Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争   作:大嶽丸

7 / 14
人間賛歌の化物

 

 

「む……?」

 

 街中を走るオープンカー。その後部座席のど真ん中で堂々と座る派手なスーツの男、アーチャー・英雄王ギルガメッシュは異変を感じ取る。

 

 それとほぼ同時に、轟音が鳴り響く。

 

「ッ!? 今のは……警察署の方から?」

 

 助手席に座る彼のマスターである褐色肌の少女、ティーネ・チェルクもここで漸く気付く。

 

 途方も無い、魔力と魔力のぶつかり合いに。

 

「サーヴァント……それに、別の場所でも──」

 

 そこへ視線を向ければ、交差する影が二つ。片方はサーヴァントの気配であったが、もう一つは違う。

 

 つい先刻、カジノで会った眼帯の神父──それがサーヴァントと思われる紅いコートの男と戦っていた。

 

「──ほう。随分と“おぞましい”のが召喚されているな」

 

「! 王、あのサーヴァントについて何かご存知で……?」

 

「いや、よく分からん」

 

「え……?」

 

「だが、大方魔物か怪異の一種だろうよ。それも飛びきり醜悪でおぞましい“成れの果て”だ。冥界の連中でもここまで“死臭”はしなかったが、一体どのような外法を以てしてああも成って果てたのか……」

 

 ──おぞましい。

 

 何気無く、しかし強い嫌悪を込めてそう評したギルガメッシュの言葉にティーネは瞠目する。

 

 それ程までの存在だというのか。あの紅いコートのサーヴァントは。

 

「対するあの神父は……ふむ、あのような身体でまだ“神の道具”と成り果てていないとは。面白い、神を肯定する者が神を否定し成り果てた怪物を誅するのは道理であるが、果たして無謀か否か、見物ではないか」

 

 好奇の眼差しを向け、しかしすぐにギルガメッシュは別の方角へと視線を移した。

 

 そこは最初に轟音が響いた場所。戦いの様子こそ視認出来ぬものの絶えずして残響が轟き、大気を震わせる。ティーネもまた膨大な魔力を感じ取り、言葉を失う。

 

 正しく英霊、中でも無類の強者達の果たし合い。

 

「存外、我を愉しませてくれるかもしれんな? 此度の戦争は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 一方、英雄王達からの視線など気にも留めず、バーサーカーは笑い、その心底愉しげな笑い声が悲鳴や騒音を掻き消す。

 

「お次は銃剣(バヨネット)と来たか! どこまでお前は私を悦ばせてくれるんだっ!?」

 

 投擲される十字架を模した剣。それは“黒鍵”という代行者達の正式武装とされる悪魔払いの護符であり、概念武装の一種であったが、バーサーカーは別の何かを連想しながら満面の笑みを浮かべ、銃撃でこれを撃ち落としていく。

 

「それはどうも……!」

 

 一方、代行者──ハンザ・セルバンテスは黒鍵の投擲する手を止めることなく、大地を駆け、微塵も恐れることなくバーサーカーへと肉薄する。

 

 集まる野次馬達を気にする余裕は無く、聖杯戦争の隠匿が役目でもある監督役にあるまじき行動のようにも思えるが、そもそも聖堂教会が聖杯戦争に干渉するのは奇跡を秘匿し、人類の安寧を守る為だ。

 

 ならば、吸血鬼にその奇跡が渡ることを容認する方が監督役としては失格だろう。

 

(あの銃から放たれる弾丸……聖別が施されている? 何故死徒がそんな代物を使う?)

 

 おおよそ片手で乱射出来るような代物とは思えない白銀の拳銃。それから射出される大口径の弾丸には聖別、或いは祝福儀礼が施されているようであり、それはつまり死徒のような反キリストの化物を仕留める用途ということを意味し、それをあろうことか死徒自身が用いているのはハンザからすれば実に不可解な光景だった。

 

「人の身で近接を仕掛けてくるとは勇敢な神父だ。だが──」

 

「!」

 

 その時、バーサーカーがハンザの腕を掴む。

 

「貰ったぞ」

 

 ある人物は言った。吸血鬼の有する能力の中で最も恐ろしいのは、数ある特殊能力などではなく、その単純なる“力”であると。

 

 その凄まじい膂力を以てしてハンザの腕が捻じ切られ──。

 

「何──?」

 

