Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争   作:大嶽丸

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セイバーVSセイバー

 

 

『Teleport now』

 

 警察署付近の雑居ビルの屋上にて。

 

 誰も居なかったその場所に魔法陣と共にキャスターとハンザが姿を現す。

 

「……仕留め損なったか。運の良い奴だ」

 

「っと……今のはまさか、空間転移か? つくづく出鱈目な魔術師だな、あんた」

 

 令呪を使う訳でもなく、魔法の域に近い高等魔術をあっさりと使用してみせたことに驚くハンザを他所に、キャスターは先程まで自分達が居た方角へと視線を送る。

 

 不死身のサーヴァント……面倒な手合いではあるが、別段焦って倒す必要性も無い。無力化する方法はいくらでもあり、ならば他のサーヴァントと潰し合ってくれた方が万々歳であろう。

 

「さっきの攻撃は……あのセイバーの宝具か。こちらを狙ったのではなく、流れ弾のようだが」

 

「あのテレビ中継で演説かましてた嬢ちゃんか。戦っている英霊は……消去法からして、ランサー、またはライダーか?」

 

 英雄王はアーチャーでほぼ確定。それと互角に渡り合ったサーヴァントのクラスは不明。あの吸血鬼がバーサーカー。警察署を襲ったのがアサシンだとして、残るはランサーとライダークラスであったためハンザがそう推測する。

 

 もしかすると、この偽りの聖杯戦争とやらを呼び水として喚ばれる真の聖杯戦争の英霊なのかもしれないが……。

 

「……いや、あれもセイバーだ」

 

 しかし、キャスターは否定する。

 

「何?」

 

 ハンザは眉をひそめる。情報だと偽りの聖杯戦争がセイバーを除いた六騎のサーヴァントであり、つまりセイバークラスは一騎のみのはずなのではないか。

 

「少々イレギュラーが起こったようだ。運営側の思惑と違い、本来有り得ぬ七騎目……“偽りのセイバー”が召喚された」

 

 淡々とキャスターは告げる。

 

 それはつまり、この聖杯戦争は既に黒幕の手から離れているということを意味していた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 緋色の輝きと、暗く青い輝きが衝突する。

 

 それにより大気が悲鳴を上げ、夜空を裂くような衝撃波が周囲一帯を吹き飛ばす。

 

 アスファルトが砕け、街路樹は根こそぎへし折れ、ガラス片が雨のように舞うその中心で、二人のセイバーが鍔迫り合っていた。

 

 便宜上、真セイバーと偽セイバーと呼称するとしよう。

 

「くっ──」

 

 真セイバーは歯を食い縛る。

 

 受け止める偽セイバーが振るう大剣──否、通常の大剣よりも一回りも二回りも巨大なそれは言うならば“特大剣”であり、そして見てくれ以上に重かった。

 

 故に、押し負けるのは道理だった。足が地面へ陥没する程に踏ん張った真セイバーであったが、次の瞬間には勢いよく吹っ飛んで行く。

 

「きゃっ……くっ、こいつ……!」

 

 建物の壁へと砲弾のような勢いで叩き付けられる。衝突の瞬間、コンクリートが爆ぜ、蜘蛛の巣状の亀裂が一気に壁面へ走った。瓦礫と粉塵の中へ身体が深々とめり込み、それでも真セイバーは歯を食い縛って身を起こす。

 

 が、次の瞬間。視界に飛び込んだのはつい先程自分を吹っ飛ばした暗き青色──。

 

「!」

 

 咄嗟に真セイバーは要石を足場にして飛び退くように宙に浮き、これを回避する。

 

 偽セイバーが特大剣を振るったことで放たれる三日月のような“光波”。この他にも刀身に重ねてリーチを伸ばしたり地面に流して槍衾のように周囲へ解き放ったりと、多彩な攻撃法を駆使していた。

 

「理性無き獣かと思えば……」

 

