My Revenge Against God! 作:まきものさん
◆◆◆
俺の受験番号は2881だから、サメチームか。
とりあえず、にこやかに挨拶をしよう。
この試験ではパーティーメンバーと仲を深めて、連携を取ることが肝だからな。
走ってグループの待機場所に向かう。しかしそこには……
「君が最後か。パーティーメンバーがみんな揃ったみたいだな」
圧倒的な存在感を放つ公国史上最強と名高いヴィルヘイドがいた。
「私がパーティーの司令塔をやりたいと思うのだが、私のほかに司令塔をやりたいって人はいるか?」
他のパーティーメンバーはただただ下を向いているだけだ。
もちろん手をあげる者はいない。当然だ。
今ここで手をあげるってことはヴィルへイドより自分が司令塔に向いていると宣言するようなものだ。
そんなことをしたら目を付けられるかもしれないからな。
「では、私が司令塔を務めるということで、まずは自己紹介から順にしていこうか。
受験番号2097、ヴィルヘイドだ。身分や家柄は名乗らなくてもいいかな、ここでは関係ないからな。
好きな食べ物はビーフシチュー、嫌いな食べ物は高級食材だな、食べ過ぎて飽きた」
なんだこいつ。身分や家柄は名乗らなくてもいいって自分から言ったのに
早速金持ちマウントとってきやがったぞ。
「冗談だよそんな目で見ないでくれ、べつに嫌いなものは無い。
まあ試験中はよろしく、じゃあ次はそこの君……」
ジョークだったみたいだ。ユーモアも交えた自己紹介でその場が幾分か和む。
剣術の腕だけじゃなくてリーダーシップもありそうだな。
他のパーティーメンバーも次々と自己紹介を済ませていく。
「じゃあ最後はそこの君」
ああ、俺か。
「えー、受験番号2881のアイファーだ。
好きな食べ物はじゃがバター、嫌いな食べ物は、しいて言えば人参だ。みんな試験中はよろしく」
よし、無難に挨拶を済ませられた。
後はパーティーメンバーと歩調を合わせつつ適当に戦闘すれば勝てるだろう。
それもこれも親父の英才教育(という名の地獄の修行)のおかげだな。
とか呑気なことを考えていた、その瞬間だった。
「ほう、お前が西部騎士団領出身の中で唯一290点台だった秀才か」
その巨体から放たれるすさまじい威圧感にあてられ思わず身震いする。
まさか目を付けられたのか?
射抜くように、にらみつけられると、金縛りにあったかのように動けなくなる。
しばらくヴィルへイドはそうしていたが、ふっと威圧感を急に弱め
「まあよろしく、お前のこと頼りにしてるぞ」
ポンっと肩を叩いてくる。
こいつはリーダーシップだけではなく人心掌握にも長けているかもしれない。
こいつは腹の底で何を考えているかわからない、得体の知れない奴だ。
あまり馴れ合いはしたくない。
ここはパーティーの連携を崩さない程度の最低限の会話にとどめよう。
「こちらこそ、よろしく」
第二次試験が始まった、ルールはこうだ。
・武器は木刀のみ
・指定された武器以外を使った場合、その時点で受験者は失格となる
・30分ごとにランダムなグループとの対戦表が発表される
・上記作業を試験開始の9時から正午まで計6回繰り返す
・勝ち点は以下の通り
勝利 3点 / 引き分け 1点 / 敗北 0点
・なお30分間積極的な戦闘行為がなかった場合、八百長行為として、両チーム1点減点
・勝ち点だけでなくパーティー間の連携度も加点基準である
・最終的に250グループのうちのチーム点数上位40グループが第三次試験の受験資格を得る
勝ち点に関しては心配する必要がなさそうだ。
なんせこのチームにはヴィルヘイドがいる。おそらく普通にやれば全勝だ。
今回の勝負のポイントは連携度と言ってもいいだろう。
一方的にヴィルへイド一人で相手チームを蹂躙するようなことになれば、
もしくはその逆でヴィルヘイドの動きについていけなければ、
連携度は加点されないだろう。
そこら辺はヴィルへイド自身はどう考えているんだか……。
「ひとついいか。みんな私の動きに頑張ってついてきてくれ、あと指示にも従ってくれ。
