蓮夜、シルファ、ロセはキョウ・エスニナのアジトとされる研究施設へと突入した。
内部は西洋風の屋敷だが、こちらにも魔法的な護りや仕掛けが施されていた。
蓮夜たちは、すでに気づかれていることもあり、すべて力づくで突破する。
槍が、剣が、魔法が、トラップや召喚魔を薙ぎ払っていく。
「そのキョウという人物はいったいどこにいるのでしょうか!」
「少し待て……見つけた。こっちだ」
召喚魔を剣で斬り裂きながら言うシルファに対し、蓮夜は槍で召喚魔を貫きながら探知系魔法を使い、この屋敷で唯一存在する自分たち以外の生体反応を捉える。
ショートカットすることにした蓮夜は、槍で床を突き刺した。
その破壊力に足場が崩れ落ち、召喚される魔獣諸共、地下へと落下していく。
そう、キョウ・エスニナは研究施設の地下に潜んでいたのだ。
「な、なんという無茶を!?」
「さすがはレオンさまです」
「感心してる場合ですか!? ああもうっ、魔法を使います!」
慌てるロセは微笑を浮かべるシルファに律儀にツッコミを入れる。
(なんだか苦労しそうだな)
生真面目なロセに蓮夜は内心苦笑した。
そうこうしていると、ロセは風の魔法を使って全員の体を浮かせた。
その魔法の恩恵を受けた蓮夜、シルファ、ロセは危なげなく着地したが、魔獣たちは当然床に激突し汚いシミと化した。
降り注ぐ瓦礫も風の魔法で跳ね除け、濛々と土煙が立ち上るなか、それすらも風で吹き散らして視界を確保すると、地下空間の全貌が見えてくる。
そこには生体ポッドが多く並び、さまざまな生き物が収められていた。
人間界の動物から裏世界の魔獣、果ては人間まで多くの生き物たちが気泡の浮かぶ液体に漬けられている。
「……酷い。話には聞いていましたが、ここまでとは……」
この光景を見たロセが悲痛な表情でそう口にする。
「いったい、なんのためにこのような真似を……」
「──それは本人に訊いてみるとしようか」
専門外というだけでなく倫理的な観点からのシルファの疑問に対し、蓮夜はそう言って前を見据えた。
「──ったく、なんなんだおまえらは? 俺の研究施設に勝手に入りやがって」
そう言うのは、この研究室の最奥にある玉座に座ったひとりの男だった。
灰色に近い白髪にメガネをかけ、皮肉げな表情を浮かべた男。
この男こそがキョウ・エスニナ。
一連の事件を起こした首謀者だった。
「あなたは……! キョウ・エスニナ!」
「うるせぇな。わざわざ呼ばなくても知ってるっての。で、おたくらなんの用なわけ?」
「よくもそんな態度をっ……! あなたがやっていることは犯罪です! おとなしく捕まってください!」
「やなこった。捕まれって言って捕まるバカがどこにいんだよ」
ロセの言葉をキョウは面倒くさそうにしながらも馬鹿にして嘲笑う。
「それでロセ。あいつは何をしたんだ?」
冷静な蓮夜の問いだった。
キョウのやったことは、キメラを造ったことだけではない。
キメラ程度ならばたいていの魔法使いが造ったこともある。
問題はそのキメラの管理が杜撰で世間に迷惑をかけたことだが、それはキョウの居場所を露見させたにすぎない。
さまざまな生き物を攫ってホルマリン漬けにしていることも罪だが、ここまで問い詰められるからには、それ以外にもキョウが罪を問われる理由があるのだ。
「それは……」
蓮夜の問いにロセが口ごもると、キョウは嘲笑を浮かべる。
「始まりの人間の遺伝子マップってところか」
キョウの発言にロセが目を見開いた。
「あ、あなたっ!?」
「うるせぇな。いちいち騒ぐなよ」
ロセの叱責を含んだ声音をキョウは一顧だにしない。
「始まりの人間……アダムとイヴか?」
「いいや、違うね。始まりの人間っつっても、旧約聖書のじゃねぇ。北欧神話のさ」
蓮夜の問いかけにキョウは謎を明かすのが楽しいのか、勝ち誇った様子で続ける。
「北欧神話の始まりの人間──アスクとエムブラ。俺さまがいただいたのは、そいつらの遺伝子情報さ」
それは海岸に打ち据えられていたトネリコとニレ、ふたつの樹木を人の形に整え、オーディン、ヴィリ、ヴェーがそれぞれに生命と息吹、知性と感情、言葉と聴覚と視覚を与えて創りだした男女のことだ。
キョウが盗み出したのは、そのふたりの遺伝子情報だという。
「いまの人間は汚れてやがる。だから寿命も短いし、能力も低い。だけどよぉ、いちばん最初の人類の肉体を再現できたらどうだ? その体に自分の魂を移せたなら?」
キョウは狂気的な笑みを浮かべる。
「このクソゲー世界で好き勝手に自由に生きれるってもんだよなぁ!」
それがキョウの目的──最初の人間の高純度な体を造り、自らの魂を移すことで能力を飛躍的に高め、好き放題に生きるというものだった。
「そ、そのようなことのためにこんなことをっ!?」
「ああ? 俺さまにとっては重要なことなんだよ! このクソゲーな現実を生きるためにはなぁ!」
ロセの糾弾をキョウは不快そうに跳ね除けた。
「だから邪魔すんならよぉ、ここで死ねっ! 死んで俺さまの役に立て!」
