My Revenge Against God!   作:まきものさん

3 / 12
2 夜の剣術修行

 

 窓から差し込んでくる西日がまぶしくて目が覚めた。かなり寝てしまっていたみたいだ。

 ベッドから体を起こそうとすると、母さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「リヒト大丈夫? あなたの部屋からすごい音が聞こえたから心配して来てみたら、

 床に突っ伏して倒れていたのよ」

 

 そっか、結界魔法で魔力を消費しすぎてそのまま気絶して……。

 

「いや実はしばらく結界魔法をいろいろ試してたら魔力が足りなくなっちゃったみたいで」

 

 母さんは一瞬絶句した後、この子は本当に……、と独り言のように言い、大きなため息をついた。

 

「はぁ、もういいわ。 リヒト、結界魔法は本来、防御したい方向に魔力の結界を一時的に張るもので、

 ずっと展開するような代物じゃないのよ。 今日はもう休んでいなさい……」

 

 

 どうやら僕の結界魔法の使い方は間違ってたみたいだ。だから魔力消費量が半端なかったのか……。

 どちらにしても、念押しされたことだし、今日はもう魔法の練習はおしまいにしよう。

 

 

 母さんが部屋まで運んできてくれた夕食を食べ終え早々にベッドに入る。

 毛布をかぶりながら頭の中で結界魔法の魔力の形をイメージしようとしたけどなかなかうまくできない。

 やっぱりまだまだ無詠唱じゃ無理みたいだ。まあ、これからゆっくり練習すればいいか……。

 

 そんなことよりも、明日のピクニックだ。

 幼馴染のリアとテオと三人で、教会前に九時に待ち合わせ。

 どこに行こうか、何をして遊ぼうか考えてたら興奮で目が冴えてきちゃった。

 

 たくさん歩くから早く寝なきゃいけないのにまったく眠れそうにない。

 ため息を一つつき、ベッドから這い出て壁にかけていた木刀を手に持つ。

 眠気が襲ってくるまで黙々と素振りをしよう。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 木刀の素振りは逆効果だったみたいだ。

 さっき結構寝ていたからか、三十分素振りしたら全然眠気が襲ってこないどころか

 目がギンギンに冴えてきた。仕方ないし、わがまま言って父さんに付き合ってもらおうかな。

 ここのところ騎士団の入団試験がある兄さんに付きっきりで

 なかなか修行の相手をしてくれてなかったし。

 

 部屋を出て、隣の父さんの仕事部屋のドアを叩く。

 

 

「父さん?まだ起きてる?」

 

「リヒトか、どうしたんだ?」

 

「実は今から剣術の稽古をつけてもらいたくて」

 

 父さんがドアを開ける。

 

「リヒト、俺は構わないんだが、母さんから聞いたぞ。

 さっき結界魔法を試してたら魔力切れでぶっ倒れたって……」

 

「大丈夫、もうほとんど回復してるから」

 

 実際、夕方まで寝ていたおかげで、体の重さはほとんど抜けている。

 

「ほんとか?」

 

「うん、ほんと、ほんと」

 

「そうか、じゃあ母さんには内緒だぞ」

 

 ニヤリと笑いながら父さんは木刀を持ってきて、ドアをそーっと閉めた。

 

 階段をそろり、そろりと父さんを先頭にして降りていき居間の様子をうかがう。

 母さんは暖炉の前で本を読んでいた。背中をこっちに向けている今がチャンスだ!

 

 抜き足差し足で居間を通り抜け、なるべく音を立てないようにドアを開けて庭に出る。

 あたりは真っ暗でほとんど何も見えない。

 

 

「神の力よ、ここに宿りたまえ、今我に力を与えたまえ、照明魔法」

 

 父さんが詠唱をすると、庭がパッと明るくなる。

 いつもより光を弱くしているのは母さんに気付かれないためかな?

 

 

 

「よし、リヒト、いつでもかかってこい」

 

 顔の横に剣を構えると、父さんも倣うように構えを取る。

 息遣い、足の置き方、構え方、すべてにおいて父さんは隙が無い。

 

 魔法を使った派手な技は母さんに見つかりそうだからできないし、純粋な技量と駆け引きだけで挑まなきゃ。

 とはいっても、身長差や経験値では十歳の僕では大人で騎士団所属の父さんには到底かなわない。

 なら、どうするかって?

