Fate/Doomsday of the FAKE やべーやつらの聖杯戦争 作:大嶽丸
「──散々な初陣だったな、警察署長殿」
警察署にて。
変身を解き、元の壮年の男の姿へと戻ったキャスターはつい今しがた治療から帰ってきて事務作業をこなすオーランドの前へ現れ、そう語りかける。
「……ああ。あれだけ啖呵を切っておいて、このザマだ。期待には応えられぬ成果だったろう」
「仕方あるまい。使い魔が記録した真のセイバーとの戦闘の様子を見るに、あのアサシンの実力は英雄王に匹敵するだろう。宝具を手にしたばかりのお前達が相手にならぬのは当然のことだった」
「ッ……みたいだな。対城規模のぶつかり合い。幸いにも死者は出なかったが、怪我人多数。今頃ファルデウス達や教会の連中は大慌てで隠蔽作業にあたっていることだろう」
そう言いながらもキャスターのフォローに渋い顔をする。確かにあのアサシンがギルガメッシュ級のサーヴァントであったことは想定外であったものの、そもそも“二十八人の怪物”はギルガメッシュ打倒を目指した部隊だ。
にも拘わらず、まともな戦いすら成立せずに軽くあしらわれた。準備運動だとアサシンは言っていたが、真セイバーとの激闘を見れば正しくその通りであったこと思い知らされる。
加えて、バーサーカーの襲来。“吸血鬼”の英霊など想定外も想定外であり、一度ならず二度までも歯が立たぬ結果に、メンバーの中には既に心折れかけた者も居ることだろう。
「死徒と英霊の相性。それについては知らなかった、恐らく真名解放に至ればまた話は別なのだろうが……そういう意味では、クラン・カラティンの中ではお前が一番奴の心臓に届く可能性が高いな、警察署長」
オーランドが帯刀する日本刀を一瞥しながらキャスターは言う。
彼が作成した宝具は使い手と共に成長し、極まれば生身の人間でも真名を解放するに至ることができ、またそれは決して夢物語ではなく、オーランドを含め一部のクラン・カラティン達はそこへ行き着く可能性が充分にあった。
「参考がてらに尋ねるが、お前はあの連中をどう見る? キャスター」
オーランドが問う。
アサシン、バーサーカー、真セイバー、そのいずれもが規格外の英霊。その実力を目の当たりした上で同じく規格外の魔術師はどう評価しているのか純粋に気になった。
「ふむ、ではまずアサシン……奴はまだ未知数だが、現状の評価だと真正面からの殴り合いは避けたい。あの“魔眼”は厄介だ、一切目を合わさずに戦い続けられる程、私は達人ではないからな」
既にキャスターはアサシンのあの特殊な眼が魔眼の類いであり、目を合わせた相手を無力化する能力を有していることを見抜いていた。
恐らくそれ以外にもまだ能力を隠している。特に紅い瞳から薄紫色のものに変わった時は、特異な魔力が眼に集中しており、要注意しなければならない。
「途中で出現させた“青い巨人”に関しては少なくとも防御を無視してダメージを与えることは容易い。内部から爆破してしまえばいいし、あれも魔力の塊である以上、やり様はいくらでもある……とはいえ奴の全力次第だ」
もう少しセイバーとの戦いが長引けば本気を見られたかもしれないが、生憎と思わぬ闖入者によりご破算となった。
「それからバーサーカー……結論から言うと、アレを殺すことは私では不可能だ」
「何?」
「ああ、誤解するな。殺せずとも無力化する方法ならいくらでもある。魔力供給源であるマスターを殺すか、私がやったように氷漬けにして動きを封じるか、それでも駄目ならば……」
「……駄目ならば?」
「太陽まで蹴り飛ばす、なんて手もあるぞ?」
「は?」
「フッ……冗談だ。ともかくアレもアサシン同様まともに相手するべきではない存在だ。放置して他の参加者達と潰し合ってある程度間引かれてからリベンジマッチすることをオススメする」
「………………」
そう自らにとっての最適解をキャスターは述べるが、オーランドの表情は険しいままだった。
昨晩、クラン・カラティンの一員である青年、ジョン・ウィンガード……あの戦いで真っ先にバーサーカーに挑み、宝具を破壊された彼が言っていたことを思い返す。
──街の未来が心配だと。
魔術師だけでなく、一人の警察官として。死徒などという悪辣な輩を放置してしまえば、このスノーフィールドの市民達にどのような被害が及ぶのか分かったものではない。