 しかし、宙を舞ったのはバーサーカーの腕の方だった。視線を向ければ手袋が裂け、露出したのは肌ではなく、艶光りする金属である。

 

「ほう……義手か」

 

「言ってなかったか? お前らみたいな化物の相手をしてるからな。身体の七割は聖別済みのカラクリ仕掛けだ」

 

「クク。驚いたな、こちらのヴァチカンにはそのような技術があるのか」

 

 距離を取るハンザ。対してバーサーカーは相も変わらず笑みを浮かべ、千切れた腕を再生させる。

 

「異常な再生速度……当たり前だが、やはり普通の吸血鬼ではないようだ。化物め」

 

「よく言われる。そう言うお前もただの代行者ではなかろう……まさか、“埋葬機関”とやらか?」

 

「──何?」

 

 小娘の記憶でも噂程度でしか知らないらしい、聖堂教会の最高位異端審問機関。ハンザの実力から彼もその一員なのではないかと思い、バーサーカーは問いかけた。

 

 しかし、その瞬間、ハンザの雰囲気が変わる。

 

「埋葬機関だと……? この俺が?」

 

 ビキビキ、と血管が浮き出る。

 

 怒りに染まったその表情に、バーサーカーは今の発言が彼の逆鱗に触れたことを理解した。

 

「ふざけたことを言う屍だ。俺などあの方々の足元にも及ばん……いや、同じ地平にすら立たせてはもらえんよ」

 

「ほう……?」

 

「俺は確かに核ミサイルや化学兵器程度のダメージなら貴様らに与えることは出来るだろう。──だが、主の影を歩くお歴々は人間の生み出した兵器など遠く及ばん!」

 

 ハンザは叫ぶ。この吸血鬼の思い違いを正さんと。

 

「一人一人が天変地異! 主の御業そのものを代行する! 主の領域を侵した邪悪を主の御力で討ち滅ぼす! それが代行者の彼らの領域だ! 俺などと比べることなど侮辱以外の何物でもない!」

 

「………………」

 

「貴様が侵したのは人の領域に過ぎん。故に、俺が“人の力”で討ち滅ぼす……!」

 

 空気が硬い。

 

 全身全霊で眼前の吸血鬼を屠ると、ハンザは怒りの形相のまま拳を構える。

 

「ク、ククク……」

 

 対するバーサーカーは思わず笑みを溢す。

 

「そうか、そうかそうか。お前にそこまで言わせるとは……その埋葬機関とやらがより気になったよ。だが──」

 

 バーサーカーの表情から一切の笑みが消えた。その顔はどこか切なげであった。

 

 一体、何を思い出しているのか。

 

「天変地異、主の御業そのもの……か。それが事実ならば、そんな連中ではこの私を倒すことは到底出来んよ」

 

「何……?」

 

「私を倒すのは、お前のような人間なのだ。神父よ」

 

 そう言い、バーサーカーは両手を翳し、手の甲に描かれた紅い魔法陣を見せ付けるように構える。

 

「──拘束制御術式。第三号、第二号、第一号、解放」

 

 次の瞬間、ハンザは瞠目する。

 

 底冷えするような気配に背筋が凍り付く。脳が、本能が、警鐘を鳴らす。

 

 闘ってはならぬと、ここから即刻逃げるべきだと──。

 

「どうした? まさか臆した訳ではあるまい。さあ、かかってこい神父! ハリーハリーハリー! 

 

 そんなハンザを煽るように、或いは鼓舞するようにバーサーカーはそう急かす。

 

 酷く愉しげな表情だった。

 

「ッ……無論だ! 吸血鬼!」

 

 ──これは死ぬかもしれないな。

 

 ハンザは悟る。相手がまだ微塵も本気を出していなかった事と、天と地以上もの、どうしようもない実力差を。

 

 だが、だからと言って尻尾を巻いて逃げる理由にはならない。相手が自分の想像を絶する化物だと理解したからこそ、この存在を看過してはならぬと魂が叫ぶ。

 

 故に、戦う選択を取る。無惨に死ぬのだと言うのならば、その瞬間まで神の信徒として暴れ、ほんの少しでも傷を残すのみ──。

 

『Explosion now』

 

 そんな悲壮の覚悟を以て突貫しようとするハンザ。けれども、その寸前、バーサーカーの立つ地点が爆炎に包まれた。

 

「ッ!? 何だ──」

 

