ハイスクールD×D~混血悪魔のクロニクル~   作:星屑の騎士

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世間は3連休中なのでここでさらに更新となります!

今回も楽しんでもらえたら幸いです。


エルフの少女の救い

 

 父メフィスト・フェレスから回された仕事、その最初のひとつは堕天使の違法研究所の制圧だった。

 

 そこは某国の深い深い森の奥に存在した。

 

 森のなかを奥へ奥へと向かう道中、さまざまな動物の特徴を持つ複合体──キメラに襲われたが、蓮夜の相手にはならず、敵に気づかれることなく始末していった。

 

「……これで五十匹め。どれだけ作っているんだか」

 

 蓮夜は短く嘆息した。

 

 いま打ち倒したキメラは、似た生物を挙げるなら狼だが翼が生えており、とても尋常な生物とは思えない。

 

 キメラがこれだけ造られているということは、それだけ犠牲になったもとになった生物がいるということだ。

 

 魔法を使えばさすがに感知されるため、槍術や体術で最低限な動きで戦っているとはいえけっこうな数のはずだが、蓮夜は呼吸が乱れた様子はなかった。

 

 これもクー・フーリンのケルト式修業のおかげで、底なしの体力が身についているおかげだった。

 

 森のなかを危なげなく移動できるのも、クー・フーリンに教わったケルト式サバイバル術の賜物である。

 

 いまも当てもなく探しているわけではなく、道の踏み鳴らし具合から蓮夜が判断した進路を進んでいたのだが、魔法に頼らないスニーキング技術はさすがだ。

 

 そうして未確認生物を斃しながら進む蓮夜は、やがて開けた場所に出た。

 

 そこに自然豊かな森に似つかわしくない人工物──白い建物が建っているのが確認できる。

 

(……見張りがいるか)

 

 木々の陰から様子を窺う蓮夜は、出入り口立つ武装したふたりの男を視認していた。

 

 警戒のほどは、常日頃のものと変わらなさそうに見えるのは騒がれる前に魔物を打ち倒してきたからだろう。

 

(……それだけやましいことがあるって言ってるようなものだ)

 

 鋭い視線で観察し、尋常な視線でないことを改めて確認する。

 

 見張りの男ふたりに加え、彼らの足下には狼のような生物、出入り口上部には監視カメラも確認できた。

 

(──まだ気づかれたくはないな。研究資料……証拠を持ち逃げしようってだけならなんとかなるが、消されたりしたら困るしな)

 

 そう考えたときには、蓮夜は行動に移していた。

 

 まず監視カメラに幻術によってフェイク映像を差し込んで何事も起きていないように見せかける。

 

 電子機器にも有効な魔法は、監視カメラの多い現代社会には必須の技術だった。

 

 そして、蓮夜は魔法を使わずにおこなう高速移動──縮地にて消えるように移動し、瞬く間に見張りに接近する。

 

 両手で見張りふたりに、片足で狼に触れると電流を流して脳を焼き、絶命させた。

 

 倒れかけた男ふたりを支えて物音を立てさせず、壁に寄りかからせて遠目には見張りしているように見せかけ、狼は仕方ないので寝転がして眠っているように擬装する。

 

 敵に動きがないことを確認し、蓮夜は見張りの男たちの懐を漁り、カードキーを見つけるとカードリーダーにスキャンさせ、ゲートを開かせると音もなく内部へと侵入していった。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

 

              

 

 

 研究所内部は、どこを見ても病的なまでに白く如何にも実験施設といった様相だった。

 

 目も頭も痛くなりそうな通路を蓮夜は、時に物陰に身を隠して人をやり過ごし、時に監視カメラを幻術で騙しながら奥へ奥へと進んでいく。

 

(──ここまでなようだな)

 

 順調に進んでいた蓮夜だったが、カードキーをスキャンしてもエラーが出るため足を止めざるを得なかった。

 

 このカードキーで許された権限は、ここまでということだ。

 

