日常のホロライブSS(一話完結の短編集)   作:Sano / セイノ

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季節は夏、白銀ノエルが不知火フレアとのドラマチック(?)な出会いを回想する話、そんなホロメンたちの日常の一コマ。楽しんでいただければ幸いです。



白銀ノエルの運命的な出会い

「見て見て、ノエちゃん!」

「わあ!」

不知火フレアは火花で夜空に絵でも描くように、愉快そうに手持ち花火を振り回す。

その頼りない光が、手を打って微笑む白銀ノエルを照らし出した。

 

 

青々とした下草に火花を散らしながら、閃光の色が変わる。二人の少女が花火に興じているのを、宙天高く浮かぶ銀月が見降ろしている。

 

 

片やこの辺境伯領が誇る騎士団団長であり、片や樹海に潜むエルフの一族が抱えた凶手であった。それがどんな因果で、城塞都市の薪炭林で仲睦まじく笑い合っているのであろうか。

 

 

弾ける火花の色合いがまた大きく変わる。

それはまるで自身とフレアの関係そのもの、そうノエルは過去を仮託してその色に目を細めるのだった。

 

 

今にして思えば、騎士団団長とハーフエルフの少女ら二人の邂逅ほど、かくも凄絶な出会いはないだろう。

 

 

 

———————(回想)———————

 

 

ある時下った、都市をも滅ぼしかねない厄災が現れるという神託。

騎士団の長は団員に街の防備を固めさせ、兵らの声援を背に自ら予言の地へと赴くのであった。

「じゃあ、団長行ってくるね」

「「「ご武運を!」」」

 

 

付き従おうとする団員らもいたが、彼らの同道をノエルは許さなかった。

それは、彼女がそれだけ隔絶した力を有しており、そして彼らのことを慮ったが故である。

 

 

一方で、フレアはエルフの社会では忌嫌われた混血のハーフエルフであった。

どんな対象をも命令通り討ち取ってきた彼女の弓だけが、共同体から厄介払いされない理由だった。少女が友と呼べるのは、その呪わしき血筋を厭わない森の小鳥たちである。

 

 

呪術師が予言した災厄を討つように命じられ、今回もハーフエルフの少女は弓を手に取ったのである。

 

 

そして、最強と名高い騎士団長と、最凶と畏怖されるハーフエルフは、災いが舞い降りるとされる地で邂逅を果たしたのである。

 

 

(この人……すごく強い!)

ノエルは感じとっていた。

眼前のハーフエルフの少女が陽炎のように揺らめかせる強大な魔獣のような殺意を。

 

 

(——この騎士、ヤバいな)

そして、それはフレアも同様であった。

対する騎士から漏れ出る尋常ならざる闘気は、ハーフエルフの弓使いをして警戒せしめる程。

 

 

不運にも両者は並外れた実力の持ち主であり、それゆえに互いが互いを災厄の元凶と思い定めるのは無理もないことであった。

 

 

だから言葉もなく、交わされた鋭い眼光のみが火花を散らす。

時が止まったような沈黙が辺りを支配していた。

 

 

やおら静寂を破ったのは、フレアの弓の高く澄んだ弦音。常人であれば視認もできないような神速で放たれた矢は、騎士の少女に狙いを定めていた。

 

 

唸りを上げて襲い来る矢を、ノエルは体を逸らしただけで躱す。

だが、その影にもう一つの矢が潜んでいた。

 

 

完全なる死角からの一撃すらも、ノエルは見切ったよう得物のメイスで弾く。

否、弾こうとした。

 

 

(なっ!?)

ノエルの銀髪が舞い散り、頬を鮮血が伝う。

 

 

騎士の少女の虚を突いて頬を裂いた刃は、帯びた魔力で軌道を急変させた鏃であった。

かろうじて躱したノエルも、その弓使いの妙技には驚愕せずにはいられない。

 

 

彼我の間合いこそが勝敗を決すると、ノエルは断じて疾駆する。

勝機を求めて躍り出た彼女を迎えるのは魔力で編まれた矢の応酬であった。

 

 

フレアは初速を変えながら三本の矢を放ち、その軌道の合間を縫うように曲射でさらに三矢を射る。互いを追い抜き絡み合うようにして襲い掛かる魔力の矢、それは見切ろうとすれば、逆に標的を惑わす魔弓の業である。

 

 

さらに弓使いは騎士の動きを封じるため、放った幻惑の矢に紫電を走らせる。

そしてフレアは次なる矢を番えながら、相手の動きを予測して次の手を定めようとしたのであった。

 

 

そこで、突如として騎士の少女の姿がぶれた。

 

 

弓使いの少女が気づいた時には、既に相手が眼前に迫っていた。尋常ならざる脚力で地を蹴り、騎士は瞬時に距離を詰めていたのである。

掲げられたメイスを見て、フレアは咄嗟に身を翻した。

 

 

轟音を響かせて大地が砕け土煙が舞い上がる。

 

 

(なんていう威力!?)

