オタ提督と艦娘たち   作:みなかみしょう

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登場人物
・オタ提督:某鎮守府の提督。ひょんなことから提督になった。仮に艦これアニメを見たらZガンダム最終回のカミーユ(TV版)みたいなことになりかねない人。
・球磨:オタ提督の主な秘書艦。語尾以外は意外と優秀。
・大井:最近は大規模作戦で大活躍の重雷装巡洋艦。北上さんが絡まなければ上品な乙女に見えなくもない。
・摩耶:最近、やたらと対空に強くなった重巡洋艦。提督が「カーニバルだよ!」と裏声で叫ぶと本気で怒って来る。
・夕張:蒼穹のファフナー二期に備えて事前学習をする際、提督から『シン・アスカ』をファフナーのキャラだと教え込まれて激怒した。尚、今回は登場しない。


オタ提督と大量の花々

「これは困ったことになったな……」

「困ったことになったクマ」

 

 鎮守府の庭でオタ提督(以下、提督)と秘書艦の軽巡洋艦球磨は頭を抱えていた。

 二人の目の前には大量の花があった。色とりどりの花束や鉢植えが文字通り山のように置かれているのだ。

 

「中に置ききれなかった分はこれで全部のようだな」

「そうみたいクマね。そして、この外に出ている分はどうにかする必要があるというわけクマ」

「そうか……」

 

 遠い目をして、お花畑と化した庭を見つめる提督。

 鎮守府のこの状況は、以下のような手順で発生した。

 

 一番初めは、ささいな善意だった。南の方の小国の大使館から、艦娘達の活躍のおかげで航路が安定したお礼として花が鎮守府に届けられたのだ。

 南国のものを交えたその花々は結構な量だったので、鎮守府の花壇に植え替えることにした。勿論、作業は艦娘が行った。

 そして、お礼として艦娘が花壇の植え替えをしている様子を撮影した写真を送った。

 良くなかったのは、その写真がうっかり雑誌に掲載されてしまったことだ。

 深海棲艦と戦う艦娘はヒーローでありアイドル的存在だ。その外見もあって人々からの人気も高い。

 それが楽しそうに花壇の世話をしている写真が世に流れてしまえば、それ相応のことが起こる。

 

 結果として、日頃の感謝の名目の下、鎮守府に大量の花が届くようになってしまった。

 悪いことではないのだが、とにかく量が問題だ。日々届き続ける花々は、確実に鎮守府のスペースを圧迫している。

 提督と球磨は、その対処を相談しているところである。

 

「とりあえず、向こうで明石さん達が新しい花壇を作ってくれてるんで、植え替えできるやつは持って行くクマ」

「すまん。頼む。じゃあ、俺は地道にこいつを処分するか」

 

 そう言って、提督は近くに置かれていたリヤカーに花束などを乗せ始めた。結構な量なので、花の移動販売に見えるレベルだ。売っている人物が適任とはいえないが。

 

「個室の方にあんまり持ち込んでない子がいるから、頑張って引き取って貰うクマよ」

「わかった。前向きに善処する」

「出来れば任せろと言って安心させて欲しいクマ」

「ちょっと量がな……。ま、大規模作戦の合間で良かったぜ」

「もう花壇作りは飽きたクマよ……」

 

 疲労を滲ませながらも、二人はそれぞれの仕事に取りかかるのだった。

 

 ☆ 

 

 提督が最初に遭遇したのは重雷装巡洋艦の北上だった。

 彼女は第六駆逐隊と一緒にいた。駆逐艦が苦手な彼女にしては珍しいことだ。ちなみに相棒の大井は見あたらない。その辺に隠れているか、本当にいないのか。提督には判断がつかなかった。

 

「お、やっほー提督。どうしたの? 花なんて運んで。似合わないよー」

「貰い物だ。北上が駆逐艦の相手とは珍しいな」

「あー、なんか捕まっちゃってねー」

「司令官、またお花を貰ったんですか?」

 

 電の問いかけに、提督は頷いて答える。ちなみに、事の発端になった写真に写っていたのは彼女達、第六駆逐隊である。

 