(まぁ、見張りをやらされるような奴のカードキーでは、さもありなんってところか)

 

 たいして期待してなかった、と蓮夜はカードキーを証拠品として懐にしまって今後について考える。

 

(派手にやるのもいいが、正直ここがどのくらい奥なのかわからないからなんともな。ただ研究員のカードキーを手に入れて最低限の研究区画には、入りたいところだ。そのあとは、見つかっても速度勝負だな)

 

 蓮夜は道の端に寄ると幻術魔法で身を隠し、音や匂いなども誤魔化すと状況が変わるのを待った。

 

 そうして姿を隠して待っていると、白衣を着たふたりの男が通りかかった。

 

「そろそろ研究も次の段階か?」

 

「どうだろうな。例の実験体の出来映えによっては、新たな実験にシフトする可能性もある」

 

「所長のこだわりにも困ったものだな」

 

「言うな。ここに居る時点でみな同じ穴の狢だ」

 

「違いない」

 

 そんな会話をしながらカードキーをカードリーダーに読み込ませ、重厚な扉が開くと同時に蓮夜が動き、幻術が解けるより速く移動しゲートを潜ると後ろから電撃を撃ち込んで研究員ふたりを始末した。

 

 物音を立てないように受け止め、隠す場所もないのでカードキーを奪うと死体を通路の脇に寄せて蓮夜が幻術魔法をかける。

 

(少し急いだほうがいいかもな)

 

 そう考えると、真剣な表情で蓮夜は先へ進む。

 

 完全な一本道で遮蔽物もないが、幸い前からも後ろからも誰も来ない。

 

 実験に入っているため、気絶させたふたり以外は、実験施設にいるのかもしれない。

 

「……これがおそらく最後の扉だな」

 

 扉の向こうから複数人の気配を感じ、蓮夜はそう言って一度足を止めた。

 

(あとは突入して速やかに制圧しよう。データを消させさえしなければあとは、どうにでもなる。──よし、あえて正規の手段で入ってやろう)

 

 口元に微笑を浮かべ、カードキーをカードリーダーに読み込ませた蓮夜は、槍を抜くとゲートが開くと同時に突入した。

 

「遅かった──なっ!?」

 

 蓮夜の狙いどおり、不意を打たれて同僚と思って振り向いた研究員は、振り向いた先にいな相手に驚くと同時に槍の柄を叩き込まれて木っ端のように吹き飛んで絶命する。

 

 俄かに騒がしくなる研究員たちのなか、一番奥で作業している研究員だけがおもしろそうに言う。

 

「これはこれは、また賑やかな客人ですねぇ。あなたも実験を受けに来たのですかぁ?」

 

 髪を後ろで結い、細身の男が振り返りながら大仰に腕を広げて言う。

 

 おそらくこの男が研究所の責任者だ。

 

「そんなわけないだろう」

 

 蓮夜の言葉は冷たく硬質的だった。

 

 それもこの部屋にあるストレッチャーに寝かされた者たちを見たからだ。

 

 全員が異種族であり、目が虚ろであったり、苦痛に表情を歪めていたりとまともな状態ではない。

 

「素晴らしいでしょう? ここでは異種族に対する神器移植、それによる異種族や神器の反応実験を──」

 

 白衣の男が饒舌に話している途中、蓮夜が放った稲妻が辺りを打ち据えた。

 

 白衣の男を残して他の研究者は死に絶える。

 

「なっ、なっ、なぁっ!?」

 

「おまえと交わす言葉はない。ここで殺す」

 

 あえて見逃した白衣の男の狼狽を無視し、蓮夜は冷徹に返した。

 

「な、な、なんなのですかあなたは!? 他人の楽しみの邪魔をするとは無粋な人ですねぇ!」

 

「知るか。それよりわざわざ殺さなかったんだ。ここで何をしていたか、洗いざらい自白しろ」

 

 まったく取りつく島がない。

 

 蓮夜は、白衣の男の話を聞いておらず、自分の要求だけ突きつける。

 