私もなるべくゆっくり動くのでな、これで連携度の点数は手に入れられるだろう。
何か他に意見がある者はいるか?」
ちゃんと考えてくれていたようだ。これなら心配無さそうだ。
「では、絶対勝とう、行くぞー」
「「「「「オオオオー!」」」」」
その後、俺たちのチームは勝ちに勝ち続けた。
ヴィルヘイドが前衛として切り込み、その人間離れした動きに俺は必死に食らいつき
そして他のパーティーメンバーが続いて、速攻で相手チームを戦闘不能にしていく。
ヴィルへイドの動きは本当に目で追うので精いっぱいだった。
これでゆっくりとか本当に化け物じみているな。
すべてのチームを三分以内に片付け勝ち点と連携度を荒稼ぎしていく。
ちなみに余った二十分はパーティーメンバーが持ってきたトランプでババ抜きをしていた。
ちなみに俺はヴィルヘイドに十回連続でジョーカーを引かされて負けまくった。ありえねえ。
おまけにヴィルヘイドはかなり整った顔立ちをしている。
戦闘が終わった後、髪をかき上げるたびに観客席から黄色い声があがる。
ちくしょう、団体戦で勝っても個人戦で全敗した気分だ。
そして正午になり第二次試験が終わり、結果が発表される。
「えー、それでは結果発表です。
今回なんと満点で第二次試験を突破したグループがいました、
満点30点は……
サメ チームです!おめでとうございます」
「「「「「うおおーー」」」」」 「「すげー」」 「「さすがヴィルヘイドさまー♡」」
よっしゃ、二次試験は突破できたみたいだ。あと1回勝てば晴れて騎士団学校入学か。
昼休憩、受験者専用食堂に向かいランチを頼み空いているテーブルを見つけて座る。
ああ、もちろん昼食は一人だ。
西の小さい田舎村から来た俺に
わざわざ話しかけてくる奴はよっぽどのもの好きだろう……。
「失礼ここに座ってもいいか?他のテーブルがいっぱいで座るところが無くてな」
声のした方に目を向けると、そこには圧倒的な存在感を放つヴィルへイドが
ステーキを載せたお盆をもって立っていた。
げっ、なんでここなんだよ。他にも場所あるだろ。
「まぁ、そんな嫌そうな顔をするでない」
めっちゃ顔に出てたっぽいな、まあ断るが。
「一人が好きなんです、今は無理です」
「無礼者、ヴィルヘイド様と相席なんてめったにないんだぞ!?」 「あー、オレも一緒したいぜー」
「キャー♡、ヴィルヘイド様ー」
外野がうるさいな、仕方ないか。
「はぁ、いいぞ、もう好きにしてくれ」
「ああ、そうするよ」
さようなら、俺の穏やかなランチタイム。
キランと音がしそうなさわやかスマイルを浮かべて座ってくる。
にしても半端ない威圧感だな。
食堂の椅子が子供椅子に見えてくる。スケール感バグってるな。
こいつが俺と同い年とか正直信じられない。
ステーキをナイフで丁寧に切り分けながら、
王都での収穫感謝祭は豪華だったとか騎士団学校はどんな場所なんだろうかとか
他愛もない世間話をしてくる。
周囲からは奇異の目で見られる、ちょっとはこっちの立場も考えてくれよ。
当たり障りのないように、適当に相槌を打つ。普通に飯を食わせてくれ、飯を。
「お前は本当に強い剣士だ。私が見てきた同年代の中でも一番かもしれん」
突然ヴィルへイドが真剣な顔になる。
「そりゃどうも、まあ親父にしごかれたもんで」
しごかれたって言葉でも優しくなるくらいにはね……。
「そうなのか、お前のお父さんは強いんだな」
「まあな、まだ親父には遠く及ばないからな、なんなら弟にも負けるくらいだが」
「弟がいるのか?」
さっきから俺の家族のことを根掘り葉掘り聞いてくるが、なんでだ。
「いるけど、それがどうしたんだ?」
「いや、何でもない。お前と同じ村に住んでいるんだよな?」
「弟なんだから当たり前だろ?どうしたなんかボケちまったのか?」
「いやなんでもない、それが知れただけで十分だ」
それまでと打って変わって何か不気味なものが張り付いたような笑顔を浮かべたヴィルヘイドは
そそくさと席を立ち、どこかに行ってしまった。
なんだ、この違和感は?