故に、オーランドとしてはあのバーサーカーを最優先で討伐するべきだと考えていた。
(魔術師といえど、警察というのはどこも変わらんな)
その考えを察し、しかしキャスターは特段言及することはない。
彼からすれば至極どうでもいいこと。最適解とは言えずともバーサーカーを先に始末したところでキャスターの“計画”には何ら支障は無いのだから、好きにやってくれて構いやしなかった。
ただ、彼は半ば確信している。たとえ宝具が通用するようになったとしても、クラン・カラティンだけでバーサーカーを相手取れば最低でも
「さて、次は
対城規模のぶつかり合い。先程オーランドが言ったように真セイバーとアサシンの戦闘はその余波だけで甚大な被害をもたらしており、砂漠を硝子化させたあの夜の出来事と比べれば可愛いものであるが、少なくとも都市部でやるような戦いでは決して無かった。
神秘の隠匿を何だと思っているのやら。始まってすぐにこれかとオーランドは頭が居たくなる。監督役を名乗り出たあの神父には是非とも両者のマスターに対して厳重注意を行ってもらいたいところだ。
「個人的に気になるのは奴の宝具だな……あの剣、周囲から魔力を吸い上げる効果を持つ。もし仮に制限無しだとすれば奴の魔力は無尽蔵ということになる」
「! 本当か? それは……」
オーランドが瞠目する。つまりは魔力切れの心配が無いということ……それが如何に脅威的なことであるかは馬鹿でも解ることだ。
「仮定の話だ。しかし、ならばあれだけの規模の攻撃を躊躇わずに連発するのも頷ける。となると、魔力吸収も通用しないかもしれない」
そうなった場合、キャスターにとって一番厄介なのは真セイバーと言えよう。魔力吸収に関してもだが、“彼の宝具”もまた、真セイバーの宝具と相性が悪かった。
生前の苦い記憶が甦る。いずれ行うことになる“儀式”を台無しにされては困るので、真っ先に消えてほしいサーヴァントだった。
「総じて、面倒な連中ばかりだ」
──それらを踏まえて、キャスターはそう切り捨てる。普通そんな程度では済まないと思うが、恐ろしいことに彼は本気でそう断じ、憂いていた。
彼もまた、規格外のサーヴァントなのだ。
「……そうか。しかし、まだ“一騎”残っているだろう?」
「ああ。そうだが、あれに関してはまだよく分からんとしか言い様が無いな」
キャスターは肩を竦める。対して、オーランドにとってはそれこそが本題であった。
イレギュラー中のイレギュラー。
この偽りの聖杯戦争において有り得ぬ七騎目……偽セイバーについて論じなければならない。
「私も聞きたいなぁ、それ」
──その時である。
扉を開け、ひょこりと顔を出す白髪のゴスロリ少女。その顔を見た瞬間、オーランドのしかめっ面がより険しくなる。
「やっほー、元気にしてるー? 新米君☆」
「帰れ老害」
「あれれ? 陰口でそう言っているのには気付いてたけど、流石に面と向かって言われると傷付いちゃうよ? 私は精神的な傷より肉体の傷の方が嬉しいんだから配慮してほしいなぁ」
フランチェスカはそう言いながらオーランドのデスクの上へと腰掛ける。
「キャスター。この老害の来訪には……」
「ん? 当然気付いていたが、伝えるべきだったか?」
「……ああ。次からはそうしてくれ。可能ならば即刻排除してくれても構わない」
「ふむ、了解した」
本当にどうでもいい些末事だったのだろう。辟易とした様子のオーランドの言葉を受け、キャスターは肩を竦め、フランチェスカへと手を翳す。
彼にとって目の前の人外を追い出すことも、始末することもたったそれだけで終わることだった。
「ちょ、ストップストップ! もうっ、二人して酷いなぁ。この身体だってまだ使い始めて三年しか経ってないのに。内臓だって綺麗で──」
「御託はいい。さっさと用件を言え」
言い様にあしらわれた自分達を笑いに来たのかと、オーランドが睨み付ける。キャスターの行動を手で制止している辺り、とりあえず話を聞く気にはなったようだ。
「はいはーい、相変わらずカチンコチンだねぇ。昨晩の大騒動、そして何より、あのイレギュラーさんについて話し合おうかなーって」
「……貴様は、あの“偽りのセイバー”に対してどこまで把握している?」