「ヒッ、ヒッヒッヒッ……たかが人間の魔法使い風情が! 不意を打った程度で調子に乗りましたねぇ!」

 

「不意を打たれる覚悟のなさを恥じろ」

 

 混血悪魔とも気づけない相手に、やはりまったく相手にしない蓮夜に苦手意識を持ち、メガネの男は忌々しげにコンソールを操作する。

 

「もう話になりません! いいでしょう! しからば我々の研究成果をお見せいたしましょう!」

 

 白衣の男がそう言った瞬間、奥にあるゲージが開いた。

 

 のそりと動いた陰がゆっくりとゲージから出てくる。

 

 現れたのは、三つの頭を持った巨大な黒い狼だった。

 

 まるで子供が玩具を自慢するようにメガネの男が言う。

 

「これこそ! 我々の研究の成果……キメラだ! やれ、キメラ! 手始めにあの男を食い殺せ!」

 

 白衣の男が命じると黒い三頭狼は、唸り声を上げながら影となって飛び掛かっていく。

 

(……さて、どうする? 遺伝子レベルで融合した生命体を分離するなんて技術的に不可能だ。そんなのは、人間ひとりを父親と母親の遺伝子別に分けて別々の人間にしろっていうようなものだからな。かといって捕獲したところで実験に使われるだけ。当然、自然界でも生きるのは無理だ。その土地の生態系が崩れるからな)

 

 蓮夜は冷静に分析しながら、襲いかかってくる巨狼を最小の体捌きで躱す。

 

「さあさあ、さっきまでの威勢はどうしました!? 葬れるなら葬ってみたらどうです! 可哀想な可哀想な実験体をねぇ!」

 

 白衣の男の言葉にそれが決め手となり、蓮夜は打つ手段を決める。

 

「何をしているのです! あなたのポテンシャルは、そんなものではないでしょう! ブレスを使いなさいブレスを! まったく愚図ですねぇ!」

 

 白衣の男の指示を受けた三頭狼は、それぞれ口から炎熱、電気、氷結の息吹を吐き出した。

 

 蓮夜は槍を風車のように回して吹き散らし、斬り裂いてみせる。

 

 白衣の男は、嘲笑う。

 

「ヒッヒッヒッ! さあ、どうしますか? 造った私にもどうすることもできませんよぉ?」

 

「そうか。作るだけ作って直せないとは、おまえ、無能なんだな」

 

 蓮夜の返しに額に青筋を浮かべて絶句する白衣の男。

 

 おそらく『無能』など人生で初めて言われたのだろう。

 

 それ以上相手にすることなく蓮夜は、白衣の男は放置しキメラに集中する。

 

 吐き出される三種のブレスを躱し、斬り裂き、左手に魔方陣を展開する。

 

 魔法の光が拘束具となってそれに捉えたられた三頭狼は、身体能力が低下して拘束された。

 

 ならばとブレスを吐こうとしたが、副次効果なのか特殊能力が発動できず、吐息だけが虚しく漏れる。

 

「さらばだ。せいぜい来世はいい生を送れよ」

 

 蓮夜はそう言って炎の魔法を発動させた。

 

 圧倒的な熱量は、肉を、骨を、血を、一切合切燃やし尽くした。

 

 苦しい、と思う暇さえなかったことだろう。

 

 だが、最後に一瞬だけ蓮夜に届いた言葉があった。

 

 ──ありがとう

 

 それに対して蓮夜は頷くと、白衣の男を見遣った。

 

「き、貴様っ、貴様ぁっ! よくも、よくもよくもよくもよくもぉ! 私の研究成果をぉぉっ!」

 

 狂乱する白衣の男を蓮夜は、槍で胸元を貫いて殺した。

 

「ぁ、がぁぁぁっ!?」

 

 込み上げる痛みと血に白衣の男は、末期の言葉もなく絶命した。

 

「……さて、あとは」

 

 蓮夜はこの施設に囚われた者たちへと視線を向け、歩みを進めた。

 

 まだ奥がありそうだった。

 

