天を継がされたニセモノ   作:ほろろぎ

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第三話 告白

「いやぁ~、楽ん家に遊びにくるのもひさびさだな~」

「私はいつもきてるよ~」

 

 

 豪華な日本家屋のお屋敷を前に、集の言葉を受けたのか、小野寺さんがさらりと惚気(のろけ)た。

 今、俺──草陰総二と桐崎さん、集と宮本さんに小野寺さんの五人は、楽の実家であるヤクザの本山……集英組へとおとずれていた。

 

 

『私、友だちの家に集まっていっしょに勉強会をする、ってのに憧れがあって』

 

 

 会話の合間にふと桐崎さんがそうこぼしたのを聞いて、誰ともなしに「じゃあやろっか」と実現されたのが、今回の集会の経緯である。

 都合がいいことに──いや、悪いのか?……近々学校でテストが控えているんだ。

 世界の終わり間際にまでテストをやって、なにを計ろうっていうんだか……まあ、キョーコ先生なりのイベントみたいなものだろう。

 

 

「ぅ……うぅ~……」

 

 

 しかし、……わからん。

 

 

「どうしたの?」

「いや、意外と問題がむずかしくて」

 

 

 俺の(うめ)きに反応した桐崎さんに、今向きあってる難問を見せる。

 

 

「あぁ、これ! これはね、ここをこうして~」

「ふんふん」

「こうすれば、ね?」

「え、そんな簡単に解けるの? 桐崎さんってほんとに頭良いんだな……」

「ま、まぁ自慢じゃないけど、アメリカの学校じゃ成績Aだったからね!」

 

 

 照れつつも褒められて得意げになる様が可愛い。

 そうして彼女に解けない所をいろいろと教えてもらいながら、俺もほかの四人もつつがなく勉学の時間を進めていった。

 

 

『……ここで、緊急速報です』

 

 

 ある程度の時が過ぎ、いったん小休憩をはさんだ頃。

 BGM代わりにつけていたテレビから、そんな声が流れてきた。

 

 

「なんだ?」

『以前より地球に向けて飛来していた巨大隕石が、とつじょとしてその速度を落とし始めました……!』

 

 

 俺たちは顔を見合わせる。

 テレビからは続けて速報が。

 

 

『このままいけば、隕石は地球との衝突コースを外れるかもしれません!』

 

 

 喜びを隠せないアナウンサーの声。

 いきなりのことで、朗報にもかかわらず、俺たちにその実感はなかなか(おとず)れない。

 

 

「……マジか」

「ウソじゃないよね……?」

「これがドッキリだったらテレビ局が襲撃されるぞ」

「ってことは」

「本当なんだ……」

 

 

 次第に湧き上がる安堵と歓喜。

 誰ともなく、「やったー!」と叫び声が上がる。

 

 楽と小野寺さんは嬉しさのあまり抱き合い、どさくさに紛れて宮本さんに抱きつこうとした集は制裁を受けた。

 俺と桐崎さんも、静かにこの喜びに身をゆだねた。

 

 と、桐崎さんの携帯電話にコールが。

 

 

「ごめん、家から! 急いで帰ってこいって」

「この朗報をお家の全員で祝おうってことかな?」

「多分そうだと思う。悪いけど、私帰らなきゃ」

「送ろうか?」

「ううん、もう大丈夫だと思うから。それじゃ、みんなお先に!」

 

 

 桐崎さんの実家がギャングなことは、原作を見ている俺以外はまだ知らないことだ。

 俺は転生前に知ってる、ということを知らない桐崎さんは、俺にも誰にもまだ素性を明かしたくないんだろう。

 

 大人しく彼女を見送ったあと、俺たちも、せっかくこの良い知らせを聞いて勉強してる場合じゃないだろう、と(つど)いもお開きに。

 小野寺さんは楽の家に残り、集と宮本さんもどこかへと消えた。

 

 俺も、柔らかな安堵を胸に、ひとり帰路につく。

 といっても直帰はせず、なんとなしに街をぶらつきながら、遠回りしてゆっくりと自宅への歩みを進めていた。

 周りを見渡せば街行く人たちもみんな、さっきのニュースを聞いて浮足立っている様子。

 

 

「まだ平穏だったこの街だけど、それでもしんみりした雰囲気があったからな。ひさしぶりに明るいムードで、いい感じだ」

 

 

 空を見上げる。

 太陽の横にあるもう一つの明るい光──隕石の存在は、地上からの目視ではこれまでと変わらないように思える。

 

 本当にスピードが落ちてるんかいな?

 と少なからぬ疑問を浮かべながら、そういえば、と一つの事に気がつく。

 

 

「この世界にワームがいるなら、あの隕石も……カブトの原作に出てたやつってこと、だよな……?」

 

 

 あの隕石は確か、渋谷を壊滅させた原因で……そもそもなんで隕石が落ちてきたんだっけ。

 隕石の中にワームがいて、それが渋谷に落ちて以降に地球上でワームが活動を始めた……はず。

 でも、この世界じゃまだ隕石は落ちてない。なのにワームはすでにいて……?