キョウが本──魔術書を取り出して魔法力を込めると、怪しげな光が放たれる。
すると研究室の方々から魔物や人間がわらわらと姿を現した。
その姿は、どれもがまともなものではなく、別の生物同士の混ざり合ったものだった。
「……シルファ、ロセ。ここはおまえたちに任せる」
「かしこまりました」
「あ、あなたはどうするのですか!?」
「俺はもちろん、あの男を討つ」
指示に即応するシルファに対し、ロセは疑問を投げかけたが蓮夜は変わらず冷静に、しかし力強く返す。
気負うことのない声音と背中にシルファは頼もしさを、ロセは歳下相手ながら男性を、それぞれ感じた。
「レオンさま、ご武運を」
「お、お任せします!」
シルファとロセの言葉を背に受け、蓮夜はキョウへと迫る。
その進路を阻もうとしたキメラたちは、シルファの剣とロセの魔法によって蹴散らされた。
活路が開かれ、蓮夜はキョウの前に立ちはだかった。
「ちっ、どいつもこいつも役に立たねぇな! てめぇのようなガキに邪魔されんのも気に入らねぇ! ほんとに世界はクソゲーだな!」
悪態をつくキョウに蓮夜は冷めた眼差しを送っていた。
その視線に気づき、気に入らないキョウは表情を歪める。
「あ゛? なんか文句あんのかよ!」
「ある。おまえは本物の弱者だ。誰もが大なり小なりある才能を努力して磨き、現実の理不尽に抗っている。なのにおまえはなんだ? 世界に責任を負わせて、周りに迷惑をかけて、挙句に望んだ形で転生して人生リスタート? ふざけるのもたいがいにしろ」
蓮夜の声音に怒気が含まれる。
蓮夜も理不尽に晒されたことがあるから、多少は言いたいことがわかる。
しかし、それでもいまある現実から逃げ出そうとは考えたこともなかった。
「おまえは甘えてるだけだ。だいたい唯一の人生でがんばれなかった奴が、第二の人生で何かを為せるわけがないだろう。それに一回やり直しを覚えた奴は、都合が悪くなったらまた同じことをするんだろうさ。人生をゲームと勘違いしていないか?」
蓮夜の痛烈な言葉にキョウは、怒りで顔を真っ赤にする。
「おまえみたいなクソガキが知ったふうに言ってんじゃねぇ! 俺は俺のやりたいようにやるんだよ!」
キョウは癇癪を起こして八つ当たりするように魔方陣を展開し、無数の属性弾を放ってくる。
しかし、蓮夜は創りだした魔槍を掌中で回して風車のごとき切断と打撃を放ち、周囲を薙ぎ払えばことごとく属性弾が斬り裂かれ、打ち砕かれた。
爆風や破片は、魔法障壁ですべて防いだ。
「ちっ、ふざけんな! これでも喰らえっ! 『黙示録』!」
キョウは強力な魔法砲撃を放つが、蓮夜はそれを魔槍のひと突きで破壊してみせた。
さらにキョウは、砲撃を囮に呪いを放ってくるが半分とはいえ高位の悪魔の血を引く蓮夜に対し、呪いは効果がない。
身に纏った青紫色のオーラが阻んでいるのだ。
こういった特殊能力は、オーラ量がものをいう。
オーラ量で上回る相手には、特殊な能力──時間停止なども──効きが悪いか、最悪無効化されるのだ。
蓮夜は手にした魔槍を投擲した。
狙い違わずにキョウの肩を魔槍が貫き、その体を吹き飛ばすと壁に縫い付けた。
「があぁっ!? く、くそくそくそっ、くそがぁっ! この俺さまがこんなところで終わってたまるかぁっ!」
魔槍が発火して肉体を燃やすが、その寸前にキョウは体を捨てて魂だけとなった。
『俺さまはまだ負けてねぇ!』
そう言ってキョウは、玉座の背後にある培養ポッド──キョウにそっくりな体が入っているそれに取り憑こうとしたが──。
あまりに遅い。
蓮夜はそれよりも速く魔法を放ってその肉体を跡形もなく吹き飛ばした。
『なぁぁっ!? お、俺さまの体がっ!? ま、待てっ! 俺を助けるならおまえにもいい体を──ホムンクルスを用意してやってもいい! だからっ』
何かを言っているが、蓮夜は聞く耳を持たずにその魂を魔槍で突き刺そうとしたが──。
『なぁっ!? や、やめ、やめろっ! は、離せ、離せぇぇっ!』
それよりも速くキョウのうしろから突き出た刃が、その魂を引っ掛けて裂け目に引き摺り込んだ。
抵抗できずにキョウの魂は、裂け目の向こうへと消えた。
「レオンさま!」
「いったいなにが!?」
キメラたちを片付けてきたシルファとロセが合理する。
シルファは蓮夜の前で剣を構え、ロセは隣で魔方陣を展開する。
《──こちらに敵対意思はない》
そんな声とともに裂け目から何者かが現れた。
装飾の凝ったローブを纏い、ドクロの仮面をつけ、禍々しいオーラを放つ大鎌を手にした、冗談のように莫大なオーラを宿した人物は──。
「……死神だと」
《──ああ。我が名はタナトス。人の身で魂魄を弄ぶ、不逞の輩の魂を連れにきた》
それはギリシャ神話の死神の名だった。
To be continued
やはり真面目な話とか戦闘は書きやすい。ちなみにタナトスには現状勝ち目とかはありません。禁手も至ってませんからね。
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