My Revenge Against God! 作:まきものさん
昔から、引っ込み思案だった。
自分から何かを始めたいと思ったことはなかったし、
誰かに言われるがままに生きて行けばいいと思っていた。
人と話すのが苦手だった。
趣味も何もなく話題が無かったから。
家の中で一人で遊んでいるのが好きだった。
農作業を手伝う以外、なるべく外に行きたくなかった。
お父さんに言われて、勇気を出して一人で外に出てみた。
友達がたくさんできると思っていた。
一人だけ、私に声をかけてくれた。
その子の名前はサラと言った。
すきっ歯が特徴的な、よく笑う可愛い子だった。
その子は編み物が得意だった。
よくマフラーや手袋を毛糸で編んでは私にプレゼントしてくれた。
どうしてそんなにうまくできるのと聞くと
お母さんから教えてもらっているからと得意顔で応えてみせた。
初めて趣味ができた。
あの子よりうまくいろんなものを編んでみたい。
そんな単純な動機だったけど。
それでいつかお返しに私が編んだものをプレゼントしてあげたかった。
ある日、サラの家に遊びに行くと、サラは部屋の隅っこで小さくなって泣いていた。
どうしたの、と聞いても首を振って何も言ってくれなかった。
どうやったら心を開いてくれるんだろうといろいろ考えた。
私はサラのお母さんに編み物の道具を借りて小さなリボンを編むことにした。
何度も針で指をさすたびに心が折れそうになった。
それでもサラに、ただ笑ってほしくてひたすら編み続けた。
できあがったリボンは歪んでいて不格好だった。
でもそれをプレゼントするとサラの顔がパッと明るくなった。
サラは、女の子たちにいじめられていると言った。
私はどうしたらいいかわからなかった。
サラは、心配しなくて大丈夫と言った。
その言葉を信じてしまった。
ある日、サラと一緒に遊んでいると
私たちの前に女の子たちが立ちふさがった。
サラは怯えた目をしていた。
その子たちは私を突き飛ばしてサラの髪をおもいっきり引っ張った。
そして、サラがつけていた不格好なリボンを
ひったくるようにして髪から取った。
そのリボンを汚い、可愛くないとゲラゲラ笑い
地面に投げ捨て、足でぐちゃぐちゃに踏みつけた。
許せなかった。
それは自分が作ったリボンを汚いと言われたからじゃない。
私はサラがこれを大事にしていたのをよく知っていた。
サラの大事なものを勝手にけなして台無しにしたのが許せなかった。
気付けばその子たちと口喧嘩になっていた。
その子たちは私に何か言われると、すぐにどこかに行ってしまった。
サラは今まで見たことが無いくらい泣いていた。
もう一回、私が作るから大丈夫だよ、と慰めてあげた。
次の日から、私がその子たちにいじめられるようになった。
サラとは遊ばなくなった。
巻き込みたくなかった。
せっかくあの子が見逃してもらえるようになったんだから。
私が代わりにいじめられればすべてがうまくいく、そう信じていた。
ある日、その子たちのうちの一人が言った。
私、魔法を覚えたんだ、と。
昨日覚えた水魔法を試してみたい、だから実験台が欲しいと。
水魔法なら別に痛くはない。
ただただ水が冷たいのを耐えればよかった。
でも、油魔法、風魔法と魔法のレベルが上がっていくうちに
魔法を受けるのがきつくなっていった。
ある日、女の子たちの中で一番背が高い子が言った。
今日は火炎魔法を試してみたい、と。
はじめて私は怖くなった。
その子たちは、私の顔が可愛くてムカつくから
ぐちゃぐちゃにしてやりたいと言った。
もうダメだと思って目をつむった。
その時だった。
一人の男の子が水魔法で巨大な水の玉を作って
火炎魔法ごと女の子たちを吹き飛ばした。
そこにもう一人の男の子がやってきて
女の子のことを怒鳴りつけると
女の子たちはびしょ濡れのままあっという間にどこかに走って行った。
魔法で私のことを助けてくれた男の子の名前はリヒト、
怒鳴りつけて追い払ってくれた男の子の名前はテオと言った。
次の日から私はいじめられなくなった。
サラともまた遊ぶようになった。
それでも、私はいじめに対して何もできずにいた自分が情けなかった。
初めて自分から何かしたいと思えた。
身を守るために、私は魔法を習得することにした。
