オタ提督と艦娘たち   作:みなかみしょう

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登場人物
・オタ提督:某鎮守府の提督。ひょんなことから提督になった。
・球磨:オタ提督の主な秘書艦。語尾以外は意外と優秀。
・吹雪:オタ提督の初代秘書官。新天地でも元気にやっている。
・日向師匠:瑞雲ハイランドに特別な瑞雲が展示されているぞ(宣伝)。
・夕張:不幸なことにオタ提督の鎮守府の所属になってしまった。オタクコンテンツ日照りの南国で、提督を憎んだり喧嘩したり、たまに仕方なく仲良くしたりしてから憎んでいる。尚、今回は登場しない。


オタ提督と瑞雲祭り

 かつてのこの島を知る人たちは、口々にこう言う。

 

「鎮守府が出来て、提督が来て。別世界になった」

 

 元々は艦娘も鎮守府も無く、深海棲艦に怯えて暮らすだけだった島。

 そんな島に、艦娘が来て、鎮守府が出来て、劇的に変わった。

 海は安全に、人と物は沢山来て、賑やかになった。

 鎮守府は少しずつ大きくなり、艦娘も珍しい存在ではなくなった。

 

 それらは全て、一人の男の手腕だと言われている。

 鎮守府の最高責任者、提督。

 この島の鎮守府にいるその男は、オタ提督と呼ばれていた。

 

   ○○○

 

「なんか、おかしいな」

 

 鎮守府の司令室から南の島の海を眺めながら、オタ提督は呟いた。

 机の上には麦茶とエロゲ雑誌、そしてタブレットPC。どれも本土から取り寄せた貴重品である。この僻地にもインターネットも最近ようやく開通した。鎮守府の文明開化に提督と艦娘達は宴を開いて喜んだものだ。

 

 提督がこの島にやってきて、そこそこの時間が流れていた。当初は本土に比べて慎ましすぎる施設だったこの鎮守府も、幾度かの作戦と設備増強を経て、かなりの規模になっていた。

 当然、鎮守府の要たる艦娘もかなり増えているのだが。

 

「妙に静かだな……。もっと賑やかなはずなんだが」

 

 この日の鎮守府は静かすぎた。

 常ならば出撃、演習、遠征、その他諸々の任務で艦娘が忙しく働いており、賑やかな場所だ。

 これは何かある。

 事実確認のため、提督が秘書艦の球磨を呼ぼうと思ったその時だった。

 

「大変だクマ!」

 

 秘書艦が扉を勢いよく開けて入ってきた。口調に似合わず冷静な彼女らしからぬ様子で、提督の目の前にやってくる。

 

「そんなに慌てて何があった。いや、確かに鎮守府の様子はおかしいが……」

「こ、これを読むクマ! 大変な事態だクマ!」

 

 そういって球磨が提督に渡したのは一通の手紙だった。

 既に開封済みの中身を見ると、見事な達筆で簡素な文章が綴られていた。

 

『かねてから要望していた【瑞雲祭り】の企画にゴーサインが出たので本土に帰ります。

 また、瑞雲祭り成功のために、人員も少し借り受けます。大丈夫、少しくらい人手が少なくても提督なら出来る。

 瑞雲を信じろ。

              瑞雲魂と共にある伊勢型航空戦艦 日向』

 

 最初から最後までわけのわからない手紙だった。

 

「なんだこりゃ。わけがわからねぇよ……」

「本土に問い合わせたけど、その手紙の通りらしいクマ。日向さん達がテーマパークを乗っ取る形で瑞雲を展示したりとやりたい放題するらしいクマ」

「マジかよ。凄い時代だな。って、鎮守府が静かなのは日向のせいか! 誰がいなくなった!」

 

 瑞雲祭りとやらは気になるが、それ以上に鎮守府の戦力が問題だ。瑞雲が絡んだ日向は何をするかわからない。

 

「五航戦に大井と北上、あと第七駆逐隊と明石さん、金剛さん達も全員いないクマ」

「主力がごっそり抜けてるじゃねぇか……」

「あ、あと鹿島さんもいないクマ。最近、ようやくこっちに帰ってきたクマのに」

「あいつ、もう本土の鎮守府勤務でいいんじゃねぇかな……」

 

 練習巡洋艦の鹿島はその外見からか人気のある艦娘だ。おかげでコンビニやら何やらのイベントで殆ど本土にいる。

 一応、所属はこの鎮守府なのだが、殆ど意味がない。わざわざ南の島に帰ってくるのが気の毒な程だ。

 

「と、とにかく現状の戦力を確認だ! こんな時に攻め込まれたらたまらん!」

「了解クマ!」

 

 二人は慌てて執務室を飛び出した。

 

   ○○○

 

 一時間後、執務室に戻った提督と球磨は軽く絶望していた。

 

「伊勢と鈴谷と熊野もいないじゃねぇか。あと一航戦……」

「鎮守府の戦力が半減どころの話じゃないクマ。それと、他の鎮守府からも何人か持ってかれてるみたいクマ」

「日向のやつ、本気だな……」

 

