日常のホロライブSS(一話完結の短編集)   作:Sano / セイノ

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季節は冬、白銀ノエルの家がダンジョン化して異界と繋がってしまう話。そんなホロメンたちの日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。


白銀ノエルの断捨離ダンジョン

騎士団団長である白銀ノエル、麗しくも勇名を響かせる彼女にも大きな弱点があった。

そう彼女は捨てられない女。何かに使えるかも知れないという僅かな可能性が、どう見ても無駄な物の処分すらも阻んでしまうのである。

 

 

結果として邸宅に物をため込み続ける悪癖は、いかに広大な居住空間をも魔窟まへと変貌させるほどであった。

 

 

年末のその日。

彼女はホロライブ同期の女海賊、宝鐘マリンの〝とっておかないの!〟との助言に律儀に従って、大掃除がてら不要なものを仕分けしていく作業を行っていた。

 

 

「……ふぅ」

不必要な物や床にまで積まれた本を段ボール箱に詰め、邸宅の外に運び出しつつ白銀ノエルは汗を拭う。

 

 

「やっほぉー、ノエちゃん。進んでる?」

手をひらひらと振って近づいてくる女海賊に、〝あ、マリーン〟とノエルは笑顔を返した。

 

 

「って、なんじゃこりゃああああぁあああ⁉」

玄関前に堆《うずたか》く積まれた、小物類と圧倒的なまでの本の物量。

「いやぁ、片付けてたんだけど……何か全然減らなくて、分けわからんくなって外に出してた」

「そんなことある⁉ それに本、多すぎやろ。こんなの読むの? なんて書いてあるかすら分からんのだが」

マリンが掴んだ本に、ノエルも首を傾げる。

 

 

「そうなんよ。そんな本、団長も買った記憶が無くて。でもそんなんがまだいっぱいあるんよ」

物をため込む人間の特徴、もはや持病とも言えるそれは、あまりの量に自身が買ったものかどうかも判断できないところである。

 

 

「しょうがねぇな、マリンが手伝ってやんよ」

「わぁ、ありがとう!」

やれやれと肩を竦めるマリンに、ノエルは手を打ってにっこりと微笑んだ。

 

 

腕まくりして、勢いよく玄関のドアを開けたマリンは唖然としてしまう。

「……ん?」

果たしてそこは、天を衝くほどの書架が無数に屹立しながら居並ぶ広大無辺な空間。

仄暗い魔力光に照らされた異様な領域は、間違いなく乙女の住居ではありえない。

 

 

(あれ、ノエちゃん家って……こんなんだっけ? ……いやいや、ぜってぇ違え!)

 

 

束の間の混乱の後、血相を変えながら女海賊は振り向いた。

そして、〝何じゃこりゃぁああああぁああ!!!〟と咆哮を周囲に響かせる。

 

 

「ノエちゃん家、どっかの異空間と繋がってるでしょ! こんなん片付けどころじゃねぇ!」

「やっぱそっか。団長も何か変だなって思ったんよ」

にこやかに頬を掻く女騎士は、どこまでも悠然としていた。

その常識外れの大らかさに、マリンは〝普通、気づくだろがよぉ!〟と目を吊り上げるのである。

 

 

そう、断捨離《だんしゃり》に失敗し続けた団長の邸宅は、いつしかダンジョン化していたのである。

 

 

おそらくどこかの異空間と結びつき、その不可解な奇観を晒しているのだろう。

ダンジョン内で原因を探れば家も元に戻るであろう、と二人は意を決してと調査に踏み入ったのであった。

 

 

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 

 

「えいッ!」

書架から飛び出し、牙を剥くのは本に擬態した魔物。

四方八方から襲い来るそれらを、事も無げに素手でノエルは叩き落としていく。

 

 

「ノエちゃん、強ぇぇ!」

「ふふ、お任せ太郎!」

目を丸くするマリンに、ノエルは振り向きがてらに腕で力こぶを作って応じた。

騎士団でも恐れられる脳筋女騎士の膂力を迷宮探索で如何なく発揮していたのである。

 

 

「あ、そこ罠あるから気を付けて」

「え?」

強引に手を引かれた女海賊の後ろでは、足元に魔法陣の幾何学紋が浮かび上がり鋭い刃が突き出した。

 

 

「あ、危ねぇぇ!」

恐怖とともに刃を凝視するマリンに対して、女騎士の方は〝よし、どんどん行こう〟と鷹揚に構えて気にも留めないのである。白銀ノエルはやはり只者ではないと、マリンは感じ入ってしまうのだった。

 

 

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 

 

「くっそー、罠は罠でも触手系のエロトラップがあることにちょっと期待してたのに……」

「あはは、残念だったね」

歩きながら不平を垂れるマリンに、ノエルが苦笑を返した。

 

 