お母さんやお父さんなんかにお願いして、魔導書を借りて独学で猛勉強した。
ある日、またリヒトに会った。
私は魔法対決を申し込んだ。
自分の魔法に自信があった。
あれだけ勉強したんだから勝てる、そう思っていた。
結果は完敗だった。
質、量そのどちらでも、圧倒的な差だった。
初めて、悔しいと思った。
いつかこの男の子に勝ちたい、そう思えるようになった。
でも、何度やってもリヒトには勝てなかった。
その度に次こそはと思い、ひたすら魔法の勉強をした。
そんなある日、いつものようにリヒトに負けたとき、
思い切って私は魔法のコツを聞いてみた。
あれだけ、魔法の質・量どちらもすごいリヒトなら
何かすごいコツでも知ってるんじゃないか、
それをぜひとも教えてもらいたい、そう思っていた。
彼から返ってきた言葉はシンプルだった。
コツなんかない、ひたすら練習だけ、と。
何か秘訣があるんではないかと思っていた自分が急に恥ずかしくなった。
彼はただひたむきに努力していただけだった。
ライバルが尊敬の対象に変わった。
私のあこがれになった。
ある日、サラと遊んでいるとき、突然言われた。
リアちゃん、リヒト君のこと好きでしょ、と。
もちろん最初は否定した。
そんなわけない、自分でもそう思ってたから。
サラにそう言われてから、ますます意識してしまうようになった。
気付けばリヒトのことを目で追うようになっていた。
魔法対決のあとも、そのまま一緒に遊ぶことが増えた。
私はリヒトに魔法を教えてもらうようになった。
魔法を教える時の、彼の真剣な横顔はかっこよかった。
リヒトは私に魔法だけじゃなくていろんなことを教えてくれた。
薬草の知識、キノコの知識、文字の書き方とか、読み方とか。
何かお礼がしたかった。
彼に教えてもらってばっかりでは釣り合わないと思った。
お母さんに頼み込んで、料理や家事のやり方なんかを叩き込んでもらった。
エッチなことなんかも、ちょっとだけ教えてもらった。
ある日、彼にシチューを作ってあげた。
具が人参しかない、寂しいシチューだった。
でも彼はおいしい、おいしいと言って喜んで食べてくれた。
私はある日、ようやく気が付いた。
リヒトのことがいつの間にか、好きになっていたことに。
でもなかなか告白する勇気は出なかった。
私が思いを告げて、今の関係が壊れてしまうのが怖かった。
そんな時リヒトの十歳の誕生日があった。
私は絶対にプレゼントをしようと決めた。
せっかくだからずっとサラと練習してきた編み物のプレゼントをしよう、
そう決めて何を作るかいろいろ考えた。
あれこれ悩みぬいた末、毛糸のポーチを作ることにした。
いろんな小道具をしまえて、便利だと思った。
サラにボタン付けなんかを教えてもらいつつ一生懸命作って
誕生日にプレゼントした。
彼は飛び上がるくらい喜んでくれた。
それだけで、作って良かったと思えた。
そして手を握って感謝を伝えられた。
いきなり手を触られてちょっとドキッとしたのは内緒。
その次の月、私の誕生日があった。
私のアピールに全然気付いてくれないリヒトのことだから、
私の誕生日なんてどうせ忘れているだろう、そう思っていた。
誕生日当日、リヒトの家にいきなり呼ばれてびっくりした。
そこで、私のお父さん、お母さん、それにテオと、
リヒトの家族がサプライズで誕生日パーティーをした。
夜も深まってから、リヒトが私を庭まで連れ出し、
懐から布に包まれた何かを差し出してきた。
布を広げてみると、銀色に輝くヒナギクの髪留めだった。
リヒトからプレゼントをもらっただけで胸が高鳴った。
身に付けているだけで、リヒトがずっとそばにいてくれる気がした。
その日から、長いままでまとめたことがあまりなかった髪を留めるようになった。
サラはその変化に気付いて、ニマニマしていた。
リヒトも私のことが好きだろう、ということはうすうすわかっていた。
それでも、告白する勇気は出なかった。
もし振られたら、火炎魔法を全身で浴びるより、もっと苦しいだろうから。
そんなある日、リヒトとテオとピクニックに行くことになった。
私は頑張って、おめかしした。
家にある一番きれいな青いエプロンドレスを着て、
髪も三つ編みのハーフアップにしてみた。
ついでにお菓子も作ってみた。
