「いやぁ~、楽ん家に遊びにくるのもひさびさだな~」
「私はいつもきてるよ~」
豪華な日本家屋のお屋敷を前に、集の言葉を受けたのか、小野寺さんがさらりと
今、俺──草陰総二と桐崎さん、集と宮本さんに小野寺さんの五人は、楽の実家であるヤクザの本山……集英組へとおとずれていた。
『私、友だちの家に集まっていっしょに勉強会をする、ってのに憧れがあって』
会話の合間にふと桐崎さんがそうこぼしたのを聞いて、誰ともなしに「じゃあやろっか」と実現されたのが、今回の集会の経緯である。
都合がいいことに──いや、悪いのか?……近々学校でテストが控えているんだ。
世界の終わり間際にまでテストをやって、なにを計ろうっていうんだか……まあ、キョーコ先生なりのイベントみたいなものだろう。
「ぅ……うぅ~……」
しかし、……わからん。
「どうしたの?」
「いや、意外と問題がむずかしくて」
俺の
「あぁ、これ! これはね、ここをこうして~」
「ふんふん」
「こうすれば、ね?」
「え、そんな簡単に解けるの? 桐崎さんってほんとに頭良いんだな……」
「ま、まぁ自慢じゃないけど、アメリカの学校じゃ成績Aだったからね!」
照れつつも褒められて得意げになる様が可愛い。
そうして彼女に解けない所をいろいろと教えてもらいながら、俺もほかの四人もつつがなく勉学の時間を進めていった。
『……ここで、緊急速報です』
ある程度の時が過ぎ、いったん小休憩をはさんだ頃。
BGM代わりにつけていたテレビから、そんな声が流れてきた。
「なんだ?」
『以前より地球に向けて飛来していた巨大隕石が、とつじょとしてその速度を落とし始めました……!』
俺たちは顔を見合わせる。
テレビからは続けて速報が。
『このままいけば、隕石は地球との衝突コースを外れるかもしれません!』
喜びを隠せないアナウンサーの声。
いきなりのことで、朗報にもかかわらず、俺たちにその実感はなかなか
「……マジか」
「ウソじゃないよね……?」
「これがドッキリだったらテレビ局が襲撃されるぞ」
「ってことは」
「本当なんだ……」
次第に湧き上がる安堵と歓喜。
誰ともなく、「やったー!」と叫び声が上がる。
楽と小野寺さんは嬉しさのあまり抱き合い、どさくさに紛れて宮本さんに抱きつこうとした集は制裁を受けた。
俺と桐崎さんも、静かにこの喜びに身をゆだねた。
と、桐崎さんの携帯電話にコールが。
「ごめん、家から! 急いで帰ってこいって」
「この朗報をお家の全員で祝おうってことかな?」
「多分そうだと思う。悪いけど、私帰らなきゃ」
「送ろうか?」
「ううん、もう大丈夫だと思うから。それじゃ、みんなお先に!」
桐崎さんの実家がギャングなことは、原作を見ている俺以外はまだ知らないことだ。
俺は転生前に知ってる、ということを知らない桐崎さんは、俺にも誰にもまだ素性を明かしたくないんだろう。
大人しく彼女を見送ったあと、俺たちも、せっかくこの良い知らせを聞いて勉強してる場合じゃないだろう、と
小野寺さんは楽の家に残り、集と宮本さんもどこかへと消えた。
俺も、柔らかな安堵を胸に、ひとり帰路につく。
といっても直帰はせず、なんとなしに街をぶらつきながら、遠回りしてゆっくりと自宅への歩みを進めていた。
周りを見渡せば街行く人たちもみんな、さっきのニュースを聞いて浮足立っている様子。
「まだ平穏だったこの街だけど、それでもしんみりした雰囲気があったからな。ひさしぶりに明るいムードで、いい感じだ」
空を見上げる。
太陽の横にあるもう一つの明るい光──隕石の存在は、地上からの目視ではこれまでと変わらないように思える。
本当にスピードが落ちてるんかいな?
と少なからぬ疑問を浮かべながら、そういえば、と一つの事に気がつく。
「この世界にワームがいるなら、あの隕石も……カブトの原作に出てたやつってこと、だよな……?」
あの隕石は確か、渋谷を壊滅させた原因で……そもそもなんで隕石が落ちてきたんだっけ。
隕石の中にワームがいて、それが渋谷に落ちて以降に地球上でワームが活動を始めた……はず。
でも、この世界じゃまだ隕石は落ちてない。なのにワームはすでにいて……?
