【目指せ】Stellarisで生き抜くスレ【大日本宇宙帝国】   作:ヒャル

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とあるヌーリアン人の追憶

 ラッグラが人生で学んだことは、誠実に生きても報われることは少ないということだ。

 

 ラッグラの父は軍の兵士だった。ラッグラの母はそんな父を献身的に支える妻だった。

 そんな両親は、一人娘に口癖のように言い聞かせた。

 

「いいかい、ラッグラ。誠実に生きるんだ。正直に生きて、誰かを助け、誰かを支える。決して、誰かをだますような人間になってはいけないよ」

 

 誰かを助ければ、自分もまたいつか助けてくれる。

 誰かを傷つければ、自分もまたいつか傷つけられる。

 因果応報。自らの行いはいつか自分に跳ね返るのだと。それがラッグラへの両親の教育の根幹となっていた。

 

「うん!パパとママがいうとおり、りっぱなひとになるから!」

 

 そんな両親の教えを素直に吸収し、ラッグラは心に優しさを宿した少女へと成長していった。

 

 

 しかし、そんな温かい日々はある日を境に一変する。

 乗っていた軍艦で事故があり、ラッグラの父が死んだ。それが、ラッグラの幸せな少女時代の終わりだった。

 

 ラッグラは信じた。父はいつも周囲の人々を助けていた。だから、父が亡くなった今こそ、皆が恩を返してくれると。

 

 だが、かつてラッグラの父に助けられたものたちは、あれこれと理由をつけてラッグラとその母を支えようとしなかった。

 軍への奉仕と民族の団結を説いた帝国は、軍への奉仕者であっても末端の一兵士に過ぎないラッグラの父の死には何も報いなかった。

 

「諦めちゃ駄目よ、ラッグラ。夜明け前が一番暗いもの…きっと、いつか報われる日が来るわ」

 

 それでも、ラッグラの母は諦めなかった。

 

 女手一つで娘を育てつつ、必死に働いて娘を養おうとした。

 そして、身体の弱かったラッグラの母は身体を壊し、当たり前のように死んだ。

 

 

「…で、誰が引き取るんだ?仕事でロクに家に帰らない俺は子育てなんて無理だぞ?」

 

「ウチだって無理よ!もう子供が3人いるのよ?その上に子供を1人引き取るなんてパンクするわ!」

 

 申し訳程度の粗末な葬儀のあと、ラッグラに向けられたのは親戚たちからの、あからさまな疫病神を見る視線。

 ラッグラの父は親族が困っている時には決まって手を差し伸べていたが…それに報いようとする者は、誰一人いなかった。

 

「アタシだってお前らの世話になるなんてゴメンだバーカ!!」

 

 気がつけば、ラッグラは夜の街へと飛び出していた。

 

 

 夜の街の裏側――それは国民を強く統制することを好むヌーリアン星系帝国政府が敷いたレールから外れた者がたどり着く、帝国の掃きだめ。

 助けを求めたところで得られるはずもない。弱者に残される道はゴミでも漁るか、更なる弱者を餌食にするか。

 

「何が『誠実に生きろ』だ、クソが……」

 

 ネズミのように残飯を漁りながら、ラッグラは両親の教えを投げ捨てた。

 善に意味なし。利益を得るは常に悪。世の悪意を前に反転した一人の少女はかつての自分と、温かい家族との思い出を侮蔑する。

 

「だったらアタシは…オレは……」

 

 ――強者(あく)に、なりたい。

 

 

 夜の街に住み着くようになってから長い年月が経ち、ラッグラはゴロツキたちの集団に身を置いていた。

 彼らは強かった。抗争に次々と勝利して他の集団を吸収していき、いつしか他の街の勢力たちが手出しできない勢力へと育っていた。

 その一員としてラッグラは弱者を食い物にし、金を巻き上げ、物に苦労しない生活を送れるようになった。いつからか感じるようになった心の渇きは癒えなかったが、気分は少し良くなった。

 だが、そんな栄華も一瞬だった。

 

 ヌーリアン政府が実行した首都浄化作戦。

 無法者たちが如何に個々の腕を誇ろうと、国家という圧倒的な力の前には敵わない。

 治安部隊の圧倒的な弾幕を前にゴロツキたちはゴミのように蹴散らされ、大半の構成員は死ぬか捕縛。

 ラッグラは負け犬となって命からがら逃げだした。

 

 

 強者となったと思った自分は、国家という本物の強者の前ではただの無力な痩せ犬でしかなかった――その現実を前に心を折られたラッグラは、生きる為に真っ当に働くことにした。

 しかし、マトモな道からドロップアウトしたラッグラに良い就職先が見つかるはずもなく…結局、とある鉱山の肉体労働者として働く他なかった。

 