 

 大丈夫、秘策はある。今朝の修行を見ていて一つだけ弱点を見つけた。

 兄さんにカウンター攻撃を叩き込んだ時の動きが、直線的で単調だったんだ。

 だからカウンター攻撃を誘い出して、油断したところで本命の一撃を叩き込む。

 つまりカウンター攻撃のカウンター狙いだ。

 

「行くよ、父さん」

 

「おう、いつでもかかってこい」

 

 

 

 

 右足で思いっきり地面を蹴り、一気に加速する。

 

 そして父さんの間合いに入る。

 やっぱりカウンター狙いなのか父さんから攻撃をしかけてくる様子は無い。

 

 左脇腹を狙うフリをして木刀を側面から薙ぎ払うように振るったけど

 父さんは剣を合わせて難なく受け止めてしまった。

 そして僕は攻撃の勢いを殺されたことでバランスを崩し転びそうになっているように

  "見せかける"。

 

 がら空きの背中を狙って父さんが木刀の柄を思いっきり振り下ろしてきた。

 

 

――ここだ!!

 

 左足を軸にして体を回転させつつ、右手の木刀を思い切り振り抜いた。

 

――取った!!

 

 父さんの肩口をとらえた……かと思った瞬間

 

「カハッ」

 

 次の瞬間、地面に叩きつけられ右脇腹に鈍い痛みが走る。

 確かに取ったはずだったのになんで……?

 

「カウンターのカウンター狙いだったのはいい筋だ。

 でも俺はお前のさらに一歩先を読んで攻撃した」

 

 背中からひんやりした土の感触が伝わってきて、火照った体から熱を奪っていく。

 さっきの攻撃、父さんは完璧に読み切ってたんだ……。

 

「相手と戦うときには常に先の先を読むんだ。

 自分の攻撃が成功すると思った時、その瞬間、人は思考をやめる」

 

 真剣な表情で続ける。

 

「戦うときは思考をやめて油断した瞬間が命取りだ。

 今のリヒトは自分のカウンターのカウンター攻撃が成功すると思って

 相手の先の動きを読むことをやめた、それが敗因だ」

 

 脇腹に手を当てて魔法で治療し、立ち上がって背中についた土をパンパン払う。

 

「今日の稽古は終わりにしよう。ちょっと井戸水でも飲んでいこうか」

 

 

 井戸から冷たい水を汲んでマグカップに注いで手渡してくれた。

 父さんは庭のベンチにドカッと腰を下ろし、隣に座るように勧めてくる。

 

 腰を掛け、水をごくごく飲む。見上げると、満天の星空が広がっていた。

 

 しばらくして左手の甲に刻まれた騎士団のエンブレムを大事そうに触りながら

 父さんが独り言のように語り出す。

 

「俺は若いころは剣術の才能がある方じゃなかった、むしろ中の下くらいでな。

 到底騎士団に入れる腕じゃなかったんだ。でも、そんな俺でもひとつだけ

 他の人より秀でていたものがあった。それが先を読み決して油断をしないことだ」

 

 横顔を見つめているとその視線に気付いたように父さんは星空から僕に視線を移し続ける。

 

「リヒトは才能がある、俺よりずっとな……。

 技術を磨くこと、力をつけることも剣術においてもちろん大事だ。

 だが本当に大事なことは油断せず常に相手の先読みを怠らないことだ。

 それだけは忘れずに覚えておきなさい」

 

 言い終わるや否や頭をグシグシなでてくる。くすぐったい。

 

「でも今日のカウンターのカウンター攻撃には正直驚いたぞ」

 

「えへへ、でも父さんあんなに力強い一撃を叩き込む必要あった?」

 

 父さんは視線を逸らしながら

 

「はは、さっきはちょっと力加減を間違えてな」

 

「"ちょっと"?」

 

 ジト目で父さんを見る。

 

「今朝の兄さんの時も……」

 

「ははっ、まぁまぁ、そんなプリプリしない。

 でもアイファーもリヒトも負けは負けだからな、ははっ」

 

 勝ち誇ったような顔でここぞとばかりに煽ってくる。なんか考えたらさっきの修行といい、

 今朝の兄さんの治療の件といい無性に腹が立ってきた。

 

「かみのちからよ、ここにやどりたまえ……」

 

「おいおい、水魔法は寒いからやめてくれ、やめろーー!!」

 

 ぎゃあぎゃあ父さんと騒いでいるとドアがバンッと勢いよく開き

 満面の笑みを浮かべた母さんが大またで庭にやってきた。目が全く笑ってなくてすごく怖い。

 さっきまで僕を煽って楽しそうだった父さんも、急にシュンとなり冷や汗をかく。

 

 

 母さんに家に入るように視線で促され、びくびくしながら家に入る。

 

「あんたら、こんな夜遅くに近所迷惑でしょうが!!