「うわっ!?」
俺の思考をさえぎるようにカブトゼクターが飛んできた。
空間をこじ開けた通路であるジョウント・スペースは開きっぱなし。
その虹色の空洞から、桐崎さんの声が聞こえてくるではないか。
「どうしたんだ?」
なんだかこれまでと様子の違う挙動をみせるカブトゼクター。
ジョウント空間から漏れてくる少女の声が、ノイズ混じりに俺の耳に入ってきた。
『……なんdこ……こno機械は……』
『お嬢……我らの役目h……』
ひどく動揺した様子で、桐崎さんは誰かと話している。
相手は声と喋り方からして、彼女の側近のギャングの幹部──クロードだろうか。
『隕石を呼び寄せ……ワームが支配……』
クロードと桐崎さんの断片的な会話を推測するに……
「桐崎さん家のギャングはワームの隠れ蓑で、ワームが隕石を地球に呼び寄せてる……ってことか!?」
スタンドも月までぶっ飛ぶこの衝撃の事実。
隣を飛ぶカブトゼクターが、俺の言葉を肯定するような動きを見せた。
そして思い出す。
カブトの劇場版で終盤、引き寄せた巨大隕石の内部には多数のワームが潜んでいて、それを地球に落として人類を滅ぼし、代わりにワームが支配する世界に変えようって作戦があったな確か!
「それをこの世界でもやろうってことかよ……。でも、隕石は速度が落ちてるんだよな?」
直後に、『隕石の誘引装置が不調』、といったような声が途切れ途切れに聞こえてきた。
「運がいい……けど桐崎さんが囚われてるっぽいのは運が悪い!」
俺はカブトゼクターに案内され、急いで彼女の住むお屋敷へ駆け出した。
◇ ◆ ◇ ◆
桐崎邸はお城のような外観そのまま、どころかそれよりもさらに広く、複雑な内部構造をしていた。
俺は現在、カブトゼクターの先導で邸宅内部に潜入中だが──。
「まさか、一般邸宅?のなかに研究施設や、その他の怪しげな部屋が満載になってるとは……」
天井には監視カメラまでしかけられている。
それらに映らないよう、また屋敷内を巡回しているギャング……に扮したワームに見つからないよう、慎重に歩みを進めているが──。
「いったいどこなんだ、桐崎さんが捕まってる部屋は?」
目の前を飛ぶゼクターは、もう少し、というような動きをしてみせた。
「それにしても……さっきの研究施設には、ゼクターの試作品みたいな部品が転がってたけど……お前もここで造られたのか……?」
確か原作のカブトでも、ライダーシステムはワームの──その中でも人間に協力する「ネイティブ」という勢力の協力で誕生したはずだが、この世界でもそうなんだろうか。
俺の問いには答える動きなく、代わりにカブトゼクターは目の前の扉の前で静止した。
「ここか……」
音を立てないよう、ゆっくりと金色のノブを回す。
果たして簡素な室内には、中央に置かれたイスに座らされている目的の少女の姿があった。
「……!」
桐崎さんは俺を見て声を上げそうになったが、なんとかこらえてくれた。
見つからないうちに部屋に入って、後ろ手にドアを閉める。
「草陰くん……なんでここに……!?」
「こいつに案内されてね」
横のゼクターを指さす。
見れば少女の体は、とくに縛られるなどの拘束はうけてないようだった。
しかし、ならなぜ一人でも逃げようとしなかったんだろう。
とりあえず、うなだれていた桐崎さんに声をかける。
「その……大体の事情はわかってるよ。家の人たち、みんなワームにすり替わってるみたいだね……」
「……だけじゃない……」
あまりにもか細い、消え入りそうな言葉は普段の少女からは想像できないものだった。
「え……?」
「ウチのみんなだけじゃない……私も……」
なんだか猛烈に嫌な予感がする。その先を言ってほしくない──
が、少女は涙を浮かべた顔を上げ、俺に言葉の先を告げる。
「私も、ワームだった……私、本物の桐崎千棘じゃ、なかった……!」
「は、な……なにを言って……」
差し出された彼女の右腕が、俺の前で変質する。
柔らかな肌がこぼれ落ちるように剥離し、緑色の昆虫じみた体表をあらわにした。
「桐崎さんが……ワーム……」