 鉱山での生活も幸せとは言い難かった。

 流石にツルハシで坑道を掘るような前時代的な労働環境ではなかったが、待遇はお世辞にも良いとは言えなかった。

 与えられる食事や寝具の質は良くなかったし、与えられる給料も多くはなかったから一度も太陽を見ない週があることもザラだった。

 たしかに死んではいないが、生きているとも言い難い。そんな日々。

 

「大変だ!日本との戦争が始まったぞ!」

 

 そう聞かされても、ラッグラはこれといった感慨を抱かなかった。

 強いて言うなら、『合金増産の素材としてノルマが増えるかもしれないな』『給料が上がればいいな』その程度だ。

 

 ヌールが占領されても、ヌーリアン星系帝国が滅亡しても、心が動くことはなかった。

 もう落ちるところまで落ちたのだから…どうにでもなれと捨て鉢になっていた。

 

「ハァ?オレたちを高級労働者として再教育?」

 

 だが、新しい支配者となった日本人たちに職業訓練所に放り込まれたのには困惑した。

 被支配民族、それも自分のような落ちこぼれは奴隷らしく使い潰せばいいのに…

 

 鉱山に勤めていたから鉱物や機械の扱いには明るいだろうと、精錬惑星に送られ教育の日々。しかし奴隷なのに教育は過酷なものではなく、食事や寝床もきちんとしたものを与えられた。

 そして冶金技師として働き始めると、地球人だけではなくラッグラたちヌーリアン人も不正をすれば処罰されるが、真面目に働く限りはきちんと評価され献身に応じた報酬があった。

 強者がすべてを取る、それが世の理のはず。しかし力の体現のような帝国が、それに逆行する行いをしている。

 

(オレたちみたいな下っ端も真面目にしてれば報われる社会、か。アホらしい…でも、まるで……)

 

 ラッグラは心の渇きが、いつの間にか癒えていることに気がついた。

 

 

 

 

「…オレの人生はこんなもんだ。これでいいか?」

 

「あんがとね。これも記事のネタにできそう」

 

 ――そして、今。

 家庭を持ち、母となったラッグラは、

 組織壊滅後に何を血迷ったのか記者になったというゴロツキ時代の仲間の取材を受けていた。

 

「ちなみに、こうして過去を振り返ってみて何か思うことはある?」

 

「そうだな…」

 

 そう問われて、ラッグラは虚空を見上げる。

 

「親のことを色々恨んだりしたもんだが、今だからわかる…オレは、ただのガキだったんだって」

 

「オヤジもオフクロも、俺より長く生きてたんだ。だったら善意が報われないことも、理不尽な目に逢うことも、オレよりずっと多かったはずだ。報われるとは限らないなんてこと、オヤジたち自身がずっと理解していたはずなんだ」

 

 誠実に生きても報われることは少ないということなど、先に世間の荒波に揉まれてきた両親は既に身をもって理解している。

 誠実になど生きず、もっと要領よく生きて利益を掠め取ることもできただろう。

 強かに生きて誰からも傷つけられない勝者になることだってできたかもしれない。

 

「でも…親になってオレもわかった。親が子供に望むのは、絶対に負けねぇ強者になることでも、完璧な勝者になることでもねぇ」

 

 愛おしげに、腕の中の子供を見つめる。

 

「いつまでも笑顔を見せてほしい。ずっとまっすぐな気持ちでいてほしい。…そんな簡単で当たり前のことを、親は子に望むんだ」

 

 真剣な表情でそう語った後、ラッグラは誤魔化すように笑みを作る。

 

「昔のオレが見たら馬鹿だって笑うだろうよ。でも、馬鹿でいい。世の中にはそんな優しい言葉が通じない連中だっているとしても、誠実に生きれば報われるって信じて育つ時間をこの子に与えてやりたいんだ」

 

「人の心の闇ばかり見て、その中で快感を覚えたり、人の悪意を利用して狡猾に立ち振る舞うような奴には育って欲しくない。心に、優しさという花をきちんと咲かせてほしい」

 

「…こんな甘ったれた夢も、今なら叶えられるって信じてる。専制国家のくせに被征服民にもお優しいバカな帝国政府と、オレみたいな野良猫を嫁に選ぶようなバカな旦那がいるとこならな」

 

 ラッグラは横目で隣に座る日本人の夫を見る。

 

「バカって…酷いなぁ。ボクは正直に生きてるだけなのに」

 

「いくらヌーリアン人が好みだからって、オレを選ぶことないだろ?もっとマトモな選択肢なんざいくらでもあっただろうが」

 

「そんなこと言われても…好きになっちゃったんだから仕方ないだろ?」

 

「はいはい、ノロケるのはその辺でね。…アタイもいい加減、いい人見つけないとなぁ」

 

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