 

 

 

 

       §

 

 

 

 

 

 その少女にとって世界は地獄だった。

 

 人間界の秘境に隠れ住むエルフの里のひとつに生を受けたのは、長く美しい金糸の髪と青く透き通った瞳を持つエルフだった。

 

 エルフの少女が優れていたのは、何もその容姿だけではない。

 

 頭脳明晰でなんでもあっという間に上達し、魔法の腕前も同期のなかで一、二位を誇る。

 

 剣術にも長け、その実力からももし北欧神話勢力圏に生まれたのならば、次期ブリュンヒルデ筆頭候補とまで称されていた。

 

 それでもそんな力も意味はないが、多少退屈には思えど不満はなかった。

 

 だが、ある日のことだ。

 

 その少女は他の同年代のエルフたちと森へ遊びに出た際、野卑な男たちによる異種族狩りに遭ってしまう。

 

 人間界の秘境には隠れ住む異種族が少なからずおり、それぞれの神話勢力に帰属していないために庇護下にないことでリスクが少ないゆえに、それらを狙ったヒト攫いだった。

 

 ヒト攫いは、神器所有者や異種族を捕え、奴隷として売り捌いたり、どこぞの実験場へと送って報酬を得る輩だ。

 

 捕まればおおよそろくな目に遭わないことを、秘境育ちの異種族ならば誰もが知っている。

 

 幼いエルフの少年少女たちは、まだまだ力も弱く、抵抗もままならないため必死になって逃げた。

 

 捕まる者も出てくるなか、里へと辿り着いた者もいたのだが、入ることはできなかった。

 

 里を護る結界が起動しており、エルフの子供たちを拒絶しているのだ。

 

 そう、子供たちのあとを追ってヒト攫いたちがやって来たため、里を守るために少年少女たちを切り捨てたのだった。

 

 長年生きるエルフの大人たちらしい冷徹で合理的な考えかただが、子供たちは見捨てられたことに変わりはない。

 

 結果、里は無事だったが外に出ていた者は全員捕まってしまい、それぞれがさまざまな場所へと引き渡された。

 

 ある者は実験場へ、またある者はオークションへと売り払われる。

 

 エルフの少女は、堕天使の実験場に囚われ、そこで違法な実験を受けることになった。

 

 その実験場へと収容されたのは、同郷のエルフの少女ふたりだった。

 

 種族差別があるため、体を穢されはしなかったが、いっそそのほうがマシな目に遭わされてしまった。

 

 そこでは、異種族への神器移植を主にしており、少女もその被験者にされた。

 

 種族の規格が合わず、異物でしかない神器を移植され、当然そんなものを制御することもままならず、生きたまま体が腐敗していく苦痛は想像を絶するものだった。

 

 その痛みは筆舌に尽くしがたく、少女はいつ肉体が、精神が死んでもおかしくはなかった。

 

 それすらも投薬などで無理やり命を繋がれ、実験記録として利用される日々。

 

 同郷の銀髪のエルフの少女だけが心の支えだったが、その少女も同じような実験を受けており、どちらが先に死ぬかの違いしかなかった。

 

 すべてを諦めかけていた頃、救いは唐突に訪れた。

 

 不意にエルフの長耳が捉えた喧騒。

 

 最初それは気のせいかと思ったが、徐々に騒ぎが大きくなり、こちらに近づいているかのようにエルフの少女には聞こえた。

 

 やがて一際大きな破壊音が聞こえたあと、静寂が訪れた。

 

 その静けさに不安を覚える少女たちだが、次の瞬間には実験場の壁が破壊されたのだ。

 

 少女たち被験者は、薄暗い実験室から助け出されたが、きっとそのときの光景を少女たちは生涯忘れないことだろう。

 

 射し込む光を背に槍を手にした黒髪碧眼の少年は、まさに救いの証だった。

 

 

 

 

To be continued

 

 

 

       




ちなみに救われたエルフはふたり。どちらも同じ原作のキャラですね。

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