日常のホロライブSS(一話完結の短編集)   作:Sano / セイノ

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季節は夏、鷹嶺ルイと風間いろはが侵入した曲者からアジトを守る話、そんなホロメンたちの日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。



鷹嶺ルイの曲者対処

秘密結社holoX、その女幹部である鷹嶺ルイはパソコンから目を放し、〝ん~~〟と両手を組んで伸びをした。

組織の運営業務をその有能さから一手に引き受けていた彼女は、今日の仕事に一区切りをつけたのである。

 

 

そして卓上のカレンダーに視線を移して、ルイは口元を緩める。

明日は百鬼あやめとお茶をする予定を女幹部は立てていた。しばらく幽世《かくりよ》に里帰りしていた鬼の少女に、土産話でもねだってやろうと考えていたのである。

 

 

そこに突如として、けたたましいアラーム音が鳴り響く。

アジトへと至る複数の経路、その内の一つが何者かの侵入を告げたのである。

 

 

慌てて空中ディスプレイに映像を出し、ルイは眉を寄せた。

迷路のような道順を迷いのない足取りで進む人影は、以前のようにうっかり猫が迷い込んだという肩透かしでは済まされないだろう。

 

 

「ルイ姉、曲者《くせもの》でござるか⁉」

警報を聞きつけて飛んできた風真いろはは、ルイと並んでディスプレイを凝視する。

 

 

「……こんな時に限ってね」

呟いてルイは歯噛みした。

なぜなら、総帥たるラプラス・ダークネス、技術屋の博衣こよりの二人の不在がアジトの防衛力が著しく低下させていたからである。

 

 

こんな時に頼りになったのは、かつていたインターン生である。

後回し癖のある怠惰な少女であったが、戦闘能力だけは一級品で用心棒のいろはに比肩する程であった。だが、実習期間が終わった今、彼女は既にここにはいないのである。

 

 

「風間が出るでござるか?」

「待って、まだトラップ地帯がある」

逸はやるいろはを片手で制して、ルイはこよりが作ったトラップ群を起動させた。

 

 

スクリーンに映る招かれざる客は、落とし床を軽々と跳び越え、死角から迫る振り子の鉄球を体を替えることでいなし、壁から突き出す電流を帯びた無数のスタンロッドさえも易々と搔かい潜くぐったのだった。

 

 

この侵入者は単純な迎撃装置だけで退けられない、一連の動きから二人がそれを悟るには十分であった。

 

 

「……出るでござる!」

「私も行く!」

駆けだしたいろはを追いかけるように、ルイも走り始めた。

 

 

「ル、ルイ姉もでござるか⁉」

「ええ、だてに幹部やってないわよ」

目を白黒させる侍の少女に、ルイは得物の鞭《むち》に手を伸ばしながら応じる。

 

 

いろはが案じたように、ルイ自身の腕は用心棒に比べるべくもないであろう。

それでも女幹部が頑かたくなに用心棒の後を追ったのは、侵入者に覚えた脅威が故であった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

招かれざる客と対峙して、二人は足を止めた。

それは青いレインコートを羽織った見知らぬ娘であった。

 

 

態勢も低く居合の構えのいろはと、抜いた軟鞭《なんべん》を音高く振るうルイ。

侵入者の娘は、二人に警戒する素振りも見せず、ただ笑みを深めるのみである。

 

 

それを怪訝に思いながらも、ルイは前へと踊り出た。

自身の周囲に鞭を縦横無尽に高速で走らせ、攻防一体の結界を描く。そして虚空に軌跡の残像を刻みながら、闖入者《ちんにゅうしゃ》に鞭の猛攻を浴びせかけたのである。

 

 

鞭頭《べんとう》が空気を裂いて、爆竹が弾けるかのような炸裂音を立て続ける。

対する闖入者の動きは軽捷の極みであった。前後左右から不規則に軌道を変えて襲い掛かる鞭、それらを見切ったかのように足運びだけで躱し続けるのである。

 

 

だがこれは想定の範囲内であり、ルイは切り札を切った。

 

 

半身を引いて作った結界の僅かな空白、その間隙を後方から貫き穿つように用心棒が疾駆した。刹那の内に縮地法で間合いを詰めたいろはは刃を抜き放つ。

 

 

風間流抜刀術、段違いの剣速を誇る抜き打ちから始まる必殺の連撃。樋鳴《ひな》りを伴ういろはの神速の剣は、およそ避けられるものではない。

だが、それを侵入者の娘はどこからか取り出したナイフで迎えたのである。

 