フレアの驚愕の眼差しが見つめるのは、地を穿ち突き立つメイスの銀光だった。

かくも破壊的な打撃があろうかと、その桁外れの膂力にハーフエルフの少女の背筋を冷汗が伝う。

 

 

この相手を近寄らせてはならないと、フレアは騎士の少女を鋭く睨むのであった。

 

 

ノエルは間合いを詰め切れずに歯噛みしていた。

矢を番えて引く間に生じる隙、それは弓という得物が持つ宿命である。だがそこを狙おうにも、次々と放たれる速度の異なる魔力の矢は騎士の少女に踏み込みの機会を与えない。

先の空振り以降、ノエルは一度として弓使いを己の間合いに捉えられていなかった

 

 

だが、苦境に立たされているのはフレアも同じであった。

明らかに、相手の攻撃圏外と判断できる距離を維持し続けることでしか、メイスの攻撃に対処できなかった。冴えわたる魔弓の業が圧倒的に見えるのは上辺だけの話であった。

ハーフエルフの少女も難敵相手に攻めあぐねていたのである。

 

 

互いに実力が伯仲しているのが故の均衡であった。

だが、それは不本意な形で破るられる。

 

 

地響きを立てて大地から湧き上がる無数の触手。

それらを辿った中央には、総身にいくつもの虚ろな口腔を開いた巨大な黒山羊が佇立していた。それぞれの口から漏れ出たのは、大気を鳴動させる程の邪悪な咆哮。それが二人が演じる死闘を中断させたのである。

 

 

(……何だ、これは⁉)

慄然とノエルが見上げるのは夜闇を背景にそびえたつ巨影。

その圧倒的な威容に彼女は息を呑む。それは人知のおよばぬ領域を支配する異形、まさに災厄と呼ぶにふさわしい魔性の姿であった。

 

 

「……これはまさか⁉」

フレアの震撼は、それが長命の種族なればこそ知る恐怖であった。

大地を枯らし、どこまでも果てしなく貪り吞み込んでいく触手の様相は、まさにエルフの伝説で語り継がれる災厄そのものであった。

 

 

呆然としていたフレアに影が落ちた。

我に返って天を仰いだ彼女が目にしたのは、自身に振り下ろされる触手であった。

(——マズイ!?)

 

 

「んぐっっっ!!」

フレアを触腕の一薙ぎから救ったのはノエルであった。大樹の幹のような触手を受け止めて、彼女の足元では重みに音を立てて大地が陥没する。

 

 

「させるかっ!」

邪魔者を狙った第二、第三の触腕には、今度はフレアの弓が弦音を響かせた。

迫る触手に突き立った複数の矢が爆炎を上げて軌道を逸らしたのである。

 

 

敵対していた二人の少女らの関係は共闘へと変わっていた。互いの力を認めて、少女らは背中を預け合ったのである。

 

 

うねる触手が張り巡らされ、挑みかかるノエルを迎撃せんと鎌首をもたげる。だが、その奇怪さと醜悪さにも、騎士の少女は怯むことはない。

「やあああぁあ!!!」

裂帛の気合と共に振りかざされるメイスの打撃が、触手を千切り飛ばす。

 

 

「はっ!」

そして、フレアは走りながら紫電を纏った矢の軌道を自在に操り、おぞましい怪物へと射かけ続ける。

 

 

岩をも砕くメイスの剛撃が、雷撃を帯びた矢が、災厄の黒山羊の肉を抉り焼く。

苛烈なまでの二人の攻撃は決して手ぬるいわけではない。だが、異形の魔物に与えた大きな傷跡は、瞬く間に新たな肉に埋まり、突き立つ無数の矢ごとその肉の内に取り込まれてしまうのであった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

(うう、やっば~、ど~しよう……)

魔法使いである紫シオンは、禁書を投げ出して頭を抱えていた。

夏らしく特大の花火でも魔法で打ち上げてやろう、と得意顔で考えたところまでは良かったのだ。

 

 

だが少女の誤った呪法は、何をどうまかり間違ってしまったのか、魔界の住人たちですら逃げ出すような化け物の一角を異世界に召喚してしまったのである。

 

 

一たび動けば辺り一帯を不毛の大地へと変える渇望の具現、それがシュブニグラスと呼ばれる無数の触手を絡ませた黒山羊の正体であった。無論そんな高位の存在が彼女に制御できようはずもない。

 

 

化け物が飽いて去るまでに、一体どれほどの破壊の限りが尽くされるのか見当も付かなかった。水盆に魔術で投影した召喚先の光景を、シオンは恐る恐る覗き込む。

 

 

映し出されたのは騎士と弓使いの二人の少女。

彼女らは正面切って、たった二人であのシュブニグラスを押し留めていたのである。二人が化け物とぶつかり合う度に、大気を震わせ木々を揺らす。それはまるで暴虐の嵐の渦中で舞踏でも踊っているかのようであった。

 

 

(すごい……)

その余波がまるでこちらへも伝わるかのような錯覚すら覚えてしまう。かくも熾烈な戦闘があるのだろうか、とシオンは驚愕に体を震わせた。

 

 

だが彼女は次第に息を呑んで見入ってしまうのであった、英雄譚に登場するような二人の雄姿を。

 

 

周囲の土地を枯らしながら、奪った生命力で傷を癒す黒山羊の圧倒的な回復力。

それが少女達の一切の攻勢を受け付けないのである。

 

 

(このままじゃ、ダメでしょ!)