 パワーはあちらの方がずっと上。それだけでなく、純粋な技能に加え、一体どれだけの戦場を渡り歩いたのか、歴戦と言う他無いその剣技は当然ながら真セイバーを遥かに上回っている。

 

 近接では圧倒的に不利。筋力も負けているのでごり押しは利かず、またあの剣が纏う奴の根源である“呪い”と同じ属性であろう“力”は出来る限り生身で受けるべきではないと本能が告げていた。

 

「…………」

 

 対して、偽セイバーは距離を取った真セイバーへ追撃することなく、ただ静かにゆっくりと歩みを進めていく。

 

 余裕の表れか、兜で隠れているためその内でどんな表情を浮かべているのかは分からず、真セイバーは忌々しげに見据える。

 

 3mを優に越える体格。

 

 刺々しい王冠のような兜。

 

 揺らめく襤褸切れに等しいマント。

 

 左腕は二本存在し、それぞれ大剣と先程の特大剣、右腕は一本のみでこちらは比べて短く見える直剣を逆手持ち。

 

 これまた兜と同じく刺々しく歪な鎧は、胴体から膝下辺りまで引き裂け、その中身は大樹のうつろのように空洞で一寸先も見えぬ闇がただひたすらに広がっている。

 

 そして、その中心に浮かび上がっているのは──。

 

「あの吸血鬼といい、まともな英霊を呼ぶ気は無いのか? 聖杯とやらは」

 

 異形の騎士。

 

 そう形容する他無い風貌であり、どこからどう見ても人間ではなく、かといって単なる人外の範疇には収まらぬ理外の存在を前に真セイバーは辟易した様子だった。

 

(悔しいが、斬り合いでは勝てんな……なら、天人らしく空から弾幕で一方的に蹂躙してやりたいところだが──)

 

 見たところ飛行手段があるようには見えない。であれば、攻撃が届かぬ高度まで上昇し、そこから狙い撃ちにするのが得策であるが、真セイバーは顔をしかめながら空を見上げる。

 

 その先は闇であり、そこから“雨”が降っているのが見えるが、不思議なことに地面へと落ちることはなく、ある程度の高さから遮られるように停止して霧散していく。

 

 しかし、真セイバーは今度は背後を見やると、数十m先には“雨”が降り注いでいた。

 

(結界……みたいなものか。恐らくあの“雨”も呪い。下手に浴びれば蝕まれ、命を削られることだろう)

 

 ドーム状に覆われ、閉じ込められる真セイバー。しかもどういう原理なのか様子を見る限り外部には影響を及ぼしていないようだ。

 

 でなければ、今頃外は地獄だ。常人ならば一滴でも浴びれば間違いなく即死するか発狂するだろう。にも拘わらず真セイバーがこうも落ち着いているのは近くで待機させている契約者……アヤカに危害が無いことを確認しているからであり、恐らく範囲はかなり狭い。

 

「解せんな、このまま私もこの街も何もかも呪いで満たせば手っ取り早いであろうに」

 

 だからこそ、疑問を抱かざるを得ない。

 

 逃げ場を失わせるのであれば、この結界そのものを呪いで埋め尽くしてしまえば済む話だ。わざわざ安全地帯を設け、自らの有利を削ぐ理由が見当たらない。

 

 空から降り注ぐ“雨”は明らかに何らかの権能だ。であれば、この領域そのものが奴の支配下にあると考えるのが自然だろう。

 

 にも拘わらず、その支配は完全ではない。

 

 意図してそうしているのか、それとも出来ないのか。

 

 一体どういうつもりなのか。何かしらの制約に縛られているのか。それともサーヴァントである以上、マスターが居るはずなのでその命令に従っているだけなのか。

 

 考えは巡る。だが、答えを知る術はない。

 

 いずれにせよ──。

 

「お前の土俵で戦えと? 不遜だな」

 

 青筋を立てる。天空に住まう天人としての戦い方を封じられ、あまつさえその状況下で自身が追い込まれているという事実が心底腹立たしかった。

 