事態が上手く呑み込めない俺は、ただ呆然とそうもらす。
少女は緑色の腕と人間のままの腕で顔をおおい、静かに泣き出した。
いや、しかし、そうなのか……? なら、彼女がマンガじみた怪力の持ち主なのも、正体が怪人なら納得できるのか……。
「そんな伏線の回収、ありかよ……」
ただただ受け入れがたい事実に打ちのめされている俺たち。
不意に、部屋の中にもう一つの気配が感じられた。
ふり向くと、ドアの内に白い背広を着た白髪の青年が一人。
「あんたは……」
「はじめまして、ですね。お嬢の側近を務めている、クロードと申します」
にこやかな笑みをたたえ自己紹介した男は、原作を読んでた俺にもなじみのある人物だった。
そして、ギャング筆頭のこの男もおそらく……カブトゼクターがクロードを
「ほう、ゼクターが選んだ人間は貴方でしたか。お嬢を守ってくださりありがとうございました」
「やっぱりコイツはあんたらワームがつくってたのか……」
「我らワームの中にも、人間との共存などと抜かす
もっとも、敵対者らはもうこの世に居ませんが、とクロードはつけ加えた。
「ヤツらはワームの女王となるべき千棘お嬢の暗殺を目論んでいましたが、それがまさか、自分たちのつくった兵器で自分たちが始末されるなどと、思ってもいなかったでしょう」
桐崎さんを救えたのはよかったんだろうが、でも彼女の正体はワームで、俺は人間に味方してくれるかもしれなかったワームをたおしてしまい……どう感情を整理すればいいんだよ……!?
「不本意ながら我らの力となってくれた貴方は特別に、この星をワームの世界に変えたあとでも生かしておいてあげましょうかね」
「……なんかもう勝った気でいるけど、俺が抵抗するって考えてないの?」
「抵抗しても無駄ですよ。今この星に向かっている隕石にも、我らの同胞が多数乗り込んでいます。今は誘導装置が不調ですが、故障さえ直せば、ね」
圧倒的に多勢に無勢、か……。
肩を落とす俺に、優位なクロードは穏やかに語りかける。
「どうです、今ならお嬢のお気に入りのペットとして、三食におやつもつけますが?」
「…………」
俺は力なく両手を上げた。
クロードは満足げに笑みを浮かべる。
俺は上げた手で……カブトゼクターをキャッチした。
「夜食もつかなきゃヤだね! 変身ッ」
瞬時に銀色のマスクドアーマーが俺の全身をおおう。
ここは敵の本拠地、他のワームが来て集団戦になったら不利だ。
『いっきにケリをつけてやる。キャストオフ……!』
ベルトに装着されたカブトゼクターの角にあたるレバー、ゼクターホーンに手をかける。
上半身の重装甲のロックが外れ、高速移動形態のライダーフォームに……なることはなかった。
『!? ……なんで、キャストオフできない……ッ!?』
ゼクターホーンは力を込めても微動だにしない。
これまで俺のことを認めてくれていたはずのカブトゼクターは、この状況になって初めて俺の意に反する。
「フハハハ。どうやら今の貴方には、心の内で迷いがあるようですね」
喜劇を鑑賞する観客のように、動揺する俺を面白そうに見下ろしているクロード。
俺の中に迷いだって……?
「これまで貴方は、お嬢を守るために力を使っていた。そのお嬢がワームと知って、貴方は誰のために闘うのです?」
『……ッ』
横の桐崎さんは、やはり涙の痕を残したまま俺を見つめている。
俺は……誰のために……なんのために……
体から力が抜けていく。
呼応するように、カブトへの変身が解けてしまった。
「ゼクターは王の証……もはや貴方は、その器ではない」
カブトゼクターが、クロードの手によって力づくでもぎ取られていく。
「この力は、これから我らワームのために使わせてもらいましょう……」
クロードは、無理矢理にカブトゼクターを腰のベルトに装填。
その身が
長らくお待たせしてすみません、あらかじめ組んでいたプロットだと内容が弱い気がして、残り話数をつくり直してました。
その結果、全6話で考えてたものが4話になり、次回で早くも最終回となります…。
なので最後までお付き合いお願いしますね。