 

 

「うわっ!?」

 

 

 俺の思考をさえぎるようにカブトゼクターが飛んできた。

 空間をこじ開けた通路であるジョウント・スペースは開きっぱなし。

 その虹色の空洞から、桐崎さんの声が聞こえてくるではないか。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

 なんだかこれまでと様子の違う挙動をみせるカブトゼクター。

 ジョウント空間から漏れてくる少女の声が、ノイズ混じりに俺の耳に入ってきた。

 

 

『……なんdこ……こno機械は……』

『お嬢……我らの役目h……』

 

 

 ひどく動揺した様子で、桐崎さんは誰かと話している。

 相手は声と喋り方からして、彼女の側近のギャングの幹部──クロードだろうか。

 

 

『隕石を呼び寄せ……ワームが支配……』

 

 

 クロードと桐崎さんの断片的な会話を推測するに……

 

 

「桐崎さん家のギャングはワームの隠れ蓑で、ワームが隕石を地球に呼び寄せてる……ってことか!?」

 

 

 スタンドも月までぶっ飛ぶこの衝撃の事実。

 隣を飛ぶカブトゼクターが、俺の言葉を肯定するような動きを見せた。

 

 そして思い出す。

 カブトの劇場版で終盤、引き寄せた巨大隕石の内部には多数のワームが潜んでいて、それを地球に落として人類を滅ぼし、代わりにワームが支配する世界に変えようって作戦があったな確か!

 

 

「それをこの世界でもやろうってことかよ……。でも、隕石は速度が落ちてるんだよな?」

 

 

 直後に、『隕石の誘引装置が不調』、といったような声が途切れ途切れに聞こえてきた。

 

 

「運がいい……けど桐崎さんが囚われてるっぽいのは運が悪い!」

 

 

 俺はカブトゼクターに案内され、急いで彼女の住むお屋敷へ駆け出した。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 桐崎邸はお城のような外観そのまま、どころかそれよりもさらに広く、複雑な内部構造をしていた。

 俺は現在、カブトゼクターの先導で邸宅内部に潜入中だが──。

 

 

「まさか、一般邸宅?のなかに研究施設や、その他の怪しげな部屋が満載になってるとは……」

 

 

 天井には監視カメラまでしかけられている。

 それらに映らないよう、また屋敷内を巡回しているギャング……に扮したワームに見つからないよう、慎重に歩みを進めているが──。

 

 

「いったいどこなんだ、桐崎さんが捕まってる部屋は?」

 

 

 目の前を飛ぶゼクターは、もう少し、というような動きをしてみせた。

 

 

「それにしても……さっきの研究施設には、ゼクターの試作品みたいな部品が転がってたけど……お前もここで造られたのか……?」

 

 

 確か原作のカブトでも、ライダーシステムはワームの──その中でも人間に協力する「ネイティブ」という勢力の協力で誕生したはずだが、この世界でもそうなんだろうか。

 俺の問いには答える動きなく、代わりにカブトゼクターは目の前の扉の前で静止した。

 

 

「ここか……」

 

 

 音を立てないよう、ゆっくりと金色のノブを回す。

 果たして簡素な室内には、中央に置かれたイスに座らされている目的の少女の姿があった。

 

 

「……!」

 

 

 桐崎さんは俺を見て声を上げそうになったが、なんとかこらえてくれた。

 見つからないうちに部屋に入って、後ろ手にドアを閉める。

 

 

「草陰くん……なんでここに……!?」

「こいつに案内されてね」

 

 

 横のゼクターを指さす。

 見れば少女の体は、とくに縛られるなどの拘束はうけてないようだった。

 しかし、ならなぜ一人でも逃げようとしなかったんだろう。

 とりあえず、うなだれていた桐崎さんに声をかける。

 

 

「その……大体の事情はわかってるよ。家の人たち、みんなワームにすり替わってるみたいだね……」

「……だけじゃない……」

 

 

 あまりにもか細い、消え入りそうな言葉は普段の少女からは想像できないものだった。

 

 

「え……?」

「ウチのみんなだけじゃない……私も……」

 

 

 なんだか猛烈に嫌な予感がする。その先を言ってほしくない──

 が、少女は涙を浮かべた顔を上げ、俺に言葉の先を告げる。

 

 

「私も、ワームだった……私、本物の桐崎千棘じゃ、なかった……!」

「は、な……なにを言って……」

 

 

 差し出された彼女の右腕が、俺の前で変質する。

 柔らかな肌がこぼれ落ちるように剥離し、緑色の昆虫じみた体表をあらわにした。

 

 

「桐崎さんが……ワーム……」

 

 