「それはねー」
「………………」
「なんにも☆」
テヘペロ、と舌を出すフランチェスカ。それに対してオーランドもキャスターも何も反応を示さず、沈黙が続く。
そんなノリの悪い二人にフランチェスカはやれやれと肩を竦める。
「ごめんごめん☆ でも本当だもん。“アレ”についてはなーんにも分かんない。何で召喚されたのかも誰がマスターなのかも、そもそもマスターが居るのかどうかも……全く以て不明のアンノウン! 私としても予想外も予想外過ぎて困ってるんだよねー」
皆目お手上げといった様子でフランチェスカはそうぼやき、デスクの上で寝転がる。資料やら筆記具やらが飛散するのを見てオーランドは顔をしかめつつ、顎に手を当てる。
フランチェスカも想定外。それが本当ならば恐らくファルデウス達も知らないのだろう……何が起きるか分からない贋作の聖杯戦争とはいえここまでのイレギュラーが発生するとは。
「──私としては、そっちの偽物のキャスターさんの方は結構知ってたりするんじゃない?」
「ほう……何故そう思う」
「乙女の勘だよ☆ そもそも、お二人はアレが“偽物のセイバー”だって断定してるみたいだし? 不思議だねー」
そう、フランチェスカが把握しているのはアレが想定外のサーヴァントであるのみであり、対してオーランド達は贋作の聖杯戦争において本来有り得ぬ七騎目かつ“偽りのセイバー”などとは知る由も無かった。
それこそ、召喚されるはずの無いルーラーが召喚された可能性もあるというのに。尤も、あんなおぞましい気配のルーラーが存在するとは思えんが。
「……お前に教える道理があるか?」
「無いね! でもやっぱり、聖杯戦争のシステムについて私たちよりずっと深いところまで調べてるみたいだね? 御教示してくれたのなら、女の子のヒ・ミ・ツ♪ 見せちゃうのも吝かじゃないよー?」
心底どうでも良さそうに冷たく言い放つキャスターに対して微塵も堪えることなくフランチェスカは恍惚とした表情で徐に服をめくり、自らの腹部を露出させて見せ付ける。
そこには牙の生えた口のようなものが存在し、彼女の構造が異形であることを証明していた。
「……いい加減にしろ、老害」
「はーい、しょうがないなぁ。でも情報共有したいのは本当だよ、偽物のセイバーもそうだけど死徒のサーヴァントに……アルトちゃんを差し置いて召喚されたあの傲慢なセイバーや暗殺者とは思えないくらい強いアサシン……それから──」
再度、フランチェスカはその大きな眼をくるると見開いてキャスターへと視線を向ける。
「君のような、“異界”の英霊たち! どこもかしこもイレギュラーだらけ! いやぁ、混沌は大好きだけど、ここまで怒涛に続くと流石に胃もたれしちゃうよ!」
「半端なシステムを運用した結果だろう。お蔭で私は召喚されたのだから、感謝しているがな」
単なる並行世界ではなく、そもそもの成り立ちから異なる完全なる別世界。そんな存在がどういう訳か“座”に登録されており、本来であれば外なる宇宙、虚空からの“降臨者”のクラスで召喚されるであろう者達が幾人か、今回の聖杯戦争には参戦している。
キャスターもそうであり、恐らくアサシンやバーサーカー、その他の面々も。それは贋作が故のイレギュラーかと思えば、真セイバーもまたそうである可能性が高く、ならばこれから始まる真なる聖杯戦争でも続々と召喚されていくことだろう。
「まあ、確かに急ぎ過ぎちゃったかなー。私としては、とっても面白いんだけど、合衆国のお偉いさん方が今回の偽物のセイバー襲来で及び腰になっちゃてさ」
偽セイバーの出現。それにより今回の聖杯戦争はフランチェスカやアメリカ合衆国のコントロール下から完全に外れてしまった。
管理されていない戦争を自国内で行うなど、正気の沙汰ではなく、少なくとも狂人のフランチェスカとは違い、合衆国サイドには聖杯戦争を企てながらもそれだけの良識や理性がある者達が居るようである。
「このままじゃ聖杯戦争そのものが中止されかねないから、それだけは勘弁してほしいんだよね。君も困るでしょ? だから早急に偽物のセイバーをどうにかしたいってワケ☆」
「……らしいが、どうする?」
「ハァ……仕方あるまい。キャスター、あのセイバーに関してお前が把握していることを隈無く話せ」
