Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
夜の街道。
警察署から吹っ飛ばされたアサシンは、そのまま勢いよく宙を舞いながらも空中で体勢を整え、地面へと着地。アスファルトを砕きながら数mほど制動をかけて停止するや否や、再びこちらを潰さんと襲い掛かる大岩を回避する。
そして、続け様に振るった団扇が、緋色の剣と衝突。
轟ッ!! と暴風が夜の街を駆け抜ける。膨大な魔力と魔力が真正面から噛み合い、空気そのものが悲鳴を上げた。
「ハッ──」
「ふん──」
そこから始まる鍔迫り合い。互いの得物が幾度もぶつかり合い、火花を迸らせ、余波で台風が如き暴風が巻き起こる。
「ははっ! 良いぞ、仙人もどき!」
セイバーは笑う。
力任せに剣を振るい、それに呼応するかのように剣身を包む緋色の輝きは一層強まり、団扇ごとアサシンを押し潰さんと唸りを上げた。
「──硬いな」
対して、その猛攻を的確に捌きながらアサシンは僅かに顔をしかめる。
膂力はほぼ互角。一見すると拮抗しているように見えるが、アサシンが抱いた印象としては、セイバーの剣術は乱暴で素人に手が生えた程度の技量である。
現に彼女の剣撃の悉くが捌かれ、またアサシンは既に何度もその懐へと踏み込み、隙を突いた。
にも拘わらず拮抗した鍔迫り合いが成立していると錯覚させられるのは、それら一切合切をセイバーが意に介していないからだ。
がら空きの胴体を殴っても、太股を打ち付けても、ならばと頭部を狙っても──。
依然として、セイバーは倒れない。
(打撃では効果が薄いのか? ならば──)
次の瞬間、アサシンの掌から何かが高速で射出される。
「あん?」
「ほう……これも刺さらんか」
セイバーの腹部へとめり込む漆黒の棒状のナニカ。けれども、彼女の反応は怪訝そうに片眉を上げるだけ。
「よく分からんが、これも仙人由来のものだな? “もどき”らしく、妙な術を使う」
「仙人もどき、か──」
その発言には、心当たりがあった。
「笑止。仙人風情の力などで、この天人の肉体には傷一つ付けることすら不可能だ……!」
するとセイバーが突然打ち合いを中断し、剣を地面へと突き刺す。
疑問に思う暇も無く、地面が隆起し、アスファルトを突き破るように出現した鋭利な岩石がアサシンを襲う。
「! 土遁か──」
大きく跳躍することでアサシンはこれを回避。しかし、岩石は広がる波紋のように広範囲へと展開され、彼を穿たんと追い続ける。
「逃がさんぞ?」
するとセイバーは追い打ちを掛けるように複数の“要石”を召喚し、距離を取らざるを得ないアサシンへと向かわせ、取り囲ませる。
「む──」
次の瞬間、紅い閃光に包まれる。要石一つ一つからレーザーが放たれ、アサシンへと襲い掛かったのだ。
これにはアサシンも瞠目する。空中で体勢を変えようにも四方八方から襲い来る光線を避け切るのは流石の彼でも難しいだろう。
セイバーはほくそ笑み、彼女もまたこれから蜂の巣にされるであろうアサシンへトドメを刺さんと剣を向け、飛び掛かる。
「──神羅天征」
次の瞬間、空間が軋んだ。
「きゃっ……ッ!?」
四方八方から迫っていた光線は軌道を歪められ、セイバーは要石ごと弾き飛ばされる。
「ぐっ……何だ、今のは……?」
地面へと叩き付けられ、しかしすぐに起き上がってセイバーは訝しむ。初めて彼女の表情から余裕が消えた。
対するアサシンは何もかもが吹っ飛んで平らとなった地面へと悠然と降り立つ。
「これでも、その程度のダメージか。成程……でかい口を叩くだけはあるな、小娘」
淡々とそう言い、“印”を結ぶ。
「──火遁・豪火滅却」
刹那、アサシンの口元から炎が溢れる。
それは一瞬にして、まるで大地そのものが燃え上がったかのような紅蓮の津波と化し、凄まじい勢いで進路上にある何もかもを呑み込みながら突き進む。
「! 大地よ──」
あまりにも大規模な炎を前に目を見開くも、セイバーは自らの前方へと岩の壁を展開。しかし、紅蓮の業火は岩すらも焼き溶かさん勢いだった。
アサシンもまた炎を吐きながら練り込む魔力の量を増強し、その防御を突破せんとする。
「チッ──」
やがて岩が砕ける。その寸前でセイバーは背後へ召喚した要石へと飛び乗り、空中へと逃げた。
「空を飛ぶか……土遁といい、両天秤の小僧を思い出すな」
一方、アサシンはその様子を視認すると炎を吐くのを止めてそう呟き、即座に次なる一手を打つ。
「火遁・龍炎放歌の術」
印を結び、再び炎が放たれる。
しかし、次は先程のような広範囲のようなものではなく、龍を象った火炎が大量に展開されてセイバーへと向かっていく。
