My Revenge Against God! 作:まきものさん
リアに告白して正式にお付き合いを始めてから2週間くらいたった。
付き合ったらなにか変化があるかなと思ってたけど
実際は今までとそんなに変わらない。変わったとすれば……
「おはよう、起きてリヒト、朝だよ!」
「あと五分だけ寝させて」
「起きて、起きなきゃ布団全部はぐよ」
「待って、ちょっと毛布はがすのはやめて」
毎朝部屋まで起こしに来てくれるようになったことくらいかな。
秋も深まって冷え込む早朝に布団をいきなりはがされるのは勘弁してほしいけど。
こんな何でもない朝のひと時が結構好きだ。
これは決して、僕がドMだからとかではなく、朝一番にリアの顔を見ることができるからだ。
いや、ほんとだよ?
「ちょっと顔洗ってくるね」
昨日は魔法の練習がはかどって、かなり遅くまで起きていたから、
もう少し寝ていたかった。
大あくびをしながら庭に出て井戸水でバシャバシャ顔を洗うといくぶん眠気が覚めた。
「まだだ、遅い、動きに迷いがある!」
「はい、やっ、ふっ」
今日も二人は朝から修行をやっている。
騎士団選抜試験を二週間後に控え、父さんと兄さんの剣術稽古はますます激しくなっていた。
母さんから聞いた話だと騎士団選抜試験は毎年、この国の首都のライヒリッヒリアで開催され、
全国から、性別・年齢・身分を問わず、延べ一万人ほどが参加するらしい。
試験はライヒリッヒ公国の騎士になるための通過儀礼のようなものだそうだ。
ちなみにこの試験に合格した後も騎士団学校での三年の鍛錬を経てから、
卒業試験に合格することでやっと騎士団に入団できるそうだ。
ややこしすぎて、考えただけで気が遠くなる。
ちなみに選抜試験は百人に一人合格できるかどうか、というくらいの鬼難易度らしい。
それをクリアした父さんはやっぱりすごすぎる。
「ちょっと休んだ方がいいよ兄さん。体中あざだらけだよ」
治療しようと手を伸ばすと、手で静止してきた。
「いや、もう少しだ。もう少しでいい感覚が掴めそうなんだ」
そう言って再び兄さんが剣を構える。
実際、ここ2週間で兄さんは急激に剣術の腕を上達させていた。
剣を振る音も鋭く、速くなっていた。
軌道にも無駄がない。余計な動きが削ぎ落されて、
ただ相手を斬るためだけの線を描いている。
そして何よりも前までは涼しい顔をしていた父さんが
今は大粒の汗を額に浮かばせているのが証拠だ。
「そうか。よし、来い!」
「行くぞ、うおぉぉぉ!」
瞬きする間もなく木刀同士が激しくぶつかって、乾いた音が空気を切り裂いた。
両者の力が、視線が真っ向からぶつかり合う。
父さんが初めて大きく一歩後ろに下がった。
押している。兄さんが、父さんを押している。
兄さんはさらに大きく踏み込んで、そのまま一気に畳みかけた。
逃げ場はない。受け流す隙すら一切与えない。
そしてついに、兄さんの木刀が父さんのそれを思いっきり弾き飛ばした。
がら空きになった父さんの胴体へ、迷いのない渾身の一撃を叩き込まれる。
勝負あり、だ。
「はぁ、はぁ……俺の、負けだ。ようやく一本取ったなアイファー、」
「ゼエ、ハァ、勝ったぞ、勝ったぞ!!! しゃーーーーーーー!!!」
ギリギリの戦いだったけど勝ちは勝ちだ。
単純な力勝負で父さんのことをねじ伏せてみせた。
「すごいよ兄さん」
「まぁ、まだ一回だけ、だけどな。悪い、いつも通り治癒魔法よろしくな」
「うん」
父さんはというと
「うーん、たまたまだな。まだまだ技が粗いぞ」
往生際が悪かった……。
◆◆◆
そのあともみっちり修行をした兄さんはさらに腕を上げ十回に一度程度なら
父さんから一本取れるようになっていた。
「リヒト、頑張ってくるからな!」
「兄さんなら絶対合格できる。応援してるよ!」
ここまで毎朝兄さんは修行を欠かさず頑張ってきた。きっとやれるはずだ。
「じゃあ、行ってくるから、ちゃんと留守番してリアちゃんと母さんを守るんだぞ?」
「うん、もちろん」
「じゃあ、母さん。よろしくな」
「ええ、気を付けて。アイファー頑張るのよ!」
そして、七日前の朝、兄は父と一緒に馬に乗って
試験会場のあるライヒリッヒリアに向かって旅立っていった。