「無事か? ハンザ・セルバンテス」

 

 爆風を腕で防ぎ、突然のことに戸惑うハンザ。すると自分を呼ぶ声がする。

 

 すぐ隣から。接近される気配など全く感じていなかったハンザが驚きながら振り向けば、そこに誰かが立っていた。

 

「あんたは……」

 

「オーランド・リーヴのサーヴァントだ。お前を支援するように命令されている」

 

 白いローブに、橙色の宝石の仮面。

 

 発せられる声からして性別は男性だろうか。異様な風貌をした人物は淡々とそう告げた。

 

「あの署長のサーヴァントだって?」

 

「にしても、随分と啖呵を切っていたが、サーヴァント相手に無謀だったな。私が助けなければ間違いなく死んでいただろう」

 

「……ああ、すまない。助かった」

 

 つい先程のやり取りまで視られていたようだ。もっと早く加勢してくれると助かったのだが、と内心ハンザは思いながらも本当に危ないところを助けられたのは事実なので素直に礼を述べる。

 

 ──が、次の瞬間、銃声が鳴り響く。

 

「!」

 

 銃弾が迫るが、仮面の男はこれを手甲で容易く弾き落とす。よく見ればローブの中も鎧のようなものに覆われ、素肌が一切見えていなかった。

 

 魔術師然とした風貌だと思ったが、こうして見ると戦士のような印象も受ける。

 

「あの警官達の宝具を作成した英霊か。なかなか姿を見せなかったから、てっきり戦闘は苦手なのかと思っていたが……」

 

 爆炎の中からバーサーカーが姿を現す。

 

 肉体のあちこちが欠損し、焼け焦げていたが、すぐにその傷は逆再生するように修復していっていた。

 

「しぶといな、バーサーカー」

 

 その様子を見ても仮面の男は然して驚くことなく、下がっていろと言わんばかりにハンザの前へと出る。

 

「今の爆発……魔術によるものだな? となると、キャスターのクラスか」

 

「さて、どうだろうな」

 

「フッ……まあ、答えぬのが普通か」

 

 今頃激闘を繰り広げているであろうクラスも真名も全く隠そうともしない少女のことを思い出しながらバーサーカーは笑い、銃口を向ける。

 

 対して、仮面の男──改め、キャスターは即座に自らの腰に巻かれた機械的な“ベルト”、その掌のような形状をしたバックルへと指に嵌めた“指輪”を翳す。

 

『Explosion now』

 

 すると先程と同様にバーサーカーの居る場所で大爆発が起こり、彼を吹っ飛ばす。

 

「ッ……ハハハハハハハハハ! 凄まじい火力だな、それに予兆が全く見えなかった!」

 

「これでも死なんか。まるでフェニックスだな」

 

 弾け、潰れ、焼け焦げ、ミンチのようなグロテスクな肉塊と成り果てながら吹っ飛び、けれどもバーサーカーは何事も無かったかのように肉体を再生させる。

 

 そして、その身から何かが飛び出す。

 

「む──」

 

「ガルルルルルッ!!」

 

 それは“黒い狗”。バーサーカーと同様に紅い眼をしたそいつは唸り声をあげながら大口を開け、キャスターへ噛み付かんと飛び掛かる。

 

『Chain now』

 

 が、その前にキャスターの前方に展開された魔法陣から幾本もの白い鎖が出現して狗を縛り上げた。

 

「使い魔か? いや──」

 

 無理矢理動きを止められた狗。すると、その口腔から突如バーサーカーが拳銃を突き出しながら姿を現し、大口径の弾丸が襲い来る。

 

 キャスターはこれを回避し、更に鎖を巻き付けて口を塞ぐ──が、今度は影のような巨大な“百足”の大群が地面を這って迫って来た。

 

『Explosion now』

 

 それら全てを、纏めて吹っ飛ばす。

 

「耐性が付かぬ分、フェニックスよりはマシ……とは言い難いな」

 

 火柱が立ち昇る。血飛沫と肉片が飛び散り、次に行われるのは先程から続く光景の焼き直し。

 

 違うのは、今のバーサーカーの姿。もはや人の形も保っていなかった。

 

 月明かりに照らされる再構築した身体は揺らめく影のように肥大化し、何本にも増えた巨大な腕がまるで翼のように蠢く。

 

 ──死なずの君(ノーライフ・キング)

 