「ふん……無粋な弾幕だな」
追尾性があるようで、高度を上げて回避しようとしても弧を描きながらこちらへ向かってくるその龍炎の雨にセイバーはそう吐き捨て、周囲へ展開した要石のレーザーで一つ残らず撃ち落とす。
そして、アサシンへと視線を向け──。
「ッ!?」
「掛かったな……火遁・業火滅失」
「ッ……舐めんじゃ、ないわよ……!」
迫り来る業火。時が止まったかのように硬直していたセイバーだったが、振り払うように行動を再開し、剣を掲げる。
「緋想の剣よ! 地上全土の気質を集めろ!」
掲げられた剣が手元から離れ、高速回転すると共に、膨大な魔力の奔流が荒れ狂い、刀身へと収束していく。
アサシンは瞠目する。それは剣が纏う高密度かつ膨大な魔力に驚いたからではなく、彼の“眼”にはあちこちから魔力……否、厳密にはそれに近い別のエネルギーが
その供給源は──。
「──全人類の緋想天」
緋色の輝きが、炎を切り裂く。
先程から要石が放つレーザーとは比べ様も無い高密度で極太の光の柱が業火を容易く押し除けてそのままアサシンを呑み込まんと迫る。
「ッ……! これが宝具という奴か。大した術だが──」
真っ向からは打ち合えぬと即座に判断したアサシンは術を中断して後方へと飛び退く。
しかし、辺りが暗くなる。
「!!」
「これならば避けようがあるまい?」
頭上へと視線を向ければ、空を遮る程に直径50mは優に越えるであろう超巨大な要石。
それは勢いをつけて自由落下し、その圧倒的な質量を以てしてアサシンを圧し潰す。
──が、
「……あん?」
大地が揺れ、落下地点を起点に周囲に地割れが起こる。今度は避けられることもなく確かにアサシンを下敷きにしたはずだが、セイバーは怪訝そうな表情を浮かべた。
それが示すように、落下した要石が僅かに浮き、その隙間から青く半透明な“肋骨”を目撃する。
アサシンを守るように包み込む巨大なソレは次の瞬間には筋繊維のようなものが覆い、肉を構築していく。
「へぇ……これはまた、面妖な術じゃないか」
「──お前には言われたくないがな」
そして、要石に十字を描くように切り込みが入ったかと思えば、四等分に分かれ、その隙間からアサシン──にしては巨大な何かがが飛び出す。
──それは、“青い巨人”だった。
「まるで両面宿儺だな」
前後にある顔。
筋肉隆々の肉体。
四本の腕。
それが握る炎のように刀身が揺らめく霊剣。
──日本書紀に記された鬼神を想起させる風貌の、上半身だけの巨人。その内部にてアサシンは悠然と立っていた。
(“須佐能乎”まで使わされたか……それに、あの剣。周囲の生命、自然、即ち森羅万象からチャクラを問答無用で吸い上げる忍具の類いとみた。今の火力でも厄介この上無いが、更に出力を上げられるのだとすれば、まともに受ければ須佐能乎でも防ぎ切れるか分からんな)
──宝具。
アサシンは静かにセイバーが振るう剣の性能を分析する。
(加えて、あの小娘。オレの“万華鏡写輪眼”の幻術をああもあっさり打ち破るとは……どうやら幻術の効きが悪いようだな。恐らくサーヴァントとしてのスキルとやら、の影響なのだろうが)
たとえ強者と言えどもまともに目を合わせてしまえば、幻術により支配され、再起不能に陥り、第三者の手助けが無ければ解除することは困難な代物。
けれども、セイバーは一瞬こそ動きを止められたもののすぐに抵抗して活動を再開した。そのような芸当な可能な者は少なくともアサシンの生前の記憶の限りではほんの一握りだった。
これにアサシンはサーヴァントが有するスキルによる効果ではないかという推測を立て、それはずばり的中していた。
──勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある……セイバーはこのスキルを有するが故に、アサシンの幻術に対して抵抗すること可能だった。
(印も結ばずに高度な土遁を使い、あの妙な“岩”に関しては見てくれ以上の質量に加え、何らかの“力”が込められている……なかなかに厄介な小娘だ)
だが、それでこそだ。
内心アサシンは笑みを浮かべる。少なくとも眼前の少女はアサシンの基準においても強者と称するに相応しく、血湧き肉躍る、歯応えのある闘いが出来ることを確信したからだ。
(奴の“眼”……魔眼の類いね)
一方、セイバーもまたこれまでの戦いからアサシンの実力を分析し、評価する。
(面倒だが、目を合わせぬよう用心しておく必要があるな。しかし……)
初めて対峙した時から真っ先に目に付いた特徴的な“三つ巴”の紅い瞳──それがセイバーへ幻術を掛けた際には巴が直線的となり、中央が手裏剣のような形状とより複雑な模様となり、そして今は──。
