Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
クラン・カラティンは、人の身でありながら英雄を打倒するという大言壮語を本気で成し遂げる為に創設した戦闘集団である。
その魔術師としての実力は勿論、偽りのキャスターが制作した“原点を越える宝具”は使用者の研鑽や成長により性能が向上する特性を有し、これによりいずれは真名開放にすら至る可能性があった。
故に、並のサーヴァント相手であれば、彼らは個人だとしても対等以上に渡り合い、打破することが可能。
(──そのはず、だというのに)
しかし、聖杯戦争は甘くない。
残念ながら今宵対峙しているのは、決して並のサーヴァントなどではなかった。
「……もう終わりか?」
息が切れ、呼吸が乱れる音が木霊する。あれから幾度もの攻防が繰り広げられ、取り囲むクラン・カラティンの面々が傷付き、疲弊する中、長髪の男──アサシンは尚も健在であった。
一方的な戦いだった。
宝具を振るうクラン・カラティンの猛攻をアサシンは軽々といなし、避け、逆にアサシンが動けばその徒手空拳の一撃だけで吹っ飛ばされ、あの大きな団扇を振るわれれば風圧だけで薙ぎ払われてしまう。
英霊。それが如何に脅威的な存在であるかは理解しているつもりだったが、ここまで手も足も出ないものなのかと彼らは言葉が出なかった。
(英雄王相手ならいざ知らず……本当にアサシンのサーヴァントなのか? こいつは──)
オーランドは疑念を抱く。
暗殺者のクラス相手に正面からここまで劣勢になるのは完全に想定外。こうなってくると、目の前の相手が実は暗殺者ではなかったと考える方が自然だろう。
そもそもアサシンとして召喚されるのは、通常イスラム教のニザール派の暗殺教団の頭目のはずであるのだから。
だが、そんな彼の予想とは違い、対峙するその男は正しくアサシンの器で召喚された存在であり、けれどもその実力はアサシンの中でも、否、全ての英霊と比較しても最高峰の実力を有する存在だった。
であるからして、この結果は必然。むしろ彼を知る者が見れば何と
「さて、と……思っていたよりはやる。とんだ蛮勇だが、なかなか良い肩慣らしになった」
淡々と、しかしどこか嘲笑するように、体に付着した埃を払い落としながらアサシンは言い放つ。
「ッ……肩慣らし、だと?」
「ああ。だが、少々飽きてきた。あの小娘もお前のサーヴァントも一向に現れんしな……どれ。無理矢理引きずり出してみるとしよう」
次の瞬間、アサシンの魔力が急激に膨れ上がり、それにより警察署内全体が地震でも起きたかのように揺れる。
「ッ!?」
「──マスターが死にかければ、流石に顔を出すだろう」
未だに本気どころか、戦闘準備にすら入っていなかったというのか。
その衝撃的かつ絶望的な事実にオーランドも、クラン・カラティン達も戦慄し、そして漸くアサシンはその実力の片鱗を見せようと指先で“印”を結ぶ。
「火遁──」
「クク……フハハハハハハハハ!!」
「……む?」
が、その次の行動は響き渡る笑い声により中断させられる。
そいつは、まるで舞台のカーテンを通り抜けるようにロビー入り口の自動ドアのガラスを
「素晴らしい! 実に素晴らしい! よもや人の身で英霊に挑むとは!」
パチパチ、とその大きな手を激しく叩いて拍手を送りながら、紅いコートの男は称賛の声をあげる。
実に愉しげに、満面の笑みを浮かべながら。
「……何者だ?」
「サーヴァント・バーサーカー。そう言えば理解出来るだろう?」
アサシンの問いに男──バーサーカーは堂々と自らのクラスを名乗った。
「ほう……お前が、か。随分と禍々しいチャクラをしている……いや、ここでは魔力だったか?」
これにアサシンは目を細め、その紅い瞳で見据えながら相手を分析する。
彼にとって初めてのサーヴァントとの対面。とはいえその身に流れる魔力、そして発せられる異様な気配は英霊、と言うにはあまりにもかけ離れているように思えた。
いずれにせよ、只者ではないことは間違いなく、漸く少しはマシな戦いが出来そうだと笑みを浮かべる。
(ッ!? 二人目のサーヴァントだと……!? だが、バーサーカーのクラスは狂化スキルにより理性を失うはずでは……)
ここに来て新手の登場にオーランドは驚愕する。が、それだけでは終わらない。
ドゴンッ!! とアサシンとバーサーカーの間へ割り込むように何かが落下してきた。
「天にして大地を制し、地にして要を除き──」
土煙が消え、一人の少女が姿を現す。
そう、元よりこの警察署に居た彼女がこの一大イベントを見逃すはずがない。
「──人の緋色の心を映し出せ」
セイバー・比那名居天子、現着。
威風堂々と言わんばかりに悠然と佇み、アサシン、バーサーカー、そしてクラン・カラティンらを見据えて笑う。
「おや……
「フッ……たった今、四つ巴になったところだがな」
「……こいつがあの小娘か。このオレを虫けら呼ばわりとは良い度胸をしている」
三人目。愉しげな英霊達とは対照的にオーランドらには緊張が走る。
(セイバーまで……!? くそっ、英霊が三人もここで暴れるというのか……!?)