ちょっと形は歪になっちゃったけどバタークッキーを焼いた。
教会前に行くとリヒトはもう本を読んで待っていた。
その姿にちょっと見惚れつつ、声をかけると似合っていると照れながらも言ってくれた。
髪飾りを付けていたことまで気付いてくれて、
細かいところまで私を見てくれているのがわかり胸が弾んだ。
村を出て森までピクニックに行くことになった。
フェンスをよじ登る途中で落ちそうになったところをリヒトに助けられた。
落ちないように腕をつかんできた彼の手はたくましくて、
しっかり男の子のものだった。
強く、それでいて私を気遣いながら、フェンスの上まで引き上げてくれた。
森の中で思い切ってクッキーをあーんしてみた。
顔から火が出るくらい恥ずかしかったけど、少しだけ距離が縮まった気がした。
森の中ですごく怖い魔物に見つかった。
私は三人で逃げたかった。
でも、彼は私たちを背にかばい、一歩前に出た。
彼だけ残るつもりだった。
思わず泣き出してしまった。
大好きな彼がいなくなっちゃうんじゃないかって急に怖くなった。
わがままなのはわかっていた。
もちろん彼の覚悟も伝わってきた。
でも、納得できなかった。
そんな、私を彼は睡眠魔法でいきなり眠らせてきた。
ちょっと強引すぎる、と思った。
お父さんには内緒にしておいた。
もしお父さんに言ったら、たぶん彼のかっこいい顔はあざだらけになってしまうから。
彼は、村の人たちに抱えられて無事に帰ってきた。
安心したら涙が出てきた。
それと同時に、すごく怒りが湧いてきた。
彼はいつも自分を犠牲にするきらいがある。
彼が目覚めたとき、思わずビンタしてしまった。
ちょっと乱暴だったと、今では反省してる。
声も聞きたくないって言ったのはうそ。
ほんとは彼の声を今すぐに聞きたかった。
でも彼には今よりもっと自分を大事にしてほしかった。
だからきつく当たっちゃった。
ようやく彼が自分の間違いに気付いて謝ってきた。
私も謝った。
自分もどうしようもなくわがままだった。
彼は私たちを守るために、勇気を振り絞ってくれた。
それなのに一方的に責めるのは理不尽だと思った。
だから、感謝した。
収穫祭デートに誘われた。
自分から誘おうと思っていたところを遮られてからだ。
うれしすぎてその夜はなかなか眠れなかった。
お母さんがちっちゃいころに来ていた純白のワンピースを借りて
髪も気合を入れて空色のリボンを編み込んだ三つ編みなんかにしてみた。
やや寝不足気味で待ち合わせ場所に向かうと、彼がすぐにやって来た。
ぎこちなく私の格好をほめてくる彼がたまらなくいとおしかった。
それからも、私を喜ばせようとして慣れないながらも頑張ってエスコートしてくれた。
壺が買えなかったのは誠に残念だけど……。
教会に立ち寄って、昔よく一緒に読んだ本を見ていた。
お母さんの言う通りに椅子を近づけて、「色仕掛け」してみたけど効果は抜群だった。
彼は耳まで真っ赤になった。
彼が手を差し出してきた。
視線を泳がせながら、手汗をズボンで拭いてぎこちなく手を差し出す姿は
とてもいじらしかった。
かくいう私も、とっても緊張していたけど。
宝石の露店で綺麗なアメジストのペンダントを見つけた。
一瞬、可愛くお願いしてプレゼントしてもらおうかとも考えた。
でも値札を見て愕然とした。
桁が思っていたより一桁多かったのだから。
欲しいものがあるか聞かれたけど、断っておいた。
さすがの彼でも無理だろうと思った。
トイレに行くと言って彼が屋台通りの方へ走って行く姿が見えた。
トクン、と胸が高鳴った。
まさか、本当にペンダントを買ってきてくれるんじゃないかって。
彼が私を畑のど真ん中まで連れてきた。
プレゼントをサプライズで渡してきた。
木箱を開けてみると、アメジストのペンダントだった。
なんか、無性に悔しかった。
その日は、女心が全部わかったみたいに振舞われて。
どうせ彼もお父さんにいろいろ教わって来たんだろうなと思った。
私はちょっと攻めてみることにした。
それは、リヒトに直接ペンダントを付けてもらうこと。
彼は私になるべく触れないように、慎重に首に腕を回してきた。
私を大事にしてくれているみたいでますます嬉しくなった。
彼が告白してきた。
もちろん、即行でオッケーした。
