日常のホロライブSS(一話完結の短編集)   作:Sano / セイノ

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赤井はあとがバレンタインでホロメン達に手作りチョコを振舞う話、そんなホロメンたちの日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。


赤井はあとのチョコレートクッキング

碧眼を狂気に歪めた赤井はあとは、キッチンで高らかに声を響かせる。

「はあちゃまっちゃま~! ワールドワイドな最強アイドル! はあちゃまこと赤井はあとで~す。今日のはあちゃまクッキングは~」

 

 

はあちゃまクッキング――それはエキセントリックが過ぎる金髪の少女が言祝ぐ料理を超越した概念であり、物理的破壊と同義の魔術的創造である。自称五つ星シェフ(……ちなみにミシュランは三つ星までしかない)ちゃまの人知を超えた力により、この世に産み落とされる何かであった。

 

 

「ヴァレンタインデーなので……ホロメンのために甘~いチョコレートを作ります! 勿論ちゃまが作るのは、従来のチョコにあばよ!と別れを告げたくなるような、みんなを新境地へと連れていくチョコレートで~す!」

「それはいいけど、なんでルーナが連れてこられたのらぁ?」

高揚する料理人の傍らで、厨房の不穏さに眉をひそめているのは姫森ルーナである。お菓子の国のプリンセスはチョコレート作りということで、オブザーバー兼アドバイザーということで、はあちゃまの料理を見守りに呼ばれたのであった。

 

 

チョコレートのその先を目指すが少女は、用いる食材も調理法も常識では測れない。

〝材料はまず新鮮なカカオ! 食材は鮮度が一番!〟そう言って、はあちゃまは魔界で狩ってきたカカオ(?)を並べていく。一見するとカカオの実らしく見えるそれらはピクピクとうごめき、明らかにルーナの知るカカオとは一線を画していた。

 

 

「ちょっと待って、それ本当にカカオなのら⁉」

チョコづくりにカカオから始めるつもりなのか、という抗議すら飲み込んで、お菓子の国の姫は恐懼に叫んでしまう。

 

 

「ふふん、活きが良いいのよ。じゃあ最初は切り刻みま~す!」

掛け声とともに金髪の少女は、ブーンと唸るチェーンソーを勢いよく振り上げた。それにはルーナも目を剥いて〝包丁を使うのら!〟と吠える。

 

 

切るにしても包丁を、と思ってしまうのは世の慣習に縛られた者達である。

包丁は料理には不適、それは合理性の問題だ。ホロメン達の胃袋を掴むためには、そんな攻撃力の低いものは天才たるはあちゃまは使わない。

 

 

「うははははははははは!」

高笑いしながら、震える怪しげな果実に高速回転する刃を振るう金髪の少女。

はあちゃまは吹き出す不気味な紫色の果汁にもまるで臆さない。その彼女の狂気を孕んだ哄笑に、振り回されるチェーンソーの駆動音が旋律を添える。

 

 

(や……やべぇのら……)

零れ落ちて床に広がる怪しい液体、禍々しい音楽を奏でながらその上を愉快げにチェーンソーと踊る少女。だが彼女が作っているのはチョコレートなのである。始まったばかりにして既に地獄絵図、ルーナはその惨状に目を早くも背けたくなっていた。

 

 

「次は焼き焦がして、砕き散らかしま~す」

細切れになったカカオ?をスコップですくってダイレクトに業火の中に焚くべるはあちゃま。もうもうと上がる煙を気にも留めず、彼女は高火力で焼かれている材料にさらにハンマーを振り下ろす。

 

 

(レシピはどうなってるのら⁉)

見やるルーナは戦慄を隠せない。

確実にチョコレートの制作過程から外れたそれは、はあちゃまの内から生まれ出たものである。彼女によればレシピに頼るなど二流のすること、一流のシェフは食材の声を聴きとることで自然と調理法が分かるのである。

 

 

「わぁお、想像通りにできてやがる! 自分の力が恐ろしいぜ」

焙あぶられて、さらに粉々に粉砕されたそれは、果たしてカカオパウダーのように見える。まさに幾つもの偶然がかみ合った末の奇跡なのであるが、金髪の少女はそれに気を良くして破顔した。

(――何がどうなってるのら?)

