな展開に面食らったものの英霊が逮捕されるという前代未聞な事態に大笑い。

 

 そして、警察署長オーランドは顔をしかめた。セイバーが警察に連行されたということは、他のマスター達がそれを狙って襲撃してくる可能性があるということなのだから──。

 

「凄い凄い! 天人って何でしたっけ? 後で調べてみましょう! ヒナナイテンシって名前は聞いたことがありませんが、きっと凄い英霊なんですよね! カリスマ半端ないですし!」

 

「ふん……小娘だが、名乗りを上げ、逃げも隠れもせんとはなかなか肝が据わっている。面白い」

 

「はい! ワクワクしてきました! ってあれ? アヤカちゃ……いや、まさかね」

 

 現に関心を示した勢力が一つ。

 

 暗殺者と共に行動する少年はその演説に拍手を送り、しかし端で連行されている知り合いとそっくりな顔をした少女に首を傾げる。

 

「ククク……」

 

 一方、街の外れまで吹っ飛ばされた吸血鬼もまた闇夜を這い、闘争を再開せんと蠢く。

 

 ──まだ夜は、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「クラン・カラティンを送り込むのは間に合わなかったか」

 

「現場は市の中心部にあります。処理を行う前にパトロール中の警官達が駆け付けたようでして……如何しますか? 署内で始末を?」

 

 そして、セイバー連行後。オーランドは部下の女とその処遇について話し合っていた。

 

「クラン・カラティンの面子は集めておけ。だが、まずは共に連行してきた女がマスターかどうか調べろ……場合によっては共闘関係を結ぶことが出来るかもしれん」

 

 オーランドはそう指示する。あの最強と目された英雄王ギルガメッシュと互角に相対した英霊が居る以上、保険は多いに越したことはない。

 

 しかし、一番気になるのはやはり捕まった英霊が、堂々と名乗った真名について。

 

「ヒナナイテンシ……フランチェスカの情報では、召喚されるのはアーサー王だったはずだが」

 

 円卓の騎士といった関係者、という線も薄い。少女の見てくれなのもそうだが、明らかに人種が違う。

 

 というかまた東洋人。これで三人目であった。

 

「データベースには存在しない名前です。偽名という可能性もあるかと」

 

「そうだな……どのような出自の英霊にせよ、あれを相手取ってこちらが無害で倒せることはあるまい」

 

 あのオペラハウスを半壊させた宝具と思われる攻撃を一度でも使用されてしまえば厄介なことになる。そう考えたオーランドは出来ることならば現段階での戦闘は避けたかった。

 

「キャスター。貴様の見立てはどうだ?」

 

『情報が少なく、未知数だから何とも言えんが……少なくとも私の結界内であれば、余程のことがない限りは負けることは無いだろう。上手く誘い込んでさえくれれば確実に排除してやるとも』

 

「ふむ……例の魔力吸収か」

 

 自らのサーヴァントにそう尋ねれば、虚空からそんな声が返ってくる。

 

 大した自信だが、それも無理は無い。キャスターは自身が作り出した領域の中に存在する対象の魔力を()()()()()()()()という、魔術師はおろか肉体を魔力で構築しているサーヴァントにとっても天敵に等しき能力を有しているのだから。

 

 その危険性から署内にそれを施すことは許可していないが、地下に入り口を作っている彼の異界の工房は時計塔の魔術師達が総動員しても突破不可能な無敵要塞と化しているだろう。

 

(改めて、底が知れん。あの砂漠での決戦を見た後もこいつは英雄王もそれと互角の英霊に対してもそこまで脅威と認識していないように見えた)

 

 なんか厄介な奴が居るな、程度の反応。そして、それは決して甘い見積もりなどではなく、それだけの余裕を持てるだけの実力がある。

 

 強さだけ見れば大変心強くあるが、つくづくオーランドには手に余る存在だった。

 

(交渉が上手く行かなかった場合、最悪セイバー相手にぶつけてその実力を確認してみるか。今後のことを考えると、この魔術師の能力を少しでも把握しておかなければならない)