「まあな。今みんなに配ってるところだ」

「なるほどねぇ。大変だねぇ」

「他人事みたいに言わないで、少し貰ってくれると嬉しいんだが」

「駄目よ提督。レディに花をあげる時はもっとロマンチックにしないと」

 

 駆逐艦の暁がそう言うと、北上がニヤリと笑いながら言って来た。 

 

「そうだねぇ。提督がいい感じに花を渡してくれるなら貰ってもいいかなー、なんてね」

 

 北上の言葉を聞くと、提督はポケットから出した本に目を通してから、リヤカー内の花束を一つ手に取り、言った。

 

「敬愛する北上さんにこのダリアの花束を受け取って頂きたい。花言葉は……感謝です」

「司令官、素敵よ!」

「なのです!」

 

 淀みなく話す提督に対して素直に賞賛する暁と電。

 北上は驚きの表情で花を受け取りつつ言う。

 

「おー、提督、あんな気持ち悪い感じの台詞がスラスラ出るなんて意外とやるじゃん」

「ぐふふ、こう見えて普段から鍛えているからな。しかし、今のやり取りを大井に見られてたら大変なことに……」

「あら、呼びましたか提督?」

 

 大井がいた。当たり前のように。静かに、気配も感じさせずに。

 

「お、大井さん。あの、全部見て?」

「? 何を怯えているんですか提督。さっきから一部始終見てましたけれど?」

「そ、そうか」

「それで、北上さんだけでなく、私にもお花は頂けないんですか?」

「お、おう」

 

 再びポケットから本を出し、がさごそと花を選ぶ提督。動きに少し焦りが見える。今、話している相手は基本的には良い子なのだが、時々洒落にならないのだ。

 

「麗しの大井さんにこのイトシャジンの花を。花言葉は……服従です」

「うふふ。ありがとうございます。……命拾いしたわね」

 

 命拾いした提督は、その場を去ることにした。

 

 ☆

 

 リヤカーを引く提督が次に遭遇したのは龍驤だった。

 

「なんや提督。ついにクビになって花屋でも始めたん?」

「失礼な。俺は今からワールドビジネスサテライトを見るなどして意識を高めようとしているところだ」

 

 提督の反論に苦笑しながら独特のシルエットを持つ軽空母は言う。

 

「微妙にツッコミにくいボケをすんなや。花を満載したリヤカー引きながら」

「お前が洒落にならんジョークを飛ばすからだ」

「ふぅ。まあ、ええわ。見たところ、また花を貰ったみたいやな」

「うむ。正直、処理に困ってるので助けて下さい」

「提督のそういう正直なところ好きやで。あー、花なら元商船の二人組が喜んで寮中に飾り付けてくれるから、後で話しておくわ」

「飛鷹はともかく隼鷹さんもなのか。花から酒でも造るのか?」

 

 マジ顔で聞く提督に呆れ顔で龍驤は答える。

 

「失礼やな。ああ見えて結構楽しそうに花の世話とかしとるんやで」

「ほう、興味深い。今度見に行こう」

 

 陸に上がっている時は素面のことが少ない隼鷹が花を愛でている姿というのは非常に興味惹かれる出来事だ。

 近いうちに空母寮に行こうと決める提督だった。

 

「あんまりおちょくって怒らせんようにな。そんじゃ、ウチは行くけど」

「おう。出来ればついでにここから花をいくらか持って行ってくれると助かります」

「はいはい。ほななー」

 

 小さいひまわりの花束を受け取って、龍驤はどこかへと去っていった。

 

 ☆

 

 その後も提督は花を配りながらリヤカーを引いた。幸いにも花の量は少しずつ減っていくが完売まではほど遠い状況だ。

 このまま一日中鎮守府を練り歩いても全て捌ける可能性は低いだろう。

 ただでさえ飽和状態のこの花々を処理し切るには何らかの工夫が必要だ。

 流石に提督もその辺りは把握していたので、ある艦娘を頼ることにした。

 

「おお、摩耶。ここにいたのか」

「なんだよ提督。あたしに用なんて珍しいな。って、なんだそりゃ。お花屋さんでも始める気かよ」

 