それにさっきの体の芯まで冷え切ってしまうようなあの笑顔は一体……。
雑念ごと俺は残ったスープを一気に飲み干し席を立つ。
まずはあと一回、勝たなければいけない。
◆◆◆
日がすでに傾き、闘技場には西日が弱く挿し込んできていた。
すでにほとんどの組が試験を終えていて残す組は数組だ。
闘技場内の待機場所にある椅子に座りつつ呼ばれるまで順番を待つ。
「まだ呼ばれてないんだな」
「またお前か」
「ああ、私だ」
んだよ、こいつもまだ呼ばれてなかったのか。もしかしたら"当たる"かもしれないな。
「まあ、お互い頑張ろうぜ」
「ああ、そうだな」
その時、俺の受験番号が呼ばれる。
「続いての組は受験番号2881 アイファーと、
おおっ! ここで真打ち登場、受験番号2097 ヴィルヘイド!」
闘技場からは今日一番の大歓声が聞こえてくる。
やっぱりか。まあやれることをやるしかないか。
位置に着き、お互い構えを取っても大歓声が鳴りやまない。
俺は都合のいい"やられ役"ってことか。
「行けー!やっちまえー!」 「ヴィルヘイド様ー、頑張ってー♡」 「いてこませー」
闘技場全体がヴィルヘイドを応援している、俺を応援してる奴なんて誰もいない。
……はずだった。
「負けんなー! アイファー!」
親父?
「負けんなー! 気持ちで負けんな!」
今、確かに聞こえた。
割れんばかりの大歓声の中に親父の声が……。
脳裏に浮かぶ、逃げ出したくなるようなつらい修行の日々。
そうだ、俺は引き立て役になるためにここに来たんじゃない、
勝つためにここに来たんだ。
「決心がついたようだな、アイファー」
「ああ、お前はこの闘技場全体を味方につけてる。でも、それがどうした?
俺には親父一人で十分だぜ」
いつも通り、特別なことは何もしない。顔の横で改めて剣を構え切っ先を向ける。
「それでは受験番号2881番アイファー 対 受験番号2097番 ヴィルへイド
試合、始め!」
本来格上の相手に勝ちに行くなら、正面からぶつかるよりカウンターを狙うのが定石だ。
理屈ではわかっている、わかっているけど……。
それは俺の性に合ってない。
どこまでも愚直に、まっすぐぶつかり続ける。
それが親父とぶつかってきた俺なりの、いつも通り。定石なんだ。
俺が唯一使える、気を操る魔法。
体の中に眠る魔力をイメージして、それを剣へ、指先へ全身の隅々まで行き渡らせる。
魔力をゆっくりと気に変換し、体の感覚を研ぎ澄ませていく。
周囲の歓声が少しずつ遠ざかっていった。
世界から音が削ぎ落され、圧倒的な静に包まれる。
――今だ!