私がずっと言いたかった言葉を彼はすんなり言ってのけた。
どうしようもなく嬉しくて、思わず彼に抱き着いてしまった。
初めて触った彼の体は、思ったよりムキムキだった。
普段から剣術のために筋トレでも積んでるんだろう。
彼が優しく私を抱きしめてくれた。
いつまでもそうしていたかったけど、
このままだと、筋肉フェチになっちゃいそうだったのでしばらくして離れた。
お父さんに見つかった。
恋人つなぎをしていたので、言い逃れはできなかった。
その夜、お父さんは前後不覚になるほどお酒を飲んだ。
やっぱり私が彼と付き合うことになったことがショックだったのかもしれない。
毎朝彼を起こしに行くようになった。
いつも夜遅くまで魔法の練習をしているから彼は朝が苦手だった。
起きるまで、三十分くらい彼のあどけない寝顔を見るこの時間がたまらなく幸せだった。
クラっときて、何回かキスしそうになった。
かろうじて自制心が働いたからしなかったけど。
ヴィルへイドがいきなりやってきて村人を殺し始めた。
彼も今までに見たことが無いくらい怖がっていた。
でも、私が震えているのがわかった瞬間、
急に別人みたいに凛々しくなって私を守ろうとしてくれた。
馬に乗って一緒に逃げているとき、
こんな状況なのに私はたまらなくうれしかった。
彼のたくましい背中に合法的に抱き着いていられるんだから。
思いっきり抱きしめて彼を堪能していたせいで
一休みする頃にはすっかり腕が疲れていた。
立ち寄った村に、なんと魔族の四天王がいた。
さすがの彼もかなわなかった。
それでも最後まで私を守ろうとしてくれた。
でも運悪く、私の左腕に攻撃が当たってしまった。
そこで私の意識は途切れた。
次に目を覚ますと私は畑の真ん中にいた。
左腕が無くなっていて、傷口から血も止まらなかった。
リヒトに教えてもらった治癒魔法も効かなかった。
それどころか血がさっきより多く流れていった。
ああ、死んじゃう、直感的にわかった。
最後に、彼に会いたかった。
畑の向こうで、彼の叫び声が聞こえた。
今まで聞いたことが無い、悲痛な叫び声だった。
身体を起こすことができないから何が起きているかはわからないけど、
彼にとってすごくつらいことがあったのは間違いなかった。
ようやく彼が畑の向こうから歩いてきた。
その様子はどこかおかしかった。
目がうつろで、足取りもふらついていて、
よくわからない言葉をぶつぶつとつぶやいていた。
彼に声をかけると、私に向けたことが無いような
冷たい目でギョロっとにらみつけてきた。
こんなの、私が知っている彼じゃない。
人生で初めて人を殴ってしまった。
でもたぶん、これが最初で最後。
彼はいつもと同じ穏やかな目で私を見つめてきた。
よかった、元に戻ってくれたみたいだ。
自然と涙が流れていた。
急に寒くなってきた。
彼が必死に治療してくれたけど、もうとっくにわかっていた。
たぶん自分が助からないことを。
口を必死に動かしながら言葉を紡いで、彼を励ました。
私がいなくなっても幸せに生きてほしかった。
彼の幸せが私の一番の幸せだから。
身体に力が入らなくなってきた。
もう、真っ暗で何も見えなかった。
それでもリヒトの頭を撫でながら存在を確かめた。
それだけで冷たい体も、いくぶん温かくなる気がした。
私の頬に熱いものが当たった。
泣いてるんだ、リヒト。
もうほとんど声は出せないけど。
――愛してる
次の瞬間、力が抜けて何も感じなくなった。
急に身体が軽くなった。
ああ、私死んじゃったみたいだ。
体の輪郭がどんどんぼやけていく。
どんどん私が消えていく。
もう自分の名前も家族も思い出せない。
彼との記憶がどんどん消えていく。
もう彼の名前も顔も、匂いも、温度もわからなくなったけど……
彼にどうしても伝えなきゃいけないことが……
ふと、手に何かが触れた。
懐かしくて、温かい、銀色の何かが。
きっと大事なもののはずだ。
私が大好きだった誰かにもらった……
大事に手で包み込みながら、
自然と出てきた言葉とともに
その誰かにやさしく届けばいいな
そう思いながら
そっと、手を放す。
――ありがとう
取り敢えず第一章完結です。
第二章はダンジョン編になります。
しばらく更新が止まると思いますがご容赦ください。