「う~ん……」
「どうしたんだ、
友人の一条楽が、俺に問うた。
楽のすぐとなりには小野寺小咲がいて、二人は
視線を二人の横に向けると、そこはもう一人の友人である舞子集が、
俺は、先ほどの楽の問いに答える。
「いや……なんで君たちは
そう、彼ら彼女らはニセじゃない、本物のカップルになっているのだ。
すでに。
ここは漫画、「ニセコイ」の世界。俺はそこに生まれ変わった。
なんでかはわからない。わからないけど俺はここにいる。
タイトルが示すとおり、この作品は「ニセモノの恋人」という関係が物語のテーマなんだが……。
「のっけから破綻しとるじゃないか」
俺のつぶやきに二組のカップルは、頭にクエスチョンマークを浮かべた。
過去からの想いを吹っ切って、ニセの関係だった少女と本物の恋人になって完結、となる予定の
なんか俺が気づいた時には、楽の初恋の相手である小野寺さんとカップル成立してた。なんで?
ついでにというか、集と宮本さんもカップル成立してるし。ほんとなんで?
「やっぱり、このご時世だからかねぇ……?」
凡矢理高校の俺たちの教室の窓から、空を眺める。
朝のHR前の時間。
まだ太陽が低い位置にあり、その隣に、もう一つの輝く光点が見えた。
「隕石、ずいぶんおっきくなったね」
「だな……地球に落ちてくるのも、もうすぐって感じだ」
俺の言葉を受けてか、小野寺さんと楽が言った。
続けて集と宮本さんも口を開く。
「でも、こんな状況にでもならなきゃ、楽も小野寺に告白なんてできなかったろうし、怪我の功名でよかったんじゃない?」
「そうね。小咲もこんな状況でもなきゃ、てんぱって逃げ出してたでしょうし」
みんなの視線が、今、宇宙の果てから地球を目指して飛んでくる最中の、巨大隕石へと注がれた。
……そうなんだよ、なんでニセコイの世界で地球滅亡の危機なんて起きてるんだよ……。
痛くも無いのに、とっさに頭を抱えたくなった。
この隕石、あまりにも突然に地球激突のコース上に現れ、サイズのデカさから現行兵器じゃ破壊も不可能ときた。
不可避の現実を前に、俺たちの住む凡矢理市どころか世界の全てが現在、終末の中にある。
といっても、原作が原作だからか……残虐な暴動などは起きず、みんな悲しみは抱きつつも、粛々と事態を受け入れ……静かにこれまで通りの日常を過ごしていた。
「人生最後の大イベント……せっかくだし、総二も誰かにアタックして彼女つくってみたら?」
「誰かって、その相手がいないんだよなぁ」
終末を目前にしても、いつもの軽さを失わない集は心の頼りだが……。
「そりゃ俺も彼女、つくれるものならつくりたいけど」
「誰かいい人はいないの?」
「あいにく、これといって」
「こうなりゃ誰でもいいんじゃない?」
「いやそんな不純な……」
宮本さんや集と話していると、教室の扉が開いて、担任のキョーコ先生が入ってきた。
もうホームルームの時間のようで、みんなもそれぞれの席にもどった。
「えぇー、こんなご時世、こんなタイミングで、なんとこのクラスに転校生がきたぞ~」
先生の言葉で教室内がざわめく。
誰だろう?
原作の転校キャラだとメインヒロインのはずだが、こんな状況で引っ越してくる理由はないはずだし……。
「はじめまして。アメリカから転校してきた、桐崎千棘です!」
「来たの!?」
「え?」
原作ヒロインきちゃった!
驚きのあまり声にでた俺を、キョトンとした顔で見やる原作ヒロインこと転校生こと桐崎千棘。
と、彼女は遠くのものに視線をあわせるるように目を細め、俺の顔をジロジロと眺めはじめた。
「ぇ、なんですか……?」
金髪が朝日を受けて、光を放つように輝いている。
やはりメインヒロインだけあって、飛びぬけて可愛いな……。
宝石のような透き通ったブルーの瞳に見つめられ、俺は頬が熱くなるのを感じた。
桐崎千棘は赤面する俺にたいして、こう言う。
「ねえ、アナタ……どこかで会ったこと、ある?」
それは彼女自身も、自分の問いかけを疑問に思っている風な色があった。
「……いや、無い」
「そうよね……でも、どっかで見た気がするのよねぇ?」
俺は原作で君のことを知ってるけどね。でも、なんで向こうが俺の顔に覚えがあるんだ……?