 生も死も何もかもがペテン。吸血鬼と呼ぶのも烏滸がましいナニカだった。

 

「……面倒な奴だ」

 

 しかし、キャスターはそんな化物をただそう切り捨て、戦法を変える。

 

『Gravity now』

 

「ぐっ……!?」

 

 すると次の瞬間、バーサーカーが呻き声をあげると共に眼を見開く。

 

 突如としてこちらを圧し潰すような衝撃に上方から襲われる。──否、これは己自身の肉体が重く、途方も無く重くなっているのだ。

 

「これは……! まさか、重力を──」

 

「生憎と不死身相手の戦い方は、よく把握している」

 

『Blizzard now』

 

 圧し潰され、身動きの取れぬバーサーカーに今度は極寒の冷気が襲う。

 

(このまま氷漬けにするつもりか……! なんてスケールのでかい魔術の応酬なんだ……!)

 

 一方、ここまでの戦闘の様子を見ていたハンザは彼の意図に気付くと共に驚嘆の声を漏らす。

 

 キャスターの行使する魔術の数々は、少なくとも彼から見てどれも大魔術と言って差し支えなく、それらを詠唱もせずに、正確にはあの腰の魔術礼装だと思われる装置を介して一行程(シングル・アクション)相当の詠唱で連続で使用している。

 

 これが英霊として座に登録された魔術師。最弱のクラスだと嘲ることなど到底出来ぬその実力をしかと目の当たりにし、けれどもそれが()()()()()()()()()ということをハンザは夢にも思っていない。

 

「くっ……」

 

 肌の表面に霜が張る。重力により動きを拘束され、猛吹雪が如く降り注ぐ冷気により体もどんどん凍り付いていく。

 

 流石のバーサーカーもこうも動きを封じられ、生きたまま氷漬けにされた状態から脱出するのは一筋縄では行かない。

 

「クク……これは少々まずいかもな……」

 

 故に、バーサーカーも全力で抵抗を試みる。

 

 凍り付き、無理矢理動かせば容易くひび割れ、砕ける肉体を無視し、通常の数倍、数十倍もの重力下の中で一歩、また一歩とキャスターの方へと歩き出す。

 

「! ちっ──」

 

 凍結される中で、再生速度が低下する素振りは一切見せない。つくづく出鱈目な不死身っぷりに面倒この上無いとキャスターは舌打ちする。

 

 ならば更なる出力で一瞬にして無力化するまで。キャスターは冷気の展開を中断し、別の指輪へと嵌め替えてバックルへと手を持っていく。

 

『Dupe──』

 

 ──が、それが起動するよりも先に。

 

「ッ!?」

 

 天から降り注ぐ光が、キャスター達を呑み込んだ。それと同時にバーサーカーの身動きを封じていた重力が解除される。

 

「おっと……何が起こった? いや、今のは──」

 

 その“緋色”の光には見覚えがあった。

 

 上空へと視線を向ければ、案の定青髪の少女──セイバーが宙に浮く岩を足場に飛んでいる。

 

 こちらには気付いておらず、誰かと戦っているようだ。てっきりあのアサシンが相手だと思ったが……。

 

「……そうか。あの時、感じたアレが来たか。フッ、丁度良い、気になっていたところだ。吸血鬼を差し置いて“夜”の支配者を気取る輩の正体が、な」

 

 夜空を見れば既に月は隠れ、星の一つも無い暗黒。とうに日が昇っていてもおかしくない時間帯だというのに。

 

 今宵は長い、それはもう長い“夜”になりそうだと肩を竦め、バーサーカーは空の戦いを見据える。

 

 ──そこでは、“二人のセイバー”が衝突していた。

 





拘束制御術式(クロムウェル)
ランク:D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 バーサーカーに施されている術式。
 これ自体は単なる拘束具に過ぎず、バーサーカーの能力の大部分を封じており、これを四段階ごとに解放していくことでバーサーカーのステータスと能力が向上する。
 第三号、第二号、第一号まではバーサーカーの意思で解放出来るが、第零号に関しては■■■■■家当主例外のマスターは令呪を使用しなければ使用不可。

戦闘続行:EX
 戦闘を続行する能力。
 決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負っても戦闘が可能。
 吸血鬼としての再生能力と内包する膨大な魂により、たとえ致命傷を受けようが肉体が半分なくなろうが、五体満足の状態での性能を維持したまま敵に食らいつく。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。