 とはいえ真セイバーの肉体ならばあの“雨”の中でも暫くの間は呪いをはね除け、ある程度活動出来なくもないが──。

 

「良かろう……万物を呪う成れの果て。お前は“いずれ私が統べる楽園”に相応しくない。故に──」

 

 真セイバーが飛翔する。

 

 範囲ギリギリまで高度を急上昇させながら掲げた剣の刀身がまるで燃え盛る炎のように肥大化して天へと噴き上がる。

 

「──醜く、虫けらのようにこの大地から往ね!」

 

 号令と共に空間が震える。

 

 虚空より現れた無数の要石が空を埋め尽くし、その切っ先を一斉に偽セイバーへ向ける。

 

 数十、数百ではない。

 

 視界を覆うほどの岩石群が豪雨の如く降下を開始し、その軌跡だけで大気が裂け、轟音が夜空を揺るがした。

 

 回避など許さない。防御すら押し潰す。圧倒的な物量による面制圧。

 

 結局のところ、やることは変わらない。遠距離から広範囲を蹂躙し、一歩たりとも近付かせることなく討ち滅ぼす。

 

 それこそが、真セイバーの得意分野なのだから。

 

「────」

 

 圧倒的なまでの面による制圧。迫り来るそれを前に、しかし偽セイバーは臆すること無く、元よりそのような感情があるのかも疑わしいが、ただ剣を握り直し、一歩ーー。

 

 降り注ぐ要石を迎え撃つように歩み出る。轟音と共に激突した要石は次々と両断され、その破片が豪雨のように周囲へ飛び散る。

 

 しかし、その物量は尚も尽きることなく絶え間無く降り注ぐ。対する偽セイバーも止まらず、眼前のそれらを斬り伏せるべき障害物だと言わんばかりに突き進む。

 

 本来有り得ぬ、二人のセイバーの衝突。

 

 それはまだまだ始まったばかりであり、より熾烈に、激化していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「……お前達が代わりに舞ってくれるのか?」

 

 一方その頃、つい先刻まで真セイバーと戦っていたはずのアサシンはと言うと──。

 

「畜生共」

 

 青い巨人──“須佐能乎”を具現化させながらアサシンが相対するのは、“獣”。

 

 熱気を纏い、揺らめく紅蓮の体毛。風貌は狼に似ているが、頭部には炎、或いは刃のような鬣が存在し、体長は自動車を軽く上回り、須佐能乎とほぼ同じ。

 

 そんな異様な姿をした“獣”が三頭。獰猛な唸り声をあげ、アサシンを睨む。

 

 あの得体の知れぬ闖入者は、真っ先に真セイバーへと襲い掛かり、これにアサシンは二人纏めて蹴散らそうとしたところで分断するようにどこからともなく現れたこの三匹の獣が行く手を阻んだ。

 

 十中八九、あの異形の騎士と繋がっている。別のサーヴァントか、或いは宝具か何かか。“自らの宝具”のこともあり、後者の可能性が高いとアサシンは推測する。

 

「尾獣と比べればチンケな大きさだが……」

 

 ここまで上半身だけだった須佐能乎に下半身が出現し、ゆっくりと立ち上がって獣を見下ろす。

 

「──精々このオレを楽しませろ、畜生共よ」

 

(ストップ! ストップですアサシンさん!)

 

 その時だった。

 

 脳内に響いてきた声により今にも四本の霊剣を振り下ろさんとしていた須佐能乎の動きが止まる。

 

(……何だ、小僧)

 

(えっと、事前にいいましたよね? 出来るだけコンパクトに戦ってくださいって! このままだと一般人に被害が──)

 

 自らのマスター、フラット・エスカルドスからの念話にアサシンは眉をひそめる。

 

(人払いだったか? お前達が魔術とやらで隠蔽工作をしているのだろう)

 

(いやいやこんな対城宝具級の攻撃の応酬、とてもではありませんが、隠蔽し切れませんよ!? 神秘の隠匿もそうですけど、一般人に被害が出てしまうのは看過出来ませんから、もう少し規模を抑えてもらうか、人気の無い場所へ移動を──)

 

(──このオレに指図するつもりか?)