 

刃同士が打ち合う音が立て続けに響き、その残響の中で侵入者の総身をいくつもの火花が飾る。

常人離れした知覚速度でこれまで切り抜けていたが、さしもの娘もいろは剣圧にたたらを踏んで尻もちをついた。

 

 

だが、娘を見下ろすいろは好機にも関わらず刀を納め、それに合わせたようにルイも力を抜いた。

 

 

女幹部は曲者と対峙してから、そのホークアイで注意深くに観察していたのである。

筋動作の緩急や歩様に覚えがあり、それは今に至って確信に変わっていた。そして僅かな立ち合いから、いろはも同様の結論に達したらしい。

 

 

「……クロヱでしょ」 

「……沙花叉でしょ」

 

 

「あれ、もうばれちゃったか~。じゃーん、沙花叉でした~。二人とも久しぶり」

べりっと剝がした作り物の顔の下から、テヘッと見慣れた笑みを覗かせたのは沙花叉クロヱ。

彼女こそはこの秘密結社のインターン生だった暗器使いの少女である。

 

 

 

× × ×

 

 

 

元インターン生によると、せっかく近くを通ったから会いに来たということ。

そして侵入者のような振る舞いも、お茶目なシャチ心という至極しごくしょうもない理由であった。

 

 

久方ぶりに訪ねてきて早々、クロヱ は〝今日も暑いねー〟と、冷凍庫からごく自然にカップアイスを取り出しソファーにだらしなく体を投げだす。

そして、〝吾輩の〟と書いてあるのも気にせず、ベッと蓋を剥がして食べ出したのである。

 

 

「そういえば、ラプラスとこんこよは?」

スプーンを口に咥くわえながら器用に訊ねるクロヱ。そのまるで実家もかくやという寛ぎように、ルイもいろはも力が抜けてしまうのであった。

 

 

「ラプ殿はじゃんけんに負けて、買い出しに行ったでござる」

「こよりは今日はスタジオ収録。ReGLOSSの娘たちも収録あるから、もしかしたら話とかして遅くなるかもね」

この日、大雨に降られたこよりがReGLOSSの面々を驚かすのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

× × ×

 

 

 

ビニール袋を両手に暑さに喘ぐ小さな少女、これこそが秘密結社総帥の夏の姿である。

ラプラスは冷凍庫のアイスを思い浮かべることで、酷暑を頭の隅に追いやりながらやっとのことで帰還したのであった。

 

 

冷蔵庫に買ってきた食材を放り込み終え、冷凍庫を開けた小さな総帥。だが、待ちに待ったカップアイスが見当たらず、ラプラスは声を張り上げた。

「ルイー、吾輩のアイスが見当たらないんだが!」

 

 

そう言ってメインルームに踏み込んだラプラスは、女幹部が指さす方へ顔を向けた。

 

 

そこでラプラスは、目にしたのである。

自身を救済するはずであった、口の中で優しく溶ける甘く爽やかな氷菓子、それにクロヱが勝手に手をつけているのであった。そしてあろうことか、彼女は最後の一口を食べて終えて、〝美味しかった~〟と頬を緩めたのである。

 

 

矮躯をわなわなと震わせながら、ラプラスは怒号をアジトに響かせた。

「クロヱ!!!! おまえなんかクビだ!!!!」

 

 

フンッと肩を怒らせて背を向ける小さな総帥に、元インターン生は笑みをこぼした。

「ふふ、もう退職してるよ~ん」

正確に言うと、そもそも就職していないのであるが……

 

 

足音大きく去っていくラプラスが、小さく〝おかえり〟と呟つぶいたのをルイは聞き取っていた。

クロヱとの再会が余程嬉しかったんであろう。その目元に浮かべた涙を見せまいと気丈に振舞う総帥に、女幹部はもう少し素直になればいいのにと思ってしまう。

 

 

そして、それはクロヱにも言えることであった。ラプラスがそう立ち振る舞えるように、わざわざ怒られることをしでかすのである。

まさに一筋縄ではいかない曲者ぞろい。ルイはラプラスとクロヱを交互に見ながら、大きな溜息を吐いたのであった。

 

 

 

 

 




(今回と関係する話)
儒烏風亭らでんの怪談語り
百鬼あやめのハードボイルド金魚すくい
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