 

 

「じゃあ、後は適当にそこら辺のものを入れてかき混ぜま~す!」

手あたり次第に謎の粉末やら液体やらをどんどん投入するはあちゃまに、ルーナが肩を怒らせてて叫ぶ。

「入れるならちゃんと計量しろよ!」

 

 

語尾を忘れて姫が可愛らしい怒号を上げたのも無理はない。

お菓子作りには配合比率が命、つまりは計量して適切な分量を入れることこそが肝心要なのである。

だがはあちゃまは一切秤など使わない、なぜなら〝ちゃまは誰にも計られない存在なのよ〝と誇らしげに胸を張るのである。

 

 

「完成ッ!!!」

ドロドロになったもの固めれば、そのチョコレート然とした見た目は完全にチョコの枠内に収まるものであった。高らかに終了を歌い上げるはあちゃまの傍らで、ルーナは息を呑んで出来上がりを凝視する

「う、嘘やろ……チョコっぽくなってるのら」

 

 

呆然と呟いた姫に、金髪の少女は大輪の花が咲いたような笑みで水を向ける。

「るーなたん、試食する?」

「だ、大丈夫なのら! みんなに食べてもらったらどうなのら?」

何から何まで常識外れの理を経て、生み出されたチョコレートに姫は内心恐れおののいた。全く表面上は不吉さを感じないそれが、むしろ不吉でしかない。

ぶんぶんと首を振って拒否するルーナに、はあちゃまはしたり顔で頷いた。

 

 

「ふむ、確かに今るーなたんに感想をもらったら感動が薄れちゃうわね。せっかく食べてもらうなら事務所のみんなにじゃないと!」

食材と同様に、食べた感動も新鮮なことが肝心なのである。〝じゃあ、事務所に持っていきま~す!〟と駆け出していく狂人を見送って、ルーナはほっと一息ついた。

 

 

そして彼女は地獄のような場所から手を組んで天を仰ぐ。自身の身代わりに差し出した事務所の仲間たち、その無事をルーナは祈らずにはいられなかったのである。

 

 

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 

 

上品に甘くとろけるチョコレート、乙女にとってその甘味は欠かせない燃料だ。

ヴァレンタインデーとしては少し早いこの日、スイーツを願う誰かの気持ちが天へと届いたのであろうか。ホロライブ一期生の赤井はあとが、ホロメン達の救世主たるチョコレートを引っ提げて乗り込んできたのである。

 

 

「みんな~、ちゃまが友チョコ作ってきたから食べて~!」

サイドで結んだ金髪を弾むように揺らし、はあちゃまは声高く事務所にいた面々に呼び掛けた。

 

 

差し出された箱の中で、照明を弾いて輝くチョコレートの威光。

それにつられてわいわいと集まってくるホロメン達の中で、ラプラス・ダークネスが先陣を切った。

〝わぁ、いいんすか?〟と小躍りしながら寄ってきたラプラスが、チョコレートを摘まみ上げたその時である――

 

 

――ラプラスの指先のチョコが大口を開け、ラプラスを飲み込んだのであった。

泡を食ったように目を瞠みはったのは、続こうとした少女達。

彼女らの眼前で、何事も無かったかのようにチョコレートは元の形状に戻り、床に硬質な音を立てて転がったのであった。

 

 

チョコに伸ばしていた手を止めた音乃瀬奏、だが時既に遅し。

彼女もまた驚愕に顔を染めたまま、チョコレートに飲み込まれてしまったのである。

その現場を見て震えあがったさくらみこの絶叫が轟いた。

「チョコレートに食われちまったよぉおおおおおおおお⁉」

 

 

「食われる覚悟もなく、食えると思うな!」

目を狂気に見開き、ビシッとはあちゃまは指を突き付ける。

〝うははははははははは〟というちゃまの甲高い笑い声を合図とするかのように、恐怖に逃げ出すホロメン達を躍動するチョコレートが追い始めた。

はあちゃまクッキング、それは新たな生命すらをも生み出す御業であった。

 

 

次から次へと、悲鳴と共に飲み込まれていくホロメン達。

 

 

だが気づけば、チョコレートの数もまた瞬く間に討ち減らされていくのである。

事務所で発生したちゃまチョコの乱、その騒動を制したのは同じく一期生の夏色まつりであった。

「もぐもぐ、これめっちゃ美味しいね!」

機嫌よさそうにまつりは、次から次へ迫り来るチョコを鋭い一薙ぎで捉えては頬張っていく。人呼んで、ホロライブのカービィ。食べることへのチア少女の強靭なる希求は、はあちゃまの狂乱料理をして打ち破れるものではなかった。

 

 

「……はぁ、美味しかった」

チョコに取り込まれていた少女たちをスイカの種のようにぷッ吐き出して、まつりは満足そうに微笑んだ。

 

 

残されたのは唾液まみれで床に伸びた少女達。

 

 

その惨状のせいで収録が遅れに遅れたことは言うまでもない、

スタッフに叱られた赤井はあとは、可愛らしく頭にコツンと手を当て舌を覗かせる。

(ちょっと失敗しちゃったわ……てへッ)

前向きが過ぎる彼女にとって、失敗のない人生は甘さの無いチョコレートと同じなのであった。

 

 

そして叱責されたのは夏色まつりも同様であった。

てへぺろとドカ食いを誤魔化そうとした彼女は、同期の白上フブキに〝まつり、またおまえ食い過ぎたのかッ!〟と喝破されたのである。膨大なるカロリーの摂取にまつりは後悔したが、それも後の祭りなのであった。

 

 

 

 

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