天を継がされたニセモノ   作:ほろろぎ

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第二話 変身、戦闘

 俺──草陰総二という異分子をはらんだ影響か……漫画が原作のこの「ニセコイ」世界に、まったく別の作品である「仮面ライダーカブト」の怪人が出現した。

 沈みかける夕日を背に、緑色の人型のサナギ──怪人ワームが、トマトソースに混じった野菜クズのように浮かんでいる。

 

 まるで、サプライズニンジャの展開だ。

 俺と、足がすくんで尻もちをついている桐崎千棘さんに向けて、ワームが襲いかかってきた。

 が、それは同じく唐突に現れた、メカニックのカブトムシにはばまれることに。

 

 

「カブト……ゼクター……?」

 

 

 次々と起こる意味不明な事態に、俺は呆然とそのメカブトムシの名をつぶやいた。

 赤い昆虫型メカは、ワームを突き飛ばすと、そのまま自然な流れで俺の腰に装着される。

 

 

HEN-SHIN(ヘンシン)

 

 

 ゼクターから機械音声が鳴り、細かな金属が細胞の増殖のようにひろがっていく。

 ハニカム状の金属片は組み合わさり、特殊な装甲となって、俺の全身をくまなくつつみこんだ。

 

 

「えぇーっ! 草陰くんが……なんかごっつくなった!?」

 

 

 横の桐崎さんの叫ぶような声が、装甲を通して聞こえてきた。

 俺の姿は、通りに立つカーブミラーに今、反射して確認できる。

 

 

『俺……仮面ライダーカブトになっちゃってる……!?』

 

 

 カブトムシのサナギをモチーフとした、銀色の重装甲を上半身にまとう、カブト マスクドフォーム。

 原作「仮面ライダーカブト」の主人公が変身した正義のヒーローであるこの姿に、なぜ凡人のモブでしかないはずの俺が……!?

 しかも一切の接点のないニセコイで!?

 

 

「草陰くん、危ないっ」

 

 

 桐崎さんの声で我に返る。

 ワームが立ち上がって、再び向かってきていた。

 いまいちど俺に致命の一撃を食らわせんと、かぎ爪のついた左腕を振るいながら。

 

 

『ッ!』

 

 

 俺はいつから持っていたのか、右手の中にあるこのライダーの専用武器である、カブトクナイガンを構えた。

 クナイガンという名前の通りクナイ……短剣のような近接モードと、遠距離のガンモードを使い分けることができる装備。

 

 俺は持ち手を銃身に変え、グリップ下部に備わる刃を降り抜いた。

 クナイガン第三の形態──アックスモードの刃先に集った高エネルギーが、すれ違いざまにワームを両断する。

 人間大の生物を斬ったにしては大した手応えもなく、ワームは活動を停止。緑色の炎を上げて爆発した。

 

 

『……っはー……』

 

 

 無意識に止まっていた息を吐く。

 ワームの死骸はなんの痕跡も残さず、きれいに消滅してしまっている。

 まるで今のこの出来事が夢であるように。

 

 

「桐崎さん、無事か……?」

 

 

 戦いが終わったためか、カブトゼクターは俺の腰から自動的に外れ、変身が解除された。

 俺はいまだ地面にへたりこんだままの彼女に手を伸ばし、ゆっくりと立たせてやる。

 

 気づけばゼクターの姿は見えなくなっていた。

 桐崎さんはもう言葉もなく、俺もなにを言えばいいのか……。

 

 お互いに整理がつかず、俺たちは無言で別れ、それぞれの家へと帰っていった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 前日にあんな突拍子もないことが起きたのに、今日は普通にやってくる。

 こんな変わらない日常も、隕石の落下ですべてが終わってしまうまで、あとどれくらい続くんだろう……。

 

 

「いや、それより前に……俺ってこれからカブトとして、ワームと戦わないといけない……のか?」

 

 

 ワームはあの一体だけが、俺のようにカブトの世界から紛れ込んできたのか、原作のように他に何体もいるのか。

 考えても答えにたどり着くわけがなく、俺は独り言をとめて凡高の教室のドアを開けた。

 

 

「あっ、お……オハヨウ、草陰クン」

「おぉ、おはよう、桐崎さん……」

 

 

 隣の席の金髪少女と、朝のあいさつを交わした。

 昨日のことは、彼女の中でもいまだ消化できていないのだろう。さっきの言葉もかなりぎこちなかった。

 俺も朝まで寝つけず、一晩中考えていた……なぜカブトの要素がこのニセコイ世界に混ざっているのか、そしてその力が自分の手にもたらされたのか。

 