 

 とはいえそれは最後の手段。キャスターの力を脅威だと危険視しつつも、安易に使い潰すには惜しいのもまた事実であるので悩ましい。

 

(一先ずはセイバーだ。マスターと思わしき女とも接触する必要がある)

 

 オーランドはまだ気付かない。

 

 こうしている間にも脅威が既に、迫っているということに──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 ──ああ、嫌だ。

 

 拘置所のベッドの上に横たわりながら、アヤカは不快そうに顔を歪めていた。

 

(この国の広い土地を旅している時は忘れることが出来た。罪から逃れることが出来た)

 

 暫く見ていなかったのに。

 

 脳裏に過るのは、やはりあの“赤頭巾”。その少女が幽霊なのか幻覚なのか、或いは全く別の何かなのかは分からない。

 

 確かなのは、いつしかアヤカには赤いフードの少女が見えるようになったという事実だけ。あの少女から逃れる為にこの街へと来たはずなのに──。

 

「どうして……こんな、事に……」

 

「随分と疲れた顔をしているな。大丈夫か?」

 

 すると誰かが顔を覗き込む。あの少女ではなく、しかし同じく頭を悩ませる少女だった。

 

「え!?」

 

「そう驚くな。霊体化……だったか? なかなか便利なものだな。壁を破壊せずに済んだ」

 

 ガバッと起き上がるアヤカに対し、少女──セイバーは平然とした様子でベッドに腰掛ける。

 

「取調とやらに飽きてな……抜け出して様子を見に来たが、こんな狭い所に押し込められてるとは。丁重に扱うよう言うべきだったか」

 

「……干渉しないでくれって言ったはずだけど?」

 

「そうも行かん。お前は私のマスターではないようだが、お前と私は魔力の線が繋がっている。その体に施された令呪に似た刻印に仕込まれた術式によるものなのだろう」

 

 警戒した様子で壁際まで離れていくアヤカ。これにセイバーは然して気にする様子も無くそう告げる。

 

 は? とアヤカは困惑と共に顔を険しくさせた。それはつまり──。

 

「つまり! お前は私にとっての要石、一蓮托生の関係という訳だ。お前の魔力が無ければ私はこの地に顕現出来ず、存在を維持することも困難なんでね」

 

 恩に着る、とセイバーは笑う。

 

 もしもアヤカが居なければあの吸血鬼に召喚した魔術師が殺された時点でセイバーの魔力消費量では一瞬で魔力切れになってしまい、理解が及ぶ前に消滅していた。

 

 正しく恩人であろう。純粋な感謝の言葉にアヤカはどう反応したら良いのか分からず、困惑してしまう。

 

「ッ……恩に感じているのなら、放っておいてくれ」

 

「だから、そうも行かんって言っているでしょ? あんたが死ねば私も消える。マスターであろうが無かろうが、聖杯戦争に参加している連中はあんたの命を狙うっての」

 

 尚も突き放し、拒絶を示す態度を取るアヤカにセイバーは呆れ、中性的な口調から女の子っぽい喋り方へと変えてそう言った。

 

 こっちの喋り方の方が素なのだろうか。

 

「! ……それは、最悪だね」

 

「分かってくれた? では、改めて名乗らせてもらおう。私は比那名居天子。セイバーの英霊であり、天界に住まう天人だ。私のような高貴なる存在を召喚した……のはお前ではないが、まあ誇るといい」

 

 するとセイバーは尊大な口調へと戻って今更ながら自己紹介する。

 

「ヒナナイ、テンシ……」

 

「さあ、この私が名乗ったんだ。お前も名を聞かせてくれ」

 

 屈託の無い笑顔を浮かべ、手を差し伸べるセイバー……改め、天子。そこに悪意など微塵も無く、アヤカは毒気を抜かれてしまう。

 

 安心感すら、覚えた。

 

「……私は、サジョウ・アヤカ」

 