 何が彼女をそうまでさせるのか。瑞雲か。全てはあの水上偵察機のためか。

 

「どうするクマ? 戦艦と空母無しは不味いクマよ?」

 

 日向の連れ去った戦力は鎮守府の全戦艦と空母が含まれていた。多少の戦力ダウンなら持ちこたえる自信がある提督でも、これは辛い。

 

「こうなったら……。本土に行って無理矢理連れ戻す」

「やはり……それしかないクマか」

「ああ、俺が本土にいって話をつけてくるから、ここは任せた。なに、すぐに帰って……」

「何言ってるクマ。行くのは球磨に決まってるクマ」

 

 二人の間に電撃が走った。

 南の島の鎮守府は便利になりつつあるとはいえ、本土に比べれば不便だ。

 そして、最前線の提督と秘書艦という立場上、二人とも本土の土は滅多に踏めない。

 仕事であると同時に、これは貴重なチャンスでもあるのだ。アレとかそれとか、二人とも本土に色々と用件が溜まっている。

 特にサブカル関係の供給の少ない提督にとっては死活問題である。あまりの供給不足で、最近など夕張と仲良くなりつつあるくらいだったのだから。

 

「いいか球磨。このような重大事には提督自ら事にあたるべきだ。そうすることで、迅速に物事が解決する。優秀な君ならわかるだろう?」

「提督は鎮守府のみならず、この地方の要クマ。いなくなるだけで士気に関わるし、戦力が減った今こそやり手と評判の手腕を発揮する局面クマ。ここは秘書艦に全てを任せるのが最良クマ」

「…………」

 

 双方睨み合い譲らない。気心の知れた二人である。妥協の余地が無いのは明らかだった。。

 

「話し合いは無駄……か」

「先に港に着いた方が勝つクマね……」

 

 一瞬で勝負の内容が決まった。

 先に港に到着した方が本土行きの船に乗れる。

 提督と艦娘、身体能力の差はある。

 しかし、オタ提督にその常識が通用するとは限らない。

 どちらが勝つかわからない。順当な勝負である。

 

「…………」

 

 互いに様子を見る提督と球磨。一触即発の空気が執務室内に満ちる。

 その時、戦場のような緊張感を打ち砕くものがあった。

 

「大変です!」

 

 室内への新たな来訪者である。

 ノックも無く入ってきたのは、駆逐艦吹雪。日向に連れ去られず残っていた彼女は、物凄く慌てていた。

 

「え、あ、なんです、この空気? 喧嘩ですか?」

「いや、違う。大したことじゃない」

「よくあることクマ。それで、何が起きたクマ?」

 

 彼女を見るなり、いつもの態度に戻る二人。切り替えの速さは流石だった。

 

「えっと、港に本土からの援軍が来ました。雲龍さんとか、扶桑さんとか。あと、手紙です。大淀さんから」

 

 そう言って、吹雪は一通の手紙を渡してきた。こちらは日向からのものと違い、未開封である。

 

「大淀か。事態を察して、援軍を寄越してくれたんだろうな……」

「流石は大淀さんだクマ」

 

 二人とも喜んでいるが目は笑っていなかった。貴重な本土行きを逃したのだから当然だ。

 

「それで、なんて書いてあるクマか?」

「待て。今開ける。ああ、吹雪も一緒に読むか?」

 

 机からペーパーナイフを取り出して、提督は封筒を開封する。

 几帳面さが滲み出ている文字で書かれた手紙は、次のような内容だった。

 

『日向さんが企画したイベントで人員不足が起きているでしょうから、増援を送ります。しばらくその戦力で運用してください。

 PS.本土に行きたいでしょうが、現状難しいです。あと、鎮守府のネットでアダルトコンテンツをダウンロードするのは自重してください。そろそろ問題になります。                                              大淀』

 

 事務的ながら個人的な警告までしてくれる親切さが有り難い、実に大淀らしい一通だった。

 

「残念だな。本土行きは無しだ」

 

 丁寧に手紙を折りたたみながら、提督は震え声で言った。

 

「最近、夜になるとネットが重くなるのは提督が原因だったクマか……」

「提督、後でちょっとお話しませんか?」

 

 半目で睨む二人の艦娘から目を逸らしながら、提督は呟いた。

 

「瑞雲祭りか……。何だか俺も行きたくなってきたな」




お久しぶりです。
瑞雲祭りのはじけっぷりに自然と話が湧き出て書かずにいられませんでした。

また、個人的なお知らせになりますが、「みなかみしょう」というペンネームでライトノベル作家デビューしました。
「魔王ですが起床したら城が消えていました。」というタイトルの作品です。
書籍化しましたが、小説家になろうで今も連載している作品ですので、良ければ御一読ください。

この「オタ提督と艦娘たち」を読んでくださった皆様がいなければ、もう一度、一次創作をしてみようと思うことはなかったでしょう。

この場を借りて、心より御礼申し上げます。
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