 提督がやって来たのは重巡洋艦寮だった。

 たまたま、中に入るなりお目当ての艦娘に会うことが出来た。幸運である。

 重巡洋艦、摩耶。この少しヤンキー入った艦娘こそ、花の処分の鍵を握っていると、提督は考えていた。

 

「実質的に、もう花屋みたいなもんだ。というか、この花のせいで困ってるんだ。事情は知ってるだろ」

「あー、お花が贈られてくるのまだ終わってなかったのか。ま、悪いことじゃないけど、こうなると受け取る側も大変だよなー」

 

 他人事のように同情してくる摩耶だが、そうはいかない。提督は一気に話を核心に持って行った。

 

「その通り。そこでお花に詳しい摩耶さんに良い案が無いか相談に来たのだ」

「はあっ。なんであたしがそんなことを。だいたいそういうのはもっと適任なのがいるだろーが!」

 

 突然話を振られて若干キレながら叫ぶ摩耶。その姿はヤンキーそのもので、ちょっと怖い。

 しかし、提督も伊達に鎮守府の責任者をしているわけではない。努めて冷静に彼は言い放った。

 

「いや、お前が一番の適任だと思う」

「なんでだよ!」

「これだ」

「なっ!」

 

 提督が摩耶に見せたのは写真だった。

 写真に写っているのは非番の摩耶と妹の鳥海だ。その中ではピンクの花柄ワンピースを着た摩耶が、常には見られない笑顔で花を愛でていた。

 驚くしかない、決定的瞬間を納めた写真である。 

 

「てめぇ、どこでこんな写真を……」

「偶然見かけて思わず……な」

 

 ちなみに、この写真の撮影に成功したのは重巡洋艦の青葉である。彼女はこの鎮守府でパパラッチとしての才能を開花させつつある。

 写真をこれ見よがしに摩耶にアピールしながら、提督は話を続ける。

 

「それで、お花屋さん大好き乙女の摩耶さんのお知恵をお借りしたいのですがねぇ」

「ちっくしょう、ぶっ殺してぇ。球磨の奴、よくこんなのの秘書艦やってられるな……」

「ああ見えて球磨は優秀だからな。ってか、いやほんと、真剣な話、なんとかなりませんかね……」

 

 うって変わって真面目な口調で言う提督。

 話の持ってき方はともかく、態度からシリアスなものを感じ取った摩耶は一応話題に乗ることにしたようだ。

 

「ったく、どうせなら鳥海にでも聞けばいいのに」

「それじゃ面白くないだろう?」

 

 そんなこともわからんのかという顔をされて、再びこめかみに青筋を浮かべた摩耶が吼えた。

 

「マジでぶっ殺すぞ! つか、いくらお花が好きでも沢山あった場合の対処方法なんて知るわきゃねーだろ。もう誰かよそにやれ! よそに!」

「なるほど。それだ」

「は?」

 

 摩耶のやけくそ気味の発言に、思いがけず良い反応を返した提督は、そのまま「何故気づかなかった」とかいいながらぶつぶつと呟きだした。

 

「軍関係のお偉いさんとか、鎮守府に関係する他の部署にもちょっと回してしまおう。実際俺達だけで戦ってるわけじゃないしな。そうだ、艦娘からのメッセージでもつければ……」

「おいおい、いいのかよ。鎮守府用にもらったもんだろ?」

 

 摩耶の問いに、提督はしれっと答える。

 

「枯らしてしまうよりはマシだろう。一度鎮守府で受け取っているから目的は果たしているといえるし、まあ、なんとかなる」

「お、おう。そうか。ならいいけど」

 

 頭の中で色々計算しだした提督に対して、いきなり真面目になられて若干戸惑いながら答える摩耶。

 そして、真剣な顔のまま、提督が再び話しかけてきた。

 

「そうだ摩耶。頼みがあるんだが」

「な、なんだよ。あたしに出来そうなことか?」

「うむ。艦娘に罵られたいというドMの集まりな補給隊があってな。彼らにも花を贈りたいからメッセージカードを書いてもらえんか?」

 

 摩耶は無言で提督を殴り飛ばした。


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