それは戦況よりも自身に向けた思いかも知れない。

 

 

ぎゅっと拳を握りこんだシオンは、二人に届くかどうかも分からない念話を懸命に送り続けるのだった。

 

 

 

× × ×

 

 

 

『……地面から……を吸い続けるから……』

唐突に耳に舞い込んだ言葉の断片。ここにはいない誰かからの助言であることを即座に察して、二人の少女は目を見合わせた。

 

 

「アイツを少しでも浮かせられる? 私が仕留めるから」

「任せて!」

ハーフエルフの弓使いが向ける瞳に応えて、騎士が不敵な笑みで頷いた。

 

 

「えいやっ!!」

大地を具足で割りながら、騎士団団長は全力でメイスを投擲する。日頃から脳筋女騎士と、団員たちから敬意と恐れをもって囁かれる膂力を、ノエルは遺憾なく発揮した。

 

 

亜音速で放たれたメイスは、轟音を立てて幾重にも張られた触手の防壁を突き穿つ。

そして白銀の騎士は軌跡を辿って疾駆し、銀光と化す。

 

 

ノエルを遮ろうとうねる触手、だがそれはフレアの魔弓が許さなかった。

神速で突き立った矢が紫電を走らせ、触腕の動きを鈍らせる。

 

 

そしてノエルは遂に、黒山羊の元へと至ったのであった。

鼻につく濃い死臭を振り切って、彼女は両腕を蹄を履いた巨木のような脚にまわす。

「おりゃああああああああ!!!」

騎士は雄たけびを上げて、その尋常ならざる筋力を以て虚空へ化け物を投げ上げたのであった。

 

 

その好機を過たず、フレアは自身の持ちうる魔力を総動員して矢に送り込んだ。

黒山羊の体表を飾る矢も、その巨躯の内に取り込まれた無数の鏃も、それらは全て彼女の魔力で編まれたもの。

「爆ぜろぉぉぉっ!!」

それらの矢を、フレアは炸裂させたのである。

 

 

 

× × ×

 

 

 

轟と空に花開く大輪の爆炎。

耳をつんざく爆音は夜気を揺るがし、炸裂した閃光は夜空すら払わんばかりであった。

 

 

「よし!……汚ねぇ花火だ!」

シオンはいつもの調子を取り戻して、ドヤ顔で拳を突き上げた。

 

 

大きな花火を作らんと、魔女っ娘が思い立ったことに端を発するこの事件は、こうして大きな花火を打ち上げたことで幕を閉じたのである。

 

 

 

× × ×

 

 

 

地に転がって熱波と衝撃をやり過ごした二人に、腐汁のような血しぶきの雨が降り注いだ。

今はもう少女たちはそれを避ける気力すらなかった。

 

 

しばらくして、ノエルはどうにか体を起こした。そして魔力の限りを尽くして、倒れ込んだままのフレアに歩み寄った。

 

 

折しも夜明けの薄明が、西の空に夜の暗がり追いやっていく。差し込んだ曙光を背に、ノエルはフレアに手を差し伸べた。

「ねぇ、一緒に来ない?」

 

 

そしてハーフエルフの少女はエルフの村の呪縛を振り切り、騎士の少女が住む人の都市の傍に暮らし始めたのである。

 

 

 

———————(回想終わり)———————

 

 

 

二人の関係は排除すべき敵から始まり、共に背を預ける戦友へ、そして今や友以上の絆へと移ろってきた。

まさに、手持ち花火が散らす光の色のように。

 

 

フレアの手の花火が燃え尽き、彼女は“あ~あ”と残念そうな声を上げた。そう、燃え上がった花火はいずれは消える定めにある。

だとすると、自分たちはこれからどうなるのであろうか?

 

 

取り留めもなくノエルは思考を巡らせていると、彼女の前にはいつしかパートナーが立っていた。

月光を背にフレアは手持ち花火を差し出した。

「ねえ、ノエちゃんもやろっ!」

 

 

 

それは、配役を入れ替えてのあの日に再現のようにノエルの瞳には映った。

花火筒を両端から握る少女達、二人の手の指輪が月光を弾いて光ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ノエフレはいいぞ




(今回と関係する話)
姫森ルーナの怪物退治
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