もたらされた混沌は、あまりにも想定外な異常事態。仮にここで四つ巴の戦いを行うとして、果たして戦闘の余波にこの警察署そのものが耐えられるかどうか──。
「──決めた」
じろりと睨み合い、このまま暫く拮抗状態が続くかと思ったその刹那、真っ先に動いたのは──。
「!」
「まずはお前にしよう! “仙人”もどきよ!」
──セイバーだった。
剣先を向けて真正面から突貫してくる彼女に対してアサシンは迎撃せんと構え、しかしほぼ同時に横合いから衝撃が走った。
「ッ──!?」
飛来したのは、しめ縄に縛られた岩石。不意を突くように襲ってきた“要石”と呼ばれるそれをアサシンは咄嗟に団扇の腹で受け止める。
(ッ……この岩、見た目通りの質量ではないな……!?)
エネルギーが凝縮されているような感覚。筋力Bに魔力を上乗せした程度の膂力では衝撃を殺し切れずアサシンの両足が宙に浮く。
そのまま押し負けて吹っ飛び、警察署の壁をぶち抜いた。
「おお、派手に飛んだわね。あれでやられてなければ良いのだけど……」
「何だ、私との闘争はお預けか? お嬢ちゃん」
「フッ 貴様は後だ。しっかり滅してやるからそれまで精々そこの無謀な下民共と戯れているといい」
そう言い、セイバーは跳躍して壁の大穴へと飛び込み、吹っ飛んで行ったアサシンの後を追う。これにバーサーカーは肩を竦めた。
「クク。振られてしまったようだ……では、お言葉に甘えるとしようか──」
そして、警官達へと視線を向ける。
ゾクッと寒気が走る程の異様な気配に呑み込まれるような感覚が彼らを襲う。
四つ巴になるやと思われた戦況は一瞬にしてがらりと変わり、標的はバーサーカーのみとなったが、それは果たして幸運か否か──。
「どうした? 魔術師諸君。お前達が打倒すべき英霊は、化け物は此処に居るぞ?」
笑みを浮かべる。満面の笑みを。
両手を広げ、バーサーカーは無防備に肉体を晒す。向かって来いと言わんばかりに。
「ッ──」
そして、その挑発に当てられて一人が動く。
「ジョンッ!? 待て──」
その金髪の男──ジョン・ウィンガードは勇敢にも眼前の怪物を討ち取らんと走り出し、バーサーカーもこれを歓迎する。
そして、その得物を心の臓腑へ目掛けて突き立て──。
「──は?」
「……何?」
触れた瞬間、崩壊する。
これを見た全員が目を疑う。宝具が、英霊達の切り札が、まるで硝子細工のように砕け散り、一瞬にして消え去ったのだから。
「……成程。そういうことか」
バーサーカーも一瞬驚くも、すぐに原因を理解したのか顔から笑みが消えた。
「くだらん……興が削がれる。やはりあの小娘を吸ったのは……いや、奴の性質を取り込まずともこうなっていたやもしれんな」
「な、なんで──」
「理由は至極単純。この私が吸血鬼……
動揺しながら後退りするジョンに、バーサーカーはつまらなさそうに説明し始める。
「死徒、だと……!?」
オーランドは目を見開く。まさと思いつつも、かつて吸血種であるギリシャの怪物、メデューサが召喚された事例も存在するので反英霊としてそういった魔性の類いのサーヴァントが召喚されるのも不思議ではなかった。
だが、それでも、よりにもよって“死徒”が喚ばれるなど、普通ならば考えられない話である。
何故なら奴等は──。
「我ら死徒は、人類史を否定するモノであり、人が作る秩序とルールを汚す。故に、人類史を肯定するモノである英霊の力である宝具に対して有利……といった理屈らしい。要するに、お前達と私は相性最悪だったという訳だ」
驚くべき事実。バーサーカーも取り込んだ元マスターの記憶を読み取るまでは知らなかったことであり、故にとても、とてもとても残念そうにしていた。
つまりそれは、いの一番に向かってきたこの男も、そこの凛々しい女も、そこの屈強な男も、etc……etc……英霊を打倒せんと鍛え上げ、実際にそれだけの力を手にした勇士達が、どう足掻いてもバーサーカーに勝てる道理は無いということを意味しているのだから。