連れてってとせがんだけど、お前の分の馬がない、って断られた。まあ、仕方ないか。
と、一度は諦めがついていた。ついていたけど……やっぱり
「見に行きたーーい!!」
「もう駄々こねないの、リヒトももう十歳でしょ?」
「そうだよリヒト、ここはお義父さんの言ってたことをしっかり聞かなくちゃ?」
母さんとリアは二人で仲良くおしゃべりしてて、僕の話をまともに聞いてくれない。
「そもそもお義父さんにもお義兄さんにも残って村を守れって言われてたよ?」
「うっ……」
それを言われると弱い。
「お父さんとの約束を守れないんだったら魔導書貸すのやめにしましょうか?」
「ごめんなさい……でも試験どうしても見たいんだよー」
あれだけ修行を頑張ってた兄さんを近くで見ていた身として
晴れ舞台を何としてでも見たい、って思うのは当然のことだよね?
「仕方ないわね……」
母さんが何やら階段の下の棚をゴソゴソ漁り出す。
「あった、へそくりで買った水晶玉!」
「これがどうしたんですか?」
なんなんだろう。ただの水晶玉にしか見えないけど。
「ここに魔力を込めるとね」
水晶玉の中にぼんやりと何かが浮かび上がってきた。
「闘技場が映ってる!すごい!」
「何かあったときのために魔力を込めればお父さんと視覚と聴覚が共有されるように
しといたけど、まさかこんな風に使うなんてね……」
部屋の中に光を遮る魔法をかけて、大きめの布を天井からかける。
これで即席のスクリーンの完成だ。
「すごいですねー、これ……。リヒトこれで満足?」
「うん、こりゃすごいよ!あ、もう最初の試験が始まるみたいだよ!?」
スクリーンにかじりついているリアもなんだかんだ言って興味津々みたいだ。
「なんか視界がすごく揺れてるけど何?」
「他の観客の熱気で闘技場全体が揺れてるんじゃないかしら」
「いや、たぶんこれは父さんの貧乏ゆすりだね……」
父さんも気が気じゃないんだろうな。
◆◆◆
俺はアイファーを連れ、ライヒリッヒリアへ馬を飛ばした。
試験に遅刻したら大変だから、なるべく早く着きたかった。
試験日の二日前には首都に余裕をもって到着することができた。
そして、今朝俺は宿屋から試験会場に向かうアイファーを見送った。
あいつはいつになく全身をこわばらせていた。見ているだけで緊張が伝わってくる。
あの時の俺と似てるな。もう二十年近く前の思い出がふと蘇った。
もう亡くなってしまった親父に連れられ、ここまで受けに来た騎士団選抜試験。
ガチガチになりすぎて、前日の夜はほとんど食事も通らなかったっけ。
でも宿屋を出るとき、親父に言われた言葉は忘れていない。
今度は俺の番だな。ポン、とアイファーの背中を叩く。
「まぁ、そんな力むな……っていう方が無理か。
俺も二十年前はお前と同じ風になってたしな。
でも、お前がやってきたことを信じろ。俺と修業を積んだお前なら絶対できる。
困ったら深呼吸だ。あとは……」
そうだ、これだけは言ってやらないとな。
「なるようになるさ。お前のおじいちゃんの受け売りだけどな。そう気負うなよ。
だから、精一杯頑張ってこい!!」
「じゃあ、行ってくるよ親父!」
「おう、行ってこい!」
道を走っていくアイファーの姿がだんだん小さくなる。
俺ができるのはここまで。あとはアイファー自身がどうするか、だ。
試験開始一時間前に闘技場に入ったが、すでに観客の熱気が最高潮に達していた。
息子がこの後、ここに出るなんて信じられない。
それでも、皆が皆、娯楽目当てでこの試験を見に来たわけではなさそうだ。
例えば俺の右隣に座っている三十代くらいの夫婦。
さっきからずっとロザリオを強く握り締め、しきりに何かを唱えては十字を切っている。
おそらく受験者の親だろう。
そんな姿を見ていたら急に俺まで心臓がバクバクしてきた。
あいつは忘れものをしていないだろうか、身なりは整えたか、
ちゃんと試験会場にたどり着けただろうか、体の具合を壊してないか。
胸にかけていた十字架を左手で握り締め必死に祈りを捧げる。
そうこうしているうちに、闘技場内に設置された壇上に司会役が上がる。
どうやら試験が始まりそうだ。
「皆さん、今年もこの季節がやってきました!第353回ライヒリッヒ公国騎士団選抜試験開幕です!