原作の過去の場面──天狗高原で楽がヒロインたちと遊んでた場所には当然いなかったし、その後のどこかで彼女と出会った、なんてこともない。
「まあいいか、よろしくね」
「あ、うん。俺は
そんな流れで……原作とは違い、桐崎さんは楽の横ではなく、俺の隣の席に座ることとなった。
◇ ◆ ◇ ◆
休み時間。
変な時世にやってきた転校生で、なおかつ際立った美人なこともあり、桐崎千棘はクラスメイトにやんややんやと質問攻めにあっていた。
原作一話の冒頭、遅刻しそうになり学校の
朝から楽は無傷だったし、今も桐崎さんと楽は問題なく会話を交わしている。
二人とも、原作最初の険悪なムードがウソのように。それどころか、むしろ楽しそうだった。
「……やっぱり、根っこのところで気があうんだな」
「え、なにか言った?」
桐崎さんに
楽と会話しているところを見て漏れた俺の感想に、彼女は不思議そうな声を上げ、俺は「なんでもない」と被りをふる。
原作の彼女は、なんで凡矢理市に越してきたんだっけ……?
確か、家の都合だったかな?
彼女の実家はギャングで、楽の家がヤクザなことで、両家の衝突を回避するために二人はニセコイ関係になる、というのが本来の筋だが──。
隕石の衝突で地球そのものが消し飛ぶのを前に、おそらく両家の縄張り争いなんてことも起きてないんだろう。
楽からも、ヤクザとギャングの衝突云々なんて悩みも聞かなかったし。
転生者の俺がなにをするでもなく、本筋が崩壊しちゃってるんだが……このままでいいのかな?
別にいいか、原作をなぞらせるのは俺の役目じゃないし。
そもそも俺がここにいる理由も知らないし。どっちにしても世界は終わる間近だしな……。
◇ ◆ ◇ ◆
いつもの変わらぬ日々の中に、桐崎千棘というスパイスが添加された時間も流れて、今は放課後。
「草陰くんも、これから帰り?」
「桐崎さんも?」
下駄箱で、靴を手にとった彼女と帰宅のタイミングが重なった。
周囲に他の生徒の姿はなく……原作ヒロインと二人きりか。
「せっかくだし、家まで送ろうか?」
下心があった訳じゃないが、こんな超がつくほどの美少女とすぐ別れ、一人で家路につくのももったいない。
「なにがせっかくなの?w」と彼女も笑ってくれて、俺の緊張もほぐれた。
「いや、こんなご時世だし、女子の一人歩きは危ないと思ってさ」
「あぁ~、私は全然、大丈夫なんだけどね?」
知ってるよ。すぐ身近に銃を持った強面の人たちがついてるんだもんね、口には出さないけど。
でも、と彼女は言葉をつづけた。
「うん。せっかくだし、お言葉に甘えちゃおうかな」
夕焼けの静かな街を、俺と桐崎さんの二つの影が横並びに進む。
「夢の一つだったのよね~。こうして、お友だちといっしょに下校するの」
「今までなかったの、こういうこと?」
「ぅ、まぁ……ちょっと家がキビシくてね……」
「そうなんだ。立ち入ったことを聞くようだけど、なんでこんな妙なタイミングで転校してきたの?」
気になってたことだから、思い切ってたずねてみた。
「私ハーフで、パパがアメリカ人でママが日本人なの。家の関係でずっと海外で暮らしてたから、もう一つのルーツの日本を、最後に見ておきたかったのよ」
「なるほど……、そういうことだったのかぁ」
「凡矢理市はママの生まれ故郷なんだけど、いいところね、ここ。のんびりしてて、クラスのみんなもいい人たちで、本当に来てよかったわ」
屈託のない笑顔が俺に向けられ──たというわけではないが、夕日に染まるその笑みはとても美しく、ドキリと俺の心をうった。
「いいなぁ~……イチャイチャしやがってよぉ~……」
出し抜けに、幽霊かと錯覚しそうな恨みを込めた声が響いた。
俺たちの真正面──家への道をふさぐように、一人の男が立ちはだかっている。
ボサボサの髪に、酒で酔っているのか顔は赤く、瞳は正気を失ったように虚ろな……まさに、不審者を絵にかいたような人物。
「え、誰?」
「こんな世の中で、たまにいるんだよなぁ……
余所に比べてまだ落ち着いた人々の多くいる凡矢理でも、中にはいるのだ。人生の最後に好き勝手やってやろう、という者が。