 それにリヒト、魔力切れだから安静にって言ったでしょ、ダメでしょ!!」

 

 居間に入ると雷が落ちた。怒った母さん超怖い。

 

「そうだぞリヒト、安静にしてなきゃダメだって、父さんも散々言ったろ?」

 

 速攻で裏切られた。父さん……。

 

「ごめんなさい」

 

 素直に謝る。ここで言い訳しても、もっと怒りそうだし。

 

「素直でよろしい、

 あ な た? 私言ったわよね、リヒトを安静に寝かせておけって」

 

「はい、すいません」

 

 その後も母さんはガミガミ説教を続ける。

 

 父さんも最初は言い訳しようとしてたけど最後の方はすっかりしおらしくなっていた。

 母さんには尻に敷かれてるんだよなぁ。

 

 夜もすっかり更け、風呂に入ってから部屋に戻りベッドに入ると急に睡魔が襲ってきた。

 

 

 

 瞼を閉じ、さっきの父さんの言葉を頭の中で反芻する。

 

 

――常に相手の先を読み、油断しないこと。

 

 

 小さく、そうつぶやきながら眠りについた。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 大きくため息をつきながら仕事部屋に戻る。

 正直俺は、かなり動揺していた。もちろん妻に説教されたこともあるが……。

 

――リヒトの成長が異常すぎる。

 

 たった半年ほど前に、剣術を始めたとはとても思えない。

 

 俺も、アイファーも十歳のころは、木刀を振ることすらままならなかった。

 やっぱりあいつの才能には光るものがある。

 

 でも、本当の強みは才能じゃない。

 見上げるほどの向上心とひたむきな努力、鋭い観察眼、そして何よりも自慢をしない謙虚さ。

 それこそがあいつの本当の強さだ。

 

 

 半年前、木刀を初めて握ったとき、あいつは最初は木刀が重すぎてまともに扱えていなかった。

 それからあいつは夜中に筋トレと素振りをコツコツして、

 たった十日後にはアイファーと同じくらい剣を振れるようになっていた。

 

 アイファーから初めて一本取ったとき、あいつはたまたまだと言った。

 喜びこそすれ、決してアイファーを見下すようなことはしなかった。

 

 負けるたびに反省点を書き出し、自分の弱点を炙り出し、必ず次に活かす。

 同じ失敗を絶対にしない、それがあいつの本当の強み。

 

 

 俺が負ける日もそう遠くないかもしれないな。

 

 寝る間際、騎士団長から届いた書簡を読み直す。

 騎士選抜試験の日程や作物の収穫日程や納税日などが事細かに書かれている。

 それらの書類に事務的に印鑑を押し書棚にしまう。

 

 そして懐から畳んでいた新聞を取り出す。

 

――魔大陸北岸で魔族の動きが活発化か?――

 

 

 俺が守る西大陸、ライヒリッヒ公国西部騎士団領のこの村は、

 西大陸西部最大の港町オズマンから程近い。

 

 

 団長の話によると、現在魔大陸北岸に集結している魔族はこの港町オズマンに攻め込んでくる

 可能性が高いということだ。

 

 そうすればオズマンの目と鼻の先にあるこの村まで魔族が来るかもしれない。

 

 もしそうなったとしても。

 寝室に戻り、ベッドで眠る妻の横顔を見て改めて心に誓う。

 

 クララ、アイファー、リヒト、そしてこの村は

 命に代えてでも絶対に守り抜くと。

 




騎士団のエンブレム
ライヒリッヒ公国の騎士団に所属する者の左手甲に刻まれる紋章。
公国を建国した勇者ヨハンが剣を取る姿をモチーフとしており、騎士団員の誉れの証とされている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。