 

(ッ…………!!)

 

 不機嫌そうなその言葉にフラットが押し黙る。召喚当初からアサシンはマスターに従うつもりはなく、強制しようものなら傀儡にすると脅していた。

 

 フラットは内心そうなってほしくないと思いつつも、覚悟を決めて令呪を構える。

 

(……まあいい。戦争にもルールはある、当然のことだ。オレとしても何も知らぬ無辜の民を犠牲にするのは気が引ける)

 

(ほ、本当ですかっ!?)

 

 喜ぶフラットを他所にちらり、とアサシンは街並みを見やる。

 

 彼にとってこの街に住まう一般市民など取るに足らぬ有象無象ではあるが、かといってそれらが巻き添えで死ぬことに対して何も思わぬ程の冷血漢ではなかった。

 

 そもそも彼は、生前は世の平和を求めた人間だ。弱者を見下し、闘争を好みながらもそれは決して揺らがず、道を間違える前も、間違えた後も変わりはしない理想である。

 

 何より、そうなってしまっては浄土へと帰った際の“友”への土産話にならない。

 

(それと勘違いされては困るが、これでも術の範囲は狭めたつもりだ。お蔭であの小娘相手にも手こずった)

 

(えぇっ!? あ、あれで、ですかっ!?)

 

(ふん……オレが本気でやるとなれば、この街どころか辺り一帯の地図を書き換える必要が出てくるぞ? こんなもの、単なるじゃれ合いに過ぎん)

 

(あ、あはは……マジですか? こりゃアサシンさんが戦う場所をちゃんと考えないとなぁ)

 

 見栄ではなく、本気で言っているのだと理解したフラットは苦笑いするしかない。

 

 強さにおいては大当たりと言うしかない英霊を引き当てたものの手綱を握るのは困難、というか不可能に近く、これが聖杯戦争かと戦慄すると共にこれを乗り越えた若き頃の師に対してより尊敬の念を抱く。

 

(と、とにかく! 次からはもう少しコンパクトにお願いします!)

 

(それは構わんが、向こうがそのつもりかは分からんぞ? 何せ、畜生風情。それに小娘の方も周りへの被害などお構い無しのようだからな)

 

 フラットの嘆願にそう答え、アサシンはこちらの様子を窺いながら襲い掛かるタイミングを図っているであろう前方の獣達を見据える。

 

 少し離れた場所からも爆発音がずっと響き渡っており、真セイバーと異形の騎士は随分と激しい戦闘を繰り広げているようだ。

 

(あ、確かに……そうですねぇ、何度も差し出がましいのは承知の上でなんですが、どうにか人が居ない場所へ誘導できませんか?)

 

(それも奴次第だが、良いだろう……ん?)

 

 都市部から引き離そうとアサシンが動こうとしたその時、獣の内の一頭、大きな剣を背負った個体が突如として上を向いたかと思えば……。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──ッ!!」

 

 遠吠えをあげた。

 

 それは都市全体へと響き渡り、何かの攻撃の予兆かとアサシンは身構える。

 

「……何?」

 

 獣達の姿が、霞のように霧散して消えた。

 

 写輪眼で魔力の流れを見るが、辺りを見回しても獣の姿は無く、気配も感じないことからしてこの場から完全に消え失せたようだ。

 

(あ、あれ? 退いた……のですかね?)