 事態が上手く呑み込めない俺は、ただ呆然とそうもらす。

 少女は緑色の腕と人間のままの腕で顔をおおい、静かに泣き出した。

 

 いや、しかし、そうなのか……? なら、彼女がマンガじみた怪力の持ち主なのも、正体が怪人なら納得できるのか……。

 

 

「そんな伏線の回収、ありかよ……」

 

 

 ただただ受け入れがたい事実に打ちのめされている俺たち。

 不意に、部屋の中にもう一つの気配が感じられた。

 ふり向くと、ドアの内に白い背広を着た白髪の青年が一人。

 

 

「あんたは……」

「はじめまして、ですね。お嬢の側近を務めている、クロードと申します」

 

 

 にこやかな笑みをたたえ自己紹介した男は、原作を読んでた俺にもなじみのある人物だった。

 そして、ギャング筆頭のこの男もおそらく……カブトゼクターがクロードを威嚇(いかく)するように、俺の眼前におどり出る。

 

 

「ほう、ゼクターが選んだ人間は貴方でしたか。お嬢を守ってくださりありがとうございました」

「やっぱりコイツはあんたらワームがつくってたのか……」

「我らワームの中にも、人間との共存などと抜かす腑抜(ふぬ)けた連中がいましてね。ゼクターはその腑抜け連中が、敵対する我々をたおすためにこしらえていた物ですよ」

 

 

 もっとも、敵対者らはもうこの世に居ませんが、とクロードはつけ加えた。

 

 

「ヤツらはワームの女王となるべき千棘お嬢の暗殺を目論んでいましたが、それがまさか、自分たちのつくった兵器で自分たちが始末されるなどと、思ってもいなかったでしょう」

 

 

 桐崎さんを救えたのはよかったんだろうが、でも彼女の正体はワームで、俺は人間に味方してくれるかもしれなかったワームをたおしてしまい……どう感情を整理すればいいんだよ……!?

 

 

「不本意ながら我らの力となってくれた貴方は特別に、この星をワームの世界に変えたあとでも生かしておいてあげましょうかね」

「……なんかもう勝った気でいるけど、俺が抵抗するって考えてないの?」

「抵抗しても無駄ですよ。今この星に向かっている隕石にも、我らの同胞が多数乗り込んでいます。今は誘導装置が不調ですが、故障さえ直せば、ね」

 

 

 圧倒的に多勢に無勢、か……。

 肩を落とす俺に、優位なクロードは穏やかに語りかける。

 

 

「どうです、今ならお嬢のお気に入りのペットとして、三食におやつもつけますが?」

「…………」

 

 

 俺は力なく両手を上げた。

 クロードは満足げに笑みを浮かべる。

 俺は上げた手で……カブトゼクターをキャッチした。

 

 

「夜食もつかなきゃヤだね! 変身ッ」

 

 

 瞬時に銀色のマスクドアーマーが俺の全身をおおう。

 ここは敵の本拠地、他のワームが来て集団戦になったら不利だ。

 

 

『いっきにケリをつけてやる。キャストオフ……!』

 

 

 ベルトに装着されたカブトゼクターの角にあたるレバー、ゼクターホーンに手をかける。

 上半身の重装甲のロックが外れ、高速移動形態のライダーフォームに……なることはなかった。

 

 

『!? ……なんで、キャストオフできない……ッ!?』

 

 

 ゼクターホーンは力を込めても微動だにしない。

 これまで俺のことを認めてくれていたはずのカブトゼクターは、この状況になって初めて俺の意に反する。

 

 

「フハハハ。どうやら今の貴方には、心の内で迷いがあるようですね」

 

 

 喜劇を鑑賞する観客のように、動揺する俺を面白そうに見下ろしているクロード。

 俺の中に迷いだって……?

 

 

「これまで貴方は、お嬢を守るために力を使っていた。そのお嬢がワームと知って、貴方は誰のために闘うのです?」

『……ッ』

 

 

 横の桐崎さんは、やはり涙の痕を残したまま俺を見つめている。

 俺は……誰のために……なんのために……

 

 体から力が抜けていく。

 呼応するように、カブトへの変身が解けてしまった。

 

 

「ゼクターは王の証……もはや貴方は、その器ではない」

 

 

 カブトゼクターが、クロードの手によって力づくでもぎ取られていく。

 

 

「この力は、これから我らワームのために使わせてもらいましょう……」

 

 

 クロードは、無理矢理にカブトゼクターを腰のベルトに装填。

 その身が()()()()()()()()()()()におおわれていくのを、俺は成すすべなく見守るしかなかった……。




 長らくお待たせしてすみません、あらかじめ組んでいたプロットだと内容が弱い気がして、残り話数をつくり直してました。
 その結果、全6話で考えてたものが4話になり、次回で早くも最終回となります…。
 なので最後までお付き合いお願いしますね。
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