進行役を務めますのはライヒリッヒ公国東部騎士団、及び近衛騎士団副団長ヴァイスです。
どうぞよろしくお願いします!」
「「「「「ウォーーーー」」」」」 「「ヴァイスさまー結婚してー♡」」
「今年の選抜試験には、地位、身分、性別を問わず全国から1万2501人の方が参加します!
去年の参加者が九千人程度でしたので
なんと受験者は去年比で1.4倍、例年の1.25倍まではねあがっています!
なんと、ずば抜けて受験者が多いんです!
なので例年は試験が第一次、第二次しかありませんでしたが
今年は第三次試験まで開催することにしました!」
我が耳を疑った。第三次試験があるなんて事前通告になかった。
今年の志願者が多すぎたのがいけなかったんだろう。あいつはもうこのことを聞いているんだろうか。
「第一次試験は例年通り、筆記試験、剣術の実技試験、騎乗試験、各100点ずつ合計300点で
三科目の得点合計の上位5%が第一次試験通過となります。
もちろん筆記試験でのカンニング、剣術の実技試験での魔道具などを用いた不正行為、
騎乗試験での馬への暴力などの反則行為をした場合は即失格です!
第二次試験は、第一次試験の合格者が五人単位のパーティーを組んで他のパーティーと戦う仕組みです。
勝敗ももちろんのこと、この試験ではパーティーメンバーとの連携が重視されます。
一人で先走ったりするのはもちろん減点対象です!」
そんなことはもうとっくに聞いている、それより早く第三次試験の内容を聞かせてくれ。
「そして、気になる第三次試験は……受験者同士の一騎打ちです。勝った方が晴れて合格となります。
対戦相手の組み合わせは第一次試験・第二次試験の合計点によって決定されます。
合計点が高いものは低いものと、中程度のものは、同じくらいの点の方と戦っていただきます」
なるほど公平を期した方法だ。これなら"試験内容自体には"誰からも文句は出ないだろう。
でも受験者や受験者の親にとっては、ふざけるなよ、と言いたくなるやり方だ。
第三次試験を開催するのは、まだいい。それはわかる。でも事前通告なしはあり得ない。
例えるならば税金二回取りますよ、と喧伝した後に、
やっぱ足りないからもう一回取りますってするようなものだ。
この試験に人生をかけている受験者だっているはずだ。
騎士団学校のやり口はあまりにも理不尽すぎる。
まぁ、第一次試験、第二次試験は毎朝修行でみっちり鍛えてやったから大丈夫だろう。
アイファーならおそらくこれは問題なく、というかかなり余裕で突破できるはずだ。
問題は第三次試験だ。今年は例年より倍率が高くなると思ってはいたが、
こんなことになるとは……。
今年は東部・近衛騎士団長の息子で公国史上最強と名高いヴィルヘイドなんかも
受験するとうわさが上がっていた。胸の奥がざわつく。まさか当たらないよな……。
「今年は二日に日程を分け、初日が第一次試験、二日目に第二次試験、第三次試験を行います。
初日の今日は午前中に筆記試験となります。その間皆さんは手持無沙汰だと思いますので、
良かったら騎士団による劇をご覧ください!」
ステージ上で近衛騎士団による劇が始まった。
ま、あいつならよっぽどのことがない限り大丈夫だろ。
いろいろ悩んでも仕方ないのでアイファーの合格を祈りつつひとまず劇を楽しむことにした。
◆◆◆
