オタ提督と艦娘たち   作:みなかみしょう

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登場人物
・オタ提督:某鎮守府の提督。ひょんなことから提督になった。
・球磨:オタ提督の主な秘書艦。語尾以外は意外と優秀。
・長門:どういうわけか「長門有希ちゃんの消失」を自分が主役のアニメだと勘違いして視聴。軽く絶望していた。苗字しか目に入らなかったらしい。
・ビスマルク:ドイツから来た凄い戦艦。好きな料理は「刺し身」「コロッケ定食」「鳳翔の肉じゃが」。ドイツ艦の中で最も日本に馴染んでいる。
・由良:地味に潜水艦相手に強い軽巡洋艦。
・夕張:遅まきながらニンジャスレイヤーにハマる。執拗にネタバレを繰り返す(それも忍殺語で)提督に対して、毎日5回は「ハイクを詠め、カイシャクしてやる」と言いながら三隈砲を向けている(たまに発砲)。尚、今回は登場しない。


オタ提督と相談に来る艦娘

 オタ提督(以下、提督)と秘書艦は常に一緒に業務にあたっているわけではない。鎮守府内の多岐に渡る業務を遂行するため、別行動するケースは割と多い。

 この日などは、提督は朝から秘書艦の球磨と別行動であり、昼食後の休憩を一人執務室で楽しんでいた。

 執務室の入り口にはライトが仕込まれたプレートが設置されており、提督と秘書艦の在不在がはっきりとわかるようになっている。今、提督が一人でいることは外からも一目瞭然だ。

 コーヒーを飲みつつ穏やかな時間を過ごす提督。

 提督は知っている、こうして一人で執務室にいる時は、いつもとちょっと違うイベントが発生するものだ。

 

「提督、少し相談があるんだが」

 

 扉がノックされ、返事をする間もなく戦艦長門が入ってきた。

 艦娘の個人的な相談。

 彼女達は提督が一人で執務室にいる時を狙い、秘書艦には聞かれたくない個人的なことを相談に来るのである。

 

「なんだ長門。大規模作戦も終わったし休暇でも欲しいのか」

 

 第十一号作戦と銘打たれた大規模作戦が終わったのは先日のことだ。目の前の長門はビッグセブンの名に恥じない活躍をみせてくれた。

 鎮守府の総出の作戦だったこともあり、長門のみならず全員に順次休暇を取るよう推奨している最中である。

 

「休暇はそのうち頂くつもりだが、今回は別件だ。色々考えたんだが、提督が一番の適任だと思ってな」

「適任?」

 

 珍しい話だ。いつもなら提督の行動に何かとケチをつけてくる長門が、よもや適任などという言葉を口にするとは。 

 ビッグセブンは、おごそかに相談内容を口にする。

 

「うむ。実は私もそろそろパーソナルコンピューターを買う時が来たと思うんだ」

 

 スマホをろくに使いこなせていない長門とは思えない発言だった。

 

「長門がPCだと……。なんだ、通販でもするのか?」

「違う、世界の軍事情勢について調べるのだ」

「……なるほど。流石は世界のビッグセブンだ」

 

 この際、「軍事情勢についてなら鎮守府に入ってくる情報が一番正確じゃないかな」などと野暮なツッコミはいれない提督だった。

 あの堅物の長門が彼女なりに新たな世界に飛び込もうとしている、それは素晴らしいことだ。

 

「というわけで、私に適当なパソコンを見繕うがいい」

「なんで上から目線なんだ……。まあ、いいか。それじゃあ、予算は? ノートとデスクトップどっちがいい?」

「む? む?」

 

 基本的なことを聞いたつもりが高度すぎたらしい。提督はもう更に一段階、質問の仕方を優しくした。

 

「ああ、悪い。持ち運べるのと部屋に置くタイプ、どっちがいい? 予算はまあ、その後でいいだろ」

「そ、そうだな。持ち運べるので頼む」

「わかった。少し調べるから、明日にでも連絡しよう」

「流石に早いな。よろしく頼む」

 

 提督との応答に満足したらしい長門が、ドヤ顔で頼もしそうな視線を送ってきた。多分、長門にこんな顔をされるのは着任以来初めてだ。

 なんかドヤ顔がむかついたので、軽くカマをかけてみることにした。

 