 

(神様のせいで転生させられたんなら、説明に現れてくれてもいいんだけどなぁ)

 

 

 しかし、そんな連絡などなにもなく。

 眉間にしわを寄せていた俺に、桐崎さんが近づいて耳打ちするように話しかけてきた。

 

 

「ねえ、昨日のことだけど……」

「……ごめん、俺も上手く説明できない。っていうか、俺にもよくわかってない」

「あの怪人って、私たちを狙ってたよね」

「う~ん、あれはたまたまだったんじゃないかな? 通り魔てきな」

「そうなの? ずっとあんなのに狙われるわけじゃないなら、ひとまずは安心だけど……」

 

 

 と言いつつ、少女の顔から不安の色は消えていない。

 こんな状況なのに俺は、原作で見ることのなかった桐崎千棘の(おび)えきった姿……、どうしようもない恐れを抱いて小さくなっている彼女を、とても可愛らしく思ってしまった。不謹慎にも。

 

 だから自然と、らしくない言葉が口を突いて出る。

 

 

「心配しないでいい。君のことは、これからは俺が守るから」

「ぅぇ……!?」

 

 

 他にもワームがいると仮定した俺の決意。

 それを聞いた桐崎さんの顔が、瞬時に赤くなった。

 

 しまった。よくよく聞けば、まるで告白の台詞みたいだ……。

 でも訂正するのもなんか違うし……。

 

 髪の金と染まった頬の赤のコントラストが愛らしいままに、少女はもごもごと口を動かし、ゆっくりと自分の席に戻っていった。

 「あ、ありがと……」と、そう聞こえた気がした。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「なあなあ。総二ってもしかして、桐崎さんとつきあったりしてんの?」

「……へぇ!?」

 

 

 午後の家庭科の授業で、エプロンをつけた集がだしぬけにそう聞いてきたので、俺はとんちきな声を上げてしまった。

 

 日頃お世話になっている人に(人生最後の)感謝の気持ちを伝えよう、と俺たちは今グループにわかれてケーキをつくっている最中だ。

 楽は小野寺さんとキャッキャウフフとむつまじくやっているし、集も宮本さんといやよいやよもなんとやらの状況で、それを抜けてこんなことを聞いてきたのだ、わざわざ。

 

 

「で、どうなのよ?」

「な、なぜ突然そんなことを聞くのかね、君は」

「昨日クラスの奴らが見たって言うんだよ、お前と桐崎さんが二人っきりで下校する姿をな……!」

 

 

 集は眼鏡をキラリと光らせそう答えた。

 

 一瞬カブトとワームのことも見られたのかと思ったが、どうやら目撃されたのは学校を出てしばらくのところまでのようだ。

 よかった。

 あんなのが見つかって騒ぎになったら、ただでさえ隕石騒動で大変な世の中が、さらに混沌と化してしまう。

 

 

「ただ途中まで送り届けただけだよ」

「ほ~ん……それにしては、今朝のお前らはどこかよそよそしかったよな?」

「……変な所で目ざといなコイツ……」

「正直に言いたまえよ。今なら大人しく祝福してやるぜ、友よ」

「本当になんでもないって。それより、早く元の班にもどらないと、彼女の宮本さんが待ちわびてるぞ」

 

 

 実際、桐崎さんとはそんな関係じゃない。そんな関係になれたら、それは嬉しいけどさ。

 俺はごまかすみたいに、なんとか集を元のところへ帰すことに成功した。

 

 入れ替わるようにして桐崎さんが、俺のもとへトテテと小走りでやってくる。

 もじもじと、後ろ手になにかを隠しながら。

 

 

「あ、あの……これ」

 

 

 差し出されたのは

 

 

「……炭?」

「失礼ね! ケーキよ、これでも!」

 

 

 真っ黒い塊は、言われれば確かにケーキ用のカップにのせられている。

 頬をピンクに染めながら、少女は俺にケーキ──にしては彩りのなさすぎる──を手渡してきた。

 

 

「今、つくったの。い、一応、昨日のお礼ってことで……」

「あ、ありがとう」

「その、食べてみて。感想、聞かせてくれる……?」

 

 

 これ、原作でもあったな!

 あっちだと楽が手伝ってもこんな見た目になって、でも味は美味しいらしいんだよな。

 

 でも……今、楽は小野寺さんと一緒だし、桐崎さんが一人でつくったのかな……?