俺は黙って、桐崎さんを庇うように一歩前に出た。
別に格闘技もなにもたしなんじゃいないし、人より力が強いわけでもないが、女の子一人くらいは守りたいという、せめてもの意地だ。
「オレにもイチャイチャをわけろー!!」
涙とともに不審者は飛びかかってくる。
と、俺のうしろから──スッと桐崎さんが歩み
「せっかくいい雰囲気だったのに……邪魔すんなぁーッ!!」
バゴォッ!と車が衝突したかのような大音響。
桐崎さん渾身の右フックが決まり、憐れ不審者は、文字通り星となって街の彼方へと吹っ飛んでいった。
えぇ……(困惑)。
原作ではおなじみのギャグ描写だけど、いざ目の当たりにすると、その異常さに目が点になる。
やっぱりマンガじみてるなぁ……いや漫画だけど、この世界は。
「あ、あはは。いや~、私ってちょっと人より力が強くて……」
「ぉ、うん、おかげでたすかったよ」
誤魔化し笑いの少女に、俺も棒読みで返すのがやっとだった。
「いいなぁ~……イチャイチャしやがってよぉ~……」
「えっ?」
デジャヴ、既視感。
今さっき盛大にぶっ飛ばされていった不審者が、そっくりおなじ様子でおなじセリフを吐きながら、そこにいた。
「まさかの双子!?」
桐崎さんがつっこむように驚いている。
双子……確かにそう考えなければ、この状況はおかしい。
けれど俺の目にはこの不審者が、
俺の動揺のようなものを感じてか、桐崎さんが視線だけ俺にむける。
「どうしたの、草陰くん……?」
「目のまえのが双子だとして、
でも……
「目のまえの奴、さっき君に殴り飛ばされた奴と、なにからなにまで一緒すぎるんだ……まるで
服装も、口調も、顔つきも、目つきも。
おなじ人間が二人いる、としか思えないくらいに……。
隣の桐崎さんの表情も、この不気味な男を前に、次第に青ざめはじめる。
不審者の男の体が、ブルリと震えた。
寒さにではない。まるで、虫が脱皮するように。
古い皮を脱ぎ捨てるように、男は──人間としての皮を脱ぎ捨てた。
「なっ……こいつは……!?」
俺は驚きに目を開く。
男は今、異形の存在へとその身を転化させていた。
成人男性より一回り大きな、緑色のサナギを思わせる人型の……それはまさに怪人と呼ぶべきモノ。
「カブトの『ワーム』!? え……なんでこの世界に……!?」
漫画であるニセコイとは別の、実写特撮ヒーロー番組……「仮面ライダーカブト」に出てくる敵怪人が、目の前にいる。
どういうことだよマジで……作接皆じゃねーかよえーっ!?
あまりにも意味不明な事態に動転している俺と、おなじく、目の前で人間が怪物に変わるという意味不明な現象を前に、腰を抜かしている桐崎さん。
そんな俺たちに構わず、ワームは奇声を上げながら飛びかかってきた。
「ッ!!」
なにも考える余裕はない。
が、横の少女だけでも助けなければと、俺は覆いかぶさるように自分の体を盾にして、桐崎さんの前に立った。
ワームが左手のかぎ爪を振り上げる。俺は人生の最期が思ったより早くおとずれてしまったのを悟る。
目を閉じるより前に、ワームの体が大きく真横に吹き飛ばされた。桐崎さんのパンチではない。
茜色の空に、背景を切り抜いてつくったような奇妙な穴があいていた。
穴の向こうはやはり奇妙な、ボンヤリと輝く異空間に繋がっているようだ。
ワームを吹っ飛ばしたのは、
「か、カブトゼクター……?」
赤いメカ昆虫は、それが自然なことであるように──俺の腰へと装着されたのだった。
なにか変わった組み合わせのクロスものを書きたいと思い、ならニセコイと仮面ライダーで。
具体的には最初に、現行作品のゼッツでと考え、頭の中で大まかなストーリーの流れは作れたんですが、なぜか文章に起こす意欲がわかず…。
そういえば、前に誰かニセコイとカブトのクロスで書いてたのがあったな…じゃあ今年20周年だし、自分もそれでやってみるか。
と出来上がったのがこれです。
自分でも、本当に原作の接点皆無だよな…と思うけど、そういうのやってみたかったからね、仕方ないね。