どうしても偽セイバーに関する情報が欲しい様子のフランチェスカ。対してキャスターは聖杯戦争が中止されるのは困るが、その点は彼一人でもどうとでもなるため特段焦ることなくオーランドへと判断を委ねた。
これにオーランドは業腹ではあるものの眼前の少女の姿をした醜悪な怪物も腐っても運営側。ここで無理矢理追い返してしまうメリットも薄いので今後を左右するイレギュラーの情報を共有しておくのも已む無しと考え、溜め息混じりにそう指示する。
「ああ、分か……伏せろ、マスター」
「!」
しかし、キャスターが答えることは無く、オーランドは眉をひそめるも、ほんの数秒もせずに目を見開く。
自分達が居る部屋、そして警察署の真横を、何かが通り過ぎたのを認識したが故に。
──轟、と。
風圧で全ての窓ガラスが粉々に砕け散る。
「ッ!?」
「……ほう」
勢いよく破片が散乱し、これをキャスターは軽く腕を払うだけで一つ残らず消し去る。
突然の事態に驚きながらもオーランドは即座に警戒態勢に入り、フランチェスカは……。
「おお、そうだった、もう始まるんだったね! こんな一大イベントを忘れちゃうなんて私ったらうっかりうっかり☆」
「貴様……!」
知っていたのかと、ギロリと睨み付けるオーランド。対してそんなこと気にも留めず、フランチェスカはクルクルとまるで舞台女優のように愉しげに踊り出す。
何にせよ、聖杯戦争は絶賛開催中。参加する
彼らは、ただ貪欲に勝利を目指すのみ。
「アハハハハ! さぁ始まり始まり! パンフレットは持った? ポップコーンは買った? 早くしないと世紀の一戦を見逃しちゃうよぉ?」
今しがた横切った一筋の“矢”。
音速を越えるそれは発生するソニックブームで周囲の窓ガラスを一切合切粉砕しながら向かう先はとある高級ビルの最上階。
そこで堂々と街並みを見下ろす最古の英雄王。そのマスターたる娘を射貫かんと、北の溪谷から“弓兵”が放ったもの。
しかし、おかしな話だ。此度の聖杯戦争において弓兵のクラスで召喚されたのは英雄王のはず。ならば別のクラスかと言われればそうではない。
真なる聖杯戦争。
偽りの六騎による贋作を触媒とする本物の儀式。セイバーを皮切りに正規の英霊達が続々と召喚されていた。
「クク。まだ昼間だというのに、血気盛んなことだ」
新たな闘争の気配を感じ取った、“偽バーサーカー”たる吸血鬼が笑う。
「………………」
「あ、また戦いに行くんですか? “マダラ”さん!」
「……気安くオレの名を呼ぶな。小僧」
安モーテルの一室。“偽アサシン”は、はしゃぐマスターを尻目に新たな参加者の実力を吟味する。
楽しめそうなら、混ざっても良いが──。
「ギル……何だか強そうな人と戦っているね……?」
場面は変わり、広大な大森林にて。
主たる銀狼と共に静かに時を過ごしていた“偽ランサー”も、友が誰かと戦っていることを感知すると共に、この聖杯戦争の異常さに気付く。
『おや? サーヴァントは七騎までだと聞いていたが……成程。これなら、予定よりも早く完成しそうだァ』
「かみさま! みてみて、クリアした!」
一方、初日以降ずっと姿を見せなかった“偽ライダー”はと言うと、野原で携帯ゲーム機に夢中になる幼き少女を傍らに置き、のんびりと外の状況を確認していた。
その“感染区域”は、既に街全体にまで広がっている。
「用件を聞こうか、鉄屑よ」
「………………」
偽りの英霊達が各々様々な反応を示し、真なる英霊達も同様に動きを見せる。
溪谷にて勃発しようとしている戦いなど知ったことかと言わんばかりに、真セイバーと、もう一騎が都市部において睨み合っていた。
「……もしもの時は、事態の収拾をお願いします。アサシン」
モニターで様子を確認した黒幕を気取る合衆国の狗は、緊張した面持ちで溪谷の状況を監視しつつ、被害が大きくなる前に手を打たんとする。
その背後に立つのは……。
「この気配は──」
そして、英雄王と真なる弓兵が対峙している溪谷へと向かう者が一人。
──これより“14騎”の英霊達が入り乱れる、大戦が如き熾烈なる聖杯戦争が幕を開けるのだった。
面子が面子だから(特に偽アサシンと偽バーサーカー)全員集まってくるルートも考えたけど流石に滅茶苦茶過ぎるからやめた