 だとしたら、失礼だけど、味の保証がないのでは……。

 原作の描写でこの子、単独だとめちゃくちゃ料理が下手なんだよなぁ。

 

 

「……じゃあ、いただきます……」

 

 

 期待をこめたキラキラした瞳でみつめられ、今食べないなんて選択肢はなかった。

 彼女がつくったお粥を摂取(せっしゅ)した楽は、確か意識を失ってぶったおれたはずだが……俺もそうなる未来を覚悟して、黒塊を口にいれる。

 

 

「……美味い」

「え、ほんと? よかった~!」

 

 

 見た目はただの炭の塊なのに、味はちゃんとケーキのそれで、心地よい甘味が口中にひろがっている。

 

 びっくりだ。

 原作と違い楽のサポートがないにもかかわらず、桐崎さんは、自分だけの力でこんな……ちゃんとした料理を……!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 家庭科の授業が終わり、放課後の一年C組──俺たちのクラスだ──で、俺はひとり残っていた。

 明日の授業の準備を先生から頼まれたためである。

 

 頼まれごとをこなしている最中にも俺は、さきほどのことを考えていた。

 

 

「桐崎さんのケーキ、美味かったなぁ……俺だけのためにつくってくれたんだもんなぁ……」

 

 

 思い上がりじゃないとしたら、彼女の俺に対する気持ちが伝わってくるような味だった。

 桐崎さんの想いを一方的に感じた俺は、決意を新たにする。

 

 

「俺は天道総司みたいな完璧超人じゃないけど……カブトに選ばれた者として、ライダーの力で絶対に桐崎さんを守りぬく……!」

 

 

 と、俺の気合に応えたわけでもないだろうが、教室内にとつじょとしてカブトゼクターが出現した。

 瞬間、俺は頼まれていた授業の準備をほうりだして、家庭科室へと走りだす。

 

 

「直感した……彼女が、桐崎さんが危ない……っ」

 

 

 今、桐崎さんは一人で道具などの最終的な片付けを頼まれているんだ。

 飛び降りるようにして階段を駆け降り、おとずれた家庭科室のドアを壊れんばかりに引き開ける。

 

 

「桐崎さん!」

「……へぇっ!? く、草陰くん!?」

 

 

 室内には、一人の男子生徒に、いわゆる壁ドンをされているまっただ中の桐崎千棘がいた。

 

 

「うおぉ!? ……おぉぅ!?」

 

 

 予想だにしていなかった衝撃の光景を目の当たりにしたことで、言葉にならない言葉が漏れる。

 なんか……ショックだ。心にズキンと痛みが走る。

 そして誰だこいつ!?

 

 こちらに背を向け、桐崎さんに壁ドンしていた男が、ゆっくりとふり向いた。

 

 

「ぇ……俺……?」

「草陰くんが、二人いる……!?」

 

 

 俺も桐崎さんもパニックに襲われたように、おなじ驚きを見せる。

 目の前の俺そっくりの男は、目鼻立ちも髪型も、背格好も──なにもかもが俺そのものだった。

 まるで──複製(コピー)されたかのように……。

 

 

「っ、ワームか!」

 

 

 もう一人の俺は、ニヤリと不気味に口角を上げ……緑色のサナギ状の姿へと変態した。

 飛来したカブトゼクターをキャッチする。

 

 

「変身っ!」

HEN-SHIN(ヘンシン)

 

 

 ゼクターを腰に装填し、マスクドアーマーが俺の身を包み込んだ。

 ワームが動き出すより前に、クナイガン・ガンモードの銃身を敵に向ける。

 

 三点のレーザーポインターが標的を完璧にロックし、怒りとともに連射したイオン光弾が怪人の体を穴だらけに。

 必殺の「アバランチシュート」を食らったサナギワームは、緑色の炎を噴出して、やがて消滅した。

 

 

「ごめん、気づくのが遅れた」

 

 

 変身を解いて、桐崎さんの元へ駆けよる。

 少女は呆然とした顔で俺を見やった。

 

 

「大丈夫……?」

「あ、うん。まさか、草陰くんのニセモノだったなんてね……」

 

 

 あはは、と彼女は照れ隠しのように笑った。

 

 

 「けっこういい雰囲気だったのに、だまされたなぁ……」

 

 

 小さくつぶやかれた少女の残念そうな言葉が、妙に耳に残った。




 戦闘シーンが瞬殺で物足りないかもしれませんが、一応ニセコイがベースのお話しなので、そこをじっくりやるのも違うかな、と。
 でもバトルがすぐ終わるならライダーとクロスさせた意味も少ない気もして、バランスが難しい…。

 2話分しか書き溜めてないので、以降更新ペースは落ちます。
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