シルファ・ラングリス、ルーナ・フロックハート、ふたりの美少女を助けたのち、蓮夜は古城の探索を終え、いったん冥界へと戻った。
(古い城ならばもしかしたらと思ったんだがな)
あるものを探していた蓮夜だが、今回も空振りに終わったことに少し落胆した。
だが、いずれは見つけると決心し蓮夜は食事を終えた。
そして、蓮夜は充分な休息を終えたあと、再び人間界へと戻った。
次の任務は、とある国の森の異変調査だった。
「……これは」
結界内に突入した蓮夜は、白い息を吐きながら周囲を見渡す。
協会の結界で隔離されたその森林は、全体的に凍結していた。
季節を考えたら白い息が出るのもおかしかったが、どうやらこれが理由なようだ。
蓮夜は独自の亜空間にしまってある防寒着を取り出して着込み、森の探索へと向かった。
辺り一面が凍結し、樹氷が乱立する異変の森だ。
蓮夜は探知魔法に生命の反応が一切ないことを確認する。
(野生の動物も一切いない。ここが人間界の森だということを考えれば、やはり異常な事態だ)
だが、蓮夜は氷の森のなかを進んでいくと、探知魔法の範囲内についに生命の反応が引っかかった。
蓮夜はその生命反応のもとへと向かった。
するとそこには、絶対零度の世界が広がっていた。
木々も、地面も、大気も、結界すらも内側から凍てつかせているのだ。
その中心には、ひとりの少女が佇んでいた。
銀髪の長い髪が美しい少女だった。
「しんじゃえ、しんじゃえ、しんじゃえ、しんじゃえ」
呪詛とともに氷の力を振り撒いている銀髪の少女は、周囲にいた黒いローブ姿の者たちを凍てつかせ、粉々に砕き散らしている。
(あれははぐれ魔法使いか? 少なくとも協会の魔法使いではないな。──またこの手のことか)
薮をつついて余計なものを引っ張り出すというのは、蓮夜自身にも降りかかったことだった。
蓮夜ははぐれ魔法使いが全滅したあと、距離を詰めていくと絶大な魔法力の範囲内へと入る。
強烈な氷の魔法を蓮夜はレジストしながら銀髪の少女へと距離を縮めていく。
あまりの魔法力に蓮夜ですら微細ながら体の端々が凍り、霜を被っていた。
だが、それでもなお蓮夜が歩みを止めることはなかった。
目の前で泣きながら呪詛を吐いている銀髪の少女のもとへと歩み寄り──。
「──何があったのか詳しくはわからない。だけど、つらいのはよくわかる。でも、落ち着いてくれ。ゆっくり落ち着いて力を抑えるんだ。でないとキミが死んでしまう」
両手で頬に触れ、顔を上げさせて視線を合わせた蓮夜は、やさしくそう呼びかけた。
銀髪の少女は、その温かい感触に気が一瞬緩んだのか、暴走していた力が弱まっていく。
蓮夜は力を抑える手助けするように力を発露し、オーラの流れを導いていった。
やがてオーラも収まり、銀髪の少女は急激な力の解放の負担に体力も精神力も消耗し、意識を失って力なく倒れる。
蓮夜は銀髪の少女をそっと受け止め、軽く容態を確かめると呼吸や脈拍が安定していることに安堵する。
いちおう、魔法力の一部を譲渡して消耗の回復も促した。
これで肉体面は問題なくなっていくだろう。
だが、精神面はそう簡単にはいかないだろうと、寝苦しそうな様子で涙を流す銀髪の少女の雫を拭う。
「──何をした」
蓮夜はそう呼びかけた。
「──よもやイレギュラーが発生するとは。予想外でした」
誰もいない銀氷世界のなかで応える者がいた。
いつの間にか現れたのは、ローブを羽織りフードを深く被ったひとりの男性だった。
フードを深く被って目元などは見えないが、銀色の髪が雪風に舞っているのがわずかに確認できた。
「私は姉なるものを探しているのです」
「姉だと?」
「はい。私の姉、その代わりとなれる者を。その子を育てれば姉になるかもしれないと思ったのですが……残念ですね。失敗のようです」
熱っぽく語りながらも、どこか冷たく無機質な声音だった。
「私はね、大切な姉がいたのです。ですが、ある男に取られてしまったのです。それが、さまざまなものが、私は許しがたく、あらゆる問いを投げかけて問い殺してでも、私は知りたい。悪魔を。そして、悪魔を見せつけたい。その計画は……まだまだかかりそうですがね。──それはそうと、私は自分の姉になってくれるヒトを探さねばならないのです」
フードの男は、どこか取り憑かれたように言う。
「そうか。よくわからないがおまえは死ね」
この手の輩は生かしておくとろくなことにはならないと、蓮夜は死刑宣告を下したときには攻撃していた。