 

(……みたいだな。何のつもりかは知らんが)

 

 困惑するフラット。アサシンもまた拍子抜けした様子だった。

 

 一体どういうつもりなのか。てっきりあの三頭の獣は真セイバーと異形の騎士の戦いへの介入を足止めする役割だと推測していたのだが……。

 

「……興が削がれたな」

 

 向こうはまだ決着はついておらず、参戦しても構わなかったが、フラットの嘆願と獣の逃走により毒気を抜かれたようでアサシンはつまらなそうにそう言い、踵を返す。

 

 別に焦る必要は無い。

 

 まだまだ聖杯戦争は、始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 轟音が鳴り響く。

 

 ある一角で起こる破壊の嵐。それは地を大きく揺らし、人払いの効果を以てしても周辺の人々に少なからず影響を与える。

 

「あはははは! どうだ、近付けまい!」

 

 そのような神秘の隠匿もへったくれもない攻撃の数々を、微塵の躊躇も無く振り翳す真セイバー。

 

 光弾をばら蒔き、レーザーを放ち、要石を降り注がせ、下方にある何もかもを破壊し尽くさん勢いだった。

 

「お前の気質(弱点)も既に解析済みだ! 不浄なるモノらしく、浄化され、祓われてしまえ!」

 

「…………」

 

 そして、神聖なる“黄金”の光が降り注ぐ。

 

 自らにとって致命的なそれを前に、しかし偽セイバーは逃げも隠れもせずに前進し、特大剣を振り下ろす。

 

 爆発するように放たれる暗い輝きが、黄金を呑み込まんとぶつかり、拮抗する。それは確かに偽セイバーが苦手とするものであったが、彼の“力”を打ち消すものではなかった──。

 

 ──およそ生命ならざる妄執の塊に、まともな弱点などない。それは偽セイバーとは異なる存在の特徴であるが、根源は酷く似たモノであった。

 

「何?」

 

 故に、“夜”が黄金を蝕み、喰らい尽くす。

 

 弱点であるはずにも拘わらず押し負けた事実に眉をひそめる真セイバーに対して、偽セイバーはそのまま地を砕く勢いで踏み込み、一気に距離を詰めて跳躍する。

 

「!?」

 

 その巨体からは想像もつかない跳躍力。容易く真セイバーの高さまで到達すると、その素っ首を落とさんと剣が振るわれる。

 

「ちっ──」

 

 甲高い激突音が夜空に響く。

 

 寸前で真セイバーは剣を差し込みこれを受け止め、しかしやはり先刻同様にすぐに力負けし、そのまま大地へと落とされ──。

 

「──甘いわ!」

 

 その刹那。

 

 鍔迫り合いを維持したまま片脚を鋭く突き出す。

 

 それは単なる蹴りでは終わらず、靴底を起点に要石が瞬時に生成され、高速回転する。まるで巨大な穿孔機のように唸りを上げながら、偽セイバーの腹部を容赦なく抉りつけた。

 

「────」

 

 これに偽セイバーは呻き声一つ漏らさない。僅かに身体が揺らぎ、体勢を崩しただけだった。

 

 が、その僅かな綻びを、真セイバーは見逃さない。

 

「墜ちよ!」

 

 全身の力を剣へ乗せ、一気に押し返す。均衡は崩れ、偽セイバーの巨体が仰け反った。

 

 そこへ真セイバーはさらに跳躍。脳天を断ち割るべく、黄金の刃を真っ直ぐ振り下ろす。

 

 偽セイバーは右手の直剣一本でこれを受け止めるも、空中では踏み締める大地がない。押し切られたその身体は、隕石のような勢いで地面へ叩き落とされる。

 

 間髪入れず、黄金の光弾が雨のように降り注ぐ。

 

「………………」

 

 轟音と閃光。土煙と爆炎が夜を覆い隠す。

 

 だが、その中から姿を現したのは、変わらぬ歩調で前へ進む偽セイバーだった。

 

 爆発に焼かれ、斬撃を受け、腹部を抉られて尚、その歩みは止まらない。

 

 ただひたすらに頑強なのか、あるいは痛覚そのものが存在しないのか、それとも、その両方か。

 