 まだ信用は出来ない。

 

 けれども、名前くらいは教えても良いだろうとアヤカは判断するのだった。

 

 次の瞬間──辺りが暗闇に包まれる。

 

「て、停電っ!?」

 

「……ほう。あの吸血鬼(ムシケラ)がのこのこ戻ってきたか、或いは──」

 

 突然のことに戸惑うアヤカを他所に、セイバーは獰猛な笑みを浮かべて天井を見上げる。

 

 気配は()()

 

 強大な力を有する何者かが警察署へ侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

『──侵入者だ、マスター』

 

「何──?」

 

 ロビーにて。

 

 聖堂教会から監督役として派遣されたという眼帯の神父、ハンザ・セルバンテスと名乗ったその男から教会側が把握しているマスターの情報を部下達と共に聞き出そうとしていたオーランドは、キャスターから届くその報告に目を見開く。

 

 ほぼ同時に、轟音と共に署内が揺れる。

 

(結界が破壊された……!? キャスターめ、これは侵入ではなく襲撃ではないか……!)

 

 仲間かと今しがた取り囲んでいた神父へ問えば、彼は相変わらずソファーの上で寛ぎ、涼しい顔で否定する。

 

「俺の仲間が来るなら正面玄関か裏口だ。決して、空の上からじゃない」

 

(! こいつ、サーヴァントの存在を感じ取っているのか?)

 

 やはり只者ではなかったかと瞠目すると同時に、周囲が暗闇に包まれる。

 

「電気が.……!?」

 

「すぐに光源魔術を設置します!」

 

 即座に宝具を携え、臨戦態勢となるクラン・カラティン。暗闇も魔術により晴れ──。

 

「──何だ。あの小娘の実力を見てやろうと来てみれば……妙な連中が居るな」

 

「!?」

 

 そいつは、堂々と腕を組んで佇んでいた。

 

 ロビーの中央。オーランドにも、クラン・カラティンにも、ハンザにも一切気取られること無く、声を発して漸くその異様な存在感が襲い掛かる。

 

「何、こいつは……!?」

 

 その姿にオーランドは見覚えがあった。

 

 巨大な団扇を背負った、長髪の男。公園で目撃された偽りのサーヴァントの内が一騎──。

 

(テレビ中継でセイバーを見たマスターが送り込んできたのか? この隠密性からして恐らくはアサシンのクラス……しかし、こうも堂々と正面から来るとは……!)

 

 結界を打ち破ったのはともかく電気系統を破壊して暗闇に紛れたのかと思えば隠れもせずに眼前へと現れ、こうして対峙している。

 

 一体どういうつもりなのか。オーランドには全く読めなかった。

 

「凄まじい魔力だな……こいつがあんたのサーヴァントか? 署長殿」

 

「…………ッ!?」

 

 すると唐突に言い出したハンザの言葉に思わず焦りを露にしてしまう。手袋で令呪を隠していたので一目でマスターの一人だとバレる要素は無かったというのに。

 

「貴様……監督役の領分を超えているぞ?」

 

「教会の監督役は要らないんだろう? か弱い一般市民を脅してきた権力者へのささやかな抵抗って奴だ」

 

 鬼の形相で睨み付けられてもハンザは一切悪びれもしない。一方、彼──“アサシン”の興味はその発言によりオーランドへの向く。

 

「ほぉ? これ見よがしに結界が貼られているからもしやとは思ったが、お前もマスターとやらか。ならばさっさとサーヴァントを呼べ」

 

「何……?」

 

「安心しろ、マスター狙いなんて狡い真似をするつもりはない。……それとも、まさかそこの得物だけは立派な砂利共だけでこのオレを相手取ろうと思っている訳ではないだろうな?」

 

 そう言ってアサシンは周囲を一瞥する。

 

 こちらを見据え、濃密な魔力が込められた武器を構えているその警官達が英霊などではなく、ただの人間であることを彼は見抜いていた。

 