(あの“ぐるぐる目”……果たして、アレは魔眼の範疇に収まる代物なのやら。恐らくアレこそが奴の仙人や神に似た力の源だろう)
瞳孔以外の全体が薄い紫色に染まった、同心円型の渦のような眼。つい先程までの紅い瞳とはかけ離れたデザインであり、そして秘められた力もまた別格。
少なくとも、あの月の兎とは比べ様も無い。いずれにせよ──。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し。神の如き眼など、下民には過ぎたもの……やはり貴様は“もどき”だな」
「……この“輪廻眼”の力を見抜いたのは流石だが、お前の方こそ傲慢が過ぎるぞ。小娘」
「傲慢とは、人聞きの悪い。私は生まれながらの天人だ、ならば至極当然の振る舞いであろう? 地を這う虫けら風情には理解が及ばぬのやもしれんがな」
どこまでも傲岸不遜。
こちらの実力を認めた上で心の底から徹底的に見下すセイバーに対してアサシンは表情を崩さず、しかし不快感を露にする。
生前においては無類の強者であったが故に、ここまで虚仮にされることは殆ど無く、唯一あったとすればそれは──。
『オ前ハ救世主デモナク……ソシテ終ワリデモナイ』
忌々しき記憶が、脳裏に過る。
「天人……か。ならば、この“うちはマダラ”も少しばかり本気で相手してやるとしよう」
「!」
空気が変わった。
アサシンがそう言うと共に、巨人が雄叫びをあげ、その四腕を動かし、揺らめく霊剣を構える。
「完膚無きまで叩きのめし、地に墜としても同じようにデカい口を叩けるかどうか、見物だな? 天人とやら」
「は。やってみろ」
その放たれるプレッシャーを笑い飛ばし、セイバーが剣を掲げれば、再び刀身が輝きを放ち、膨大な“気質”が奔流となって集まっていく。
「! またアレを撃つつもりか──」
「貴様こそ、その木偶の坊が張りぼてじゃないか確かめてやるとしよう! 全人類の……」
どうやら容易に連続使用可能なようだ。流石にフルチャージした状態で受けたらどうなるか分かったものではない。
故に、アサシンが動く。それに対応する為にセイバーも剣の魔力を開放し──。
「「ッ!?」」
──悪寒が走る。
突如として全身を襲う異様な気配を前に動きを止め、二人揃って同じ方向へと顔を向く。
あれだけの戦闘を街中で繰り広げながらも不思議な程に静寂が支配する空間。余波により街灯は砕け、暗闇が支配する道路。
その奥から、“ナニカ”がゆっくりと接近していた。
「……何だ?」
「どうやら……無粋な輩が居たようだな」
セイバーよりも視力の良いアサシンが先にその姿を視認する。
そこに佇んでいたのは、一見するとボロボロな、異形の鎧を纏った騎士……否、鎧だけでなくその中身すらも異形と言う他の無い怪物。
「────」
闇夜の中で、そいつが握る“大剣”が暗く夜空に浮かぶ月のように輝く。
それだけで空間が震え、底冷えするような空気と共に足元の影のようなモノが這い出てるように広がっていく……否、今度はセイバーが先に気付いた。
──あれは“呪い”だ。
世界を、生命を、この世のありとあらゆる全てを憎み、怨嗟を吐き続ける呪詛。どこまでも進み、蝕み、いずれは世界をも呑み込まんとする災厄。
セイバーは知らぬが、この世界には“この世全ての悪”と呼ばれるモノが存在している。
それは正視できない闇。認められない醜さ。逃げ出してしまいたい罪……この世全てにある、人の罪状と呼べるものであり、捕らえた者は苦痛と嫌悪によって自分自身を食い潰す呪いである。
だが、これはそれよりもずっと──。
「失せよ、貴様は、貴様らは、存在してならぬ」
本能的に理解したセイバーが告げる。
然れど、“ソレ”は歩みを止めることはなく、ゆったりと、しかし確かな殺意を以てして彼女へと切っ先を向けた。
──“夜”が、やって来る。
魔眼:EX
アサシンの一族にのみ発現する特殊な魔眼である“写輪眼”、“万華鏡写輪眼”を所有。左右それぞれの眼に固有の瞳術を有する他、忍術・幻術・体術の技を全て見極めコピーしてしまうことが可能。
この時点ではAランク相当だが、更にアサシンはその究極系である“輪廻眼”も所有している。
天人:C++
修行の果てに天界に昇った仙人、または悟りを得た人間が至る存在。
同ランクの神性、カリスマ、高速詠唱のスキルを兼ね備えた特殊スキル。
セイバーは修行や功績により天人へと至った訳ではなく、また不良天人、天人崩れと揶揄される所業の数々によりランクは低い。
しかし、その天賦の才と実力自体は天人として申し分無く、状況によってはランクは大幅に上がる。