踏み込みはこれまででの中で一番完璧だった。
今、この瞬間に出せる、全力だったはずだ。
だが次の瞬間、俺は地面に叩きつけられていた。
遠くで歓声が上がった気がする。
視界がぐにゃりと歪んでいて自分の身体をうまく認識できない。
両腕がひどく曲がっているのは目がおかしいのか、それとも本当に……
遅れて、衝撃が来た。
肺の中の空気が一気に押し出され、口から生温かくて鉄臭いものが溢れ出る。
地面にしみを作って広がっていき、それの正体がようやくわかる。
――血、か。
相手が何をしてきたのか、まるで認識できない。
これが残酷なまでの格の違い。
思わず、口の端が歪む。
笑うしかなかった。それくらい、圧倒的な差を否応なしに目の前に叩きつけられたのだから。
声は出せない、剣ももう握れない。
……それでも。
「あれを受けてまだ立つか、しかも目も死んでない」
さっきまで眉一つ動かさなかったヴィルへイドが一瞬目を見開く。
どうして立てたのかはわからない。でもこのまま倒れたままじゃ親父を裏切ることになる。
ここまで修行してきた意味をまだ俺は証明できていない。
両腕は肩先から感覚がない。まあ十中八九折れてるんだろう。
腹部も大きく落ちくぼんでいる。何個か内臓が潰れてるかもしれない。
それでも、ゆっくり、ゆっくり、まっすぐ、進む。
「アイファー、何度も立ち上がるその心意気見事だ。ならば私も全力で応えねばならない」
七色の魔力が剣に込められていき、
次の瞬間、その光をまとった一撃が振り下ろされ、そこで、俺の意識はぷつりと途切れた。
◆◆◆
「もうアイファーは大丈夫なんですね。いえ、何から何までありがとうございます」
親父の声だ、ゆっくりと目を開けると、
親父は心配そうに顔を覗き込んでいた。
「やっと起きたか、アイファー」
薬草臭い部屋だ。おそらく今は病院にいるんだろう。
ってことは勝負に負けたんだな、俺は。
「アイファー、お前はよく頑張った、ヴィルへイドの一撃で倒れた時は正直もうダメだと思ってた。
でもあの後お前は執念で立ち上がった。
それは勝敗なんかの単純なものさしで決められるべきじゃない。
褒められるべきことなんだ」
大きく親父が息を吸い込む。
「だから、あの時一人で立ち上がったお前を俺は誇りに思う」
瞬間、目頭が熱くなって、視界がぼやける。
早起きが苦手な俺が毎朝頑張って起きて親父にしごかれては
リヒトに怪我を治してもらい、また修行して修行して修行して、夜遅くまで剣を握って。
マメが破れて血が出るまで素振りし続けて。それでも届かなかった。
でもあの瞬間立てたのは修行のおかげで、俺の努力は、父さんとの修行は決して無駄じゃなかった。
「親父、ありがとう」
ずっと言えなかった言葉が口をついて自然と出る。と、同時に……
「ごめん、俺試験突破できなかった」
そう、負けは負け。俺は騎士団学校には入れなかったのだ。
親父にあれだけ修行を付けてもらったのに、申し訳なさでいっぱいだ。
「いや、それがなアイファー。左手は今自分で見れるか」
ゆっくりと左手に視線を下ろす。
手の甲には騎士団学校のエンブレムが刻んであった。
「どういうことだ!? 俺はあの時確かに負けたはずだ!?」
「それが、ヴィルへイドがお前のことを騎士団学校の推薦入学枠に推してくれたんだ。
もともと自分が利用する枠だったはずなんだがな。
推薦枠なんかに頼りたくないと言ったヴィルへイド本人の意志での試験参加だったそうだ。
でも、それにお前を巻き込んで打ち負かしてしまったお詫びに、
わざわざ推薦してくれたらしい。あいつはお前のことをひどく気に入っていたみたいだぞ」
そうか、そういえば心意気が見事だとかほめられてたな。
思わず頬が緩む。
「めんどくせえな、あいつ」
「よくやった。合格おめでとう、アイファー」
突然ゴツゴツした手で親父が俺の頭をグシグシ撫でてきた。
まだ頭がガンガン痛いからやめてほしいが、今はこの痛さが心地いい。
「これで俺とおそろいだな」
左手の騎士団のエンブレムを見せてくる。
このエンブレムは騎士団入団時に刻まれる、騎士団所属の証らしい。
村に帰ったら応援してくれたお袋とリヒトにもしっかり感謝しねぇとな。
「あとはゆっくり休みなさい、ここの出発は明後日にしておいたから」
親父がそう言い病室を出ていくと、部屋の中が真っ暗になる。
この病院は丘の上にあるのか、眼下にライヒリッヒリアの夜景を望むことができた。
経緯はともあれ、とりあえず合格はできた、あいつには次会った時に
しっかり感謝しておかないとな。
こうして俺は無事に騎士団選抜試験に合格したのだった。
◆◆◆
「ようやく確認が取れましたよ、それで段取りはどうしますか?」
『お好きになさるが良いでしょう。
こちらも相応の手駒を差し向けて差し上げます。
……ふふ、念のため、私もこの手で直接引導を渡しに伺うとしましょうか』
ようやく、見つけた。笑いが止まらない。
だって、やっと真の天才を絶望の淵に叩き落とせるんだから。