 加えて、その態度は自分達が侮られているという事実をクラン・カラティンに知らしめる。

 

「ッ……砂利かどうか、試してみるか?」

 

 次の瞬間、アサシンが吹っ飛んだ。

 

「む?」

 

 衝撃により僅かに宙を舞う。すぐに体勢を整えて着地すれば、四方八方から殺意がする。

 

 弓、剣、槍、盾。

 

 様々な“宝具”を携えた警官達がアサシンを取り囲み、その命を屠らんと一斉に動いていた。

 

「フッ……どうやら余程踊りたいらしいが、失望させてくれるなよ?」

 

 およそ三十人近く。多勢に無勢であるが、闘うのは人間と英霊。通常ならば隔絶した差があるはずのそれを恐れず、果敢に立ち向かわんとする彼らは果たして蛮勇・無謀なのか否か……アサシンは僅かに笑みを浮かべる。

 

 この後に待ち構えているセイバーやこの署長と呼ばれた男のサーヴァント。それを考えれば前菜、準備運動として相手になってやるのも吝かではなかった。

 

「恐れるな! ロビーを破壊しても構わん。なんとしてでも奴を制圧しろ!」

 

 オーランドが鼓舞する。

 

 仮に相手がアサシンだとすれば、そのような英霊相手に正面衝突で負けているようでは、聖杯戦争を勝ち抜くことなど不可能だろう。

 

 故に、試金石として最高の相手だとも言えた。

 

『手伝いは必要か?』

 

「まだ不要だ。しかし、必要とあればすぐに呼ぶ。準備していろ──」

 

『──了解した。なら、お手並み拝見と行こうか』

 

 相変わらずどこかから戦況を観察しているキャスターは、自らの助力を断るオーランドの言葉に面白そうに笑う。

 

 最悪マスターが死にかねないが、それでも彼からすればこの戦闘の結果がどうなろうとも実のところどうでも良く、完全に物見遊山気分であった。

 

「ああ、見せてやる。英霊共を討ち倒す為に練り上げし外道紛いの武の力を──!」

 

 かくして、英霊とそれに挑む魔術師達との戦いが幕を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 さて、警察署で騒動が起きている最中。

 

 一部の者達は、この時に起きている“イレギュラー”に気付いていた。

 

「……嫌な気配がするね」

 

 すり寄る銀狼を撫でながら神造兵器は、遠くで出現したおぞましく冷たいナニカを確かに感じ取る。

 

 友との戯れで現れた死の呪いともまた違う。けれども自分に、否、それ以外の生きる全てにとって()()()()何かが──。

 

「ほう……血が吸いたくなるとても良い夜だったのだがな」

 

 闘争を求め、蠢く不死者(ノスフェラトゥ)は一瞬顔を歪め、しかしすぐに笑みを浮かべて夜空を眺める。

 

 こちらを照らす月明かりは酷く青ざめ、今にも消えてしまいそうであった。

 

「ふむ……数が合わんな」

 

 警察署での戦いを見物しながら、偽りの魔術師のサーヴァントもそれに気付いており、怪訝な表情を浮かべる。

 

 本物の触媒となる偽りの聖杯戦争。そのサーヴァントは六騎と聞いていたのだが──。

 

「あれれ……?」

 

 そして、フランチェスカは首を傾げる。

 

 まさか本当に調停者が現れたとでも言うのか。否、これは違う。少なくともこのおぞましい気配は聖処女の気配では断じて無く、しかも調停者などとは程遠い、むしろ“災厄”に近い何か。

 

 連続で起き続けるイレギュラーは、ここに来て最大級の事態を招く。

 

「あちゃー。こりゃあ、ちょぉっと面倒なことになるかも」

 

 進む。

 

 進む。

 

 進む。

 

 ただ、ひたすらに。

 

 夜が支配するその地を何者かが“剣”を手に、ゆっくりと、ゆっくりと歩んでいた。

 

 ──“偽りのセイバー”が召喚された。

 





ファルデウスくんの胃は死ぬ
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