「ジョン! 下がれ!」
「は、はい!」
オーランドが叫び、それに応じて宝具を破壊されて呆気に取られていたジョンは即座に退避する。萎えたバーサーカーがそれを追撃する気が無かったのは、幸運と言えよう。
「総員、構えろ」
「……ほう」
宝具が通じない。そんな絶望的な状況下でもオーランドの戦意は喪失しておらず、刀を構える。その姿を見て部下達も恐怖を押し殺しながら戦闘態勢に入った。
「素晴らしい。諦めを踏破せんとするその心意気や良し。ならば私も全身全霊で応えるとしよう」
サーヴァントを盾に生き延びようとする訳でもなく、一矢報いらんとするその動きを見て、バーサーカーは笑う。
冷めきった熱が再び甦らんとしていた。
(随分とまずい状況のようだな? マスター。初陣にして最悪のカードを引いてしまうとは、お前も運が悪い)
(だから呼んでいる! 早急に救援を頼む、キャスター!)
念話を化して聴こえてくる他人事のような軽口。これに対してオーランドは切羽詰まった様子で呼び掛ける。
唯一の頼みの綱は、自らのサーヴァント。頼るつもりはなかったが、こうなってしまっては致し方無い。
だが、相手は英霊、それも死徒という化け物。ほんの数瞬で虐殺を行うのは容易く、故にオーランドはそれまでの被害を最小限に抑え込む為に覚悟を決め──。
(ああ。だが、どうやらお前達以外にも勇敢な者が居るみたいだぞ?)
(何──?)
「そうか、死徒か。──なら、そいつは
「む──?」
次の瞬間、バーサーカーが吹っ飛んだ。
「なっ……」
「流石に硬いな。やはり英霊として喚ばれるだけの死徒の首は吹き飛ばせないか」
ブラブラと拳を振りながらバーサーカーを殴り飛ばした眼帯の神父──ハンザ・セルバンテスはそう呟く。
「……どういうつもりだ?」
「バトンタッチって奴だ。あいつの相手は俺が代わろう」
「我々に手を貸すというのか?」
「監督役以前に俺は神父だからな。それに、あれは監督役としても何より優先して排除すべきだと判断した」
見ただけで分かる。あれはどう低く見積もっても上級死徒の上澄みクラス。おまけに英霊化までしているのだからその脅威は計り知れない。
奴のマスターがどういう方針でどういった立ち位置なのかは不明だが、少なくともあの吸血鬼のサーヴァントがその力を存分に振るう状況は決して看過すべきことではないだろう。
ハンザは、死徒がもたらした災厄の数々を、それはもうよく知っているが故に。
「ククク……」
そして、バーサーカーは瓦礫の中から平然とした様子で顔を出す。
「ヴァチカンの
神の力と裁きを代行すると称し、魔霊や死徒を消し去る存在。一時的に追い払うのではなく、完全に消滅させることを目的とする武闘派集団──要するに、
目の前の男がその端くれであることを知り、バーサーカーは興味深そうにその姿を見据える。
油断していたとはいえ不意を突かれ、殴り飛ばされた。どうやら聖堂教会……この世界のヴァチカンもなかなか骨があるようだと笑った。
そして、何よりも“神父”。
どこか懐かしく思い、それがバーサーカーの胸をより高ぶらせる。
「代行者は休職中でな。今は監督官として来ている」
「そうかい……だが、やることは変わるまい」
「……ああ、そうだな」
睨み合う両者。
現状、死徒に有利な装備を有しているとはいえ相手は英霊という規格外の存在でもあり、流石のハンザも分が悪い勝負であり、命の危機を感じるもそれで退くつもりは微塵も無かった。
その姿を見て、バーサーカーは心底嬉しそうな表情を浮かべる。
夜は、まだまだ続く──。
因みに偽アサシンがちょっとその気になってたらクラン・カラティンは全滅してた。その前に偽キャスターが介入すると思うけど