そこに、二人の姿を見咎めたような声が響く。

「――また人間がこんなところまで」

マリンとノエルが頭上を仰ぐと、膜翼を広げた魔族めいた女が虚空から見下ろしていた。

彼女の冷ややかな視線が二人を射抜いている。

 

 

「ここに侵入したのはあなたたちです。侵入者は実力で排除させていただきますよ」

「ちょ、ちょっと⁉」

侵入者側のマリンとしては、別に荒らしに来たというわけではないのである。

慌てふためく女海賊の様子にも有無を言わさず、魔族の女の目が剣呑な光を帯びる。

 

 

本棚からふわりと数冊の魔導書が彼女の元まで導かれ、そして宙空でひとりでに開かれた。沸き立つ魔力によって編まれた鳥型たちが魔導書から飛び立ち、女の周囲を舞いながら彩っている。その鳥を象《かたど》ったものは、凝縮された魔法の焔であった。

 

 

魔族の女が指を侵入者に差し向けた途端、魔火の鳥たちが一斉に二人の元に飛来した。

果敢にも前に出たノエルは、果たして火鳥が爆ぜた炎に包まれる。

 

 

「ノ、ノエちゃんッ⁉」

「ふんッ!」

だが、若き女騎士の体から迸《ほとばし》ったのは、魔力放出の風圧。

その身を包んでいた焔光を、散り散りに吹き飛ばし、現れたのは白銀に輝く勇壮な鎧。

 

 

相棒の影から、咄嗟にマリンは羽織った海賊コートに隠していたフリントロック式のピストルを抜き放つ。虚ろな銃口から轟音とともに撃たれた弾丸は標的を捕らえていた。

しかしそれは、魔力によって実体化した鋼の円盾に硬質な音を響かせて弾かれ、魔族の女の元まで至らない。

だが、それこそが女海賊の狙いだったのである。

 

 

作られた僅かな死角をノエルは過たず捉え、本棚を足場に跳んで魔族の女に高速で接近する。脚線が撓《し》なり、白銀の具足の輝いた。

 

 

そして盾ごと、宙に浮いていた女を蹴り飛ばしたのである。〝きゃぁあぁあああぁあ〟という甲高い悲鳴と共に吹き飛ばされていく魔族の女。

だがその途中で、彼女は不自然に停止した。

 

 

新たに現れた闖入者の魔法が、魔族の女を虚空に縫い留めたのである。

それはローブ姿に紫艶しえんの長髪を垂らした魔女であった。

 

 

「あなた、何をやっているの?」

「し、侵入者です。パチュリー様」

指さされた方に、眠たげな視線を向けた魔女は頷きながら独り言ちる。

「なるほど……異界と繋がってしまったのね。書斎の結界は修復しておくから、お客様方にはお帰り頂きましょう」

 

 

〝……プリンセスウンディネ〟とその魔女が呟いた途端、浮かび上がる埒外に巨大な魔法陣。膨大な魔力に身構える二人だったが、そこから顕現した避けようがない無数の泡沫の奔流に飲み込まれてしまう。

「ぎゃぁああああああ」

「あびゃびゃびゃびゃ」

 

 

書架の間を押し流された先で、ずぶ濡れになって辺りを見回した二人。

そこはノエル邸の玄関の外、かくしてノエルとマリンはダンジョンから舞い戻って来てしまっていたのである。

 

 

「だぁああ、帰ってこれたぁぁあぁ」

地面にだらしなく体を投げ出して、マリンは安堵の大きな息を吐いた。

海賊の頭目をして、最後にまみえた魔女は決して戦いたくないと思わせる強者であったのだ。

 

 

対してノエルの方は、扉を開け閉めして中を矯めつ眇めつしている。

家中には見慣れた汚部屋と通路が見えるだけ。もう無数の書架が居並ぶ迷宮とは、繋がりが絶たれたことを彼女は確かめたのだった。

 

 

「マリン、着替えていくでしょ?」

ドアに手を掛けたまま振り返ったノエルに、マリンは頷いた。

やや暖かい日中とはいえ季節は冬である。濡れ鼠のままで風邪を引くのも馬鹿らしい。

 

 

〝よっこいしょ〟と起き上がるマリンを後目に、ノエルは積みあがった大量の本に視線を向ける。これらの本はあのダンジョン、魔女の書斎に由来するものなのだ。人様の物を勝手に持ち出して来てしまった訳で、もしかしたら貴重な書物かも知れないのである。

 

 

「この本、団長の家で預かっておけばいいかな? 大事な魔導書かも知れんし……」

悩みだす素振りの女騎士に、マリンの額に青筋が浮かぶ。

事ここに至って、まだノエルは家に物を増やそうと言うのである。そもそも迷宮化の発端がその捨てられない思考ゆえなのに……。

 

 

まあ捨てないにしても、ここは街の図書館や城の書庫で保管してもらって、家に残さないことを第一義に考えるべきところのはず。

だからこそマリンは眦《まなじり》をつり上げて一喝した。

「片付かないから、とっておくな!」

 

 

 

 

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