一瞬で展開された無数の魔方陣は、全属性装填のフルバースト魔法だ。
蓮夜の属性砲撃の乱れ撃ちは、フードの男に直撃した。
けたたましい爆音が轟き、雪煙が吹き散らす。
濛々と立ち込める雪煙の向こうに、気配が現在なことを蓮夜は察知していた。
同時に気配が増えたことにも。
雪煙がやがて晴れると、そこには変わらぬ様子のフードの男、そしてその前に佇む銀髪ロングヘアの無機質な碧眼の美少女の姿があった。
「ずいぶんと乱暴なようですね」
「……そいつは」
「ああ、紹介しましょう。先ほど私は、自身の姉なる者を探しているといいましたね? もちろん、造ってもいました。そのうちのひとり、私が姉の遺伝子から培養して造りあげたもの──ノイントです。名前のとおり九番めでようやくまともに機能したのですが……残念ながら姉の特徴を一部受け継げなかったので失敗、というわけです」
フードの男の言葉に銀髪碧眼の美少女は、眉ひとつ動かさない。
「造形は真に迫ったのですがね。これで泣きぼくろもあればよかったのですが……残念です」
あまりに些細なことで大袈裟に溜め息をつくフードの男。
「ですが、能力は素晴らしいですよ。忌々しいあの男の能力に近しいことが不満ですがね。見せてやりなさい、ノイント」
フードの男の指示に銀髪碧眼の美少女──ノイントは、応えるように手を突き出した。
収束する銀のオーラは、魔王級にすら迫るほどだ。
ノイントは銀のオーラを砲撃として放った。
高速で迫る直射砲を蓮夜は、危なげなく躱したが──。
まるで破壊音が響かないことを訝しむ。
視線で確認すれば地面も、木々も塵となって宙を舞い散っている。
「消滅……いや、分解したのか」
「正解です。なかなかでしょう?」
蓮夜の言葉にフードの男は、満足げに頷いた。
「さて、今日のところはここまでにして我々はおいとまさせていただきます。姉を探さねばなりませんので」
言葉だけなら悲壮なものだが、実際はフードの男にとって姉になり得る者を見つけ、そのように教育するという変態的な行為だ。
「行かせると思うか」
蓮夜が創りだした魔槍を投擲したが、ノイントが虚空から取り出した大剣を振るって槍を斬り伏せて分解してしまった。
分解のオーラを纏わせた大剣だ。
「ふふふ。それでは、また縁があればいずれ」
そう言ってフードの男は、ノイントとともに転移魔法でこの場を去った。
蓮夜は追跡しようとしたが、フードの男はそれも読んでいた。
直後、フードの男の使った転移魔方陣が術式配列を換え、逆の術式である召喚魔方陣へと切り替わった。
召喚魔方陣が光とともに弾け、そこから現れたのは三メートルほどの巨体だった。
骨で構成された体躯は、長い首、翼、尻尾があり、四足を持つ、まさにドラゴンと呼ぶに相応しい。
「スケルトン……いや、スケリトル・ドラゴンか」
それはドラゴンの死体がアンデット化したものではなく、骨を使って造る人工的なスケルトンだ。
いちばんの違いは、耐性が強化されていることであり、もともとドラゴンは魔法耐性が高いのたが、それをさらに上回る耐性を誇ることだった。
製造者にもよるが、あれほどの実力者が造ったものであれば魔法はほぼ効かないだろう。
スケリトルドラゴンは、あらかじめ下されていた術師の命令に従って蓮夜へと襲いかかった。
硬質な骨と巨体の質量による攻撃は、単純だが凶悪な暴力だ。
物理、魔法ともに高い耐性を持つスケリトルドラゴンは、腕を、尻尾を叩きつけ、翼を羽ばたかせる。
強烈な打撃は、並の上級悪魔でも喰らえばただでは済まない。
だが、蓮夜は並ではなかった。
腕の叩きつけを躱し、振るわれる尻尾を足場にして跳躍し背後に着地する。
魔法が効かないのは確かに厄介ではあるが、所詮は厄介でしかない。
蓮夜は新たに魔槍を創りだし、薙ぎ払った。
横殴りに振るわれた魔槍は、その能力を発揮して氷の大質量となった。
魔槍の先に発生したスケリトルドラゴンを遥かに上回る氷の槌は、鉄の強度を持つ骨の巨体を轟音とともに一撃で打ち砕く。
残骸と化したスケリトルドラゴンは、それっきり二度と動くことはなかった。
それを一瞥したあと、蓮夜は魔槍を消して障壁で守っていた銀髪の少女のもとへと向かうのだった。
To be continued
名前は出なかったですが、男の正体はわかる人にはわかるでしょうね。
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