「午前中は劇をやるみたいだよ? あっ、これこの間一緒に読んだ本と同じのじゃない?」
「おーほんとだ、せっかくだし見ようか、ってなんだよ母さん」
ニマニマした目で見つめてきて、居心地が悪い。
「べっつにー?」
その後ようやく劇が終わり、昼食を食べつつ三人で余韻に浸っていると
『皆さん、劇はいかがでしたか?、それでは剣術の実技試験と騎乗試験の開始です!』
『『『『『ウォォォォォー』』』』』
ひときわ大きい歓声があがり、午後の試験が始まった。
兄さんはどこにいるんだろう。
よくよく探してみると闘技場の端の方でちょうど騎乗試験を受けている最中だった。
相変わらず乗馬がうまい。
昔、村はずれで乗馬競争をしたときに父さんに圧勝したその腕は健在だった。
いわく、速く走ろうとするのではなく馬と気持ちをそろえることが大事、らしい。
試験官がうんうん、と頷いている。これはさすがに満点だろうね。
そのあとも、兄さんは剣術の実技試験でも圧倒的な速度と技術を見せつけ初日は終了。
『受験者の皆さま、一日お疲れさまでした!
それでは闘技場中央に魔法で一次試験の合格者番号を掲示しますのでご覧ください』
合格者発表の時間だ。ちなみにリアは夕方になったので帰ってしまった。
兄さんの受験番号は2881。
一番に見つけたのは母さんだった。
「あった、あったわ!」
「よかったね、兄さん」
ちなみに気になる得点は……
295点
ちなみに減点理由は寝癖。騎士団たるもの紳士たれという理由で5点引かれたらしい。
なんとも兄さんらしい理由だ。
「「兄さん(アイファー)、初日の試験、お疲れ様!」」
今は宿屋に戻った兄さんと父さんとさっきの水晶玉を使って魔法で通信中だ。
まさか通信機能まであるなんて、どれだけ万能なんだ……。
『ああ、ありがとう。それより……』
『ああ、第三次試験、今年受験者が多くて特例で第三次試験まで実施するらしい。
事前通告なしにだ、まったくふざけるなよ……』
「あなた、まぁそんなプリプリしないで」
『怒らずにいられるか、アイファーの人生がかかっているんだぞ』
「父さん、一回頭冷やそう」
「悪い、話が逸れたな。
まあ、アイファーなら普通にやってれば合格できるとは思うが……」
その通りだ。
父さんに勝ったこともある兄さんならよっぽどぶつかる相手が悪くない限り
大丈夫だと思うけど……。
「兄さんなら絶対合格できるよ、明日も頑張ってね、応援してるから!」
「おう、もちろんだ!」
◆◆◆
翌日
『えー、それでは第二次試験を開始します、パーティーはランダムに組まれます』
兄さんが指示に従ってグループの集合場所に向かっていく。
兄さんがグループを見つけて走っていく。
いや、あれはまさか……、あのグループなのか兄さんは。
そこには体格が他の受験者と比べて三回りくらいも大きく見える巨漢がいた。
画面越しにも伝わってくる圧。周囲の受験者が、無意識に距離を取ってしまうのも納得だ。
間違いない。彼こそ近衛騎士団長の息子にして、公国史上最強と名高いヴィルヘイドだ。
こんな田舎町に住んでいる僕でもその噂は何度も聞いたことがある。
年齢わずか十五歳にして、身長は二メートルを超え、
単独で多くの高難易度ダンジョンを踏破、
さらには鍛錬の最中に騎士団長である父親を圧倒したという逸話もある。
兄さん、ヴィルへイドさんの圧に屈せずに修行の成果を発揮できるかな……。