 少なくとも確かなのは、先刻から幾度となく攻撃を受けながら、偽セイバーはこれら全く意に介さず、動きにも一切の鈍りが見られないという事実だけだった。

 

「今のは危なかったぞ! 自らの天敵相手に真っ向うから抗い、打ち負かすとはなかなかやる……だが、ならば出力を上げるまでだ!」

 

 真セイバーの剣が“黄金”に輝く。

 

 この神聖なる力が奴にとって弱点であることには変わりない。それすらも喰らい尽くす力を有しているのならば、より強大な力を以てして逆に喰い破るというごり押し戦法。

 

 解析した気質を維持したまま、宝具──“全人類の緋想天”を使い、今度こそ討ち滅ぼす。

 

「……ん?」

 

 刀身へと魔力が集まり、より輝きを増す中、真セイバーは眉をひそめる。

 

 突如として、響き渡る“遠吠え”が耳に入ったが故に。

 

「…………」

 

 その瞬間だった。

 

 偽セイバーが動きを止める。同時にその身に纏う何かが、急激に減少し、霧散していく。

 

「……はぁ?」

 

 剣を構えたまま、思考が止まる。勝負が決したわけでも、自分が優勢になったわけでもない。それなのに敵だけが一方的に戦場を去ろうとしている。その理解不能さに、思わず間の抜けた声が漏れた。

 

 先程まで世界を覆っていた重苦しい圧迫感が嘘のように消え、夜明けの冷たい風だけが戦場を吹き抜ける。

 

 まさかと上へと視線を送れば、自身を閉じ込めていた“雨”も消え、何事も無い夜空……否、既に“日の出”が来ようとしており、東の空がゆっくりと白み始めていた。

 

「…………」

 

 一方、偽セイバーはちらりと地平線から差し込む朝日へと視線を送る。

 

 次の瞬間、その巨躯は足元の影へ静かに沈み始めた。 水面へ石が沈むように音もなく、抵抗もなく、鎧も剣も闇へ溶け込んでいく。

 

「待て、逃げるつもりか? おい。ちょっと待て、待ちなさいって……!」

 

 思わぬ行動に真セイバーが制止しようとするも、あっという間にその姿は消え、気配も感じなくなる。

 

 霊体化ではない。まるで最初からそこに居なかったように偽セイバーはこの世界から一切の痕跡も無く完全に消え失せたようだった。あれだけの災厄の化身が、俄には信じ難く、けれども目の前で起きたことは信じる他あるまい。

 

 ──まんまと逃げられた。

 

 真セイバーの表情が歪む。解き放つ相手を失った緋想の剣が虚しく輝き続けていた。

 

「は、はは……私に恐れを成して逃げたか。とんだ肩透かしだ」

 

 仕方無く剣をしまい、真セイバーは腕を組んで笑ってみせるも、当然不服そうである。

 

 高揚していた気分のやり場を失い、小さく鼻を鳴らすと、つまらなそうに周囲へと視線を巡らせた。

 

「仙人もどき、それに吸血鬼は……ちっ、アイツらも居ない。どいつもこいつも、折角楽しくなってきたところだってのに……」

 

 いつの間にかこの場に残るのは己のみ。此度の戦いの終結を感じ取った真セイバーはぶつぶつと文句を垂れながら戦場だった場所へ背を向ける。

 

 夜明けの光が、傷だらけになった街を静かに照らしていく。激戦の痕跡だけを残し、サーヴァント達はそれぞれの思惑を胸に姿を消した。

 

 ──こうして、二日目の夜が終わる。

 




【Class】セイバー(偽)
【真名】■■■
【属性】混沌・■
【ステータス】筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具EX
【クラススキル】
対魔力:A
騎乗:B
【固有スキル】
■■■:EX
 ■の■■であり、原初の■■■。
 セイバーは“■”に由来する力の全てを使用することができる。尚、ここでいう”■”とは、世界を侵食し生命や法則さえ変質させる■■の災厄のことを指す。
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