「これで思う存分ペット動画を検索できるようになるな」

「全くだ。楽しみでならない……貴様! 何故それを!」

 

 図星だったらしい。

 

「この前陸奥に見せて貰ってるのをこっそりと……」

 

 先日、食堂でそんな場面を見かけたのである。 

 

「提督! 貴様まさか覗きか! ビッグセブンの名のもとに成敗してくれる!」

 

 大げさに怒る長門に対して、提督は冷静にツッコミをいれる。

 

「食堂で休んでる時に見かけたことを覗きというのかビッグセブン」

「くっ……。覚えてろ! おすすめ機種の連絡を忘れるな!」

「はいはい……」

 

 女騎士みたいな呻き声に捨て台詞、そしてちゃっかり自分の要望を言い放ちながら離脱する長門を、提督は苦笑いで見送るのだった。

 

 

 続いて扉をノックして、短い応答と共に入室して来たのは長門と同じく戦艦だった。 

 

「提督、ちょっと良いかしら?」

「ビスマルクか。どうかしたか?」

 

 ドイツ戦艦、ビスマルク。海外から派遣された頼もしい戦力である。

 派遣当初はなんかちょっとやさぐれ気味だったりした彼女だが、最近は大分態度に余裕が出てきた。日本に馴染んだのだろう。

 

「相談があるのだけれど」

「俺に出来そうなことなら出来る限り力になるぞ」

 

 慣れてきたとはいえ文化の違いなどで苦労しているはずだ。提督は珍しく、下心無しで発言した。

 

「そんな大げさに構えないでいいわよ。簡単なことだから」

「そ、そうか。で、なんだ?」

「美味しいレストランを教えて欲しいの」

「レストラン? なんでまた? 故郷でも恋しくなったか?」

 

 日本にやって来て一年以上経過するビスマルクだが、遅いホームシックにでもなったのだろうか。

 ドイツ料理を出す店を脳内検索し始める提督。

 その様子を見たビスマルクが、提督の勘違いを指摘する。

 

「違うわ、私じゃないわよ。今度イタリアの子が来たでしょう? その子たち向けよ」

 

 第十一号作戦の結果、鎮守府には新たにイタリア艦が加わっていた。

 つまり、ビスマルクの要望は新人向けのイタリア料理店ということだ。

 なんということだろうか、一時期やさぐれ気味だったビスマルクが、新人の海外艦娘に気遣いを見せている。

 

「感動的だ。あのビスマルクが海外派遣の先輩として色々気を使うなんて」

「私を何だと思ってるのよ……。こう見えて、慣れない土地で暮らす大変さはよくわかってるわ」

「説得力があるな。そうだな、イタリア料理の店だと……」

 

 イタリア艦娘向けの店を考え始めた提督に対して、再びビスマルクが指摘する。

 

「は? 何言ってるの提督?」

「?」

「私が教えて貰いたいのは日本食のレストランよ。イタリア料理の美味しい店なんて、わざわざ提督に聞きに来るわけないじゃない」

 

 意味がわからなかった。遠く離れた異国の地で故郷の料理を食べたくなる、という想定の話ではなかったのか。

 

「ど、どういうことだ?」

 

 ビスマルクはやたらと上から目線で提督に諭すように話し始めた。

 

「私は新しく来たイタリアの子達に出来るだけ早く日本に慣れて貰いたいの。わかる?」

「はい」

「そのためには、まずは料理。美味しい日本食を食べて貰うことが近道だと思ったの。日々の食事が楽しみになるのはとても大事なことなの」

「わかります」

 

 よくわかる。最近のビスマルクは鳳翔の店で日本食を思う存分食べている。同じドイツ艦のプリンツ・オイゲンがちょっと引く程だ。

 

「特にあの子達はイタリア艦だから、食事から入るのが一番の近道だと思った。つまりそういうことよ」

「よくわかりました」

 

 わからない理屈ではないし、下手に反論すると面倒な相手なので、提督は素直に返事をした。

 

「よろしい。なら、提督お勧めのお店のリストを作って渡しなさい」

「あ、明日まででいいですか?」

「十分よ。なかなか早いじゃない」

「ま、まあ、この辺の店ならそれなりに知ってるし」

「期待してるわ。ふふ、楽しみね」

 

 絶対自分も美味い飯を食べたいだけだと思いつつ、提督は去りゆくビスマルクを見送った。

 

 

 

 更にドアがノックされ、短い応答の後に艦娘が入ってきた。

 

「提督さん、ちょっといいかしら」

「なんだ、由良か。これまた珍しいな」

 

 やってきたのは軽巡洋艦の由良だった。落ち着いていて、あまり主張の強くない彼女が執務室を訪れるのは珍しい。

 

「あ、お忙しいなら後でも」

「いや、休憩中だ。まあ、座ってくれ」

 

 提督が促すと、由良は来客用の椅子に座った。

 

「失礼します」

「それで、何か相談か?」

 

 話を促すと、由良は悩ましげな様子で切り出した。

 

「はい。こんなこと、提督さんに相談すべきじゃないかもしれないんだけど」

「確かに何でも力になれるわけではない。しかし、案外話すだけでも気楽になるものだ。秘密は厳守すると約束する」

 

 執務室に来るのは珍しい艦娘、深刻な態度。これはただごとではない。

 そう判断した提督は真剣な面持ちで発言した。レアな光景だ。

 

「では……」

「うむ…………」

「……どうすれば、もっと目立てるんでしょうか?」

「はい?」

「いえ。なんか私、艦隊の中で影が薄い気がして。軽巡洋艦だと川内型とか天龍型とか阿賀野型に話題を持っていかれてると思うんです」

「むう……」

 

 気のせいじゃないか、と言い切りにくい話だった。由良の影が薄いとまでは言わないが、他の軽巡洋艦が個性派揃いなのは事実だ。

 

「えっと、そうだな、五十鈴みたいに改二が来れば」

「いつ来るのよ改二。提督さんの力で何とかならない?」

「すまん。それは俺の権限の範囲を超えている。……そうだ、長良みたいに軽いイメチェンを」

「出来るんならやってるわ」

「うーむ。てか、この前の大規模作戦で出番があったじゃないか。龍驤と組むと進みやすくなるやつが」

「何言ってるのよ。それを知ってて最上型を使ったのが提督さんじゃない。それにきっと機会があっても鳥海さんと龍驤さんで組ませて出撃したに違いないわ」

「す、すまん……」

 

 ちょっと否定できなかった。特に後半など提督自身ちょっとだけ「そうかも」と思ってしまった。

 これで納得して話を終わらせるわけにもいかないので、何とかすべく提督は話を続ける。

 

「その、なんだ、由良よ。今後、潜水艦隊撃破の任務があったら優先的に出撃を考慮するということでどうだ?」

 

 凄く曖昧な発言になった。

 

「なんか玉虫色な発言されてる気がするんだけど。頑張って言葉を選びましたって感じ」

 

 しかも一瞬で見抜かれていた。

 

「編成は状況に応じて流動的に変化する、断言はちょっとできん」

「ふーん。そうなの? てっきり趣味かと」

「こう見えて私情は挟まない……あまり」

「あまり……ねぇ。いえ、いいのよ、私も提督さんを困らせたいわけじゃないんだし。気を使わせてごめんなさい」

 

 どうやら由良も出撃に関して不満はあれど、提督の方針そのものに反対しているわけではないらしい。

 

「いや、謝ることはない。うちも大所帯になったから色々行き届かないこともあるだろう。しかし、あれだ、由良よ」

「なによ」

「軽巡洋艦はまだマシなんだぞ、駆逐艦とか目立つ目立たない以前の問題だ。改二が来たからといって目立てるとは限らない」

「…………」

 

 少し考えた後、遠い目をして由良は言った。

 

「……確かに」

 

 改二が来て目立つ駆逐艦、改二が来なくても目立つ駆逐艦、改二が来てもあんまり話題にならない駆逐艦。

 人数が多いと、ちょっとくらい変わったことがあったくらいでは目立てなかったりするのだ。

 

「軽巡は人数がそれほどいないからまだマシなのかしら」

 

 どこか悟った表情をして、由良は部屋から出て行った。

 

「艦娘も色々と大変だな……」

 

 来客の途絶えた執務室で、一人コーヒーを飲みながら、提督はそんなことを呟いた。

 ちなみに、艦娘の相談が連続したおかげで提督の仕事はしっかり遅延して、球磨に滅茶苦茶怒られたのだった。


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